「深嶺酢漿草」の捕虫網


 世の中は、いろいろな情報に満ち溢れている。 
 その中に興味をかき立てるような情報を内に秘めながら、それを間違った理解で歪められた結論に導いたり、それを科学的に正しく解釈できなかったり・・・と、疑問が生じてしまうものが見られる。 それは、苦労して集めた材料を磨くことなく、ゴミ箱に捨て去っているのと同じである。 
 ”深嶺酢漿草(たかねかたばみ)”は、それらを広く集めて、その材料にそれとなく含まれている情報を拾い上げて、丁寧に解釈して示してみようと思っている。 
 特に、東日本大震災絡みの材料には、その材料の正確な記述に時間をかけねばならないはずのものが、通り一遍の中途半端に終わっているものが少なくない。 これを取り上げることが比較的多いのは、そのためである。 その中でも原発事故には、記事にされた時点で提示されていたデータに誤りがあって間違った論述になってしまったり、その誤りのあるデータに振り回されて唐突に決められた(が、その後、取り止めになってしまった)作業・工事がいくつかある。 事故から3年以上経過した今でも、議論を重ねて決定された凍結工法が着工されて1年も経たないうちに見直されるということであり、数年後には様変わりしているかも知れない。 それらは、このページの負の側面を持つことになるが、それも含めて事前の対策としての「リスクコントロール」や事後の対処法としての「ダメージコントロール」についての反面教師になるので、そのまま掲載しておく。 あとから見直すと、なぜそのようなことを・・・という事例が散見されることも、史実としてみれば興味深いものである。

      (1)放射能をあびた野菜たち <放射能対策>
振り回される農家 (2011年4月5日)
出荷自粛のサンチュ販売 (2011年4月14日)
葉物に偏る検査 国指定が裏目 (2011年4月20日)
出荷制限の7885束 市場に 千葉・香取のホウレンソウ (2011年4月27日)
荒茶の検査しない…静岡知事、政府方針従わず (2011年6月2日)
一転、静岡が荒茶の検査実施=神奈川は見合わせ (2011年6月3日)
「荒茶」も検査、物議「飲用は大丈夫なのに」 (2011年6月5日)
食品放射能検査 慌ただしく実施 (2014年11月13日)
セシウム 大半が表層土に 福島・川内村 樹木・落ち葉は蓄積減 (2017年9月27日)
      (2)1号機(福島第一原発)の圧力容器 <原発事故>
福島第一遠い安定 (2011年4月5日)
福島第一原子力発電所1号機の状況 (2011年4月17日)
1号機、水たまっておらず (2011年5月12日)
1号機原子炉、ほとんど水なし 温度は安定 (2011年5月12日)
格納容器に漏出「打つ手なし」 核燃料100%損傷か (2011年5月13日)
1号機冷却 作業見直し迫られる (2011年5月13日)
炉心の核燃料「溶け落ちた」 透視画像を公開 (2015年3月20日)
福島第一 溶け落ちた核燃料回収 工法決定、1年先送り 廃炉工程改訂 (2017年9月27日)
      (3)格納容器(1号機)は壊れていない! <原発事故>
窒素ガス注入 順調に進む (2011年4月7日)
窒素ガス注入“順調 推移見守る”(2011年4月7日)
福島第一原発 冷却などの作業継続 (2011年4月8日)
福島第1原発:1号機の格納容器圧力 窒素注入前の水準に (2011年4月25日)
1号機 注水量増加で温度低下傾向続く (2011年4月28日)
      (4)地震で揺れる1号機圧力容器内部 <原発事故>
汚染水除去 窒素注入作業続く (2011年4月9日)
2号機の汚染水 復水器へ作業 (2011年4月10日)
      (5)「メガ」と「ナノ」の単位系 <基礎科学>
事故評価 最悪のレベル7へ (2011年4月12日)
福島第1原発 最悪レベル7 チェルノブイリに並ぶ (2011年4月12日)
地表の放射能 拡散せず (2011年4月13日)
      (6)3号機の異常昇温 <原発事故>
3号機圧力容器の温度急上昇 (2011年4月14日)
溶融燃料「粒子状、冷えて蓄積」1〜3号機分析 (2011年4月14日)
福島第一原子力発電所3号機の状況 (2011年4月17日)
3号機 原子炉の温度が上昇 (2011年5月6日)
震災10日後、二度目の溶融か 福島3号機、専門家指摘 (2011年8月8日)
福島第一原発原子炉内部推定図 東電が公開 (2017年7月3日)
核燃料、大半落下か=3号機の透視調査―福島第1 (2017年7月27日)
      (7)4号機燃料プールの温度 <原発事故>
4号機 撮影映像を相次ぎ公開 (2011年4月16日)
福島第一原子力発電所4号機の状況 (2011年4月17日)
4号機プールへの注水量倍増 水温低下狙う (2011年4月23日)
      (8)2号機(福島第一原発)の格納容器は無傷? <原発事故>
福島第一原子力発電所2号機の状況 (2011年4月17日)
2号機「ベント」失敗の可能性 調査結果公表 (2015年5月20日)
2号機ベント「失敗」 福島第一 東電、調査結果発表 (2015年5月21日)
<福島第1>2号機ベント失敗 装置作動せず (2015年5月21日)
核燃料7割超 溶融か 福島第一2号機 (2015年9月27日)
格納容器内 推定530シーベルト 福島第一2号機 (2017年2月3日)
      (9)1号機を「水棺」に <原発事故>
福島第1原発 1号機格納容器内に水6メートル (2011年4月24日)
1号機で「水棺」化へ向けた作業を開始 (2011年4月26日)
      (10)水冷から空冷へ <原発事故>
原発、海水利用の冷却断念…外付け空冷装置に (2011年5月2日)
福島第1原発:循環型冷却システム新設へ…1号機 (2011年5月4日)
      (11)原子炉停止で「安全」幻影 <原発事故>
「冷温停止」に1日半 (2011年5月10日)
      (12)冷却不能からの離脱 <原発事故>
5号機でポンプ故障、冷却水の温度一時上昇 (2011年5月29日)
      (13)鵜呑みは無用? <家庭生活>
「悪い節電」ご用心 (2011年6月8日)
      (14)放射線測定法は適切に <放射能対策>
福島第1原発:東京都100カ所で放射線量測定へ (2011年6月8日)
      (15)教育に基づく技術者の能力を <生産技術>
三菱重工 「手抜き作業」発覚 名古屋の航空機部品工場 (2011年6月21日)
MRJ初飛行、5度目の延期 三菱航空機「詰め」に甘さ (2015年10月24日)
MRJ、5回目の納期延期へ 三菱重工社長、考え示す (2016年12月26日)
超絶 凄(すご)ワザ!SP 主婦を救え!急速冷凍対決〜あっという間に氷を作れ (2016年7月2日)
      (16)自動はダメ、手動もダメ! <原発事故>
<福島第1原発>1号機のベント「失敗」 弁開放は未確認 (2011年6月24日)
      (17)地図は <地理社会>
土砂ダム 排水難航 険しい山々 ポンプ車阻む (2011年9月13日)
西之島新島、なお成長中 (2014年11月14日)
      (18)科学にマスコミは <理科教育>
みのもんたの朝ズバッ! 小学校での綱引き事故 (2011年10月11日)
<山手線トラブル>情報共有ミス重なる 現場と総合指令室 (2015年4月13日)
支柱の強度計算怠る 山手線 はり撤去後 内規違反 (2015年4月18日)
山手線事故 調査報告 (2015年5月9日)
水害 私ができる備えは 増水時・・・水深50センチ超で転倒の恐れ (2015年9月15日)
凍土壁 効果見られず 福島第一原発 台風で地下水位上昇 (2016年9月2日)
<金正男氏殺害>猛毒VX、現場で2物質混合か 実行犯の女 (2017年2月24日)
皮膚から吸収 呼吸困難に (2017年2月25日)
重力値変わる 体重が変わる 佐渡の60キロの人 0.006グラム軽く 40年ぶり 国土地理院更新 (2017年3月17日)
科学の扉 「想定外」を考える 新幹線 大地震が襲ったら 脱線の危機・・・活断層対策に決め手なし (2017年6月4日)
      (19)非日常の言葉には <宇宙科学>
「2050年宇宙の旅」はエレベーターで (2012年2月21日)
      (20)試験の解答に責任 <宇宙物理>
地球に月の影 日食 宇宙飛行士が撮影 (2012年5月24日)
−時時刻刻− ニュートリノお家芸 梶田さん、苦節重ね証明 (2015年10月7日)
《補足資料》 梶田隆章氏が寄稿「宇宙に物質存在の謎、迫れる可能性」 (2015年10月6日)
      (21)急増した放射性炭素 <宇宙科学>
<宇宙線量>奈良時代に急上昇 名大チーム分析 (2012年6月4日)
775年に宇宙から強放射線か (2012年6月4日)
8世紀、宇宙で大変動が? 屋久杉から解析 名大チーム (2012年6月4日)
Mysterious radiation burst recorded in tree rings(2012年6月3日(UTC))
      (22)非常時に利用できるエレベーター <安全工学>
火災、高齢者はエレベーター避難 東京消防庁が方針転換 (2013年9月24日)
      (23)東電凍結壁完成への隘路 <原発事故>
坑道 凍結へ追加策 福島第一 セメントなど注入へ (2014年8月20日)
坑道「氷の壁」1割凍らず 福島第1原発 (2014年8月20日)
第一原発トレンチ 止水材注入持ち越し 規制委 (2014年8月20日)
トレンチ水抜き 工法変更を検討 (2014年9月23日)
トレンチ汚染水対策 方針転換へ (2014年9月23日)
福島第一原発 新対策、凍結だけで汚染水止まらず (2014年10月4日)
福島第一、津波26メートル想定 汚染水流出の恐れ (2014年10月4日)
坑道 止水できず 福島第一 工事方法変更へ (2014年11月19日)
坑道の止水断念 セメント投入へ 福島第一 (2014年11月22日)
2号機坑道に セメント投入 福島第一 (2014年11月26日)
主要部の埋め立て終了 (2014年12月27日)
《補足資料》 東電、推奨より10倍希釈 がれき飛散防止剤 (2014年12月31日)
第一原発2号機 トレンチ底部に砂堆積 新たな課題に (2015年1月11日)
トレンチ埋め立ての遅れ 凍土壁への影響懸念 (2015年2月10日)
規制委検討会「凍土遮水壁は不要」 汚染水対策、抜本見直しも (2015年2月10日)
《参考資料》 ひと 新たな課題に取り組む2代目の原子力規制委員長 更田 豊志さん(60) (2017年11月14日)
「凍土壁」を試験凍結 東電 福島第一で作業開始 (2015年4月30日)
「凍土壁」効果が焦点 第1原発で試験凍結開始 (2015年5月1日)
原発地下水放出 県漁連が容認へ 福島第一 (2015年8月11日)
県漁連が要望書 浄化地下水海洋放出 第三者監視など条件 (2015年8月12日)
浄化地下水放出、容認決定=県漁連、汚染水対策で―福島第1 (2015年8月25日)
<汚染地下水>サブドレン計画、全漁連が容認 (2015年8月25日)
福島第一 処理地下水を海へ 建屋流入半減見込む (2015年9月15日)
凍土壁 1割凍結せず 福島第一 東電が追加工事検討 (2016年5月26日)
凍らない凍土壁に原子力規制委がイライラを爆発 「壁じゃなくて『すだれ』じゃないか!」 (2016年6月12日)
《参考資料》 凍土壁という冒険 (2015年4月18日)
《参考資料》 前代未聞「凍土遮水壁」の成算 (2014年4月1日)
東電「完全凍結は困難」 第一原発凍土遮水壁 規制委会合で見解 (2016年7月20日)
凍土壁の凍結未完 福島第一 規制委有識者「破綻」 (2016年8月19日)
凍土壁「効果は限定的」 規制委、汚染水対策で (2016年12月27日)
東電説明に「ウソだもん、これ」規制委激怒 (2017年6月28日)
凍土壁の全面凍結、規制委が了承 福島第一原発 (2017年6月28日)
凍土壁の前面凍結 規制委が計画認可 福島第一 効果は不透明 (2017年8月16日)
345億円投入、凍土壁ほぼ完成…効果疑問視も (2017年11月7日)
汚染水発生量 400トン減 凍土壁の効果95トン 東電、対策を検証 (2018年3月2日)
福島第一原発 汚染水対策の「凍土壁」一部とけたか (2021年11月26日)
      (24)解像度の変化を図で表すと <科学技術>
気象衛星ひまわり8号 大雨のもと、早く細かく察知 (2014年9月1日)
      (25)不安を煽(あお)る <防災対策>
御嶽山噴火1週間 火山備えて登る (2014年10月5日)
《参考資料》 2014年8月広島豪雨災害時の犠牲者の特徴と課題 (2015年3月23日)
数日前から複数の異変 気象庁に届かず (2014年10月13日)
箱根山:大涌谷周辺に避難指示も「風評被害が心配」 (2015年5月6日)
箱根山に火山周辺警報 初の噴火警戒レベル2 (2015年5月7日)
箱根山 火山性地震続く、地元は風評被害防止で協力 (2015年5月8日)
ロープウェイ運休の箱根山、「代行バス」の運行始まる (2015年5月20日)
箱根山 全線運休中の「箱根ロープウェイ」代行バスが運行開始 (2015年5月20日)
      (26)「ポカヨケ」なしの安全設備 <安全工学>
鉄道トラブル:ATS操作忘れ走行 JR北の特急、1分後起動 (2014年10月5日)
緊急時の停止装置 スイッチ切る (2017年10月30日)
基準以上の強風 特急が運転継続 JR北、警報作動せず? (2014年11月4日)
JR北海道:強風で運転続行 スピーカーに不具合 (2014年11月4日)
<東海道新幹線> パンタグラフ部品、左右逆に (2015年1月5日)
東海道新幹線、パンタグラフ逆に取り付け 12日間運転 (2015年1月5日)
北斗星ドア全開 「重大事態」認定 運輸安全委員会 (2015年5月20日)
<JR長崎線>わずか93メートルまで…特急同士が衝突寸前 (2015年5月22日)
岐南の名鉄事故 「会社体質問題」中部運輸局長が指摘 (2015年7月1日)
名鉄停電 連結器ショート原因 最終報告 (2015年7月8日)
名鉄列車107mオーバーラン 踏切の遮断機下げて戻る (2018年3月19日)
空自輸送機事故 操作ミスが原因 防衛省発表 (2017年6月20日)
《参考資料》 MRJ 納入延期は5度目 見通しの甘さが改めて浮き彫り (2017年1月23日)
台湾で列車脱線 少なくとも18人死亡、168人負傷 (2018年10月21日)
台湾脱線事故の車両に設計ミス 製造元の日本企業が発表 (2018年11月1日)
台湾脱線事故で事故調 速度超過が原因と断定 (2018年11月26日)
      (27)ギョエテとは誰のこと <国際関係>
「ジョージア」に変更へ…グルジアの要請に応じ (2014年10月6日)
「グルジア」改め「ジョージア」 政府、表記変更へ (2014年10月24日)
あのテニス選手、マリー?マレー? Re:お答えします (2015年3月17日)
スワジランド、国名を「エスワティニ」に 英語排除し現地語回帰 (2018年4月20日)
ウクライナ首都、キエフから「キーウ」に変更… (2022年4月1日)
《補足資料》 政府 モルドバ首都の名称「キシナウ」に ロシア語表記を見直し (2022年5月13日)
      (28)自動車用タイヤが破裂すると <安全工学>
ガソリンスタンドでタイヤ破裂、空気入れていた男性店員が死亡 (2014年12月23日)
《参考資料》 自転車から航空機まで、タイヤによって空気圧はどれくらい違うのか?';
交換中にタイヤ破裂、風圧で2m飛ばされ死亡 (2018年10月23日)
      (29)原子炉ロボットのアナログな頭脳 <原発事故>
原発格納容器内にロボット きょうから初調査 (2015年4月10日)
<福島第1原発>格納容器にロボット投入…1号機 (2015年4月10日)
<福島第1原発>調査ロボの電源ケーブル切断…回収断念 (2015年4月13日)
格納容器にロボ再投入=前回停止は隙間が原因―福島第1 (2015年4月15日)
「原発ロボット」故障の深層 「放射線のせい」報道を追う (2015年4月15日)
溶けた燃料に迫るロボ (2015年7月2日)
福島第一の格納容器内部 ロボット調査延期 東電 (2016年1月29日)
溶け落ちた核燃料 直接調査のロボット技術公募へ (2016年9月4日)
原子炉へ新型ロボ 足場を走って 「目」を垂らす (2017年2月4日)
格納容器内部 ロボットの事前調査 映像暗くなり中止 (2017年2月9日)
《参考資料》 福島第一原発1号機 内部調査ロボット公開 (2017年2月3日)
格納容器内部の本格調査 どう進めるか検討へ (2017年2月10日)
ロボ、核燃料確認できず 福島第一原発1号機 (2017年3月24日)
水中ロボで核燃料撮影 福島第一3号機 来月投入 (2017年6月16日)
《参考資料》 水中調査ロボ福島第1原発内部へ 東芝などが開発 (2017年6月15日)
      (30)分かり易いことを優先した表示は <社会情報>
高速道路 逆走防止へ色分け 進路誘導 10カ所導入 (2015年5月12日)
高速道路 分岐ご注意 新たな接続 間違い相次ぐ (2017年5月1日)
「花みどり 淡路花博2015 フェア」 イベントガイドマップ (2015年5月)
いちからわかる! アスベスト(石綿)って何が危険なの? (2015年7月2日)
人口減 6年連続 増加は6都県■一極集中進む (2015年7月2日)
難聴 生後すぐチェック 早期療育 言葉の発達に効果 検査実施に地域差 (2015年7月21日)
360°若者戻れ 地方優遇 Uターン 奨学金免除■サテライト大学 地方大の一律保護 衰退を加速 懸念も (2017年3月26日)
《参考資料》 大地震の発生確率 太平洋側高いまま 政府予測図17年版 (2017年4月28日)
−時時刻刻− 橋下維新 再起の芽 (2015年11月23日)
小池氏 党派超え得票 (2016年8月1日)
《参考資料》 経済重視は自民 憲法なら民進 7月参院選 投票先 朝日 東大谷口研究室 共同調査 (2016年9月7日)
新潟知事に再稼働慎重派 米山氏、自公系破る 原発対応 投票先を左右(出口調査) (2016年10月17日)
《参考資料》 <新潟知事選>自公支持の花角英世氏が初当選 (2018年6月10日)
都議選出口調査 (2017年7月3日)
《参考資料》 「NHK総合」 仙台市長選 投票日出口調査 (2017年7月23日)
日本 オランダ破り3位 バレー 女子五輪世界最終予選 (2016年5月23日)
日本一矢 2勝5敗で7位 バレー 男子五輪世界最終予選 (2016年6月6日)
サッカーW杯2018 ロシア大会 日本の決勝トーナメント進出条件 (2018年6月25日)
日本の決勝トーナメント進出条件 (2018年6月26日)
第11回朝日杯 将棋オープン プロが圧倒 (2017年6月18日)
増えるパンク 空気圧にご注意 セルフ式給油所普及 点検がおろそかに? (2016年8月29日)
ネット点描 グラフの進化 情報を「感じとる」ものへ (2017年5月16日)
フォーラム 弔いのあり方 [1A34]誰のために (2018年2月11日)
JR御坊駅・留置線で脱線 紀勢線、一部運転見合わせ (2019年4月14日)
JR紀勢線で電車脱線…ポイント切り替えミス (2019年4月14日)
JR御坊駅構内で回送列車が脱線 ポイント操作ミスか けが人はなし (2019年4月14日)
《補足資料》 原因は線路の切り替え忘れ 札幌市電の新型車両「シリウス」破損 10月末に運行開始も…修理に3か月 (2018年12月12日)
      (31)転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ <安全工学>
転落バス、250m手前速度増す (2016年1月20日)
スキーバス転落 直前80キロ走行 ギアはニュートラル (2016年1月21日)
バス転落直前は時速80キロ ギアはニュートラルか (2016年1月22日)
<スキーバス転落>下り坂、一時100キロ…ブレーキ使用か (2016年1月23日)
転落直前は時速96キロ 軽井沢のバス事故 (2016年2月12日)
      (32)X線天文衛星「ひとみ」に <宇宙工学>
X線天文衛星「ひとみ」、通信途切れる JAXA発表、原因は不明 (2016年3月27日)
「ひとみ」2体に分離か…「機能回復の可能性」 (2016年4月1日)
エックス線天文衛星 「ひとみ」軌道に物体10個 米軍確認「良くない状況」 (2016年4月3日)
《参考資料》 「ひとみ」の衛星軌道(宇宙航空研究開発機構宇由科学研究所 ASTRO−Hプロジェクトチーム) (2016年1月)
衛星ひとみ 異常回転 重要機器分離の可能性 (2016年4月9日)
エンジン噴射設定誤る=姿勢回復せず、ミスの可能性も 衛星ひとみ・JAXA (2016年4月15日)
衛星「ひとみ」運用を断念 太陽電池パネルが分解か (2016年4月28日)
衛星「ひとみ」運用断念 JAXA 設定ミスで分解か (2016年4月29日)
JAXA 「ひとみ」運用断念 太陽光パネル全て脱落 (2016年4月28日)
《参考資料》 国際宇宙ステーションではゾッとする絶対見たくない写真 (2016年5月27日)
《参考資料》 科学の扉 生命、宇宙に起源? 飛来説検証 ISS外に「寒天」 (2016年11月13日)
      (33)予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨 <気象予報>
特別警報 差し迫る危機 災害大国 >被害に学ぶ (2016年5月30日)
      (34)欧州の気象予報は気象庁よりも <台風予報>
台風10号が発生 (2016年8月19日)
台風10号 「非常に強い」 30日にも東日本へ 上陸地点の予想困難 (2016年8月28日)
      (35)誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象 <地球科学>
気象庁/潮汐・海面水位の知識 潮汐の仕組み/満潮・干潮 (採録:2016年9月21日)
国立科学博物館/宇宙の質問箱/月編/干潮・満潮はどうして起こるのですか? (採録:2016年9月21日)
東京大学地震研究所/潮汐の原因 (採録:2016年9月21日)
北海道大学水産学部/水圏環境学/潮汐について (採録:2016年9月21日)
北海道大学理学研究科地球惑星科学専攻/北大-鴨方高校間双方向遠隔授業プロジェクト/潮汐力 (採録:2016年9月21日)
学研サイエンスキッズ/科学なぜなぜ110番/どうして海には満ち潮と引き潮があるの (採録:2016年9月21日)
潮の干満 なぜ2回 月に振り回される遠心力 カギ 自転は関係なし/潮汐力 命の熱源 (2017年2月5日)
科学の扉 満潮 なぜその時刻? 月の引力・海陸分布・水深・・・要因は複雑 (2018年7月2日)
大型放射光施設(SPring-8)/月と太陽が、播磨科学公園都市の岩盤も伸縮させている (採録:2016年9月21日)
      (36)分かりよく正しい図による事故原因の説明 <道路陥没>
博多駅前の道路30m陥没、大量の水流入 地下鉄工事中 (2016年11月8日)
「朝日新聞」 陥没、地下鉄工事に不備 博多駅前 漏水、岩盤崩れる (2016年11月9日)
「毎日新聞」 博多駅前陥没、広がる被害 都市に潜む危険 (2016年11月9日)
「TBS News i」 博多駅前が陥没、工事現場と地上の間の粘土層破り出水 (2016年11月8日)
「NHK」 大規模な道路陥没 福岡市「地下鉄工事が原因」 (2016年11月8日)
「産経WEST」 異常の予兆「肌落ち」が発生 コンクリ吹き付け、総掛かりで対処も間に合わず (2016年11月8日)
「朝日新聞デジタル」 軟弱な地層、市の対策甘く 博多陥没、過去2度同様事故 (2016年11月9日)
「産経新聞」 博多駅前大規模陥没 インフラ老朽化、相次ぐ事故 (2016年11月9日)
「読売新聞」 陥没道14日にも仮復旧へ 福岡市が方針 (2016年11月9日)
「日経コンストラクション」 博多陥没事故、50分前にトンネル天端が「肌落ち」 (2016年11月9日)
「西日本新聞」 地下水対策不充分? 博多駅前工事の難所 道路大規模陥没 (2016年11月11日)
《補足資料》 陥没 施工業者が謝罪 博多駅前 1週間ぶり通行再開 (2016年11月16日)
《追加資料》 ニュースQ3 博多の陥没 固いはずの地盤でなぜ (2016年11月17日)
《補足資料》 福岡県西方沖地震・土木学会被害調査団速報第2報(3.地質・地盤条件) (2005年4月19日)
博多陥没 最大深さ7センチ、福岡市「沈下は想定内」 (2016年11月26日)
博多陥没復旧作業、福岡市が業者らに感謝状 (2016年11月28日)
地下に特殊な薬液注入、地盤強化へ沈下防ぐ狙い (2016年12月4日)
《参考資料》 軟弱な地層、市の対策甘く 博多陥没、過去2度同様事故 (2016年11月9日)
《補足資料》 断層破砕帯におけるトンネル掘削の対策について(大成建設) (2015年)
<福岡市>今度は地下鉄で壁面剥落 男性の頭に当たる (2016年11月26日)
陥没兆候 市に報告せず 博多 業者、前日に異常値計測 (2017年1月24日)
陥没の防止策「不備」 博多事故 第三者委が最終報告 (2017年3月31日)
      (37)豊洲に漂っている水銀<環境問題>
豊洲地下の水銀、再び指針値上回る (2016年12月10日)
豊洲市場 “水銀”は「たまり水」から気化と特定 (2016年12月10日)
豊洲市場の地下空間、再び指針値以上の水銀検出 (2016年12月10日)
《補足資料》 『水溶液中での水銀の溶解度』実政勲/熊本大学理学部化学教室 (1975年3月30日)
豊洲地下の排水開始=完了まで3カ月―都 (2016年12月13日)
豊洲市場 地下空洞の水を取り出す作業開始 (2016年12月13日)
豊洲市場で“ひび割れ” 10月の開業「影響なし」 (2018年9月11日)
      (38)急激な増加、豊洲の有害物質が<環境調査>
<豊洲市場>地下水 有害物質ベンゼン、基準値79倍も検出 (2017年1月14日)
豊洲市場の地下水 環境基準の79倍のベンゼン シアンも検出 (2017年1月14日)
豊洲移転の行程遅れ必至 専門家会議、3月までに再調査 (2017年1月15日)
豊洲 基準100倍のベンゼン 地下水再検査 ヒ素・シアン検出 「地上、科学的には安全」専門家 (2017年3月20日)
《補足資料》 急激な数値悪化なぜ? 豊洲市場、過去の検査を検証へ (2017年1月18日)
      (39)隕石落下によるクライシス防止策 <危機管理>
地球に迫る小惑星 市販望遠鏡で探索 JAXA、新手法を開発 (2017年3月29日)
《追加資料》 科学の扉 「想定外」を考える 地球に小惑星衝突の危機 破壊せず、軌道をそらす方法探る (2017年4月2日)
直径650メートル小惑星 あす地球最接近 衝突の危険性なし (2017年4月18日)
《追加資料》 JPL Small-Body Database Browser(2014 JO25) (2017年4月18日)
《参考資料》 天体衝突と巨大カルデラ噴火、どちらが怖い? (2017年6月14日)
小惑星、10月に地球に接近 = 静止衛星にもニアミス (2017年8月14日)
《参考資料》 美星スペースガードセンター アポロ型特異小惑星2012 TC4の観測に成功 (2012年)
《参考資料》 Russian Chelyabinsk Meteor largest since 1908 Tunguska event(2013年2月18日)
過去最大級の小惑星、9月1日に地球接近 (2017年8月31日)
危機一髪?直径8mの小惑星、地球をかすめていた 東大 (2019年3月21日)
小惑星、地球にニアミス 直前まで観測されず (2019年7月29日)
《参考資料》 小惑星「2019FA」JPL Solar System Dynamics, Small-Body Database Browser';
《参考資料》 小惑星「2019OK」JPL Solar System Dynamics, Small-Body Database Browser';
車サイズの小惑星、地球すれすれ通過 観測史上最接近か (2020年8月20日)
《参考資料》 小惑星「2020QG」の軌道要素と軌道';
《参考資料》 地球に接近した後の小惑星「2020QG」の軌道';
小惑星に探査機ぶつけ、軌道変更に成功…「天体から地球を守る」実験で歴史的成果 (2022年10月12日)
ディモルフォス(『ウィキペディア』より)(2022年10月12日)
《参考資料》 ディディモス(『ウィキペディア』より)(2022年10月12日)
2029年に小惑星「アポフィス」が地球に衝突? 3年後に判明すると研究者 (2024年11月11日)
アポフィス (小惑星)(『ウィキペディア』より)(2024年11月11日)
      (40)特異な現象の説明を適切に <線状降水帯>
積乱雲が次々発生 「線状降水帯」、記録的豪雨の原因に (2017年7月5日)
九州北部豪雨「線状降水帯」が要因 積乱雲が次々に発生 (2017年7月6日)
<九州豪雨>局地的な雨、予想難しく (2017年7月6日)
2つの風衝突、線状降水帯に (2017年7月6日)
局地的、長時間豪雨の原因は「線状降水帯」 (2017年7月9日)
《参考資料》 福岡上空の風向 (2017年7月5日)
《参考資料》 背振山系
−時時刻刻− 豪雨 広域・同時多発 特別警報9府県 各地で雨量最大 二つの高気圧が拮抗 (2018年7月8日)
《参考資料》 地上天気図−2018年7月6日21時− (2018年7月7日)
《参考資料》 700hPa・850hPa高層天気図−2018年7月6日21時− (2018年7月7日)
「早めの避難を」=東から西へ進む異例の台風−気象庁「経験通用しない場合も」 (2018年7月27日)
台風12号 寒冷低気圧の影響で「逆走」 (2018年7月29日)
      (41)架線の断線は <新幹線事故>
架線並行区間 停止回避で対策 JR東海 新幹線停電は不完全接触原因 (2017年7月14日)
《参考資料》 新幹線のエアセクション (2009年10月)
《参考資料》 エアセクション (2017年7月13日)
《参考資料》 断線時の電気の流れ (2017年7月13日)
《参考資料》 在来線エアセクション (2017年7月13日)
      (42)アメダス環境が生みだす気温日本一<気象観測>
「ココハツ」 館林の暑さはズル林!? (2017年8月27日)
「ズル林」の汚名返上なるか 群馬・館林アメダス移設へ (2018年5月1日)
「日本一暑い」館林 じゃなかった? 観測地点を移設したら・・・気温下がった (2018年10月3日)
《補足資料》 高知・四万十市で41.0℃ 国内最高気温を更新 (2013年8月13日)
暑いぞ鳩山、熊谷抜いて埼玉の主役に 観測位置も影響? (2020年9月7日)
      (43)職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影<台車破損>
新幹線のぞみ、台車に亀裂 初の重大インシデント認定 (2017年12月12日)
新幹線の台車「異常なし」 JR東海、全車両の点検終了 (2017年12月15日)
のぞみ、台車に亀裂 新幹線、揺らぐ安全 破損の原因不明 (2017年12月16日)
《補足資料》 新幹線電車用台車の例 (2008年7月)
《補足資料》 新幹線車両の駆付輪軸の断面・台車枠(側ばり)と車軸・軸ばねの関係 ';
《補足資料》 <のぞみ車両>旧型、亀裂検知できず 新型はシステム搭載 (2017年12月29日)
《補足資料》 WN駆動(歯車形たわみ継手) ';
新幹線台車亀裂 台車は川重製 JR西が会見で説明 (2017年12月19日)
のぞみ亀裂 あと3センチで破断 JR西が謝罪 異常覚知後も走行 (2017年12月20日)
のぞみ台車 3.9ミリまで削る 川重 設計寸法は8ミリ (2018年3月2日)
のぞみ台車の温度 運行中に上昇検知 JR東海 警報基準見直し (2018年3月7日)
ルール違反の「削り」で強度不足に のぞみ亀裂で報告書 (2018年6月28日)
JR回送列車 台車10センチひび ワイドビュー南紀運休 (2018年1月22日)
JRの回送列車 台車のひび20センチ 同型車両は異常なし (2018年1月24日)
回送列車のひび 台車の空洞原因 JR東海 製造時に発生 (2018年2月6日)
JR紀勢線の台車ひび、原因は鋳造時の空洞 JR東海が発表 (2018年2月6日)
JR東海 製造時の空洞が原因 紀勢線・台車部品破断 (2018年2月6日)
軸箱体にできた亀裂の断面 (2018年2月6日)
      (44)放置された指摘と拙速な対応策の狭間で<入試ミス>
大阪大採点ミス 外部からの指摘、3度目で認める (2018年1月6日)
大阪大、昨春入試で出題と採点に誤り 30人追加合格に (2018年1月6日)
《補足資料》 平成29年度大阪大学一般入試(前期日程)等の理科(物理)における出題及び採点の誤りについて (2018年1月6日)
平成29年度大阪大学一般入試(前期日程)等における理科問題(物理)[3]Aの解説 (2018年1月12日)
京大入試、物理に「解答不能」…予備校講師指摘 (2018年1月21日)
京大入試ミス 17人追加合格 物理で正答選べぬ問題 (2018年2月2日)
      (45)安易な施工で厄災を招いた?<防災対策>
大阪震度6弱 M6.1 3人死亡91人けが (2018年6月18日)
大阪北部地震 都市直撃、機能マヒ 倒壊ブロック塀、ジャッキでも上がらず女児が犠牲に… (2018年6月18日)
<大阪震度6弱>倒壊の塀、鉄筋不足 基礎との接合部分 (2018年6月20日)
《参考資料》 倒壊の塀、鉄筋長さ不足 ブロック上端に届かず 大阪北部地震 (2018年6月21日)
−時時刻刻− 塀の危険性 見過ごす 大阪北部地震 業者、目視で違法性見逃す 外部指摘に市教委「問題なし」 (2018年6月18日)
倒壊の塀 当初から耐力不足 大阪北部地震 女児死亡で最終報告 (2018年10月30日)
      (46) 「エアバスから見える仕事」の誇り<自然災害>
台風20号 北淡震災記念公園の風車倒壊 兵庫・淡路 (2018年8月24日)
淡路島で風力発電用の風車が倒壊 (2018年8月24日)
巨大風車もポキリ 風の猛威 倒壊のワケを検証 (2018年8月24日)
      (47)力を合わせて1・2・3<電力システム>
強制停電 3回目不十分 北電 直後にブラックアウト (2018年9月20日)
社会の見方・私の視点 ブラックアウトを防ぐために 福島大学共生システム理工学類 佐藤義久特任教授 (2018年9月28日)
      (48)時間よ、止まれ<相対論検証>
スカイツリーの上と下 時の流れ違う? 日本で開発の高精度時計で計測 アインシュタイン理論 検証へ (2018年10月3日)
《補足資料》 村山斉の時空自在 ブラックホール撮影 世界一つに (2019年5月15日)
      (49)シールド工法の穴<陥没事故>
道路陥没 地下深くでトンネル工事 因果関係不明 原因調査へ (2020年10月19日)
東京 調布の住宅街 道路陥没 付近で地下に空洞見つかる (2020年11月4日)
東京 調布の道路陥没 現場付近の地下で新たな空洞見つかる (2020年11月22日)
地盤が“スカスカ”・・・住宅街陥没で新事実 食器棚から異音【調査報道23時】 (2021年10月13日)
調布の道路陥没、周辺地盤も緩み 工事の真上以外、振動原因か (2021年10月13日)
リニア中央新幹線 品川で大深度掘削を開始 (2021年10月14日)
リニア新幹線の大深度工事、3月末までに調査開始 川崎・町田で掘削 (2023年2月1日)
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図と表
 A  λ について、=1 と =2 のときの音波の伝搬         【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】
=(−1/2)λ について、=1 と =2 のときの音波の伝搬  【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】
Asteroid 3122 Florence (1981 ET3) Orbital Elements          【隕石落下によるクライシス防止策】
 あ  圧力と水が沸騰する温度の対応関係                   【1号機(福島第一原発)の圧力容器】
圧力容器各部の温度                          【3号機の異常昇温】
【アメダス環境が生みだす気温日本一】                 気温測定における舗装部分の影響
【アメダス環境が生みだす気温日本一】                 群馬県館林アメダス付近の鳥瞰図
【アメダス環境が生みだす気温日本一】                 高知県四万十市江川崎アメダス
【アメダス環境が生みだす気温日本一】                 館林新旧アメダス間での気温の相関
【アメダス環境が生みだす気温日本一】                 「鳩山」アメダス
【アメダス環境が生みだす気温日本一】                 山形県尾花沢市尾花沢アメダス
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      引力と遠心力
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      引力の強さと海面の高さの関係
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      シミュレーション結果
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      シミュレーションによる月と満干潮の位置
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      館山の干潮時と満潮時の月の位置
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      円から楕円への変形による周長変化
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      等方的な拡大による円の周長変化
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      加速器周長の時間的な変動
【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】      地球の自由振動
【安易な施工で厄災を招いた?】                    推定されるブロック塀の状態
【安易な施工で厄災を招いた?】                    倒壊する前のブロック塀
【安易な施工で厄災を招いた?】                    法令では曖昧になっているブロック塀の安全性を確保するための必須事項
【1号機(福島第一原発)の圧力容器】                 圧力と水が沸騰する温度の対応関係
【1号機(福島第一原発)の圧力容器】                 燃料棒・温度計測温部と水面の位置
【1号機(福島第一原発)の圧力容器】                 17日14:00現在の圧力容器
【1号機(福島第一原発)の圧力容器】                 燃料棒と温度分布
一段階の熱交換器に簡素化した空気冷却                 【水冷から空冷へ】
【隕石落下によるクライシス防止策】                  Asteroid 3122 Florence (1981 ET3) Orbital Elements
【隕石落下によるクライシス防止策】                  地球に接近する小惑星「Apophis」の軌道
引力と遠心力                             【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
引力の強さと海面の高さの関係                     【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
宇宙ゴミと天文衛星との衝突角度                    【X線天文衛星「ひとみ」に】
宇宙ゴミとの衝突による天文衛星の回転                 【X線天文衛星「ひとみ」に】
【「エアバスから見える仕事」の誇り】                 推定される風力発電用風車の基礎構造
液状化現象による空洞の発生と地盤の陥没                【シールド工法の穴】
【X線天文衛星「ひとみ」に】                     宇宙ゴミと天文衛星との衝突角度
【X線天文衛星「ひとみ」に】                     宇宙ゴミとの衝突による天文衛星の回転
【X線天文衛星「ひとみ」に】                     遠心力によるパドル破壊の連鎖は?
【X線天文衛星「ひとみ」に】                     パドル破壊・分離時に働く力
円から楕円への変形による周長変化                   【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
遠心力によるパドル破壊の連鎖は?                   【X線天文衛星「ひとみ」に】
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201610号(Lionrock)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201616号(Malakas)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201618号(Chaba)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201705号(Noru)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201721号(Lan)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201722号(Saola)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201820号(Cimaron)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201820号(Cimaron)[NOAA GFSの予想]
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201821号(Jebi)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201910号(Krosa)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風201919号(Hagibis)
【欧州の気象予報は気象庁よりも】                   台風進路の予報例
汚染水を抜き取ったときの汚染水の流れ                 【東電凍結壁完成への隘路】
温度と圧力の変化                           【格納容器(1号機)は壊れていない!】
音波が開放端で反射する様子を粒子のレベルで              【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】
音波が壁で反射する様子を粒子のレベルで                【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】
 か  解像度の違いを図で示せば                       【解像度の変化を図で表すと】
【解像度の変化を図で表すと】                     解像度の違いを図で示せば
【科学にマスコミは】                         支柱が及ぼす力の分布
【科学にマスコミは】                         正しいワイヤの取り付け位置
【科学にマスコミは】                         ドアにかかる「水圧」と「力」
【科学にマスコミは】                         降雨に伴う水位の変化
【科学にマスコミは】                         新幹線 大地震が襲ったら(修正した図)
各候補への投票数                           【分かり易いことを優先した表示は】
【格納容器(1号機)は壊れていない!】                計算上の圧力増加と実際の圧力増加の比較
【格納容器(1号機)は壊れていない!】                再計算した「計算上の圧力増加」と「実際の圧力増加」の比較
【格納容器(1号機)は壊れていない!】                8日現在の「計算上の圧力増加」と「実際の圧力増加」の比較
【格納容器(1号機)は壊れていない!】                温度と圧力の変化
【格納容器(1号機)は壊れていない!】                水温とそれと平衡状態にある水蒸気圧
加計問題での政権の対応と投票した党派(修正版)            【分かり易いことを優先した表示は】
柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先(修正版)            【分かり易いことを優先した表示は】
仮想の場合の最終順位表                        【分かり易いことを優先した表示は】
加速器周長の時間的な変動                       【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
監視カメラB(左)と監視カメラA(右)                【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】
陥没地点とトンネルを掘削している現在位置               【シールド工法の穴】
「陥没に至る過程」を想定すると                    【シールド工法の穴】
気温測定における舗装部分の影響                    【アメダス環境が生みだす気温日本一】
【急激な増加、豊洲の有害物質が】                   水中のベンゼン濃度と大気中のベンゼンの量
【急増した放射性炭素】                        放射性炭素14の生成と窒素への崩壊
【教育に基づく技術者の能力を】                    切削屑などの取り残しによる硝酸を含む洗浄液の残留
【教育に基づく技術者の能力を】                    冷却用水溶液温度の時間変化
群馬県館林アメダス付近の鳥瞰図                    【アメダス環境が生みだす気温日本一】
計算上の圧力増加と実際の圧力増加の比較                【格納容器(1号機)は壊れていない!】
高知県四万十市江川崎アメダス                     【アメダス環境が生みだす気温日本一】
氷を介した冷却による水の氷結                     【東電凍結壁完成への隘路】
降雨に伴う水位の変化                         【科学にマスコミは】
降水量に対する再現期間の関係                     【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】
降水量の多い領域での再現期間を重視したときの確率分布曲線       【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】
恒星の近傍を通過する光の経路                     【時間よ、止まれ】
異なったトリチウム濃度の処理水からのベータ線放出           【東電凍結壁完成への隘路】
 さ  再計算した「計算上の圧力増加」と「実際の圧力増加」の比較       【格納容器(1号機)は壊れていない!】
細砂の投入効果                            【東電凍結壁完成への隘路】
左図の修正例                             【分かり易いことを優先した表示は】
左図を修正した人口増減図                       【分かり易いことを優先した表示は】
【3号機の異常昇温】                         圧力容器各部の温度
【3号機の異常昇温】                         水温と圧力の関係
【時間よ、止まれ】                          恒星の近傍を通過する光の経路
【時間よ、止まれ】                          光の屈折
【時間よ、止まれ】                          弱い重力と強い重力の中を進む光
「軸箱支持装置」と「ひび」の発生箇所                 【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
「軸箱支持装置」に働く力                       【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
【試験の解答に責任】                         正しく描いた「金環日食」
支柱が及ぼす力の分布                         【科学にマスコミは】
支持する政党と投票した党派(修正版)                 【分かり易いことを優先した表示は】
支持政党別の各候補に投票した有権者数                 【分かり易いことを優先した表示は】
支持政党別の各候補に投票した有権者数                 【分かり易いことを優先した表示は】
支持政党別の各候補に投票した有権者数(改良例)            【分かり易いことを優先した表示は】
シミュレーション結果                         【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
シミュレーションによる月と満干潮の位置                【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
17日14:00現在の圧力容器                    【1号機(福島第一原発)の圧力容器】
浄化処理水からのベータ線の放出                    【東電凍結壁完成への隘路】
蒸気圧                                【4号機燃料プールの温度】
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             スプリングの異常によって生じる噛み合わせ点の偏倚
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             モーター取り付け位置の不良によって生じる噛み合わせ点の偏倚
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             「歯車箱吊り」に上方向への力のモーメントが
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             台車の「側ばり」に加わる力
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             「側ばり」に働く「剪断応力」と「引張応力」
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             台車の「側ばり」に加わる「ねじり応力」
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             「軸箱支持装置」と「ひび」の発生箇所
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             「軸箱支持装置」に働く力
【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】             溶接後の焼き鈍し不良による歪応力
【シールド工法の穴】                         液状化現象による空洞の発生と地盤の陥没
【シールド工法の穴】                         陥没地点とトンネルを掘削している現在位置
【シールド工法の穴】                         「陥没に至る過程」を想定すると
【シールド工法の穴】                         多摩川に沿ったリニア新幹線ルート(筆者による案)
【シールド工法の穴】                         地質断面図
【シールド工法の穴】                         道路トンネルと陥没地点の地質
【シールド工法の穴】                         道路トンネルと陥没地点の地質(部分)
【シールド工法の穴】                         筆者によるリニア新幹線首都圏ルートの修正案
【シールド工法の穴】                         リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(多摩川右岸)
【シールド工法の穴】                         リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(矢上川上流域)
新幹線 大地震が襲ったら(修正した図)                【科学にマスコミは】
水温と圧力の関係                           【3号機の異常昇温】
水温とそれと平衡状態にある水蒸気圧                  【格納容器(1号機)は壊れていない!】
水中のベンゼン濃度と大気中のベンゼンの量               【急激な増加、豊洲の有害物質が】
推定される風力発電用風車の基礎構造                  【「エアバスから見える仕事」の誇り】
推定されるブロック塀の状態                      【安易な施工で厄災を招いた?】
【水冷から空冷へ】                          耐圧壁を介した熱伝導による圧力容器の冷却
【水冷から空冷へ】                          二段階の熱交換器を使った空気冷却
【水冷から空冷へ】                          排出される空気の温度とそのときの流量
【水冷から空冷へ】                          一段階の熱交換器に簡素化した空気冷却
スキーバス転落事故現場付近                      【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】
スキーバスの推定速度                         【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】
スキーバスの推定速度                         【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】
スプリングの異常によって生じる噛み合わせ点の偏倚           【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
切削屑などの取り残しによる硝酸を含む洗浄液の残留           【教育に基づく技術者の能力を】
セルフ式GS数と「パンク救援依頼」数(図の修正例)          【分かり易いことを優先した表示は】
葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?(修正版)         【分かり易いことを優先した表示は】
「側ばり」に働く「剪断応力」と「引張応力」              【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
 た  耐圧壁を介した熱伝導による圧力容器の冷却               【水冷から空冷へ】
台車の「側ばり」に加わる力                      【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
台車の「側ばり」に加わる「ねじり応力」                【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
対戦結果                               【分かり易いことを優先した表示は】
台風201610号(Lionrock)                【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201616号(Malakas)                 【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201618号(Chaba)                   【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201705号(Noru)                    【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201721号(Lan)                     【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201722号(Saola)                   【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201820号(Cimaron)                 【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201820号(Cimaron)[NOAA GFSの予想]     【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201821号(Jebi)                    【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201910号(Krosa)                   【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風201919号(Hagibis)                 【欧州の気象予報は気象庁よりも】
台風進路の予報例                           【欧州の気象予報は気象庁よりも】
正しいワイヤの取り付け位置                      【科学にマスコミは】
正しく描いた「金環日食」                       【試験の解答に責任】
館林新旧アメダス間での気温の相関                   【アメダス環境が生みだす気温日本一】
館山の干潮時と満潮時の月の位置                    【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
多摩川に沿ったリニア新幹線ルート(筆者による案)           【シールド工法の穴】
断層推定位置                             【分かりよく正しい図による事故原因の説明】
タンデム自転車                            【力を合わせて1・2・3】
チェルノブイリ原発事故での放射性物質の放出量             【「メガ」と「ナノ」の単位系】
地下水流入量の変遷                          【東電凍結壁完成への隘路】
地下での水銀拡散(地下水位が高い状態での模式図)           【豊洲に漂っている水銀】
地下での水銀拡散(地下水位を下げた状態での模式図)          【豊洲に漂っている水銀】
【力を合わせて1・2・3】                      タンデム自転車
【力を合わせて1・2・3】                      提案している「レベル分けによる自動停電システム」
地球に接近する小惑星「Apophis」の軌道             【隕石落下によるクライシス防止策】
地球の自由振動                            【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
地質断面図                              【シールド工法の穴】
【地震で揺れる1号機圧力容器内部】                  燃料棒の崩壊による圧力容器壁の温度変化
提案している「レベル分けによる自動停電システム」           【力を合わせて1・2・3】
【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】              監視カメラB(左)と監視カメラA(右)
【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】              スキーバス転落事故現場付近
【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】              スキーバスの推定速度
【転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ】              スキーバスの推定速度
ドアにかかる「水圧」と「力」                     【科学にマスコミは】
同位相振動モードでの音叉から発出される音波の粗密の分布        【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】
同位相振動モードでの振動に基づく 2=(−1/2)λ のときの =1 と =2 の音波の伝搬 【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】
倒壊する前のブロック塀                        【安易な施工で厄災を招いた?】
東京の年最大日降水量に対する再現期間                 【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】
東京の年最大日降水量の出現度数                    【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】
同時多発豪雨をもたらした暖湿気流                   【特異な現象の説明を適切に】
【東電凍結壁完成への隘路】                      汚染水を抜き取ったときの汚染水の流れ
【東電凍結壁完成への隘路】                      氷を介した冷却による水の氷結
【東電凍結壁完成への隘路】                      異なったトリチウム濃度の処理水からのベータ線放出
【東電凍結壁完成への隘路】                      細砂の投入効果
【東電凍結壁完成への隘路】                      浄化処理水からのベータ線の放出
【東電凍結壁完成への隘路】                      地下水流入量の変遷
【東電凍結壁完成への隘路】                      凍土壁への地下水の影響
【東電凍結壁完成への隘路】                      トレンチ内外への汚染水の流れ
【東電凍結壁完成への隘路】                      トレンチへの汚染水の流入
【東電凍結壁完成への隘路】                      水の流れがあるとき
凍土壁への地下水の影響                        【東電凍結壁完成への隘路】
等方的な拡大による円の周長変化                    【誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象】
道路トンネルと陥没地点の地質                     【シールド工法の穴】
道路トンネルと陥没地点の地質(部分)                 【シールド工法の穴】
【特異な現象の説明を適切に】                     バックビルディング形成による積乱雲群の発達と移動
【特異な現象の説明を適切に】                     東シナ海からの暖湿気流の流れ込みによる同時多発豪雨
【特異な現象の説明を適切に】                     同時多発豪雨をもたらした暖湿気流
【豊洲に漂っている水銀】                       水に含まれる水銀の濃度と大気中の水銀の濃度の関係
【豊洲に漂っている水銀】                       地下での水銀拡散(地下水位が高い状態での模式図)
【豊洲に漂っている水銀】                       地下での水銀拡散(地下水位を下げた状態での模式図)
トレンチ内外への汚染水の流れ                     【東電凍結壁完成への隘路】
トレンチへの汚染水の流入                       【東電凍結壁完成への隘路】
 な  二段階の熱交換器を使った空気冷却                   【水冷から空冷へ】
年最大日降水量に対する再現期間                    【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】
年最大日降水量の多い方から15個のデータ               【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】
年最大日降水量の少ない方から15個のデータ              【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】
燃料棒・温度計測温部と水面の位置                   【1号機(福島第一原発)の圧力容器】
燃料棒と温度分布                           【1号機(福島第一原発)の圧力容器】
燃料棒の崩壊による圧力容器壁の温度変化                【地震で揺れる1号機圧力容器内部】
望ましい最終順位表の例                        【分かり易いことを優先した表示は】
 は  排出される空気の温度とそのときの流量                 【水冷から空冷へ】
「歯車箱吊り」に上方向への力のモーメントが              【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
箱根観光の動線の例                          【不安を煽(あお)る】
バックビルディング形成による積乱雲群の発達と移動           【特異な現象の説明を適切に】
パドル破壊・分離時に働く力                      【X線天文衛星「ひとみ」に】
「鳩山」アメダス                           【アメダス環境が生みだす気温日本一】
東シナ海からの暖湿気流の流れ込みによる同時多発豪雨          【特異な現象の説明を適切に】
光の屈折                               【時間よ、止まれ】
肥前竜王駅の模式図                          【「ポカヨケ」なしの安全設備】
筆者によるリニア新幹線首都圏ルートの修正案              【シールド工法の穴】
【不安を煽(あお)る】                        箱根観光の動線の例
放射性炭素14の生成と窒素への崩壊                  【急増した放射性炭素】
【放射線測定法は適切に】                       放射能測定時の計数漏れ
放射能測定時の計数漏れ                        【放射線測定法は適切に】
【放射能をあびた野菜たち】                      林地での放射性セシウムの行方
【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】               λ について、=1 と =2 のときの音波の伝搬
【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】               =(−1/2)λ について、=1 と =2 のときの音波の伝搬
【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】               音波が開放端で反射する様子を粒子のレベルで
【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】               音波が壁で反射する様子を粒子のレベルで
【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】               同位相振動モードでの音叉から発出される音波の粗密の分布
【放置された指摘と拙速な対応策の狭間で】               同位相振動モードでの振動に基づく 2=(−1/2)λ のときの
=1 と =2 の音波の伝搬

法令では曖昧になっているブロック塀の安全性を確保するための必須事項  【安易な施工で厄災を招いた?】
【「ポカヨケ」なしの安全設備】                    肥前竜王駅の模式図
 ま  水に含まれる水銀の濃度と大気中の水銀の濃度の関係           【豊洲に漂っている水銀】
水の流れがあるとき                          【東電凍結壁完成への隘路】
【「メガ」と「ナノ」の単位系】                    チェルノブイリ原発事故での放射性物質の放出量
モーター取り付け位置の不良によって生じる噛み合わせ点の偏倚      【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
 や  山形県尾花沢市尾花沢アメダス                     【アメダス環境が生みだす気温日本一】
8日現在の「計算上の圧力増加」と「実際の圧力増加」の比較       【格納容器(1号機)は壊れていない!】
溶接後の焼き鈍し不良による歪応力                   【職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影】
【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】             降水量に対する再現期間の関係
【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】             降水量の多い領域での再現期間を重視したときの確率分布曲線
【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】             東京の年最大日降水量に対する再現期間
【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】             東京の年最大日降水量の出現度数
【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】             年最大日降水量に対する再現期間
【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】             年最大日降水量の多い方から15個のデータ
【予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨】             年最大日降水量の少ない方から15個のデータ
四日市JCTと自動車専用道                      【分かり易いことを優先した表示は】
より適切な進路表示                          【分かり易いことを優先した表示は】
弱い重力と強い重力の中を進む光                    【時間よ、止まれ】
【4号機燃料プールの温度】                      蒸気圧
 ら  リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(多摩川右岸)           【シールド工法の穴】
リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(矢上川上流域)          【シールド工法の穴】
林地での放射性セシウムの行方                     【放射能をあびた野菜たち】
冷却用水溶液温度の時間変化                      【教育に基づく技術者の能力を】
 わ  【分かり易いことを優先した表示は】                  より適切な進路表示
【分かり易いことを優先した表示は】                  四日市JCTと自動車専用道
【分かり易いことを優先した表示は】                  左図を修正した人口増減図
【分かり易いことを優先した表示は】                  左図の修正例
【分かり易いことを優先した表示は】                  支持政党別の各候補に投票した有権者数
【分かり易いことを優先した表示は】                  支持政党別の各候補に投票した有権者数
【分かり易いことを優先した表示は】                  支持政党別の各候補に投票した有権者数(改良例)
【分かり易いことを優先した表示は】                  各候補への投票数
【分かり易いことを優先した表示は】                  柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先(修正版)
【分かり易いことを優先した表示は】                  加計問題での政権の対応と投票した党派(修正版)
【分かり易いことを優先した表示は】                  支持する政党と投票した党派(修正版)
【分かり易いことを優先した表示は】                  仮想の場合の最終順位表
【分かり易いことを優先した表示は】                  望ましい最終順位表の例
【分かり易いことを優先した表示は】                  対戦結果
【分かり易いことを優先した表示は】                  セルフ式GS数と「パンク救援依頼」数(図の修正例)
【分かり易いことを優先した表示は】                  葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?(修正版)
【分かりよく正しい図による事故原因の説明】              断層推定位置
 
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(1)放射能をあびた野菜たち
 
振り回される農家

(前略) 
 この時期の出荷作物はホウレンソウのみなので収入は断たれたままだ。 妻の光江さん(63)は 「振り回されるのはいつも私たち農家」 と嘆く。 
4日に新たに出荷停止措置を受けた千葉県北部。 6品目の野菜が対象になった旭市の明智忠直市長は 「これまで出荷を自粛していた野菜ばかりで特に影響はない」 と冷静に受け止めている。 
 一方、やはり出荷停止になった香取市や多古町に隣接する成田市。 担当者は対象から外れたことに胸をなで下ろすが、 「市町村ごとに区切れるものでもない」 と不安を漏らす。

2011年(平成23年)4月5日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面 赤字は右記引用部分
 前日まで出荷停止措置は県単位であったのが、この日から県内をいくつかの地域に分割してその地域ごとに出荷停止措置を判断することに変更された。 その前日までは出荷停止になっていなかった千葉県で、4日に新たに出荷停止措置を受けた千葉県北部は、県内全域出荷規制から県内地域別出荷規制に変更されたその日からの措置となった。 
 このことに関して、つぎのいずれのケースであるか、知りたいものである(*1) 
(1)これまでは「県単位での出荷停止措置」であったので、千葉県全体を代表するサンプルとして、別の地域(「千葉県北部」ではない地域)の野菜が選ばれていた。 
 ところが、県内地域別規制に運用が変更されることに伴い、初めて「千葉県北部」地域の野菜について測定してみたところ、規制値を超えていることが判明した。 これでは、前日までに出荷されていた「千葉県北部」産野菜の放射性物質は、規制値を越えていたかも知れないと非常に心配になってくる。 旭市の明智忠直市長は「これまで出荷を自粛していた野菜ばかりで特に影響はない」と冷静な行動を求めているが、出荷自粛は、あくまで「自粛」であるので、どの程度出荷しないことが徹底されていたか不安は去らない。 前日までに出荷されていた「千葉県産」の表示で販売されている野菜について、それが「千葉県北部以外」で採れた「千葉県産」の野菜であると消費者が確認する術がない。 
 可能性として、放射性物質の規制値を超えてしまった千葉県北部産の野菜が、前日までは大手を振って流通していて、今日以降も在庫分については売られている・・・かも知れない。 
 当局は、地域別に、きめ細かく測定して欲しい。 
(2)以前から「千葉県北部」地域で採れた野菜も測定していて、この日、当該地域の野菜が規制値を超えてしまった。 
 従来の措置では、千葉県産全体の出荷を停止する措置となってしまう。 それでは、首都圏への野菜の供給が逼迫する可能性がある。 また、野菜栽培農家への保障についても、福島県などよりも格段に膨れあがってしまう。 それらのことから、規制対象地域を細分化する必要性が生じた。 この程度に細分化しても、出荷停止になった香取市や多古町に隣接している成田市の担当者は対象から外れたことに胸をなで下ろすが、「市町村ごとに区切れるものでもない」と不安になるのも、正直な感想だろう。 
 合理的な地域割りを期待したい。 
 報道は、国民の不安を解消できるように、精確なデータを提示するような努力を望む。
 

(*1) これに関する記事が、この3年半後に掲載された。

 
出荷自粛のサンチュ販売

 基準を超える放射性物質が検出され、千葉県が出荷自粛を指示した同県旭市産の葉物野菜サンチュが、販売されていたことがわかった。 同市の集荷業者「グリーンファーム」は13日、大手スーパー「イオン」(千葉市)をはじめ、大阪府、三重県、広島県、島根県の小売店など計十数社に出荷したことを明らかにした。(中略) 
 東京都が3月20日、都内で流通していた旭市産のシュンギクから基準(1キロあたり2千ベクレル)を超える同4300ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたと発表。 旭市は翌21日に葉物野菜の出荷を自粛した。千葉県も25日、県の検査でサンチュから同2800ベクレルが検出されたと発表し、29日に同市などに出荷自粛を指示、政府は4月4日になって原子力災害対策特別措置法に基づき出荷停止を指示した。 
 しかし、旭市は3月28日に独自にサンチュの検査を実施、同1700ベクレルで、基準(同2千ベクレル)を下回ったとしたため、出荷を止めていた旭市の集荷業者「グリーンファーム」は29日、「市の独自検査で基準を下回ったので出荷を再開したい」と要請し、イオンの担当者が受け入れた。 出荷停止が指示された4月4日まで出荷は続いたという。 

2011年(平成23年)4月14日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版37面 赤字は右記引用部分
 やっぱりという感じ。 
 千葉県が出荷自粛を指示した同県旭市産の葉物野菜サンチュが、販売されていたことが判明したことで、4月4日の時点旭市の明智忠直市長は 「これまで出荷を自粛していた野菜ばかりで特に影響はない」 としていたはずが、実は「自粛」が徹底していなかったことが明らかになってしまった。 旭市は3月28日に独自にサンチュの検査を実施、同1700ベクレルで、基準(同2千ベクレル)を下回ったことから、「自粛」する意味がなくなったと理解する業者が出てくることも予想された。 サンチュを独自に検査した旭市は、この検査結果を受けて、どのように行政指導したか、しなかったか、疑問に思う。 
 また、集荷業者が「市の独自検査で基準を下回ったので出荷を再開したい」と要請し、イオンの担当者が受け入れたという。 集荷業者は、この28日の旭市の検査結果から、出荷できるものと速断してしまったのか。 小売業者側に、この放射能汚染についての判断を誤れば消費者の信頼を失ってしまうという認識が、なかったのか。 
 東京都が3月20日、都内で流通していた旭市産のシュンギクから基準(1キロあたり2千ベクレル)を超える同4300ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたと発表してから、4月4日になって原子力災害対策特別措置法に基づき出荷停止を指示するまでの2週間以上、この件に関して政府は何をしていたのか。 
 こんなことをしているから、消費者に不信感が芽生えてしまうことになる。 自治体、集荷業者、小売業者、政府が、しっかりしていないからだ。 風評被害があるとすれば、その発生源がどこにあるかは明らかである。
 
葉物に偏る検査
国指定が裏目

 埼玉県では19日、県内産のホウレンソウや小松菜、水菜を計8検体、採取した。 毎週火曜日におこなっている検査のためだ。 宅配便で検査機関に送ると、木曜日の夕方までに結果が出る。 
 これまで基準を超えたものはない。 ただ今月5日まで行ったキュウリやイチゴなどの検査は中止。 農産物安全課の担当者は「葉物野菜で定点観測をという国の指示があり、野菜は当面、葉物に絞った」とする。 
 菅政権は4日、福島県と周辺10都県を対象に検査計画についての考え方を示した。(中略) 
 担当者は「トマトやエダマメもこれからの主力商品。できれば幅広くやりたいのだが」と漏らす。 
 菅政権の指示では「生産状況を勘案した主要農産物」も対象に入れている。 厚生労働省の担当者は「決して葉物野菜に絞ったわけではない」と、幅広い品目の検査を求めている。 
 一方、宮城県ではこれまで、3月25日と4月11日の2回、野菜は計16検体しか検査を実施していない。(後略)

2011年(平成23年)4月20日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面 赤字は右記引用部分
 埼玉県では県内産のホウレンソウや小松菜、水菜を計8検体、採取して、それの放射能を検査したという。 しかし、今月5日まで行ったキュウリやイチゴなどの検査を止めてしまったという。 その理由は、農産物安全課の担当者は「葉物野菜で定点観測をという国の指示があり、野菜は当面、葉物に絞った」ということである。 しかし、厚生労働省の担当者は「決して葉物野菜に絞ったわけではない」という。 
(1)国が目的としているもの」は、「葉物野菜で定点観測をという国の指示」に見られるように、野菜の放射能を定点で測定して「時間的地域的な変化を調べよう」とするものである。 そのために「正確に」核種別の放射能を測定しようとすると、それに要する手間と機材を考えると、数多くの野菜を対象にすることは難しい。 代表的な葉物野菜に限定する必要があった。 
(2)消費者が求めているもの」は、「手に取った野菜が安全である」かどうかが、わかる測定である。 消費者は、多くの種類・産地の野菜について、「基準値以下であることを確認する」ための測定を望んでいる。 安全性の確認のための測定である。 
 国の目的の「正確な放射能測定」と消費者の要望の「基準値以上以下を確認できる放射能測定」はまったく異なったものであるが、それを同じ土俵上でおこなうという所に、行き違いが生じたのである。 
 何故、そのようになったのか。 「国が目的としている測定」には、国の予算が手当てされるはずである。 それから外れた測定には、自治体が負担する部分が生じる。 そこで、「目的の違う2つの測定を、同じ土俵上でおこなえば・・・予算を抑えられる」という自治体の知恵であろう。 
 しかし、「消費者が求めている安全性の確認のための測定」として、「8検体」という検体数で大丈夫なのか。 市場に出回っている野菜の種類は多い。 また、同じ埼玉県内でも北部、南部、秩父地方といった「栽培地域」や、露地かハウスかの「栽培方法」によって、検査結果が違ってくることもあろう。 これでは、検体として採取した地域のその野菜については、大丈夫ですよ。 でも、それ以外の野菜については・・・。 
 消費者もバカではない。 検査されていないかも知れない野菜が売られているとしたら、購入を躊躇するのは当たり前。 
 それでは多数の検体を、どのようにしたら検査できるというのか。 それには、放射性核種を峻別しない、トータルの放射線量を測る簡易検査の導入によるスクリーニングを提案したい。 外部放射線からの遮蔽がなされていない簡易機器であっても、基準値を超えていなければ、野菜が持つ放射能はそれよりも小さいはずである。 測定されたトータル値が、ヨウ素131とセシウム137の、より低い方の暫定基準値を超えた場合にのみ、核種別の測定を実施する。 トータル値が超えていない場合には、ヨウ素131とセシウム137のいずれも、暫定基準値を超えていることはないので、安全なものと認定できる。 核種別の「精確な」ものではないが、安全なものか否かを、工場生産の製品のようにロットごとに検査できよう。 このような測り方では、国が求めている意味での測定値は得られないが・・・。
 
出荷制限の7885束 市場に
千葉・香取のホウレンソウ
農家「制限知っていた」

 千葉県は26日、同県香取市の農家10戸が、出荷自粛と出荷停止になっていた同市産のホウレンソウ7885束を県内の市場に出荷していた、と発表した。(中略) 
 県によると、香取市の農家は出荷自粛期間の前から出荷停止が解除された後までホウレンソウを出荷しており、1日〜22日の間の出荷数は計7885束だった。 市場側は「産地の確認が甘かった」と説明しているという。県は、「問題のホウレンソウを食べてもただちに健康に影響があるとは言えない」としている。

2011年(平成23年)4月27日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版38面 赤字は右記引用部分
 またまた、やっぱりという感じ。 
 市場側は「産地の確認が甘かった」としているが、このように騒がれている放射能に関する事柄について、まったく認識がなかったとすれば開いた口がふさがらない。 当事者にとって、流通業者としての信用を差し置いて一番大事なことは、何だったんでしょうか。 金儲け・・・か? 
 業者は言い訳しかしていない。 消費者に対して、真摯な対応をすべきでは・・・。 
 また行政側も、県は、「問題のホウレンソウを食べてもただちに健康に影響があるとは言えない」としているが、それでは、何故、国は「出荷停止」などの規制をしているのか。 「出荷停止」などの規制の是非を、この件の当事者である千葉県に判断して貰いたくない。 千葉県に確証があって「問題のホウレンソウを食べてもただちに健康に影響があるとは言えない」と断言しているのであれば、それを「国」に進言して、規制しないようにすればよかったのに。 地方自治体は、誰のための行政を執行しているのでしょうか。 
 先ずは、業者への指導不足を反省すべきでは・・・。 
 こんなことをしているから、消費者に不信感が芽生えてしまうのである。 地方自治体や市場業者が、きっちりと事態を認識していないからだ。 再度繰り返すが、風評被害があるとすれば、その発生源がどこにあるかは明らかである。

 
荒茶の検査しない…静岡知事、政府方針従わず

 東京電力福島第一原発の事故に関連し、政府が生茶葉を乾燥させた「荒茶」でも放射性物質が暫定規制値を超えれば出荷制限の対象とする方針を示している問題で、静岡県の川勝平太知事は2日、「荒茶の(放射能)検査はしない」と述べ、政府の方針に従わない考えを示した。 
 川勝知事は静岡県庁で記者団に対し、「厚労省に助言する原子力安全委員会の委員5人のうち、放射能の専門家は1人だけ。 信用が失墜した委員会の、たった1人の専門家の意見に、380万県民が最も大事にしているお茶が振り回されるのは本当におかしい。 乱暴な規制をするとなれば、それこそ不信任に値する」と批判。 さらに「荒茶は半製品で、消費者が口にすることがない。中途半端に安全のためにすることが、結果的に不安を増幅させることになる」などと語った。

2011年(平成23年)6月2日(木)19時22分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 静岡県の川勝平太知事は2日、「荒茶の(放射能)検査はしない」と述べ、政府の方針に従わないという意向を表明した。 
 小売店に「放射能検査済みの茶」と「検査されていないと思われる茶」が並んで売られていたら、現今の消費者は、どちらを選ぶでしょうか。 このように、一旦、検査の有無という「商品の差別化」が生じたならば、勝負は決まってしまう。 
 飲料メーカーは、仕入れ段階で、今後、「荒茶」の放射能検査をすることになるはずである。 県レベルでの検査の有無は、あまり関係ないように思われる。 当該知事の処置が「銘柄茶」に対して打撃を与えるのではないかということが、杞憂に終わることを祈っている。
 
一転、静岡が荒茶の検査実施=神奈川は見合わせ

 静岡県の川勝平太知事は3日、茶葉を乾燥した荒茶や製茶も放射性物質が暫定規制値を超えた場合は出荷制限の対象にするとの政府方針を受け、近く収穫が始まる「二番茶」から、荒茶の検査を実施すると発表した。 
 一方、神奈川県は同日、生茶と同一の基準を荒茶に適用することは「規制強化に等しい」などとして、合理的・科学的根拠が示されない限り、荒茶の検査を行わない、との方針を発表した。 
 川勝知事は2日、荒茶を検査しない意向を表明していたが、業界の意向を踏まえ「消費者の安全が最優先」として方針転換した。 静岡県は、荒茶の検査を茶工場ごとに実施する意向で、暫定規制値を超えた場合の出荷制限も市町村単位ではなく、工場ごとにできるよう厚労省に求める。

2011年(平成23年)6月3日(金)20時38分
時事通信(JIJI.COM)赤字は右記引用部分
 川勝知事は2日、荒茶を検査しない意向を表明していたが、業界の意向を踏まえ「消費者の安全が最優先」として方針転換したという。 
 このような方針転換には躊躇してしまうところがあるが、素早い判断に対して先々高い評価が下されると思われる。 
 一方で、方針転換前の静岡県と同様に、神奈川県は同日、生茶と同一の基準を荒茶に適用することは「規制強化に等しい」などとして、合理的・科学的根拠が示されない限り、荒茶の検査を行わない、との方針でいくという。 
(1)神奈川県の方針 −−−「規制値の設定に合理的・科学的根拠が示されない限り、規制強化につながることになる検査をしない」 
と、 
(2)神奈川県の方針とは異なる判断 −−−「規制値の設定に合理的・科学的根拠が示されていないとしても、安全性を担保するために検査をする」 
で、どちらの方がまっとうな行政をしている・・・。 
 昨日の静岡県に対しての提言を、今回は神奈川県に進呈しよう。小売店に「放射能検査済みの茶」と「検査されていないと思われる茶」が並んで売られていたら、現今の消費者は、どちらを選ぶでしょうか。 一旦、検査の有無という「商品の差別化」が生じたなら・・・。 
 基準に根拠がないからこそ、「規制強化を避けるために検査する必要がない」か「安全性を優先して検査をする」かの判断からは、首長の意向が透けて見えてくる。
 
「荒茶」も検査、物議「飲用は大丈夫なのに」…

 茶葉からの放射性物質検出で、政府が生茶葉を乾燥させた「荒茶」も検査対象にしたことが波紋を広げている。(中略) 
 ▼放射性物質 薄まる 
 茶の“特殊性”が問題を複雑にしている。 
 茶は生茶葉を乾燥させて荒茶にし、ブレンドするなどして製茶して市場に出回る。 一般的に、消費者は製茶を湯に入れて飲用する。 
 生茶から荒茶にするとき放射性物質の濃度は約5倍に濃縮される。 
 ただ、「通常の飲み方で湯に入れると50分の1〜60分の1に濃度は薄まる。健康に問題はない」(農水省)という。 
 農水省は関東南部の3つの産地で茶葉を調査。 ある産地では生茶葉1キログラム当たり710ベクレル、荒茶は同3200ベクレルといずれも基準値を超えたが、荒茶に30倍のお湯を入れた飲用茶にすると54ベクレルになり、飲用茶の基準同200ベクレルを下回った。 
 ただ、茶葉をそのまま口にする場合もある。 乾燥させた茶葉をひいて粉にした抹茶の扱いも多い京都府茶協同組合は「荒茶段階で自主的に検査している。 抹茶を考えれば、茶葉は口に入るものだ」と話す。 
 ▼飲料メーカー困惑 
 飲料メーカーも対策に必死だ。(後略)

2011年(平成23年)6月5日(日)07時56分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 「通常の飲み方で湯に入れると50分の1〜60分の1に濃度は薄まる。健康に問題はない」(農水省)としている。 たとえば、ある産地では生茶葉1キログラム当たり710ベクレル、荒茶は同3200ベクレルといずれも基準値を超えたが、荒茶に30倍のお湯を入れた飲用茶にすると54ベクレルになり、飲用茶の基準同200ベクレル以下となっているという。 
 この例では、3200ベクレルの荒茶に30倍のお湯を入れた飲用茶にすると54ベクレルになっている。 すなわち、1キログラムの荒茶(3200ベクレルの放射能を含有)から30キログラムの飲用茶を調製したとき、その飲用茶には1620ベクレル(1キログラムあたり54ベクレル×30キログラム)の放射能を含んでいることになる。 ほぼ半分の放射能が、飲用茶の方に移行したことになる。 
 たとえ放射能の全量が飲用茶の方に抽出されたとしても、飲用茶1キログラムあたり107ベクレルとなり、飲用茶の基準同200ベクレルを充分に下回ることがわかる。 
 飲用茶の基準同200ベクレルを認めるとするならば、荒茶の段階での基準は、荒茶1キログラム当たり6000ベクレルで良いはずである。 
 荒茶の基準と飲用茶の基準に、整合性がない。

 
食品放射能検査
慌ただしく実施

 原発事故では、飛散した放射性物質で農水産物が汚染され、各県で出荷停止が相次いだ。 国の担当者の調書からは、食の安全への懸念が広がり、放射能検査の態勢が慌ただしく取られる経緯が浮かぶ。 
 政府は2011年3月17日、農産物の暫定規制値を発表。 農林水産省の吉岡修参事官(当時)の調書によると、翌18日から自治体の検査の支援を始めた。 ガソリン不足などで検査できない自治体もあり、「農政事務所が代わりにサンプリングしたり、試料を検査機関に届けたりもした」と述べた。 
 同月21日に政府は規制値を超えた茨城、栃木、群馬各県産のホウレンソウとかき菜を出荷停止とし、同時に福島県産も対象とした。 厚生労働省の道野英司・輸入食品安全対策室長(当時)の調書によると、福島県産で規制値を超えたデータはなかったが、周辺の県より原発に近い福島を横並びで制限の対象にしたという。 
 また、同年4月に出荷規制を県単位ではなく地域単位に切り替えた。 道野氏は「県全域を対象とするのは厳しすぎるのではないかという意見があった」と述べ、自治体の声に配慮した経緯を明かした。

2014年(平成26年)11月13日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面 赤字は右記引用部分
 震災から3年半後の報道である。 
 出荷規制を、県単位ではなく地域単位に切り替えた経緯が、記事にされている。 そこでは、厚生労働省の道野英司・輸入食品安全対策室長(当時)によると「県全域を対象とするのは厳しすぎるのではないかという意見があった」ということである。 2011年4月5日(火)で述べている「(2)」に近い発言である。 
 ただ、その地域規制が合理的かつ適切に実施されたかどうかは明かされていない。 規制を小さな地域に細分すると、その地域ごとに種々の野菜を検査しなければならないことになってしまうから、検査試料が膨大なものになってしまう。 現実には、2011年4月20日(水)の記事に見られるように、検査態勢が対応できていなかったのであるから、「先ず地域割りあり」であったと思われる。 
 「県全域を対象とするのは厳しすぎるのではないかという意見があった」というのは、後付の弁明であろう。

 
セシウム 大半が表層土に
福島・川内村
樹木・落ち葉は蓄積減

 東京電力福島第一原発事故で福島県内の森林内部にたまった放射性セシウムの大半が現在、地面表層にとどまっていることを、森林総合研究所(茨城県つくば市)が事故後5年間の追跡調査で明らかにした。 事故直後は樹木や落ち葉に大半があったが、落葉や雨で表層土に移ったとみられる。 
 同研究所は林野庁の委託を受け、事故が起きた2011年から毎年、福島第一原発から約26キロ離れた福島県川内村の国有林などに調査地点を設け、放射性物質セシウム137の蓄積量を調べてきた。 樹木と落葉層、深さ5センチまでの表層土、5〜20センチまでの土層ごとに測定し、樹木は葉と枝、樹皮、幹別の測定値から算出した。 
 川内村のスギ林で、11年には全蓄積量の44%が樹木に、31%が落葉層にあった。 しかし翌12年にはそれぞれ14%、15%に減り、15年には4%と8%に急減した。 逆に深さ5センチまでの表層土は11年が23%だったが、12年には62%、15年には76%と大半になった。 5〜20センチまでの土層は11年が2%で、12年に9%、15年に12%と微増だった。 
 同研究所震災復興・放射性物質研究拠点の金子真司拠点長は「ここ数年、放射性セシウムは深さ5センチまでの表層土に大半がとどまっている。 今のところ樹木が根から盛んに吸収しているようには見えない」と話している。【 三嶋伸一 】

2017年(平成29年)9月27日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版6面(総合5) 赤字は右記引用部分
 福島県内の森林内部にたまった放射性セシウムの大半が現在、地面表層にとどまっていることを、森林総合研究所(茨城県つくば市)が事故後5年間の追跡調査で明らかにしたことを、記事を元にして図にすると・・・ 
 図1-1 林地での放射性セシウムの行方 
 林地に降り注いだ放射性セシウム(セシウムはカリウムと同じ第1族元素である。金属の状態は不安定であって、1価の陽イオンになる傾向が高い)は当初樹木に付着していたが、次第に表土層に蓄積している様子が見て取れる。 
 セシウムイオンは、塩化セシウムの場合に20度で飽和溶液100グラム中に65.1グラムが溶けているように、水に溶けやすい物質である。 水100グラムに塩化セシウムの形で(水の重量よりも大きい)186グラムが溶けることを意味する。 したがって、樹木に付着した放射性のセシウムイオンは降雨によって溶解して地上に落ちてしまう。 
 落ち葉層のセシウムも、落ち葉になった時点でのセシウム濃度が年々下がっていることも含めて、雨水によって洗われ続けることで減少していったことを示している。 
 その結果、表土層に次第に放射性セシウムが蓄積されていく構図が見て取れる。 更に、その下の地下5〜20センチメートルの土層にも浸透していくように思われる。 しかし、林地の状態によっては地下水の地表面への上昇が激しくて、セシウムイオンの土層への浸透が抑制されることがある。 そのようなときには、セシウムイオンは表土層に濃縮されることになる。 
 放射性セシウムが樹木や落ち葉に存在しているときには、降雨による流水によって低地に洗い流される。 セシウムイオン(1価の陽イオン)が表土層に蓄積される状況になると、土壌の陰イオンと結合してしまって、雨水によって流れ去っていく可能性は低くなる。 林地全体の放射性セシウム濃度の大幅な減少は、人為的になされない限り、期待できない。 
 全放射性セシウムの蓄積割合が、樹木に含まれているものより土壌中の方が大きい。 しかし、その母体の体積をみると後者が圧倒的に大きいことでその存在量が高い値になっているからであって、樹木に含まれる放射性セシウムが無視できるというものではない。 樹木の放射性セシウムが、当初は付着であったものが、徐々に樹木内部に含有される状態に変化していくことであろう。 付着による非常に高い放射性セシウム濃度から、洗い流されることによっていったんは減少したとしても、根からの吸収による樹木本体への蓄積によって増加傾向に転じるであろう。
 

(2)1号機(福島第一原発)の圧力容器
 
福島第一遠い安定

(前略) 
 このため炉内に消火用の配管などから大量の水を入れ続けている。 
 しかし、1号機はなかなか温度が下がらず、3月23日にも400度を示した。 その後は次第に下がりつつあるが、5日午前6時現在で、234度と依然として高い状態が続いている。(中略) 
 1号機は、圧力容器内の圧力が5日午前6時現在で3〜6気圧を示しており、一定程度密閉性が保たれているようだ。 
 1号機の圧力容器内の温度を下げるためには、注水して燃料を水で冷やすほかない。 しかし、高温の状態の中に水を入れると、熱で蒸気が発生して内部の圧力を高めてしまう。 実際に3月23日に水の量を毎時2トンから18トンに増やしたところ圧力が高まった。 水素や水蒸気爆発につながる恐れもあるため、現在6トンまで水を減らしている。(後略)

2011年(平成23年)4月5日(火)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版1面 赤字は右記引用部分
 4月5日の状況をみると、1号機原子炉の温度については5日午前6時現在で、234度と依然として高い状態が続いているという。 ところで、水が満たされている容器内の「温度」と「圧力」には、一定の対応関係(*1) がある。 
 234度が原子炉内の水温であるとすると、炉内の圧力は29.7気圧でなければならない。 これよりも圧力が低いと、炉内の水が沸騰、蒸発することで圧力を上げて、29.7気圧に達すると安定する(平衡状態になるという)。 
 この時点での炉の圧力にも言及されていて、圧力容器内の圧力が5日午前6時現在で3〜6気圧を示している(*2) とのことである。 
 圧力容器内の圧力が正確に測られていて、それが3〜6気圧であるならば、容器内の水温は134度〜160度の範囲内でなければならない。 圧力容器内の圧力が3気圧であると、その容器内の水は134度で沸騰し、それ以上の水温にはならないし、6気圧であれば160度で沸騰するから。
表2-1 圧力と水が沸騰する温度の対応関係
圧力  沸騰温度備考
29.7気圧←→234度4月5日午前6時の温度
3気圧←→134度
4月5日午前6時での圧力 
6気圧←→160度
 温度計と圧力計が示す値がともに正しいとすると、温度は、圧力計の値から予想される「水温」よりも、数十度以上高い。 これは、「温度計の測温部」が「水から出ている」ことを示している。 
 図2-1 燃料棒・温度計測温部と水面の位置 
 自己発熱している燃料棒の一部も同様に「水から出ていて」、それからの輻射熱(赤外線)により「温度計の測温部」が加熱されて、高い温度を表示しているようである(上図左側、温度計は模式的に表示)。 上図中央のように、燃料棒全体が水中にあれば、燃料棒の表面温度は水温とほぼ同じになるので、温度計は234度ではなくて、水温(圧力計の値から推定される温度として134度〜160度の範囲)を示すはずである。 ということで、このようになっている可能性は、ない。 上図右側は、燃料棒の一部は水面から露出しているが、「温度計の測温部」は水中にある場合である。 このときは、温度計は水温(134度〜160度)を示す。 燃料棒からは放射熱(赤外線)が放射されているが、水によって吸収されてしまうから、「温度計の測温部」には届かない。 このケースである可能性も、ない。 
 燃料棒の一部が水面上に頭を出すほど、水が蒸発してしまっていると考えられるから、一定程度密閉性が保たれているとは、とてもいえない。 現在6トンまで水を減らしているとはいえ継続的に注水しているのであるから、その毎時6トン注入水と同じ水量が炉外に漏れているはずである。 それが、温度234度の水蒸気として漏れているならば、1気圧での体積として示すと毎秒3.9立方メートルの量である。 この毎秒3.9立方メートルの水蒸気が、炉の損傷した隙間から吹き出しているのである。 3〜6気圧の圧力は、大量の水蒸気が炉から漏れるときの「圧力損失」に相当するものであろう。 
 それは、3月23日に水の量を毎時2トンから18トンに増やしたところ圧力が高まったことからもわかる。 注水量を18トンに増やすと、発生する水蒸気量は(234度1気圧で)毎秒11.6立方メートルになる。 時間あたりに発生する水蒸気量が増えるので、水蒸気が炉から漏れときの圧力損失も大きくなってしまう。 
 現在毎時6トンまでを減らしていることは、好ましい状況ではない。 注水量を控えたことで炉内圧力が下がっただけであり、燃料棒の一部が水面上に露出していることに変わりはない。 多少の圧力増加を覚悟の上で、燃料棒の上まで水を満たすべきだと思う。 そうしないと、むき出しになっている燃料棒の部分が、更に破損していくことになる。 
 それでは、燃料棒の上まで水が満たされたことを、どのようにして知ることができるか? 
 多量の注水によって、燃料棒の上まで水が満たされて『図3-1 燃料棒・温度計測温部と水面の位置』の「中央」の状態になれば、温度計は「(水温と等しい)水蒸気の温度」を示すようになる。 その結果、「炉の圧力」と「測定した温度」の対応関係が復活する。 それにより、燃料棒の上まで水が満たされていることを知ることができる
 

(*1) 富士山頂では、水をどれだけ加熱しても、水温は90度以上にはならない。 そこでの圧力が0.7気圧であるので、100度よりも低い90度で水が沸騰してしまう。 
 逆に、圧力が高いと、加熱していくと水温が100度以上になることは、圧力鍋として実用化されている。 高性能な圧力鍋では、2.45気圧まで加圧できる。 圧力が2.45気圧のときは、128度で水が沸騰する。 
 このように、圧力が決まればそのときに沸騰している水温が、沸騰している水温が決まればそのときの圧力は、一意的に定まる。 
 たとえば、沸騰水型の原子炉圧力容器の設計最大圧力は90気圧である。 この場合には、水が沸騰する温度は304度である。 もし、圧力容器の内部の温度が304度を超えたとすると、そこでの圧力は90気圧を超えていることになり破裂などが起こり得る状態である。 
 まとめると、
表2-2 圧力と水が沸騰する温度の対応関係
圧力  沸騰温度備考
0.7気圧←→90度富士山頂
1.0気圧←→100度地上での大気圧
2.45気圧←→128度圧力鍋
90気圧←→304度原子炉圧力容器の設計最大圧力 
となる。

(*2) 「圧力が5日午前6時現在で3〜6気圧を示して・・・」とあるが、この圧力の値は要注意である。 気象関係などで使われている圧力計は、「絶対圧」と呼ばれる圧力の表し方で、真空状態が0気圧(0ヘクトパスカル)、大気圧が1気圧(1013.25ヘクトパスカル)である。 これとは違う圧力の表し方が、主として産業用に使われている。 それを、「ゲージ圧」という。 大気圧を「0気圧」とした圧力計である。 真空状態は「−1気圧」であり、高性能な圧力鍋では(絶対圧が2.45気圧であるので)ゲージ圧では「1.45気圧」まで加圧できることになる。 
 このような「ゲージ圧」という表し方が使われる理由は、たとえば、ゲージ圧が0気圧の(絶対圧では1気圧である)ガスは、ボンベのコックを開けても噴出しない。 ボンベ内のガスを絶対圧で3気圧の状態から2気圧になるまで使用した。 2気圧になったとき、ボンベに残っている有効利用できるガスの量は、3気圧のときの3分の2では、ない。 半分である。 ボンベ内にある使用可能なガスの量は、絶対圧ではなくて、ゲージ圧で示された値からわかる 
 高性能な圧力鍋を強度設計する際を考えてみる。 このとき、圧力鍋の強度は、2.45気圧ではなくて、1.45気圧に耐えられる構造でよい。 ゲージ圧で示した方が、便利である。 
 原発事故関連の記事に、圧力の値が頻繁に出てくる。 「絶対圧」で示されているか、それとも「ゲージ圧」か、『2つの圧力の示し方』があるという認識がないと、混同してしまう危険性がある。


 
福島第一原子力発電所1号機の状況

参照:http://www.nisa.meti.go.jp/earthquake/
plant.pdf 
原子炉圧力A 0.521MPa
原子炉圧力B 1.074MPa
原子炉水位A −1650mm
原子炉水位B −1650mm
原子炉水温度  − ℃
原子炉圧力容器温度
 給水ノズル温度 180.4℃
 圧力容器下部温度 116.6℃
(後略)

2011年(平成23年)4月17日(日)14:00現在
[原子力安全・保安院]福島第一原子力発電所
各プラントの状況 赤字は右記引用部分
 系統的なデータが、やっと発表された。 
 それによると、原子炉圧力A 0.521MPaであり、原子炉圧力B 1.074MPaであるという。 なお、圧力の値は、「ゲージ圧」ではなく「絶対圧」である。 0.521MPa(メガパスカル)は5.14気圧、1.074メガパスカルは10.60気圧である。 
 すなわち、
表2-3 17日14:00現在の圧力容器
場所圧力(絶対圧)その圧力と平衡状態にある水の温度
0.521メガパスカル
5.14気圧
153度
1.074メガパスカル
10.60気圧
183度
である。 
 給水ノズル温度 180.4℃が圧力容器内の水温をおおまかに反映しているとすると、この値は、圧力容器の圧力と「よい対応関係」にある。 
 保安院の発表データからは、これらがよい対応関係にあることから、「圧力容器に大きな破損はない」という結論が導き出される。

 
1号機、水たまっておらず

 1号機には作業員が原子炉建屋の内部に入り、今週、水位計や圧力計の修理を行いました。 圧力容器の水位は、これまで高さ4メートルの燃料棒が半分以上、水に浸かっている位置を示していましたが、水位計を修理したところ、実際の水位は大幅に低く、水がほとんどたまっていないことが政府関係者への取材でわかりました。 
 燃料棒がむき出しになり、空だき状態になると水素爆発の危険が高まりますが、原子炉の状態が安定していることから、燃料が溶けて圧力容器の底にたまり、かろうじて水で冷やされている可能性もあるということです。(後略)

2011年(平成23年)5月12日(木)08時51分
TBS News Web版 赤字は右記引用部分
 
1号機原子炉、ほとんど水なし 温度は安定

 福島第一原子力発電所で、1号機の原子炉圧力容器にほとんど水がたまっていないことがわかった。 原子炉の温度は安定しているということだが、「東京電力」は今後、水をためて原子炉を安定冷却させる冠水作業の見直しについても検討するという。 
 1号機ではこれまで、圧力容器の中に水を送り込んで燃料棒を冷やすと同時に、あふれた水を外側の格納容器にためることで圧力容器全体を冷やす冠水作業を進めている。 ところが11日夜、原子炉建屋内で作業員が圧力容器内の水位を正しく測り直したところ、これまで燃料棒の半分ほどたまっていると考えられていた水が、ほとんどないことがわかった。 東京電力によると、燃料棒は溶け出して形状を変えて底部にたまっている可能性があるという。 
 一方で、東京電力は「圧力容器の温度は安定しており、水を注入し続けることにより、原子炉を冷却することはできている」としており、今後も水量を増やして注水を続ける方針だという。(後略)

2011年(平成23年)5月12日(木)13時47分
日テレNEWS24 Web版 赤字は右記引用部分
 「TBS News」によると、1号機の圧力容器の水位は、これまで高さ4メートルの燃料棒が半分以上、水に浸かっている位置を示していましたが、水位計を修理したところ、実際の水位は大幅に低く、水がほとんどたまっていないという。 また、「日テレNEWS24 Web版」によると、1号機の原子炉圧力容器にほとんど水がたまっていないばかりか、東京電力によると、燃料棒は溶け出して形状を変えて底部にたまっている可能性が考えられるとしている。 
 今までの測定データが、幻のものであったということである。 
 その幻の測定データを基にした対策は、根本的に見直さなければならないだろう。 
 結局、「福島第一遠い安定 」での状況が、そのまま続いているのか。 1号機に対する対策として、多くのことをしてきたが、最大の成果は「今までの計測データが幻であったという」情報を得たことか。 この1ヶ月間の種々の情報は、何だったのか。 
 3号機での圧力容器下部の温度上昇が燃料棒の破損片による加熱であると推測していたことが、この1号機でも起こっているように思われる。 原子炉の状態が安定しているとしているが、測定データがないから安定しているように見えるだけである可能性もある。 
 信用できるものは、正しい測定データであって、担当者の希望的観測を交えた「ことば」ではない。 是非、1号機圧力容器下部の正確な温度を知りたいものである。 もし、燃料棒が溶け出して形状を変えて底部にたまっているとするならば、重大な事象が発生する可能性があるか否かを検討してみる。 
 ここで、原子炉内での「ホウ素」と「水」の役割をみよう。 
 「ホウ素」は中性子を吸収する性質がある。 核分裂反応が激しくなったので落ち着かせる必要があるとき、ホウ素を入れると中性子数が少なくなり、核分裂反応が減少する。 大量に入れると、核分裂反応を停止できる。 
 「水」は中性子の持っているエネルギーを奪ってしまう性質がある。 ウランの核分裂反応から生じるのは、速中性子と呼ばれるエネルギーの高い粒子である。 この中性子を、そのまま、ウランに当てても核分裂反応が生じる確率は、極端に小さい。 充分な量の核分裂反応を起こさすためには、エネルギーの低い熱中性子でなければならない。 水は速中性子を熱中性子に変える働きを持っている。 もし原子炉中から水がなくなれば、熱中性子が生まれないので、核分裂反応は停止してしまう。 
 さて、溶け出して形状を変えた燃料棒片が積み重なっているところを想像してみる。 
 通常の燃料棒の状態であれば、燃料棒の間に中性子吸収剤を含む制御棒を挿入することによって、核分裂反応が制御できる。 ところが、このような状態になっていると、当然ながら制御棒の挿入ができない。 このとき、ホウ素化合物を水に溶かし注入することになる。 
 熱中性子が生成するには、水が必要である。 燃料棒片の塊の周囲には水がある。 その塊は、崩壊熱で、高温になっているはずである。 塊の中に入り込んだ水は、瞬時に、水蒸気となってしまう。 その発生した水蒸気は、新たな水の浸入を妨げてしまう。 したがって、燃料棒片の塊の中に、水は存在しない。 
 結果として、ホウ素を原子炉に注入しなくても、核分裂反応が連続する臨界状態になる可能性は、ない・・・と。

 
福島原発1号機、格納容器に漏出「打つ手なし」
核燃料100%損傷か

▼再爆発はなし 
 核燃料の大半は溶融して圧力容器の下部に落ちたが、下部にたまった水に漬かることで、冷却できているとされる。 実際、圧力容器下部の表面温度は100〜120度と比較的低い 
 大阪大の宮崎慶次名誉教授(原子力工学)は「圧力容器の底の水に、溶けた燃料が落ちて微粒子化しているのではないか」とみる。 
 核燃料が冷却できていない場合、水素が発生して爆発の懸念も生じるが、宮崎名誉教授は「温度が低いのでそういう状況ではない」と、再爆発の可能性を否定している

2011年(平成23年)5月13日(金)07時56分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 圧力容器下部の表面温度は100〜120度と比較的低いということで、宮崎名誉教授は「温度が低いのでそういう状況ではない」と、再爆発の可能性を否定しているという。 
 ここで気を付けなければいけないことは、圧力容器下部の表面温度100〜120度という温度が、何によってもたらされているかということ。 前日に判明した「水位計を修理したところ、実際の水位は大幅に低く、水がほとんどたまっていない」ことを念頭に、自己加熱している燃料棒から圧力容器の壁への熱伝導をみてみる。 
(1)燃料棒がその僅かな水に浸かっているとする。 この水は、自己加熱している燃料棒により、沸騰している。 圧力容器の圧力が明示されていないが、前日の「日テレNEWS24 Web版」によるあふれた水を外側の格納容器にためているということであれば、圧力容器と格納容器の圧力はほぼ等しいことになる。 そうであれば、4気圧以下であるはず。 4気圧では水は144度で沸騰するから、この沸騰している水は144度以下であろう。 沸騰している水からそれに接している容器の壁へ熱が伝わっていく。 この熱は、圧力容器(15センチメートルほどの厚さの鋼鉄製の容器)の厚い壁を伝わって沸騰水に接していない部分へ拡散していく。 その結果として、圧力容器の厚い壁の内側から外側に向かって温度勾配ができて、圧力容器下部の表面温度100〜120度程度になることに矛盾はない。
(2)燃料棒は水に浸かっていないとする。 自己加熱している燃料棒から、輻射熱(赤外線)によって容器の壁へ伝熱している。 この場合には、容器の壁が均一に加温されているはずであるから、容器の壁を伝わっていく放熱は多くない。 その結果として、圧力容器下部の表面温度100〜120度程度になると考えても矛盾はない。 
 図2-2 燃料棒と温度分布 
 いずれの場合でも、圧力容器下部に崩れ落ちた燃料棒の温度は、100〜120度よりはかなり高いはずである。 かなり高い温度の燃料棒とそこから出ている放射線により、そこに充満している水蒸気が反応して水素が発生する可能性は、充分にあると考えられよう。 
 圧力容器下部の表面温度は100〜120度であるという値だけを見て、炉内の「温度が低いのでそういう状況ではない」と、再爆発の可能性を否定している。 しかし、自己加熱している高温の燃料棒の存在を忘れてはいけないのが科学的な論考であろう。
 
1号機冷却 作業見直し迫られる

(前略) 
 福島第一原発の1号機では、原子炉の水位が、燃料が完全に露出する位置だったことが分かり、東京電力は、12日、燃料の大半が溶けて下に落ちる、いわゆる“メルトダウン”が起きていたとみられることを明らかにしました。 
 13日午前5時の時点でも、原子炉の水位は本来の燃料の位置よりもさらに1メートル以上下にあるとみられますが、原子炉の表面温度は114.3度で、燃料は下にたまって冷えつつあるとみられます。(後略)

2011年(平成23年)5月13日(金)13時00分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 福島原発1号機の原子炉の水位は本来の燃料の位置よりもさらに1メートル以上下にあるとみられますが、原子炉の表面温度は114.3度で、燃料は下にたまって冷えつつあるとみられるというが、そんな楽観的な見方は正しいのか? 
 原子炉の表面温度は114.3度であるといっても、『図3-2 燃料棒と温度分布』に示すように、燃料棒がその温度にまで冷えているということではない。 
 たとえ圧力容器の底へメルトダウンしてしまった燃料棒部分が完全に水没しているとしても、4号機のプール中の燃料棒と同様に、ずっとずっと冷却し続けなければならない。 冷却し続けなければ、圧力容器中の水は沸騰して、空になってしまう。 
 ということは、燃料は下にたまって冷えつつあるとみられるという見立ては、完全に間違っている。 メガワットオーダーの崩壊熱が依然として発生しているので、冷えつつあることは、絶対にない。 
 この燃料は下にたまって冷えつつあるとみられるという見立ては、誰の見解か、知りたい。 
 東電か、保安院か、政府関係者か、それともNHK記者か? 
 1号機の状況は、プールの中に整然と燃料棒が並んでいる4号機の状況より、格段に悪い。 1号機は、燃料棒の残骸が、塊状になっている。 塊状になっているから、塊の外側部分は水で冷やされているとしても、内部はまったく冷却されることはない。 全体として、水による冷却がスムーズに進んでいないことになる。 水による時間あたりの熱除去の量が、時間あたりに発生する崩壊熱の量と均衡した後で、初めて冷えつつあるといえることになる。 
 均衡は、崩壊熱が減少するのを待つしかない。 
 均衡するのは、いつの日でしょうか?

 
炉心の核燃料「溶け落ちた」
福島第一 東電、透視画像を公開
 図2-3 東電福島第一原発 1号機の原子炉 
2015年(平成27年)3月20日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版7面 赤字は右記引用部分
 原子炉内部の状態が、計測によって明らかになってきた。 これまでの状況から想定してきたことが、ミュー粒子による画像として得られた。 
 今後、この原子炉下部に融け落ちた核燃料を取り出すことになるが、その核燃料は転炉の湯口から出てくる融解した鉄かそれが冷めて固まりかけたものと同じ状態であろう。 核燃料が融けていたら、それを引き上げるために、ハサミ状の機械で掴んでも大部分は漏れ落ちてしまう。 掴んだものを引き上げてきても、あたかも柔らかな餅が冷え固まってしまったように、機械に絡まっている核燃料を取り除くことは困難になる。 高い放射能をもつ核燃料を・・・。 もし固まりかけた状態であるならば、複雑な形状になってしまった核燃料をそのままの状態で引き上げることはできない。 適当な大きさに、切り分ける必要がある。 そのような作業を、高温・高放射能下の現場で、遠隔操作によっておこなう方法は・・・。

 
福島第一 溶け落ちた核燃料回収
工法決定、1年先送り
廃炉工程改訂
 図2-4 福島第一原発の廃炉工程表の主な見直し点 

 国と東京電力がつくる福島第一原発の廃炉の工程表が26日、2年ぶりに改訂され、1,2号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出し開始は3年遅れになった。 原子炉格納容器内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しについても、具体的な工法の決定時期を1年遅らせて2019年度と改めた。 デブリの取り出しにはより詳しい炉内の情報が必要として、東電は年内にも2号機の格納容器内を再調査する考えを示した。(中略) 
 今年に入り、メルトダウン(炉心溶融)を起こした1〜3号機の格納容器内のロボット調査が進んだ。 だが、デブリが飛び散った範囲やその規模はつかめていない。 こうした状況から、1〜3号機のどれから最初に取り出しを始めるかの判断や、その具体的な工法の決定には情報が足りないとみて、決定時期を前回改定時の18年上半期から19年度に遅らせた 21年内に1〜3号機のどれかでデブリの取り出しを始めるとする目標は変えなかった。(後略)【 川原千夏子 】

2017年(平成29年)9月27日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面(総合3) 赤字は右記引用部分
 1,2号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出し開始は3年遅れになるという。 
 さらに、核燃料(デブリ)の取り出しについても、具体的な工法の決定時期を1年遅らせて2019年度と改めたのは、1〜3号機の格納容器内のロボット調査が進んだデブリが飛び散った範囲やその規模はつかめていないからであるという。 
 前半の1,2号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出しについて、みてみると・・・。 プール上部の構造物の破壊落下により、取り出しの際の障害物になっている可能性はある。 しかし、プール内の状況の観察は、容易である。 事故前の状況と比較することで、プール内の変化を確認できる。 それによって、その取り出し方を工夫できるはずである。 それでも困難なこととして、取り出し用のクレーンなどの機器の設置が考えられる。 放射線量の高い区域での作業や、構造的に弱くなってしまった建物部分への据え置きなど、工夫が必要な工程はあるだろう。 しかし、全般的に、技術的な問題はないと思われる。 そうであっても、開始は3年遅れになるという。 
 後半は、デブリが飛び散った範囲やその規模はつかめていないということから、使用済み燃料プールからの核燃料取り出しとは比べられないほどの困難さがあるだろう。 核燃料(デブリ)の取り出しについては、使用済み燃料プールからの核燃料取り出し開始は3年遅れということよりも、更に多くの年月が必要になるはずである。 核燃料(デブリ)の取り出し決定時期を1年遅らせて2019年度と改める程度では、解決しないと思っている。 使用済み燃料プールの工事でも開始は3年遅れになるということからみても、2019年度での核燃料(デブリ)の取り出しについて具体的な工法の決定は、無理であるとみられる。 
 使用済み燃料プールからの核燃料取り出しが2023年度になるのに対して、核燃料(デブリ)の取り出しが早い炉で前者よりも2年早い2021年度に始まるという点は、理解し難い。
 

(3)格納容器(1号機)は壊れていない!
 
窒素ガス注入 順調に進む

(前略) 
 冷却水の水位が上がらず、燃料棒が半分近く露出した状態が続いている福島第一原発1号機の原子炉格納容器には、大量の水素と酸素がたまっているとみられていて、東京電力は、水素が酸素と反応して爆発する危険をあらかじめ避けるため、7日午前1時半すぎから化学的に安定した窒素ガスの注入を始めました。 
 その結果、格納容器の圧力は、7日午前6時の時点1.55気圧と、6日の同じ時間に比べて0.05気圧、僅かに上昇したことが分かりました。 
 これについて、東京電力は「格納容器への窒素ガスの注入が順調に進み、圧力が上昇したとみられる」と話しています。 
 東京電力によりますと、窒素ガスの注入はこのあと6日間程度続けられるということで、今後、2号機や3号機の格納容器への注入も検討するということです。(後略)

2011年(平成23年)4月7日(木)12時23分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 今回の格納容器への窒素ガス注入の機会を利用して、格納容器の状態を推測してみる。 もし、破損している部分があれば、注入された窒素ガスが破損部分から漏れてしまう。 そのときは、窒素ガス注入による格納容器の圧力増加が、計算された値よりも小さいものになるはずである。 
 格納容器の体積が6000立方メートルで、注入する窒素ガス全体の体積も同じ6000立方メートルである(この項、2011年(平成23年)4月7日(木)朝日新聞(名古屋)夕刊3版1面 「窒素注入始める」より) 
 7日午前1時半すぎから化学的に安定した窒素ガスの注入を始めて、7日午前6時の時点までに注入した窒素ガスの量を推定すると、6日間程度続けられるということから同じ流量で注入していくと仮定すると、188立方メートルとなる。 この量を圧力に換算すると、0.031気圧である。 実際には、1.55気圧と、6日の同じ時間に比べて0.05気圧、僅かに上昇したのである。 
 また、同日12時では、438立方メートルとなり、この量を圧力に換算すると、0.073気圧である。 実際には、格納容器の圧力が1.65気圧(この項、2011年(平成23年)4月7日(木)NHK「ニュース7」より)まで上昇したということから、増加分は0.15気圧である。
表3-1 計算上の圧力増加と実際の圧力増加の比較
時点計算上の圧力増加実際の圧力増加
4月7日午前6時0.031気圧0.05気圧
4月7日午前12時0.073気圧0.15気圧
 計算値よりも大きな値となったのは、入れ始めたときの格納容器の圧力が低くて注入し易いということと、初期の段階でできるだけ多くの窒素ガスを入れてしまおうということで、平均的な流量を上まわった窒素ガス注入がおこなわれたのであろうか。 
 午前6時や12時の時点での報道データからは、注入した窒素ガス量に従って容器内の圧力が順調に増加していると思われる。 ということで、この格納容器は破損していないと思われる。。
 
窒素ガス注入“順調 推移見守る”

(前略) 
 冷却水の水位が上がらず、燃料棒が半分近く露出した状態が続いている福島第一原発1号機の原子炉格納容器には、大量の水素と酸素がたまっているとみられていて、東京電力は、水素が酸素と反応して爆発する危険をあらかじめ避けるため、7日午前1時半すぎから化学的に安定した窒素ガスの注入を始めました。 
 7日午後5時までに、413立方メートルの窒素ガスを注入した結果、格納容器の圧力は、1.76気圧と、窒素を注入する直前と比べて0.2気圧、上昇しています。 
 これについて東京電力は、窒素ガスの注入は、順調に進んでいるとして、引き続き圧力の推移を見守りながら窒素ガスを6000立方メートル入れるか、圧力が1気圧上がるまで注入を続けるとしています。 
 窒素ガスの注入は、6日間程度続けられるということで (後略)

2011年(平成23年)4月7日(木)20時48分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 7日夜のNHK Webニュースによると、7日午後5時までに、413立方メートルの窒素ガスを注入した結果、格納容器の圧力は、1.76気圧と、窒素を注入する直前と比べて0.2気圧、上昇したという。 
 注入した窒素ガス量と圧力の増加量から、格納容器の気体部分の体積(全体積から、液体や固体部分の体積を除いたもの)が推定できる。 その結果は、2100立方メートルとなる。 また、窒素ガスの1時間あたりの平均注入量は、毎時26.6立方メートルである。 その推定結果を使って、上の表を再計算すると、
表3-2 再計算した計算上の圧力増加と実際の圧力増加の比較
時点計算上の圧力増加実際の圧力増加
4月7日午前6時0.057気圧0.05気圧
4月7日午前12時0.133気圧0.15気圧
 再計算の結果からも、この格納容器は破損しているとは認められない 
 ただ、格納容器の体積は6000立方メートルであるとされているのに、気体部分の体積が推定2100立方メートル程度と約1/3になっていることは、衝撃など何かあったときの緩衝性が劣化していることになる。 衝撃による圧力の増加が、容器全体が(気体だけが占めている)空間であるときと比べると、3倍にもなることが予想されるから。 2/3を占める体積の大部分が水であれば、その水を(たとえ高濃度の放射性物質が含まれているとしても)抜き出すことが、将来的に可能性がある危機的な状況を回避するための緊急の課題となろう。
 
福島第一原発 冷却などの作業継続

(前略) 
 このため、1号機から3号機では、原子炉を冷やすため、仮設のポンプで応急的に水を入れる作業が継続して行われました。 
 水素爆発の危険をあらかじめ避けるため、1号機で行われている、原子炉を覆う格納容器に窒素ガスを注入する作業も、地震による影響はないということです。 
 格納容器の圧力は、作業を開始する前に比べて、8日午後1時までに0.35気圧上昇していて、東京電力は窒素ガスの注入は順調に進んでいるとして、作業を続けています。(後略)

2011年(平成23年)4月8日(金)19時40分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 8日夜のNHK Webニュースによると、格納容器の圧力は、作業を開始する前に比べて、8日午後1時までに0.35気圧上昇したという。 
 前日のデータから得られた格納容器の気体部分の推定体積である2100立方メートルと、窒素ガス1時間あたりの平均注入量である毎時26.6立方メートルを使って、計算した結果を示す。
表3-3 8日現在の計算上の圧力増加と実際の圧力増加の比較
時点計算上の圧力増加実際の圧力増加
4月8日午後1時0.450気圧0.35気圧
 計算結果は、実際の圧力増加が鈍ってきていることを示している。 
 この原因として、昨夜の余震による影響で、窒素ガス注入が遅滞したことが考えられる。 ただ、注入時間にして8時間分となり、原子炉を覆う格納容器に窒素ガスを注入する作業も、地震による影響はないということなので、これが原因とは考え難い。 
 それとも、格納容器の圧力が高くなってきている(注入開始時は約1.5気圧で、現時点では約1.9気圧)ので、窒素ガスの注入速度が遅くなってきているのであろうか。 
 または、格納容器の圧力が高くなったことにより、格納容器からの気体の漏出が、表面化してきたのであろうか。

 
福島第1原発:1号機の格納容器圧力
窒素注入前の水準に

(前略) 
 窒素注入は、化学的に安定で燃えない窒素を格納容器内に入れ、水素の濃度を下げる目的で今月6日から始まった。 
 当初、格納容器内の圧力を2.5気圧に高めることを目標にしていた。 しかし、注入前の1.56気圧が11日の1.95気圧で頭打ちとなり、24日正午には注入前とほぼ同じ1.58気圧に下がった。 注入量は予定の6000立方メートルの2倍近い約1万1350立方メートルに達している。 
 東電は、燃料を冷却するための注水で発生した水蒸気が格納容器に移動して水になり、底にたまると同時に圧力低下を招いたと分析する。 圧力が想定通りに上がらないのは、格納容器から窒素が漏れているためとみており「窒素注入をやめれば水素の割合が高まり、爆発のリスクが増える。窒素注入は継続する」と話す。【 江口一、藤野基文 】

2011年(平成23年)4月25日(月)11時05分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 窒素を注入しているにもかかわらず圧力が下がってしまった理由を、東電は、燃料を冷却するための注水で発生した水蒸気が格納容器に移動して水になり、底にたまると同時に圧力低下を招いたと分析している。 
 その理由説明で問題なのは、圧力容器内にある燃料を冷却するために注水しているが、注水することで発生した水蒸気が圧力容器から格納容器に移動して水になり、底にたまると同時に圧力低下を招くことが原因であるとしている点だ。 
 ある容器に存在している水蒸気が凝結して水になれば、体積が減少して圧力低下が生じる。 たとえば、「水を入れた容器を加熱した直後にその容器を密閉して、冷やす。 すると、容器の底に凝縮した水が溜まるとともに、容器内の圧力が下がって容器が潰れてしまう」という理科実験がある。 この現象を、格納容器の圧力減少に適用して説明できるとするのは、「科学音痴」といわれても仕方がない。 
 格納容器に窒素ガスを注入すれば、注入した量に応じて圧力が上がる。 たとえば、1.56気圧の状態で、格納容器と同じ体積の窒素ガスを注入すると、圧力は2.56気圧になる。 
 さらに、この状態で水蒸気が圧力容器から漏れ出してくれば、格納容器に水蒸気が加わって2.56気圧を超える圧力に上がってしまうはずである。 
 ここで、その水蒸気が凝結して水になり、底にたまると圧力はどうなるか? 
 答えは2.56気圧まで下がるが、それ以下にはならない(*1) 
 したがって、窒素注入によって上昇した圧力が、発生した水蒸気が格納容器に移動して水になり、底にたまると同時に圧力低下を招くことが原因となることは、絶対に起こりえない。 注入前の1.56気圧が11日の1.95気圧で頭打ちとなり、24日正午には注入前とほぼ同じ1.58気圧に下がったことは、この容器に穴があいていることを示している。 1.95気圧で頭打ちとなったのは、窒素の「注入量」と、高い圧力になったことで増加した穴からの「漏出量」がバランスしているからである。 また、注入前とほぼ同じ1.58気圧に下がっってしまったのは、この容器の穴から徐々に漏れ出していることを示している。 
 東電がこのような見解を述べているとすれば、その程度の知識を持った責任者が主導している東電の原発の対応策は、まったく信用できない。 
 この事例の正解は後段に書いてあり、「圧力が想定通りに上がらないのは、格納容器から窒素が漏れているから」である。 これ以外に原因説明は、できない。 この記事は、前半の誤りを鵜呑みにしたまま、正しい事とをごちゃ混ぜにして書いているようだ。
 

(*1) 圧力容器から水蒸気が格納容器に漏れだしているので、2.56気圧にその水蒸気の圧力分が加わるはずではないかとの疑問が生じる。 水蒸気圧を知れば、その疑問は氷解する。 
 格納容器の温度が、80℃であるとする。 80℃での水蒸気圧は、0.47気圧(475ヘクトパスカル)である。 窒素ガスを入れる前の1.56気圧の内訳は、「空気が1.09気圧」で「水蒸気が0.47気圧」である。 窒素ガスの1気圧相当分を入れた後では、「追加した窒素ガスを含めた空気が2.09気圧」で「水蒸気が0.47気圧」となる。 この状態に、更に、水蒸気が加わったとしても、水蒸気の圧力は「0.47気圧」のままで変化しない。 0.47気圧を超える分の水蒸気は、気体として存在できないので、凝縮して水になってしまう。 「水蒸気」の圧力は常に一定である。 なお、「追加した窒素ガスを含めた空気」の圧力は、容器に漏れがないとすると、変化しない。


 
1号機 注水量増加で温度低下傾向続く

(前略) 
 福島第一原発の1号機では、ことし7月までに格納容器を燃料の高さまで水で満たして原子炉の冷却を進める計画で、これに先立って、東京電力は、27日午前10時すぎから原子炉への注水量を1時間当たり6トンから10トンに試験的に増やして効果を確認するとともに、水で満たしても問題がないか検証を進めています。 
 28日午前11時の時点では、原子炉の上部の温度が106.6度と、注水量を増やす前より25.4度下がったほか、格納容器の内部の圧力は1.2気圧と、0.36気圧下がりました。 
 圧力が1気圧を下回ると、外から酸素が入り込み水素と反応して爆発が起きる懸念も出てくることから、東京電力は、爆発を防ぐための窒素の注入を続けて圧力の変化を注意深く見ながら、現在の注水量を維持するかどうか判断したいとしています。(後略)

2011年(平成23年)4月28日(木)18時25分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 28日午前11時の時点では、原子炉の上部の温度が106.6度と、注水量を増やす前より25.4度下がったほか、格納容器の内部の圧力は1.2気圧と、0.36気圧下がったという。 これをまとめると、
表3-4 温度と圧力の変化
時点温度圧力
注水を増やす前132.0度1.56気圧
現時点(28日午前11時106.6度1.2気圧
となる。 注水を増やす前の温度と圧力は、原子炉の上部の温度が106.6度と、注水量を増やす前より25.4度下がったことと、格納容器の内部の圧力は1.2気圧と、0.36気圧下がったことからの計算値である。
 水温とそれと平衡状態にある水蒸気圧をしめすと、
表3-5 水温とそれと平衡状態にある水蒸気圧(太字の数値は実測値、細字は計算値)
水温その水温で平衡状態
にある水蒸気圧
備考
注水を増やす前 113度 ←→1.56気圧バランスが取れていない
(平衡状態ではない)
132.0度←→ 2.83気圧

現時点
28日午前11時
105.2度 ←→1.2気圧水温と圧力との関係が
平衡状態であることを
示している
106.6度←→ 1.26気圧
である。
 注水を増やす前では、格納容器の温度と圧力とのバランスが取れていない(132度の値が格納容器内の水温を示しているならば、そのときの格納容器の圧力は2.83気圧でなければならない)ので、この温度は水温ではない。
 それが、現時点では、格納容器の温度と圧力とのバランスが取れてきた。 格納容器の圧力が1.2気圧であれば、それと平衡状態にある水温は105.2度である。 温度計の指示は106.6度であるから、温度差にして、1度程度である。 
 温度計測温部が格納容器の上部にあることを考慮して、これらの測定データを考えてみる。 
 注水を増やす前では、温度計の測温部が、加熱されている圧力容器からの輻射熱(赤外線)を受けた。 そのため、格納容器中の水蒸気の温度よりも高い値を示すことになった。 注水を増やしたことで、圧力容器の加熱されている部分にも水が撥ね掛かるようになった。 そのため、圧力容器からの輻射熱(赤外線)が激減し、水蒸気の温度を示すようになった。 細かいことを言うと、実測値が予想されたものよりも1度少々高いのは、少しだけ残っている輻射熱(赤外線)のためである・・・と。 
 これは、水温に対応する圧力になっている(平衡状態になっている)ことを示すだけで、格納容器に損傷があるかどうかとは別問題である。 格納容器からの水蒸気の漏れよりも、その容器内で発生できる水蒸気量が多ければ、平衡に近い状態を保つことができるから。
 

(4)地震で揺れる1号機圧力容器内部
 
汚染水除去 窒素注入作業続く

(前略) 
 1号機では、水素爆発の危険をあらかじめ避けるため原子炉格納容器に窒素ガスを注入する作業が行われています。 
 1号機では、地震の前の7日午後7時に223.3度だった原子炉の表面温度が地震直後に40度近く上昇し、8日午後1時の時点では246.6度になっています。 
 温度が上がった原因は今のところ、よく分かっておらず、東京電力は注意深く監視しながら窒素ガスの注入を続けることにしています。

2011年(平成23年)4月9日(土)04時45分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 
2号機の汚染水 復水器へ作業

(前略) 
 1号機では、水素爆発の危険をあらかじめ避けるため、格納容器に窒素ガスを注入する作業が行われています。 
 窒素注入後の7日の地震直後に一時、40度近く上昇した原子炉の表面温度は、10日午前10時には227.1度とほぼ地震前の値に戻り、格納容器の圧力も緩やかな上昇で、東京電力は注意深く監視をしながら注入を続けています。

2011年(平成23年)4月10日(日)19時45分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 地震の前の7日午後7時に223.3度だった原子炉の表面温度が地震直後に40度近く上昇し、8日午後1時の時点では246.6度になった。 その後、10日午前10時には227.1度とほぼ地震前の値に戻ったという。 
 地震は平成23年4月7日23時32分に発生した。 その地震直後に40度近く上昇して、おおよそ263度(+40度)になった。 地震後約13.5時間後に246.6度(+23.3度)に、それから45時間後に227.1度(+3.8度)になった。 
 大雑把に見れば、地震直後に40度近く上昇し、その半日後に上昇分の半分ほどに戻り、その2日半後にほぼ元の温度になっている。 
 先ず、地震直後の40度近い温度上昇を考えてみる。 圧力容器に使われている鋼材はマンガンーモリブデン鋼のA533Bであるがその物性値が不明であるので、シュラウドに使われている「SUS316」のデータを用いることにする。 その鋼材の密度は7.98×10kg、熱容量は0.50kJ/kg・Kである。 圧力容器(円筒径6.4メートル、上下端は半球状、厚さ16センチメートル)の表面積は440平方メートルである。 圧力容器の外壁の温度が40度上昇するには、この容器1平方メートルあたり2.6×10 ジュールの熱が必要である。 この1号機の崩壊熱は、5メガワット程度と推定されているので、容器1平方メートル分の加温には約5秒間の発熱量で賄えられる(*1) 
 これが、圧力容器の外壁全体だとすると、2200秒(約37分)分の発熱量に相当する。 それ以前から5メガワットの崩壊熱で暖められているので、それに加えて2200秒分の余分の発熱が生じたとは、考え難い。 結果として、地震直後に40度近く上昇したのは、温度計が設置されている部分を含む狭い範囲でなければならない。 
 223.3度というかなり高い温度が、圧力容器内にある水の温度ではないことは、「1号機(福島第一原発)の圧力容器 」で示した。 自己発熱している燃料棒の一部は、水面から頭を出している(下図左側)。 この状態で、狭い範囲の圧力容器外壁が地震直後に40度近く上昇するためには、水面から頭を出している自己発熱している燃料棒の一部が、地震によって、外壁に倒れ掛かった(下図中央)と考えられる。 「発熱している燃料棒」と「外壁」が直接接触することで、短時間に、熱を伝えられた(*2) と説明できる。 
 図4-1 燃料棒の崩壊による圧力容器壁の温度変化 
 その後、傾いて倒れ掛かっている燃料棒は、圧力容器の壁との隙間に籠もった自己発熱の熱で、壁に接した部分が溶けて次第に崩れ落ちていく(*3)上図右側に示すように、燃料棒と壁とが接した部分にある程度の隙間ができるまで、燃料棒は崩れ落ち続ける。 充分な隙間ができると熱の発散する余地が多くなり、崩れ落ちている部分の温度が下がり、燃料棒の破損はとまる。 この時点で外壁は、発熱源との間に空間が生じてしまったので、固体同士の接触に比べてあまりにも熱伝導のよくない気体を介して熱が供給されることになる。 燃料棒からの熱供給は激減してしまう。 それによって、8日午後1時の時点では246.6度まで、降温することになる。 この状態は、原子炉の熱的環境の観点で見れば地震前と同じであるので、地震の2日半後の10日午前10時には227.1度とほぼ地震前の値に戻ったことも無理なく納得できる。 
 まとめると、地震発生に伴い、自己発熱している燃料棒の一部が外壁に倒れ掛かかり(上図中央)、その結果、原子炉の表面温度が40度近く上昇した。 燃料棒と壁とが接した部分で燃料棒は崩れ落ちて、ある程度の隙間ができる(上図右側)。 それによって、燃料棒から壁への熱伝導が減少し、8日午後1時の時点では246.6度に10日午前10時には227.1度とほぼ地震前の値に戻ったというスキームである。 
 これが、平成23年4月7日23時32分の地震発生から10日午前10時に圧力容器の外壁の温度がほぼ地震前の値に戻るまでの、データから導かれる確度の高い「福島第一原発1号機の圧力容器内部」の変遷である。
 

(*1) 40度の昇温が、「5秒間」で起こったという意味ではない。 昇温が生じた面積が不明であるし、燃料棒のすべての発熱がこの場所に集中している訳ではないから。 ただ、圧力容器の限られた部分が加熱されたときに、数十秒なり、数百秒のオーダーで、この昇温が起こり得ることを示すことが目的である。

(*2) 「発熱している燃料棒」と「外壁」とが接触していれば固体を伝わる熱の移動であり、その間に隙間があると熱の伝導は空気などの気体を介するものである。 鉄の熱伝導率は83.5W/m・Kで、鋼であるSUS316のそれは16.7W/m・Kである。 空気の熱伝導率は0.024W/m・Kであり、鉄や鋼に比べると格段に小さい。 固体を伝わる熱伝導は、空気などの気体を介するものに比べると、数百倍以上である。

(*3) 「発熱している燃料棒」と「外壁」とが接触している部分の温度と、「温度計測温部」とが、同じ温度であるということではない。 40度の昇温が生じたのは「温度計測温部」での温度である。 圧力容器はおおよそ15センチメートル厚さの鋼板でできているので、「発熱している燃料棒」が接触している部分の熱は、この鋼板中を拡散していく。 接触している部分から離れたところでは、容器内に溜まっている水によって冷やされてしまう。 その結果、温度計測温部での温度は、燃料棒が接触している部分のそれと比べると、かなり低くなる。 
 したがって、「温度計の読みで40度程度の昇温であったということから、圧力容器内部での温度の分布に極端に高温な部分は存在していない」ということを証明している証拠とはならない。

 

(5)「メガ」と「ナノ」の単位系
 
事故評価 最悪のレベル7へ

(前略) 
 レベル7は、25年前の1986年に旧ソビエトで起きたチェルノブイリ原発事故と同じ評価になります。 
レベルが引き上げられる背景には、福島第一原発でこれまでに放出された放射性物質の量が、レベル7の基準に至ったためとみられますが、放射性のヨウ素131を、数十から数百京(けい)ベクレル放出したというチェルノブイリ原発事故に比べ、福島第一原発の放出量は少ないとされています。 原子力安全・保安院は、12日、原子力安全委員会とともに記者会見し、評価の内容を公表することにしています。

2011年(平成23年)4月12日(火)05時40分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 「京」という「数の単位」が、放射性のヨウ素131を数十から数百京(けい)ベクレルも撒き散らしたというチェルノブイリ原発事故についての記述の中で取り上げれれている。 
 「京」は1016 を表し、一、十、百、千、万、億、兆、京、垓・・・と続く漢字文化圏での数の単位である。 
 科学的な数量を扱うときには、国際単位系(SI)における「接頭辞」として、k(キロ、10)、M(メガ、10)、G(ギガ、10)、T(テラ、1012)、P(ペタ、1015)、E(エクサ、1018)・・・がある。 
 さて、「100京ベクレル」と「1エクサベクレル」は同じ量である。 どちらを使っても良いように思える。 しかし、数の単位が、キロ(k)や、ミリ(m)、マイクロ(μ)などのSI単位接頭辞と混在していると、頭が混乱してしまう。 万、億、兆、京、垓・・・は一万倍ごとの数の単位、k、M、G、T、P、E・・・は千倍ごとの接頭辞であるので、容易に換算できない。 
 とはいっても、ある発電所の発電量が100万キロワットなどと、数の単位の「万」と接頭辞の「キロ」が仲良く混在していることもある。 1000メガワットとか1ギガワットと言い換えてもよいが、慣れなのか何かしっくりこない。 
 日本語は漢字と仮名が渾然一体となって表記されているように、数の単位と接頭辞が混在して使用されていくことになるのだろうか。
 
福島第1原発 最悪レベル7 チェルノブイリに並ぶ

(前略) 
 史上最悪の原発事故と言われた86年のチェルノブイリ原発事故(旧ソ連)と同じレベルに並んだが、経済産業省原子力安全・保安院によると、放出量は同事故の約10分の1とみられるという。 
 チェルノブイリ事故で放出された放射性物質の総量は520万テラベクレル(ベクレルは放射線を出す能力の強さ、テラは1兆倍)。 これに対し、今回の事故で空気中に放出された放射性物質の量を、保安院は37万テラベクレル、内閣府原子力安全委員会は63万テラベクレルと推定している。 
 INESは、国際原子力機関(IAEA)が定めた世界共通の尺度。 0〜7までの8段階で評価する。数値が大きいほど深刻さを増す。 INESでは、数万テラベクレル相当の放射性物質の外部放出がある場合をレベル7と定めている。 
 安全委員会は11日、福島第1原発事故について、発生当初から数時間、1時間当たり最大1万テラベクレルの放射性物質を放出していたとの見解を示した。(後略)

2011年(平成23年)4月12日(火)11時45分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 ところが、毎日新聞では、チェルノブイリ事故で放出された放射性物質の総量は520万テラベクレル(ベクレルは放射線を出す能力の強さ、テラは1兆倍)であるとしている。 
 SI単位の接頭辞を使っているが、ただ、「テラ」接頭辞では小さすぎて「万」という数の単位が必要になってしまう。 五十歩百歩の感を免れない。 
 ここでは「エクサ」を使って欲しいところ(5.2エクサベクレルになる)だが、後段の1時間当たり最大1万テラベクレルの放射性物質を含めて考えると、「ペタ」が適当。 520万テラベクレルは「5200ペタベクレル」に、1万テラベクレルは「10ペタベクレル」になる。
 
地表の放射能 拡散せず

 1986年、ウクライナのチェルノブイリ原発で起きた事故では、炉心が直接大気に露出し、約10日間、大量の放射性物質の放出が続いた。 総計11エクサベクレル(エクサは10の18乗、約3億キュリー)。 
 当局は「1平方キロあたり15キュリー以上」(1平方メートルあたり55.5万ベクレル)の汚染地から住民を強制疎開させた。 主にセシウムの汚染だ。 旧ソ連の汚染は「面積あたり」で示すが、日本は表面から一定の深さの土を採取し、「土の重さあたり」で示すので直接の比較は難しい。(後略)

2011年(平成23年)4月13日(水)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版5面 赤字は右記引用部分
 朝日新聞の「環境面」では、ウクライナのチェルノブイリ原発で起きた事故では、炉心が直接大気に露出し、約10日間、大量の放射性物質の放出が続いた。 総計11エクサベクレルの放射性物質が放出されたと、「エクサ」接頭辞で表している。 
 さすが、科学部出身の編集委員の記事。 と、思って読んでいったら、「1平方キロあたり15キュリー以上」(1平方メートルあたり55.5万ベクレル)の汚染地と「万」の表記、まあ、仕方ないか。 555キロベクレルと書いても、頭の中で換算しなきゃならないし・・・。

[蛇足] 
 単位をそろえると、各メディアで報じている放出量の不ぞろいが明瞭になる。
表5-1 チェルノブイリ原発事故での放射性物質の放出量
NHK数十から数百京(けい)ベクレル数百〜数千ペタベクレル
毎日新聞520万テラベクレル5200ペタベクレル
朝日新聞11エクサベクレル11000ペタベクレル
 

(6)3号機の異常昇温
 
3号機圧力容器の温度急上昇

 経済産業省原子力安全・保安院は14日、東京電力福島第1原発3号機で、原子炉圧力容器の本体とふたの接続部付近の温度が急上昇したとのデータがあり、原因を調べていると発表した。 他の部分で変化はなく、東電は「計器の故障が疑われる」としている 
 保安院と東電によると、圧力容器の本体部分と上ぶたの接続部の密閉材料「シール」で、12日は170度だったのが14日には250度に。 接続部直下の本体部分も12日の144度が、14日には165度を示した。 
 保安院は「原因は不明」と説明。接続部の設計温度は約300度で、ただちに危険な温度ではないとした。 
 一方、東電は14日、第1原発の原子炉建屋について、現在の耐震安全性を評価するための検討作業に入った。 建屋は3月11日の東日本大震災で強い揺れや津波に襲われ、その後の水素爆発や火災で損壊。 相次ぐ余震の影響も懸念されている。(後略)

2011年(平成23年)4月14日(木)
中国新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 東京電力福島第1原発3号機で、原子炉圧力容器の本体とふたの接続部付近の温度が急上昇する変化が生じてきた。 この変化を東電は「計器の故障が疑われる」としているが、少し検討してみる。 
 圧力容器の本体部分と上ぶたの接続部の密閉材料「シール」で、12日は170度だったのが14日には250度に、接続部直下の本体部分も12日の144度が、14日には165度に昇温している。 
 圧力容器底部の温度も含めて、まとめると、
表6-1 圧力容器各部の温度
時点圧力容器底部接続部直下の本体部分「シール」の位置
4月12日100度超?144度170度
4月14日100度超?165度250度
ここで、圧力容器底部の温度は、この部分には「水」が満たされているはずであるから、100度を少し超える温度であると推定できる。 なぜならば、3号機の圧力容器の圧力は、ほぼ大気圧とされているから。 もし2気圧であるとしても、121度である。 
 表を左から右に見ていくと、圧力容器底部から接続部直下の本体部分を経て「シール」の位置に至る温度が、12日でも14日でも、上昇する傾向がほぼ同じである。 この結果から、これらの温度計の指示に異常はないように思われる。 
 温度計の指示に異常はないとして、この温度分布の説明を試みると、 
(1)圧力容器底部の壁は100度を少し超える温度 
 圧力容器底部には水があり、その場所の壁部分は水と接触している。 この水は、100度を少し超える温度である。 したがって、圧力容器底部の壁は、100度を少し超える水の温度と同じである。 
(2)輻射熱(赤外線)で圧力容器の壁が一様に加熱 
 崩壊熱によって自己過熱している燃料棒が水から頭を出している。 これからの輻射熱(赤外線)によって、水に浸かっていない圧力容器の壁部分が一様に加熱されている。 
(3)圧力容器壁に温度分布 
 厚さ16センチメートル程度の圧力容器壁は、熱伝導により温度分布が生じている。 
(4)圧力容器の底部から上部に向かって徐々に高温 
 水に浸かっている圧力容器底部の壁部分の100度を少し超える温度から、熱気の上昇にともなって、上部に向かうほどに高温になっている。 
ということである。 
 この説明の正否は、上記の温度分布が「圧力容器の詳細な構造」と「容器材料の熱伝導率」などから得られた値と、どの程度一致するかどうかで検証できる。 筆者は、残念ながらこれらのデータを持っていないので、これ以上の解説はできない。 
 このスキームが正しいとすると、燃料棒の加熱状態が、この2日間でより激しくなっていることが推定される。 それは、燃料棒を浸している水の量の減少により、水から頭を出している燃料棒部分が増えているからと考えることもできる。

[蛇足]
 原子炉圧力容器の最大設計圧力は90気圧である。 これは、圧力容器に304度の水が満たされているときの圧力である。 
 保安院が接続部の設計温度は約300度で、ただちに危険な温度ではないとしている「約300度」は、多分、この「304度」を指しているものであろう。 14日には250度と、約300度よりも低い温度に注目して、「安全性」を論じているように思われる。 実際には、圧力が90気圧以下であることが、「安全性」のキーポイントであるはず。 圧力容器の最大圧力は、当然、接続部の耐圧においても、満たしていなければならない値であるから。 しかし、接続部が約300度以上になったとしても、それが水温ではないとすると、圧力容器内の圧力は90気圧よりもかなり低いはずで、まったく危険ではないことは明らかである。 この場合は、「シール」材料の耐熱温度を超えた時点で、危険な状況となる。
 
溶融燃料「粒子状、冷えて蓄積」1〜3号機分析

 注水冷却が続けられている東京電力福島第一原子力発電所1〜3号機について、日本原子力学会の原子力安全調査専門委員会は14日、原子炉などの現状を分析した結果をまとめた。(中略) 
 それによると、圧力容器内の燃料棒は、3号機では冷却水で冠水しているが、1、2号機は一部が露出している。(後略)

2011年(平成23年)4月14日(木)22時44分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 日本原子力学会の原子力安全調査専門委員会は圧力容器内の燃料棒は、3号機では冷却水で冠水しているとしている。 
 しかし、3号機では冷却水が燃料棒を覆っているのであれば、圧力容器の本体部分と上ぶたの接続部の密閉材料「シール」で、12日は170度だったのが14日には250度」になっているという計測値と矛盾が生じる。 
(1)170度や250度の高温は、加熱している物体からの輻射熱(赤外線)の影響 
 圧力容器の本体部分と上ぶたの接続部の密閉材料「シール」部分が、170度とか250度とかの温度になっている原因は、加熱している物体からの輻射熱(赤外線)を受けているからであろう。 
(2)加熱している物体とは、崩壊熱で自己加熱している燃料棒 
 高い温度(250度を大きく超える温度)になっている物体としては、圧力容器の下部にあると見られている崩壊熱によって加熱している燃料棒しか考えられない。 
(3)水は、輻射熱(赤外線)を遮蔽 
 輻射熱(赤外線)は、水により大部分が吸収されてしまう。 輻射熱(赤外線)が水を通って別のものを暖めることはない。 
(4)冷却水の温度は、100度を少し超える程度 
 圧力容器の圧力は低いと思われる。 もし2気圧であるとしても、その水温は121度である。 よって、水温は100度かそれを少し超える程度であろう。 
 これらのことから、3号機の燃料棒が冷却水中に沈んでいるならば、自己加熱している燃料棒からの輻射熱(赤外線)は冷却水で遮られてしまうので、圧力容器壁がこれによって高温になることは、ない。 圧力容器壁の温度は、冷却水の温度である100度を少し超える程度にしかならない。 
 結論として、圧力容器内の燃料棒は、3号機では冷却水で冠水しているとする見解には、矛盾する所があるように思われる。

 
福島第一原子力発電所3号機の状況

参照:http://www.nisa.meti.go.jp/earthquake/
plant.pdf 
原子炉圧力A 0.071MPa 
原子炉圧力B 0.018MPa 
原子炉水位A −1800mm 
原子炉水位B −2250mm 
原子炉水温度  − ℃ 
原子炉圧力容器温度 
 給水ノズル温度 90.7℃ 
 圧力容器下部温度 121.7℃ 
(後略)

2011年(平成23年)4月17日(日)14:00現在
[原子力安全・保安院]福島第一原子力発電所
各プラントの状況 赤字は右記引用部分
 系統的なデータが、やっと発表された。 
 それによると、原子炉圧力A 0.071MPaであり、原子炉圧力B 0.018MPaであるという。 ここで、原子炉圧力は「絶対圧」で示されている。 換算すると、原子炉圧力A:0.70気圧、原子炉圧力B:0.18気圧と、いずれも大気圧以下になっている。 圧力容器が大気圧以下に減圧されることは考えられないから、この測定機器は誤動作しているものと思われる。 
 原子炉圧力容器下部温度 121.7℃について、考えてみる。 
 圧力容器そのものの温度と思われるが、鋼鉄製の容器で熱伝導がよいので、圧力容器下部にあるとされている水の温度をほぼ正しく示しているものと思われる。
表6-2 水温と圧力の関係
水温その温度での
水の蒸気圧
 
121.7度←→2.07気圧 
 もし水温が121.7度だとすると、圧力容器内の圧力はおおよそ2気圧となる。 
 圧力容器の圧力を、上記の誤動作していると思われる測定機器以外に、知る手立てはないものか。 
 この巨大な装置の中にあって極めて小さい部分である計測機器が、複数で用意されていなかった設計。 そのことで、この巨大装置の様子が掴めなくなるような設計。 小惑星探査機「はやぶさ」に見られたような1つの機器の故障を他の機器で補うといった冗長性を感じられない設計。 そんな設計を誰もが疑問を抱かなかった・・・。

 
3号機 原子炉の温度が上昇

(前略) 
 東京電力によりますと、3号機の原子炉の温度は、比較的、安定した状態が続いていましたが、ここ1週間余り徐々に上がっていて、底の部分の温度で見ますと、5日午前11時の時点で143.5度と、先月27日からおよそ33度、上昇しています。 
 これについて東京電力は、3号機の原子炉への注水量が一時的に減ったことが原因とみていて、その要因として、1号機から3号機の原子炉への注水方法が考えられるということです。(後略)

2011年(平成23年)5月6日(金)05時00分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 東電によると、原子炉の温度は、比較的、安定した状態が続いていましたが、ここ1週間余り徐々に上がっていて、底の部分の温度で見ますと、5日午前11時の時点で143.5度と、先月27日からおよそ33度、上昇しているということで、それは3号機の原子炉への注水量が一時的に減ったことが原因としている。 
 原子力安全・保安院発表によると、4月17日(日)14:00の時点で、圧力容器下部温度が121.7度となっている。 圧力容器の圧力から推定して、この温度は圧力容器内の水温を示すものではないことを指摘してきた。 このことは、原子炉の温度は、比較的、安定した状態が続いているといった安心できる状態ではないことは当然である。 
 4月17日(日)の121.7度でそのときの水蒸気圧が2.07気圧であったものが、底の部分の温度で見ますと、5日午前11時の時点で143.5度となってそのときの水蒸気圧は4.04気圧である。 圧力容器に損傷がないとすると、容器内の圧力は、2倍の4気圧になる。 
 十数センチメートル厚さの鋼板でできている圧力容器下部(少なくとも下部には水が満たされているはずであるが)の耐圧壁の温度をこれほどに上昇させているものとしては、燃料の溶融から生じたものが圧力容器下部に塊状になって存在している(塊だと水との接触面積が小さくて、水による冷却が抑制されてしまう)と解釈するのが妥当なようだ。 とすると、3号機の原子炉への注水量が一時的に減ったことが原因ではないことになる。
 注水量を増やしても、効果はない? 
 原因の推定を誤ると、有効な手を打つべき時間を無為に過ごしてしまうことになろう。

 
震災10日後、二度目の溶融か
福島3号機、専門家指摘

 炉心溶融を起こした東京電力福島第一原発3号機で、東日本大震災から10日後、冷えて固まっていた炉心の大部分が「再溶融」したとする説を専門家がまとめ、来月、日本原子力学会で発表する。 東電は原子炉圧力容器底部の温度が低下した状態(冷温停止)を事故収束の目標としているが、炉心の大半が溶けて格納容器に落下しているなら、収束に向けた工程表に影響する可能性もある。 
 3号機は、炉内への注水が始まった3月13日午前9時25分まで約6時間以上空だきになり、14日午前11時ごろには原子炉建屋で大規模な水素爆発が発生。 炉心が溶融し、圧力容器の底に落ちたと考えられている。 
 東電の公表データによると、3号機炉内への1日あたりの注水量はその後、20日までは300トン以上を保っていた。 燃料は冷えて固まったとみられる。 
 ところが、注入できた量は21〜23日に約24トン、24日は約69トンに激減した。 圧力容器の圧力が高まり、水が入りにくくなった可能性がある。 
 旧日本原子力研究所で米スリーマイル島原発事故などの解析を手がけた元研究主幹の田辺文也さんによると、この量は炉内の核燃料の発熱(崩壊熱)を除去するのに必要な水量の11〜32%しかない。 1日もあれば全体が再び溶ける高温に達する計算になるという。 
 田辺さんは、大規模な「再溶融」によって高温になった核燃料から大量の放射性物質が放出され、大半が圧力容器の底から格納容器まで落ちたと推測する。

2011年(平成23年)8月8日(月)03時02分
朝日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 東日本大震災から10日後、冷えて固まっていた炉心の大部分が「再溶融」したとする説を専門家がまとめ、来月、日本原子力学会で発表するという。 
 この状況は、当初から想定される1つの事象であった。 
 しかし、東電は、都合の良い事象だけを発表しているのである。 対外的にパニックを起こさないための処置であったなら、許される行為であるかも知れない。 実際には、その都合の良い別の事象を基にした収束に向けた工程表が作成されているところを見ると、それ以外の想定される事象には目をつむっているとしか思えない。 
 冷えて固まっていた炉心の大部分が「再溶融」したとすると、核燃料は大きな塊状になっているはずである。 水を掛ければ、その塊の表面を冷やす効果は期待できる。 しかし、核燃料の塊の内部や(コンクリートに接している)底部には、冷却水が浸入してきても高熱のために瞬時に蒸発・水蒸気になって、それがそれ以上の水が入り込むことを阻んでしまう。 まったく冷却できない状況である。 
 とすると、格納容器底部のコンクリート土台は、熱によって徐々に分解・破壊されていることが推定される。 まさに、チャイナシンドローム状態である。

 
福島第一原発原子炉内部推定図 東電が公開
 図6-1 福島第一原発 新たな推定図 
 −核燃料の一部が圧力容器の底に積み上がる−

 福島第一原発を解体する「廃炉」では、原子炉の中で、溶け落ちた核燃料の状態を把握することが不可欠だが、放射線量が非常に高く、内部を見ることが難しいまま。 こうした中、東京電力は、3つの原子炉の内部について新たな推定図を公表した。 
 原子炉内部の推定図は、東電が3日に廃炉国際フォーラムで公表した。 3号機の原子炉内部の図では、核燃料の一部が形を保ったまま、圧力容器の底に崩落しガレキのように積み上がっている。 一方、溶けた核燃料はその下の格納容器の底まで落ちてたまったとみられているが、事故当時のデータを再び分析したところ、格納容器の床のコンクリートを浸食している可能性があるという。 
 推定図は、コンピューターによる実験と最近の内部調査などを反映して作られたもので、国はこれらをもとに、核燃料が溶けて固まった「燃料デブリ」をどう取り出すか、この夏に方針を決める予定。

2017年(平成29年)7月3日(月)21時46分
日テレニュース24(日本テレビ Web版) 赤字は右記引用部分
 
核燃料、大半落下か=3号機の透視調査―福島第1

 東京電力は27日、宇宙線を利用して福島第1原発3号機の内部を透視した結果、原子炉圧力容器内に核燃料がほとんど見つからなかったと発表した。 
 事前の解析では、核燃料の半分程度が圧力容器に残っているとみられていたが、大半が溶け落ちた可能性がある 
 5月に開始した透視調査は、宇宙線が大気に飛び込む際に発生する「ミュー粒子」を利用。 溶け落ちた核燃料(デブリ)のように密度の大きい物体があると黒い影が映る仕組みだが、圧力容器の位置には目立った影が見られなかった。 
 東電は今月19〜22日、水中ロボットを格納容器に投入して調査を実施。 圧力容器から溶け落ちて構造物と混ざり合ったデブリとみられる物体が、格納容器内に散らばっている様子を撮影した。 

2017年(平成29年)7月27日(木)19時46分
時事通信(JIJI.COM) 赤字は右記引用部分
 「日テレニュース24」では、「東京電力は、3つの原子炉の内部について新たな推定図を公表したが、3号機の原子炉内部の図では、核燃料の一部が形を保ったまま、圧力容器の底に崩落しガレキのように積み上がっている」という。 この推定図は、コンピューターによる実験と最近の内部調査などを反映して作られたものである。 
 この推定結果は、『震災10日後、二度目の溶融か』の記事にある「田辺さんは、大規模な「再溶融」によって高温になった核燃料から大量の放射性物質が放出され、大半が圧力容器の底から格納容器まで落ちたと推測」していることとは、大きな食い違いがある。 また、『3号機 原子炉の温度が上昇』による見方である「十数センチメートル厚さの鋼板でできている圧力容器下部(少なくとも下部には水が満たされているはずであるが)の耐圧壁の温度をこれほどに上昇させているものとしては、燃料の溶融から生じたものが圧力容器下部に塊状になって存在している(塊だと水との接触面積が小さくて、水による冷却が抑制されてしまう)と解釈するのが妥当なようだ」からは、 『図8-1 福島第一原発 新たな推定図』の圧力容器下部に落下した核燃料の(原形を保っている)形状には、違和感を抱いてしまう。 

 「日テレニュース24」の記事から3週間余の後、「時事通信」によって新たな情報がもたらされた。 「宇宙線を利用して福島第1原発3号機の内部を透視した結果、原子炉圧力容器内に核燃料がほとんど見つからなかった」ことが判明した。 すなわち、「大半が溶け落ちた可能性がある」という。 
 この結果は、旧日本原子力研究所の元研究主幹の田辺文也さんの見解筆者の見方合致する 

 その後の『核燃料、大半落下か=3号機の透視調査―福島第1』の記事で否定されることになるが、『福島第一原発原子炉内部推定図 東電が公開』の記事で、推定図は、コンピューターによる実験と最近の内部調査などを反映して作られたものであるとされている。 そのコンピューターシミュレーションに必要なデータとして、水位や水温など、計測機器の不具合で、不確かであると思われる値をもちいている可能性がある。 そのミュレーション結果は、『3号機 原子炉の温度が上昇』『震災10日後、二度目の溶融か』に記されている各種データを説明するには無理な部分があった。 
 コンピューターシミュレーションでは、「数値計算モデルの選択」と「初期値の取り方」、「境界値の扱い」によって結果が大きく変わってしまう。 同じ現象に対して、多様な計算結果が得られてしまういくつかのシミュレーション結果の中から、どの結果を重視するかに主観が入り込む可能性がある 
 しかし、直接の観測法である宇宙線を利用した調査には、そのような要素が入り込む余地がない。 原子炉圧力容器内に核燃料がほとんど見つからなかったという観測結果は、客観的に得られたものである。
 

(7)4号機燃料プールの温度
 
4号機 撮影映像を相次ぎ公開

(前略) 
 これは原子炉格納容器を覆うふたで、定期検査中だったため格納容器から外されて使用済み燃料プールと同じフロアに置かれていたということです。 
 4号機のプールには、福島第一原発の中では最も多い1331体の燃料を束ねた燃料集合体が保管され、水温が90度と通常の2倍以上高くなっていることから東京電力は水温を下げるため放水作業を続けています。

2011年(平成23年)4月16日(土)05時18分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 使用済み燃料プールの水温が90度と通常の2倍以上高くなっていることは、水の蒸発量が通常の2倍以上多くなっているという単純なことではない。 
 通常の温度が示されていないので、40度であると仮定する。 蒸気圧を示すと、
表7-1 蒸気圧
温度蒸気圧蒸気圧の比
通常(40度)←→0.073気圧1(基準)
90度←→0.69気圧9.5
である。 
 蒸気圧は水の蒸発のしやすさを表している。 90度が通常の温度である40度の2.25倍であっても、水が蒸発する速度は10倍近いものになる。 4号機の建屋は破損しているので、10倍近い水蒸気の発生を抑制するものは何もない。 
 したがって、温度が2倍強になっているからと、注水量を通常の2倍を多少上回る程度に増やしただけでは、当然、プールの水はどんどん減少していくことになる。 継続的な多量の注水が必要な状況である。

 
福島第一原子力発電所4号機の状況

参照:http://www.nisa.meti.go.jp/earthquake/
plant.pdf 
プール水温度 − ℃ 
(後略)

2011年(平成23年)4月17日(日)14時00分現在
[原子力安全・保安院]福島第一原子力発電所
各プラントの状況 赤字は右記引用部分
 保安院によると、プール水温度 − ℃と計測できない状態であるという。 
 4月16日(土)のニュースによると、「使用済み燃料プールの水温が90度と通常の2倍以上高くなっている」という。 このニュースの基となった測定値は、どこから得たものだろうか。 その値を、保安院はどうしたのだろうか。

 
4号機プールへの注水量倍増 水温低下狙う

 経済産業省原子力安全・保安院は23日、東京電力福島第1原発4号機の使用済み核燃料プールに約140トン注水することを明らかにした。 現在の2倍の量という。 プールの水温が約91度と高いために注水分の大半が蒸発し、現在の水位は燃料上部から2メートル弱しかない。 保安院は今回の注水で水位が上昇し、燃料上部からの高さが本来の4メートルに戻ることを期待している。 
 プールには、使用済み核燃料棒を束ねた燃料集合体が、1〜3号機より多い1331体入っている。 これまでコンクリート圧送車を使い、1日平均70トンを注水してきたが、燃料が多いために放出される熱量も高く、水が蒸発し水位が上がらない状態が続いている。 
 一方、プール周辺では先月発生した爆発のために、プールを支える構造物が壊れている恐れがある。 このため、東電は破損状況を調べた上で、補強工事も実施する方針だ。【 関東晋慈、藤野基文 】

2011年(平成23年)4月23日(土)12時50分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 プールの水温が約91度と高いために注水分の大半が蒸発し、現在の水位は燃料上部から2メートル弱になってしまったという。 そこで、使用済み核燃料プールに約140トン注水することにしたが、それは現在の2倍の量である。 
 燃料プールの水温が高くなってきているので、注水量を増やさないと水位が下がってしまうことは、上で述べた。 
 核燃料プールにある燃料棒の崩壊熱は、2011年3月19日の朝日新聞 Web版によると、200万kcal/時間だという。 2.3メガワットである。 25度の水が注水されていると仮定して、プールの水温が約91度で安定しているようなので、その水が91度まで上昇して蒸発していることになる。 水1キログラムあたりで、温度上昇に276キロジュールを、91度での蒸発に2280キロジュールを必要とする。 この崩壊熱を、水の注入、蒸発によって取り去るためには、毎秒0.89キログラム(1日77トン)の水が必要である。 1日平均70トンを注水してきたが、蒸発量の77トンの方が若干多すぎるから、プールの水位が下がっていくことになる。 使用済み核燃料プールに約140トン注水することにしたのは、水位を回復させる意味もあろう。 
 もし、燃料プールの水温を低くしたいのであれば、水の蒸発以外に冷水の循環が必要になる。 80度で安定させたい場合をみると、温度上昇が230キロジュールで、蒸発が2308キロジュールである。 蒸発量は、蒸気圧の低下によって減ってしまい、毎秒0.58キログラム(1日50トン)程度であろう。 崩壊熱のすべてを水の蒸発によって取り去ることはできないので、残りの熱の除去には冷水の循環を使う。 25度の水を循環させると、毎秒3.6キログラム(1日310トン)が必要になる。 合計して冷水の注入量は毎秒4.2キログラム(1日360トン)となる。 この量は91度の場合の5倍弱となる。 水の循環による熱除去の効率は、良くない。 
 これが70度で安定させたいならば毎秒7.4キログラム(1日640トン)、60度では毎秒12キログラム(1日1000トン)・・・となる。 
 崩れかかっている建屋には、これだけの循環水のための設備は無理である。 注水だけをしていくと、80度で安定するのはおおよそ10ヶ月後、70度で2.4年後、60度で5.3年後になる。 
 結論としては、 
(1)燃料プールの温度を90度前後に保つのであれば、1日あたり77トンを注水すればよいこと 
(2)より低い温度に保つには、冷水の循環が必要であること。 
(3)崩れかかっている建屋に追加の設備ができないのであれば、プール温度を大幅に低下させられないこと 
(4)プールの温度を下げるには、崩壊熱が自然に減少していくのを待つしかないこと 
(5)この状況を早急に脱する唯一の方法は、燃料棒を取り出すこと 
である。
 

(8)2号機(福島第一原発)の格納容器は無傷?
 
福島第一原子力発電所2号機の状況

参照:http://www.nisa.meti.go.jp/earthquake/plant.pdf
原子炉圧力A 0.078MPa
原子炉圧力B 0.076MPa
原子炉水位A −1500mm
原子炉水位B −2100mm
原子炉水温度  − ℃
原子炉圧力容器温度
 給水ノズル温度 141.1℃
 圧力容器下部温度 −114.8℃
・・・

2011年(平成23年)4月17日(日)14時00分現在
[原子力安全・保安院]福島第一原子力発電所
各プラントの状況 赤字は右記引用部分
 事故から5週間、系統的なデータが、やっと発表された。 
 それによると、原子炉圧力A 0.078MPa原子炉圧力B 0.076MPaであり、圧力容器下部温度 −114.8℃であるという。 ここで、原子炉圧力は「絶対圧」で示されている。 換算すると、原子炉圧力A:0.77気圧、原子炉圧力B:0.75気圧と、いずれも大気圧である1気圧よりも低い。 圧力容器が大気圧以下に減圧されることは考えられないから、この測定機器は誤動作しているものと思われる。 同様に、圧力容器下部温度が−114.8度であるという測定値も、信頼できない。 
 これでは原子炉の様子を、科学的に推測することはできない。 新聞などの記事で、2号機についてのデータが載せられていない理由は、こんなところにあったのか。 
 原子炉本体に占める計測機器のコストは、微々たるものである。 そこへのわずかな経費の上積みで、万が一の場合のバックアップシステムを構築しておくことは、考えなかったということか。 その行き着いた先が、このような事故に直面して、正確な測定ができないことにイライラすることになってしまった。 手間暇を惜しむなんて、まったく信じられない・・・。 それを惜しんだことで、巨大な装置の状態が五里霧中である。 高い放射能を持っている巨大な装置が、今、どのような状態になっているか・・・。

 
2号機「ベント」失敗の可能性 調査結果公表

(前略) 
このうち2号機では、事故が発生した当時、原子炉を覆う格納容器の内部の圧力が限界に達していたため、破損を防ごうと、「ベント」と呼ばれる操作で水蒸気や放射性物質を外に放出しようとしましたが、圧力が下がらずに破損して大量の放射性物質が放出されたとみられていて、この原因の調査結果が報告されています。 
この中では、ベントによって水蒸気や放射性物質が通るはずの装置の周辺の汚染を調べた結果、この装置の前後の配管では高い放射線量は検出されなかったことが分かったとしています。 この結果は、実際には2号機でベントができていなかった可能性が高まったことを示していて、現場の状況によって裏付けられたのは今回が初めてです。(後略)

2015年(平成27年)5月20日(水)12時44分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 
2号機ベント「失敗」
福島第一 東電、調査結果発表

 東京電力福島第一原発の事故で、東電は20日、2号機の格納容器から圧力を逃がすベントが失敗していた可能性が高いと発表した。 配管の放射線量を調べたところ、放射性物質が通過していないとみられるという。 
 
 図8-1 2号機のベント配管 
 
 2号機では、2011年3月13〜14日、複数ある弁が開けられたが、ベントに成功したかどうか分からないまま、格納容器から直接、大量の放射性物質が漏れていた。 昨年10月、原子炉建屋にロボットを入れ、ベント配管がある部屋で放射線量を調べた。 配管のうち、圧力が高まると裂ける「ラプチャーディスク」と呼ばれる板がある付近の放射線量は、毎時0.08〜0.30ミリシーベルトと低かった。 格納容器側にある弁の周囲も毎時0.15〜0.70ミリシーベルトだった。 一方、ベントに成功した1号機と共用している排気筒の近くでは、毎時10シーベルトの高い放射線量が計測されている。 
 東電が弁を開けた時点では、板が裂けるほど格納容器内の圧力が高くなく、その後、3号機の水素爆発で一部の弁が閉まってしまい、ベントできずじまいだったとみられるという。【 東山正宜 】

2015年(平成27年)5月21日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版7面(総合5) 赤字は右記引用部分
 
<福島第1>2号機ベント失敗 装置作動せず

 東京電力福島第1原発事故で炉心溶融した2号機について、東電は20日、重大事故時に放射性物質を外部に放出する装置の一つ「ラプチャーディスク(破裂板)」が放射能で汚染されていなかったとの調査結果を発表した。 ディスクが作動せず、原子炉の破損を防ぐベントに失敗した可能性が裏付けられた。 
 2号機のベントは、事故当時の運転データや周辺の放射線量などから、失敗した可能性が以前から指摘されていた。 
 東電は昨年10月、ディスク周辺の放射線量を初めて調査。ベントに成功していた場合、放射性物質を含んだ蒸気がディスク内を流れるため高線量が想定されたが、目立った汚染は確認できなかった。 
 ベントは、格納容器外に出る配管に設置された弁を開け、外側にある薄いステンレス製のディスクを内部の圧力で破って蒸気を放出する仕組み。 
 東電は2011年3月13、14両日、2号機のベント弁を開ける操作をしたが、圧力は下がらなかった。 15日にも試みたが、圧力上昇を防げず、格納容器につながる圧力抑制プールが破損。 大量の放射性物質が放出され、所員の多くが一時退避する事態につながった 
[ラプチャーディスク]格納容器から蒸気を外部放出するベント配管に設置されているステンレス製の薄い板。 誤ってベントの弁が開いてしまった場合に、格納容器から気体が漏れるのを防ぐ装置。 逆に格納容器破損の恐れがあるほど内部圧力が上昇した場合には破れる。 東京電力福島第1原発2号機のラプチャーディスクは設計上、格納容器の圧力が約5.3気圧になると破れる仕組み。

2015年(平成27年)5月21日(木)10時10分
河北新報 Web版 赤字は右記引用部分
 「NHK」によると、2号機では、事故が発生した当時、原子炉を覆う格納容器の内部の圧力が限界に達していたため、破損を防ごうと、「ベント」と呼ばれる操作で水蒸気や放射性物質を外に放出しようとしましたが、圧力が下がらずに破損して大量の放射性物質が放出されたとみられていたが、ベントによって水蒸気や放射性物質が通るはずの装置の周辺の汚染を調べた結果、この装置の前後の配管では高い放射線量は検出されなかったことが分かったとしています。 この結果は、実際には2号機でベントができていなかった可能性が高まったことを示しているという。 
 「朝日新聞」では、東電が弁を開けた時点では、板が裂けるほど格納容器内の圧力が高くなかったという。 結果的に、圧力を下げるためのベント操作は不必要であった。 ベントのために複数ある弁が開けられたが、この操作のために作業員が被爆してしまったとすると、それはまったく無駄なことであったろう。 
 それに対して、「河北新報」によると、東電は2011年3月13、14両日、2号機のベント弁を開ける操作をしたが、圧力は下がらなかった。 15日にも試みたが、圧力上昇を防げず、格納容器につながる圧力抑制プールが破損。 大量の放射性物質が放出され、所員の多くが一時退避する事態につながったという。 
 事故から4年、格納容器の実態が明らかになってきた。 
 しかし、「NHK」、「朝日新聞」と「河北新報」の内容は、同じ調査結果に基づいて記事にしているのであるが、「ベント」操作と「圧力抑制プール」破損の前後関係が異なっている。 「朝日新聞」では「圧力抑制プール」が破損していたため、東電が弁を開けた時点では安全のための挿入されている圧力が高まると裂ける「ラプチャーディスク」と呼ばれる隔壁板が裂けるほど格納容器内の圧力が高くなかったという。 それに対して、「河北新報」では2号機のベント弁を開ける操作をしたにもかかわらずディスクが作動せず圧力は下がらなかったので、格納容器につながる圧力抑制プールが破損したという。 「NHK」の記事では、実際には2号機でベントができていなかった可能性が高まったということであり、「ベント」の操作「圧力抑制プール」の破損のどちらが時間的に先であるかは、明確には述べられていない。 
 「朝日新聞」の時間の経過にともなう2号機の変転の様子は、「NHK」や「河北新報」が報道している報告内容を越えた事実を掴んでいなければ書けないものである。 「ラプチャーディスク」と呼ばれる板が裂けるほど格納容器内の圧力が高くなかったと・・・。 
 なお、2号機のラプチャーディスクは設計上、格納容器の圧力が約5.3気圧になると破れるようになっている。 この圧力の水蒸気圧を示す温度は、摂氏153.4度である。 格納容器内の水温が153.4度を越えているときにベント弁を開けると、ラプチャーディスクは破れることになる。 2011年4月17日のデータで、「給水ノズル温度 141.1℃」が信頼できる値であるとすると、水温が153.4度を越えている可能性は大きいが・・・。 
 事故発生時の実態が掴めない最大の原因は、2011年4月17日付けの記事にあるように、温度や圧力の計測機器が事故によって壊れてしまったことにある。 最悪の事態の発生を考慮して、もう少しのコストをかけて、頑丈な機器を設置するとか、多重の機器で補完するなど、手段はいくつもあったはず。 原子炉の「安全神話」の下で、計測機器の設置基準は、核分裂反応のコントロールに必要なデータを取得することに主眼を置いていたように思われる。 事故によって、核分裂反応が暴走することはあり得ても、計測機器の大部分が故障してしまうことはないとして・・・。 
 原子炉の基本設計が、地震や津波などを考えなくても良い場所への設置を前提としているように思われる。 たとえば、使用済み核燃料を収容するプールを上階に設置する設計は、炉内から取り出した燃料棒をその位置で素早くプールへ入れられるという点で、優れた選択である。 重量物である非常用発電機を地下へ設置するという設計も、建物の構造計算をする上で最も好ましいものである。 しかし、地震の発生と津波の襲来を考えると、この設計方針は捨て去るべきものであった。 巨大な水槽を上層部に置くことによる建物自体の耐震性の点で。 水槽が損壊して水漏れが生じた際にその水位を維持するための注水方法の点で。 重要な補助電源が津波により水没してしまう可能性の点で。 
 地震・津波を考慮しなくてもよい原発先進国ではこの基本設計が合理的であるとしても、地震国の日本にあっては最悪な設計方針であって、それが現実になってしまった・・・

 
核燃料7割超 溶融か
名大など発表 福島第一2号機
 図8-2 核燃料7割超 溶融か 
2015年(平成27年)9月27日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版32面(社会)
赤枠囲みは筆者による描き込みで右記引用部分
 「東京電力福島第一原発2号機の炉心に核燃料がほぼ存在しないとの結果を得た。 解析の誤差も考慮し、溶け落ちた核燃料は70〜100%の可能性が高いと結論づけた。」という。 
 このミュー粒子を使った透視調査・解析は、1号機でもおこなわれている。 その1号機で、核燃料が全て融け落ちたのではないかという結果は、それ以外の原子炉データからも予想されていたことである。 
 ところが、2号機の損傷は比較的軽微ではないかとの推測があって、それを覆すほどの透視調査結果に、東電は次のように述べている。 「コンピューター解析などから一部は炉心に残っていると推定している。」と。 ただ、東電によるコンピューター解析などには、事故当時の不正確な炉心圧力や温度などや、その後の推定データを元にしているのではないか。 「実測された透視データによるもの」と「推定に推定を重ねたデータによる不確実なシミュレーションによるもの」を比べたら、どちらがより信頼できるかは明白であろう。 
 現実には、炉心下に融け落ちた核燃料がどのような状態になっているかが、最大の関心事である。 融け落ちた核燃料の塊の「底部」に、冷却水が届いているであろうか。 水があれば、その塊の外殻は100度程度の低い温度で(シュークリームのように内部は柔らかくても外皮が硬い)非流動性状態になって、その場所に留まっているはずである。 時間を掛ければ、外部に取り出すこともできよう。 しかし、冷却水や地下水が高温の核燃料塊と接触した瞬間、高温のフライパンに水を垂らしたときのように、爆発的に蒸発して水がない状態になっているとすると・・・。 その塊は高温の流動性のある状態で、あたかも玄武岩でできた火山の溶岩流のように、流れ下がっていくのではないか。 玄武岩溶岩流では、次第に冷やされてしまって、いつかは固化する。 だが、核燃料塊にあっては原子核の崩壊熱による自己発熱があるので、その熱でコンクリートや岩盤を融かすことはあっても、溶岩流のように時間の経過とともに冷えて固まってしまうようにはならない。 この状態のシミュレーションこそ、東電がすべきことではないか。
 
格納容器内 推定530シーベルト
福島第一2号機
 
 図8-3 福島第一原発2号機の内部調査 
 

 東京電力は2日、メルトダウン(炉心溶融)した福島第一原発2号機の原子炉格納容器内の放射線量が、推定で最大毎時530シーベルトに達すると明らかにした。 運転中の圧力容器内部に匹敵する線量で、人が近くにとどまれば1分足らずで死に至る。 また、圧力容器直下の作業用の足場には1メートル四方の穴が開いていることも判明した。 溶けた核燃料(デブリ)が落下し、足場を溶かした可能性もあるという。 
 東電は1月下旬から、圧力容器の直下を遠隔カメラで調査している。 放射線による画像の乱れから線量を評価したところ、格納容器内の一部で最大で毎時530シーベルトに達すると推定された。 溶け落ちた核燃料が飛び散り、格納容器内で強い放射線を出している可能性があるとみている。 
 東電は今月にも調査ロボット「サソリ」を投入し、格納容器内の各部の線量を測って核燃料の広がりなどを調べる予定だ。 だが、サソリが動き回る予定の作業用足場に複数の穴が開いていることが判明。 東電は「溶けた燃料が圧力容器から落ち、足場を溶かして穴ができた可能性がある」と説明した。【 杉本崇 】

 図8-4 福島第一原発2号機の原子炉圧力容器直下の様子 
2017年(平成29年)2月3日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面 赤字は右記引用部分
 東電は1月下旬から、圧力容器の直下を遠隔カメラで調査していていた。 その結果、圧力容器直下の作業用の足場には1メートル四方の穴が開いていて、それは溶けた核燃料(デブリ)が落下し、足場を溶かした可能性を示している。 
 また、格納容器内の一部で最大で毎時530シーベルトに達していて、溶け落ちた核燃料が飛び散り、格納容器内で強い放射線を出しているようである。 
 「核燃料の溶融」や「溶融核燃料の圧力容器から格納容器への落下」が推定されていたが、この観察で、ほぼ間違いがないことになった。 
 さらに、圧力容器直下の作業用の足場には1メートル四方の穴が開いていた。 このことから、圧力容器から溶融落下した核燃料が、格納容器の作業用の足場上に1メートル四方を底面にして一時的に積み重なっていたものと思われる。 圧力容器から落ちてきた溶融した核燃料が、足場上には積み重ならないで、足場の隙間からポタポタと落ちていったならば、1メートル四方もの穴が開くことはないから。 その後、格納容器下部にドサッと落ちていった・・・。
 

(9)1号機を「水棺」に
 
福島第1原発 1号機格納容器内に水6メートル

 東京電力は23日、福島第1原発1号機の原子炉格納容器に深さ約6メートルの水がたまっていることを明らかにした。 格納容器を燃料棒の上部まで水で満たして原子炉を冷やす「水棺」作業は、事故収束に向けた工程表で最初の3カ月目標に掲げた対策の一つ。 同社が意図しない形で事実上の水棺状態が進行しているとみられるが、このまま燃料棒上部まで水位が上がるかどうかについては不確定要素もある。 
 東電によると、1号機は燃料棒の損傷が推定70%と最も激しく、圧力容器にこれまで約7000トンを注水して冷却を続けてきた。 ここで発生した蒸気が格納容器に移って水になっている可能性や、圧力容器と直結する配管などが地震で損傷し、格納容器に水が漏れ出ている可能性が考えられるという。 
 水位は、水素爆発を防ぐための窒素注入による格納容器の圧力変化から東電が推計した。 その結果、格納容器下部にある圧力抑制プールは既に満水となっており、「ドライウェル」と呼ばれるフラスコ状の球形部(直径17・7メートル)深さ約6メートルの水がたまっていることが分かった。 
 2、3号機も同様に圧力容器への注水が続けられているが、2号機では圧力抑制プールが破損し、高濃度の放射性汚染水が外部へ漏れ出ており、格納容器内の水のたまり具合は分かっていない。 
 一方、水棺方式には課題もある。 格納容器には既に容量(約6000立方メートル)の2倍近い窒素約1万700立方メートルを注入しているが、一定以上に圧力が高まっていない。 容器の損傷も考えられ、このまま水位が上がれば、損傷部からの水漏れが懸念される。 また、水の重量の負荷に伴う耐震性は「最終チェックしている段階」(経済産業省原子力安全・保安院)の上、長期的には高濃度に汚染された水の処理も必要となる。【 八田浩輔、阿部周一 】

2011年(平成23年)4月24日(日)01時17分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 「ドライウェル」と呼ばれるフラスコ状の球形部(直径17・7メートル)深さ約6メートルの水がたまっているということから、この部分の水量は830立方メートルと計算される。 
 さらに、格納容器を燃料棒の上部まで水で満たして原子炉を冷やす「水棺」作業が完了した時点では、その水量は2600立方メートル(圧力容器が占める体積を除く)となる。 
 現在830トン程度の水が入っているが、フラスコ状の球形部の上部まで水で満たした時点で2600トンまで、更に、2000トン近く増える。 「水棺」状態を想定した重量に耐えられるように、構造体の支持部分が設計されているのであろうか。 また、設計図上では余裕があっても、東北地方太平洋沖地震による損傷で劣化していないか。 不安は去らない。 支持体構造部分の破断予知のための計測機器を設置できれば、それにより破壊に至るプロセスをある程度防ぐことができよう。 現実には、高い放射能区域での作業になるから、その設置は困難を伴うものと思われる。 しかし、「水棺」作業には必須事項である。 
 さらに、格納容器は約4気圧に耐えられるように設計されている。 「水棺」状態になった時点で、水圧は底部で2気圧(ゲージ圧)程度であるから、損傷がなければ充分に耐えられるはずである。 しかし、強い余震があると、格納容器内の水の振動により、耐圧を超える力が加わったり、特定の場所に等方向性ではない力が集中する可能性がある。 2003年9月26日に発生した十勝沖地震での石油タンク事故のように・・・。 格納容器は、基本的には、気体だけが存在しているとして設計されていると思われるから、そこに水を満たすことは「想定外」であろう。 
 この「水棺」が、そのまま進めていってもよい方法であるかどうか、慎重に検討すべきであろう。 
 事故処理に、打てる手が限られてきている。

[補足] 
 福島第一1号機のこの時点での崩壊熱は4.5MW(メガワット)である 
 「水棺」状態になったとき、そのときのあるべき状態を考えてみる。 
(1)圧力容器内の水温は、100度以下(冷温停止状態)になっていること 
(2)格納容器の水温は、25度程度であること 
 崩壊熱を除去するための方法としては、2つある。 
(a)圧力容器に冷水を注入し、圧力容器内の温水を取り出す水の循環系 
(b)格納容器に冷水を注入し、格納容器内の温水を取り出す水の循環系 
 (a)であれば、毎秒15リットル程度の冷水(25度程度)を圧力容器に注入して循環させれば、4.5メガワットの崩壊熱を除去できる。 配管と循環ポンプ、温水を冷水にする熱交換器を設置できるとすれば、毎秒15リットル程度の水の循環であるので、装置の構成としては最も簡単な方法である。 ただし、非常に高い放射能を持つ水の循環であるので、装置運転後のメインテナンスは困難を極めることになろう。 
 (b)では、圧力容器内で自己発熱している燃料棒の熱を、圧力容器の壁を通して、格納容器側に取り出すことになる。 この場合は、(a)のように、ある決まった量の冷水を注入するだけでは望まれている冷却は不可能である。 格納容器には、常に低温水で満たされている必要があることを、以下に示す。 
 厚さ16センチメートルの鋼製の圧力容器の壁を通して、発熱量と同じだけ、放熱することがキーポイントである。 圧力容器内の水温は100度であり、格納容器のそれは25度であるときの伝熱量を計算してみる。 鋼製の壁の表面積を440平方メートル、それの熱伝導率を16.7W/m・Kとすると、3.4メガワットである。 伝熱量が大きくない原因は、鋼(ステンレス鋼)の熱伝導率が鉄の2割ほどと悪いこと、壁が厚いこと、壁の表面積が小さいことである。 熱伝導率の悪さや壁の厚さ、表面積は変えられない。 これらは、このような形で放熱させるという事態を想定していなかったからである。 格納容器の水温を下げて、内外の水温の差を大きくすることは、可能である。 最低温度の0度にすると、4.6メガワットとなる。 これは理想的な場合であって、現実には格納容器内の水温を万遍なく0度に保つことは不可能である。 (b)による方法は、燃料棒の崩壊熱を100%除去することができない(したがって、圧力容器内の水の温度が上昇し、冷温停止状態にもっていくことができない)ように思われる。
 
福島第1原発:
1号機で「水棺」化へ向けた作業を開始

 東京電力は26日、福島第1原発1号機の格納容器を水で満たして燃料を冷やす「水棺」の着手に向けた作業に入った。 同日はロボットで、格納容器に破損がないかを点検。 27日には試験的に原子炉への注水量を倍に増やし、格納容器の損傷具合を確認する。(後略)

2011年(平成23年)4月26日(火)19時14分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 遂に、福島第1原発1号機の格納容器を水で満たして燃料を冷やす「水棺」の着手に向けた作業に入ったという。 そこには、いくつかのクリアしなければならないポイントがある。 
 格納容器に水を満たしても、それによる冷却効果は、公表されているデータをもとにすると、期待できないことを「上の[補足]」で示した 
 もし、格納容器にある水が毎秒15リットル程度で圧力容器の中に入っていくならば、圧力容器の冷却は可能となる。 「水棺」にする意味がある。 しかし、格納容器にある水が圧力容器の中に入っていくかどうかといえば、否であろう。 原子力安全・保安院が発表した4月17日(日)14:00現在の圧力容器の圧力をみると、原子炉圧力Aで0.521メガパスカル(5.1気圧)、原子炉圧力Bで1.074メガパスカル(10.6気圧)と、格納容器の圧力よりも圧倒的に高いから。 そのため、水が圧力容器に入っていかなければ、今もやっている圧力容器への注水を並行して続けなければならない。 それでは、格納容器を水で満たす「水棺」を実施する意味は、ない。 
 すると、この「水棺」化には、放射性物質を含む水の漏出の可能性や、水を入れることによる炉の耐震性が脆弱になることなどのデメリットばかりが目立つ。 
 東電は、公表データ以外の資料から、この「水棺」化の妥当性を検証しているのであれば、何もいうことはないが
 

(10)水冷から空冷へ
 
原発、海水利用の冷却断念…外付け空冷装置に

 東京電力は、福島第一原子力発電所1〜4号機の危機を収束させる手段について、本来の冷却システムである海水を使った熱交換器の復旧を、事実上断念した。 
 熱交換器が動けば原子炉などの温度を劇的に下げることができたが、ポンプ類が集中するタービン建屋に大量の汚染水がたまり、既存のポンプを使う熱交換器の復旧には相当の時間がかかると判断した。 
 今後は、補助的な位置づけだった空冷式の「外付け冷却」によって、100度未満の安定した状態(冷温停止)へ徐々に持ち込むことを目指す。(後略)

2011年(平成23年)5月2日(月)03時08分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 本来の冷却システムである海水を使った熱交換器の復旧を、事実上断念し、その代わりに、今後は、補助的な位置づけだった空冷式の「外付け冷却」によって、100度未満の安定した状態(冷温停止)へ徐々に持ち込むことにするという。 
 この変更により、冷却水の温度を低くすることができなくなった。 
 海水を使った熱交換であれば、海水温が20度〜25度と低いことと海水の熱伝導度がよいことから、冷却水の温度を30度以下にすることも可能である。 
 ところが、空気による熱交換では、空気の温度が高い(夏場であれば35度にもなる)ことと空気の熱伝導度が悪いことから、冷却水の温度を45度以下にするにはヒートポンプの設置など相当大がかりな熱交換器を用意する必要があろう。 
 さらに、この冷却方法の変更により、原子炉の熱除去に大きな差が生じる。 
 1〜4号機の本来の冷却システムである海水を使った熱交換器を使用したシステムでは、原子炉圧力容器内にある水を循環させて冷却するシステムである。 ダイレクトに圧力容器内の燃料棒の崩壊熱を除去できる。 
 その代わりのシステムは、格納容器内にある水を循環させて冷却するシステムである。 崩壊熱が発生しているのは圧力容器内にある燃料棒であるので、圧力容器の耐圧壁を経ての熱除去となる。 となると、圧力容器の耐圧壁での熱伝導が問題となる。 
 耐圧壁を経る熱伝導の量を、報道データから、推算してみる。 耐圧壁の材質は不明であるが、シュラウドで使われている「SUS316」であるとする。 熱伝導率は、おおよそ16.7W−1−1 である。 圧力容器の上部まで水で満たされているとすると、圧力容器の耐圧壁(円筒径6.4メートル、上下端は半球状、厚さ16センチメートル)の伝熱面積は440平方メートルである。 温度差55度(圧力容器内の水温は冷温停止条件の最大値の100度、格納容器側の水温は45度として)とすると、2.5MW(メガワット)(*1) となる。 
 図10-1 耐圧壁を介した熱伝導による圧力容器の冷却 
 崩壊熱が2.5メガワット以下であれば、この方法(空気による冷却法)で、冷温停止に持って行くことが可能であることがわかる。 もし、格納容器内の水が少なくて圧力容器の上部が露出しているならば伝熱面積が減少するので、2.5メガワットよりも少なくなってしまう。 
 さて、福島第一1号機の崩壊熱は、5メガワット程度と推定されているから、報道データからは、冷温停止できる可能性は小さい。 1年後でも3メガワット弱にまでしか減少しないから、この時点でも、可能性は小さい。 
 2・3号機の崩壊熱は、同資料で、1年後でも5メガワットとなっているから、可能性は更に小さい。 
 圧力容器の耐圧壁を経た冷却法は、壁材料の熱伝導度の悪さや伝熱面積の小ささ(当然、このような形での放熱は考慮されていない)と、低温側の温度があまり低くできないことから、まったく実際的ではないように思われる。
 

(*1) 熱伝導率はおおよそ16.7W−1−1、圧力容器の表面積(伝熱面積)は440平方メートル、圧力容器の耐圧壁の厚さは16センチメートル、温度差は55度であるので、 
16.7(ワット/メートル・ケルビン)×440(メートル)÷0.16(メートル)×55(ケルビン) 
から、おおよそ2.5メガワットとなる。

 
福島第1原発:循環型冷却システム新設へ…1号機

 東京電力は4日、福島第1原発1号機の原子炉を安定的に冷やすため、仮設の空冷装置と熱交換器を使った循環型冷却システムの設置に向けた工事を8日に始めると公表した。 原子炉につながる既設の配管の一部を使って冷却水を炉内に循環させる。 格納容器を水で満たす「水棺」と並行して今月末から6月初めまでに工事を終え、新システム稼働から数日以内に炉内の水を100度未満に下げる冷温停止に持ち込みたい考え。 当初の目的だった既設の熱交換器などを使った冷却システム復旧は断念した。 
 計画では、建屋内部に仮設の熱交換器を組み立てる。 その上で、格納容器と直結する既設の配管の一部を使い、「水棺」状態の容器にたまった水を毎時100トン循環させる1次系と、建屋外付けの空冷装置で冷却水を除熱するための2次系を組み合わせる。 空冷装置は8日にも設置工事を始める予定だ。 東電は、既設の冷却装置を断念した理由について「より早く冷温状態にするため、スピードを優先して決めた」としている。 
 1次系の稼働に向けては、原子炉建屋内で有人作業で配管をつなぎ替える必要がある。(後略)【 八田浩輔、日野行介 】

2011年(平成23年)5月4日(水)19時40分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 格納容器と直結する既設の配管の一部を使い、「水棺」状態の容器にたまった水を毎時100トン循環させる1次系を設置するとのことである。 
 毎時100トンの水を循環させるとすると、1秒あたり28キログラムの水量である。 
 1号機の崩壊熱は5メガワット程度である。 格納容器から出てくる一次系冷却水の温度は、冷温停止の最高温度である100度であり、熱交換器は理想的な効率を持つものを使っているとする。 ここで、理想的な効率を持つ熱交換器とは、熱を受け渡しする二つの媒体の温度が、その出口で、等しくなっているものを指す。 
 図10-2 二段階の熱交換器を使った空気冷却 
 一次系冷却水は、毎秒28キログラムで循環させているので、格納容器に供給するときの一次系冷却水の温度は57度(*1) 以下でなければならない。 したがって、一次系熱交換器から出てくる二次系冷却水の温度も、57度である。 
 空冷装置で冷却水を除熱するための2次系熱交換器から排出される空気の温度を仮定する。 この温度は、一次系熱交換器に入るときの二次系冷却水の温度と同じである。 この温度が低いほど、一次系熱交換器での熱交換が有利になるが、逆に、二次系熱交換器での熱交換が困難になる。 ここでは、35度とする。 
 二次系熱交換器に入る二次系冷却水の温度が57度であり、出るときには35度であるから、その温度差は22度である。 5メガワット分の熱を放熱するためには、二次系冷却水を毎秒54キログラム(毎時195トン)で循環させなければならない。 
 気温は20度であるとする。 二次系熱交換器に供給する空気の流量は、毎秒280立方メートル(*2) となる。 
 気温が20度のとき、二次系熱交換器から排出される空気の温度を変えて、その運転パラメーターを表にしてみる。 
表10-1 排出される空気の温度とそのときの流量
二次系熱交換器から排出される
空気の温度(℃)      
二次系冷却水の       
流量(キログラム/秒)   
供給する空気の       
流量(立方メートル/秒)  
2537830
3044410
3554280
4070210
4599170
50170140
 二次系熱交換器から排出される空気の温度を低く設定すると、二次系冷却水の流量は小さくできるが、供給する空気の流量がとてつもなく大きくなってしまう。 競泳用プールの水量は2,500立方メートルであるので、これと同じ容積の空気が(25℃の場合には)3秒間で入れ替わる流量である。 温度を高く設定すると、二次系冷却水の流量が大きくなる。 これは、プールの水を(50℃の場合には)15秒で入れ替えてしまう流量であるので、このような温度設定も適当ではない。 何れにしても、実現するには、大変な値である(*3) 
 上に記したものは、理想的な条件で計算した数値である。 格納容器から出てくる一次系冷却水の温度が100度であるとすると、圧力容器の温度は冷温停止状態の100度よりも高くなっているはずである。 冷温停止状態にするためには、一次系冷却水の温度を100度よりもかなり低くしなければならないだろう。 同様に、気温も、夏季ではもっと高くなってしまう。 もし気温が35度になれば、二次系熱交換器は設計通りには動作しないことになる。 熱交換器も理想的な効率を仮定していて、同じ熱交換器の2つの出口温度の差が"零"であるとしている。 これは熱交換面積が無限大のときに成り立つものであって、実際にはそうではない。 空気の場合には、特に、差が大きくなる。 これらの点は、いずれも冷却装置の設計をより困難なものにする。 
 この冷却方式は、装置設計上、大層なシステムになろう。 「空冷装置は8日にも設置工事を始める予定だ」ということだが、「おい、チョット待ってくれ」と、言いたい・・・。 
 せめて、熱交換を一段階に設計変更することは、できないか。 この方式は放射性物質の漏れを防ぐには不適当であるが、既に大量の放射性物質をバラ撒いてしまった後であるので、それから漏れたとしてもその割合は非常に小さい。 それよりも、原子炉を安定状態に持っていく方が、総体的に重要であろう。 
 図10-3 一段階の熱交換器に簡素化した空気冷却 
 それでは、この方式について検討してみる。 
 この場合も、熱交換器は理想的な効率を持つものを使っているとする。 熱交換器から出てくる冷却水の温度と空気の温度は同じで、57度である。 冷却用の空気の温度は気温であり、20度とする。 熱交換器に供給する空気の流量を計算すると、毎秒110立方メートルとなる。 この程度であれば、実用化できよう。 
 この方式で使う熱交換器は、二段階の熱交換器を使った場合の「一次系熱交換器」ではなく、「二次系熱交換器」に相当する方である。 それは一次系熱交換器は熱伝導度の良い水を使う前提で作られているからで、空気を流しても熱交換の効率は極端に悪いからである。 つまり、予定の装置を設置してしまってからの変更は、容易ではない。
 

(*1) 正確には、57度の水を格納容器に入れると、100度の湯が出てくるということ。 それ程に、格納容器内にある核燃料が、自発的な核反応で、発熱しているのである。

(*2) 空気の熱容量は1.006kJ −1kg−1、温度差が15℃、20℃での空気の密度は1.20kg−3 であるので、5メガワットの熱を放熱するためには、 
5×10(ジュール/秒)÷{1.006×10(ジュール/ケルビン・キログラム)×15(ケルビン)}÷1.20(キログラム/メートル 
から、おおよそ280立方メートル/秒となる。

(*3) この計算は、気温が20度のときである。 気温が30度とか35度となる夏季での冷却は、これよりも遙かにシビアになる。

 

(11)原子炉停止で「安全」幻影
 
「冷温停止」に1日半

 浜岡原発4、5号機の停止を決めた中部電力は9日、停止までの作業について明らかにした。 
 まず、約300度の高温で運転中の原子炉内に中性子を吸収する素材でできた制御棒をゆっくり入れて、核分裂反応を抑制。 7〜8時間かけて発電を止める。 その後、約1日で燃料が発する熱(崩壊熱)を冷却システムで取り除く。 計約1日半かけて原子炉内の温度が100度以下の「冷温停止」状態にする。 1機ずつこの作業を進め、数日で2機とも冷温停止にする予定。 再稼働までの間、燃料をプールに移すか、原子炉内でそのまま保管するかは検討中という。 
 東京電力福島第一原発では、地震の揺れで原子炉は緊急停止したが、電源が失われて炉内を冷やすことができなかった。 今回の処置によって原子炉が止まっていれば、もし津波で全電源が失われても、高温になる危険性は低くなる

2011年(平成23年)5月10日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版26面(社会) 赤字は右記引用部分
 浜岡原発4、5号機について、約300度の高温で運転中の原子炉内に中性子を吸収する素材でできた制御棒をゆっくり入れて、核分裂反応を止めて、その後、約1日で燃料が発する熱(崩壊熱)を冷却システムで取り除くことになる。 
 ただし、この操作によって原子炉内の温度が100度以下の「冷温停止」状態になったとしても、燃料棒からの崩壊熱は出続けている。 「冷温停止」状態となったとしても、崩壊熱を除去し続けないと(冷却を続けないと)、燃料棒の温度は高くなっていく。 「冷温停止」状態になったから、それで作業が終わりということではない 
 したがって、再稼働までの間、燃料をプールに移すか、原子炉内でそのまま保管するかは検討しているようだが、よりよい方策はプールに移すことだろう。 電源が失われても、燃料棒がプール内にあれば、冷却用の水の補給は比較的容易であるから。 
 もし燃料棒が原子炉内に置いてあれば、複雑な原子炉配管を通じて冷却水を補給することになる。 東京電力福島第一原発1〜3号機で、原子炉内の燃料棒の冷却が、困難を極めていることを肝に銘じるべきである。 
 また、冷却水の量や水温の把握も、プールの方が圧倒的に容易である。 
 今回の処置によって原子炉が止まっていれば、もし津波で全電源が失われても、高温になる危険性は低くなることは、ない。 幸運にも再稼働までの間、燃料をプールに移してあれば、原子炉内でそのまま保管してある場合よりは対応が容易であるが、それでも震災時に定期点検中で核燃料棒がすべて燃料プールにあった東京電力福島第一原発「4号機」のようにその冷却には相当な困難が伴う。 
 この記事では、現在進行形の見本があるのに、それを見ていないかのような書き方である。 権威の発表を、そのまま記事にする事が大切であるとしているのか。 
 「冷温停止」状態となったら、燃料棒からの発熱(崩壊熱)は「零」になる(発熱しない)としているのか。 実際には、「冷温停止」状態となっても、メガワットオーダーの崩壊熱が発生しているにもかかわらず(*1)
 

(*1) 「Heart Break Station, 原子炉停止後の崩壊熱による熱量はどれくらい発生するのでしょうか? この計算方法はよく知られており、以下の・・・」に、福島第一原発の1号機、2号機、3号機の事故後の崩壊熱が示されている。

 

(12)冷却不能からの離脱
 
5号機でポンプ故障、冷却水の温度一時上昇

 福島第一原子力発電所の5号機で原子炉の冷却に使うポンプが故障するトラブルがあり、原子炉の温度が一時、93.7℃まで上昇したが、その後、予備のポンプで冷却が再開され、29日午後4時には64.9℃に下がった。 
 トラブルがあったのは、安定的な冷却ができているとされた5号機。 5号機の原子炉を冷却する水は、熱交換器を通して、ポンプでくみ上げた海水で冷やされている。 このポンプが故障したため、冷却ができなくなったという。 
 「東京電力」によると、ポンプの停止が確認されたのは28日午後9時過ぎで、当時68℃だった原子炉の冷却水の温度は、29日正午には93.7℃まで上昇した。 その後、予備のポンプで冷却が再開され、29日午後4時には64.9℃に下がったという。 東京電力は引き続き、水温の変化を監視する方針。

2011年(平成23年)5月29日(日)19時40分
日本テレビ系(NNN)ニュース Web版 赤字は右記引用部分
 安定的な冷却ができて「冷温停止」状態にあった福島第一原子力発電所の5号機で原子炉の冷却に使うポンプが故障するトラブルがあり、原子炉の温度が一時、93.7℃まで上昇したという。 
 原発では、運転を停止していても、また、その後の「冷温停止」状態であっても、核燃料自体は、常に、発熱していることを忘れてはならない。 
 通常の「火災」であれば、「残り火」さえなければ、その後に再度燃え上がることはない。 ところが、核燃料の場合には、「冷温停止」状態になった後でも、再度、燃え上がる可能性を秘めている。 
 冷却を停止すれば、たちどころに温度が上がってしまうことを、今回の事例が証明してくれた。 
 原発の核燃料の処置を、通常の火災の処置と同等であると考えるのは、大きな間違いである。 「冷温停止」状態は、安全、安心な状況では、ない! 
 今回は、原子炉の冷却に使うポンプが故障するトラブルが生じてから、予備ポンプに切り替える作業に着手するまでに、時間がかかりすぎている。 ポンプの停止が確認されたのは28日午後9時過ぎで、当時68℃だった原子炉の冷却水の温度は、29日正午には93.7℃まで上昇した。 その後、予備のポンプで冷却が再開され・・・ということから、予備ポンプが起動するまでに15時間以上を要している。 緊急の場合に予備のポンプを始動させる作業は、すみやかに実施できる作業手順が定められていると思っていた。 それなのに、このだけの時間である。 
 予備のポンプを含めて、地震で破壊された状態で、津波で水に浸かった状態で、放射能で汚染された状態で、火山の噴火による火山灰を被った状態で、起動できない事態が生じたならば、注水開始にもっともっと多くの時間を要したに違いない。 もし注水開始に36時間を要したとすると、原子炉は外部への自然放熱が小さい(圧力容器の材料であるステンレスの熱伝導率は純鉄の五分の一程度である)ので炉内温度は直線的に上昇し、水温は62度上昇して130度になるであろう。 この温度で炉内の圧力は2.7気圧(絶対圧)になる。 原子炉注水口の高さを20mとすると、水を40mほどの高さまで押し上げられる(ゲージ圧で4気圧ほどの)能力のあるポンプであれば、炉内に注水できる。 手近にあるかも知れない汎用の給水ポンプがあれば、接続口を交換するだけで、使える。 
 この時間を過ぎると、次第に汎用ポンプでは注水が困難になってくる。 高性能ポンプや原子炉に配管する器具を手配している間に時間が過ぎていくと、更に、炉内温度が(したがって、圧力が)高くなってしまう。 48時間が過ぎると、水温は150度に(圧力は4.7気圧)なる。 このような圧力になってくると、ポンプの配管接続も「頑丈なもの」でないと、壊れてしまう。 その結果、圧力容器内の圧力を下げるために放射能漏れを伴う排気(ベント)をするなど・・・。 
 原子炉の冷却が停止するような事態になれば、できれば、24時間以内に冷却を開始できるように準備しておくべきだということ。 平常時には直ちに手当てできることも、異常時には広範囲にわたる破損とそれに対応するための資材の手配と人員の確保が困難になることも含めて。
 

(13)鵜呑みは無用?
 
「悪い節電」ご用心
その節電・避暑策、効果的ですか?
節電・避暑策 効果 理由
日なたのアスファルトに打ち水をする   × すぐに蒸発して湿度が高くなり、余計に蒸し暑く感じる。日陰、夕方に行うと○  
建物南側によしずなどを立てて太陽光を防ぐ   夏は太陽が真上に来るため、南からの日差しはあまりない。西日を防ぐために西側に置く方が○  
エアコンの設定温度を高め(約28度)にする   家庭で最も消費電力の大きい家電だけに、効果は大きい  
建物の壁に、つた植物で緑のカーテンをはわせる   接している状態では壁が熱を持つ。建物を傷める恐れもあるため、壁から離すと、熱が遮断できて○  
冷蔵庫にモノを詰め込まず冷気の通りをよくする   × 凍った食品自体が保冷剤代わりになるので、ある程度の詰め込みはOK。冷蔵庫なら、整理は節電に○  
家電を一切使わず、暑さをひたすら我慢する   エアコン、冷蔵庫、照明、テレビ以外の消費電力は大きくない。熱中症など日常生活に支障を来す恐れあり  
 
2011年(平成23年)6月8日(水)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版7面 赤字は右記引用部分
 日なたのアスファルトに打ち水をすることによって、すぐに蒸発して湿度が高くなり、余計に蒸し暑く感じるので、×である。日陰、夕方に行うと○であるという。 
 必ずしも打ち水による湿気が、家屋の中に流れ込んでくることは、ない。 それよりも、打ち水によるアスファルト表面温度の低下によって、アスファルトから家屋内への輻射熱(赤外線)の流入量が低下する。 輻射熱(赤外線)の放射量はアスファルト表面温度の4乗に比例する(シュテファン・ボルツマンの法則)から、10度の低下であっても、効果は大きい。 もっとも、日なたであるので、蒸発してすぐに水が無くなってしまうから、この効果は長続きしないという欠点はあるが。 節水に関する評価であれば「×」であるが、避暑策としては「×」の評価は間違い! 
 建物南側によしずなどを立てて太陽光を防ぐのは夏は太陽が真上に来るため、南からの日差しはあまりないので△評価。西日を防ぐために西側に置く方が○について。 
 外部からの輻射熱(赤外線)を遮断する意味で、南側等によしずなどを立てることは「○」である。 屋内に侵入する熱は、太陽光の直射だけではない。 
 建物の壁に、つた植物で緑のカーテンをはわせることに対して、接している状態では壁が熱を持つとしていることについて。 
 真夏の直射日光下にある家屋の壁の温度は、40〜50度まで上昇する。 しかし、同じ状態のつた植物の葉の温度は、葉の蒸散作用によって、35度を超えることはない。 その葉と接した状態で家屋の壁があったとしても、その壁の温度は、ほぼ気温に等しいことになる。 接している状態では壁が熱を持つと記されているが、人工物であるカーテンなら可能性はあるが、この場合にはそのようなことは、絶対に、ない! 
 冷蔵庫にモノを詰め込まず冷気の通りをよくする節電策に対して「×」の評価がされ、凍った食品自体が保冷剤代わりになるので、ある程度の詰め込みはOKとしていることは妥当か? 
 冷凍庫の冷却器部分と、庫内温度の検知位置は、離れている。 冷凍庫内部がぎっしりと詰め込まれた状態であると、冷気が温度検知器まで届きにくい。 冷却器付近は充分に冷えているにもかかわらず、温度検知器からは冷却不充分であるとの信号が発信される。 温度検知器が設定温度になるまで、冷凍庫の冷却器は運転され続ける。 このとき、冷凍庫が運転時間に応じて冷却できていれば、充分に冷凍庫が冷えていて運転停止時間が長くなるので、トータルでは電力消費は変わらないはずである。 ところが、冷却温度は、冷媒と冷却器の設計によって決まってしまう。 冷却のための運転時間が長くなっても、庫内の温度がその運転時間に応じて更に低くなっていくということは、ない。 必要以上に長くなってしまった冷却運転は、まったくの無駄な電力消費である。 
 また、凍った食品自体が保冷剤代わりになるのは、冷蔵庫の電源を切るとか、停電を想定したものである。 冷蔵庫の電源を切れば、究極の節電になろうが、そのようには言っていない。 節電策とは何ら関係がない。 
 冷蔵庫にモノを詰め込まず冷気の通りをよくすることは、節電策として「○」であるはず・・・。 
 全体として、この記事には生活実感が感じられないと思われるが、どうでしょうか。
 

(14)放射線測定法は適切に
 
福島第1原発:東京都100カ所で放射線量測定へ

 東京都は8日、都内の約100カ所で放射線量を測定すると発表した。 都の担当者は「専門家が性能の高い測定機器で調べた数値を出してほしいとの要望が区市町村側からあり、都が実施することにした」と話している。 15日から始める。 
 都によると、測定は区市町村が希望する場所で実施。 都健康安全研究センターの職員が、地表面と地面から高さ1メートルの大気中の放射線量を測定する 
 これとは別に、20日以降、区市町村に対して70台の測定機器を貸し出す。 都内では、足立、葛飾区などが既に測定を始めているほか、台東、世田谷区なども今後予定している。【 武内亮 】

2011年(平成23年)6月8日(水)21時48分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 都内の約100カ所で放射線量を測定すると発表都健康安全研究センターの職員が、地表面と地面から高さ1メートルの大気中の放射線量を測定するという。 
 今までの測定は地上十数メートルであるため、測定される放射線の大部分は大気中由来のものであったはず。 建物の屋上での測定では、地上からの放射線はその建物で遮蔽されてしまう(放射線検出器に届かない)ため、大気圏外からと大気中(及び、建物屋上に沈着している)放射性物質からの放射線を測っていることになる。 
 図14-1 放射能測定時の計数漏れ 
 @:検出器の内部に入射できなかった放射線 
 A:検出器から外れてしまった放射線 
 B:建物などによって遮られてしまった放射線 
 現時点で注意しなければならないのは、地面に沈着してしまった放射性物質の量である。 今までの測定では、これをまったく反映できていない。 
 今回の決定は、歓迎すべきことである。 
 が、歓迎すべきことではあるが、測定方法には疑問がある。 東京都で測定しているところを見ると、測定器を水平状態にしている。 
 これでは、正面からやってくる放射線は測ることができるが、上方や下方からやってくる放射線は計測できない。 したがって、測られる放射線は、前方から来た水平に近い角度を持つ放射線に限られてしまう。 
 地面に沈着した放射性物質から、上方に放射されている放射線の大部分は、この方法では測定していないことになる。 
 人は四方八方から来ている放射線の影響を受けているのである。 放射線量の割合が高い地面からの放射線を正確に評価できない測定法は、(過小評価で判断を誤ってしまう可能性がある点で)有害無益であるかも知れない。
 

(15)教育に基づく技術者の能力を
 
三菱重工
「手抜き作業」発覚
名古屋の航空機部品工場

 三菱重工業は21日、航空機部品を製造する大江工場(名古屋市港区)で部品の洗浄時間を公表値よりも短くする「手抜き作業」が行われていたと発表した。 社内からの内部告発で、判明した。 部品を使っている航空機などの安全性は「問題ない」としており、自主回収などはしない方針。 
 大江工場では米ボーイング社やカナダのボンバルディア社の民間旅客機のほか自衛隊の戦闘機、国産ロケットなどに使われるチタン製部品を製造している。 これらの部品は表面検査で細かい傷を発見しやすくするため、検査の前に硝酸などに約3分間浸してごみを洗い流す 
 同社によると、2006年4月から約4年間にわたり、3分間の洗浄作業を10秒程度しか行っていなかった。 そのまま出荷された部品は約1600種類、約30万点にのぼるという。 担当者は「非常に小さな傷が見つけられない可能性がわずかにある。 ただ、細かい傷が残っても安全な飛行には影響しない」と説明している

2011年(平成23年)6月21日(火)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版7面 赤字は右記引用部分
 金属チタンは、空気中で表面だけが酸化物になり、それによって不動態となる。 そのため、白金や金とほぼ同じ程度の耐食性を持ち、酸などにも侵されない。 鋼の半分程度の密度でありながら強度はそれ以上にあることから、飛行機などの構造材料に最適である。 そのチタンの航空機用部品についてである。 
 チタン製部品を、検査の前に硝酸などに約3分間浸してごみを洗い流すことにしているところを、3分間の洗浄作業を10秒程度しか行っていなかった(*1) が、 それについて、担当者は「非常に小さな傷が見つけられない可能性がわずかにある。 ただ、細かい傷が残っても安全な飛行には影響しない」と説明しているということだ。 
 硝酸などを使うのは、チタン製部品をそれに約3分間浸してごみを洗い流す』のではなくて、その中に約3分間浸してごみを溶かし去る』ことであろう。 洗い流すだけであれば、わざわざ、硝酸などを使うことはない。 切削時などで生じる「チタン」以外の金属成分を取り去るには、硝酸などを使って溶かす酸化作用のある強酸によって分解させる)ことが必要であるからだ。 
 図15-1 切削屑などの取り残しによる硝酸を含む洗浄液の残留 
 (模式図) 
 洗い流すだけであれば10秒程度でもよいが、溶かすという化学反応を伴う場合には3分という時間が大切である。 最先端分野に携わっている担当者でも、「洗い流す」操作「溶かす」操作の違いが、分かっていないのか? 
 技術立国は過去のことになってしまったようだ。 
 更に心配なことは、違いが分かっていないものによって、洗い流すために使われた硝酸などの成分が、完全に洗い流されていない状態で製品化されている可能性があることだ。 硝酸などを使った洗浄作業を10秒程度しか行っていなかったことでチタン製品の狭い隙間にごみが残っていて、そのごみの内部に硝酸などの成分が残留している(*2) 可能性がある(『図20-1 切削屑などの取り残しによる硝酸を含む洗浄液の残留』)。 その硝酸は揮発性があるので、組み立て後に、チタン製品(*3) から硝酸が次第に揮発・移動して、別の部品に付着してしまう。 その別の部品は、付着した硝酸によって、徐々に腐食されてしまうことになる。 
 そうなると、細かい傷が残っても安全な飛行には影響しないという次元ではない、部品の腐食というもっと危険な状況(*4) に陥ってしまう。
 

(*1) おそらく、大元の「マニュアル」には『「硝酸など」を含む「洗浄液」を用意せよ』『その洗浄液に、部品を3分間浸漬せよ』と指示されていたと思われる。 「その液に浸漬して付着物を分解し取り去る」という「目的」で、この3分間という「洗浄作業」に要する時間を指定していたのであるが・・・。 
 ところが「マニュアル」の意に反して、作業にあたる担当者は、この「洗浄作業」を文字通りの「洗う」ことであると理解していたように思われる。 洗い流すだけであれば洗浄液に「硝酸など」を入れる必要はないと思ったとしても、「マニュアル」記載の「調合液」を変えることは許されない。 そこで、作業時間だけが「マニュアル」から逸脱していった・・・という構図が浮かんでくる。 
 これの問題点は、 
 (1)「マニュアル」の記述が不適切 
 (2)作業を指示する担当者の歪んだ知識 
 (3)工程に要する作業時間短縮の追求 
であろう。 (1)では「マニュアル」に作業内容の「目的・理由」は書かれないのが普通であるから、作業の「内容」が誤解のないように書かれているべきであった。 (2)は、教育に基づく技術者の能力の保持を徹底すべきであった。 (3)では、賃金の安い発展途上国ではなくて我が国で生産している理由を何時も念頭に置いておくべきだった。 
 その結果、日本を代表する企業の信用が地に落ちてしまった。

(*2) ごみが残っているということであれば、そのごみの隙間に、洗浄に使った硝酸成分が残留している可能性が非常に高いと思われる。 3分間の洗浄作業を10秒程度しか行っていなかったことをも含めて・・・。

(*3) チタン製品自体は硝酸に強いので、硝酸成分の影響を受けない。

(*4) 担当者の話として、「非常に小さな傷が見つけられない可能性がわずかにある。 ただ、細かい傷が残っても安全な飛行には影響しない」という。 この担当者は、チタン製品から「細かい傷」が見つけられなかった可能性を認めているので、その前提として「ごみの付着」があった・・・ということである。 これは、チタン製品にごみに紛れた硝酸分が残存している可能性を示唆する非常に重要な発言である。 多分、担当者も、この発言が重要な内容を含んでいるとは、考えもしなかったであろうが。


 
MRJ初飛行、5度目の延期
三菱航空機「詰め」に甘さ

 国産ジェット旅客機「MRJ」を開発中の三菱航空機(愛知県豊山町)は23日、26〜30日の予定だった初飛行を11月9〜13日に延期すると発表した。 延期はこれが5度目。操舵(そうだ)部品を改修する。 改修しなくても初飛行に問題はないが、安全性や完成度を優先する社内意見を重視したという。 背水の陣で臨んだ初飛行を前に「詰め」の甘さがあらわになった。(中略) 
 延期の理由はコックピット内の操舵ペダルの部品改修だ。 ペダルを踏むと、垂直尾翼の後部に取り付けられた「ラダー」と呼ぶ舵(かじ)が動く。 ラダーが左右に動き舵を切る。 この可動範囲を広げるため、ペダルの機構を改修するという。(中略) 
 このため初飛行後に改修する予定だったが、急きょ「前倒しで直した方が安全」との意見が浮上。 関係者間の事前のコミュニケーション不足が、初飛行を心待ちにしていた航空会社などの期待をそぐ形になった。(中略) 
 「予想外のことが起きてもおかしくない」。 開発トップの岸信夫副社長はこう言ってはばからない。 今回は軽微ですんだが、どこに落とし穴が潜むか分からないのが航空機の開発。 新参者の三菱航空機ならなおさらだ生みの苦しみは続く。【 上阪欣史 】

2015年(平成27年)10月24日(土)00時30分
日本経済新聞 Web刊 赤字は右記引用部分
 国産ジェット旅客機「MRJ」の初飛行延期の理由はコックピット内の操舵ペダルの部品改修であり、この可動範囲を広げるため、ペダルの機構を改修するということである。 このようになってしまった遠因として、関係者間の事前のコミュニケーション不足があるという。 
 前記事に、現場の技術者に技術的知識の不足があるかも知れないことを指摘した。 それを指導すべき管理者にも、同様なことがあるようだ。 
 この改修事例を、自動車の場合に当てはめてみる。 ある自動車を設計して、そのブレーキ機構は、緊急の際のために最大限「100」の力で減速できるようにしてある。 通常の走行では、20なり30のブレーキ力で充分である。 そのような自動車で、通常では20なり30で充分であるといって、ブレーキペタルを最大限踏み込んでも、50の力でしか減速できないようにペダルを設計したらどうでしょうか。 
 緊急の場合には、最大の力である100でブレーキをかけなければならない。 それができないブレーキペタルでは、100の力で減速できる能力が生かされていないし、咄嗟の危険な事象に対処できないことになる。 
 国産ジェット旅客機「MRJ」「ラダー」と呼ぶ舵(かじ)の制御で、このような自動車と同じことが、飛行直前まで見逃されていたことになる。 もちろん、ラダーを切りすぎると危険なことになるが、それは自動車のブレーキでも同じである。 通常の飛行状態では危険なラダーの切りすぎであっても、切りすぎの警報装置を備えた上で、それを可能にして置くことは必須である。 このようなことは、航空機の設計段階で考慮することであろう。 試作段階でも、ラダーを最大限に動かせない機構について、コックピット内の操舵ペダルを艤装した現場技術者は、その者が技術を理解していて思慮深い技術者であったならば、ペダル機構の不備に気付いたはずである。 「操舵ペダル」と「ラダー」との連繋を担当したのが有能な管理者であれば、相互の動作を観察して、これに気付いたはずである。 
 完璧な設計図と完全な部品が用意されているのであれば、プラモデルのように、組み立てを間違わない限り完成品ができる。 現実には、コンピューター利用によって完璧な設計を目指しても、設計図を基にして精確に製作した部品を組み立てても、所定の性能を示さないことがあろう。 そのとき、擦り合わせのための臨機応変の変更が必要である。 現場技術者の洞察力と、それを受けとめられる管理者の的確な指示のチームワークがあってこそ、それが可能である。 
 近年の国内航空機産業の中には、外部技術に基づく飛行機の製作がルーチンになっているところがあろう。 そこでは、「仕様書通りの部品を調達」して、「マニュアル通りに部品をネジ止め」するだけが、課された仕事であるとする「技術者」集団になっている可能性が高い。 そのような技術者集団では、「仕様書」や「マニュアル」から逸脱する行為は、許されないことである。 高い「技能」は必要ではあるが、豊富な「知識(*1)」は必須ではない。 
 自前の航空機の開発をしようとすると、当然ながら、完全無欠な「仕様書」や「マニュアル」は、存在しない。 開発時に作成された仕様書やマニュアルは、飽くまでも暫定的なものである。 それらは、多くの問題点を内包しているはずである。 それに対応するためには、「仕様書」や「マニュアル」の問題点を見つけ出して解決できる能力を持った技術者集団が存在しなければならない。 外部技術に基づく飛行機の製作に必要とされるものとは、質的に違う技術者集団である。 
 外部技術に基づく飛行機の製作を継続的に遂行してきたからといって、自前の航空機の開発がスムーズに進捗するものではない。 その1例が、エンジン開発に係わってきたひとりのエンジニアである 「岡本和理氏による回想」(閲覧『http://fgkai.web.fc2.com/olddays/okamoto000.html』) の中で述べられている。 完成したものを手本にして模倣すれば、そこそこの性能を持つものを製作することは可能である。 しかし、新たに設計図から始めたとすると、そこには容易には乗り越えられない技術的障壁が横たわっている。 それは、手本を模倣するために必要な技術とは、まったく違ったものであるという。 
 国産ジェット旅客機「MRJ」の開発が商業的に成功するためには、管理者を含む技術者集団の「意識の改革」と「知識の集積」が必須である。 生みの苦しみを正しく理解しないと、ユーザーに販売できる機体がいつまでもできないという事態に陥ってしまうだろう。
 

(*1) 三菱重工 「手抜き作業」発覚 名古屋の航空機部品工場での「作業の改変」を引き起こした「知識」を指し示している。 これは、正しい意味での知識ではなくて、生半可で中途半端な「知識」である。 「知識」が「正しい作業」の邪魔をするということである。 
 不正な部品処理から、4年が経過している。 『「仕様書」に書いてあるから、「マニュアル」に示されているから、その通りにしなさい』という「指導」は、『これこれの理由により、このようにしなければいけない』というような「教育」に、改善されているのだろうか。 改善されていなければ、中途半端な知識を持った作業員が、作業の合理化と称する手抜きによって、またもや、望ましくないことが横行することになろう。

 
MRJ、5回目の納期延期へ
三菱重工社長、考え示す

 三菱重工業の宮永俊一社長は、朝日新聞などとのインタビューで、「2018年半ば」としている国産初のジェット旅客機MRJの納入開始時期について「現状をみて、そう簡単なことではない」などと語り、延期する考えを示した。 延期は5回目。 来月、納期の見直しを発表する方針だ。 
 MRJは当初、13年に納入を始める予定だったが、設計変更などでこれまでに4回延期した。 宮永社長はインタビューで、「機体への評価は国際的にも高い」と強調しつつ、「必要なテストがまだたくさんある。 正直言って今の通りやってもなかなか難しい。 (来年)1月中には対応を公表したい」と話した。

2016年(平成28年)12月26日(月)04時58分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 初飛行をしてから1年後、何度目かのMRJの納期の延期について「三菱重工業の宮永俊一社長は、朝日新聞などとのインタビュー」で、それとなく、報道機関に流した。 「2018年半ば」としている国産初のジェット旅客機MRJの納入開始時期について「現状をみて、そう簡単なことではない」などと語ったという。 
 そこでは、「必要なテストがまだたくさんある。 正直言って今の通りやってもなかなか難しい。 (来年)1月中には対応を公表したい」という。 
 企業の方針を、このような形(広報による公表ではなくて、幹部によるインタビューを利用した情報の垂れ流し)で公表に先立って広めることには、発表内容に秘めている重大なショックを弱めたいとの意思が見え隠れする。 
 事態は、深刻な状態になっている・・・? 
 さて、当該企業(関連企業を含めて)の技術力を見てみると・・・ 
・受注した旅客船製造におけるミスの頻発 
・自動車での度重なる不正 
航空機部品の手抜き作業 
が思い浮かぶ。 優れた技術力を見せつける 
・H-UA、H-UBロケットやイプシロンロケットの打ち上げ成功 
はJAXAの技術を基本にしているから、戦闘機のライセンス生産と差がないようにみえる。 
 前記事で「関係者間の事前のコミュニケーション不足」がいわれているが、これは「言い訳」に過ぎない。 堀越二郎が設計した「零式艦上戦闘機」のような少数の技術者で開発できるような代物ではなくなってきている。 過去の方式を捨てて、設計・生産をシステム化しておくべきである。 そこにはコミュニケーション不足が介在することがないように・・・。 「自動車の度重なる不正」も、「関係者間のコミュニケーション」を基本としていたから生じた事案である。 設計・生産をシステム化しておけば、防ぐことができたはずである。 
 設計・生産をシステム化することは、一朝一夕には難しい。 長時間の地道な努力が必要である。 MRJの販売までには、これからも、「いわゆるコミュニケーション不足がもたらす」であろう艱難辛苦に、幾度となく、遭遇するに違いない。

 
超絶 凄(すご)ワザ!SP
主婦を救え!急速冷凍対決〜あっという間に氷を作れ

番組内容 
 家庭の「氷不足」から主婦を救え!  ペットボトルの水をわずか15分で凍らせる夢の冷凍庫開発を目指す!  世界的大企業に地方の中小企業が挑む熱き戦い!  
詳細 
 夏、「氷不足」で困ったことありませんか?  作っておいてもジュースやかき氷でなくなる。 しかし、家庭用冷凍庫ではすぐには氷ができない…。 そこで凄ワザでは、一般的な冷凍庫では数時間かかるペットボトルの水をわずか15分で凍らせる「夢の冷凍庫」の開発に挑戦!  挑むのは、空調で売上高世界ナンバー1大企業の設計者と、独自の冷却技術をもつ中小企業の人情派部長。 熱き戦いの果てに感動のドラマが…。

2016年(平成28年)7月2日(土)21時00分
NHK総合 赤字は右記引用部分
 「超絶 凄ワザ!SP」は、コンパクトな装置で素早く氷をつくるためのアイデアとそれを実現するテレビ番組である。 空調で売上高世界ナンバー1大企業(番組内では「ダイキン工業株式会社」と明示)の設計者グループと、独自の冷却技術をもつ中小企業(番組内では「オーム電機株式会社」と明示)技術者グループとの対決である。 
 500ミリリットルのペットボトルに入っている水を、15分間で、如何に多く氷結させるかを競う。 使用する冷却装置は異なっているが、その最低温度は、双方とも、同じ「−40度」である。 氷の熱伝導率は、「東電凍結壁完成への隘路」内でも議論しているように、金属などに比べてかなり小さい。 時間が限られているので、熱伝導率が小さい氷を対象に短時間にボトル内の熱を取り去る工夫が、決め手になると思われる。 
 ペットボトル内にある0度の水をペットボトルの外側から−40度で冷やす場合を考える。 冷やすというと、対象となる物質の温度が徐々に低くなっていく状況を思い浮かべるが、この場合は水の凝固潜熱を取り去ることに使われて温度は−40度と一定である。 水を入れたペットボトルを静置して冷やしていくと、ペットボトル壁面から凍り始める。 ボトル容器は薄いので、それ自体の熱伝導の大小は無視できるとする。 氷の熱伝導率が「2.2ワット/(メートル・ケルビン)」であるので、15分後を計算すると、理論上2.2センチメートル厚さの氷ができる。 質量にすると、約460グラムである。 番組制作担当者は、この計算結果を知っていた節がある。 時間を倍の30分にすると、(2倍の4.4センチメートルではなくて)3.1センチメートルの厚さの氷となる。 これではペットボトルの水の大部分が凍ってしまって、勝敗を決することができない。 それで、制限時間を「15分」と定めたと・・・。 
 上記の計算には、いくつかの仮定がある。 ペットボトル内の水の温度が0度であることや、ペットボトル容器の温度が直ちに−40度になるということなど。 したがって、実際には、これ程は凍らないことになる。 
 この条件下で、上の計算値以上に凍らすには、どのようにすべきであるか。 液体の水の熱伝導率は「0.58ワット/(メートル・ケルビン)」であって、固体である氷の3割以下である。 しかし、液体状態では「対流」による熱伝導があり、遥かに良い熱の伝導を与える。 撹拌すれば、より大きい熱の移動が期待される。 
 肝は、凍結という目的に逆行する「水を凍らさないこと」であり、その「液体状態の水の流動を促すこと」である。 
 このことを取り入れた(*1) 点で、空調で売上高世界ナンバー1大企業の設計者グループは、勝ったも同然である。 
 独自の冷却技術をもつ中小企業の技術者グループは、この2つのことに対して無策であった。 冷媒として−30度で凍る水溶液(塩化マグネシウム水溶液か?)を用いている(*2)。 そのため、ペットボトルを冷やす時間の大部分が、この水溶液が氷結する温度である−30度で推移する(*3) ことになった。 大企業のグループでは−40度にした不凍液を激しく撹拌しながらペットボトルを冷やしていたのとは対照的に、−30度で冷やすことになる・・・。 
 長年にわたって培われた技能・技術に関する知見は貴重であり、今後も継承していかねばならない。 しかし、今までに体得された技能・技術を使うだけでは、新たな課題を乗り越えられないこともあろう。 科学に裏付けられた知識を活用して、技術を更に発展させることを目指す体制こそ、真の技術立国の姿であると考えている。
 

(*1) 実行された「ペットボトル内壁に生成した氷を割る」という手法は、氷の持つ小さい熱伝導率を回避することに有効である。 これは、番組内での紹介によると、科学に裏付けられた知識の活用ではなかったようである。 社内技術者によってもたらされた「これまでに培われた技能・技術に基づく助言」を参考にしたと・・・。 
 この手法によって副次的に生じる「氷を割る際の衝撃によってペットボトル内に水の流動を起こして、熱エネルギーの移動を促進する」という重要な効果を認識していたかについては、番組内で言及されなかった。

(*2) 番組内のナレーションによると、ペットボトル周りの冷媒として、当初は不凍液を考えたということである。 その後、固体の方が熱伝導度が大きいとのことで、不凍液に代えて、氷結する「水」を使用することにしている。 更に検討を重ねて、最終的に、−30度で凍る水溶液に行き着いたという。 
 そもそも問題になる部分は、「固体の方が熱の伝わり方が良い」との思い込みから一時は「氷を選択」したことである。 熱の移動において、「熱伝導」だけを考えるならば、これは正しい。 しかし、熱の移動には「対流」や「熱放射」も関与するということが抜けている。 その根元には、熱の移動現象の本質を理解していないことが窺われる。 科学教育の不足があって、その結果として高い科学的思考能力が感じられないということである。

(*3) 凝固点が−30度である水溶液をもちいると・・・。 
 冷却装置が作動し始めると、『図20-2 冷却用水溶液温度の時間変化』の(T)の領域に示すように、水溶液の温度は順調に低下していく。 その温度が−30度になると、水溶液の凝固が始まる(a)。 これ以後、水溶液のすべてが凝固するまで(b)、この部分の温度降下は止まってしまう。 ペットボトルを冷却する部分の温度が、直ちに−40度になるのではなくて、長い時間−30度に留まってしまうということである。 
これは、冷却効率を下げてしまうことに繋がる。 

 図15-2 冷却用水溶液温度の時間変化 

  冷却のためのエネルギーが、ペットボトル内の水の氷結のためではなくて、(U)の領域で示すように凝固点が−30度である水溶液を凍結するために使われてしまうことに、着目すべきであった。 
 この水溶液に代えて、不凍液を使ったとすると・・・。 
(1)『図20-2 冷却用水溶液温度の時間変化』中の(U)で示す−30度での冷却温度の停滞が、無くなる。 
(2)冷却液である水溶液が凍結する際に必要であった凝固エネルギーが、不要になってしまう。 
(3)対流することでスムーズに熱が伝導する(し、撹拌すれば大幅な熱移動の改善が見込まれる)。 
 これによって、ペットボトル内の水の氷結は、かなり促進できるはずである。

 

(16)自動はダメ、手動もダメ!
 
<福島第1原発>1号機のベント「失敗」 弁開放は未確認

 東京電力福島第1原発1号機の水素爆発の直前に行われ、成功したとされる格納容器の圧力を下げるための「ベント」(排気)が、実際には失敗した可能性が高いことが分かった。 ベントのためには弁を開けなければならないが、東電関係者は「十分に開かなかった」と証言、東電本店も「弁開放は確認できていない」と述べた。 専門家も「データから、いったん開いた弁が閉じたと読み取れる」と指摘している。 
 1号機の原子炉建屋内にはベント実施前から水素がたまっていた疑いがあると専門家は指摘しており、ベントの「失敗」が爆発に直接結びついたのかは不明。 だが、国際原子力機関(IAEA)に7日提出した政府の報告書には「ベント成功」と記載されており、事故調査・検証委員会で議論となりそうだ。 
 東電などによると、1号機では3月12日午前0時6分、格納容器内の圧力が上限値(427キロパスカル=約4.2気圧)を上回る600キロパスカルに達し、吉田昌郎所長がベントの準備を指示。 政府も午前6時50分、原子炉等規制法に基づくベントを東電に指示し、午前9時ごろから作業が始まった。 
 ベントでは格納容器内の水蒸気や水素ガスが、底部にある圧力抑制プールから配管を通り、空気の圧力で弁を開放するAO弁(建屋地下1階)通常は電動で作動するMO弁(建屋2階)を通過し、排気筒から建屋外に放出される。 AO弁には小弁、大弁と呼ばれる二つの弁があり、どちらかが開けば水蒸気は排気筒へ向かう仕組み。 
 東電は午前9時15分ごろ非常用のハンドルを手動で回しMO弁を25%程度開けることに成功。 同9時半ごろ小弁の開放を目指したが、付近の放射線量が高く手動での作業を中止し、同10時17分、中央制御室から機械操作で小弁開放を試みた。 
 この直後の同10時半、建屋外の放射線量が一時的に急上昇し、放射性物質が放出されたとみられるが、30分後には元の数値に低下。 一方、格納容器の圧力は下がらず、ベントの効果を確認できなかった。 このため午後2時ごろ、協力会社から借りた仮設の空気圧縮機(電動空気入れ)を使い、大弁に空気を送ることで弁を開放する作業に切り替えた 
 その後、格納容器の圧力は作業直前の755キロパスカルから530キロパスカルまで下がり、午後3時ごろに東電は「午後2時半にベント成功と判断」と発表。 経済産業省原子力安全・保安院も追認した。 
 しかし、東電関係者は「弁の開放は十分ではなかった」と証言した。 圧縮機による作業では空気の圧力不足で大弁が全開に至らなかったといい、弁の開放を示す計器「リミットスイッチ」にも変化はなかった。 また、格納容器の圧力は午後3時ごろ下げ止まり、同3時36分の水素爆発まで上昇に転じていた。 
 東電は「圧力が低下したので成功と判断した。 大弁の開放は確認できていない」と説明。 原子力安全・保安院は「ベント成功の判断をしたのは東電で、政府として言及していない」と釈明するが、政府はIAEAへの報告書に「東京電力がベント成功と判断した」と記載し提出している。

2011年(平成23年)6月24日(金)02時31分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 ベントのためには弁を開けなければならないが、そのためには、空気の圧力で弁を開放するAO弁(建屋地下1階)通常は電動で作動するMO弁(建屋2階)の両方を開ける必要がある。 
 ところが、通常は電動で作動するMO弁については、ようやく非常用のハンドルを手動で回しMO弁を25%程度開けることに成功した。 もう一つのAO弁については、そのAO弁の1つである小弁の開放を目指したが、付近の放射線量が高く手動での作業を中止せざるを得なかった。 別の方法でAO弁を開けるために、AO弁のうちの大弁について協力会社から借りた仮設の空気圧縮機(電動空気入れ)を使い、大弁に空気を送ることで弁を開放する作業に切り替えたが、それについて東電関係者は「弁の開放は十分ではなかった」と証言している。 
 平常の場合には、電気が使えるから電動の弁操作もできるし、空圧機器(圧縮空気で作動するバルブなどの装置)を操作するための電動のコンプレッサーも動作する。 
 地震・津波などによって停電してしまっても、通常は電動で作動するMO弁(建屋2階)は、非常用電源装置で対処できる。 配電経路に異常が生じても、電線の引き回しであるから時間が掛かったとしても復旧は比較的容易であろう。 幸運なことに、MO弁建屋2階に設置してあるので、放射能の影響が多くない環境下で修理できる。 
 一方、空圧機器用の配管は、地震・津波などに対してまったく脆弱である。 破損してしまった配管のつなぎ直しは、電線の引き回しとは違って、大きな困難を伴う。 既存の配管を修理する代わりとして、設置された仮設の圧縮機による作業では空気の圧力不足で大弁が全開に至らなかったという。 空圧機器は、停電時にもタンクに溜まっている圧縮空気を使える便利な装置であるが、地震などの非常時には配管の引き回しに生じた破損による空気漏れでこの機器の操作を困難にしてしまう。 放射性物質の炉内への閉じ込めを考えると、圧縮空気の圧力が減少したときには(フェールセーフの観点から、強力なバネなどを使用して)弁が閉まってしまうように設計されるはずである。 この点から、高圧の圧縮空気なしに弁を開けることは難しい。 仮設の空気圧縮機と仮設の配管では、高い空気圧をバルブに送ることは困難であろう。 
 また、空気の圧力で作動させるAO弁が圧縮空気の配管と操作の都合上からコントロールルームに近い建屋地下1階に設置してあることは、このような事故の際には放射能の被爆に対して最悪の配置である。 放射能汚染を考えるなら、離れたところからスイッチ一つでオンオフできる電動のMO弁のように、建屋2階に設置すべきであった・・・。 圧縮空気配管の都合と平常時の運転操作の利便性を、優先した結果というべきか。 
 非常時に、空圧機器が不調であると、残るは「手動」操作である。 しかし、「手動」操作には、付近の放射線量が高く手動での作業を中止せざるを得ないといった「原子力産業」特有の環境が存在する。 弁の設置位置の配慮不足から、お手上げ状態である
 

(17)地図は
 
土砂ダム 排水難航
険しい山々 ポンプ車阻む
 図17-1 土砂ダムとその被害エリア 
2011年(平成23年)9月13日(火)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版1面 赤丸(筆者による追加)の部分は右記引用部分
 今回は新聞記事に添えられている図(地図)について。 
 記述では伝えられない情報も、図を使えば読者を納得させられる記事が書ける。 しかし、その図が適切でないならば、逆に、読者が誤解してしまう。 その1例が、土砂ダムによる被害発生予想の記事である。 土砂ダムの位置とそれによる被害想定エリアが、図に示されている。 
 図をそのまま見ていると、「熊野地区」の被害エリアが、それ以外の地区と同じ規模のように見える。 実際には、それ以外の地区の予想被害区域に比べると、それ程には広くない。 その原因は、実は、縮尺の違いにある。 
 「熊野地区」の縮尺は、それ以外の地区のよりも「倍の大きさ」になっているからだ。 各地区の予想被害区域を、コンパクトな図にすることに気を使った結果であろう。 正確な情報を読者に誤解させないように発信することには、気を使っていないように見える。 図のデザインの美しさを優先しているようだ。 こんな図が「美しい」と思っているのなら、とんでもない思い違いをしている。 図のもっている機能を100%発揮しているものこそ、本来的に美しいものである。 
 詳細に見ると、各地域を区分する枠は、乱雑である。 このようなジグザグに区切らなければ描ききれない理由は、まったく見当たらない。 よく見ると、「赤谷地区」と「長殿地区」は地域的に重なっているようであるが、図からは別々の区域のように見えてしまう。 このように重なっている事象を明快に示す図上での普遍的な処理法を、心得ていないようである。 この図は、情報伝達の点で汚い以外の何ものでもない! 
 同じ地図面で、同じ事項を表すのであれば、同一の縮尺で表すべきであろう。 そうでなければ、ものごとの大小を誤ってしまう可能性があるから。

 
西之島新島、なお成長中
 
 図17-2 西之島に新島出現 
 西之島の南南東約500メートル 
 (一部改変) 
 

 小笠原諸島の西之島近くの海上で、海底火山の噴火による新島が見つかってまもなく1年。 西之島とくっついた後も拡大を続け、元の西之島は西岸中央の一部を残して溶岩で埋まっていた。 13日、本社機から確認した。 
 海上保安庁が新島を確認したのは昨年11月20日。 東京から南へ約1千キロ離れた小笠原諸島の父島の西約130キロにある西之島近くで直径200メートルの島を見つけた。 流れ出た溶岩が海底を埋めて島の面積を広げ、12月25日には約500メートル離れた西之島とつながった。 
 海上保安庁によると、新しくできた島の部分は今年10月16日時点で1.85平方キロ、発見当時の0.01平方キロから185倍になった。 元の西之島の部分と合わせた島全体の面積は東京ドームの約40倍にあたる1.89平方キロで、噴火前の8.6倍という。 
 本社機に同乗した東京大地震研究所の中田節也教授(火山学)は「噴火は数年単位で続き、島の拡大も当面続くだろう」と語った。【 北林晃治 】

2014年(平成26年)11月14日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版31面(社会)
赤丸及び赤三角形(筆者による追加)の部分及び赤字は右記引用部分
 海上保安庁が新島を確認したのは昨年11月20日。 東京から南へ約1千キロ離れた小笠原諸島の父島の西約130キロにある西之島から南南東方向に約500メートル離れたところに直径200メートルの島を見つけた。 
 『図23-2 西之島に新島出現』の最下部の地図で、赤の三角形が最初に噴火した新島の場所である。 地図の白い部分が「元の西之島」の中で溶岩に被われていない陸地部分であって、赤い丸で示してある。 この地図は、慣例に従って、普通に北を上にして描かれている。 そのことには、何ら問題はない。 
 しかし、その地図の上側に添えられた写真があると、問題なしとはならない。 地図上で赤い丸がつけられている陸地部分は「元の西之島」で、上空からの写真に同じ場所が赤い丸で示してある。 今回の噴火によって出現した新島を赤の三角形で示すが、写真では左上に写っている。 カメラは北側から南に向けられている。 地図の方向とは180度違う。 地図が、写真による新島の噴火拡大の理解を助ける目的を持っているならば、双方は一致していることが好ましい。 とすれば、地図を回転させて掲載すべきである。 
 地図には、方位距離を明示すべきであるが、新聞記事にはそれらが示されていないことが多い。 この地図では、その条件を満たしている。 しかし、その地図が現象の理解を妨げているとすれば、それらが完全に記載されているとしても、良い記事とはいえない。
 

(18)科学にマスコミは
 
みのもんたの朝ズバッ!
小学校での綱引き事故

 昭島市立拝島第二小学校で開催された自治会主催の運動会で綱引き事故が起こった。 各人が綱を引く力は、体重の1.5倍であるという。 参加者の推定される平均体重である40キログラムと参加者数から、綱には、双方から5.1トンの力で引いていたと推測。 「みのもんた」さん曰く「綱には10トンの力が、かかっていたんだね」。

2011年(平成23年)10月11日(火)07時50分
TBSテレビ 赤字は右記引用部分
 今回は、テレビの話題から。 
 みのもんたさんが番組中でちらりと言った一言「綱には10トンの力が、かかっていたんだね」を検討する。 
 綱引きの綱の中央部分には、どれだけの力がかかっていたか? 
 単純に考えたら、5.1トン+5.1トンで「10.2トン」になりそう。 だが、物理の授業では、そうはならないことを教えてくれている。 正解は5.1トンである。 
 「みのもんた」さんは、この場面で「綱には約5トンの力が、かかっていたんだね」と言うべきだった。

[補足] 
 この件について、翌12日(水)のTBSテレビ「みのもんたの朝ズバッ!」の番組の最後で、正しい値に訂正された。 
 咄嗟の判断に伴う誤解・言い間違いは、どのような人にもあり得るものである。 
 もし誤解・言い間違いをしてしまったときに、それを適切に修正できるかどうかがキーポイントである。 
 このように迅速に処置される番組キャスターとその放送局スタッフには、好感が持てるとともに、信頼を感じることができる。

[追加] 
 この番組のキャスターが降板してしまい、その後、番組自体が終了してしまった。 キャスター降板に至る事情の深層は知るよしもないが、表面的には、本人自身に問題があった訳ではないと理解している。 普段からの高飛車な物言いが、原因になってしまったのか。 ただ、上に述べた件をも含めて、誠実な番組作りに努めていると思っていたので、この成り行きは誠に残念なことである。 
 類似の番組には、「情報番組」を標榜していながら、出来事の上っ面を撫でるだけの映像表現に終始しているものもある。 頭の切れそうなキャスターが、自身は取り上げた話題に「無知ですよ」的な番組進行で、きわどいことは出演しているパネリストに云わせている。 問題発言があったとすると、そのパネリストを交代させて禊ぎを済ませるつもりかと・・・。 そのような番組は、見た後で、心に何も残らない。 だが、キャスターの見た目庶民レベルの知識であることの安心感と、万人から批判を招かないようにする慎重な発言から、番組への一定の支持が得られることになってしまう。 番組の方向性をそのようにしているのは、ある意味キャスターの狡猾さの故であろうか?

 
<山手線トラブル>情報共有ミス重なる 現場と総合指令室
 
 図18-1 電化柱が倒れた経緯 
 (記事中の図をそのまま引用) 
 

 東京都千代田区のJR山手線神田−秋葉原駅間の線路内で12日、電化柱が倒れて長時間運転を見合わせた問題で、倒れた電化柱が傾いていることを最初に確認した工事担当部署の情報が、列車の運行を管理するJR東日本東京支社の東京総合指令室に伝わっていなかったことが13日、JR東への取材で分かった。 情報共有の遅れがトラブルの原因となった可能性が出ている。(中略) 
 また、今回のトラブルで倒壊せず傾いた方の電化柱に付いていた架線は、神田方面に向かって5トン近い力で引っ張られていた。 倒れた電化柱は傾いた電化柱を支える役割があり、2基は支線でつながっていた 
 3月25日に、倒れた電化柱と線路をまたいで反対側の柱を結ぶはり状の構造物が撤去された。 JR東日本はこの工事により、強度が落ちたことが影響した可能性があるとみて原因を調べている。 はり状の構造物の撤去による電化柱の倒壊は過去に例がないという。 
 同社は5月の連休前に同様の電化柱を緊急点検し、同月末までに管内の電化柱約25万本の状態も確認する。【 一條優太 】

2015年(平成27年)4月13日(月)21時22分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 「今回のトラブルで倒壊せず傾いた方の電化柱に付いていた架線は、神田方面に向かって5トン近い力で引っ張られていた。 倒れた電化柱は傾いた電化柱を支える役割があり、2基は支線でつながっていた」という。 倒れた電化柱にも、傾いた方の電化柱を経由して、5トン近い力が働いていたであろう。 この力を解消するために、倒れた方の電化柱の支線は、その根元に固定されているはずである。 そうであれば、5トン近い力の大部分は横方向(水平方向)に加わっている。 電化柱の基礎部分を、横に引っ張る力である。 適切な施工がなされていれば、コンクリートと土砂によって充分に固定できる力である。 
 ただし、5トン近い力の一部は、力の分解力の平行四辺形)から、この電化柱を上方に引き上げる力となる。 2つの電化柱間の距離が約50メートルであるので、この力はそれほど大きくない。 基礎部分を含む電化柱の重さと比べると、電化柱を浮き上がらせるほどの力では、ない。 
 「倒れた電化柱と線路をまたいで反対側の柱を結ぶはり状の構造物が撤去された。 JR東日本はこの工事により、強度が落ちたことが影響した可能性があるとみて」いることについては・・・。 このはり状の構造物電化柱間をつなぐ支線は、直交している。 そのため、はり状の構造物がこの電化柱を張力方向に支えている部分は、ラーメン構造における接合部の「ねじり剛性」によっている。 この値を大きく取ることはできない。 上記の張力を、部分的であっても、担わせるような設計になっていたとしたら、その方が不適切である。 そうであるので、はり状の構造物の撤去によって、電化柱の強度が落ちたということにはならないと考えられる。 
 5トン近い張力は(倒れてしまうことになった)電化柱の基礎部分で支えるべきであり、そのように設計されているはずである。 土台部分の崩壊などによる経年劣化により基礎構造が脆くなってきていて、張力の一部をはり状の構造物の接合部「ねじり剛性」で担っている状態で、辛うじて倒れずにいたと考えられる。 その危ういバランスが、倒れた電化柱と線路をまたいで反対側の柱を結ぶはり状の構造物が撤去されたことで、崩れてしまった・・・。 
 とすると、この電化柱の倒壊の主因として、はり状の構造物が撤去されるような工事により、強度が落ちたことでは、ないことがいえる。 たとえはり状の構造物が撤去されないままで使われ続けたとしても、そう遠くない将来に、倒壊に至った可能性が大きい。 電化柱の基礎部分に、倒壊の原因があるものと考えている。
 
支柱の強度計算怠る
山手線 はり撤去後 内規違反
 
 図18-2 支柱の倒壊とはりの関係 
 (記事中の図をそのまま引用) 
 

 東京都千代田区のJR山手線で起きた架線の支柱の倒壊事故で、JR東日本は17日。支柱の上部にあった鉄製のはりを事故の18日前に撤去した際、社内マニュアルに反し、事前の強度計算を怠っていた、と発表した。 はりの撤去で架線からの張力への強度が落ち、倒壊を招いた可能性がある。 
 社内マニュアルでは、工事で鉄道設備の構造が変わる場合、設計段階での強度計算を求めているが、今回その形跡はなかった。 理由は調査中だが、工事計画の承認までに経る設計管理者など複数のチェックも素通りしていた。 同社広報は「事前に強度不足が分かっていれば、今回の工事手法はとらず、事故を防げたかもしれない」と話す。 
 事故は12日午前6時10分ごろ、神田−秋葉原間で発生。 支柱1基(基礎部分も含め約4.3トン)が倒壊し、先端が山手線のレールに接触。 ワイヤで繋がっていた1基も傾いた。 JR東によると、鉄製のはりは倒れた支柱と線路2本をまたいで、別の支柱につながれていたが、3月25日に設備更新工事の一環で撤去された。 それまで架線からかかる約5トンの張力には、このはりと、倒れた支柱の重さで耐えていたという 
 JR東は社員らへの聞き取り調査を進め、5月上旬にも中間報告として発表する。 工事中だったり、工事が計画されていたりする、同様の構造の支柱がある管内の247カ所せは、いずれも正しく強度計算が行われていたという。 
 同社は「改めておわび申し上げる」としている。【 東郷隆 】

2015年(平成27年)4月18日(土)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版33面(社会) 赤字は右記引用部分
 「架線からかかる約5トンの張力には、このはりと、倒れた支柱の重さで耐えていたという」ことについて、物理学の観点から検討してみる。 
 まず、記事にある『図25-2 支柱の倒壊とはりの関係』(この図では現場の東側から見た様子であるが、『図25-1 電化柱が倒れた経緯』では西側から見たものであって、左右が逆である)の上部で、支柱の場所に記入されている「4.3トン」について。 基礎を含む支柱の重さは4.3トンである。 図では右方向への引張り力として示されているが、それは完全に間違っている。 下の『図25-3 支柱が及ぼす力の分布』に示すように、それは「下方向」への力である。 
 図18-3 支柱が及ぼす力の分布 
 では、右方向への引張り力は、どれだけか?  それは、摩擦力によって決まる。 支柱の基礎工事に瑕疵がないとすれば、「4.3トン」よりもかなり大きい値になるはずである。 
 したがって、架線からかかる約5トンの張力には、余裕を持って耐えられる。 内規に従って工事で鉄道設備の構造が変わる場合、設計段階での強度計算を求めに応じて計算したとしても、工事計画の承認までに経る設計管理者など複数のチェックをしたとしても、計算上は充分に耐えられることになってしまう。 支柱の基礎部分が頑丈である限りは・・・。 
 では、架線からかかる約5トンの張力には、このはりと、倒れた支柱の重さで耐えていたということの中の「はり」が、どのような役割を果たしていたか?  「はり」が架線からの張力の一部を担っているとのことであるが、「ワイヤ」と「はり」は直角方向での結合であるので、その張力を分担できる状態ではない。 「はり」を外すことで、この支柱の力関係が変化することは、ない。 だが、「はり」は、無駄ではなかった。 倒壊することになった支柱が、「はり」によって、左右に(枕木方向に)揺れることを防止してきた。 その「はり」がなくなることで、支柱が左右に振れることで次第に基礎部分が緩くなってきて、架線からかかる約5トンの張力に耐えられなくなった・・・ということであろう。 
 JR広報による「事前に強度不足が分かっていれば、今回の工事手法はとらず、事故を防げたかもしれない」ということは、机上の計算で確認する体制である限りでは、防止できたかといえばおおいに疑問である。
 
山手線事故 調査報告
 図18-4 山手線事故の調査報告報道 
2015年(平成27年)5月9日(土)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版29面(社会)
赤枠囲みは筆者による描き込みで右記引用部分
 今回の調査結果に基づいた記事で、支柱倒壊に至った経緯に納得できた。 「ワイヤ」は工事の関係で地面から高さ約2メートルに設置したということである。 
 力学的に考えると、この「ワイヤ」は支柱の基礎部分に固定すべきである。 前記の記事中の『図25-2 支柱の倒壊とはりの関係』も、常識に従って、「ワイヤ」は支柱の地面部分に繋がっているように描かれている。 ところが、実際にはそうではなかったという。 記事に基づいて、実際に張られていたと思われる「ワイヤ」の位置を、下図に「黄色」で示す。 「ワイヤ」が地面から高さ約2メートルに設置された理由の一つは、多分、工事関係者の往き来に支障が生じないようにするためであろう。 
 図18-5 正しいワイヤの取り付け位置 
 「ワイヤ」が高さ約2メートルに設置しているのであれば、約5トン重の張力による曲げモーメントは相当なものになってしまう。 支柱自体の大きな曲げ強度に耐える構造が要求されるだけではなく、その基礎構造も充分な強度が要求されるはずである。 「補助ワイヤなど」をもちいない支柱1本で支えることになる「このような構造物」は、一般的ではない。 
 約5トン重の張力を、支柱の土台部分で支えているのであれば何故支柱が倒れてしまったかが不思議であったが、工事の関係でということであっても「ワイヤ」が高さ約2メートルに設置したことで倒れてしまったというのであればそれは力学的に当然起こり得ることである。 このような力学的に不安定な構造物を設計し、それをチェックできなかった体制には、疑問が残る。

 
水害 私ができる備えは
増水時・・・水深50センチ超で転倒の恐れ/
30センチでドア開けにくく
 図18-6 「水の力の大きさ知って」 
 (記事の部分) 
2015年(平成27年)9月15日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版21面(生活)
赤枠囲みは筆者による描き込みで右記引用部分
 「水圧は、「水深の二乗」に比例するので、水深が2倍になると水圧は4倍に」なるという。 
 これは、誤り。 
 水圧は、水深の『一乗』に比例する。 この解説記事に関する情報提供者である防災水工学が専門の関西大学教授である石垣泰輔氏自身の誤解か、記事にするときに間違ってしまったかは、判断できないが・・・。 
 そもそも、「水圧」という言葉には、「水があることによって生じる圧力」という正しい意味の外に、非科学的な用法ではあるが日常生活では違和感のない使い方として「水によって及ぼされる」を表すのにも使われる。 前者については、海面下50メートルの水圧は、海面よりも5気圧だけ高いという。 この5気圧は、海水が高さ50メートルにわたって積み重ねられることによって生じた圧力である。 後者は、次項の『幅80センチの一般的なドアにかかる水圧は、水深が10センチで4キロ・・・』と記されている中の「水圧」の表現である。 この「水圧」の値が「4キロ」、「36キロ」、「100キロ」であるとされ、これは、を表している。 もっとも、これらは、4キログラム重、36キログラム重、100キログラム重であって、この表現にも誤りがある。 これ以外では、「放水時の水圧によって、吹き飛ばされる」場合も、同様であろう。 向かってくる水の「力」によって、激しく動かされたのである。 
 「水圧は、「水深の二乗」に比例するので・・・」の「水圧」は、この「後者」の用法で、非科学的な表現としての「水による力」を表す用法で、無意識に、使ってしまったものと思われる。 「水による力」であれば、「水深の二乗」に比例するから。 
 図18-7 ドアにかかる「水圧」と「力」 
 「上から見たドア」の図:ドアを開けるために必要な「力」の大きさ 
 つぎは、「幅80センチの一般的なドアにかかる水圧は、水深が10センチで4キロ、30センチで36キロ、50センチで100キロにもなる。 約800人を対象にした実験では、小学生を含めた全員が1人で開けられたのは水深10センチまで。 30センチになると力の弱い女性や高齢者など成人でも開けられない人がいた」ということである。 確かに、水深が30センチになって36キログラム重の力でドアを押さねばならないとすると、それほどの力で押すことは、難しい人もいるだろう。 しかし、ドアを押さなければならない36キログラム重の力は、ドアの「中央部」を押すときである(『図25-7 ドアにかかる「水圧」と「力」』の「上から見たドア」図の上側」)。 ドアの「ノブ部分」を押すのであれば、力のモーメントから、その半分の力で押し開けられる(『図25-7 ドアにかかる「水圧」と「力」』の「上から見たドア」図の下側」)。 そのときの力は、満タンの灯油を入れたポリタンクを持ち上げるのと等しい。 押す力は、持ち上げるよりも大きな力を発揮できるから、虚弱者でなければ、子供でも可能である。 重要なことは、「そこでは一言も触れられていないが、ドアの何処を押せば「容易に」開けられるかを記事にすること」である。 上記の教授は、それについては、教えてくれなかったということか。

 
凍土壁 効果見られず
福島第一原発 台風で地下水位上昇
 
 図18-8 福島第一原発の地下水位の変化 
 (イメージ) 
 

 東京電力福島第一原発で、汚染水対策で設置が進む凍土壁で遮蔽された下流のエリアの地下水位が、台風10号による降雨の影響以上に上昇していたことが1日、わかった上流の原子炉建屋側の地下水が凍土壁を抜けて流れ込んだとみられ、凍土壁の効果が表れていない実態が浮き彫りになった 
 東電によると、凍土壁の下流の護岸の地下水位は、台風10号が通過した先月30日に一時、地表の下28センチまで上昇した。 台風10号の通過前は35センチ下だったといい、7センチほど上昇した。 台風10号による付近の降水量は1日で55ミリそれだけなら5.5センチの上昇ですむはずだが、ポンプで740トンの地下水をくみ上げたにもかかわらず、降水量を超える水位の上昇があった 
 東電は、高濃度汚染水がたまっている原子炉建屋の近くを通って汚染された地下水が、凍土壁を抜けて流れ込んだとみている。 凍土壁が効果を上げていれば、水位が降水量以上に上昇しなかったと認めた。 
 地下水が地表まであふれ出た場合、側溝などを通じて海に流れ出す恐れもあった。 東電の担当者は1日、「あと150ミリ降っていたら、地表面を超えていたかもしれない」と話した。【 富田洸平 】

2016年(平成28年)9月2日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面 赤字は右記引用部分
 これは、「東京電力福島第一原発で設置が進む凍土壁」に関する記事であるが、台風の降水による地下水位の変化について非科学的な説明がなされていることを明らかにしてみる。 
 「凍土壁の下流の護岸の地下水位は、台風10号が通過した先月30日に一時、地表の下28センチまで上昇した。 台風10号の通過前は35センチ下だったといい、7センチほど上昇した。 台風10号による付近の降水量は1日で55ミリ」であったという。 
 ここまでは、生じた事実の記述である。 
 これを受けて、「それだけなら5.5センチの上昇ですむはずだが、ポンプで740トンの地下水をくみ上げたにもかかわらず、降水量を超える水位の上昇があった」という記事が続いている。 すなわち、降水量は1日で55ミリであって、更にポンプで740トンの地下水をくみ上げたにも係わらず、降水量を超え7センチほど水位の上昇があったことを説明するために想定したことは、凍土壁を通って外部からの流れ込みがあったに違いないということである。 
 この説明での間違いの原因は、「台風10号による付近の降水量は1日で55ミリ」であったので、「それだけなら5.5センチの上昇ですむはずだ」という「思い込み」である。 
 それを、図を使って解説してみよう。 
 図18-9 降雨に伴う水位の変化 
 左:池などへの降雨の場合 
 右:地面への降雨の場合 
 『図25-9 降雨に伴う水位の変化』の左側は、55ミリメートルの降雨があった場合に、池などの水域での水位の変化を示す。 このとき、水は流れ出ないとする。 降雨の分だけ水位は上昇するから、この場合に限っては、水位が5.5センチメートルだけ上昇するということは、正しい。 
 しかし、「地下水」の水位変化は、池などの水域での水位の変化とは、まったく別物である。 『図25-9 降雨に伴う水位の変化』の右側は、降雨による地下水の水位変化を表す。 降雨水は、限られた区域の外側へは、流れ出ないとする。 左側とは違って、開水面ではない場所では、降雨は土砂の隙間を満たすように浸み込んでいく。 水位の変化量は、土砂の空隙率によって変化するが、降雨量の55ミリメートルよりもかなり大きくなってしまう。 もし土壌が均一粒子からできていて、その粒子が六方最密充填構造をとっているならば、空隙率は26パーセントであるので、55ミリメートルの降雨量では、21センチメートルの水位上昇をもたらすことになる。 実際には、そこにより細かい粒子が入り込んでいるので、その空隙率は更に小さくなり、水位上昇の程度は更に大きくなってしまう。 また、『図25-9 降雨に伴う水位の変化』の右側に示すように、水路や井戸などが存在すると、それに応じて地下水位の上昇は鈍くなってしまう。 
 凍土壁で囲まれた区域の面積は10万平方メートル弱であるので、ポンプで740トンの地下水をくみ上げたときには、降雨量を約8ミリメートルだけ減らす効果を持つ。 降水量は1日で55ミリであって、ポンプで740トンの地下水をくみ上げた効果を考慮しても、降水量を超える水位の上昇である7センチほど上昇したことに「何ら矛盾することはない」ことを示している。 
 そのことから、「東電は、高濃度汚染水がたまっている原子炉建屋の近くを通って汚染された地下水が、凍土壁を抜けて流れ込んだとしている」が、そのような地下水の流れ込みを考える必要性は、まったくない凍土壁が効果を上げていれば、水位が降水量以上に上昇しなかったと認めるといった「凍土壁の効果」とは無関係なことである。 『図25-8 福島第一原発の地下水位の変化』にある「上流側からの流れ込み」を想定しなくても、この地下水位の上昇を説明できる。 逆に、この地下水位の上昇から、「凍土壁の不完全性」は議論できない。 
 汚染水対策で設置が進む凍土壁で遮蔽された下流のエリアの地下水位が、台風10号による降雨の影響以上に上昇していたことが1日、わかった」とし、「上流の原子炉建屋側の地下水が凍土壁を抜けて流れ込んだとみられ、凍土壁の効果が表れていない実態が浮き彫りになった」ということを、このケースを基に明言することは、完全に間違っている。 これが東電の認識であるとすると、その科学的能力には呆れるほかにはないといえる。

 
<金正男氏殺害>猛毒VX、現場で2物質混合か 実行犯の女

 【クアラルンプール平野光芳、岸達也】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏(45)が殺害された事件で、マレーシア警察は24日、遺体の顔から取ったサンプルで猛毒の神経剤VXが検出されたと発表した。 カリド・アブバカル警察長官は記者団に「死因はVXだ」と述べ、正男氏が毒殺されたことが確定的になった。 実行犯の女2人の被害が軽かったことから、反応してVXになる毒性が低い2種類の薬剤を別々に運び、現場で混合させてVXを発生させた可能性を指摘する声も上がるが、実際に可能かは不明で謎は深まっている。(中略) 
 ある捜査関係者は毎日新聞に対し「2種類の薬物を混合させた可能性がある」と話した。 米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)は、毒性の低い二つの物質を正男氏の顔の上で混合させてVXを生成することが、仮定の話としてはあり得るとする米国の専門家の話を伝えた。 
 VXは「人類が作った化学物質の中で最も毒性が強い物質」とも呼ばれるが、VXになる前の二つの物質は毒性が低く、運搬も容易という
。(後略)

2017年(平成29年)2月24日(金)19時40分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
皮膚から吸収 呼吸困難に
 図18-10 皮膚から吸収 呼吸困難に 
2017年(平成29年)2月25日(土)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面(総合3)【 記事: 小川裕介、香取啓介、山本亮介 】
 金正男(キム・ジョンナム)氏(45)が殺害された事件で、マレーシア警察は24日、遺体の顔から取ったサンプルで猛毒の神経剤VXが検出されたということである。 
 どの程度の化学分析の結果かは報道されていないが、疑わしい点は少ない。 
 さらに、反応してVXになる毒性が低い2種類の薬剤を別々に運び、現場で混合させてVXを発生させた可能性を指摘する声も上がっているという。 それは、米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)は、毒性の低い二つの物質を正男氏の顔の上で混合させてVXを生成することが、仮定の話としてはあり得るとする米国の専門家の話を伝えた。 VXは「人類が作った化学物質の中で最も毒性が強い物質」とも呼ばれるが、VXになる前の二つの物質は毒性が低く、運搬も容易ということからである。 
 この部分は、非常に疑わしい。 
 2種類の薬剤を混合して強力な毒物にする手法は、軍事的には、二成分式化学兵器(binary chemical weapon)と呼ばれている。 一般に「G剤」と呼ばれ、タブン、サリン、ソマン、エチルサリン、シクロサリンなどである。 この記事の「毒性が低い2種類の薬剤を・・・現場で混合させて」は、この二成分式化学兵器を指している。 たとえば、「メチルホスホン酸ジフルオリド」と「イソプロピルアルコール」とを予め用意しておいて、現場で両者を混合することで「サリン」を発生させることなど。 ただし、サリンの場合には、前者のメチルホスホン酸ジフルオリド自体の毒性が極めて強いので、毒性が低い2種類の薬剤の混合という訳ではない。 
 ここでいわれている「VX」は、神経ガスという性質は「G剤」と同じであるが、「V剤」シリーズの1つである。 これは、二成分式化学兵器とは別のものである。 「VX」が二成分式化学兵器にはなり得ない理由は、知られてる「VX」の合成法では、合成の最後の段階で高温状態での異性化反応があるので、現場での混合によって短時間に生成させることができないためである。 さらに、「V剤」シリーズは低い蒸気圧と化学的安定性を有しているので、「G剤」とは違って、最終的な化合物の形で長期貯蔵に耐えるということもある。 
 記事中に引用されている米紙の記事は、神経ガスという点で同一であったために、「G剤」と「V剤」を混同したものと思われる。 
 推測であることを記しているとはいえ、米紙の見解を「メインにした記事」に仕立てている。 毎日新聞は、他の全国紙と比較して、科学記事に関しては「一歩上をいくようである」と思っている。 しかし残念ながら、この記事では「失格」である。 クアラルンプールからの記事であるので、科学部門のチェックが入らなかったのかも知れない。 残念である。 
 毎日新聞とは違った内容で、朝日新聞にも、違和感のある記事が掲載された。 
 「腐食しない金属製の容器に入れれば、運搬は可能だ」という。 さらに、「現在、化学兵器禁止条約の加盟国では原材料の入手が厳格に管理される。 常石さんは「原材料の入手は極めて困難で、オウム事件の時とは状況が違う。 VXが検出されたということは、国家ぐるみの犯罪だということを意味する」と話す」と記されている。 
 上記の部分に違和感がある。 
 原材料の入手は極めて困難であるとのことであるが、VX合成に必要な数種類の原料化合物は、(化学兵器禁止条約により大量に製造するための量を調達することは絶対に無理であるとしても)実験室で合成する程度の量ならば、試薬取り扱い企業から購入できる物質である。 有機合成化学に関する知識があって、ガラス器具で構成された小規模な有機化学合成の実務経験があり、実験台上に組み立てられたそれなりの設備があれば、(国際的にその製造が禁止されていることとは関係なく)想定されている国家ぐるみの犯罪として、合成できてしまう状況にある。 それの致死量が耳かき一杯程度であるとすると、その小規模なシステムでの生産量で充分に間に合ってしまうという(*1) ことになる。 恐ろしいことが易々と・・・。 
 腐食しない金属製の容器に入れれば、運搬は可能だというのは、サリンなどの場合である。 サリンでは、化学的に不安定で水分などによって分解されてしまい、分解生成物が容器を腐食してしまう。 サリンそのものの蒸気圧も比較的高く、運搬の際には、厳重に密閉できる容器を用意しなければならない。 しかし、VXは、強塩基の存在下でのみ分解するなど化学的に安定であって、蒸気圧も常温で10−6気圧程度(*2) とほとんど揮発しない。 腐食しない金属製の容器ではなくて、ラミネートチューブなどのような簡易な容器の使用が可能である。 これは、毒物指定されている「農薬」が、プラスチック製のボトルに入れられて販売されている状況に似ている。 
 社会部が科学に関する記事を書くとき、取材源次第で、読者をミスリードしてしまうという好例である。
 

(*1) 「化学兵器禁止条約化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約)」や、「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」において、毒性物質とそれを合成する際に必要な原料物質は規制されている。 後者の法律では、毒性物質を合成する際に必要な出発物質の大部分は、第二種指定物質に指定されている。 第二種指定物質の取扱量の規制値は、200トンである。 前者の条約で、工業、農業、研究、医療又は製薬の目的その他の平和的目的に添う物質としての除外規定があるから。 
 原材料の入手は極めて困難であるという記事に関して、毒性物質を合成する際に必要な原料物質が、市中に1グラムたりとも存在しないとか流通していないという状況ではない。

(*2)「神経剤の物理的化学的性質」(閲覧『http://www.nihs.go.jp/hse/c-hazard/bc-info/cagent/nerve.html』)及び VXガス - Wikipediaによる。 飽和蒸気圧下では、1リットルの空気中に、揮発したVXが0.01ミリグラム存在している。 ラットにおけるLD50は15μg/kgであるので、そのままヒトに適用すると、約1ミリグラムとなる。 致死量が1ミリグラムであるとすると、呼吸によって100リットルのVXを含む空気を肺に取り込んだときの量に相当する。


 
重力値変わる 体重が変わる
佐渡の60キロの人 0.006グラム軽く
40年ぶり 国土地理院更新
 図18-11 重力値変わる 体重が変わる 
2017年(平成29年)3月17日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面(総合5)【 記事: 吉田晋 】
 変動の最も大きかった新潟県佐渡市では体重60キロの人が約0.006グラム軽くなったことになるという。 
 ここでいう「体重」が「質量」を意味しているならば(「キロ」は質量の単位であるので)、重力加速度が変わっても、その数値は不変である 
 また、「体重」が「重量」を意味しているならば、その変化は微妙である。 
(1)もし、「釣り合い式の体重計」を使っているならば、体重の値は変わらない。 なぜなら、「釣り合い式の体重計」の「測る方」も「測られる方」も等しく0.006グラム(グラム重は重量の単位)だけ小さくなって、重力加速度が変わる前と同じ数値でバランスするから。 
(2)「バネ式」または「電子式」の場合には、体重の値は、少し減るかも知れない。 減る量は、その地点での「重力加速度の減少量」よりは、小さい。 なぜならば、全国的に重力加速度が減少しているので、「標準重力加速度」も、小さくなってしまう。 1キログラムの物体を秤に乗せたとき、従来の目盛りの秤では、1キログラムという目盛りの位置よりも小さい値を指し示すことになる。 そのため、正しく1キログラムを指し示すように更正する必要がある。 (もし、未更正の秤を使って1キログラムの目盛りで量った商品を売るならば、買い手は1キログラムを超過した商品を1キログラム分の値段で入手できることになる。) 新しい目盛りは、従来の目盛りよりは小さい方に偏倚されなければならない。 ある地点で重力加速度が減少して重量が小さくなっても、秤の目盛りの偏倚量に相当する分だけ大きい値を与える。 「ある地点の重力加速度の減少分」マイナス「秤の目盛りの偏倚量分」が、正味の(秤によって示される)重量の減少量となる。 ある地点の重力加速度の減少分が、そのまま重量の減少量になるのでは、ない。 「偏倚量」がその地点の重力加速度に正しく反映されるならば、結局、体重の値は変わらないことになる。 バネ式などの秤の目盛り付けは重力加速度に依存しているので、一筋縄ではいかないことになる。 
 この記事が、重力加速度の減少を実感されるために「体重」を取り上げたことで、不正確な内容になってしまったということになる。 「40年前に走高跳で2メートル40センチの記録を持つ選手が、40年前の筋力を含む身体能力をそのまま現在まで持ち続けているとすると、その記録を0.00024ミリメートルだけ更新できるはずである」とすれば、よかった。

 
科学の扉 「想定外」を考える
新幹線 大地震が襲ったら
脱線の危機・・・活断層対策に決め手なし

 図18-12 新幹線 大地震が襲ったら 
 (記事中図の部分) 
2017年(平成29年)6月4日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版26面(扉)【 記事: 佐々木英輔 】
 「時速200キロ以上で走る新幹線が大地震に襲われた。 震源は直下の活断層。 緊急停止が間に合わずに脱線した列車が、寸断された線路に突っ込んでいく──もしかしたら、こんな事態が起こるかも知れない。 様々な地震対策を講じている新幹線だが、限界はある。 残るリスクをいかに減らすかが課題だ」という。 
 これは「科学記事」である。 
 正確な図を使用して、科学的に理解できる解説を示すべきである。 
 残念ながら、図にいい加減なものがある。 左側上図で、トンネル断面が活断層の変位によってズレるのであるが、その示し方が適切では、ない。 下図の「黄色で示された部分」に、正しいものを示す。 
 図18-13 新幹線 大地震が襲ったら 
 (修正した図) 
「原図」の上部点線は、「トンネルの位置」ではなくて「線路の位置」を示しているようである。 それは、ズレが生じてしまった部分でも、その点線は、依然として、トンネル内にあることから。 
 左側下図では、「変電所」と「新幹線」の間の電線に「停止×」とある。 電線に「×」で、「自動でブレーキをかける」ことを説明したことには、ならない。 一般の記事であれば「そのようになっている」で済まされようが、科学の記事では充分ではない。 「注釈」を用いて解説すべきものであろう。 
 ここで、「何らかの理由で、変電所から架線への送電を止められてしまう」と、それが、「強制的に周囲の列車を停車させるための『信号』となっている」システムが、日本の新幹線が採用している緊急時に対応できる安全性の要である。 
 送電が止まってしまう事象は、土砂崩れに伴うトロリー線の断線など、様々な災害の発生をうかがわせる出来事である。 大地震が発生した際にも、(停電してしまったことにより、または、地震の感知により自動での、および、人為的な停電操作により)変電所からトロリー線への送電を遮断するだけで、走行中の列車の緊急ブレーキが(トロリー線からの電力を使わないで)自動的に働くようになっている。 これによって、全列車が、運転手の操作とは関係なく、緊急停車できるシステムとなっている。 
 地震や風水害の多い日本で、このような「新幹線の緊急時自動停止システム」は、世界に誇る新幹線の安全を担保する最大のものである。 それも、「緊急時のため」の自動停止システムとして「特別に」設計されたものではなくて、日常的に列車速度を制御しているシステムの一部である(から、日々、その機能が正常であるかどうかを試験されている)ことが重要である。 もし、新幹線の「非常時における停止システム」が「信号機による停止信号(赤信号)」を使用していたならば、地震発生時に、停電によって徐々に減速していくことはあっても、緊急停車は保証されない。 半世紀以上も前のデジタル信号処理の夜明け前になされた最初のシステム設計が、優れていたということである。
 

(19)非日常の言葉には
 
「2050年宇宙の旅」はエレベーターで
 
 図19-1  
 宇宙エレベーターの概念 
 

 エレベーターに乗って地上と宇宙を行ったり来たり――。 こんな夢のように壮大な構想を、ゼネコンの大林組(東京)が20日、2050年に実現させる、と発表した。 
 鋼鉄の20倍以上の強度を持つ炭素繊維「カーボンナノチューブ」のケーブルを伝い、30人乗りのかごが、高度3万6000キロのターミナル駅まで1週間かけて向かう計画という。 
 「宇宙エレベーター」はSF小説に描かれてきたが、1990年代にカーボンナノチューブが発見され、同社は建設可能と判断した。 米航空宇宙局(NASA)なども研究を進めている。 
 今回のエレベーターのケーブルの全長は、月までの約4分の1にあたる9万6000キロ。 根元を地上の発着場に固定し、地球の自転の遠心力で飛び出さないよう頂点をおもりで押さえる。 一方、ターミナル駅には実験施設や居住スペースを整備し、かごは時速200キロで片道7・5日かけて地上とを往復。 駅周辺で太陽光発電を行い、地上に送電する。

2012年(平成24年)2月21日(火)10時55分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 地上から9万6000キロの上空の「おもり」の場所では、地球からの引力よりも、地球の回転による遠心力の方が大きい。 地球による引力と、1日に1回転している物体の遠心力が等しいのは、静止衛星が回っている地上3万6000キロメートルの位置である。 地上3万6000キロメートルよりも低いと引力が、遠いと遠心力の方が大きくなる。 もし、このケーブルが切れたならば、上空の「おもり」は、地上に落ちてくるのではなくて、宇宙空間に飛び去ってしまうことになる。 したがって、この「おもり」には、頂点をおもりで押さえる効果は、まったくない。 
 では、この「おもり」の役割は、何か。 
 ケーブルの地球に近いところでは、地球の引力が大きい。 そのため、このケーブルを地上に「自立させる」ためには、東京スカイツリー以上に太いケーブルが必要になる。 それでは、建設は困難である。 
 どうするか。 
 遠心力が働いている「おもり」を、地上から伸びているケーブルと繋げば、自立のための太いケーブルは必要でない。 ケーブルが切れないことだけが、必要条件である。 ケーブルの重力(及び、ケーブルそのものによって生じる遠心力)と、「おもり」の遠心力が、一致するようにしておけば、ケーブルの地上への接続は簡易な方法で済む。 
 したがって、「おもり」といわれているものを設置する理由は、地球の自転の遠心力で飛び出さないよう頂点をおもりで押さえるためではなく、その正反対である飛び出さないためではなくて、ケーブルを上空に引っ張り上げるためである。 180度逆である。 
 「おもり」は「重り」、すなわち、「押さえ」という連想から、生半可な記事を書いてしまったということだろうか。 それとも、ゼネコン側が発表資料を作成する際に、広報担当者によるこの構想についての自己流の解釈が、この原因となったのであろうか。 
 日常生活では適切な「ことば」も、非日常の場面では、その言葉の漢字の持つ意味から意外な誤解を生む原因となってしまう。
 

(20)試験の解答に責任
 
地球に月の影
日食 宇宙飛行士が撮影
 
 図20-1 月の影 
 図20-2 日食でできる月の影 
 

 月が太陽に重なり、地上からは天空に光るリングのように見えた21日の金環日食。 その時の地球を宇宙から見ると、月が太陽からの光を遮って丸い影を落としていた−−− 国際宇宙ステーションに長期滞在中の米航空宇宙局(NASA)のドン・ペティ宇宙飛行士がNASAのブログにそんな写真を発表した。 「素晴らしいながめ。 影は物理や天文学の本で見た図とそっくりです」と書いた。

2012年(平成24年)5月24日(木)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版2面 赤字は右記引用部分
 今回は日食の解説図について。 
 今回の日食は、金環日食であった。 金環日食では、月の影になった部分にも、少しの太陽光が差し込んでいる。 そのため、月の影になったところも、完全に黒くなった状態にはならない。 それは、「月の影」の写真を見ると、楕円形にうっすらと暗くなっているのがわかる。 
 皆既日食の時には、そうではない。 月には大気がないので、太陽光が月の裏側に回り込むことはない。 月の影になった地球のその部分は太陽光が当たらないので、もっと黒く写る。 
 ところが、解説図である「日食でできる月の影」を見ると、地球上の月の影部分では、太陽の光が完全に隠されているように描かれている。 何か変である。 
 この解説図(『図31-2 日食でできる月の影』)は、皆既日食の場合を描いている。 金環日食は、下図である。 
 図20-3 正しく描いた「金環日食」 
 日食でできる月の影は『半影』 
 中心の影になった部分でも、太陽からの光が、部分的に差し込んでいることになるので、その部分は「真っ暗に」は、ならない。 
 入学試験などで「金環日食」に関する出題があって、この記事の図を思い出した受験生がいたら・・・。

 
−時時刻刻− ニュートリノお家芸
カミオカ発 2回目受賞
梶田さん、苦節重ね証明
 図20-4 スーパーカミオカンデでの大気ニュートリノ振動の観測 
2015年(平成27年)10月7日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面(総合2) 記事中の図を引用
 ノーベル物理学賞受賞に関する解説記事である。 
 そこでの説明のために掲げた図で、一番重要なところに瑕疵がある。 
 『図31-4 スーパーカミオカンデでの大気ニュートリノ振動の観測』の右側上部の「水分子にまれにぶつかり光を出す」とキャプションされている部分である。 この巨大な観測装置の目的は、ニュートリノの進行方向を知ることである。 しかし、図ではこれが説明し切れていない。 具体的には、2点ある。 
 1つ目は、「ニュートリノの進行方向」と、衝突の結果放たれた「光の放射方向」が、一致していない。 これでは、どのように「ニュートリノの進行方向を知ること」ができるかが、まったく説明できない。 
 2つ目は、放たれた光が光電子増倍管の1個だけに検知されている。 これでは、片目を瞑ってボールを見ているのと同じである。 遠近が、当然、判明しない。 ボールが、どのようにコースで飛んでいるのかが分からない・・・ということである。 
 というところで、朝日新聞のデジタル版を見てみた。 2015年10月6日(火)20時53分にアップされた『梶田隆章氏が寄稿「宇宙に物質存在の謎、迫れる可能性」』である。 その記事の図で、該当部分を下に掲げる。 
《補足資料》
 図20-5 梶田隆章氏が寄稿「宇宙に物質存在の謎、迫れる可能性」 
 『スーパーカミオカンデでの大気ニュートリノ振動の観測』 
 (デジタル版・部分) 
 上記の2点を訂正するかのように、見事に修正されている。 更に、ニュートリノが地球の大気と衝突する部分での些細な誤りも、訂正されている。 さすがは、朝日新聞である。
 

(21)急増した放射性炭素
 
<宇宙線量>奈良時代に急上昇 名大チーム分析

(前略) 
 C14は、宇宙線が大気と反応して作られ、光合成で樹木に取り込まれて年輪に固定される。 チームは、既に明らかになっているC14の10年ごとのデータのうち過去3000年分を分析。 0.3%を超える大きな増加があった3回のうち、詳しい測定がされていなかった西暦780年前後のC14の増加率を1年ごとに調べた。 屋久杉の一部を削り、名大年代測定総合研究センターの加速器質量分析計で測定。 その結果、774年から翌年にかけてC14が1.2%増えていることが分かった。 通常の太陽活動がもたらすC14の年間変化率の20倍に相当するという。【 河出伸 】

2012年(平成24年)6月4日(月)02時00分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
775年に宇宙から強放射線か

(前略) 
 名古屋大学太陽地球環境研究所の増田公明准教授らの研究グループは、宇宙からの放射線「宇宙線」などの影響で変化した「放射性炭素」に注目し、樹齢およそ1900年の屋久杉の年輪に含まれる放射性炭素の量を測定しました。 
 その結果、奈良時代後半の西暦775年の層に通常のおよそ20倍の放射性炭素が含まれていることが分かり、研究グループによりますと過去3000年間で降り注いだ最も強力な放射線とみられています。(後略)

2012年(平成24年)6月4日(月)05時52分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 
8世紀、宇宙で大変動が? 
屋久杉から解析 名大チーム

(前略) 
 地球には宇宙から絶えず宇宙線(放射線)が降り注いでいて、その量は太陽の活動や宇宙の環境変化によって変わる。  
 研究チームは、過去に伐採された樹齢1900年の屋久杉の年輪に刻まれた宇宙線の影響を解析。 宇宙線の影響で生成される特殊な炭素(炭素14)の量を調べたところ、西暦774〜775年の1年間だけ、平常時の20倍に急増していた。(後略)【 鈴木彩子 】

2012年(平成24年)6月4日(月)11時03分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 
Mysterious radiation burst recorded
in tree rings
 
Spike in carbon-14 levels indicates a massive cosmic event ? but supernovae and solar flares ruled out. 
Richard A. Lovett  

   Just over 1,200 years ago, the planet was hit by an extremely intense burst of high-energy radiation of unknown cause, scientists studying tree-ring data have found. 
   The radiation burst, which seems to have hit between ad 774 and ad 775, was detected by looking at the amounts of the radioactive isotope carbon-14 in tree rings that formed during the ad 775 growing season in the Northern Hemisphere. The increase in 14C levels is so clear that the scientists, led by Fusa Miyake, a cosmic-ray physicist from Nagoya University in Japan, conclude that the atmospheric level of 14C must have jumped by 1.2% over the course of no longer than a year, about 20 times more than the normal rate of variation. Their study is published online in Nature today. 
   "The work looks pretty solid," says Daniel Baker, a space physicist at the University of Colorado's Laboratory for Atmospheric and Space Physics in Boulder, Colorado. "Some very energetic event occurred in about ad 775." 
   Exactly what that event was, however, is more difficult to determine. 
   The 14C isotope is formed when highly energetic radiation from outer space hits atoms in the upper atmosphere, producing neutrons. These collide with nitrogen-14, which then decays to 14C. (The fact that this is always happening because of background radiation is what produces a continuous source of 14C for radiocarbon dating.) 
・・・

2012年(平成24年)6月3日(日)
Nature News & Comment 赤字は右記引用部分
◎ 20倍変化したというのは、どこの部分か? 
 NHKによると、西暦775年の層に通常のおよそ20倍の放射性炭素が含まれているとして、木質部の特定部位(西暦775年の年輪部分)に、約20倍の放射性炭素14が含有されているとしている。 
 ところが、毎日新聞では、屋久杉の一部を削り、名大年代測定総合研究センターの加速器質量分析計で測定した結果、通常の太陽活動がもたらすC14の年間変化率の20倍に相当するということがわかったとして、朝日新聞では、西暦774〜775年の1年間だけ、平常時の20倍に急増しているとして、何が20倍に急増しているか、明記していない。 
 Natureによると、「the atmospheric level of 14C(炭素14の大気濃度)」が増加したとしているので、NHKの報道はアウト。 毎日新聞、朝日新聞は、その部分を伝えていないので、ニアミスながら、セーフか?  両新聞とも「5W1H」が欠けているという点では、失格。
◎ 20倍変化したというのは、どのような量か? 
 Natureによると、「about 20 times more than the normal rate of variation(通常の変化割合のおおよそ20倍)」と、変化した量が約20倍であって、含まれている量が20倍になった訳ではない。 放射性炭素は、宇宙線によって定常的に作られ(*1) ていて、その半減期も長いので、常に、大気中に一定濃度(*2) で存在している。 そこに、一時的に宇宙線が増加すると、それによって大気中の放射性炭素の濃度レベルが、少しだけ高くなる。 放射性炭素の濃度レベルが高くなる変化量が、通常の一時的な宇宙線の増加の場合に比べて、この時は20倍にも達したということ。 
 NHKは、西暦775年の層に通常のおよそ20倍の放射性炭素が含まれているとして、「変化した量」であることを無視しているので、完全なる誤報。 
 朝日新聞は、特殊な炭素(炭素14)の量を調べたところ、西暦774〜775年の1年間だけ、平常時の20倍に急増していると、これも「変化した量」を無視している。 
 毎日新聞だけは、通常の太陽活動がもたらすC14の年間変化率の20倍に相当するということで、このことに関しては、正確に報道している。
 

(*1) 放射性炭素14は、宇宙線によって生成する。 

 図21-1 放射性炭素14の生成と窒素への崩壊 

  地球全体で、平均して、年間約7.5キログラム(3.2×1026 個)の放射性炭素14が生成している。 
 年間に生成する放射性炭素14の量はほとんど変わらないが、超新星爆発などにより平年よりも多量の放射線が地球に降り注ぐと、その年に生成する放射性炭素14の量は多くなってしまう。

(*2) 地球上には、放射性炭素14が約62,000キログラム(約62トン)存在していて、それが半減期5,730年で窒素14にベータ崩壊することで減少していく。 その減少量は、年間約7.5キログラムである。 長い期間を平均すると、生成量(平均して年に約7.5キログラム)と減少量(年に約7.5キログラム)が均衡しているので、地球上の放射性炭素14の量は変わらない。 
 放射性炭素14は、空気中では主として二酸化炭素として存在する。 その二酸化炭素が植物に取り込まれ、光合成を経て植物体に蓄積する。 年輪部分に蓄積した放射性炭素14は、その年輪が示す年に取り込まれたものである。 ある1年分の年輪を分析して放射性炭素14の量を測定すると、その年の空気中の放射性炭素14の量がわかることになる。 
 もし、宇宙線の量が20倍になって放射性炭素14の生成が20倍になったとすると、年間150キログラムの放射性炭素14が生成することになる。 これは、地球上にある放射性炭素14の全量に対しては、この増加分の割合は0.24%程度である。 この放射性炭素14の分布は、大気中の二酸化炭素だけではなく、海水中に溶けている二酸化炭素や、動植物を構成している炭素、鉱物中の炭酸塩、石炭・石油の中にも存在している。 しかし、生成直後の放射性炭素14は大部分が大気中に存在しているから、一時的に、大気中の放射性炭素14の濃度が上昇する。 その濃度上昇を推定すると、1%程度(毎日新聞の記事では、1.2%)となる。 
 NHKの「西暦775年の年輪部分では、他の場所と比べておよそ20倍の放射性炭素が含まれている」ならば、その年の大気中の放射性炭素14が20倍に増加する(質量にして、百トン規模で放射性炭素14が生成する)必要があり、このことはあり得ないことである。


(22)非常時に利用できるエレベーター
 
火災、高齢者はエレベーター避難
東京消防庁が方針転換

 都市部でマンションの高層化が進むなか、東京消防庁は10月から、高齢者や障害者の火災時の避難にエレベーター(EV)を使うよう指導することを決めた。 EVは、避難時に煙に巻かれる危険があるとして、従来、使わないのが「常識」とされてきた。  
 総務省消防庁によると、こうした方針転換は全国でも初めて。 住民の高齢化がマンションの高層化とともに進んでおり、方針見直しを迫られていた。 EVの機能が向上しており、条件を満たせば転換が可能と判断した。  
 EVを避難に使うには、EVに停電対策の予備電源、防災センターとの通信設備が必要になる。 また、各階の乗降口近くに防火扉や非常用照明を備えた避難スペースを設けたり、「避難誘導用」のEVを示す専用の標識を掲示したりすることも条件にする。  
 予備電源や通信設備は東日本大震災後に建てられたマンションのEVの大半に備わっているが、都内の高層建物の約3割は改修が必要になるという。 改修には所有者の費用負担が伴うため、東京消防庁は当面の間、一定以上の高層建物を中心に指導する。 
 一般住民は引き続き、階段での避難が原則だ。 EVが揺れを感知すると停止するため、地震時従来通り階段での避難を指導する。(後略)

2013年(平成25年)9月24日(火)05時25分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 ここでは、公的機関の方針転換の是非について一言。 
 今度、東京消防庁は10月から、高齢者や障害者の火災時の避難にエレベーター(EV)を使うよう指導することにしたという。 
 EVの制御には、高度な電子機器が使われている。 そのために、種々の位置情報や速度などを得るためのセンサーが、この制御機器と結線されている。 このセンサーや結線の一部に不都合が生じると、安全のために、EVは速やかに非常停止するようになっている。 
 火災が発生すると、これらのものが壊れてしまう可能性が生じる。 また、一般電源の停電で、予備電源に切り替わることになるが、その切り替わり時のノイズや予備電源の品質が制御機器に影響することもあろう。 それらは、EVの非常停止につながってしまう。 非常停止により閉じ込められることはないとしても、それ以降のEVによる避難が困難になってしまう。 
 制御機器を下層階に設置しておけば、その再起動や運転の設定変更は短時間にできるし、火災の影響を受けることも少ない。 しかし、最上階にあるEVの駆動装置との間の距離を、解決しなければならない。 
 火災時にEVを使用可にするためには、停電対策の予備電源各階の乗降口近くに防火扉や非常用照明を備えた避難スペースの設置以外に、日常のEV運転で考慮しなければいけないレベルを大きく上まわる火災時の対策のための設備と、その設備の妥当性の検討と保守を継続的におこなわなければならないことになる。 火災とならんで避難の対象となる災害である地震時には従来通り階段での避難を指導するという。 ということは、地震が起こったときには、EVに対する大がかりな対策は無効なってしまう。 EVに対する大がかりな対策の代償として、地震時の避難経路をより容易なものにする設備改善が抑制されてしまうことになる。 
 それだけのことをしても、想定外だったということがないように万全の対策が取れているかどうか、不安である。 
 ハイテク機器の導入でEVの機能が向上しているのは好ましいことではあるが、その高性能な機能が故に、災害時には、様々な場面において想定外の事態が起こりそう・・・。 
 結局、災害時に一番頼りになるのは、電源を一切使用しない「ローテクな手段」である。 防火扉で囲まれた区画に設置された「すべり台」なら、身体に障害があっても、また、滑走途中で有毒ガスなどによって失神するようなことがあっても、地上にたどり着けそうである。 船に「救命胴衣」が備え付けられているように、高層ビルには非常用の「すべり台」に適合した「滑走胴衣」があるとよい。 もっとも、長大な「すべり台」であるから、滑走スピードの出過ぎに対して「ローテクな手段」でブレーキがかかるような仕掛け(*1) は必要不可欠であるが・・・。
 

(*1) 緊急時には停電してしまう可能性が高いから、また、個々の設備への配電が断線してしまうこともあろうから、電気を使わないシステムでなければならない。 また、滑走スピードを抑制するための「複雑な」制御機構も、保守の困難さと緊急時での破損を考慮すると、不適当である。 結局、「ローテクな方法」を採用することになる。 
 物体の慣性により、滑走スピードを抑制する方法が考えられる。 すなわち、『滑走スピードの上昇大きな慣性力の発生その力によるスピード抑制滑走スピードの減少』となる。 たとえば、10メートル毎にコーナーを設けて、滑走スピードを調節する関門とする。 そのコーナー部分で、滑走スピードに応じた遠心力が発生する。 そこで発生した遠心力の大きさに応じて、滑走経路が、より外側へ膨らむ。 外側にいくほどに、摩擦抵抗の大きい走路となるように設計しておく。 それにより、滑走スピードに応じて減速される・・・というスキームが考えられる。 万が一、滑走が停止してしまうと、後続者が追突してしまうことになるので、スピードが閾値を超えた時点で抑制する必要がある。 多数の関門を設置しておけば、一つ一つの関門で規定された速度に抑制できなくても、全体として機能することになる。 
 使用することで不可逆的に消耗される機構がないことも、大切である。 消耗部品の取り替えの必要性がないことは、多数回の試行を容易にする。 それにより、安全性の検証は徹底的に出来る。 安全であることが分かれば、この長大なすべり台での避難訓練は非常に楽しいものになる。 是非、滑ってみたいものである。

 

(23)東電凍結壁完成への隘路
 
坑道 凍結へ追加策
福島第一 セメントなど注入へ

(前略) 
 会津大前学長の角山茂章・福島県原子力対策監は検討会で「泥縄式の対策でズルズルいっている。 準備をしていればできたはず。 発想を変えないといけないのではないか」と指摘。 凍結以外の方法を検討してはどうかという意見に対し、東電の姉川尚史常務は「9割程までは達成している。 しばらくは凍結で努力したい」と話した。(中略) 
 検討会では専門家から凍土壁の実現可能性への疑義も示された。 経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「坑道は水で、凍土壁は地中の水分。 違うものと考えている。 凍土壁では凍結が可能だ」と話した。【 木村俊介 】

2014年(平成26年)8月20日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面 赤字は右記引用部分
 
坑道「氷の壁」1割凍らず 福島第1原発
汚染水抜き取り難航

 福島第1原子力発電所のトレンチ(地下坑道)から放射性物質の混じった高濃度の汚染水を抜き取る作業が難航している問題で、東京電力は19日、原子力規制委員会の検討会で追加策を示した。 抜き取りの前提として建屋とトレンチの境目に「氷の壁」を作る予定だったが、約1割が凍っていないことが判明。 9月にもセメントや粘土などの止水材を充填する方針。 
 トレンチは海に近く、高濃度汚染水が海洋へ流出するリスクは大きいことから、規制委は早期の対策を求めている。 しかし、検討会では止水材投入の効果を疑問視する声があり、結論は持ち越しとなった。 
 福島第1では2、3号機の建屋とつながるトレンチに合計1万1千トンの高濃度汚染水がある。 東電は建屋とトレンチの境目にセメントなどを詰めた袋を並べ、さらに凍結管を差し込んで隙間の水を凍らせて「氷の壁」を築く作業を進めてきた。 壁で建屋と遮断したうえでトレンチから汚染水を抜き取る狙いだった。 
 4月に2号機のトレンチで始めた作業は難航している。 8月中旬までに「氷の壁」を完成させる計画だったが、東電によると現状で凍結できたのは面積比で全体の92%にとどまっている。 7月末から合計400トンを超す氷や5トンのドライアイスを投入したものの、汚染水の流れが集中するトレンチ上部などに凍らない部分が残っている。 
 19日の検討会で東電は、氷の投入を継続する一方、追加対策に踏み切る考えを示した。 9月以降、トレンチの外側にも凍結管を差し込むほか、汚染水の流れを遮るためセメント袋を増やすことなどを検討する。 凍らない部分には止水材を充填する方針で、9月末までに凍結・止水を終える考え。 
 19日の検討会では「凍結の有効性に疑念がある」との指摘があった。 凍結以外の代替手段の検討を求める声もあがった。 止水材の投入については改めて妥当性を検証することになった。 
 トレンチは建屋周辺の土壌を凍らせる「凍土壁」とも交差しており、汚染水の抜き取りがこれ以上遅れると凍土壁の工事にも影響が及ぶ可能性がある。 

 図23-1 「氷の壁」作り 
2014年(平成26年)8月20日(水)01時38分
日本経済新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
第一原発トレンチ 止水材注入持ち越し 規制委

 東京電力福島第一原発の汚染水がたまる海側トレンチ(電源ケーブルなどが通る地下道)の凍結止水工事が難航している問題で、原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会は19日、セメントなどの止水材を注入する追加策の可否について、結論を持ち越した。 同日の会合で、委員から効果を疑問視する意見が相次ぎ、東電に対し、より詳細に検討するよう求めた。 
 19日の会合で東電の担当者は、これまで実施してきたトレンチへの氷とドライアイス投入による止水効果について説明した。 これによると、凍結した面積は拡大したが目標の約9割にとどまっている。 凍った面積が増えたため、汚染水の流路が狭まり流速が3倍以上に達し、残りの部分が凍りにくい状態になっている。 
 このため、流路付近に止水材を注入して流速を抑制し、凍結を促進させたい考えだ。 止水材の素材として、セメントなどを検討しているという。 
 東電の説明に対し、同検討会担当の更田(ふけた)豊志原子力規制委員は「止水材がうまくいかなければ、(固形化したセメントが障害になり)今後の対策の足かせになりかねない」と指摘。 9月上旬から中旬に会合を開き、東電に再度、追加策に対する説明を求める考えを示した。 「止水材を入れるだけでいいのか疑問だ」との声も上がった。 
 東電は模擬試験などを通じて止水材注入での課題を探る。 解決策を検討した上で、次回会合で報告する。 
 福島第一原発2、3号機のタービン建屋につながるトレンチには高濃度汚染水約1万1000トンがたまり、海洋に漏れだしている可能性が指摘されている。

2014年(平成26年)8月20日(水)09時05分
福島民報 Web版 赤字は右記引用部分
 凍結工法を行っているのは、『(1)高濃度の汚染水で満たされている「トレンチ」と呼ばれる地下トンネルを分断するためにそれを横切って凍結すること』と、『(2)原発の建物全体を取り囲んで地下水の移動を遮断する凍土壁の構築』である。 左の引用は、前半が(1)のことであり、後半は(2)のことである。 (1)では汚染水で満たされているトレンチに、水を凍らせて遮断壁を作ることである。 大量の高濃度汚染水があり、その水が原発の建屋から海に向かって流れている可能性がある。 (2)は1日に400トン流れ込んでくる地下水を遮断するためにおこなっている。 
 (1)については「現状で凍結できたのは面積比で全体の92%である」という。 東電の姉川尚史常務は「9割程までは達成している。 しばらくは凍結で努力したい」と話したということである。 また、(2)について経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「坑道は水で、凍土壁は地中の水分。 違うものと考えている。 凍土壁では凍結が可能だ」と話したという。 
 東電常務の心中には、9割程までは達成しているから残りの1割の達成には時間が掛からないという思いがあるのだろう。 ところで、このトレンチには多くの配管が通されている。 その配管を横切る形で凍結させることになる。 その配管の位置には、当然、冷媒を流す凍結管を設置することができない。 配管近くの汚染水は、離れた位置にある凍結管からの熱伝導により冷却することになる。 凍結管周りの水は凍って氷になっている。 
 図23-2 氷を介した冷却による水の氷結 
 氷と水の境界で氷結が進むのであるが、この境界部分の冷却は、凍結管との間にある氷を介した熱伝導によりなされる。 したがって、氷結する速度は氷の熱伝導の良さに依存することになる。 その氷の熱伝導率は2.2W/m・Kであり、鉄の83.5W/m・Kに比べると40分の1程度で、非常に熱を伝え難い物質の1つ(*1) である。 10センチメートル離れたところに−40℃の凍結管があるとすると、1平方メートル当たり1秒間の冷却熱量は880ジュール(*2) にすぎない。 水が氷に氷結するときには、1グラムあたり333.5ジュールの凝固熱が発生する。 この熱量分を冷却しないと、水の温度が0℃であっても、氷にならない。 1秒間880ジュールの冷却熱量によって、毎秒2.64グラムの水が氷結する。 これは、水と氷との境界に1秒間に2.6マイクロメートル(*3) の速度で水が氷に変化していく量である。 すなわち、1時間で約9ミリメートルの速度で氷が厚くなっていく(*4) 
 しかし、この汚染水に流れがあるとすると、氷のでき方に変化が起こる。 もし、外部から汚染水が流れてくると、この冷却熱量は流れ込んできた汚染水の冷却に使われる。 汚染水の流入により、1秒間に880ジュール以上の熱量が持ち込まれると、新たな氷はできず凍結が進まないことを意味する。 
 図23-3 水の流れがあるとき 
 凍結を促進するために、合計400トンを超す氷や5トンのドライアイスを投入したという。 氷とドライアイス投入によって汚染水が1℃に冷やされたとしても、それが毎秒約210グラム(約210ミリリットル)の流量で流れ込んでくるだけで、その汚染水を0℃に冷やすだけに使われるだけで氷結は進まない。 地下水の平均的な温度である15℃であると、わずかに約14グラム(約14ミリリットル)である。 この値は、1平方メートルの面積に関してである。 汚染水の流入は、氷による閉塞が進行するとともに、凍結していない部分に次第に集中するので、いずれかの時点で氷結が進まなくなってしまう。 凍った面積が増えたため、汚染水の流路が狭まり流速が3倍以上に達し、残りの部分が凍りにくい状態になるのは、当然である。 
 経済産業省資源エネルギー庁の担当者によると、(1)坑道は水であり、(2)凍土壁は地中の水分であるから、(2)の工法の凍土壁では凍結が可能だとしている。 ほんとうに? 1日に400トン流れ込んでくる地下水の遮断が目的なので、地中の水分を凍結させてそれでお終いでは、ない。 地中の水分が凍結しても、それだけでは今も流れている地下水の遮断にはならない。 流れのある部分の遮断が至難の業であることは(1)(2)も同様であるが、(2)での完全閉塞は、凍結管の間隔が広くて地下水の流れが顕著であるので、(1)よりもはるかに困難になろう。 
 凍結工法で容易に遮断壁が構築できてしまうと理解し、発言しているのが、東電の常務であったり資源エネルギー庁の担当者であったりで、それなりの権限を有しているものと思われる。 そして、その権能に基づく発言に沿って、物事が粛々と進んでゆく。 正面切って異議を唱えられるのは、冒頭の会津大前学長の角山茂章・福島県原子力対策監などの原子力規制委員会の構成委員ら、ごく一部の人であろう。 頑張って欲しい。
 

(*1) 熱伝導率の表を見ると、空気が0.0241W/m・Kと、更に小さな値の物質として載っている。 しかし、空気は「対流」で熱を伝えるので、対流ができない環境を除いて、総合的な熱伝導は悪くない。

(*2) 1平方メートルの断面に流れる熱量を計算すると、 
2.2(ワット/メートル・ケルビン)×1(メートル)÷0.1(メートル)×40(ケルビン) 
から、880ジュール/秒となる。

(*3) 水の凝固熱は 333.5ジュール/グラムであるから、 
880(ジュール/秒)÷333.5(ジュール/グラム) 
で、2.64グラム/秒となる。 毎秒2.64グラムの水が凝固して氷になる。 1平方メートルで毎秒2.64グラムの氷が生成することから氷の成長速度を求めると、水の密度は 1×10キログラム/メートルであるから、 
2.64×10−3(キログラム/秒)÷1×10(キログラム/メートル)÷1(メートル 
で、2.64×10−6(メートル/秒)となる。

(*4) 業務用の氷を製造する際にも、製氷缶の内部に向かって氷ができていく速度がこの程度であるので、生産能力を決めるポイントになる。 
 代表的な製氷缶サイズは、105×56×26(単位:センチメートル)である。 −10度の塩化カルシウム水溶液中に浸けて、製氷缶中の水を凍結させる。 この缶中のすべての水が凍るためには、静置した状態では、製氷缶壁面から凍り始めて13センチメートル厚さの氷になる必要がある。 これに、約36時間を要す。 実際の製氷現場では、中心部分が凍結する前に、そこにある不純物を比較的多く含む水を抜いて清浄な水を加える工程がある。 それ故、トータルの製氷時間は2〜3日程度になってしまう。


 
トレンチ水抜き
工法変更を検討
福島第一

 東京電力福島第一原発の建屋海側にある坑道(トレンチ)内に高濃度汚染水対策で東電は22日、汚染水が残る状態でセメントを流し込み、坑道を埋める工法を検討していることを明らかにした。 建屋地下との接続部分を凍結させ、止水してから水を抜く計画だったが、凍結が難航していた。 
 東電は、水に溶けにくく汚染水中の放射性物質を取り込みにくいセメントが開発できたため、検討を始めたとしている。 1ヶ所から流しても行き渡るほどさらさらしているという。 同時に汚染水を回収し、坑道内をセメントに置き換えるという。 
 坑道と建屋地下の接続部分は、セメントや粘土を詰めた袋を坑道に並べて隙間を凍結する工事を今春から始めたが、完全に凍らず止水できていない。 水位管理のため、凍結止水の検討は継続するとしている

2014年(平成26年)9月23日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版4面 赤字は右記引用部分
 
トレンチ汚染水対策 方針転換へ

東京電力福島第一原子力発電所で「トレンチ」と呼ばれる地下のトンネルに流れ込んだ汚染水の対策が難航している問題で、東京電力は汚染水を抜き取ったうえで、トレンチをセメントで埋めるとしていたこれまでの方針を転換し、汚染水が入ったまま、セメントを流し込むことを検討していることが分かりました。 
汚染水の抜き取りを並行して行うため、「汚染水が漏れるリスクは小さい」としています。(中略) 
このため東京電力はこれまでの方針を転換して新たに開発した特殊なセメントを汚染水が入ったままのトレンチに流し込み、トレンチを埋める作業と汚染水を抜き取る作業を並行して行うことを検討しています。 
東京電力は「この作業によって汚染水が漏れるリスクは小さい」と説明していて近く、この方針を原子力規制委員会に示したうえで11月中旬からセメントを流し込み始め、来年1月には作業を終えたいとしています。(後略)

2014年(平成26年)9月23日(火)06時43分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 建屋地下との接続部分を凍結させ、止水してから水を抜く計画だったが、凍結が難航することは、上に述べたように容易に予想できた。 1ヶ月ほど前に、東電の姉川尚史常務は「9割程までは達成している。 しばらくは凍結で努力したい」と話したことからの方針変換である。 
 水位管理のため、凍結止水の検討は継続するとしているが、この凍結工事の遂行が東電常務の1ヶ月前の発言に沿ったものであろうから、軽々に工事を中止する訳にはいかない・・・といったことであろうか。 
 その代替工法として、汚染水が残る状態でセメントを流し込み、坑道を埋める工法を検討していて、そのセメントは1ヶ所から流しても行き渡るほどさらさらしているものである。 
 さて、トンネル工事では、岩盤からの出水に際してセメントを流し込んで止水する工法が取られている。 このときは、岩盤の隙間に高い圧力でセメントミルクを注入する『止水工法』により水の流れを一時的に止めて、それでセメントが固まるまでの時間を確保する。 細い水の流れにセメントが充填しきれなかった場合には、そこの部分だけセメントで塞げないことになる。 完全な止水を目指すときは、その部分をめがけてドリルで穴を開けて再度高圧注入すると、その狭い隙間はセメント自体の粘り気で水の流れが止まり、その結果としてセメントによる閉塞が完了する。 
 坑道を埋める工法では、トンネル工事とは異なって開放形であるので、固まる前のセメントを高圧を掛けて「水みち(水の通り道)」に押し込み、塞ぐような方法が使えない。 さらに、さらさらしているセメントの使用は、わずかな水の流れにもセメントが流されていったり、水で薄まってしまう可能性がある。 セメントが無事に固まったとしても、もし、微細な「水みち」が残ってしまうと、そこにドリルで穴をあけ、セメントを再注入することは不可能に近い。 セメントを使う工法には、多くの課題がある(防水法を含む諸々のこと)。 NHKニュース Web版の2014年(平成26年)9月23日(火)06時43分付け記事で東京電力は「この作業によって汚染水が漏れるリスクは小さい」と説明していて近く、この方針を原子力規制委員会に示したうえで11月中旬からセメントを流し込み始め、来年1月には作業を終えたいとしているが、凍結工法と同様に、工事方法には細部の詰めに甘いところがあるように思われる。 福島民報の8月20日付け記事にある原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会担当の更田(ふけた)豊志原子力規制委員は「止水材がうまくいかなければ、(固形化したセメントが障害になり)今後の対策の足かせになりかねない」と指摘は、当然である。 
 そこで、止水材料として、湿気硬化型シリコーン接着剤を推したい。 これをセメントのように充填する形で使用するのである。 この材料の唯一の欠点は、セメントに比べるとはるかに高価なことであるが、事故の収束に要する全体の経費と比較してバランスを欠くほどのものではない。 長所は、いくつもある。 (1)周囲の構造物との接着性能が良好である。 (2)水分があると固着が早まる。 (3)固着後の材料に弾力性があるので、余震などでの振動や周囲の構造物の変形にも柔軟に対応できる。 (4)撥水性があるので、止水に都合が良い。 (5)化学的に安定であるので、長期間の使用に耐える。 (6)不必要になったとき、取り除くことも比較的簡単である。 (7)そして最大の利点は、固着後の材料が軟らかいので、止水施工した構造物の内部への「追加充填」が可能なことである。 「追加充填」のときは、充填箇所までボーリングして、圧力を掛けてシリコーン接着剤を押し込むことにより、より完全な止水を図れる。 
 なお、並行しておこなわれている工事として、NHKニュース Web版の同上の記事の中で、(原発敷地の)周囲の地盤を凍らせて建屋への地下水の流入を防ぐ「凍土壁」の建設が進められていて、トレンチの対策の遅れが建設に影響することも懸念されていが、東京電力は「凍土壁の建設に影響はない」としているが、言うだけなら何でも云える。 それを担保する確かな証拠は、何処にも示されていない。

 
福島第一原発 新対策、凍結だけで汚染水止まらず

 汚染水対策の新たな工事です。 
 福島第一原発では、「トレンチ」と呼ばれる地下のトンネルに高濃度の汚染水が溜まっています。 東京電力は、トレンチと建屋が接続する部分を凍らせて水を止めた上で、汚染水を抜き取る計画を立て工事を始めましたが、半年たっても完全に凍結できず、工事は難航しています。 
 東京電力は凍結だけでは汚染水を止められないとして、3日、新たに汚染水を抜き取りながらセメントなどの止水材を注入し、トレンチを埋めるなどの案を提案。 原子力規制委員会もこれを了承しました。 
 「手をこまねいている時間が長くなればなるほど危険な状況が続く。 うまくいかないならいかないなりに見切りをつけ、次の『水中充てん』に移行していかなくてはいけない」(原子力規制委 更田豊志 委員) 
 規制委員会は来月上旬まで状況を見た上で、今回了承された新たな汚染水対策に踏み切るか最終判断します。 
 福島第一原発では1号機から4号機の建屋全体を囲う「凍土壁」の工事も計画されていますが、今回の対策で地下の汚染水を抜き取れない限り凍土壁を建設することもできず、汚染水対策がさらに遅れる可能性もあります。(03日19:19)

2014年(平成26年)10月4日(土)02時43分
TBS系(JNN) Web版 赤字は右記引用部分
 
福島第一、津波26メートル想定
汚染水流出の恐れ 東電が報告

(前略) 
 流出量は、汚染水がたまる建屋近くの坑道(トレンチ)を埋めれば3割に抑えられるという。 規制委は、浸水しても直ちに重大な影響を起こす機器はないとして、防潮堤のかさ上げは求めない方針。 想定や対策が妥当かを確認する。 
 検討会では、坑道と建屋地下との接続部分に特殊なセメントを入れ、接続を断つ工法が了承された難航する凍結工法の追加策となる。 規制委は成否を11月上旬に判断、成功しない場合は接続を断たずに坑道を埋める工法を検討する方針 
 福島第一原発は、原子炉が壊れ、汚染水がたまるなど通常の原発と違うリスクがある。 だが、廃炉が決まっているため新規制基準は適用されない。 新基準での審査を申請した原発が想定を軒並み引き上げるなか、見直されていなかった。【 長野剛 】

2014年(平成26年)10月4日(土)05時00分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 福島第一原発では、「トレンチ」と呼ばれる地下のトンネルに高濃度の汚染水が溜まっている。 そこで、東京電力は、トレンチと建屋が接続する部分を凍らせて水を止めた上で、汚染水を抜き取る計画を立て工事を始めが、半年たっても完全に凍結できず、工事は難航している。 凍結だけでは汚染水を止められないので、「検討会では、坑道と建屋地下との接続部分に特殊なセメントを入れ、接続を断つ工法が了承された」という。 「手をこまねいている時間が長くなればなるほど危険な状況が続く。 うまくいかないならいかないなりに見切りをつけ、次の『水中充てん』に移行していかなくてはいけない」(原子力規制委 更田豊志 委員)という事情がある。 
 これについては、8月20日東電の姉川尚史常務は「9割程までは達成している。 しばらくは凍結で努力したい」と話したのは一ヶ月半前であった。 その舌の根も乾かないうちに、難航する凍結工法の追加策を試行するという。 ただ、9月23日でも言及している「 1ヶ所から流しても行き渡るほどさらさらしている」ような特殊なセメントを入れる施工法に勝算があるかというと極めて疑わしいと思われる。 
 この施工を規制委は成否を11月上旬に判断するとしているところから、この方法自体も確実ではないものと見ているようである。 
 成功しない場合は接続を断たずに坑道を埋める工法を検討する方針というが、その具体的な方法はあるのか。 接続を断たずに坑道を埋めるとすると、坑道内にある配管を撤去できないことになる。 同時に、その坑道に満ち溢れている高い放射能を持つ汚染水も取り除けないことになる。 トレンチ内に配管が残置されると、配管の隙間を伝わって、また、腐食した配管から、汚染水が漏れ出る可能性がある。 
 今までおこなわれていた凍結工法も、特殊なセメントを入れる施工法も、接続を断たずに坑道を埋める工法も、緻密な計算の下で考案された工法とはとても思えない。 

 
坑道 止水できず
福島第一 工事方法変更へ

 東京電力は18日、福島第一原発の高濃度汚染水対策で、建屋海側にある坑道(トレンチ)とタービン建屋との接続部分で止水工事を終えたものの、効果が十分表れていないと明らかにした。 トレンチから汚染水を吸い上げると水位は下がったが、次第にもどってきていたという。 
 東電は、今のやり方を断念し、汚染水が残るトレンチに特殊なセメントを流し込みながら汚染水を抜き取る手法へ切り替える方針。 工事の分析を踏まえ、原子力規制委員会の了解を得られれば、実行する。 
 東電によると、接続部分の止水工事は2号機の2カ所で11月上旬に終わり、17日、トレンチから汚染水約200トンを抜いた。 本来なら約80センチ下がるはずのトレンチ側の水位は水抜き直後には約20センチしか下がらなかった15時間後の18日午前7時には水位は上昇し、水を抜く前に近いところまで戻っていたという建屋からの汚染水や地下水がどこかで流入している可能性が高い 
 国と東電は地下水の建屋への流入を遮断して汚染水と混ざるのを防ぐ「凍土壁」をトレンチを横切る形で作る計画で、前提として2、3号機のトレンチから汚染水を抜き取って埋める作業が必要だ。 接続部の止水効果について、東電は「現在、評価をとりまとめている段階」としている。【 小坪遊、熊井洋美 】

2014年(平成26年)11月19日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面 赤字は右記引用部分
 
坑道の止水断念
セメント投入へ 福島第一
 
 図23-4 認められた新工法 
 

 東京電力福島第一原発での建屋海側にある坑道(トレンチ)内の高濃度汚染水対策で、原子力規制委員会の検討会は21日、汚染水が残る状態でセメントを流し込み、坑道を埋める東電の方針を了承した。 汚染水を抜き取るための止水工事がうまくいかなかったため、対策を切り替える。 地中に汚染が残りやすくなるが、汚染水が海に漏れるリスクの回避を優先した。 
 汚染水がたまっている坑道があるのは2号機と3号機の海側で、量は計1万1千トン。 タービン建屋の地下とつながっているため、汚染水を抜くには接続部を止水する必要があった。 東電は今春、2号機の接続部を凍らせて止水する工事を始めたが難航。 10月にはセメントで固めようとしたが、完全に止水できなかった。 
 このため東電は止水を断念。 代わりに、坑道にセメントを流し込みながら汚染水をくみ上げ、坑道内をセメントに置き換える工法をとる方針を示した。 水平に広がりやすいセメントを使うことで、坑道内に残る汚染を減らす。【 長野剛、熊井洋美 】

2014年(平成26年)11月22日(土)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面 赤字は右記引用部分
 「地下水の建屋への流入を遮断して汚染水と混ざるのを防ぐ「凍土壁」をトレンチを横切る形で作る計画」には、計画のようには凍結が進まないだろうということを上で論証してきたが、やはり「建屋からの汚染水や地下水がどこかで流入している可能性が高い」という結果になってしまっている。 「凍土壁」を作る計画は放棄したようだから、この「計画」についてこれ以上言及することもないだろう。 ただ、そのような杜撰な「計画」に邁進したことで浪費してしまった「貴重な時間」と「莫大な費用」については・・・。 
 さて、トレンチから汚染水約200トンを抜くと、約80センチ下がるということである。 そこから、トレンチの面積が250平方メートルであることが分かる。 また、15時間後の18日午前7時には水位は上昇し、水を抜く前に近いところまで戻っていたということから、水抜きの終了時間は17日の午後4時である。 水を抜き始めた時間は明示されていないが、作業の準備等があるから午前10時としよう。 すると、6時間の水抜き作業で、本来なら約80センチ下がるはずのトレンチ側の水位は水抜き直後には約20センチしか下がらなかったということになる。 1.5時間分の抜き取り量である。 すなわち、抜き取り作業の後半部分では、地下水などの流入量が抜き取り量と等しくなっていた(定常状態になっていた)と思われる。 この流入量は1時間に33トン、毎秒約9.3リットルである。 流入量が水面の深さに比例しているならば、抜き取り前の水面を基準にして、抜き取り終了から1時間後には−10.3センチメートルに、2時間後にはー5.3センチメートルに、3時間後には−2.7センチメートルに、・・・と水面が徐々に上昇して、15時間後にはほぼもとの水面の高さになってしまう。 
 定常状態になっているときの水の流入量をもとにして、トレンチの内外を閉塞している壁の開口部面積を推定する。 トレンチ外部の水面の高さは、水を抜く前のトレンチ内の水面と同じである。 水を抜いていて定常状態になっているとき、トレンチ内外のヘッド(圧力差)は水の高さにして20センチメートル(約2キロパスカル)である。 このとき、充分に大きい穴が明いているとすると、そこを通した水の流速は毎秒2メートルである。 その穴の総面積は約46平方センチメートルである。 これは手の平よりも一回りだけ小さい面積である。 もし、多数の小さな穴が明いているとき(開口部に砂などが詰まっているときも含めて)には、開口部の総面積はこれよりは大きくなる。 
 いずれにしても、この程度の面積の隙間が壁にあると、止水できないことになってしまう。 
 なお、汚染水がたまっている坑道があるのは2号機と3号機の海側で、量は計1万1千トンであるという。 2号機側のトレンチにある汚染水の量は明記されていないが全体の半分として5千5百トン(*1) とすると、トレンチの面積から推算すると平均深さは22メートルとなる。 もちろんトレンチの構造は単純ではないから、この値はあくまでも概算であるが。 この坑道に水を吸わないサラサラのセメントを流し込みながら汚染水をくみ上げ、坑道内をセメントに置き換えるという。 
 この施工法は簡単に見えるが、実際の作業は簡単ではない。 サラサラのセメントを流し込むのであるから、トレンチの内外を貫通している穴の通り抜け易さも水と大差がない。 トレンチの水位が低くなれば外部の水がセメントを押しのけて入り込んで来るであろうし、高くなればセメントが流れ出てしまうであろう。 水を吸わないサラサラのセメントの弱点は、硬化時間が普通セメントの倍と長いことである。 通常10時間以上を要するので、この間はトレンチの水位を一定に保たねばならない。 高放射線量の汚水であるので、この管理は容易ではない。 密閉する形でセメントが固化するのであれば問題は生じないはずであるが、この間に水の流入やセメントの流出が生じると、固化したセメントに鬆(す)が入ってしまう。 閉塞が不完全になる。 この施工法では、この鬆(す)を如何に小さくできるかに成否がかかっている。
 

(*1) 後日の記事で、約5千トンと報じられている。 推定に1割ほどの誤差があるが、全体の論旨は変わらない。


 
2号機坑道に
セメント投入 福島第一

 東京電力は25日、福島第一原発2号機の建屋海側にある坑道(トレンチ)を埋め立てる作業を始めた。 坑道内にたまっている高濃度汚染水が漏れるのを防ぐため、汚染水をくみ上げながら特殊なセメントを流し込む。 汚染水を抜き取ってから埋め立てる計画だったが、建屋との接続部の止水がうまくいかず、汚染水を残したまま作業することにした。 
 東電によると、25日は坑道の南東側から約80立方メートルを投入した。 この日は水位の上昇が小さく、汚染水は抜き取らなかったという。 26日以降、投入量を増やしながら海に最も近い東側部分から埋めていくことにしている。 東電は当初、タービン建屋と坑道の接続部を凍結させるなどして汚染水が流れ込むのを止め、汚染水を抜き取ったうえで埋め立てる計画だった。

2014年(平成26年)11月26日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面 赤字は右記引用部分
 とうとう、25日は坑道の南東側から約80立方メートルを投入したということである。 それだけのセメントを流し込みながら、水位の上昇が小さかったという。 11月19日(水)付けの記事によると、約80立方メートルを投入すると水位は32センチメートルの上昇を見るはずである。 もし、これだけの水位上昇があれば、水位の上昇が小さいという状況ではない。 水位の上昇が小さかったということであれば、セメントの投入に伴ってトレンチ外への漏出があったに違いない。 その漏出したものが、投入したセメントでなければ良いのだが・・・。

 
主要部の埋め立て終了

 東京電力は26日、福島第一原発2号機海側にある坑道(トレンチ)内の高濃度汚染水対策で、主要部分の埋め立て作業を終えたことを原子力規制委員会の検討会に報告した。 たまっていた汚染水約5千トンのうち、2500トンをすでに回収した水の通り道が部分的に残っているとみられることから、検討会は対策の検討を東電に求めた。 
 作業は立て坑部分などを除き今月18日に終了したが、その後の水位計測で推計で最大毎時400リットルの行き来があったという。 3号機坑道に約6千トン、4号機坑道に約700トンの汚染水が残っており、東電は同じ方法で準備を進める。

2014年(平成26年)12月27日(土)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面 赤字は右記引用部分
 坑道へのセメント投入作業は立て坑部分などを除き今月18日に終了したが、そのセメントの隙間を通じて推計で最大毎時400リットルの行き来があるという。 セメント投入前にはトレンチ内外のヘッド20センチメートルで1時間に約30立方メートルであったから、それに比べると汚染水の流出・流入が格段に減少しているようにみえる。 
 ただ、推計で最大毎時400リットルの行き来があるということであるが、トレンチ内への水の流入量やトレンチ外への流出量を「直接」測っているものではない。 この推計は「水位計測で」と記されているように、トレンチ内の(汚染水の行き来の「行き」による)水面の下降及び(汚染水の行き来の「」による)水面の上昇の変動を基にした値であると思われる。 すると、この推計で最大毎時400リットルの行き来があるというデータは、流入量と流出量の「」をみていることになる。 汚染水側の水位はそんなに変わらないだろうから、トレンチ内水面の上昇と下降は、地下水の水位の上昇(で流出量が減少して水面が上昇)、下降(で流出量が増加して水面が下降)を反映しているということか。 
 すなわち、トレンチ内への水の流入量は、毎時400リットルよりはかなり大きい可能性があるということである。 関係者からも「水の通り道が部分的に残っているとみられること」が指摘されている。 
 作業は立て坑部分などを除いて主要部分の埋め立て作業を終えたという。 その段階で、たまっていた汚染水約5千トンのうち、その半分の2500トン回収したという。 立て坑部分などを除いて主要部分の埋め立て作業を終えたということから、たまっていた汚染水約5千トンに相当する容積の7・8割が、セメントで埋め立てられたと思われる。 回収された2500トンの汚染水と、トレンチ内へ投入したセメントの容積を比べると、後者が圧倒的に多い。 その場合、トレンチからの汚染水の漏れがないならば、汚染水はトレンチからオーバーフローしてしまうはずである。 何故ならば、トレンチの水面面積の推定250平方メートルから、250トン分の汚染水の増加で水面を1メートル上昇させるから。 
 しかし、汚染水がオーバーフローしたとの記述はない。 汚染水は、トレンチから漏れ出しているはずである。 これについては、施工段階で、汚染水の抜き取り量とセメントの埋め立て量を厳密に管理していれば、明らかにできたはずである。 
 この状態を想定した図を、下に示す。 
 図23-5 トレンチ内外への汚染水の流れ 
 (想像図) 
 今後、立て坑部分などを埋め立てそこの汚染水を抜き取ると、ヘッドが大きくなって外部からの流入量は増大してしまうだろう。 そうすれば地下水位との水位差は減少するから、流出量は(もし漏れ出ているならば)減少する。 その様子を下に示す。 (もし汚染水が流入しているならば)流出量を減少させるために、このトレンチの汚染水を、これからも引き続いて、抜き取っていかなければならないことになってしまう。 
 図23-6 汚染水を抜き取ったときの汚染水の流れ 
 (想像図) 
 結局、汚染水がトレンチ内へ流入しないように完全に止水することが、この工法がうまくゆくかどうかの分岐点である。 しかし、この記事の段階では、トレンチ内の水位が高くて流入し難い状況にあるにもかかわらず相当程度の流入(報道発表では最大毎時400リットル)が認められるようである。 セメント未施工部分は立て坑部分などであって、これを完成してもトレンチへの流入を防ぐのに役立つとは思えない。 トレンチの上部までセメントで覆えば汚染水の動きは目には見えないことになり、そのトレンチ内部へ汚染水が流入していてもまた外部へ流出しているとしてもそれを直接知る手だてはない。 セメントでトレンチを固めてしまったので、汚染水がトレンチ内部に流入していてもまた外部へ流出していても、この漏れを防ぐための「漏洩箇所の発見」と「漏洩口の封止」の作業はトレンチの外側からおこなわなければならない。 「至難の業」(閲覧『http://www.bousyoku.com/page42.htm』)である。
《補足資料》
東電、推奨より10倍希釈 福島第一、がれき飛散防止剤
規制庁「効果落ちた」

 福島第一原発のがれき撤去作業中に、放射性物質を含んだ粉じんが飛ばないようにする飛散防止剤をメーカーの推奨する濃度より10倍以上に薄め、散布回数も大幅に減らすよう東京電力が指示していたことが分かった。 指示は2013年夏まで約1年間続いた。 原子力規制庁は「この結果、飛散防止効果が落ち、昨夏に放射性物質の飛散が起きたとみられる。 安全な使い方をしなければならない」などとして東電に行政指導した。 
 問題となっているのは2013年夏のがれき撤去作業。 飛散防止剤のメーカーによると、防止剤は数時間が経過すると固化するアルカリ性の液体で、主にアスベスト飛散防止に用いられている。 除去作業中は原液か、水で10倍まで希釈したものを毎日散布し続けることを推奨している。 だが、東電によると、当初は防止剤を4号機の作業で原液や10倍希釈で作業前日と直前に使っていたが、12年8月からの3号機の作業では100倍に希釈し、回数を数日から数週間ごとに減らすよう指示した。 飛散問題が起きた13年夏当時は3号機には6月中旬と8月13日の計2回、散布しただけだった。 
 メーカーの担当者は「100倍希釈では水と同程度の効果しかない。 粉じんを防止剤で湿らせている間に作業するのが原則なのに数日以上も放置すれば飛散するのは当然だ」としている。 
 実際、8月12日と19日の作業中には放射性物質が飛散して放射能濃度が高くなって構内の警報がなり、作業員計12人に汚染が確認された。 19日の放射性物質の放出量は規制庁試算でふだんの6700倍だった。 東電は「飛散防止剤の散布不足のために起きた」としている。 うち1度は3キロ先で空間線量が上昇しており、東電は「飛散の影響である可能性がある」としている。 
 東電は「防止剤が燃料プールに混入した際にアルカリ度が上がり、機器への影響を懸念した。 効果に問題ないと認識していたが、結果的に不十分だった」とし、13年10月から10倍希釈に修正し、毎日作業の前後に散布するよう改めた。 100倍希釈にする際、粉じんが固まるかどうかの実験は行ったが、効果が何時間持続するかの実験はしていなかったという。 
 被災地でアスベストの飛散問題を調査していた立命館大学の森裕之教授(公共政策)は「安全管理への考え方が非常にずさん。 作業員や住民の安全を第一に作業をするべきだ」としている。 
 原子力規制庁東京電力福島第一原子力発電所事故対策室は「当時は飛散防止剤の濃度や頻度までチェックするようになっていなかった。 以降は監視を強めている」としている。【 青木美希 】

2014年(平成26年)12月31日(水)05時00分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 ここで、東電がおこなってきた原発事故対策において、場当たり的な工程以外にも、科学的に不適当なことがおこなわれてきた事例の1つを左記の「補足資料」で示す。 水で過度に薄めた飛散防止剤を、適切な周期を大きく下回る頻度で、散布してきたというケースである。 そのため、放射性物質が飛散してしまうという事態が生じている。 
 なお、資料中で、防止剤が燃料プールに混入した際にアルカリ度が上がることで機器への影響を懸念したとのことである。 また、その粉塵防止剤の使用に関して、粉じんを防止剤で湿らせている間に作業するのが原則なのに数日以上も放置すれば飛散するのは当然であるとし、毎日作業の前後に散布するように作業手順を変更したという。 強アルカリの材料で、粉塵防止の効果が湿っているときにのみ有効である具体的な物質が、思い浮かばない。 
 飛散を防止するためには、有機系の「ポリアクリルアミド」や「ポリビニルアルコール」を水で薄めて噴霧する方法がある。 ただ前者は高価な点とその中に残留しているモノマーが発ガンイニシエーター活性を持っている点で、広範囲に大量に使うことには適していない。 後者は、pHが8.5前後で機器に影響するようなアルカリ性ではなく、医薬品の錠剤やカプセルのフィルムコーティング剤に使われているように優れた接着性能と健康への安全性がある。 これらは有機物であるので、防炎性に限って難点がある。 無機系には「珪酸塩系」と「塩化カルシウム・塩化マグネシウムなど」がある。 前者は水ガラスの形成で飛散を防止するもので、予想以上に被散布材料どうしが固着してしまうことがある。 「塩化カルシウム・塩化マグネシウムなど」は弱酸性の塩で、「にがり」として固着させるとともに水分の吸着による適度の湿り気の維持で飛散が防げる。 
 難燃性と散布処理の容易さや経済性を重視すると「塩化カルシウム・塩化マグネシウムなど」を採用したいところであるが、イオン性の物質であるので機器に付着すると腐食してしまう難点がある。 難燃性を考慮しなくてもよいところであると、防散処理効果の持続性能や周囲の機器に影響を与えないことと被散布材料の廃棄処分が容易なことから「ポリビニルアルコール」を採用したいところであるが・・・。 
 「ポリビニルアルコール」の散布では、その散布液が乾燥すると粉塵表面に薄いポリビニルアルコール膜を形成し、粉塵が塊状態になって固着する。 そのような大きな塊になってしまえば、撤去作業や強風によって粉塵が吹き飛ばされるようなことは激減するはずである。 たとえ飛ばされたとしても、粉塵の粒子径が大きいので吹き上がることはなく、その近辺に落ちてしまう。 当然、毎日作業の前後に散布するようなことも、不必要になる。 
 「トレンチの止水工事」にしても「この件」にしても、結果的に不完全なことを招いている原因は、施工方法やその材料の選択に偏りがあるからと思われる。 納入業者や施工業者とのコネクションとそこでの甘い言葉に、乗ってしまっていることはないでしょうか。 
 なお、「補足資料」中で「東電は・・・」となっていて、この愚かなことの実行を決定した部署・担当者は明記されていないが、適切な対策を取れる態勢を持っているか、はなはだ疑問に思われる。

 
第一原発2号機 トレンチ底部に砂堆積 新たな課題に

 セメント注入が続く東京電力福島第一原発2号機の海側トレンチ(電源ケーブルなどが通る地下道)で、底部に堆積した高濃度汚染水を含む砂の除去が新たな課題として浮上している。 セメントでトレンチ内を固め、汚染水を抜き取っても、砂がたまった層の亀裂から地下水が流入し汚染水となり漏れ出す可能性がある。 大規模な漏えいにつながるトレンチ内の汚染水除去を優先するため工事を続行するが、不安材料を抱えたまま作業を進めざるを得ないのが現状だ。 

 図23-7 セメントによる「トレンチ」の埋め立て 

■想定外 
 2号機のトレンチにはタービン建屋から流れ込んだ汚染水が約5000トンもたまっていた。 再び大地震や津波が発生した際には、汚染水の大量漏えいにもつながりかねない。 汚染水の抜き取りは待ったなしだった。 
 東電はセメントをトレンチ内に注入することで、たまった汚染水が押し出され、完全に除去できると想定した。 しかし、東日本大震災の津波で運ばれた底部の砂の存在が昨年11月、明らかになった。 東電は、砂に約25トンの汚染水が含まれていると推定する。 
 原子力規制委員会はトレンチの耐震構造から、亀裂の存在を指摘していた。 「地下水が入り込み、汚染水となって海洋流出する可能性がある」。 県の担当者はセメント注入作業の推移を注視する。 
 原子力規制庁の担当者は「砂が地下水を汚染する可能性は否定できない。 しかし、緊急性の高い汚染水の抜き取りを優先するしかない」としている。 
■回収は困難 
 トレンチの砂は地上から約12メートルの地下にある上、「セメントでふたをしたような状態」(県担当者)という。 
 さらに、トレンチ付近の空間線量は毎時1ミリシーベルト(平成25年6月現在)と高い。 砂を取り出すかどうかも含め見通しは示されていない。 高坂潔県原子力専門員は「汚染水を含む砂の残留は、トリチウムを含んだ水や使用済み核燃料の処理など『廃炉のシナリオ』の新たな長期的課題の一つとなった」との認識を示した。 
■神経とがらす 
 県は風評被害や本県漁業への影響が大きい汚染水の海洋流出に神経をとがらす。 
 2号機と同様にトレンチのセメントによる埋め立てが予定されている3号機、4号機の海側トレンチにも、津波によって運ばれた土砂が沈殿している。 埋め立て後には2号機と同様、除去が大きな課題となる。 
 県は「砂の位置などを把握しトラブルに備えることが重要」と強調するが、地下水への汚染が拡大する場合、早期の砂の取り出しなど新たな対策を東電に求めるとしている。

2015年(平成27年)1月11日(日)08時21分
福島民報 Web版 赤字は右記引用部分
東日本大震災の津波で運ばれた底部の砂の存在が昨年11月になって示された。 この砂に約25トンの汚染水が含まれているということから、砂の量も同じ程あると思われる。 少なくない量である。 既にセメントを使って「トレンチ」を埋め立てているから、トレンチの砂は地上から約12メートルの地下にある上、「セメントでふたをしたような状態」(県担当者)になってしまっている。 固まってしまったセメントの下にある砂を除去することは、高い放射線量を考慮すると、ほとんど不可能なことである。 セメントを「トレンチ」の下部に再注入できれば、砂の層を固めて汚染水の移動を防ぐことができるかもしれない。 しかしこのような状況で、汚染水の流入・流出を完全に止めることは難しいことである。 
 図23-8 トレンチへの汚染水の流入 
 (筆者加筆改図) 
 記事で述べられている「地下水」の流入だけではなく、タービン建屋からその亀裂を通って「トレンチ」の砂の層に流れ込んでくる汚染水もあると思われる。 そうであれば、多量の放射性物質が「トレンチ」に入り込むことになる。 それらは、何れ「トレンチ」から海側に流れ出てしまう。 
 よくも次々と難題が降りかかってくるものであろう。 そうではなくて、わざと困難な道に突き進んでいるように思われる。 日本の科学技術のレベルが、試されているようである。 その試練に対して、現場を指揮している担当者は・・・。

 
トレンチ埋め立ての遅れ 凍土壁への影響懸念

東京電力は、福島第一原子力発電所で高濃度の汚染水が流れ込んでいる「トレンチ」と呼ばれるトンネルの埋め立て作業が、当初の計画より半月遅れるとする計画を原子力規制委員会に示しました。 
汚染水対策の柱とされる「凍土壁」の建設への影響が懸念されますが、東京電力は「どの程度影響があるかは分からない」としています。 
福島第一原発の建屋から「トレンチ」に流れ込んでいる高濃度の汚染水について、東京電力は当初、一部を凍らせて流れをせき止めたうえで抜き取る計画でした。 
しかし汚染水が十分に凍らず、その後、汚染水を抜き取りながらセメントを流し込んでトレンチを埋め立てる方法に切り替えましたが、セメントに隙間ができてしまい、汚染水の流れを完全に遮断できていません
 
9日開かれた原子力規制委員会の会合で、東京電力は、まだ埋め立てていないトレンチと建屋との接続部を塞げば汚染水を遮断できるとしたうえで、この部分の埋め立てを当初の計画より半月遅らせて今月下旬からとする計画を示しました。 
これに対して規制委員会は、引き続き調査が必要な一部を除き、東京電力の計画を了承しました。 (後略)

2015年(平成27年)2月10日(火)04時32分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 「トレンチ」の止水について、「一部を凍らせて流れをせき止めたうえで抜き取る計画でした。 しかし汚染水が十分に凍らず、その後、汚染水を抜き取りながらセメントを流し込んでトレンチを埋め立てる方法に切り替えましたが、セメントに隙間ができてしまい、汚染水の流れを完全に遮断できていません」ということである。 
 そのうえで「まだ埋め立てていないトレンチと建屋との接続部を塞げば汚染水を遮断できる」としている。 
 そのための埋め立て資材として「1ヶ所から流しても行き渡るほどさらさらしていて、しかも水に溶けにくく汚染水中の放射性物質を取り込みにくいセメント(9月23日付朝日新聞)」を使うなら、それでは止水は無理であろう。 それは、セメントを流し込んでトレンチを埋め立てる方法に切り替えましたが、セメントに隙間ができてしまっているので、その狭い隙間をぬって流れる水は相当に速いものである。 そのため、セメントは固まる前に流れ出てしまう。 
 この工法のために推奨する止水材料は既に記してあるが、再掲する。 
湿気硬化型シリコーン接着剤を推したい。 これをセメントのように充填する形で使用するのである。 この材料の唯一の欠点は、セメントに比べるとはるかに高価なことであるが、事故の収束に要する全体の経費と比較してバランスを欠くほどのものではない。 長所は、いくつもある。 (1)周囲の構造物との接着性能が良好である。 (2)水分があると固着が早まる。 (3)固着後の材料に弾力性があるので、余震などでの振動や周囲の構造物の変形にも柔軟に対応できる。 (4)撥水性があるので、止水に都合が良い。 (5)化学的に安定であるので、長期間の使用に耐える。 (6)不必要になったとき、取り除くことも比較的簡単である。 (7)そして最大の利点は、固着後の材料が軟らかいので、止水施工した構造物の内部への「追加充填」が可能なことである。 「追加充填」のときは、充填箇所までボーリングして、圧力を掛けてシリコーン接着剤を押し込むことにより、より完全な止水を図れる。  
 この材料を推す最大の利点は、セメントと違って粘度が高くて、水流によって流れていかないことである。

 
規制委検討会「凍土遮水壁は不要」 汚染水対策、抜本見直しも

 東京電力福島第1原発の汚染水問題で、原子力規制委員会の監視検討会は9日、会合を開き、建屋周辺の井戸「サブドレン」から地下水をくみ上げる手法が成功すれば、地中の土壌を凍らせる「凍土遮水壁(とうどしゃすいへき)」は、不要との見解を示した。 凍土壁は「国策」として進められ、3月にも凍結開始を目指していたが、規制委検討会の方針転換で、汚染水対策は抜本的な見直しを迫られる。(原子力取材班) 
 第1原発では、山側から1日数百トンの地下水が原子炉建屋に流れ込み、汚染水となってタンクにためられている。 このため、地中に一定間隔で凍結管を打ち込み、1〜4号機の建屋を囲むように総延長1500メートルの凍土壁を設置する工事が進んでいる。 
 しかし、この日の規制委の検討会で、サブドレンの効果が期待できることや、海側には海水の流入を防ぐフェンスもあることから、凍土壁の不要論が続出。 規制委の更田(ふけた)豊志委員長代理は「(凍土壁の作業は)被曝(ひばく)の危険があり、払った努力に見合うだけの効果があるのか」と、凍土壁の見直しを要求した 
 規制委は来月にも再び検討会を開き、凍土壁を運用させるかどうかの議論を続ける。 東電が凍土壁が有効との説得力のあるデータを示さなければ、凍土壁の断念を迫る方針だ。 
 凍土壁は「汚染水の抜本的な抑制策」として、政府が平成25年9月に国費約320億円の投入を決定。 規制委は「着工そのものを妨げる要素はない」と消極的な見解で、昨年5月に山側だけ工事を容認し、東電は翌月に着工したが、凍結自体の認可は保留していた。 
 凍土壁をめぐっては、世界にも前例のない大規模な工事であるため、「本当に凍るのか」「冷媒が漏れ出る心配はないのか」など有識者から懸念の声が出ていた

2015年(平成27年)2月10日(火)07時55分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 「凍土壁をめぐっては、世界にも前例のない大規模な工事であるため、「本当に凍るのか」「冷媒が漏れ出る心配はないのか」など有識者から懸念の声が出ていた」ことは、これまでの経過から見て当然である。 それは、「規制委の更田(ふけた)豊志委員長代理は「(凍土壁の作業は)被曝(ひばく)の危険があり、払った努力に見合うだけの効果があるのか」と、凍土壁の見直しを要求した」ことにもあらわれている。 
 そのため、「凍土壁は「国策」として進められ、3月にも凍結開始を目指していたが、規制委検討会の方針転換で、汚染水対策は抜本的な見直しを迫られる」ことになろう。 
 規制委からのこの件に関する一連の発言は更田(ふけた)豊志委員長代理によるもの(*1) である。 規制委の責任者としてか、他には意見を述べるものがいないためか。 
 これで凍土壁をめぐる工事は、止めを刺されたことになろう。
 

(*1) 原子力規制委員会初代委員長の田中俊一氏の後任に、更田豊志氏が就任した。 
 更田新委員長は、委員会での発言を幾度となく引用しているように、もの申す委員であった。 一部の人には、居心地が悪い人事であったろう。 そうであったとしても、物事の正否を明確に発言できる委員を長に選ぶことができたことは、誠に好ましいことである。

《参考資料》
 図23-9 ひと 新たな課題に取り組む2代目の原子力規制委員長 
 更田 豊志さん(60) 
2017年(平成29年)11月14日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面(総合2)
 


 
「凍土壁」を試験凍結
東電 福島第一で作業開始

 福島第一原発の汚染水対策で建屋地下を氷の壁で囲む「凍土壁」の計画で、東京電力は30日、試験凍結の作業を始めた。 昨年6月の着工以来、実際に凍結させるのは初めて。 周囲に配管があるなど凍結が難しい18カ所について効果を調べ、本格的な凍結を目指すが、時期は見通せない状況だ。 
 凍土壁は、1〜4号機の周囲の地盤を凍らせ、地下水が流れ込むのを防ぐ計画。 地下30メートルに及ぶ管を1メートル間隔で打ち込み、零下30度程度の液体を巡らせて総延長約1500メートルの壁をつくる。 今回凍らせるのは合計約60メートル分で、山側の18カ所58本。 周囲の温度や地下水位の変化を確認する。 

 図23-10 セメントによる「トレンチ」の埋め立て 

 当初は3月末までに全体の凍結を始める計画だった。 しかし、海側の準備作業が難航しているうえ、1月の作業員死亡事故を受けた安全点検で工事が一時中断するなど工程が遅れていた。 原子力規制委員会からも慎重な検討を求める声が出たことから、試験的に凍結させることにした。 
 試験凍結では、周囲に構造物がある場所や地下水の流量が多い場所がきちんと凍るかを数週間程度かけ確かめる。【 熊井洋美 】

2015年(平成27年)4月30日(木)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版2面(総合2) 赤字は右記引用部分
 
「凍土壁」効果が焦点 第1原発で試験凍結開始

 東京電力は30日、福島第1原発で汚染水の発生量を抑える対策として、1〜4号機建屋周辺の約1.5キロの範囲に凍結管を埋め、凍らせた地盤で壁を造る「凍土遮水壁」の試験凍結を始めた。 政府と東電は凍土遮水壁を汚染水対策の切り札に位置付け、建屋山側から海側まで凍結の範囲を広げたい考えだ。 ただ、原子力規制委員会は海側の凍結を疑問視しており、凍土壁の効果が焦点となる。 
 東電は当初、3月中に凍結を始める計画だったが、1月の労災死亡事故に伴う安全点検で1カ月遅れて始まった。 試験凍結は全体で1551本(30日現在)ある凍結管のうち、建屋山側で埋設物の影響から凍りにくい部分など18カ所(凍結管は計58本)が対象。 冷却システムの循環状況や地中の温度変化、地下水への影響などを確認する。 
 東電によると、30日正午に1台目の冷凍機を起動させた。 同日午後6時までに8台が起動、地中の水分を凍らせる冷却材はマイナス29度を測定。 凍土壁を造るには冷却材をマイナス30度で安定して循環させる必要があるという。 福島第1廃炉推進カンパニーの増田尚宏最高責任者は同日の定例会見で「ようやくここまで来た。 これ以上、汚染水を増やさないための大きな取り組みになる」と話した

2015年(平成27年)5月1日(金)12時17分
福島民友新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 建屋地下を氷の壁で囲む「凍土壁」の計画で、東京電力は30日、試験凍結の作業を始めたとのことである。 東電によると、30日正午に1台目の冷凍機を起動させた。 同日午後6時までに8台が起動、地中の水分を凍らせる冷却材はマイナス29度を測定。 凍土壁を造るには冷却材をマイナス30度で安定して循環させる必要があると述べている。 周囲に配管があるなど凍結が難しい18カ所について効果を調べ、本格的な凍結を目指すというが、時期は見通せない状況である。 それは、原子力規制委員会からも慎重な検討を求める声が出たことから、試験的に凍結させるのであるが、試験凍結では、周囲に構造物がある場所や地下水の流量が多い場所がきちんと凍るかを数週間程度かけ確かめることになる。 
 以前の記事で、「規制委の更田(ふけた)豊志委員長代理は「(凍土壁の作業は)被曝(ひばく)の危険があり、払った努力に見合うだけの効果があるのか」と、凍土壁の見直しを要求した」。 そのため、「凍土壁は「国策」として進められ、3月にも凍結開始を目指していたが、規制委検討会の方針転換で、汚染水対策は抜本的な見直しを迫られる」ことになったが、4月末になって試験的に凍結させることになったようである。 
 凍土壁の設置は、地下水の流入・流出を抑える目的から考えて、相当な地下水の動きがあるはずである。 地下水が流れていると、凍結が難しいことは何度も述べてきている。 試験凍結をおこなう位置に「みず道」があるとすると、この凍結方法では失敗してしまうであろう。 地下水の流速の閾値(これ以上の流速では、水が凍結する前に流れ去ってしまうという値)があったとする。 この閾値は、流れ込んでくる地下水の温度やそれ に溶け込んでいる物質の量(による凝固点降下)で違ったくるが。 もし部分的に凍結できたとすると、非凍結部分に水流が集中して流速が速くなるので、閾値以上の流速になってしまい凍結は進まなくなる。 流速が閾値の2倍になったとすると、地下水を冷却するための時間を同じだけ確保するためには、流れの方向に2倍の接触距離を取るため凍結管を増設せねばなるまい。 ざっくり言えば、凍結管を2列にすることである。 (別の方法として、冷却剤として凍結管中を流している零下30度程度の液体を零下60度にしても、同じ効果が得られる。 しかし、零下60度で冷却剤を循環させることは、冷却剤の選定や冷凍設備の規模を考えると、その実現性はほとんどない。) 3倍になれば、3列にすることが必要である。 凍結が進めば進むほど、流速が速くなって、非凍結部分に凍結管の列を増やすことになってしまう。 凍結できた部分であっても、そこの凍結が冷凍設備の故障などにより解凍してしまうと、上流側に溜まっていた地下水がそこに集中して流れることになる。 その部分を再凍結するためには、当然、何列もの凍結管を設置しなければならない。 モグラ叩き状態になってしまう。 
 それは、実用的ではない。 
 凍結壁の構想は、非現実的である。 
 試験凍結では、地下水の流れはそこを迂回する可能性があるので、一部の地点で凍結は成功するかも知れない。 しかし、そのことで、この構想全体の成功を保証するものでは、ないだろう。 
 福島第1廃炉推進カンパニーの増田尚宏最高責任者は同日の定例会見で「ようやくここまで来た。 これ以上、汚染水を増やさないための大きな取り組みになる」と話したが、「トレンチ」と呼ばれる地下のトンネルの止水工事を「他山の石」にしている様子が窺えないのは僻みか。

 
原発地下水放出
県漁連が容認へ
福島第一
 図23-11 サブドレンの仕組み 

 東京電力福島第一原発の建屋周辺からくみ上げた放射性物質を含む地下水を浄化して海に流す東電の「サブドレン計画」について、福島県漁業協同組合連合会は11日午前、臨時組合長会議で容認することを正式に決めた。 これを受け、東電は来月にも計画を実施する見通しだ。 
 県漁連は容認の条件として、原子炉建屋内の高濃度汚染水は処理後も海に流さないことや、排出基準の厳守、損害賠償の継続、新たな風評被害が生じた場合の対応などを求める要望書を東電と国に提出した。 
 浄化した汚染水の海洋放出は初めてのため、漁業者の間には当初、「風評被害がさらに広がりかねない」などと反対意見が根強かった。 今年2月には、大雨のたびに福島第一原発の汚染雨水が港湾の外に流れ出ていたことを東電が公表していなかった問題が発覚し、「東電との信頼は崩れた」と反発が強まった。 
 しかし、計画の実施により、海側遮水壁で港湾内への汚染地下水の流出が食いとめられるとの東電の説明を受け、「港湾内の放射性物質濃度の数値が大幅に改善できると期待できる」(野崎哲・県漁連会長)と容認に転じた。

2015年(平成27年)8月11日(火)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版7面(社会) 赤字は右記引用部分
 
県漁連が要望書 浄化地下水海洋放出 第三者監視など条件

 東京電力福島第一原発建屋周辺の井戸「サブドレン」からくみ上げた水を浄化して海洋放出する計画を受け入れる方針を決めている県漁連は11日、いわき市で県漁協組合長会議を開いた。 受け入れの条件となる要望書をまとめ、国と東電に提出した。 
 計画実施による水質管理の徹底、第三者監視下での排水実施、多核種除去設備(ALPS)処理水の陸上保管などを盛り込んだ。 会議では全会一致で要望事項を承認した。 
 県漁連の野崎哲会長が経済産業省の田中繁広総括審議官兼廃炉・汚染水特別対策監、東電の新妻常正福島復興本社副代表に要望書を手渡した。 
 野崎会長は会議後、「要望の内容が約束されれば(サブドレン計画実施により)試験操業の前進、本県漁業の復興につながる」と述べた。 要望に対する国や東電の回答について「1週間から10日程度でもらいたい」とした。 県漁連は回答を受けて正式に計画受け入れを決める。 
 田中総括審議官は「可能な限り早急に回答する」と述べた。 新妻副代表は「漁業再生に向け、漁業者の気持ちを裏切らないよう安定的な廃炉を進めたい」と強調した。

2015年(平成27年)8月12日(水)11時39分
福島民報 Web版 赤字は右記引用部分
 福島第一原発の建屋周辺からくみ上げた放射性物質を含む地下水を浄化して海に流すという東電の「サブドレン計画」福島県漁業協同組合連合会は容認することにしたという。 それは、計画の実施により、海側遮水壁で港湾内への汚染地下水の流出が食いとめられるとの東電による説明が、あったからである。 
 いわゆる「サブドレン計画」の実施が必須であって、そのサブドレン計画の実施により、海側遮水壁で港湾内への汚染地下水の流出が食いとめられるということである。 海側遮水壁で港湾内への汚染地下水の流出を止めることができれば、「港湾内の放射性物質濃度の数値が大幅に改善できると期待できる」のは、当然であるが・・・。 
 福島民報の記事において、県漁連の野崎哲会長が「要望の内容が約束されれば(サブドレン計画実施により)試験操業の前進、本県漁業の復興につながる」と述べている。 ここでも「要望の内容が約束されれば(サブドレン計画実施により)試験操業の前進、本県漁業の復興に・・・」とあるように、「サブドレン計画実施」が汚染水対策の前提であるような発言になっている。 
 「計画」の因果関係が、逆のような?  サブドレン計画の実施が、本当に汚染水対策の前提であろうか。 サブドレン計画が実施できなければ、諸々の汚染水対策が前進しないのか。 それほど、サブドレン計画の実施キーストーンとなるほどの重要なことか。 
 遮水壁である凍土壁を凍結させるとき、スムーズに凍結させるためには、遮水壁部分の地下水の移動を最小限にする必要がある。 それには、原発構内と構外の地下水位を、等しくしなければならない(*1)。 原発構内の地下水位のコントロールが必要不可欠である。 そのためには汚染された地下水を、大量に汲み出す必要がある。 そこで、東電としては「サブドレン計画」を、是非とも実施したい。 これが実施できないと、汲み上げた大量の汚染地下水を保管するために多くのタンクの設置と、それを設置する場所が必要になってしまう。 すなわち、凍土壁工事を短時間に経済的に完成させるためには、「この「サブドレン計画」が実施できるようになると、東電にとっては誠に都合が良い」ということであろう。 
 「計画」の因果関係を逆にして、すなわち、東電の「サブドレン計画」の実施が必要不可欠なことであり、その計画の実施により汚染地下水の流出が食いとめられると説明しているようである。 その説得によって、それまで「東電との信頼は崩れた」と反発が強まっていた漁協連が、この「サブドレン計画」の実施を容認するに至った・・・? 
 しかし上述してきたように、「凍土壁」によって原発構内を囲むように完全に「凍結」閉塞することは、不可能であると思われる(*2)。 汚染地下水の漏洩を防ぐことは、難しい。 結果として、福島県漁業協同組合連合会「サブドレン計画」の実施を東電の説得で容認したが、県漁連の切望にもかかわらず、不完全な遮水壁によって汚染地下水が港湾内へ流れ出ている状態がそのまま続いてしまう・・・といったことになるかも知れない。
 

(*1) 地下水位は、山側が高くて、港湾側が低い。 原発構内はその中程である。 「(*2)」の説明にあるように、地下水の流れを止めないと遮水壁の凍結が進まない。 そのため、山側遮水壁を凍結させるときには、構内の地下水位を上げる必要がある。 また、海側遮水壁を凍結させるときには、大量の地下水を汲み上げなければならないはずである。 これによって、大量の放射性物質を含む地下水を処理しなければならないことになる。 
 遮水のために、構内周囲を凍結封止する方法を採用したことは正解か?  
 もし、トンネル工事の出水の際に取られているセメント注入による止水法を取っていれば、地下水の流入にも対応できる。 これは完成した技術である上に、放射性物質を含む地下水を大量に汲み出す必要性もない。 漁協連による容認が必要な「サブドレン計画」の実施も、不要であったかも知れない。

(*2) 地下水の流れがあると、その部分の凍結は困難になる。 凍結開始直後は、地下水は凍結壁全体にわたって流れているので、その流速は大きくないので凍結は支障なく進んでいく。 凍結壁がある程度できてくると、地下水の流れは凍結していない部分に集中してしまう。 凍結壁の出来具合に比例して、地下水流速が大きくなる。 ある流速を超えると、凍結は進まなくなる。 降雨があれば地下水流速が大きくなって、凍結末端が解凍してしまうことも起こる。 いずれにしても、「凍土壁」によって原発構内への地下水の流入とそれからの流出を完全に封止することは、不可能であると考えている。


 
浄化地下水放出、容認決定=県漁連、汚染水対策で―福島第1

 東京電力福島第1原発の汚染水対策として、1〜4号機原子炉建屋周囲の井戸(サブドレン)から地下水をくみ上げ、浄化後に海に流す計画について、福島県漁業協同組合連合会(県漁連)は25日午前、同県いわき市で拡大理事会を開き、計画容認を正式決定した。 
 計画は汚染水増加抑制策の柱と位置付けられており、実施されれば汚染水対策は一歩前進する。 
 政府・東電は、近隣県の漁業者への説明などをした上で、放出の開始時期を探る。 終了後、県漁連の野崎哲会長は、記者団に「組合員全ての納得が得られているかは疑問だが、(放出時の放射性物質濃度の基準など)運用要領を厳守してもらいたい」と語った。 
 政府・東電は拡大理事会で、県漁連が11日に計画容認の条件として提出した5項目の要望書への回答を提示。 放出時の放射性物質濃度基準の厳守や風評対策を強化する方針を示した。 タンクで保管する汚染水は「関係者の理解なしには、いかなる処理も行わない」とした。

2015年(平成27年)8月25日(火)11時45分
時事通信(JIJI.COM) 赤字は右記引用部分
 
<汚染地下水>サブドレン計画、全漁連が容認

 東京電力福島第1原発の建屋周辺の井戸(サブドレン)からくみ上げた汚染地下水を浄化して海に放出する計画について、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は25日、宮沢洋一経済産業相に計画の実施を容認すると伝えた。 地元の福島県漁業協同組合連合会も容認しており、東電は早ければ来月から浄化した水を海に放出する作業を開始する。 
 サブドレン計画は、建屋に流れ込む地下水を減らして新たな汚染水の発生を抑える汚染水対策の一つ。 全漁連は(1)第三者の安全確認や運用方針の厳守(2)水の安全性の周知(3)海のモニタリング体制の強化(4)風評被害の解決−−など6項目の要望書を提出。 これに対し、宮沢経産相は「国が前面に立ってしっかり対応する」と説明した。 
 岸会長は、会談後の記者会見で「苦渋の決断。 汚染水の減少につながり、漁業に資するという観点から判断した」と述べた。【 鳥井真平 】

2015年(平成27年)8月25日(火)18時21分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 東京電力福島第1原発の汚染水対策として、1〜4号機原子炉建屋周囲の井戸(サブドレン)から地下水をくみ上げ、浄化後に海に流す計画について、福島県漁業協同組合連合会」と「全国漁業協同組合連合会」が、その計画の容認を正式決定した。 
 これは、県漁連の野崎哲会長は、記者団に「組合員全ての納得が得られているかは疑問だが、(放出時の放射性物質濃度の基準など)運用要領を厳守してもらいたい」と、また岸会長は、会談後の記者会見で「苦渋の決断。汚染水の減少につながり、漁業に資するという観点から判断した」と言っているように、全員が納得した上での容認ではないようだ。 納得に向かってリードしていった漁協関係者がいたかもしれない。 
 なかでも、(1)第三者の安全確認や運用方針の厳守(2)水の安全性の周知(3)海のモニタリング体制の強化(4)風評被害の解決−−など6項目の要望書の内容は、抽象的である。 これでは、要望事項が守られたかどうかの議論はできない。 たとえば、(1)第三者の安全確認や運用方針の厳守の「第三者の安全確認」の第三者とはどのような組織か。 県の関係機関か、それとも宮沢経産相は「国が前面に立ってしっかり対応する」と説明しているように国の・・・。 既存の組織のよるものか、有識者による委員会方式によるものか。 「確認」したことを、誰が何時どの様な形で公開するのか、それとも基本的には開示しないのか。 要望に反する不都合なことがあっても、責任を取るべき者が示されていない。 「第三者の」ではなくて、「×××による」とあれば、×××の長に責任があることがわかるが。 
 要望事項は、もっと具体的に書かれるべきである。

 
福島第一 処理地下水を海へ
建屋流入半減見込む
 図23-12 サブドレン計画のイメージ 

 東京電力福島第一原発の新たな汚染水対策「サブドレン計画」で、東電は14日、建屋周辺からくみ上げて浄化処理した地下水の海への放出を始めた。 汚染された水を処理して意図的に海に流すのは初めて。 東電は汚染水の増加を半減できると見込むが、汚染水が増え続ける状況は変わらない。 漁業者らの懸念も根強い。

汚染水 増加止まらず

 14日は6時間ほどかけて、昨年試験的にくみ上げてタンクにためてあった838トンを港湾内に流した。 
 サブドレン計画は、高濃度汚染水の発生源である原子炉建屋などへの地下水流入量を減らし、汚染水の増加を抑えるのが狙いだ。 東電は昨年5月、建屋から離れた山側の井戸でくみ上げて海へ流す「地下水バイパス」を始めたが効果は限定的。 事故前から地下水管理に使ってきた建屋周辺の井戸(サブドレン)に期待をかけてきた。 順調にいけば1日約300トンの流入量を半減できると試算する。 
 水質は東電と第三者機関が検査し、放出前に公表する。 基準値は放射性セシウムが1リットルあたり1ベクレル、ベータ線を出す放射性物質が同3ベクレル、除去が難しいトリチウム(三重水素)は同1500ベクレル 
 今年8月、福島県漁業協同組合連合会の正式容認を受け、今月3日からくみ上げを開始。 建屋の海側の井戸(地下水ドレン)を動かして護岸付近の「海側遮水壁」を完全に閉じるための工事も10日に始めた。 さらに国と東電は、4月から試験運用している建屋周囲の「凍土壁」を本格凍結させ、地下水流入量を2016年度中に1日100トン未満まで減らす目標だ。 
 それでも汚染水は増え続ける。 すでに約70万トンがたまり、敷地内のタンクは約1千基に。 原子力規制委員会の田中俊一委員長は、法定の基準以下に薄めて海へ放出することを再三提唱している。 
 建屋で生じた高濃度汚染水は、多核種除去設備ALPS(アルプス)で処理しても1リットルあたり数十万ベクレルのトリチウムが残る。 東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との立場だが、タンク増設計画はあと約20万トン分。 小野明・福島第一原発所長は4日、報道陣に「タンク容量が限界に達する前に決めていかねばならない」と話した。【 熊井洋美、川原千夏子 】

2015年(平成27年)9月15日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面 赤字は右記引用部分
 東京電力福島第一原発の汚染水対策としての「サブドレイン計画」で、浄化処理した地下水の海への放出を開始した。 
 この放出される浄化処理水に含まれている放射性物質として、除去が難しいトリチウム(三重水素)は同(1リットルあたりで、ほぼ1キログラムに相当する量で)1500ベクレルである。 浄化水の放出としているが、低くない放射線量である。 事故当初には、野菜1キログラムあたり2000ベクレルを越えない範囲で販売が許可されたが、それに近い放射線量である。 水質汚染の怖いところは、その放射性物質が次々と受け渡されることである。 捕食することによって、「プランクトン → 小さな海中生物 → やや大きい魚類 → 大きな魚類」と。 
 海水中のトリチウムは次第に拡散して薄まってしまうので、測定地点によっては測定範囲外にまで小さい放射線量になってしまうかも知れない(*1) 。 しかし、トリチウムがいったん生物に取り込まれると、薄まることもなく次の捕食者に入り込んでしまう(*2)。 その半減期が12.32年であるので、捕食者の中で長い年月にわたって放射線を出し続けることになる。
 

(*1) トリチウムから出てくる放射線は、ベータ線である。 ガンマ線とは違って、ベータ線は空気などによって減衰してしまうので、地面や建物に付着したトリチウムからのベータ線を浴びることは少ない。 生体が影響を受けるのは、トリチウムを体内に取り込んだときである。 そのときトリチウムは全身に分布するので(たとえば、放射性ヨウ素であれば甲状腺に、ストロンチウムであれば骨に集中するので、甲状腺及び骨髄に症状があらわれるのに対して)、発症するとしても非局所的・非局在的である。 そのため、トリチウムによる影響であることを証明することは困難であろう。 
 放射線量を計測できる測定器にはいくつかの種類がある。 同じ物体を測っていても、それぞれの測定器の特性によって違った値が示される。 ガンマ線だけが測定できたり、ガンマ線とベータ線とが足し合わされて計測されたりする。 トリチウムはエネルギーの低いベータ線を放射するので、計測は液体シンチレーション計数管などでなければならない。 そのとき、ガンマ線があるとその分だけ大きな値が示されるので、外部からのガンマ線を完全に遮蔽できる容器の中で測定する必要がある。 トリチウムから放射されたベータ線が測定器に入るまでの間に減衰してしまうと、実際に放射された量よりも小さな値を示すことになる。 たとえば、塊状の物体をそのまま測ると、その内部から放射されたベータ線は、物体を通過するうちに減衰してしまう。 物体表面から放射されるベータ線はその物体によって減衰することはないが、内部からのものは少なくなってしまう。 トリチウムから放出されるベータ線の水中での透過距離は1ミリメートル未満であり、約0.02ミリメートルともされている。 

 図23-13 浄化処理水からのベータ線の放出 
  赤丸:トリチウム  矢印:放出されるベータ線  
 測定する水の量が多いとき(左)も、少ないとき(右)も、 
 同じ容器ならば、計測値は同じになってしまう 
 (すべてのベータ線が計測されるわけではない) 

  測定できるトリチウムから放出されるベータ線は、水面近くにあるトリチウム由来のものである。 同じ表面積の容器を使うと、計測にもちいる浄化処理水の量を増やしても減らしても、計測されるベータ線量は同じである。 「測定にもちいた浄化処理水の量」と「計測されたトリチウム由来のベータ線量」とは比例することはない。 (ガンマ線を放射する物質の場合では、「その物質の量」と「計測されたガンマ線量」は、ベータ線とは違って、比例関係にあるが、トリチウムはガンマ線を放出しないので、この比例関係を使ってトリチウム量を測ることはできない。) 測定に使用した浄化処理水から放出されるベータ線のすべてを測ることはできないのであるが、「処理水中のトリチウムの濃度」と「計測されたトリチウム由来のベータ線量」とには、比例関係がある。 その比例関係は、測定容器の形状や計測器の特性などで変化するので、使用する計測器ごとに固有の係数を持つことになる。 

 図23-14 異なったトリチウム濃度の処理水からのベータ線放出 
  赤丸:トリチウム  矢印:放出されるベータ線  
 トリチウム濃度が高いとき(左)と低いとき(右)、計数値は 
 濃度に比例する (すべてのベータ線が計測されるわけではない) 

  計測されるベータ線量は水面近くのトリチウム由来のものであるので、それによるカウント数は非常に少ない。 浄化処理水に含まれている放射性物質として除去が難しいトリチウム(三重水素)は同1500ベクレルだけ存在している場合でも、1秒間に計数されるベータ線は1桁程度のカウント数である。 もし、正確に計測しようとするなら、数分〜数十分の時間を要す。 注意しないと、トリチウム由来のベータ線のカウント数よりも、外部から侵入するガンマ線などによるものの方が大きくなってしまう。 放射線量の計測を基にしてトリチウム量を測ることは、技術的な困難さを伴っている。 
 トリチウム由来の放射線の計測ではなくて、トリチウムそのものの量を測る方法がある。 質量分析計の使用である。 技術的に容易である上に、正確に測れる。 ただし、機器の初期投資と運用コストが高い。 トリチウム量の基準値を定める方法に採用することは、難しいかも知れない。 
 ちなみに、1リットルあたり1500ベクレルのベータ線を放射しているトリチウムを含む処理水では、そこには8.4×1011個のトリチウム原子を、質量にして4.2×10−12グラム(4.2ピコグラム)のトリチウムを含んでいる。 これは、縦横高さがそれぞれ39万個の水分子()でできた立方体中に、トリチウム原子を含む1個の水分子(HO)が存在していることを表している。 

(*2) 魚介類中のトリチウムの測定は、処理水よりも更に困難である。 生体のままでは、上の(*1)で述べたように、体表に付着したトリチウムを測ることができるだけである。 内蔵、骨、肉など体内のトリチウムを計測するためには、それらをペースト状に細かく粉砕した上で、水に溶かした状態にする。 それを測る。 ベータ線が1キログラムあたり2,000ベクレルである場合には、1つの試料に10分を単位とする測定時間が必要である。 水溶性試料中のベータ線の減衰は水だけの場合とは異なっているので、厳密には、測定する試料ごとに違った係数をもちいる必要がある。 
 ベータ線の測定には、試料ごとに、計測器の特性と放射線の性質を踏まえた工夫が必要である。 
 このようなことから、処理水や魚介類などに含まれるトリチウムの正確な分析が継続的、網羅的に実施できるか、また、それの人体への影響を正確に追跡できるか、不透明な部分が多い。


 
凍土壁 1割凍結せず
福島第一 東電が追加工事検討
 図23-15 凍土壁の追加工事のイメージ 

福島第一の凍土壁、1割凍結せず 東電、追加工事の方針

 東京電力福島第一原発の汚染水対策として1〜4号機を「氷の壁」で囲う凍土壁について、凍結開始から1カ月半以上経過しても土壌の温度が下がりきらず、計測地点の約1割で凍っていないとみられることが25日、分かった。 東電は、特に温度が高い場所は今後も凍らない可能性が高いとして、原子力規制委員会に追加工事をする方針を伝えた。 地下水の流れが速く凍りにくくなっていると見て、セメントを流し込むなどの工法を検討している。 
 凍土壁は、1〜4号機建屋の周囲に1568本の凍結管を地下30メートルまで埋め、零下30度の液体を循環させて土壌を凍らせるもの。 建屋に流れ込む地下水を遮断し、新たな高濃度汚染水の発生を抑える狙いがある。 これまでに約345億円の国費が投じられた。 
 東電は、まず建屋の海側を中心に約820メートルの全面凍結を目指し、3月末に凍らせ始めた。 東電によると、凍結管近くの地中の温度は、5月17日時点で、約5800カ所の計測地点の88%しか0度以下になっていない。 なかには10度ほどと高いまま推移している地点もあるという。 こうした地点は、凍結管を埋める工事の際に目の粗い石が多く確認された場所だといい、石の隙間を地下水が速く流れ、凍りにくいとみられる。 氷の壁にいくつもの穴が開いているような状態で、東電はセメントや薬剤を流し込んで塞がりやすくする方針だ。 
 東電は5月中旬にも、段階的に進めてきた山側の凍結の割合を倍増させる予定だったが、遅れている。 報告を受けた規制委の担当者は「期待していたほど凍土壁の効果が出ていないのであれば、追加工事について東電と意見交換しながら検討していく」としている。【 富田洸平 】

上:2016年(平成28年)5月26日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面(記事中の図表部分を引用)
下:2016年(平成28年)5月26日(木)06時44分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 凍土壁について、約5800カ所の計測地点の88%しか0度以下になっていない。 なかには10度ほどと高いまま推移している地点がある。 温度を測った地点の1割以上が、プラスの温度であることになる。 このことは、氷の熱伝導度が小さいので、地下水に流れがあると、その水温を下げて凍結に至ることが難しいとして、2年前に論述している。 
 更に、凍結していない地点は凍結管を埋める工事の際に目の粗い石が多く確認された場所だといい、石の隙間を地下水が速く流れ、凍りにくいとしている。 「石」の熱伝導率は、氷の数倍程度ある。 細かな石が混ざって凍結すると、氷だけよりも、熱を伝え良くなる。 砂利層の凍結は促進されることになる。 ところが、大きな石の層であると、地下水の流れが石の隙間に集中するので、凍結が難しくなる。 地層を構成している礫の大きさの違いによって、スムーズに凍結するか、凍結が困難であるかが、大きく分かれてしまう。 目の粗い石が多く確認された場所だと、当然、地下水が速く流れ、凍りにくいことは予想されたことである。 
 さて、凍結が困難な目の粗い石が多く確認された場所では、東電はセメントや薬剤を流し込んで塞がりやすくする方針を採用するという。 氷が形成されている所と、地下水の流れがある大きな礫の間に、セメントや薬剤を流し込むことで封止するという計画である。 使用する封止材はトンネルなどを掘削するときに地下水の流入を止めるものと同じであろうが、施工時の状態が同じではない。 注入する封止材の温度が高いと、これと接触した凍結部分が解凍してしまう。 解凍して生じた狭い「隙間」を、地下水が流速を増して流れていくので、氷部分が更に解凍されて隙間が広がっていく。 封止材を零度以下に保って注入すればこのようなことは起こらないが、そのような条件で使用できる封止材料と施工方法を新たに開発しなければならない。 従来の方法を使って解凍してしまった部分を閉塞する手段は、再度凍結させるか、封止材を再注入するか。 再凍結させることは、しかし、速い地下水の流れの下では不可能なことである。 では、再度、封止材を流し込むか。 再注入するためには、改めて、「隙間」の位置までボーリングする必要がある。 そこに封止材を流し込んでも、その封止材の先端と接している凍結部分が解凍してしまって、新たな「隙間」ができて・・・。 それでは、凍結工法を使わないで、最初から全体をセメントや薬剤を流し込めば、良かったことになる。 
 凍結工法をゴリ押ししたいとしても、セメントや薬剤を流し込むことには、賛成できない。 この工法に適した封止材料や施工方法が、見えてこないから・・・。 では、何を使用するか?  細かな砂である。 この砂が、良い意味で、地下水の流れ道に「目詰まり」を引き起こすことが期待される。 地下水の流れを、抑制してくれるはずである。 更に、砂を含む部分が凍結すると、砂の高い熱伝導率によって、その先への凍結が促進される。 
 図23-16 細砂の投入効果 
  左側:通常の状態  
  右側:砂の投入によって  
      (1)砂による通過抵抗の増加に伴う地下水流量の減少  
      (2)砂混じりの氷の生成による熱伝熱率の増加  
 万が一、これが失敗しても、塊状の硬い地層が残ってしまうセメントや薬剤を流し込む工法と違って、別の対処法を実施する際に、邪魔にならない。

 
凍らない凍土壁に原子力規制委がイライラを爆発
「壁じゃなくて『すだれ』じゃないか!」

 「本当に壁になるのか? 壁じゃなくて、“すだれ”のようなもの」 
 「壁になっているというのをどうやって示すのか?  あるはずの効果はどこにあるのか?」
 
 東京電力福島第1原発で汚染水を増やさないための「凍土遮水壁」が運用開始から2カ月たっても、想定通りの効果を示さない。 廃炉作業を監視する原子力規制委員会は、6月2日に開かれた会合でイライラを爆発させた。 
 凍らない部分の周辺にセメント系の材料を入れるという東電の提案に対しても、規制委側は「さっさとやるしかない」とあきれ果てた様子。 約345億円の税金を投じた凍土壁の行方はどうなってしまうのか。 
 会合は、冒頭からピリピリと緊迫した空気が漂っていた。 
 東電の担当者は2分間程度の動画を用意していた。 凍土壁が凍っている証拠を視覚的にアピールするため、地中の温度の変化を動画でまとめていたのだ。 
 ところが、規制委の更田豊志委員長代理は「温度を見せられても意味がない。 凍らせてるんだから、温度が下がるのは当たり前。動画とか、やめてください」とバッサリ。 東電の担当者は遮られたことに驚いた様子で、「あ、はい、分かりました。はい。それでは…」と次に進むしかなかった。

 ■セメント注入、それでも「凍土壁」か? 

 規制委側から質問が集中したのは、最初に凍結を始めた海側(東側)の凍土壁の効果だ。 
 地中の温度は9割以上で氷点下まで下がったが、4カ所で7・5度以上のままだった。 さらに、壁ができていれば減るはずの海側の地盤からの地下水のくみ上げ量が、凍結の前後で変わっていないことも判明した。 
 更田氏は「『壁』と呼んでいるけれども、これは最終的に壁になるのか。 壁じゃなくて『すだれ』のようなもので、ちょろちょろと水が通るような状態」と指摘した。 
 地下水のくみ上げ量も減っていないことについて、「あんまりいじわるなことは聞きたくないが、これは当てが外れたのか、予想通りだったのか」と東電の担当者を問いただした 
 セメント系の材料を注入し、水を流れにくくする追加工事が東電から提案があったものの、これではもはや「凍土壁」ではなくなってしまい、仮に水が止まっても凍土壁の効果かどうかは分からなくなる。 
 検討会はこの日、追加工事に加えて、凍土壁の凍結範囲を拡大し、海側に加えて山側も95%まで凍結する計画も了承した。 だがそれは、凍土壁の効果や有用性を認めたというわけではない。 「安全上の大きな問題はなさそう」だから、どうせ温度を下げるなら、早いほうがいいという合理的な判断だ。

 ■遠い「完全凍結」 根強い不要説 

 最も注目すべきなのは、更田氏がこの日、山側もすべて凍らせる「完全凍結」について、「今のままでは、いつまでたっても最終的なゴーサインが出せない」と大きな懸念を示したことだ。 
 規制委は当初から、凍土壁にはあまり期待していなかった。 むしろその費用対効果などをめぐり「不要説」が出るなど、懐疑的な立場をとっていた。 それでも計画を了承したのは、最も大きなハードルだった「安全性」を東電が担保すると約束したからだ。 
 凍土壁のリスクは、完全凍結の状態で発生する。 予想を上回る遮水効果が発現し、建屋周辺の地下水が急激に低下した場合、建屋内の汚染水と水位が逆転して汚染水が環境中に漏れ出す危険がある。 
 このため、東電は地下水の流れで下流側にあたる海側の凍土壁から段階的に凍結させ、水位の低下を防ぐ計画だったが、仮に海側の壁が「すだれ」の状態のまま上流の山側を完全凍結すれば、水位がどんどん下がっていく可能性がある。 
 東電は計画で、山側を完全凍結して遮水効果が80%以上になった場合、水位逆転の危険を回避するためいったん凍結をやめるとしているが、この「80%」を正確に判断するすべがないというのが現状だ。 
 「凍土壁の遮水性を示せない限り、このまま膠着状態になる可能性がある」。 更田氏は、はっきりとそう指摘している。 
 安全上のリスクを抱え、膨大な国費をかけながら、なぜ凍土壁を推進しなくてはならなかったのか。 仮に失敗した場合、どこが責任を取るのか。
今後も目が離せない状況に変わりない。【 原子力取材班 】

2016年(平成28年)6月12日(日)16時30分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 凍土壁について、「本当に壁になるのか? 壁じゃなくて、“すだれ”のようなもの」であると。 「壁になっているというのをどうやって示すのか?  あるはずの効果はどこにあるのか?」という。 
 「凍土壁の遮水性を示せない限り、このまま膠着状態になる可能性がある」と、更田氏は、はっきりとそう指摘している。 安全上のリスクを抱え、膨大な国費をかけながら、なぜ凍土壁を推進しなくてはならなかったのか。 仮に失敗した場合、どこが責任を取るのか。 科学的、技術的な細かな詰めをしないまま、場当たり的に、事業化してしまうという手法は、原子炉を水棺にする工事と同じ流れである。 
 原子炉事故に関して的確に対応できる技術者が、大企業である東京電力にあって、存在しないことは、絶対にないはず。 しかし、その技術者の存在が、見えて来ない。 どうしてだろう・・・。 
 原子力発電所を使うなどの高度な技術に支えられていた一流企業の存亡の危機に際して、技術者が声を上げないところをみると、廃墟のような風景を思い浮かべてしまう。 劇画だと、煙たなびく廃墟の中から、正義感と肉体的及び知的能力に優れたヒーローが現れ、ヒールが次々と繰り出す難問を、ヒーローが解決していくのであるが。 そんな情景を・・・。 
 その理由を明かす記事が、「凍土壁という冒険」筒井新聞2015年283号(2015年4月18日)中に記述されている。 その部分を抜き出すと、
《参考資料》
   「凍土方式による陸側遮水壁により長期間建屋を囲い込む今回の取組は、世界に前例のないチャレンジングな取組であり、多くの技術課題もあることから、事業者任せにするのではなく政府としても一歩前に出て、研究開発への支援やその他の制度措置を含めて検討し、その実現を支援すべきである。」 
 この言葉の意味するところを10月24日における第30回国会エネルギー調査会(準備会)会合で、有識者らが資源エネルギー庁の原子力発電所事故収束対応室・新川室長に確かめた。 その際に明らかになったことは、政府が支出できる予算は、平成24年度の補正予算中「研究開発費」であり、それゆえ既存の完成した技術は採用できず、未完成の技術を「これから開発する」という名目が必要であるから、敢えて凍土方式を採用する、ということであった。 これは、汚染水対策という難題を解決するための技術選択として、わざわざ不確実な方法を選ぶという愚行である。
(文中の注釈番号を省略)
 
という。
また、「前代未聞「凍土遮水壁」の成算」日経コンストラクション(2014年4月1日)では、
《参考資料》
   建設費319億円(注:『凍らない凍土壁に原子力規制委がイライラを爆発』の記事では、約345億円の税金を投じたとなっている)は国の予算で賄う。 維持費は東京電力が負担する。 工事は鹿島とグループ企業のケミカルグラウトが担う。  
となっている。 東電にとって、この工事が不首尾に終わったとしても「研究開発」であったとして逃げることができ、その工事費に国費が投入されることでその負担が他の方法に比べてかなり少なくなり、これに乗らない理由を挙げることは難しい。 このような経緯と状況になっていると、この段階で企業内部の技術者が何かを言えるという雰囲気ではなかったかも知れない。 「あんまりいじわるなことは聞きたくないが、これは当てが外れたのか、予想通りだったのか」と東電の担当者を問いただしたとしても、「当ても予想も」しなかったと思われる担当者には、答えようがない質問であったと感じているのではないか。
 
東電「完全凍結は困難」 第一原発凍土遮水壁 規制委会合で見解

 東京電力は19日、福島第一原発の凍土遮水壁について、完全に凍結させることは難しいとの見解を明らかにした。 同日、都内で開かれた原子力規制委員会の有識者会合で東電の担当者が示した。 東電はこれまで、最終的に100%凍結させる「完全閉合」を目指すとしていた。 方針転換とも取れる内容で、県や地元市町村が反発している。 
 会合で東電側は規制委側に凍土遮水壁の最終目標を問われ、「(地下水の流入量を)凍土壁で抑え込み、サブドレン(建屋周辺の井戸)でくみ上げながら流入水をコントロールする」と説明。 その上で「完全に凍らせても地下水の流入を完全に止めるのは技術的に困難」「完全閉合は考えていない」と明言した 
 これに対し、オブザーバーとして出席した県の高坂潔原子力総括専門員は「完全閉合を考えていないというのは正式な場で聞いたことがない。 方針転換に感じる」と指摘。 東電側は「(凍土壁を)100%閉じたいのに変わりはないが、目的は流入量を減らすこと」と強調した。 
 凍土壁は1〜4号機の周囲約1.5キロの地中を凍らせ、建屋への地下水の流入を抑え、汚染水の発生量を減らす計画。 
 東電は3月末に一部で凍結を始めたが、一部で地中の温度が下がらず追加工事を実施した。 東電によると、第一原発海側の1日当たりの地下水くみ上げ量は6月が平均321トン。 5月の352トンに比べ31トン減少したが、凍土壁の十分な効果は確認できていない。(後略)

2016年(平成28年)7月20日(水)10時45分
福島民報 赤字は右記引用部分
 都内で開かれた原子力規制委員会の有識者会合で東電の担当者は、規制委側に対して「完全に凍らせても地下水の流入を完全に止めるのは技術的に困難」「完全閉合は考えていない」と明言したという。 「(凍土壁を)100%閉じたいのに変わりはないが、目的は流入量を減らすこと」としている。 
 流入量を減らすためには、区画内を防水壁で「完全に」取り囲む必要があって、そうでなければ欠損部分からの流入によってほとんど阻止できないことは自明である。 たとえば、洪水時におけるほんの僅かな破堤によって、堤防の外へ流れ出る水量が相当なものになってしまうことを想起すれば充分である。 
 目的は流入量を減らすことであれば、水平方向の地下水移動に対応するために、外周を防水壁で「完全に」取り囲むことは最低限の「必要条件」である。 また垂直方向の地下水移動については、この原子力発電所一帯に地下水を浸透させない地層が広がっていて、その不透水層によって地下水の湧き出しが完全に遮られていることが期待されている。 側面の防水壁下面の不透水層の双方が完全であれば、区域全体を地下水に対して閉塞できるからである。 しかし、地下の不透水層は原発建屋の基礎工事などによって部分的に破壊されていて、その部分から地下水が浸入してくる可能性がある。 そうであれば、側面の防水壁を完全なものにしただけでは、地下水の浸入を防ぐという目的に対して、「十分条件」が適ったことにはならないのである。 
 東電は、側面の防水壁として、凍土壁の構築を選択した。 その選択した(凍土壁を)100%閉じることができなければ、最低限の「必要条件」さえ、満たされないことになる。 担当者は「完全に凍らせても地下水の流入を完全に止めるのは技術的に困難」「完全閉合は考えていない」と明言しているにもかかわらず、「目的は流入量を減らすこと」と強調している。 凍土壁の閉塞が不完全な状態であっても、流入量を減らすことを目的としているという発言は、原因と結果が矛盾している主張である。 防水壁が不完全な状態であれば、345億円もの施工費と運用費に見合うだけの流入量の減少を計るという目的は達せられないことになる。 その目的が達成できると強弁するなら、それの合理的な説明を担当者から聞きたいものである。 
 「目的は流入量を減らすこと」であれば、「完全に凍らせても地下水の流入を完全に止めるのは技術的に困難」「完全閉合は考えていない」とは、絶対に言ってはいけない発言である。 「何としても完全に凍らせて地下水の流入を完全に止めてみせる」と言うべきであろう。 担当者の言明に含まれる論理的思考の貧弱さは、この事故によって困難さを極めている被害者を、傷口に塩を塗るような如くに、更に苦しめることになっているのではと危惧される。

 
凍土壁の凍結未完
福島第一 規制委有識者「破綻」
 図23-17 凍土壁の凍結未完 
 (記事の配置を一部変更) 
2016年(平成28年)8月19日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版4面(総合4)【 記事: 富田洸平 】
 凍土壁について、東電の報告によると、3月末に凍結を始めた長さ約820メートルの区間の温度計測点のうち、8月16日時点で99%が零度以下になったが、地下水が集中している残りの部分はまだ凍っていないという。 東電は、セメントなどを注入すれば凍らせられると主張している。 しかし、凍土壁の下流でくみ上げている地下水の量は、凍結開始前とほとんど変わっていないのが現状である。 
 このことは、『東電「完全凍結は困難」』で言及している破堤状態と同様である。 増水時に堤防部分がほんの少しだけ壊れたに過ぎないときでも、その破堤した場所から流れ込む水量は相当なものである。 
 セメントなどを注入しても、それが固まる前に、忽ちにして流されてしまうに違いない。 堤防であれば土嚢を積むことで解決できるが、地下深いところでは無理な作業である。 トンネル工事などでの出水事故の際にも同様な事態に遭遇するが、水の流れの抑制と硬化時間の短縮が肝である。 注入するセメントミルクに鉱物質を混入することで、強粘性と即硬性を持たせる。 
 もし、これと同様なことをするのであれば、地下水の流入箇所を封鎖することができるかも知れない。 しかし、この技術は、岩盤によって囲まれている場合の封止法である。 まわりに存在するはずの「凍土」との隙間が、完璧に閉塞できるという保証はない。 
 外部有識者の橘高義典・首都大学東京教授は「凍土壁で地下水を遮る計画は破綻している。 このまま進めるとしても、別の策を考えておく必要がある」と指摘しているが、当然である。
 
凍土壁「効果は限定的」
規制委、汚染水対策で

 東京電力福島第一原発の汚染水対策として1〜4号機を「氷の壁」で囲う凍土壁について、原子力規制委員会は26日、東電が「全面凍結」を宣言して2カ月たっても目標通り地下水を遮れていないとして、凍土壁の効果は限定的なものにとどまると判断した。 今後は、主に井戸からのくみ上げで地下水位を調整するよう求めており、東電も、来秋までにくみ上げ能力を倍増させる計画だ。 
 図23-18 凍土壁の現状 
 凍土壁は、1〜4号機建屋の周囲に1568本の凍結管を地下30メートルまで埋め、零下30度の液体を循環させて土壌を凍らせるもの。 建屋に流れ込む地下水を遮断し、新たな高濃度汚染水の発生を抑える狙いがある。 約345億円の国費を投じて建設された。 東電は3月、建屋の海側部分の凍結を開始。 10月中旬に、温度計測点のすべてで0度を下回ったと発表した。 
 ただ、凍土壁のさらに海側でくみ上げている地下水の量は期待通りに減っていない。 東電は26日、規制委との会合で、くみ上げ量が凍結前の1日300トン前後から最近は約130トンになったとして、「目標の70トンまでは下がっていないが、一定の効果は見えてきた」と報告した。 
 しかし、規制委は、ここ数カ月、雨が少ないことや、建屋周辺でも地下水をくみ上げていることを挙げ、凍土壁だけの効果とは言えないとして、「もし凍土壁の効果があったとしても限定的」と評価した更田豊志委員は10月の会合で、「地下水位を確実に調整できる井戸からのくみ上げが主役で、凍土壁は脇役だ」とも指摘。 東電も来秋までに、くみ上げ能力を現在の1日約800トンから倍増させる方針を示した。 
 一方、規制委は26日、東電が求めていた建屋山側の全面凍結開始については容認した。 これまで、地下水位が急低下して建屋地下に残る高濃度汚染水が外に漏れることを懸念し、海側の遮水効果が確認された後、山側の凍結を始める計画だった。 更田委員は「海側がこれだけ地下水を通すのだから、おそらく山側も通すだろう。 水位の急低下にはつながらず、様子を見ながらなら、それほど危険はない」とした。 東電は来年初めにも5カ所残る未凍結部分を凍らせ始める方針だ。 
 地盤工学に詳しい京都大の嘉門雅史名誉教授は「地下には配管などのトンネルが多くあり、その周りが凍りにくいのではないか。 1カ所でいいから凍土壁の最下部まで掘って確かめるべきだ。 検証せず漫然と続けることに疑問が残る」と話した。【 富田洸平 】

2016年(平成28年)12月27日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面(総合3) 赤字は右記引用部分
 東電は、くみ上げ量が凍結前の1日300トン前後から最近は約130トンになったとして、「目標の70トンまでは下がっていないが、一定の効果は見えてきた」と報告した。 これに対して、規制委は、ここ数カ月、雨が少ないことや、建屋周辺でも地下水をくみ上げていることを挙げ、凍土壁だけの効果とは言えないとして、「もし凍土壁の効果があったとしても限定的」と評価したという。 結局、原子力規制委員会は26日、東電が「全面凍結」を宣言して2カ月たっても目標通り地下水を遮れていないとして、凍土壁の効果は限定的なものにとどまると判断したことになる。 
 汚染水を遮断するための凍土壁の設置は、結局、絵に描いた餅になってしまったようだ。 更田豊志委員による「地下水位を確実に調整できる井戸からのくみ上げが主役で、凍土壁は脇役だ」という評価が現実になってきた。 そうであれば、不完全な遮断法になってしまった凍土壁の設置を決定した責任は、誰がどのようにとることになろうか。 約345億円の国費を投じて建設されたのであるから、東電にとっては、経済的な負担はなかったとしても・・・。 
 それでも、東電は来年初めにも5カ所残る未凍結部分を凍らせ始めるという。
 
東電説明に「ウソだもん、これ」規制委激怒

 巨額の税金を投じた福島第一原発の「凍土遮水壁」。その効果を説明する東京電力に原子力規制委員が激怒している。 
 図23-18 東電説明に「ウソだもん、これ」 
 (映像のスクリーンショット) 
 原子力規制委・更田委員長代理「(東京電力は)人を欺こうとしているとしか思えない。ウソだもん、これ(遮水壁の効果図)。陸側遮水壁、何も関係ないじゃん」「そんな説明が後から後から出てくるような図を描く限り、東京電力はいつまでたっても信用されませんよ」 
 メルトダウンした原子炉建屋に流れ込み汚染水となってしまう地下水は、主に周辺に増設した井戸でくみ上げて減らしているのが実態 
 しかし東電は28日、あたかも主に凍土遮水壁の効果で流入が減ったかのような説明をし、原子力規制委員会の更田委員長代理が激しく怒った。 
 東電は近く、遮水壁の凍結作業を完了する予定だが、350億円の国費を投入し期待した効果があったのか、検証する必要がある。  

2017年(平成29年)6月28日(水)20時15分
日テレニュース24(日本テレビ Web版) 赤字は右記引用部分
 
凍土壁の全面凍結、規制委が了承
福島第一原発

 東京電力福島第一原発の汚染水対策として1〜4号機を「氷の壁」で囲う凍土壁について、原子力規制委員会は28日、凍土壁を全面凍結する東電の計画を了承した。 東電は、原子炉建屋に1日約130トン流入している地下水が100トン以下に減り、汚染水の発生を抑えられると期待する。 しかし、流入は井戸からのくみ上げで抑制できており、全面凍結の効果は限定的になりそうだ。 
 凍土壁は、建屋の周りに1568本の凍結管を埋めて土壌を凍らせて地下水の流れを遮る氷の壁。 東電は昨年3月に凍結を始め、徐々に凍結箇所を増やしてきた。 現在は約7メートルの範囲が未凍結で残る。 
 規制委はこれまで、全面凍結して地下水位のコントロールに失敗した場合、建屋の地下にある高濃度の汚染水が外に漏れる可能性を懸念していた。 だが、28日の会合で、東電が建屋の周りの井戸のくみ上げ量を調節するなどして地下水位をコントロールできると説明。 規制委も大筋で了承した。 
 ただ、規制委は凍土壁の効果に懐疑的だ。 全面凍結しても地下水の流入量をゼロにできるわけではなく、地下水位も井戸からのくみ上げで調整できるからだ。 規制委の担当者は「あくまで汚染水対策の主役は井戸からのくみ上げだ」と注文を付けた。【 富田洸平 】

2017年(平成29年)6月28日(水)23時43分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 原子力規制委・更田委員長代理をして「(東京電力は)人を欺こうとしているとしか思えない。ウソだもん、これ(遮水壁の効果図)。陸側遮水壁、何も関係ないじゃん」「そんな説明が後から後から出てくるような図を描く限り、東京電力はいつまでたっても信用されませんよ」と言わしめるに至った原因としては、2つある。 
 第一に推測できる原因は、今回の件が350億円の国費を投入して構築したものであるので、「凍土遮水壁の有用性」を強調する必要がある。 そこで、「主に周辺に増設した井戸でくみ上げて減らしているのが実態である」ことは分かっているのであるが、それを「あたかも主に凍土遮水壁の効果で流入が減った」ように説明することで当座をしのぐことにした。 当該企業ではこれまでのところ、それらしい理由を挙げて説明すれば、「はい」と応じてくれるものたちに囲まれていた。 この説明で通っていくはずであった。 
 ところが、原子力規制委員会ではそうではなかった委員長代理は、残念ながら、『大人の対応』をしてくれなかったと・・・。 
 2つ目の推測は、この説明の流れを考え出したのが、非理系人間だった・・・ということ。 科学的な妥当性を考慮しないで、説明の道筋を作りあげてしまった。 
 それには、非科学的なことには我慢ならない委員長代理にとって、激しく怒ることしか術がない・・・ということ。 
 これらのどちらかであるかも知れないし、両方かも知れない。 
 今回の「凍土遮水壁」の構築は、国費を投入ということで、構築した企業には費用の負担なしに当座をしのぐための汚染水対策を実施できるという、構築を担う企業には新たな仕事を受注できるという、それぞれが相当のメリットを享受できていることになる。 地下水が流入するのを阻止するための凍土遮水壁は「研究開発」の位置づけであるので、構築したものが所期の機能を満たさないことになろうとも、双方にとっては何ら問題はない事案である。 
 結果として、これに投入された350億円の国費が、有効に使われなかったということになる。 構築された凍土遮水壁の効果が思ったほどでもなければ、別の方法で地下水をコントロールしなければならないことになってしまう。 それにもまた費用が発生する。 当該企業は、お手上げして、放り出してしまうことはないだろうが・・・。 
 同じ原子力規制委員会であるが、「日テレニュース24」とは違った側面からの記事を、「朝日新聞デジタル」は掲載している。 凍土遮水壁の効果が思わしくないことについては異議はないようだが、前者は原子力規制委・更田委員長代理の見解を大きく取り上げている。 それに対して、後者は会議全体の流れをフォローしている。 それでは『凍土壁の全面凍結、規制委が了承』の朝日新聞デジタルの記事を見てみよう。 
 現在は約7メートルの範囲が未凍結で残っていて、地下水が原子炉建屋に1日約130トン流入している。 今後、凍土壁を全面凍結すると、地下水の流入は100トン以下に減るという。 
 凍土壁総延長約1500メートルで、陸側だけに限ると約500メートルである。 約500メートルの区間で、約7メートルの範囲が未凍結であるとしているから、その割合は約1.4パーセントである。 凍結作業前にあった1日約300トンの地下水の流入量が、凍結作業後での約1.4パーセントの未凍結の状態で原子炉建屋に1日約130トン流入していることになる。 「未凍結部分」を通って流れ込んでくる地下水量は、凍結前の約43パーセントである。 未凍結部分の割合は約1.4パーセントであるので、凍結前での原子炉建屋への地下水の流入が陸側だけからであって、凍結後には流入が「未凍結部分」に限られているとすると、「未凍結部分」を通って流れ込んでくる地下水量は、遮水壁の単位長さあたりに換算して、約30倍になっていることになる。 
 土砂などの隙間を流れる地下水が約30倍にまで増加することは、不自然である。 凍結区間でも地下水が流れ込んでいる可能性は、かなり高い。 「未凍結部分」での地下水の流入が凍結作業前の数倍程度には上昇したと仮定すると、未凍結で残っている約7メートルの範囲を凍結させることで減少する地下水量は1日20トンを超える程度であろう。 
 したがってこの仮定に基づくと、凍結作業が完了した時点での地下水の流入量は、1日100トン〜110トンになる。 地下水の流入が100トン以下に減る可能性は、ほとんどない。 
 規制委は「全面凍結しても地下水の流入量をゼロにできるわけではない」としているが、凍土壁の建設に数百億円の国費を使い日々の運転に多額の費用を当てているにも係わらず、現状は、もっと厳しい数字が予想される。 東電のデータ発表が、待たれる。

 
凍土壁の前面凍結
規制委が計画認可
福島第一 効果は不透明

 東京電力福島第一原発の汚染水対策として1〜4号機を囲う凍土壁について、原子力規制委員会は15日、凍土壁を全面凍結する東電の計画を認可した。 東電は22日にも残りの部分を凍らせ始める。 数カ月かけて凍結させるが、全面凍結で効果がはっきりと表れるかは不透明だ 
 図23-19 福島第一原発の凍土壁と地下水位 
 凍土壁は、原子炉建屋とタービン建屋の周りに1568本の凍結管を埋めて土壌を凍らせて氷の壁をつくり、建屋に地下水が流れ込むのを防ぐ。 周囲1・5キロあり、現在約7メートルが未凍結。 2013年に計画が決まり、昨年3月に凍結を始めた。 これまでに約345億円の国費が投じられた 
 規制委は全面凍結して地下水位のコントロールに失敗すると、建屋地下の高濃度の汚染水が漏れ出る可能性を懸念していた。 東電は、建屋の周りの井戸(サブドレン)のくみ上げ量を調節して地下水位を制御するとし、規制委も認めた。 
 1日約400トン発生していた汚染水は現在、約140トンに減っている。 東電は、凍土壁が全面凍結すれば100トン以下に減ると試算する。 
 規制委は、汚染水が減った主な要因はサブドレンからの地下水のくみ上げによるものと見ており、「凍土壁が全面凍結しても効果は限定的だ」(規制委幹部)としている。【 富田洸平 】

2017年(平成29年)8月16日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面(総合3)
 「東京電力福島第一原発の汚染水対策として1〜4号機を囲う凍土壁について、原子力規制委員会は15日、凍土壁を全面凍結する東電の計画を認可した。 東電は22日にも残りの部分を凍らせ始める。 数カ月かけて凍結させるが、全面凍結で効果がはっきりと表れるかは不透明だ」という。 
 それについて、規制委は、汚染水が減った主な要因はサブドレンからの地下水のくみ上げによるものと見ており、「凍土壁が全面凍結しても効果は限定的だ」(規制委幹部)との見解である。 
 もし、1〜4号機を囲う凍土壁全面凍結が完遂できたとすると・・・。 
 これにより、「サブドレンからの地下水のくみ上げ量」が1日あたり約140トンから100トン以下に減ると試算されている。 しかし、凍土壁により劇的に止水できるものではなく、汚染水の貯まっていく速度が3分の2程度に抑制できるだけである。 これだけのために、これまでに約345億円の国費が投じられていて、今後も凍結機器の運転・保守のコストが継続的に発生する。 規制委も、「凍土壁が全面凍結しても効果は限定的だ」としている。 これで、凍土壁の構築に意味があったということになるか・・・。 
 もし、残りの部分を凍らせ始めるも、完全凍結に至らないとすると・・・。 
 「サブドレンからの地下水のくみ上げ量」が1日あたり約140トンという量は、1秒あたりに換算すると1.6リットル程度である。 数ヶ所の水道の蛇口を全開にして流れる量に相当している。 この程度の地下水が、山側の凍土壁の約500メートル区間のどこかで、相変わらず、流入し続けることになる(*1)これまでに約345億円の国費が投じられたことが無駄になってしまう。 これでは、別の止水法を構築するために、またまた、多額の国費が投入されることになるか・・・。
 

(*1) 『図35-20 福島第一原発の凍土壁と地下水位』の「福島第一原発の凍土壁と地下水位」の図で、「地下水位」をみる。 
 図の正確さに欠けている可能性があるが、そのままに論じてみる。 
 通常、海岸付近では、海水が地下水側に浸み込んでくるので、地下水の高さは平均海面に左右される。 陸地側から供給される地下水が多い場合には、陸から海に向かう地下水の流れが強くなる。 地下水は高目になる。 地下水に含まれる塩分は少ない。 
 原子炉を含む区域(凍土壁で囲まれた区画)の地下水位をみると、サブドレンからの地下水のくみ上げの影響もあってか、海面よりも低い。 そのときには、海から陸に向かう水の流れが生じる。 地下水に含まれる塩分が多くなるし、海岸に近いところでは海水に近い塩分を含んでいる。 
 海側の「凍土壁」に接している地下水は、海水に近い塩分濃度である。 淡水に比べると凍結し難いし、一旦融解してしまうと再凍結は難しい。 海側の方の凍土壁においても、山側と同じように、完全凍結には困難なことが多い。

 
345億円投入、凍土壁ほぼ完成…効果疑問視も
 図23-20 福島第一原発「凍土壁」のイメージ 

 東京電力福島第一原子力発電所の地下を、凍らせた土壌で囲む「凍土壁」がほぼ完成した 
 東電は地下水の流入量が減少していると主張するが、原子力規制委員会には効果を疑問視する声もある。 汚染水対策の柱として国費345億円を投入して建設しただけに、「費用対効果」に注目が集まっている 
 凍結作業は昨年3月に始まり、最後に残った山側の約7メートルの区間を今年8月から凍らせた。 地下の温度は、外気の影響を受ける地表面付近などを除いて零度を下回り、深さ約30メートルの凍土壁がほぼ完成した。 東電の評価によると、対策前は1日あたり約400トンの地下水が原子炉建屋などの地下に流入していた 
 東電は当初、凍土壁が完成すれば、流入量が1日あたり数十トンにまで減ると試算していたが、今年4〜9月は120〜140トン、10月は100トン程度凍結が進むにつれて流入量が段階的に減少してきたことなどから、一定の効果はあるとみられるが、今後、さらに減るかどうかの見通しは立っていない。

2017年(平成29年)11月7日(火)17時28分
読売新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
汚染水発生量 400トン減
凍土壁の効果95トン
東電、対策を検証

 東京電力は1日、福島第一原発の汚染水対策として1〜4号機を囲う「凍土壁」について、汚染水の発生を抑制する効果は1日あたり約95トンとする評価結果を公表した。 汚染水の発生量は凍土壁や地下水をくみ上げる井戸の設置など複数の対策を組み合わせた結果、対策前より約400トン減った。 345億円の国費が投じられた凍土壁単体での効果は限定的とみられる。 
 図23-21 凍土壁の効果 
 
(中略) 
 凍土壁はもともと地下にある配管などを避けているため、どうしても凍りきらない部分がある。 原子力規制委員会の更田豊志委員長は凍土壁の効果に懐疑的で、「井戸が主役だ」と繰り返してきた。 東電も井戸の増強を進めている。 東電幹部は、凍土壁だけの効果は「いろんな条件があり、はっきり言うのは難しい」と述べるにとどめた。 凍土壁の凍結を維持するためには、年間十数億円の電気代などがかかるという。【 東山正宜、小川裕介 】

2018年(平成30年)3月2日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版7面(総合5)
 「東京電力福島第一原子力発電所の地下を、凍らせた土壌で囲む「凍土壁」がほぼ完成した」という。 
 「汚染水対策の柱として国費345億円を投入して建設しただけに、「費用対効果」に注目が集まっているが、最後に残った山側の約7メートルの区間を今年8月から凍らせ対策前は1日あたり約400トンの地下水が原子炉建屋などの地下に流入していたのであるが、凍土壁が完成すれば、流入量が1日あたり数十トンにまで減ると試算していたが、今年4〜9月は120〜140トン、10月は100トン程度」となった。 
 「凍結が進むにつれて流入量が段階的に減少してきた」ということであるが、今後どの程度まで減少できるか、測定した結果の発表が待たれる。 
 図23-22 地下水流入量の変遷 
 上記の記事から4ヶ月、汚染水の発生量は凍土壁や地下水をくみ上げる井戸の設置など複数の対策を組み合わせた結果、対策前より約400トン減ったという。 福島第一原発の汚染水対策として1〜4号機を囲う「凍土壁」について、汚染水の発生を抑制する効果は1日あたり約95トンであって、「凍土壁」の占める割合は4分の1に過ぎない。 凍土壁はもともと地下にある配管などを避けているため、どうしても凍りきらない部分があって、完全な止水は難しい。 原子力規制委員会の更田豊志委員長は凍土壁の効果に懐疑的で、「井戸が主役だ」と繰り返してきている。 
 『図35-23 地下水流入量の変遷』の未来予想として、1日当たりの汚染水発生量が100トンを大きく下回るように期待されていたが、現実には、冬の渇水期であっても100トンを僅かに切る程度の減少であることが示された。 
 これからも、凍土壁の凍結を維持するためには、年間十数億円の電気代や保守のための資機材費、人件費などの多大なコストを東電は負担し続けていくとしても、建屋の汚染水の発生量を1日当たり約93tに減少できるだけであって、床をほぼ露出状態になるわけではないようだ。

 
福島第一原発 汚染水対策の「凍土壁」一部とけたか

福島第一原子力発電所の建屋の周囲の地盤を凍らせて、地下水の流入を抑える「凍土壁」の一部がとけているおそれのあることが分かり、東京電力は、近くに湧き上がってきた地下水が原因の可能性があるとして、凍土壁への流入を止めるための鋼鉄製の管や板を設置したうえで、今後の対策を検討することになりました。 
「凍土壁」は、汚染水を減らす対策の1つで、福島第一原発の建屋の周囲にパイプを埋め込み、氷点下30度の液体を流し込むことで、“氷の壁”を張り巡らせ、地下水が建屋に流れ込むのを抑える仕組みです。 
東京電力は「凍土壁」に温度計を設置し地中の温度を測定していますが、4号機の山側に位置する一部のエリアで9月中旬以降、0度を上回る状態になり、11月18日には13.4度にまで上昇しました。(中略) 
東京電力は、早ければ12月初めにも、凍土壁への地下水の流入を止めるための鋼鉄製の管と板を設置する工事に着手したうえで、今後の対策を検討するということです。(後略)

2021年(令和3年)11月26日(金)13時56分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 地下水の流入を抑える「凍土壁」の一部がとけているおそれのあることが分かり、東京電力は、近くに湧き上がってきた地下水が原因の可能性があるとしてている。 氷点下30度の液体を流し込むことで、“氷の壁”を張り巡らせていて、「凍土壁」に温度計を設置し地中の温度を測定していますが、4号機の山側に位置する一部のエリアで9月中旬以降、0度を上回る状態になり、11月18日には13.4度にまで上昇したという。 
 凍結管による冷却により氷の壁をつくるには、氷の熱伝導率は2.2W/m・Kで、鉄の83.5W/m・Kに比べると約40分の1と非常に熱を伝え難い物質であるので、氷自体を熱の伝達体として冷凍する設計にはかなり高度な技術を必要とする困難さがある。 その困難さにも関わらず、特段の工夫を備えずに、凍結管の周囲に氷の壁を構築する手法を採用しているようにみえる。 
 それでは、凍結管による凍土壁構築に関する熱移動を見てみる。 ここで、凍結管温度は−30度、凍結した氷の外周部分の温度は0度であって、周囲の地下水の温度は14度とする。 凍結管の直径は不明であるので、20センチメートルとしておく。 周囲の地質は水で満たされている42%空隙率の砂として、その熱伝導率は1.35W/m・Kであるとする。 この条件下で、いくつかの凍結状態を下図に示す。 
 図の「左側」は、凍結管の中心から0.97メートルの範囲で凍結している状態を示す。 凍結管は約1メートル間隔で設置されているので、隣とのオーバーラップを考えると、凍土壁による密閉が機能していることになる。 氷中での熱移動は、凍結した氷の外周部分での単位面積当たりにして、29.9W/になる(*2)。 この熱流量を地下水から得るためには、凍結管の中心から1.60メートルの位置に地下水の流れがあることで、熱のバランスが取れて(熱収支が平衡状態になって)いる。 正確に言えば、凍結管の中心から1.60メートルの位置に地下水の流れがあると、凍結管の中心から0.97メートルまでの範囲が凍結することになる。 もし、地下水の流れが凍結管の中心から1.60メートルよりも遠いとすると、地下水からの熱の流れ込みが小さくなって、凍結範囲が0.97メートルよりも拡大する。 逆に、近いとすると、凍結範囲は縮小してしまう。 
 下図の「左側から2番目」はそれが1.30メートルのときで、凍結範囲は0.82メートルに狭まってしまう。 「3番目」は1.00メートルのときで、凍結範囲は0.65メートルになる。 「4番目」は0.70メートルで、凍結範囲は0.48メートルになって、凍土壁による密閉は破られてしまうことになる。
 図23-23 凍土壁への地下水の影響 
 :凍結管中心から凍結した氷の外周までの距離 
 :地下水流の凍結管中心からの距離 
 赤色の矢印:氷中の熱伝導 橙色の矢印:水で飽和した砂中の熱伝導 
 (熱流量は凍結した氷の外周部分での単位面積当たりの値) 
 記事で述べられている温度計は凍結すべき地点に備わっているはずで、そこが11月18日には13.4度にまで上昇したということは、完全に地下水の流れに曝されていることになる。 上図の「2番目」より右の状態になっている様である。 凍土壁が機能しなくなる手前であろう。 
 ここで言いたいことは、何か? 
 凍土壁の氷が地下流水によって溶ける様子は、「河川が増水した時に、濁流によって川岸が削られていく」ような現象とは、まったく違うことである。 「濁流によって川岸が削られていく」場合には、河川流水が川岸と接触して堤が崩れていく。 しかし、「凍土壁の氷が地下流水によって溶ける」ときには、上図に示してあるように、地下流水は凍土壁表面には接触していない。 それらの間に一定の距離(からを引き算した値で、上図では左から0.63メートル、0.48メートル、0.35メートル、0.22メートル)が存在している。 
 上図の「左側」で、0.97メートルから1.60メートルの間は、砂の隙間に水が充たされている層(含水砂層)である。 地下水の流れが激しくなると、1.60メートルの外側を流れていた地下水が、この含水砂層に浸み込んでくる。 「濁流によって川岸が削られていく」場合と違って、地下水の浸み込みを阻止できるはずの「氷」は、そこには存在していない。 3センチメートルの地下水の浸み込みが生じると、地下水から凍結氷表面に向かう熱流量は31.5W/と約5%の増加がみられる。 その増加は、凍っていた氷の表面が1日につき厚さ0.4ミリメートル(1ヶ月で約1センチメーチル)の割合で溶けてしまうことを意味する。 それによって、上図の「2番目」を経由して徐々に「4番目」の状態に近づいていく。 
 この認識は、重要である。 
 それは、「凍結管部分への地下水の流入を抑えることができれば凍土壁の破れが防止できるという視点からの工事である凍土壁への地下水の流入を止めるための鋼鉄製の管と板を設置する作業に、正当性があるか、それとも、否であるか」の点である。 その疑問には、地下水の流入を止めるための鋼鉄製の管と板の設置は、凍土壁の解凍を阻止できるとは限らないとしたい。 鋼鉄製の管と板の熱伝導率は、氷の40倍(砂混じりの地質の60倍)である。 鋼鉄製の管や板などの遮蔽物の設置によって、地下水は遮蔽物に沿って流れていくことになり、熱伝導率の良い鋼鉄製遮蔽物を介した熱移動が促進される。 『図35-24 凍土壁への地下水の影響』に示されているよりも大きい熱エネルギーが凍土壁の氷に供給される。 結果的に、鋼鉄製の遮蔽物の設置が、凍土壁を溶かす方向に寄与する可能性が高い。 
 結論としては、『「河川が増水した時に、濁流によって川岸が削られていくのを防ぐ」ための手法と同じ発想で、鋼鉄製の遮蔽物を設置すれば良いとする工事では解決できない』ということである。 鋼鉄製の遮蔽物は、凍結壁から充分な距離をもって設置すべきである。 それでは、凍結の不十分な局所的な場所だけに遮蔽物を設置すれば良いとする計画とは相反してしまう。
 

(*2) 凍結した氷の外周部分での単位面積当たりにして29.9W/の熱エネルギーを、地下水から得られる可能性について見てみる。 
 ここで示されることは、大概の仮定の下での数値であるので、提示されている値の数分の1から数倍の範囲で正しいとみるべきである。 
 さて、14℃の地下水が流れ込んできて、それが持っている熱エネルギーを放出し、13℃で流れ去っていくとする。 水の比熱容量は約4.2kJ/kg・℃である。 1平方メートルの断面積あたりで、地下水が29.9W(毎秒29.9J)の熱エネルギーを放出する必要があって、そのための地下水量は毎秒7.1×10−3kg(7.1g)となる。 1平方メートルの断面積あたりに毎秒7.1gが流れるという地下水量の値から、地下水の移動速度を求める。 地下水が42%空隙率の砂中を流れているとすると、1.7×10−5m/s(17μm/s)の線流速となる。 時速6センチメートルの浸透速度であって、あり得る速さである。 
 図で最も大きい値を持つ87.7W/の場合を同様に計算すると、時速18センチメートルの浸透速度となる。 これは可能な値である。 また、流れ去る地下水は凍結した氷により近くになっていることから、その温度は13℃よりも低いかも知れない。 そのときには、必要な浸透速度は時速18センチメートルより小さくなる。

 

(24)解像度の変化を図で表すと
 
(科学の扉)気象衛星ひまわり8号
大雨のもと、早く細かく察知
 
 図24-1 解像度の変化 
 

(前略) 
 解像度は、7号が1キロの大きさまでしか見分けられなかったが、8号では500メートルまで識別可能で、より小さな「積乱雲の卵」をキャッチできる。 
 台風や雨をもたらす雲の動きを細かくとらえることで、風の動きを推定、積乱雲をつくりだす上昇気流が発達する過程の監視も強化される。 
 気象庁の横田寛伸・衛星運用事業管理官は「台風の進路予測の精度が上がり、発達する積乱雲もいち早く検出でき、より防災に貢献できる」と期待する。(後略)【 北林晃治 】

2014年(平成26年)9月1日(月)朝日新聞(名古屋)朝刊13版
2014年(平成26年)9月1日(月)05時00分 朝日新聞デジタル
赤字は右記引用部分
 理解を助けるためには図を用いることが有用であるが、そこで注意すべき点は何か? 
 図の利用は、言葉では言い表せないことを一目で示せることから、適切な図である限りに於いて重要である。 しかし、誤った図は言葉以上に誤解を誘導しかねない。 
 『図36-1 解像度の変化』は気象庁の「ひまわり8号」が運用されると、その画像が如何に向上するかを示している。 しかし、よく見ると、カラー画像に変わっている以外に向上したとの印象を受けない。 それは「雲の細部の構造」が、同じように描かれているからである。 「より高精細な画像がえられる」といわれても、雲の見え方は同じではないか。 
 解像度について理解していないデザイナーが描いた図に違いない。 
 図では、両方ともに、数十メートル以下の細かな雲の形状が、同じように示されている。 1キロメートルの解像度といえば、それは1キロメートルよりも細かい違いや変化はそれがあっても認識できないことを意味している。 同様に、500メートルの解像度といえば500メートルよりも細かい違いや変化が認識できないことである。 
 そのような解像度による違いが、図ではまったく示されていない 
 ところで、この記事で説明したいことを的確に提示する「図」とは、どのようなものか?  それを示してみる。 ただし、そこで示されている「雲の分布」は、実際の雲画像の分布範囲(距離)とは異なっていて、それぞれの縮尺に応じて調節された架空のものである。 
 「現在」と「8号」での解像度の雲画像を、記事の図と同じ縮尺で示してみる。 それを正確に再現したものが下の「左側」の図である。 1キロメートルの解像度や500メートルの解像度とは、図に示されているように、その距離以下では雲の濃淡が認識できないものである。 この縮尺での図では、各ブロックの表示が粗くて、雲の細かい分布は示されない。 説明の図としては適切ではないと思われる。 解像度の説明としてはわかりづらい。 より縮尺の小さい(広い範囲を表示できる)図を用いて説明に使う方がよい。 

記事と同じ縮尺
(2km×2km

左側を4分の1に縮尺
(8km×8km

左側を8分の1に縮尺
(16km×16km

更に半分に縮尺した図
(32km×32km
 図24-2 解像度の違いを図で示せば 
 (「左側」の図は引用した記事と同じ縮尺で描いた正しい雲画像) 
 左側の図を4分の1に縮尺した場合を、左側から2番目に示す。 左側の図では2km×2kmの範囲であるが、それを(解像度の1キロメートルと500メートルはそのままに)2番目の図では8km×8kmにしている。 これからは、雲の分布がかなり認識できる図になっていることが見て取れる。 
 それを更に半分に縮尺を小さくしたものが3番目である。 1辺が16キロメートルである。 もっと縮尺を小さくしたものが右側である。 32km×32kmである。 上側の雲画像では32×32のピクセルで、下側は64×64であるので、細かな雲の分布が見て取れる。 
 この記事に最適な図は、「左側」、「2番目」、「3番目」、「右側」? 
 「左側」は論外!  「右側」は上下ともに細かすぎて、画像の改善具合が分かり難い。 説明の図としては不適切である。 「2番目」と「3番目」は程良い縮尺で表示されていて、上下で画像が改善されていることがよく分かる。 特に「3番目」は、上に比べて下の図で雲の分布が鮮明に改善されていて、「ひまわり8号」の方がより高精細な画像がえられるということが納得できる。 
 解説図としては、荒くてもダメ、細かすぎてもダメであって、適切な縮尺の選択が必須であることが分かる。 
 「科学欄」での記事であるのに、読者をミスリードするような非科学的な図を掲載している。 科学記事に関しては「急増した放射性炭素 」でも取り上げているように、「毎日新聞」の方が一歩上をいくようである。 今はなき「科学朝日」の元編集者達が新聞作成にはタッチしていないとすれば、新聞による「科学」の啓蒙のためには誠に残念なことである。
 

(25)不安を煽(あお)る
 
御嶽山噴火1週間 火山備えて登る
ヘルメット・マスク持参 噴火警戒度の情報収集
山小屋に防災品配備

 登山客を迎える地元も新たな対策に乗り出している。 松本市は、常時観測火山の焼岳(2455メートル)にある市営の山小屋にヘルメット30個、マスク100個を新たに置くことを決めた。 ゴーグルの配備も検討する。 「万が一のため、できることをやろうということ」と市山岳観光課の加藤銀次郎課長は言う。 
 とはいえ、焼岳は現在は噴火警戒レベル1(平常)。 「不安をあおらないよう情報発信したい」とし、「急な噴火にどう備えるのか。 火山を抱える自治体の共通課題だ」と話した。 
 一方、焼岳や乗鞍岳の岐阜県側に当たる高山市は、警戒レベルが低いとして、新たな対策の予定はない。 担当者「観光客に来てもらう観光地としては、「危ない場所です」という周知は難しい」としている。 
 霧島連山の1つで、11年に噴火した新燃岳(1421メートル)の地元、鹿児島県霧島市は噴火後、避難壕の整備などの対策をした。 より山頂に近い場所への避難壕増設などを検討する考えだ。

2014年(平成26年)10月5日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版35面 赤字は右記引用部分
 日本人だけがそうではないと思うが、「言葉」には「言霊(ことだま)」が宿っているという思想がある。 この「言霊」に祟られることがないように、危険が及びそうな事項にふれることを避ける傾向が見られるという。 今回取り上げた「御嶽山噴火」では、噴火という「言霊」に祟られることがないように沈黙していたのに、その甲斐もなく・・・。 
 それから1週間が過ぎて、事態の全容が明らかになってきている。 その噴火を「突然に」という認識を持っている人が多いようだが、普段からこれに関する情報をキチンと発信しておれば、「突然に」ということには、ならなかったであろうに。 たとえば、過去数十年の噴火の歴史や、現在の噴気の状況などを。 
 この「言霊」の意識を、臆せずに表現したのが、活火山である焼岳や乗鞍岳の岐阜県側に当たる高山市担当者による 
  「観光客に来てもらう観光地としては、「危ない場所です」という周知は難しい」 
との発言である。 これでは、「過去の噴火の歴史や、現在の噴気の状況など」の積極的な広報は、以ての外ということか。 この正直な意見を極々自然な形で発していて、それを聞いた多くの人々に、 
  『「火山の情報」を周知する―→『 「危ない場所」と受け取られ観光地として相応しくない 
という思考の流れが、自然にできてしまう。 多くの犠牲者が出た直後であるのに、観光地であることを優先して、自然の脅威に対する畏敬の念が感じ取れない発言である。 それなのに、この発言に反感が湧かないのは、「ことば」の力の故か。 
 できれば、 
  『「火山の情報」を周知する―→『 情報を出すことには意味がなく、その中身が重要である 
ような、そして、 
  「観光客に来てもらう観光地としては、「危ない場所です」という周知は難しい」 
のような発言に「違和感」を抱いてしまうメンタリティを持てると良いのだが。 同じように、松本市山岳観光課課長は 
  「不安をあおらないよう情報発信したい」 
としている。 この「不安をあおらないよう」という表現に込められた「本心」が、余りにも見え見えであるのも・・・。

[補足] 
 2014年8月の広島市での大雨による土砂崩れのために、多くの人が犠牲になってしまった。 大規模な土砂崩れが起こってもそこに人が住んでいなかったならば、人的被害はほぼ零にできたはずである。 そこに人が住んでいても適切な対処ができていれば、そこは無人地帯と同じである。 そのための施策が用意されていたにもかかわらず、「火山噴火」と同様なことが垣間見られる。 
《参考資料》
 図25-1 広島豪雨災害時の犠牲者の特徴と課題 
 (報告書の部分) 
2015年(平成27年)3月23日(月)
静岡大学防災総合センター 牛山素行
 
 土砂崩れなどに対応するため、危険な地形を指摘する「土砂災害危険箇所」の指定は、都道府県によって地形図をもとに机上で判断されている。 この段階では、地域住民の意思が基本的には反映しない客観的なものである。 
 しかし、それを基にした「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」の指定には、実地測量や地元説明会などの手続きが必要である。 警戒区域の指定をおこなうと、「ハザードマップなどによる警戒・避難態勢の整備」という行政上の義務が生じる。 住民にとっては、「所有する土地などの評価額の低下」や「土砂崩れに対処できる被災防止工事の実施」など経済的にマイナスとなることが多い。 行政側にも住民側にも多大な負担が発生するので、その決定には主観的な判断の余地が生じる。 
 それ以上に、地元説明会で「警戒区域の指定」という形で土砂災害の危険性を目の前に突きつけられることで、住民は大きな不安を持ってしまう。 できれば、「指定」は、なかったことにしたい・・・と、無意識的に無視することもあろう。 それが住民の安全を守るためであったとしても。 
 たとえ『危険箇所』と判断された場所に住んでいても、そこが人為的な理由で「警戒区域」に指定されていなかったり、指定されていてもそのことが念頭になければ、『警戒区域ではない』安全な場所に住んでいると思ってしまう。 火山噴火に関する情報を知らなかったことで、危険な火山に登っているということを意識しないで、景色の良い高蜂に行くだけだと思っていた・・・ように。
 
<御嶽山噴火>
数日前から複数の異変 気象庁に届かず

 御嶽山(おんたけさん)(3067メートル)が噴火する数日前から、噴煙が普段と違う様子だったことが、現地の登山ガイドらへの取材で分かった。 気象庁は「異変があれば公的機関に通報してもらうよう、火山防災協議会やパンフレットで広報している」としているが、事前の通報はなかった。 専門家は「山に詳しい人たちに協力してもらう体制を構築することが必要だ」と指摘する。【 真野敏幸、飯田憲 】 
 「いつもと違った。違和感があった」。 長野県木曽町の開田(かいだ)高原でペンションを経営し、登山ガイドの資格を持つ鈴木一光さん(51)は噴火5日前の9月22日正午ごろに見た光景が、脳裏に焼き付いている。 御嶽山のピークの一つ「継母(ままはは)岳」(2867メートル)の南東側の谷間から、もくもくと上がる白っぽい噴煙を目撃した。 年間20日以上登っているが、山頂より500メートル以上低い場所から噴煙が上るのを見たのは初めてだったという 
 9合目の山小屋「覚明(かくめい)堂」の管理人、瀬古文男さん(67)は、噴火の数日前から気にかかることがあった。 「山小屋まで硫化水素の臭いが漂ってきている」。 9月上旬に火山性地震が相次いでいたこともあり、噴火前日の同26日正午ごろ、山頂周辺の噴出口に向かうと、普段の倍以上の高さまで噴煙が上がっていた。いつもはふわふわと立ち上っているが、噴火前日は『シュー』と勢いよく出ていた」(後略)

2014年(平成26年)10月13日(月)11時40分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 地震などの天変地異があると、そのあとで「そういえば何か変だった・・・」という話が出てくる。 
 今回のケースは、どうなんだろうか。 登山ガイドのひとりは噴火5日前の9月22日正午ごろに見た光景として、御嶽山のピークの一つ「継母(ままはは)岳」(2867メートル)の南東側の谷間から、もくもくと上がる白っぽい噴煙が上がっており、年間20日以上登っているが、山頂より500メートル以上低い場所から噴煙が上るのを見たのは初めてだったということである。 また、9合目の山小屋「覚明(かくめい)堂」の管理人によると、噴火の数日前から気にかかることとして、山小屋まで硫化水素の臭いが漂ってきていた。 9月上旬に火山性地震が相次いでいたこともあり、噴火前日の同26日正午ごろ、山頂周辺の噴出口に向かうと、普段の倍以上の高さまで噴煙が上がっていた。 いつもはふわふわと立ち上っているが、噴火前日は『シュー』と勢いよく出ていたという。 
 双方の噴火の前兆とする現象があった位置は、噴火した場所と一致している。 しかしその現象が前兆であったと断言できるのは、多くの犠牲者が出た噴火が起きてしまったという結果を知っているからである。 もともと1979年以来幾度となく噴火している火山であるので、このような現象から多数の犠牲者が生じるような噴火を予知できたか・・・といえば首肯できない。 
 これらの人は御嶽山を熟知しているはずである。 もし異常な現象であると認識できていたなら、御嶽山を愛おしく思っているはずであるから、関係機関に通報するなどの行動を取ったに違いない。 現実にはそうはしなかった。 これと同程度の現象が何度もあったからか。 
 気象庁は「異変があれば公的機関に通報してもらうよう、火山防災協議会やパンフレットで広報している」としていても、どの程度の現象が「異常」かの判断は主観である。 たとえ異常だとの通報があったとしても、「竜巻」の調査のように、関係職員が車に乗って現場に直行できるような場所ではない。 登山のためのそれなりの装備と技術が必要である。 関係者が、数日以内に、現地調査をおこなったとは思えない。 直ちに着手できることは、現地に設置されている地震計などの記録を精査することだろう。 しかし、そこには噴火をうかがわせることが記録されていなかったということから、噴火に関して積極的に発表できなかったのではないか。 
 異変を通報しても、それをもとに気象庁が地震計の記録を調べても、その後の経緯に大きな違いはなかったというのは、言い過ぎになるだろうか?

 
箱根山:大涌谷周辺に避難指示も「風評被害が心配」

 箱根の火山活動に関連し、気象庁が6日、噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げたことに伴い、箱根町は同日午前6時半から大涌谷に通じる県道など、火口周辺エリアの半径300メートルの立ち入りを禁止した 
 4日には大涌谷周辺の半径3キロ範囲のハイキングコースや散策路への立ち入りが禁止されており、噴火警戒レベルが上がったことで、規制範囲を狭めた。 火口周辺警報が発令されるのは、2009年に警戒レベルが設定されてから初めて。 
 規制されたのは大涌谷に通じる県道(約1キロ)と箱根ロープウェイ全線、姥子−大涌谷間の自然探勝歩道 
 同町は同日午前6時10分、町内放送を通じ「大涌谷周辺の避難指示」を発令したが、山口昇士町長は「ごく限られた場所での規制で、箱根町全体への立ち入りが禁止されたと見られる風評被害が心配」と話している。【 澤晴夫 】

2015年(平成27年)5月6日(水)16時10分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
箱根山に火山周辺警報
初の噴火警戒レベル2
 図25-2 火山周辺警報による規制 
2015年(平成27年)5月7日(木)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版1面 (a)(b)(c)(d)は筆者による描き込みで右記引用部分
 
箱根山 火山性地震続く、地元は風評被害防止で協力

 神奈川県にある箱根山の大涌谷周辺では地震活動が続いていて、8日午前0時までの24時間に31回の地震が観測されています。 
 7日にJNNのサーモグラフィーカメラが捉えた箱根山の大涌谷。 水蒸気が噴出している場所は色が変化しています。 神奈川県の温泉地学研究所によりますと、火山活動が原因とみられる地震は8日午前0時までの24時間に31回と、依然として活動が観測されています。 
 箱根山については、今月6日、噴火警戒レベルが2に引き上げられて小規模噴火の可能性が指摘され、大涌谷周辺への立ち入りが制限されました。 しかし、大涌谷には、旅館などに温泉を供給する設備があることから、メンテナンスのため7日、業者が特別に立ち入りました。 異常は見つからず温泉は今後も供給できるということです。 
 一方、箱根町と温泉旅館組合が今後の対策を話し合い、風評被害の防止について協力していくことを確認しました。 
 「どこでも皆さんをお迎えする体制はできています。 いつでも、お越しください、これからツツジが咲きます」(箱根町 企画観光部長 吉田 功 さん) 
 箱根町ではホームページで情報を発信するとともに、立ち入り禁止のエリアは町全体の0.3%と、ごく一部に過ぎず、ほかの場所で安心して観光を楽しんでほしいと訴えています。

2015年(平成27年)5月8日(金)04時39分
TBS系(JNN) News  赤字は右記引用部分
 噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げたことに伴い、箱根町は同日午前6時半から大涌谷に通じる県道など、火口周辺エリアの半径300メートルの立ち入りを禁止したことで、大涌谷に通じる県道(約1キロ)と箱根ロープウェイ全線、姥子−大涌谷間の自然探勝歩道が規制された。 それにより、山口昇士町長は「ごく限られた場所での規制で、箱根町全体への立ち入りが禁止されたと見られる風評被害が心配」としている。 
 マイナス要素の発表を報道すると、反射的に『風評被害』が生じると発言する人が出てくることは、いつものことである。 今回の件による観光客の減少が、『風評被害』になるだろうか? 
 『御嶽山の噴火』の直後であるから、それとの関連で人出が減少することもあろう。 しかし、観光客が減少した主な原因は、箱根観光の『魅力』が減ってしまったことであろう。 箱根ロープウェイ全線が休止してしまったので、火山地形の雄大な景観を眺め下ろすことができなくなった。 箱根ロープウェイ全線の休止や、大涌谷に通じる県道(約1キロ)の通行止め、姥子−大涌谷間の自然探勝歩道の閉鎖によって、主要な『観光の動線』が切れてしまった。 
 図25-3 箱根観光の動線の例 
 (原図は Google マップより) 
 箱根が噴火の恐れがある危険な場所であって、そのため箱根に行かないひとが増えてしまうという『風評被害』が生じているか。 そういうひとも、いるかも知れない。 しかし、箱根に行こうとは思わない多くの人にとって箱根は、危険な場所だからではなくて、観光の魅力となるものが減ってしまったからである。 現今の状態の箱根に是非とも行ってみたいという魅力が、減ってしまったということである。 立ち入りが禁止されている地区を除いた観光で、今まで通りの数の観光客を呼ぶことができるであろうか?  立ち入り禁止が解除されたら、そのときにこそ、自然現象を見るために行ってみたいと思うひとも多かろう。 報道で旅館が平常通りに営業していることを強調しているが、現在の箱根は湯治場ではないので、多くのひとにとって快適な宿泊は観光の一部に過ぎない。 魅力が減ってしまった観光地への人出が少なくなるのは、風評によるものとは、異なる。 
 では、行政の長は、何をすべきであるか。 
 たとえば、「朝日新聞」の記事には、火山周辺警報により規制されている区域が、図で示されている。 ロープウェーで駒ケ岳まで行ったとしてもそこで行き止まりになってしまい、引き返さざるを得ないことになる。 地図上の地点(a)から(b)までの遊歩道を歩いても、そこから先へは行けないので引き返すことになる。 これでは、魅力は激減してしまう。 (c)−(b)−(d)−「駒ヶ岳」間の遊歩道を通行可能にすることは、それよりも「大涌谷」や「神山」により近い(a)−(b)間の遊歩道が閉鎖されていないことから考えて、支障は少ないはずである。 この遊歩道を利用できれば、「駒ケ岳ロープウェー」を含めて箱根の自然を満喫できる回廊ができる。 その途中では、今回の地殻変動に伴う自然の胎動が感じられることもあろう。 それは、今までになかった感動を、引き起こすはずである。 
 行政は風評被害だと手をこまねいているのではなくて、(「箱根山戦争」に代表される)既得権益に囚われることがないよう大手の観光業者の協力の下に新たな動線を積極的に構築して新たな観光スポットを率先して広報することである。 今回の天変地異を、新たな観光資源にすることである。 今でしか見られない自然現象を、安全に充分注意して、観光に利用すれば、今まで以上に観光客を呼べるであろう。 行政の長には、そのような積極的な施策を実施できる能力が、期待されているはずである。 
 また、TBSによると、箱根町と温泉旅館組合が今後の対策を話し合い、風評被害の防止について協力していくことになり「どこでも皆さんをお迎えする体制はできています。 いつでも、お越しください、これからツツジが咲きます」ということである。 
 箱根町と温泉旅館組合との間で今後の対策を話し合って、お互いに協力していくとなっているが、観光は温泉旅館だけでは成り立たないはず。 観光に携わっている交通機関などとの話し合いは、どうなっているのか?  ツツジが咲いているの見るだけなら、「箱根」でなくても良い。 「箱根」ならではのものに触れられなければ、そこに行く意味はない。 
 箱根町によると、立ち入り禁止のエリアは町全体の0.3%と、ごく一部に過ぎず、ほかの場所で安心して観光を楽しんでほしいと訴えている。 僅かな割合である町全体の0.3%が立ち入り禁止であるとしても、その僅かな地域内に観光の名所があれば、観光地としての魅力は減ってしまう。 残りの99%に存在する"由緒のある温泉旅館"や"芦ノ湖の遊覧船"に魅力を感じる観光客にとっては、立ち入り禁止区域の設定には影響されないはずである。 だが、立ち入り禁止区域にある観光の名所に魅力を感じていた観光客が、"由緒のある温泉旅館"に宿泊することや"芦ノ湖の遊覧船"への乗船によって、満たされない満足感をどの程度充足できるであろうか。 それでは充足できないと考える観光客にとっては、当然ながら、今の箱根には魅力がない。 
 箱根観光の際に、観光客が「箱根ロープウェイからの眺望」や「大涌谷の見学」、「遊歩道での散策」の何れかを目的にしている割合は、残念ながら知らないが、小さくない数字であろう。 そして、その割合に相当する観光客は、その旅行目的に代わる目玉が提供されない限り、今回の規制で旅行先を「箱根」から別の観光地に換えてしまうであろう。 「行政」と「観光業者」との間に組織されている運営機関における「箱根の観光」に対する取り組みが、試されている!
 
ロープウェイ運休の箱根山、「代行バス」の運行始まる

 活発な火山活動が続く神奈川県の箱根山で、運休しているロープウェイの代行バスが、20日、運行を開始しました。 
 箱根山の大涌谷の立ち入り規制に伴い、箱根ロープウェイは今月6日から全線で運休していましたが、20日、「代行バス」の運行が始まりました。 
 代行バスは、午前8時45分から午後5時15分まで、15分から20分間隔で、現在、通行禁止となっている大涌谷駅を除いた早雲山駅から桃源台駅までを、1日およそ100本運行する予定だということです。

2015年(平成27年)5月20日(水)13時15分
TBS系(JNN) News  赤字は右記引用部分
 
箱根山 全線運休中の「箱根ロープウェイ」代行バスが運行開始

活発な火山活動が続く神奈川県の箱根山で、運休しているロープウエーの代わりとなるバスが、運行を開始した。 
噴火警戒レベルが2に引き上げられた5月6日以降、全線で運休している「箱根ロープウェイ」の代行バスは、避難指示が出ている大涌谷駅を除く、早雲山、姥子、桃源台の3つの駅を結ぶ。 
「箱根ロープウェイ」や、観光船などを乗り継ぐ観光ルートは「箱根ゴールデンコース」と呼ばれ、代行バスの運行により、周遊ルートが確保される

2015年(平成27年)5月20日(水)18時08分
フジテレビ系(FNN) Fuji News Network 赤字は右記引用部分
 活発な火山活動が続く神奈川県の箱根山で、運休しているロープウェイの代行バスが、20日、運行を開始した。 箱根ロープウェイは今月6日から全線で運休していたが、その「箱根ロープウェイ」の代行バスは、避難指示が出ている大涌谷駅を除く、早雲山、姥子、桃源台の3つの駅を結ぶ。 「箱根ロープウェイ」や、観光船などを乗り継ぐ観光ルートは「箱根ゴールデンコース」と呼ばれ、代行バスの運行により、周遊ルートが確保されることになる。 
 箱根観光の目玉である「大涌谷」への立ち入りができないとか、そこを「ロープウェイ」から俯瞰できないとか、観光地としてマイナス要因がなくなったわけではないが、観光の足が確保できたことについて評価できる。 
 しかし問題点は、ある。 運休しているロープウェイの代行バスが運行を開始するまでに、2週間の時間を要したということ。 余りにも遅すぎる。 この2週間に旅行を予定していた多くの観光客が、周遊コースが途切れてしまったことで、箱根行きを取りやめてしまったことであろう。 代行バスが運行されることを知らずに、旅行の予約を取り消してしまったことも多かろう。 
 「箱根ロープウェイ」の運休決定と同時に、それの代行バスが運行を開始すべきであった。 そこにはかって「箱根山戦争」と呼ばれたような複雑な利権の存在が邪魔をしていたとしても、行政機関が音頭を取って、緊急避難的な解決を模索したか。 行政が旅館組合と一緒になって「風評被害」を叫んでいるだけでは、その消極的な姿勢を感じ取った観光客は、そっぽを向いてしまうだけである。 代行バスを1日およそ100本運行する予定だということであるので、2週間前にロープウェイの運休に代わる代行バスを即座に用意しておればそれを利用できたはずの数万人もの観光客は、その恩恵を享受できなかったことになる。 
 代行バスが運行を開始するまでの2週間、この事態を「オール箱根」による具体的な取り組みで解決しようとするニュースに接することができなかったのは、誠に、残念なことである。
 

(26)「ポカヨケ」なしの安全設備
 
鉄道トラブル:ATS操作忘れ走行
JR北の特急、1分後起動

 JR函館線で3日、札幌駅を出発した特急が、自動列車停止装置(ATS)を作動させずに約500メートル走行していたことが、JR北海道への取材でわかった。 運転士がATSの操作を忘れていたことが原因で、約1分後に起動したという。 同社は「危険はなかった」などとしてミスを公表していなかった。 
 JR北によると、特急は札幌駅を3日午後9時5分ごろに発車した旭川行きの「スーパーカムイ41号」(5両編成)。 運転士はATSを起動させた後に列車を止め、指令センターに報告。 列車は約13分停車した。 けが人はなく、ほかの列車への影響もなかった。 
 ATSは列車が停止信号で止まらなかった場合でも、自動でブレーキがかかる装置で、運転士が発車前に起動させる。 JR北では昨年10月、別の特急がATSが作動しないまま最大90日間運行していたことが明らかになった。【 日下部元美 】

2014年(平成26年)10月5日(日)
毎日新聞(北海道)朝刊 Web版 赤字は右記引用部分
 運転手の居眠りや体調不良に際して、一定時間運転操作をしないと非常ブレーキがかかる緊急列車停止装置がある。 運転手が赤信号を見逃したとしても危険が回避できるシステムであるATSは列車が停止信号で止まらなかった場合でも、自動でブレーキがかかる装置である。 これらは、「フェイルセーフfail safe)」の1つである。 
 もし”ATS”が故障したとすると、赤信号のときに”自動的に”ブレーキがかからないかも知れない。 この故障しているという状況は非常に危険である。 ATSの地上装置の不良を検知したとき、走行中の列車は強制的にブレーキがかかるように、列車側のATS装置が故障したときには、マスコンのノッチを入れても、列車が起動しないような機構を組み込んでおくべきである。 その機能が、「フールセーフティfoolish safety)」である。 
 「フールセーフティ」のそれ以外の例としては、「列車貫通ブレーキ管に空気圧をかけなければブレーキが緩解しないように設計されていて、連結が外れて貫通ブレーキ管が切れた場合には補助空気だめの圧力により非常ブレーキがかかって停車すること」などがある。 
 JR函館線で3日、札幌駅を出発した特急が、自動列車停止装置(ATS)を作動させずに約500メートル走行していたということであるから、「ATS」の正常な動作を保証する「フールセーフティ」が完備されていたとしても、その「ATS」装置自体が「オン」になっていなければ安全性を確保できない。 前記の例で言えば、「補助空気だめの圧力」が抜けている状態に相当する。 「連結が外れて」貫通ブレーキ管の圧力がなくなっても、本来働くはずの「非常ブレーキ」が、きかないことになる。 この場合には、「ドアを閉めなければ加熱できない電子レンジ」や「ギアをパーキングに入れてブレーキを踏まないとエンジンが始動しない自動車」などのような「フールプルーフfool proof)」の機能が必要である。 「補助空気だめの圧力」が充分にある状態でと同様に、「ATS」を「オン」にしなければ、駆動装置が動かないようにするような。 残念ながら、この件は、昨年10月、別の特急がATSが作動しないまま最大90日間運行していたこともあって、「フールプルーフ」の機能が一切なかったことになる。 折角の「フェイルセーフ」の設備も、「ポカヨケ」なしでは、運転席の邪魔物になってしまう。  
 まとめると、(a)は「非常ブレーキ」、(b)は「ATS」について、 
(1)「フールプルーフ」 
(a)補助空気だめの圧力が正常か → 圧力が異常であれあれば、発車できないような機構を組み込んでおく
(b)ATSのスイッチが入っているか → スイッチがオフであれば、発車ができないように設定しておく 
(2)「フールセーフティ」 ・・・ (1)が正常な場合で 
(a)列車貫通ブレーキ管に所定の空気圧が維持されているか → 空気圧が低下していると、ブレーキが緩解されないので進行できない
(b)ATSが正常に動作しているか → ATSが正常な状態にないときには、マスコンのノッチ操作がブレーキのみに有効になる機構を設置しておく 
(3)「フェイルセーフ」 ・・・ (1)、(2)が正常な場合に、列車は運行されて 
(a)連結が外れる → 列車貫通ブレーキ管から圧縮空気が漏れ、その減圧によって非常ブレーキが掛かる
(b)運転手による赤信号の見落とし → ATSの緊急動作としてブレーキが掛かる 
となっていなければならない。 
 運転士がATSの操作を忘れていたことが原因で、約1分後に起動したというが、約1分後起動は「自動的に」ではなくて「運転手による操作」であろう。 安全な列車運行の決め手である「ATS」がスイッチ「オフ」の状態で走行できたという点には、安全性を蔑ろにしているという以外に言葉はない。 マスコンハンドルの操作と連動して、「ATS」のスイッチが自動的に入るべきである。 何らかの事情で「ATS」を切る必要があるときのためには、「オフ専用」のスイッチがあればよい。 「オフ」状態は、「ノッチ」を加速側に切り替えると自動的に解除されることが望ましい。 
 もし地上側の「ATS」が作動していない場所を運行する場合に、車上の「ATS」を継続的に「オフ」にする必要があるかもしれない。 地上側「ATS」が作動していない原因としては、「ATS」が設置されていないか、事故などで「ATS」が切れているかである。 前者の場合には車上の「ATS」を「オフ」にすることに問題はない。 特急がATSが作動しないまま最大90日間運行していたことも、地上側に「ATS」が設置されていない区間を運行していたときの「オフ」状態の消し忘れ(?)であろう。 後者では、「オフ」にすると重大な事故につながる恐れがある。 この前者後者を正確に区別して、前者の場合にのみシステム上で「ATS」の「オフ」を許可するのも、「フールプルーフ」の役割である。 この区別の実行は、しかしながら、簡単にはいかない。 「ATS」が設置されていない線路に沿って、新たに信号線を設置するなどの少なくない投資が必要になろう。 
 次善の策を、事故を完全には防げないが、提案しておく。 
(1)地上側の「ATS」に新たな信号を付け加える。
1a:フールプルーフ)設置区間から未設置区間になる直前で、車上「ATS」を「オフ」にする特別な信号を列車に与える。 
(2)車上の「ATS」に、若干の改良を加える。
2a:フールプルーフ)地上側からの「ATS」信号を入感すると、「強制的」に、車上の「ATS」を「オン」にする。
2b:フールプルーフ)地上側「ATS」から「オフ」にする特別な信号を受けると、「自動的」に、車上の「ATS」を「オフ」にする。
2c:フールセーフティ)地上側からの信号があるのに、車上「ATS」が「オフ」の状態であれば、ブレーキを作動させる。 
 もし、何らかのノイズにより車上「ATS」が「オフ」になる誤動作をすれば、地上側「ATS」の信号がある状態なので、車上「ATS」は”自動的に”ブレーキを作動させることになる。 停車後に地上側「ATS」の信号を受けて車上の「ATS」は自動的に「オン」になるので、直ちに通常の走行に移れる。 これとは逆に、(何らかの事情で、ATS未設置区間の直前にある「オフ」にする特別な信号を受けられなくて)車上「ATS」が「オン」状態のままで、地上側から「ATS」信号が送られてこないとき(*1) に”自動的に”ブレーキがかかるのは、従来のシステムと同じである。 この逆のケースに限って、「ATS」を手動で「オフ」にすることになる。 このとき、「ATS」信号が送られてこない理由を把握できないと、車庫線への進入時などを除いて、事故の可能性が生じることがこの次善の策の欠点である。 
 車上「ATS」での設備追加と、地上側「ATS」での信号付加で、誤操作する可能性が大きい運転手の「ATS」への関与が、「ATS」を手動で「オフ」にする操作だけに大幅に減少する。 うっかりして手動で「ATS」を「オフ」にしても、「ATS」信号を入感すると自動的に車上の「ATS」は「オン」になるので、「ポカヨケ」は完全である。 これで、ずいぶんと安全なものになると思われる。
 

(*1) この状態では、 
(1)「ATS」設置区間であるとき
 「ATS」信号が受からないのは、電気系統の故障かも知れないし、事故か災害によって信号が止まってしまったからかも知れない。 いずれにしても、それ以降の運行を中止するか、低速走行による慎重な運転が必要である。 
(2)「ATS」の設置区間を離れたとき
 車上ATSを「オフ」にするためのATS地上子からの特別な信号の送出に故障があるのか、システム全体の不調によるものであるが、既に「ATS」によって制御されていない区間を走行しているのであるから、この事を念頭に置いて慎重に運転する。 
 運転士は「ATS」を手動で「オフ」にすることで、この状態を自覚できる


[蛇足] 
 新幹線での列車の制御システムはスマートである。 電子技術が進化した現時点では古くさい感じがするが、その「枯れた技術」が確かな信頼性を担保しているように思われる。 ただ、これは新規に敷設した電化路線であるので実現できたのであって、非電化路線を抱かえる在来線に使うことはできない。 
 在来線で使われている「ATS」システムを、日進月歩で進化していく電子技術を利用して改善していくことになろう。
 
緊急時の停止装置 スイッチ切る

JR北海道の60歳の運転士が緊急時に列車を停止させる装置のひとつを作動させない状態で3年あまりにわたって普通列車を運転していたことがわかり、JRは再発防止を徹底することにしています。 
JR北海道によりますと、函館運輸所に所属する60歳の男性運転士は23日、函館線の函館発森行きの普通列車を運転した際、緊急時に列車を停止させる装置のスイッチを切ったままにしていたということです。 
この装置は「デッドマン装置」と呼ばれ、運行中に運転士が気を失った場合などに備えて一定の時間、運転士がペダルから足を離すと自動的に非常ブレーキがかかる仕組みです。 
この運転士は会社の聞き取りに対して「膝が痛いのでペダルを踏み続けるのがつらかった」と話していて、3年あまり前から社内の規定に違反してペダルを踏まなくていいようスイッチを切った状態で普通列車の運転を繰り返していたということです。 
JR北海道ではことし4月にも札幌発函館行きの特急列車が緊急時の停止装置のスイッチを切った状態で運行されていました。 
JR北海道は「安全を最優先に取り組んでいる中、大変ご迷惑をおかけしております」とコメントし、今後、故意に装置のスイッチを切ることができないよう対策を検討することにしています。(後略)

2017年(平成29年)10月30日(月)19時14分
NHK北海道ニュース Web版
 「JR北海道の60歳の運転士が緊急時に列車を停止させる装置のひとつを作動させない状態で3年あまりにわたって普通列車を運転していたこと」は、JR北海道の営業区域で起きた「自動列車停止装置(ATS)を作動させずに運行させていたこと」と同様に、列車運行における安全の根幹に係わる不祥事である。 
 この装置は「デッドマン装置」と呼ばれ、運行中に運転士が気を失った場合などに備えて一定の時間、運転士がペダルから足を離すと自動的に非常ブレーキがかかる仕組みであって、運転士の失神や居眠りなどによる無監視状態での列車走行を防止するものである。 その安全のためのシステムに対して、3年あまり前から社内の規定に違反してペダルを踏まなくていいようスイッチを切った状態で普通列車の運転を繰り返していたということである。 
 「自動列車停止装置(ATS)」の場合と同様に、「デッドマン装置」でも、スイッチが入っていなければ、列車が起動しないようなシステムでなければならない。 「ATS」の場合では、それが敷設されていない区間があって、そこではどのようにするかに工夫が必要である。 しかし、「デッドマン装置」と列車起動部との連携は、現状のままで、全区間にわたって導入できる。 それぞれの列車を改修するだけである。 
 このような安全の要となる装置について、「当然のこととして、その装置が働かない状態(スイッチオフ)では、列車が起動できないようになっている」と思っていた。 この装置がオフになっている状態でも列車が動かせるのであれば、その装置を設置している意味がないというか・・・。 「デッドマン装置」や、その進化形の「緊急列車停止装置(EB装置)」が働かない状態で列車が運行されたケースが、JR各社から報告されているようである。 「装置がオフになっていても列車が動かせる」システムに、問題がありそう・・・。 
 更に、記事中わずかに触れられている「ことし4月にも札幌発函館行きの特急列車が緊急時の停止装置のスイッチを切った状態で運行されてい」たことにも、注意したい。 
 安全の要である「そのようなスイッチ」を切った状態の下で列車を起動できるシステムとなっていることは、論外であると思っている。

 
基準以上の強風
特急が運転継続
JR北、警報作動せず?

 北海道稚内市のJR宗谷線抜海駅付近で3日朝、稚内発札幌行き特急「スーパー宗谷2号」(4両編成)が、運転中止の基準である風速30メートル以上の強風が吹いていたにもかかわらず、運転を中止せず時速約70キロで通常運行していたことがわかった。 強風を知らせるシステムが正常に機能していなかった可能性があるという。 
 JR北海道は3日、脱線などの重大事故につながりかねない「インシデント」にあたる可能性があるとして国土交通省に報告した。 
 同省などによると3日午前7時17分、走行中の特急の最寄り駅だった抜海駅の風速計が風速30メートルを計測。 JR北海道は、この付近で運転を中止する基準を風速30メートル以上と定めており、基準に達した場合は管轄の指令センターで警報が鳴る仕組みだった。 しかし、これが正常に作動せず、司令センターは運転士に運転中止の指示を出さなかったという。

2014年(平成26年)11月4日(火)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版9面 赤字は右記引用部分
 
JR北海道:強風で運転続行 スピーカーに不具合

 JR北海道が強風で運転中止の基準値を超えたのに特急列車の運転を続けた問題で、JR北は4日、警報音を出す指令室のスピーカーに不具合が見つかったと発表した。 国土交通省北海道運輸局は同日、事故につながるおそれがある「インシデント」に該当するとしてJR北に原因調査を指示し、結果報告と再発防止策の提出を求めた。 
 JR北によると、不具合があったのは名寄市の宗谷北線運輸営業所指令室にある総合防災情報システム「アリス」。 当時、指令室で勤務していた社員3人は、アリスのパソコン画面上の警報表示が正常に作動していたにもかかわらず表示に気付かず、警報音も鳴らなかったため、付近を走行中の列車の運転士に運転中止を指示しなかったという。 
 列車は特急スーパー宗谷2号(4両編成)で、稚内市の宗谷線抜海(ばっかい)?勇知(ゆうち)間を走行中の3日午前7時15分ごろ、抜海駅で基準値の風速30メートルを超えたが運転を続けていた。【 久野華代 】

2014年(平成26年)11月4日(火)22時39分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 またまた、JR北海道である。 
 「フールセーフティ」の機能がない! 
 この状況が危険な状態であるとすれば、指令室で勤務していた社員付近を走行中の列車の運転士に運転中止を指示するようなシステムは不適当である。 「危険を感知する機器」と「列車の運転士」との間には、できるだけヒトは介在しないようにすべきである。 ヒトは「ポカ」をする動物である。 今回の件の直接の原因は機器の不具合(警報音を出す指令室のスピーカーに不具合があったということ)であるとしても、アリスのパソコン画面上の警報表示が正常に作動していたにもかかわらず表示に気付かなかったのでは言い訳にはならない。 アリスのパソコン画面上の警報表示は「サブ」システムであるべきで、「メイン」は危険を感知する機器からの警報は直接運転士に通知すべきである。 
 それでも、それらの機器のどこかが故障していることもあろうし、運転士が警報を失念している可能性もある。 
 前者の対策としては、すべての「危険を感知する機器」が青信号を送ってきていることを確認できてから、はじめて列車が起動できるようにしておくべきである。 危険の可能性があることを知らせるのでは、その何処かで「機器の故障」とか「人的な原因」によってその通知が切れてしまえば、「危険な状況」がまったく逆の「安全な状態」として認識されることになる。 
 そうではなくて、安全であることを知らせるシステムを採用すべきである。 列車の位置情報は今ではGPSを使って容易に把握できる。 その位置情報に基づいて、チェックすべき情報を掴むことができる。 この列車の走っている位置から、A地点の時間雨量、B地点の瞬間風速、C地点の積雪高さを参照して、それが規制値以内であるかどうかを確かめる。 それらがすべてOKであれば安全な運行が保証できる。 このシステムの構築は、既存の(音声信号を伝送する)通信システムにデジタル信号を重畳することで実現できるから、鉄道路線に沿った通信線路を新設する必要はない。 既存の「アリス」システムに少々の手を加えるだけである。 列車側にもそれに対応するデジタル機器を搭載することになるが、これもATSへの機能の追加程度で済むと思われる。 
 後者には、「フールプルーフ」として、運転士が適切な操作をしないときには、一定時間後に(この場合には緊急ではない通常の)ブレーキが掛かるようにしておく。 これも、既設ATSの機能の拡張として処理できよう。 停止後は、運転士の操作により一定速度以下での走行は可能にしておいても良い。 
 色々と問題が噴出しているJR北海道に、このような完全に安全なシステムを導入したら、まったく列車が運行できなくなってしまう事態に陥ってしまう・・・かも?

 
<東海道新幹線>
パンタグラフ部品、左右逆に…取り付けミス

 東海道新幹線の「のぞみ」が昨年5月、作業ミスからパンタグラフの部品を左右逆に取り付けたまま、12日間にわたって営業運転していたことが5日、わかった。 JR東海は「安全に支障をきたすことはないが、真摯(しんし)に受け止め、再発防止に努めたい」と話している。(後略)【 森有正 】

2015年(平成27年)1月5日(月)11時47分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
東海道新幹線、パンタグラフ逆に取り付け
12日間運転
 
 図26-1 パンタグラフの取り付けミス 
 

 JR東海の東海道新幹線で昨年5月、架線に触れるパンタグラフの部品が1車両で左右逆に取り付けられたまま、12日間にわたり営業運転していたことがわかった。 この期間に6回の車両点検があったが、ミスは見落とされていた。(中略) 
 また、部品同士の凹凸がかみ合わず、片側が3ミリ高くなった状態で走行していた。(後略)

2015年(平成27年)1月5日(月)13時14分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 これは、新幹線でのトラブルである。 
 毎日新聞によると、新幹線車両で「作業ミスからパンタグラフの部品を左右逆に取り付けた」ということである。 左右を取り違えても取り付けられる構造になっているとすると、新幹線でも「ヒューマンエラー」による「ポカヨケ」がなされていなかったということか。 
 と、思っていたら、朝日新聞では「部品同士の凹凸がかみ合わない状態」であったという。 
 噛み合わせ部分が凸と凹になっていて(記事中で図解している)、逆では嵌らない構造になっていて取り付けエラーが防げるはずであった。 さすがに「フールプルーフ(fool proof)」が完璧な新幹線である。 
 しかし実際には、片側が3ミリ高くなった状態で取り付け可能であったという。 
 残念なことである。 
 噛み合わせ部分の「彫りを深くする」とか、ボルトナットの取り付け位置を「非対称にする」ことである。 ボルトナットの位置について、以前の工作機械を使った非対称の位置への穴あけには、手間の増加で著しく能率が落ちてしまう。 しかし現今の数値制御(NC)工作機械を使えば、任意の位置への穴あけを、コストの増加なしに、できてしまう。 
 部品の設計時に考慮しておけばコスト増なしに「ポカヨケ」が実現できることであっても、現時点で改良するには全車両のそれを取り換えなければならないという膨大な交換費用が発生してしまう。 
 初動(この場合は部品の設計)が大事であることは、いつの場面にもいえる。

 
北斗星ドア全開
「重大事態」認定 運輸安全委員会

 北海道八雲町のJR函館線で臨時寝台特急「北斗星」のドア1カ所が開いたまま走行した問題で、ドアの開閉を担当したJR北海道の車掌が、閉まったことを確認しないまま出発の合図を出した可能性があることが分かった。 国の運輸安全委員会は18日、事故につながりかねない事態である「重大インシデント」と認定し、調査を始めた。 
 国土交通省によると、列車は札幌発上野行きの14両編成で17日午後7時50分ごろ、八雲駅を出発。 数分後、車内を巡回していた車掌が、前から4両目の客車のドアがほぼ全開になっていることに気づいた。 
 同省関係者によると、ドアの開閉を担当した車掌はJR北の調査に対し、八雲駅を出発した際に「ドアが閉まったことをきちんと確認したか分からない」という趣旨の説明をしている。 社内の規定では、車掌は出発前、ドアの開閉状況を示す表示灯を確認することになっている。 車掌のドア確認について同社は「調査中で答えられない」としている。 車両を所有するJR東日本によると、出発前のJR北の点検では車両に異常はなかっという。

2015年(平成27年)5月20日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版29面(社会) 赤字は右記引用部分
 これもまた、JR北海道の営業区域で起きたケースである。 ただ、車両を所有するのはJR東日本である。 
 このケースも、「フェイルセーフ」が機能していないことになる。 たとえ、社内の規定では、車掌は出発前、ドアの開閉状況を示す表示灯を確認することになっているとしても、ヒトは「ドアが閉まったことをきちんと確認したか分からない」というように、ミスをするものである。 そのような「ミス」をしたとしても、安全を確保できるシステムでなければならない。 フェイルセーフの機能として、たとえば、ドアが閉まっていないのに出発の合図をしても、その合図が運転手に伝わらないようにするとか。 
 表示灯が切れて点灯しない状態になっていて、たとえ「ドアが開いたままである」としても、車掌は閉まったものとして出発の合図をしてしまうこともあろう。 車掌による合図を待たずに、運転手がついうっかりと出発してしまうこともあろう。 それらのミスを防ぐために、貫通ブレーキ管のように、すべてのドアを電気回路で結べば「フールセーフティ」の機能が得られる。 すべてのドアが閉まることで1つの閉回路が構成され、車掌による「ドア閉」の電気信号が運転手に届くことになる。 その信号を得て、運転手は列車を出発させることになる。 しかしこれでは運転手自身による「うっかりミス」は防げない。 完全なフールセーフティにするには、閉回路が構成されない限り進行のノッチを入れても無効になるようにしておくことである。 「車掌の不注意」や「運転手のうっかり」、「表示灯の故障」などによるミスが防げる。 これで、車掌は、乗客の安全に注意を集中できる。 
 特急車両であっても、この程度の安全設備が設置されていないということに、疑問を感じてしまう。 これでは、「車両のドアの開け閉めは手でおこなう」ことが普通であった鉄道初期の形態から、「開け閉めだけを自動化した」程度にしか変わっていないということか。 また、特急であるので停車駅は少ないにもかかわらず、停車した時の乗務員の注意力が散漫になっていることにも、違和感を持ってしまう。

 
<JR長崎線>わずか93メートルまで…特急同士が衝突寸前

 一歩間違えれば大惨事になる可能性もあった。 佐賀県白石町のJR長崎線肥前竜王駅で22日起きた特急同士のすれ違いミス。 同一線路上で向かい合って停車した2本の特急の距離はわずか93メートルしかなかった。 JR九州は同日夜、記者会見で謝罪し、運転士と指示を出すJR九州指令との間の情報伝達ミスがトラブルにつながったことを明らかにした。 
 「(重大事故につながりかねない)インシデントを発生させてしまいました。 それによりお客様に多大な迷惑をおかけして、深くおわび申し上げます」。 トラブルから約7時間半後の午後8時、福岡市のJR九州本社で始まった会見には報道陣約40人が詰めかけ、冒頭、松本喜代孝・安全推進部長は深々と頭を下げた。 
 同社によると、博多発長崎行きの「かもめ19号」と長崎発博多行きの「かもめ20号」は一駅長崎寄りの肥前鹿島駅ですれ違うはずだった。 しかし、19号の運転士が肥前竜王駅に入る直前に異音に気付いたため、駅の手前の信号機のほぼ横で停車した。 この間に20号が一駅進み、肥前竜王駅ですれ違うことになった。 
 20号が肥前竜王駅の待避線に入ったことを受けて、JR九州指令が19号の運転再開を指示したこの時点でポイントは両方向とも待避線側になっていたが、19号の運転士は自分の側は直進方向になっていると誤解。 約120メートル先のポイントを時速約35キロで通過して待避線に進入して初めて気付き、急ブレーキをかけた。 列車は2両目まで待避線に入って停車した。 
 誤解が生じた理由が19号の停車位置だった。 19号の運転士は目視で既に信号機を越えていると認識していたが、信号機のセンサーを感知する車輪はまだセンサーを越えておらず、実際は信号機のわずか手前で止まっている状態だった。 
 一方、運転士は停車位置について指令に「鳥栖から49キロ地点」と伝えた。 だが厳密には信号機は鳥栖から49.16キロの場所にあり、指令側は信号機の160メートル手前で停車していると理解した 
 この時、信号機は赤色だったため、指令は19号が「160メートル」進んだところで停車するものと理解。 その後、ポイントを直進側に切り替えて、再度、19号の発車を許可するつもりだった。 結果的に19号は「赤信号」を無視した形になり、本来ならば自動列車停止装置(ATS)が作動するはずだが、停車位置がATSの設置場所を既に過ぎていたため作動しなかった 
 松本部長に続いて原因を説明した小林宰・運輸部長は、運転士とJR九州指令との連絡不足を認め「連絡内容を決めるルール作りを徹底しなければいけない。 運転士が非常ブレーキをかけなければ、とても危険な状態だった」と話した。【 尾垣和幸、平川昌範 】

2015年(平成27年)5月22日(金)21時25分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 これは、JR九州のケースである。 
 このケースの発端は、20号が肥前竜王駅の待避線に入ったことを受けて、JR九州指令が19号の運転再開を指示したが、この時点でポイントは両方向とも待避線側になっていたことである。 そうしておいて、指令はその後、ポイントを直進側に切り替えることにしていた。 
 問題なのは、20号が肥前竜王駅の待避線に入っているのに、この時点でポイントは両方向とも待避線側になっていたことである。 ある列車が待避線に入っているのであるから、他の列車がどこを走行しているかに関わらず、ポイントは必ず「直進側」にしておくべきである。 ポイントを直進側にしておけば、待避線に入線している列車との衝突は、確実に避けられる。 
 指令は、ある時点でポイントを直進側に切り替えることにしていたというが、安全を優先すればそのような切り替えは以ての外である。 列車をある位置まで進行させてからポイントを切り替えることが普通におこなわれているなら、それは危険なポイント操作である。 
 そもそも、列車が入線している側にポイントを切り替えることが可能なシステムになっていることに違和感がある。 これでは、衝突の危険を容認していることになる。 
 列車が交換する際、先に到着した列車は停車することになるので、低速で通常はカーブしたポイントを渡って待避線側に入る。 後に到着した列車は徐行以上の速度で通過するので、ポイントの直線側を通って直進側の線を進行していくことになる。 列車の速度とポイントの曲線を考慮すれば、これが合理的である。 とすれば、指令が、後から到着する列車が入線する前にポイントは両方向とも前に到着していた列車が既に入線している待避線側にしていたことは、理解し難いことである。 
 下に示す『図38-2 肥前竜王駅の模式図』を使って、実際に起こったことを時系列で推理すると、 
 図26-2 肥前竜王駅の模式図 
(1)遅延しているかもめ19号の遅れを取り戻すために、直進側の2番線に入線させることにする。 それによって、ポイント通過時の減速が避けられる。 
(2)そのために、駅への到着時間が早いかもめ20号の方を、前もって、待避側の1番線に入線させておく。 その際にポイントは1番線側に開通させていた。 かもめ20号が1番線に入線するときに、ここは通常の運転では通過駅であるので、その先のポイントが1番線側に開通していないと、ポイントの信号が「停止」になるから。 
(3)にいるかもめ19号から見たポイントの信号は、閉塞区間にかもめ20号がいるので、「停止」になっていたはずである。 しかし、かもめ19号駅の手前の信号機のほぼ横で停車したので、それは見えなかった。 
(4)指令側は信号機の160メートル手前で停車していると理解していたので、かもめ19号を出発させる。 指令側の見込みは、ポイントの手前の信号で停止するということであった。 
(5)かもめ19号駅の手前の信号機のほぼ横で停車していたので、ポイントbの手前の信号が「停止」なっているのが確認できなかったことから、そのままポイントを通過して、1番線側に進行していった。 
(6)かもめ19号は、前方にかもめ20号がいることに気づいたので、慌てて急ブレーキをかけて止まった・・・。 
 察するに、列車指令は遅れを回復させるために、(2)と(4)を同時に進行したかったと思われる。 つまり、「かもめ20号の1番線での停止」と「かもめ19号のポイント手前での停止」とが、同時になるように。 列車指令が考えている「かもめ19号が信号機までの160メートルの区間を走行する時間を節約しよう」という・・・。 
 結論としては、通常であれば通過するこの駅で遅延などにより交換するときには、それぞれの特急の位置に係わらず、ポイントとポイントによって進路が1つに繋がらないような処置をとるべきであった。 実際にはこの時点でポイントは両方向とも待避線側になっていたので進路が1つに繋がってしまい、双方の特急列車が正面衝突に向かって突き進んでいたことになる。 まったく信じられない運用である。 信号システムとして、交換時のポイント制御に柔軟性がない故であろう。 ポイント進行・停止信号の関係の見直しが、必要である。

[補足] 
 このケースは、一寸した偶然が重なってしまった結果ともいえるが、安全のための設備やその位置に欠陥があったことが主因である。 
 上図のポイントが1番線側に開通していたことを前提にすると、その偶然とは、 
(1)かもめ19号信号機のセンサーを感知する車輪はまだセンサーを越えておらなかった。 そのため、かもめ20号にとって、かもめ19号の位置は、閉塞区間の外になってしまう。 もし越えていればかもめ20号の1番線への入線は「停止信号」になる。 入線するためには、ポイントを2番線側に切り替えが必要で、その結果、かもめ19号はすんなりと2番線に進行できた。 
(2)19号の運転士は目視で既に信号機を越えていたが、この信号機はかもめ20号の1番線への入線により「停止」を現示していたはず。 もし信号機を越えていなければ、「赤信号」を目視できた。 
(3)停車位置がATSの設置場所を既に過ぎていたため作動しなかった。 もしATSの位置を過ぎていなければ、それにより停止できた。 
 これら(1)、(2)、(3)の何れかが異なっていたら、特急同士のいつもの交換として、時間が流れていったことであろう。

 
岐南の名鉄事故
「会社体質問題」中部運輸局長が指摘
 図26-3 岐南の名鉄事故 
2015年(平成27年)7月1日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版30面(社会)
 国土交通省中部運輸局の野俣光孝局長が名鉄について、「運転士や、運行全体を統括する輸送指令の対応が不十分だった」と指摘している。 
 しかし、この件で一番に指摘されねばならないことは、『電源が落ちたときに安全性を担保できるようなシステムになっていない』ことである。 電源を失った結果、大幅にオーバーランしてしまったことである。 2015年(平成27年)6月5日(金)朝日新聞(名古屋)朝刊13版33面(社会)の記事では「非常ブレーキ後670メートル走行」とある。 このことは、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令第106条の解釈基準」で、『新幹線以外の鉄道における非常制動による列車の制動距離は、600m以下を標準とすること。 ただし、防護無線等迅速な列車防護の方法による場合は、その方法に応じた非常制動距離とすることができる。』 という規定を満たしていないことである。 
 このようなとき、列車を緊急に止めるのが最優先である。 新幹線では、停電すると、緊急停止するように設計されている。 列車への送電停止は、異常な状態をうかがわせる事態であるから。 これが新幹線の緊急事態に対応する最大の安全対策である。 電源断によって通常のブレーキが働かなくなることもあろうから、電気に依らないブレーキを掛けることも必要である。 それを運転士に頼るのでは、心許ない。 普段とは違った操作をすることになるから、咄嗟にはできないかも知れない。 これは、ヒトによる緊急停車処置とは別に、停電時に対応する「フェールセーフ」の機能を完備するしかない。 今回の停電により停車すべきホームを大幅に通り過ぎてしまったケースは、場合によっては、重大な事故に至ったかも知れない。 
 それは「運転手」や「輸送指令」の怠慢とは、まったく次元の違う話である。 それらの担当者が的確な処置を取ったとして、「オーバーラン」が防げたのか、それとも不可避だったのか。 この疑問と回答には、誰も、触れていない。
 
名鉄停電 連結器ショート原因
事故対応 ミス重なる
最終報告
 図26-4 事故現場の様子 
左図:2015年(平成27年)6月5日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版33面(社会)
右図:2015年(平成27年)7月8日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版31面(社会)
 この事故の「最終報告」が、報道された。 
 この事故で起こった最も危険なことは、ホームを通り過ぎ、踏切を越えて、やっと停止したことである。 幸運なことに列車は通り過ぎることができたが、側線から本線に合流するポイントは本線側に開通していたので、側線から進行してきた列車がこのポイントで脱線して(場合によっては、転覆して)しまう可能性があった。 遮断機が降りていない踏切に、歩行者がいれば人身事故になり、大型車両が通過中であれば大事故が起きていたかも知れない。 もしこの駅がターミナルであったなら、2005年3月2日の『土佐くろしお鉄道宿毛線宿毛駅』で発生した事故と同じように、「車止め」に激突していたことになる。 
 このような暴走を、何故、してしまったかが報道されていなかった。 停車駅の手前であったから列車のスピードは減速していたはずであったし、非常ブレーキは通常のブレーキよりも強力であるので、停車駅のホーム直前で停止できたはずである。 
 その原因が、「最終報告」の報道で判明した。 
 左図の2つの事故を報道する図の違いに、注目して欲しい。 『電源が落ち,非常ブレーキ → いったん緩める』とある。 ある区間を、ノーブレーキで進行したという。 
 過去に、筆者は(名鉄電車ではない)列車に乗っていて、非常ブレーキが作動した機会に遭遇した。 車掌が「非常ブレーキが作動しました。 急停車しますので、十分注意してください」と間髪入れずに放送した。 「ATS」の誤動作であったのか、しばらくして動き始めた。 このとき、『非常ブレーキ』が作動すると(社内規則によるものか、車両システムによるものかは不明であるが)停車するまで解除できないような旨の車内放送があった。 新幹線においても、車内火災の場合にトンネル内で非常ブレーキを掛けないとする運用も、「いったん作動させた非常ブレーキを停車するまで解除できないことによってトンネル内で止まってしまう」ことを防ぐためであると思っていた。 それが、名鉄では、非常ブレーキをいったん緩めることができたという。 
 左の図表に添えられている記事では、名鉄は『乗務員向けに電源が落ちた場合のマニュアルを作り、「停止まで非常ブレーキを緩めない」などと明記する。 さらに運転指令は乗務員から状況を聞き取って適切な判断ができるよう、研修を強化している』と説明している。 非常の際のハードウェアを改善して『非常ブレーキが作動すると、停車するまで解除できない機構にする』ことで、ヒト(運転士など)による誤操作を排除できよう。 定常的に施す必要がある研修を強化することよりも、余程効果がある。
 
名鉄列車107mオーバーラン 踏切の遮断機下げて戻る

 18日午後0時45分ごろ、名古屋鉄道西尾線の新安城発西尾行き普通列車2両編成、乗客約80人)堀内公園駅(愛知県安城市)の停止位置を107メートル過ぎて停車した。 オーバーランした際、駅寄りの踏切の遮断機が上がったため、再び遮断機を下げ、後退して駅に戻った 
 この列車は堀内公園駅を24分遅れで発車、他の列車にも最大28分の遅れが出た。 名鉄はトラブルの発表基準を「30分以上遅れた場合」「運休やけが人が出た場合」などとしており、今回の事例は公表していない。

2018年(平成30年)3月19日(月)15時57分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 これまた、名古屋鉄道で起きたケースである。 
 名古屋鉄道では自動列車停止装置としてM式ATSが使用されている。 これは速度超過を防ぐために、2点間を移動するに要する時間から速度を検知して、規定されたものよりも速いときに緊急ブレーキを作動させるようになっている。 規定速度の設定は2個1組の地上子の距離を変更する(0.5秒を基準にしているので、規定速度が時速80キロメートルのときには約11メートルの間隔で、時速30キロメートルのときには約4.2メートルの間隔で設置する)ことで実現する(2点間を0.5秒以内で通過すれば規定速度を超過していることが分かる)方式である。 
 この方式は低速度での制御に難点があるので、低速で進行しているときの列車を停止できない可能性が残る。 決まった位置へ停止させる手段として、この方式のATSが有効に働くという保証はない。 運転士によるブレーキ操作が必要となる。 
 さて、「普通列車が堀内公園駅の停止位置を107メートル過ぎて停車した。 そこで、後退して駅に戻った」という。 2両編成であるから、列車の長さは40メートル程度である。 駅の停止位置を107メートル過ぎたから、列車の最後尾は、停止位置から60メートル以上前方に離れていることになる。 構内信号を通り過ぎている可能性がある。 当該列車が、次の閉塞区間に入り込んでいるかも知れない。 後続列車が、それによって、進行してきているかも知れない。 後退して駅に戻ることは、一般的には、危険である。 閑散路線であったということなら、許されるということか・・・。 
 このような人為的なミスを防ぐためにも、ATCなどが整備されるべきである。 
 たとえば、近鉄などでは列車に「運転士支援システムGPS Train Navi)」が装備されている。 GPS技術を利用して列車の走行位置を特定し、その位置情報をもとに端末装置の画面表示・音声および発光ダイオードにより運転士に対して注意喚起を行うものである。 停車駅・編成両数の錯誤防止に有効である。 このシステムでは、運転の補助が目的であって、最終的な運転操作は運転士にゆだねられている。 自動的に列車の速度を落としたり、停止させるものではない。 しかし、停車すべき駅を通過してしまうことを防ぐことができる。 
 自動的に列車の速度を落としたり、停止させるためのシステムとして、近鉄では新型ATS(曲線部分に至る連続的な速度制限を含む速度の監視・制御)が装備されている。

 
空自輸送機事故
操作ミスが原因
防衛省発表
 図26-5 空自輸送機事故 操作ミスが原因 
2017年(平成29年)6月20日(火)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版6面(社会)
 「鳥取県の米子空港で今月9日、地元の航空自衛隊美保基地所属のC2輸送機が滑走路を外れて草地に突っ込む事故があり、防衛省は20日、3等空佐の操作ミスが原因と発表した」という。 
 直接の事故原因は発表の通りであろう。 しかし、その事故を引き起こすに至った根本原因が、別にありそうである。 
 それは「自機の速度や機体の姿勢を確認する装置がある。 この装置の作動準備が終わる前に機体を動かすと、装置が速度や姿勢を誤認する特性がある」という。 それだけではなく、「「機体は高速で走行している」と認識した場合、方向を変えるステアリング操作が制限され、ブレーキが利かない状態になるという」ようになっているとされている。 
 後半部分の「「機体は高速で走行している」と認識した場合、方向を変えるステアリング操作が制限され」る機能は、これがないと機体が横滑りして、横転する可能性があるので、適切なことである。 ただ、「ブレーキが利かない状態になるという」ことについては、ブレーキングによって、機体が前のめりになって逆立ち状態になることを防ぐこともあろうが、「車のアンチロック・ブレーキ・システム」の応用で、機体後輪の接地圧力を検知してブレーキ量を加減する機構を採用して可能なブレーキ力を大きくする。 
 しかし最も肝心なことは、「この装置の作動準備が終わる前に機体を動かすと、装置が速度や姿勢を誤認する特性がある」ことを、当然の如く、容認していることである。 何度も言っていることであるが、「ヒトは「ポカ」をする動物である」との観点が抜けている。 「マニュアル」を整備して、「技術教育」を充実させても、防げない。 
 自機の速度や機体の姿勢を確認する装置作動準備が終わる前に機体を動かすと、装置が速度や姿勢を誤認する特性があるなら、それを解消すべきである。 この装置の作動準備が終わらない限り、すべてのスイッチキー操作は無効になるようにすべきである。 パソコンの起動中に外部との通信を始めてしまう仕様があったならば、ウイルスへの防御が不完全な状態にあって、その脅威に曝されてしまう。 航空機にあっても、同様であろう。 自機の速度や機体の姿勢を確認する装置作動準備中であっても、機体を動かすことができる仕様とは、何なんだ。 この自機の速度や機体の姿勢を確認する装置が、「機体の動作スイッチ」とは、何故、連繋していない? 
 考えられる理由は、自機の速度や機体の姿勢を確認する装置が信頼されていないことかも知れない。 もし連繋させた状態で、この装置の誤動作によって、飛行中にエンジンを止めたり、脚を出したりすると、困るから。 この装置の信頼性については、装置が速度や姿勢を誤認する特性があることからも予想できる。 地上での「速度」は車輪の回転速度で、機体の「姿勢」は傾斜センサーで、常時監視できるシステムを備えておけば(*1)、それらの誤認も瞬時に解消されるはずである。 
 このC2輸送機よりも機体長が10メートルも短いMRJでも開発に難儀しているように、本邦の航空機開発に対する技術力は、思っているほどには高くない?
 

(*1) 自機の速度や機体の姿勢を確認する装置は、その装置内で完結したシステムになっている可能性が高い。 自機の「速度」や「姿勢」を、装置内に設置した3次元加速度センサーで計測している・・・速度や姿勢の初期値に、加速度センサーからの値を加えていくことになる。 初期値の値が狂っていれば、速度や姿勢は信頼できないものになってしまう。 
 地上の「速度」を、車輪の回転速度から、機体の「姿勢」を、飛行に必須のものである傾斜センサーから、それぞれ、得ることができる。 そのためには、新たに、通信ケーブルを引き回す必要がある。 このときには、多くの製造部署との調整が必要になってしまう。 製造部署間の密接なコミュニケーションが確立されていない場合には、避けて通りたい道である。

《参考資料》
 
MRJ
納入延期は5度目 見通しの甘さが改めて浮き彫り
 三菱重工業、18年半ばから20年半ばへ2年延期発表 
  三菱重工業は23日、国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の初納入時期について、従来予定の2018年半ばから20年半ばへ2年延期すると発表した。安全性向上のため、部品の設計見直しなどを迫られたのが理由で、納入延期は5度目となる。受注がキャンセルされる恐れがあるほか、開発費の増大も予想され、国産機開発を巡る同社の見通しの甘さが改めて浮き彫りになった。【 竹地広憲、川口雅浩 】 
 東京都内で同日、記者会見した宮永俊一社長は「最新の安全規制に適合する飛行機として世界で売っていくためには、あと2年はかかる」と釈明した。納入が遅れるのは、操縦かんの動きを伝える「飛行制御システム」など主要部品の配置を変更したことに加え、約2万3000本に上る電気配線全体の設計を見直したためだ。 
 国土交通省から航空機の安全性でお墨付きを得る「型式証明」を取得するには、各システムや電気配線の一部が故障しても、同じ機能を持つ別系統のシステムが正常稼働する必要がある。同社が昨年秋以降、海外の専門家などと協議した結果、大量の水漏れや爆弾テロなど非常時の対応が不十分で、本来はシステムや配線の分散配置を従来以上に進める必要があることが分かった。(後略)
 
2017年(平成29年)1月23日(月)20時42分
毎日新聞 Web版

 
台湾で列車脱線 少なくとも18人死亡、168人負傷

 台湾東部の宜蘭(イーラン)県で21日午後4時50分(日本時間午後5時50分)ごろ、台湾鉄道の特急列車「プユマ号」(乗客366人)が脱線した。 台湾の消防当局によると、少なくとも18人が死亡、168人が負傷した。 脱線の原因は調査中という。 
 台湾鉄道などによると、脱線現場は宜蘭県蘇澳地区にある新馬駅。 線路が右にカーブしており、列車の全8両が脱線し、そのうち5両は横転した。 スピードが出ていたという目撃証言もある。 地元テレビの映像によると、車両が、折り重なるように横倒しになっている。 車両は日本製だった。(後略)【 台北 = 西本秀 】

 図26-6 台湾で列車脱線 
2018年(平成30年)10月21日(日)23時39分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 台湾東部の宜蘭(イーラン)県で21日午後4時50分(日本時間午後5時50分)ごろ、台湾鉄道の特急列車「プユマ号」(乗客366人)が脱線したという。 脱線現場は宜蘭県蘇澳地区にある新馬駅。 線路が右にカーブしており、列車の全8両が脱線し、そのうち5両は横転した。 スピードが出ていたという目撃証言もあると報道されている。 
 脱線現場新馬駅付近であるので、分岐器などの不良による脱線の可能性がある。 しかし、現場の写真にあるように、列車の全8両が脱線し、そのうち5両は横転するようなことは、「単純な脱線」では起こらない。 脱線した車両が横転し、その前後の車両が傾いてしまうことはあるとしても、単純な脱線を原因として5両もの車両が横転することは考えられない。 
 やっぱり、スピードが出ていたということであろう。 
 線路が右にカーブしているところで、スピードが出ていたのであれば、JR福知山線脱線事故を思い浮かべてしまう。 
 運転士が何らかの都合で決められた速度を超過してしまって、それによって事故が起こってしまった。 そのためには、運転士がどのような運転操作をおこなったとしても、それを起因として事故に至ることを防ぐシステムが必要である。 「フェイルセーフ」ではなくて、「フールセーフティ」の機構が働かなければならない状況である。 現場付近のカーブでは、どのようなことがあっても、ある速度を超えて走行できないようなシステムを。 たとえば、我が国で採用されている「ATS」のような。 それに類似のシステムが採用されているとしても、速度が超過している状況で、(運転士など人による運転操作ではなく)自動的に速度を落とすようにシステム設計ができていなければ、「JR福知山線脱線事故」の二の舞となってしまう。 
 結果的には、そのようなフールセーフティが働くシステムが整備されていなかったということになる。
 
台湾脱線事故の車両に設計ミス 製造元の日本企業が発表

 台湾東部の宜蘭県で先月起きた脱線事故で、事故を起こした「プユマ号」をつくった日本車両製造(名古屋市)は1日、車両の安全装置「自動列車防護装置」に設計ミスがあったと発表した。 本来は運転士が装置を切ると、その情報が運行を管理する指令員に自動で伝わるはずだったが設計ミスが原因で伝わらないようになっていたという 
 同社によると、事故から2日後の10月23日、運行する台湾鉄道から、安全装置を切った際に自動的に指令に連絡が入る機能についての調査要請があった。 調査の結果、同29日に設計担当者のミスで配線の接続が仕様書と一部異なり、この機能が働かなかったことが判明した。 
 10月21日に発生した事故は、列車が高速のままカーブに進入して脱線し、200人以上が死傷した。 
 運転士は台湾検察の調べに、事故が起きる約30分前に安全装置を自分で切ったことを認めている。 車両の動力などにトラブルがあったとしており、無理に運行を続けようとして装置を切った疑いが出ている。 
 運転士は指令員の同意を得て装置を切ったとしているが、台湾鉄道は「報告は無かった」として主張が対立している。

2018年(平成30年)11月1日(木)19時37分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 台湾東部の宜蘭県で先月起きた脱線事故で、本来は運転士が車両の安全装置「自動列車防護装置」を切ると、その情報が運行を管理する指令員に自動で伝わるはずだった。 ところが、車両の安全装置「自動列車防護装置」に設計ミスがあったので、運行を管理する指令員に伝わらないようになっていたという。 「設計担当者のミスで配線の接続が仕様書と一部異なり、この機能が働かなかった」からである。 
 実際には、設計担当者のミスがなく、正常にこの機能が働いたとしても、フールセーフティが機能したとはいえない。 
(1)列車の速度超過を抑止する「自動列車防護装置」を切っても、通常の走行が可能である。 
(2)そのようなときに、超過した列車の速度が、自動的に、抑制されることはない。 
(3)運行を管理する指令員に連絡が届いても、指令員には列車を減速する手段はない。 
などとともに、途中の通信経路が不良で、列車から指令員に異常事態の連絡が届かないこともあり得る。 ミスで配線の接続が仕様書と一部異なっていて、この機能が働かなかったという不具合」がなかったとすると、事故の発生をある程度防げたかも知れない。 しかし、列車の運行を、そのシステムが、完全に安全にしているとはいえない。 運行を管理する指令員に権限を集中するようなシステムは外見上は立派に見えるが、事故防止対策としてのフールセーフティは、考慮されていない状況である。 
 日本の「新幹線」では、運行の管理は「新幹線総合指令所」でおこなっているが、地震などの事故発生の恐れがあるときには、列車に装備された機能によって自律的に自動的に停車するようになっている。 列車と新幹線総合指令所との間の通信不良などにより、指令が出せないケースがあることを考慮すると、ほぼ理想的なシステムである。 
 「運転士は指令員の同意を得て装置を切ったとしている」とあるように、台湾鉄道のシステムでは「運行を管理する指令員を介しての運転指示」を基本としているようで、車両の安全装置「自動列車防護装置」に設計ミスがあることによって列車の異常な状況が運行を管理する指令員に伝わらないときは当然として、設計ミスがなくて正常に機能している場合であって「運転士の異常な操作」が指令員に伝わっていたときでも、列車を減速することは運転士による操作に委ねられている。 そうであれば、車両の安全装置「自動列車防護装置」設計ミスの有無にかかわらず、事故が起きてしまうことは充分に予見できたことである。
 
台湾脱線事故で事故調 速度超過が原因と断定

 【台北=田中靖人】台湾・北東部で10月、死者18人を出した特急列車の脱線事故で、行政院(内閣に相当)の「事故調査グループ」は26日、運転士が速度を制御する「自動列車防護装置」(ATP)を切り、制限時速75キロのカーブに時速141キロで進入したことが直接的な原因だとする当面の調査結果を公表した 
 同グループは、間接的な原因として、列車を納入した車両製造のミスで列車のATPが司令室の遠隔監視装置に接続されていなかったことや、列車のコンプレッサーが故障していたこと、故障を修理せずに列車を運行させた台湾鉄道(台鉄)の管理体制など複数の要因が重なったとし、「問題が発生した際に有効な処置をしていれば、事故は起きなかった」とした。 
 調査によると、運転士はコンプレッサーの故障による動力不足がATPによるものだと誤認し、ATPを停止。 運転士は事故の約20秒前まで動力の異常をめぐって運行管理員と通話しており、現場にブレーキをかけた痕跡はなかった。 台鉄は当初、運転士からATPの停止報告はなかったと発表したが、同グループは通話の中で双方が停止を認識していたとした。 
 台鉄はこの車両を2013年から運行しており、この間にATPの接続ミスを修正しなかった原因は今後、調査するという。

2018年(平成30年)11月26日(月)20時21分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 台湾・北東部で10月、死者18人を出した特急列車の脱線事故について、直接的には、運転士が速度を制御する「自動列車防護装置」(ATP)を切り、制限時速75キロのカーブに時速141キロで進入したことが直接的な原因だとする当面の調査結果を公表したという。 調査によると、運転士はコンプレッサーの故障による動力不足がATPによるものだと誤認し、ATPを停止したからである。 
 列車のコンプレッサーが故障していたにも関わらず、何故、「自動列車防護装置」(ATP)を切ると、列車を高速で運行できてしまったか?  
 列車のコンプレッサーは、「補助空気だめ」と、「列車貫通ブレーキ管の空気だめ」へ、圧縮空気を供給している。 「列車貫通ブレーキ管」の圧力がなくなる(通常の場合は、列車間の連結が外れて、圧縮空気が漏れる)と、「補助空気だめ」の圧縮空気によって「緊急ブレーキ」が掛かって、列車は減速・停車するようになっている。 もし、「補助空気だめ」の圧力がなければ、どのような状況であっても、「緊急ブレーキ」は働かない。 
 列車のコンプレッサーが故障していたことから、「補助空気だめ」の圧力がなくなっていて、「緊急ブレーキ」は働かない状態であった。 「補助空気だめ」の圧力がなくなっていることを検知して、ATPが列車の運行を抑止したのは、正常な動作であった。 
 列車を運行するためには、故障していたコンプレッサーを直すこと以外に、「ATPを停止」という手段が選択できた。 「ATPを停止」という選択を採用することによって、「緊急ブレーキ」が働かない状態であっても、運行は可能になってしまう。 ATP重要な機能を、無能にしてしまったことによって、「制限時速75キロのカーブに時速141キロで進入したとしても、それを抑制するシステムは働かない」のであるにも係わらず・・・。 記事では『速度超過が原因と断定』としているが、それは「2次的な」原因である。 「主因」は、『列車のコンプレッサーが故障していて「ATP」の入切に関係なく「緊急ブレーキ」が働かない状態であったのに、高速での運行が可能なシステムになっていた』ことである。 
 列車を移動させることが、必要となることもある。 そのために、ATPを停止した際には、運転を充分に小さい決められた速度以下で可能とする機構を、ATPとは独立して、組み込んでおくべきであった。
 

(27)ギョエテとは誰のこと
 
「ジョージア」に変更へ…グルジアの要請に応じ

 政府は、旧ソ連諸国の一つ「グルジア」の国名表記を、同国からの要請に応じて「ジョージア」に変更する方針を固めた。 
 今月下旬で調整が進んでいるマルグベラシビリ大統領の来日の際、安倍首相に改めて変更の要請がある見通しで、日本政府はこれを受けて必要な法改正を検討する。 
 グルジアの国名はグルジア語では「サカルトベロ」だが、関係者によると、国連加盟193か国のうち約170か国は、英語表記に基づく「ジョージア」の呼称を使っている。 ロシア語の表記が起源の「グルジア」と呼んでいるのは、ロシアなど旧ソ連圏と中国、日本などだけだという。 
 グルジア政府は、2008年にロシアと軍事衝突して国民の反露感情が高まったのを背景に「ジョージア」と呼ぶよう各国に働きかけていた

2014年(平成26年)10月6日(月)05時40分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 
「グルジア」改め「ジョージア」 政府、表記変更へ

 安倍晋三首相は24日、グルジアのマルグベラシビリ大統領と会談し、グルジアの国名表記を同国の要請に応じて英語表記に基づいた「ジョージア」に変える方針を示した。 日本政府は、今年度中に関連法の改正を目指す。 
 日本外務省などによると、旧ソ連の同国では2008年のグルジア紛争以降、反ロシア感情が高まった。 ロシア語の「グルージヤ」に近い国名表記でなく、「ジョージア」とするように各国に要望していた。 
 09年に来日した同国外相は、当時も変更を要請。 日本政府は米国のジョージア州との混同の可能性もあり、変更には慎重だった。 だが国連加盟国のうち約120カ国が「ジョージア」を使用するようになり、「グルジア」を使うのは日本のほか、旧ソ連と東欧など少数派となっていた。 「国際基準に合わせる必要がある」(日本外務省関係者)として変更に踏み切ることになった。【 杉崎慎弥 】

2014年(平成26年)10月24日(金)19時38分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 外国人の名前を「日本語」で表記するときは、その人が母語としている言語の音韻を、その音に近い仮名文字にすることである。 英語系であればチャールズであっても、フランス語ならシャルル、ドイツ語ならカール、イタリア語ならカルロ、スペイン語ならカルロスになろう。 もっとも、米国元大統領のレーガンは当初リーガンと呼ばれていた。 ドイツの会社のズィーメンス AGも、英語読みの「シーメンス」が使われている。 オストワルド粘度計を考案したバルト系ドイツ人は「オストヴァルト」であることを考えると、この仮名文字にすることは簡単なことではないようだが。 
 外国の地名を「日本語」で表記するときも、原則として、現地の読みによる。 「ベニスの商人」のベニスは英語由来で古くから使われていたのが、イタリア語の「ヴェネチア(ベネチア)」になった。 インドのカルカッタ やボンベイ、マドラスも、「コルカタ」や「ムンバイ」、「チェンナイ」へと変更されている。 中国の大河である揚子江を「ヤンツーチァン」、黄河を「ホアンホー」と習ったこともある。 その後、揚子江は長江になり、仮名書きは日本語での読みに変わってしまったが。 中国の首都の英語名は「Peking University」のように「Peking」を使っていたが、現在では「Beijing」として定着している。 
 さて、読売新聞によると、「グルジア」の国名表記を、同国からの要請に応じて「ジョージア」に変更するという。 
 その報道から3週間近く遅れて、朝日新聞が「安倍晋三首相は24日、グルジアのマルグベラシビリ大統領と会談し、グルジアの国名表記を同国の要請に応じて英語表記に基づいた「ジョージア」に変える方針を示した」ということである。 事前の政府方針を掴み損ねて、今回の大統領との会談の機会を捉えて、報道したということか。 その間に多くの時間があったにも係わらず、内容的には前者にはある「サカルトベロ」に関する説明が抜けているという儀礼的な記事である。 
 ところで、グルジアの国名はグルジア人が使っているグルジア語では「サカルトベロ(Sakartvelo)」だから、原則に従えば、「グルジア」から「サカルトベロ」への変更が良いと思われるが・・・。 
 ここで、ロシア語起源の「グルジア」と英語の「ジョージア」は、ともにキリスト教の聖人名である「聖ゲオルギウス」を起源としている「同根の語」であることに注目したい。 グルジア政府ロシアと軍事衝突して国民の反露感情が高まったのを背景にして国名表記を変更して欲しいのであれば、ただ単にロシア語由来の国名である「Gruziya」を、それと同根の語である英語での国名の「Georgia」に変えたに過ぎない処置で我慢できるのか。 補足で述べられているように、「ジョージア」と記されることになる国名は今使われている「グルジア」を含めて、外国人が勝手に命名したものでグルジア人自身が昔から名乗っているものではない。 グルジア人は(ではなくて、正しくは、サカルトベロ人は)、自身の国を「Sakartvelo」と呼んでいる。 ロシア語由来の国名である「Gruziya」に代えて、「Sakartvelo」ではなくて、英語での国名の「Georgia」に変更するようなことは、英語での国名の「Japan」に代えて、「Nippon」ではなくて、ロシア語のアルファベット表記である「Yaponiya」に変更するようなもの。 そこには、既に国連加盟193か国のうち約170か国は、英語表記に基づく「ジョージア」の呼称を使っているという現実に、今更、グルジアの国名はグルジア語では「サカルトベロ」であるがその国名の使用を、相手国に頼めない状況になっているのか。 国連での英語正式名称が「Republic of Georgia」となっていることもあって・・・と思われる。

[補足] 
 米国人でも「グルジア」を「ジョージア」と呼ぶことに違和感を持っている人がいる。 「Deutschland」が「Germany」と呼ばれているのと同様に・・・。
Sakartveloでは何故ダメか?  
Peter Stantonの提言 
 さて、ここで質問だ : なぜ私たちは他の国をその国の人達が呼んでいる国名で呼ばないのか?  たとえば、「Germany」という英語でのドイツの国名は、同じ場所を指し示すのに独語以外のまったく違った単語を使っていて、実にばかげたことである。 私達みんなが、その国をそのまま独語での「Deutschland」を使ってドイツを名指ししたら、思っている以上に相互理解が進んでいくに違いない。 それは、「Deutschland」の発音が難いものではないし、英語で「German」と書き慣わされているドイツ人は(失敬、独語で「Deutsch」と表記されるドイツ人は)、ドイツ人自身が使っている国名に尊敬の念を抱きたいと思っていることは確かであるから。 
 その点で同意できないのであれば、しかたがないから、次のことを考えよう。 我々が他の国をせめてその国の人達が呼んでいる国名で呼ぶようにすることは我々にとってとても簡単なことであるのに、何故そうしないのか?  
 ここで、ヨーロッパとアジアとを隔てているコーカサス山脈に位置している英語で「Georgia」と呼んでいるグルジアという国について特に取り上げてみる。 しかし米国では(そして、おそらく一般的に英語では)英語で「Georgia」という名前は一般的に米国の州を指し、それは最初の13植民地の最南端に位置している。 2つの「Georgia」があることは認められない。 コーカサスにある国をその本来の名前である「Sakartvelo」で呼ぼうではないか。 
 グルジアの国を"ジョージア"と呼ぶ歴史は、米国のジョージア州ができたよりも実際には、はるかな昔にさかのぼれるようだ。 西ヨーロッパからの十字軍はおそらくその国名をペルシア-アラビア語のことばを基にしてつくったのであるが、また一方では、その国名は聖ジョージへのグルジア人のうわべだけの敬愛を基にして正当化されていた。 その国の最後の君主であるジョージZ世(1800年没)を含めて、ジョージと名付けられた多くのグルジアの王たちもまた存在した。 しかし、「Kartuli」語(グルジア語)で彼の名前はジョルジであったし、たとえグルジアが何世紀にもわたって続いていた国の名前であるとしても、ジョージはイギリス、フランス(それはジョルジュとして)、そして西ヨーロッパのどこにもいた。 
 "ジョージア"は結局他国人による異名であって、その場所を示す名前としてはその場所に起源がない名前である。 他国人によるすべての異名は廃止すべきだと思うし、たまにはそれは、英語の「the United States」をスペイン語での米国を示す「los Estados Unidos」というような、単なる翻訳にすぎないこともある。 それは単に翻訳であり、国の名前がもっている意味を失わないようにすることには役立っている。 これに対して、"米国"や"カナダ"のような国名は他の言語ではその正字法とは違った形でしか書き表せないかも知れないけれども、その国名をまったく変換できないということではない。 グルジア語である「Kartuli」語でのグルジアの国名は"「Kartvelians」の土地"を意味する「Sakartvelo」である。 そのようにしたいならば英語でその国を「Kartvelianland」と呼ぶこともできるであろうが、多分「Sakartvelo」と言った方が響きのよい言葉になる。 
 ジョージアの米国の州として使われたときの"ジョージア"は仲間内での命名であり、すなわち、その場所に(またはこの場合には欧州からの入植者にとって)起源となる場所に因んだ名前である。 1733年にイギリス人入植者によって建設され、英国王ジョージU世にちなんで命名されたが、多くの先住民が積極的に保有していた土地であるにもかかわらずそのジョージU世は入植者にその土地を"授けた"。 いずれにしても、米国が独立を獲得して以来、そしてアメリカ人がほとんどの先住民をその地域から追い出してからは特に、ジョージア州に住んでいるほとんどの人は、その州の住む人自身のスペルと発音に従って世界中のたいていの人がしているように、その州をジョージアと呼んできている。 ある特定の場所を指し示すのに仲間内で呼んでいた名前を世界中の人々が使うようになった完璧な例であり、「Sakartvelo」についても同じようにすべきであると思う。 
 最後に、その場所を内々の名前で呼ぶというたくさんの先例があることを指摘して私の主張を締めくくりたいと思うが、一般的にそのことは新しい国が成立したときとか政府が正式にその名前を変更したときに起こっている。 「Sakartvelo」の場合には、コーカサスにある国をその国の人々が呼んでいる名前で指し示すことはまさに混乱をまったくといってよいほどもたらさないことと最終的にはより合理的なことであるだろう。 私たち自身が興味を持っている他国人による命名は何世紀にもわたって長期に使い続けられていくことになるかも知れないが、その名前が歴史になるのに必要な時間であると思っている。

 
あのテニス選手、マリー?マレー?
Re:お答えします
メディアで違い 本紙は現地の読み方尊重
 図27-1 マリー?マレー? 
2015年(平成27年)3月17日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版25面 赤字は右記引用部分
 人名表記に関する「直球勝負の」記事である。 
 現地での読みを尊重しているとしながら、「バブリンカ」についてはそうはなっていないという。 米元大統領が、既に俳優として「リーガン」として知られていたにもかかわらず「レーガン」と記されるようになったことを考えると、定着している表記の変更を躊躇する理由にはならない。 
 原則に例外を設けると、ますます煩雑になっていく・・・。

 
スワジランド、国名を「エスワティニ」に 英語排除し現地語回帰

【AFP=時事】アフリカ南部スワジランドの国王ムスワティ3世(Mswati III)は19日、英国領からの独立50年を記念した式典で、同国の国名を「エスワティニ」に変更すると発表した。 
 スワジランドは南アフリカとモザンビークに囲まれた小さな内陸国で、世界でも数少ない絶対王政国家。 独立時に国名を変更する国もあるが、60年以上の英国保護領時代を経て1968年に独立した同国では名称は変更されなかった。 
 ムスワティ3世は、同国第2の都市マンジーニ(Manzini)で行われた独立記念式典で「スワジランドが元の名前に戻ることを発表する」と述べ、正式な国名を「エスワティニ王国(Kingdom of eSwatini)」に変えると宣言した。 
 エスワティニはスワジ人の言語、シスワティ語で「スワジ人の場所」を意味するスワジランドという名称は、現地語と英語を掛け合わせた言葉であるため、一部の国民からは怒りの声が上がっていた。 
 国名の変更は数年前から検討され、2015年には議会でも審議された。 ムスワティ3世はこれまでの公式演説で新しい国名を使用してきた。

2018年(平成30年)4月20日(金)05時40分
AFP=時事 赤字は右記引用部分
 「グルジア」という国名の「ジョージア」への変更に際しては、国連加盟193か国のうち約170か国は、英語表記に基づく「ジョージア」の呼称を使っているということで、「グルジア」の国名表記を、同国からの要請に応じて「ジョージア」に変更するという。 グルジア政府「ジョージア」と呼ぶよう各国に働きかけていたという経緯がある。 
 グルジアの国名はグルジア人が使っているグルジア語では「サカルトベロ(Sakartvelo)」だから、「グルジア」から「サカルトベロ」へ変更することになると思っていた。 「ジョージア」という国名表現は、英語などを話す他国民が名付けたものであって、「サカルトベロ」に住んでいる人々(Kartvelians)自らが、そのように呼んでいた訳ではないから、不自然な名称である。 
 アフリカ南部にある「スワジランド」が、国名を変更するという。 変更前の国名である「スワジランドという名称は、現地語と英語を掛け合わせた言葉であった。 それで、正式な国名を「エスワティニ王国(Kingdom of eSwatini)」に変えるという。 エスワティニはスワジ人の言語、シスワティ語で「スワジ人の場所」を意味する 
 元々の国名の「スワジランド」という表現も、シスワティ語の「eSwatini」が訛った「Swazi」と国家を表す英語の「land」を組み合わせたものである。 「Swazi」部分を、国民であるスワジ人によって呼ばれている「eSwatini」に正したいし、「land」という英語が付加されることも好ましくないという思いは、当然である。 Deutschland(ドイツ)が古のGermania(ゲルマニア)の地に由来して、英語での国名表記が「Germany」とされていることや、「Sakartvelo」の地に建国された国名を、ロシア語由来の「グルジア」(とか、英語由来の「ジョージア」)という「住民自身による呼称とは無関係な名前で」呼ばれている現状と比べると、今回の「エスワティニ王国(Kingdom of eSwatini)」への変更は、国名をその国民が日常で使っている表現により近づけようとする好ましい傾向である。

 
ウクライナ首都、キエフから「キーウ」に変更…
チェルノブイリは「チョルノービリ」に

 外務省は31日、ウクライナの首都キエフの日本語呼称について、ウクライナ語「Kyiv」に基づく「キーウ」に変更すると発表した。 「キエフ」はロシア語「Kiev」に由来するため、ウクライナ政府の意向を確認した上で、変更を決めた。 今後は各省庁で作成する資料ではキーウを用いる。(後略)

2022年(令和4年)4月 1日(金) 1時58分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 ウクライナの首都キエフの日本語呼称について、ウクライナ語「Kyiv」に基づく「キーウ」に変更することになった。 それより1ヶ月以上もの遅れで、下記の《補足資料》に示すように、モルドバの首都「キシニョフ」の名称表記について、政府は、モルドバ側からロシア語に基づくものだとして見直しの要請があったことを踏まえ、現地で使われているルーマニア語に沿った「キシナウ」に改めることになった。
《補足資料》
 
政府 モルドバ首都の名称「キシナウ」に ロシア語表記を見直し
ウクライナの隣国で、旧ソ連諸国のモルドバの首都「キシニョフ」の名称表記について、政府は、モルドバ側からロシア語に基づくものだとして見直しの要請があったことを踏まえ、現地で使われているルーマニア語に沿った「キシナウ」に改めると発表しました。 
モルドバの首都「キシニョフ」の名称表記は、ロシア語に基づいていて、日本政府は、これまで各省庁の作成する資料などで用いてきました。 
これについて、外務省は13日、モルドバ政府から見直しの要請があったことを踏まえ、現地で使われているルーマニア語に沿った「キシナウ」に改めると発表しました。(後略)
 
2022年(令和4年)5月13日(金)14時26分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 現地の人々が日々の生活で話している地名を、その発音に近い表記で示すことは、その人々へのリスペクトであって、当然のことである。
 

(28)自動車用タイヤが破裂すると
 
ガソリンスタンドでタイヤ破裂、
空気入れていた男性店員が死亡 滋賀・甲賀

 22日午後4時50分ごろ、滋賀県甲賀市水口町北脇、国道1号沿いのガソリンスタンド「エネクスフリートルート1水口店」で、店員の高尾博文さん(49)=同県湖南市正福寺=が、大型トラックのタイヤに空気を入れていたところ、タイヤが破裂。その衝撃で高尾さんはあおむけに倒れて意識がなくなり、搬送先の病院で死亡が確認された。 滋賀県警甲賀署によると、死因は破裂の衝撃による「大動脈解離」とみられる。 当時、ガソリンスタンドには店員や客ら数人がいたが、他にけが人はなかった。 同署で事故原因を詳しく調べている。 
 同署によると、高尾さんはトラック助手席側の後輪タイヤ(直径約80センチ)に、空気をエアコンプレッサーで入れていて、タイヤが突然破裂。 音を聞いて駆けつけた別の男性店員が、あおむけに倒れている高尾さんを見つけ、119番通報した。

2014年(平成26年) 12月23日(火)09時05分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 大型トラックのタイヤに空気を入れていたところ、タイヤが破裂したという。 その直後、空気を入れていたガソリンスタンドの店員があおむけに倒れているのが見つかった。 
 何が起こったというのか?  
 大型トラックのタイヤ空気圧を知るには「自転車から航空機まで、タイヤによって空気圧はどれくらい違うのか?」が参考になる。 その中の表を、下に引用する。
《参考資料》KUKI-PEDIA タイヤ空気圧 なんでも百科
 図28-1 自転車、航空機、400トンダンプ、それぞれの空気圧は? 
旭産業株式会社 ウェブサイト
タイヤ空気圧 なんでも百科
 
 大型トラックのタイヤの空気圧は、気圧単位で示すと7〜9気圧であるという。 1気圧は約1キログラム重/平方センチメートルである。 ということは、タイヤの破裂直後には、1平方センチメートルあたり7〜9キログラムの物体がのし掛かってくる力を受けることになる。 破裂した場所の前面にヒトがいるすると、それも破裂したタイヤにかなり近い所にいる場合には、少なくても10センチメートル四方の面積にその破裂空気の力を受け、その力は700〜900キログラムの物体の重量に相当する。 1トン近い物体の重さと同じ力で押されるのであるから、ヒトは一瞬のうちに吹き飛ばされてしまう。 
 吹き飛ばされるだけではない。 30キログラム重の力を掛けて親指の先で腹を押してみれば、または、両手の親指だけで全体重を支えてみれば、その破裂風の強さが如何ほどかを想像できる。 内蔵にも相当なダメージを被ってしまうことは自明であろう。 
 このタイヤの破裂口から圧縮された空気が噴き出たときのエネルギーを推定して、それによって受ける影響を示そう。 タイヤ内部の体積は100リットル程度であろう。 破損前のタイヤの空気圧が、9気圧であるとする。 タイヤが破損したときに、たまたま、ヒト(体重60キログラム)が破損部分の前面に立っていて、その噴出風を直接受けたとする。 破損したタイヤから空気が噴き出して、そのタイヤの空気圧が7気圧に減少するまで噴出風を直接受け続けたとすると、噴出風がそのヒトに与えたエネルギーは20キロジュールになる。 そのエネルギーによって、ヒトは、噴出方向に吹き飛ばされることになる。 その吹き飛ばされる速度は、秒速26メートルである。 これからも、いかに激しい衝撃を受けるかが想像される。 
 この事故を防止する唯一つの方策は、タイヤはバーストするものであると常に意識して、それが噴出すると考えられる方向には近づかないことである。 おそらく、数メートル以上の距離を取っておれば、破裂風は空気抵抗で弱まるとともに四方に拡散していくので、その威力は激減してしまうはずである。 タイヤに空気を入れる際には、注意してほしい。

[補足] 
 軽トラックのときには、破裂口から一挙に吹き出す圧縮空気の量は、大型トラックに比べて空気圧やタイヤ径及びチューブ内径が小さいので、大気圧に換算して約30リットルと大型トラック場合の1割程度である。 それにより、威力ある噴出風の及ぶ距離はかなり短いので、噴出風を全面的に受け続ける可能性は、低い。 更に、大型トラックの場合のタイヤ内にある圧縮空気のエネルギーは80キロジュール程度であるのに対して、軽トラックではタイヤが小さくて空気圧が低いことからそのエネルギーは2.5キロジュール程度である。 したがって、軽トラックのタイヤの破裂によって、破裂部分に最接近していたヒトがタイヤ内の圧縮空気の全エネルギーの2割を受け取ったとして(この仮定は過大評価であるが)、その場合には秒速4メートルで飛ばされることになる。 顔を近づけているなどの場合を除いて、事故には至らないであろう。
 
交換中にタイヤ破裂、風圧で2m飛ばされ死亡

 22日午後6時40分頃、北海道平取町振内町の自動車整備会社「振内自工」の工場で、同社社長の滝治さん(60)が、破裂したトラックのタイヤの風圧で約2メートル飛ばされ、アスファルトの地面にたたきつけられた。 滝さんは病院に搬送されたが、約2時間後に死亡が確認された。 道警門別署の発表によると、滝さんは同町に住むトラック運転手の依頼を受け、10トントラックのタイヤの交換作業をしていた。 左後輪の内側のタイヤ1本が破裂したといい、同署で原因を調べている。

2018年(平成30年)10月23日(火)17時38分
読売新聞 赤字は右記引用部分
 10トントラックのタイヤの交換作業をしていて、左後輪の内側のタイヤ1本が破裂したという。 それにより、タイヤの風圧で約2メートル飛ばされてしまった。 
 この事故では、「内側のタイヤ」が破損したのであって、破損箇所からの噴出風を直接受ける位置関係ではなかったように思われる。 そうであっても、その噴出風によって約2メートル飛ばされてしまったという。 圧縮された空気の威力は、侮れない。
 

(29)原子炉ロボットのアナログな頭脳
 
原発格納容器内にロボット きょうから初調査

(前略) 
強烈な放射線も課題です。 内視鏡カメラで撮影した2号機の格納容器の内部の映像では、放射線によるノイズが白い斑点となって画面全体を覆っています。 核燃料に近づくと、たとえロボットであっても、猛烈な放射線によって誤作動を起こしたり映像が乱れたりするおそれがあるのです。 
今回のロボットも、誤作動を避けるためコンピューターの回路をできるかぎり使わないなどの工夫がされていますが、それでも2日間の調査が限界だということです。(後略)

2015年(平成27年)4月10日(金)05時36分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 
<福島第1原発>
格納容器にロボット投入…1号機

 東京電力は10日午前、福島第1原発1号機の原子炉格納容器下部に溶け落ちたとみられる核燃料の状況や場所を確認するため、格納容器内にカメラを備えたロボットを投入し、調査を始めた。 炉心溶融した1〜3号機で、格納容器本体の内部にロボットが入るのは初めて。 
 この日、ロボットは格納容器1階の金網状の床を約20メートル移動し、障害物の有無や放射線量などを調べる。 内部の写真などの公開は13日以降。 今年度末までには、溶融燃料があるとみられる地下階の調査に着手する方針。 ロボットはベルト自走式で走行時は全長22センチ、幅29センチ、高さ9.5センチ。直径10センチの貫通部から格納容器内に入る際は幅7センチと細長く変形できる。【 斎藤有香 】

2015年(平成27年)4月10日(金)11時42分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
<福島第1原発>
調査ロボの電源ケーブル切断…回収断念

 福島第1原発1号機の原子炉格納容器内を調査中に走行不能になったロボットについて、東京電力は回収を断念し、13日午前、電源ケーブルを切断した。 ロボットからは停止後もケーブルを通じて画像や放射線量、温度のデータは送られており、予定していた18カ所のうち14カ所のデータは得られたという。 
 ロボットは遠隔操作によって10日、直径約10センチの貫通部を通じて格納容器内に入り、約5メートル下の1階部分にある金網状の床に着地。 その後、約20メートル移動して障害物の有無などを調査する予定だった。 しかし、予定の約3分の2を進んだところで停止し、操作できなくなっていた。 
 13日に別のロボットを投入して調査を続ける予定だったが、ロボットが停止した原因が分かるまで延期する。【 斎藤有香 】

2015年(平成27年)4月13日(月)10時34分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 原子炉格納容器下部に溶け落ちたとみられる核燃料の状況や場所を確認するため、格納容器内にカメラを備えたロボットを使うということである。 格納容器内の放射能は非常に高いから、ロボットに内蔵されている機器は強い放射線に曝されることになる。 使用したロボットはベルト自走式で走行時は全長22センチ、幅29センチ、高さ9.5センチ。直径10センチの貫通部から格納容器内に入る際は幅7センチと細長く変形できる構造になっているという。 この「走行の制御」や「変形の機構」は、どのようになされているか? 
 一般的なロボットであれば、CPU(中央制御装置)を備えたデジタル回路に依って、ロボットの動きが制御されている。 センサーと組み合わせると、たとえばバランスを取るような微細で迅速な動きが必須であるような動作が制御できる他に、その動きの微妙な修正がプログラムの変更だけで実現できるからである。 もしアナログ的に同じことを実行するならば、動きのタイミングを少しだけ変更するためにも、回路に組み込まれている電気抵抗の大きさやコンデンサーの容量を変えなければならない。 電気抵抗の大きさは容易に変更できても、その抵抗器の型は小さくない。 コンデンサーの容量を変更するためにはそのものを取り替えなくてはならないが、小さなタイプのコンデンサーでは取り外すことが困難になってしまう。 アナログな制御回路を(大量生産ではなくて、一品生産的に)開発する場合は、回路基板の大型化が避けられない。 もちろん、多数の試作基板を使い捨てできるほどの潤沢な予算があり、多くの技術者が使えて、時間的な余裕があれば、極小な回路基板を実現できるが・・・。 
 使用したロボットの大きさと形状、開発時間から想像すると、デジタル制御に依っているものと思われる。 今回のロボットも、誤作動を避けるためコンピューターの回路をできるかぎり使わないなどの工夫がされているということであるが、そこで使われているコンピューターにも問題がある。 今のCPU(コンピューター)は微細技術によって作られている。 数十年前のCPUであれば影響されない程度の放射線でも、数十ナノメートルで形成された回路では重大な故障を引き起こしてしまう。 昔のものがよいと言っても、数十年前のCPUを使った製品を開発するためのツールは今ではあらかた廃棄されてしまっている上に、それをできる技術者もほとんどいない。 そのため、放射線に脆いものを使わざるを得ない状況になっている。 そうであれば、強い放射線によって生じる集積回路の損傷や誤動作が、不可逆的なダメージをロボットに与えることもあろう。 
 もしアナログ的に制御されているのであれば、その外部からの制御は「電圧」か「電流」などによるものである。 「電圧」や「電流」による制御であれば、放射線によって一時的に変動したとしても、その直後には元に戻ってしまう。 一瞬の誤った信号によるロボットの動作は微少なものであって、全体の動きにはほとんど影響しない。 高放射能下で、安定的に制御できる。 
 ただし、欠点も多い。 先に述べた開発予算の多さと制御機器の大きさである。 それ以外に、制御のためのコントロールラインが制御する機能の分だけ必要である。 前後進とその速度制御に一対、左右の方向転換に一対、1つの関節の上下動で1対・・・である。 これらアナログ信号による制御をコントロールラインに重畳してしまえば、その程度に応じてラインの数を減らせるとしても、デジタル制御(電源ラインに信号を重畳すれば「1対で済む」。家庭用風呂給湯器での湯温や湯量の風呂場からの制御が一例)ほどにはならない。 もう一つの欠点は、「一挙手一投足」に制御しなければならないことである。 デジタルであれば、目的を指示すると、それに至る道筋はロボット内の人工知能によって実行できる。 アナログでは一瞬の隙もなしに指示しなければならない。 オペレーターに、相当な負担がかかってしまう。 
 しかし、原子炉内作業には、このアナログ制御しか、方法がない。 
 では、ロボットの停止後もケーブルを通じて画像や放射線量、温度のデータは送られてくるのは、何故か。 それは、これらの信号が「パッシブな繰り返しデジタル」通信であるから。 取得した画像デジタル信号の一部に「エラー」があっても、画像が得られないことにはならない。 画像の一部に「キズ」が見られるだけである。 温度データでは、多数個の取得データから正常なデータを拾い上げればよい。 
 デジタル時代にあっては、アナログによる制御ロボットを製作できる企業は、中小企業を探せば・・・。

[補足] 
 なお、ロボットが調査中に走行不能になった原因としては、走行経路の横たわっているワイヤーなどが絡んでしまったことが考えられる。 走行方式は、ロボットはベルト自走式であるということから、クローラー(キャタピラー)によるものであろう。 この方式は、車輪とは違って、電源ケーブルや周囲に散乱している電線などのワイヤーが、ベルトの溝に嵌まり込んでしまう可能性が高い。 その状態で走行を続ければ、それが車軸などに絡みついてしまい、前進も後退もできないことになろう。 しかし、この問題点は、開発段階で解決されているはずである。 ロボットと結ばれている電源ケーブルそのものが、ロボットの走行装置に絡まないように工夫することはこの種のロボット開発のイロハの「イ」であるはずである。 電源ケーブルを切断したとあって、そのケーブルは、記事には書かれていないところを見ると、無事に回収できたようである。 少なくとも、ロボット自身に繋がっている電源ケーブルが、車軸に絡まったということではないと思われる。 
 段差のある障害物に直面して走行できなくなってしまったとしたら、完全に設計ミスである。 そのような障害物こそ、このクローラー方式での走行の「おはこ」であるから。 そのようなものでストップするはずは、ない。

 
格納容器にロボ再投入=前回停止は隙間が原因―福島第1

 東京電力は15日、福島第1原発1号機の原子炉格納容器にロボットを再び投入し、調査を再開したと発表した。 10日に投入したロボットが停止したのは、金網の隙間に駆動装置がはまったことが原因と判明。 東電は「立ち止まって検討するなど、慎重に作業を進める」としている。 
 東電によると、ロボットは車輪でベルトを動かす「クローラー」で走行するタイプで、15日午前10時に再投入した。 事故で溶け落ちた核燃料の取り出しに向け、最大で3日間、放射線量や落下物の状況などを調べる。 

2015年(平成27年)4月15日(水)12時08分
時事通信(JIJI.COM) 赤字は右記引用部分
 
「原発ロボット」故障の深層 「放射線のせい」報道を追う

(前略) 
 これは「何かに引っかかった」ことが原因だとみられているが、英BBCは「高い放射線量」がトラブルの原因になっている可能性を報じた。 ただ、この説には特段の根拠が示されているわけでもなく、フェイスブックのコメント欄には異論も出ている。(中略) 
 この実験が世界初めての試みだということもあって、この経緯は海外メディアも相次いで報じた。大半は「動けなくなった」と伝える程度だったが、英BBCは独自の見方だ。 東京発の特派員レポートでは、 
  「ミッション開始からわずか3時間後に(ロボットは)動かなくなった。 理由ははっきりしないが、高い放射線量が、おそらくその答えだ」 
と伝えて
おり、その動画はBBCのフェイスブックに 
  「おそらく放射線でこの小さなロボットは壊れた」 
という説明文つきで掲載された。 
 もっとも、東電では、ロボットが動けなくなったのは「グレーチング」の継ぎ目の段差や配管のすきまにロボットがはまり込んだのが原因だとみている。 そもそも、ロボットは毎時100シーベルトで約10時間動けるように設計されている。 実際に格納容器内で測定されたのは毎時10シーベルトなので、ロボットは想定よりも長く動けるはずだ。(後略)

2015年(平成27年)4月15日(水)18時53分
J−CASTニュース Web版 赤字は右記引用部分
 東電は、1つ目のロボットが停止したのは、金網の隙間に駆動装置がはまったことが原因と判明したと発表している。 放射線による影響については、「ロボットは毎時100シーベルトで約10時間動けるように設計されている。 実際に格納容器内で測定されたのは毎時10シーベルトなので、ロボットは想定よりも長く動けるはずだ」という東電の見解が「J−CASTニュース」に掲載されている。 この毎時100シーベルトで約10時間は正常に動作するはずだという見方は、他の報道機関ではまったく触れられていない。 
 英BBCは「ミッション開始からわずか3時間後に(ロボットは)動かなくなった。 理由ははっきりしないが、高い放射線量が、おそらくその答えだ」と伝えて、放射線の影響によってロボットが停止したとしている。 
 その可能性は、東電は否定しているのであるが、高いのではないかと考えている。 
 使用したロボットが毎時100シーベルトで約10時間は完全な動作を保証できるということであるが、その保証の基となっているデータに疑問が残る。 
 低放射線量下高放射線量下とでは、電子回路素子が被るダメージのレベルが異なる。 その違いから、動作保証の確認法に対する疑問を明らかにしたい。 
 低放射線量下では、各素子に当たる放射線の数は「時間あたりの放射線量」×「放射線に曝された時間」である。 時間あたり1ミリシーベルトの放射線量下で100万時間の被爆と、100ミリシーベルトの放射線量下で1万時間とでは、同じ数の放射線が当たることになる。 当たった放射線の数に比例して(ある確率で)、その素子が壊れてしまう。 したがって、時間あたり1ミリシーベルトの放射線量下で100万時間の被爆と100ミリシーベルトの放射線量下で1万時間とでは、壊れる素子の数は同じである。 これは、ボクシングでいえば「ジャブ」によるダメージである。 毎時100シーベルトという非常に高い放射線環境の下で動作試験をおこなうことは実際問題として不可能であるが、上記の確率を適用するならば、10時間での被爆と同じ結果になる。 
 ところで、毎時100シーベルトというような高放射線量下では何が起こるか?  それは、電子回路素子の1つに「同時に」2個の放線線が当たる確率が、増えることである。 その確率は放射線密度の2乗に比例する。 2乗で比例する現象は、低放射線量下では極微であって無視できる確率であっても、高放射線量下になると意味を持ってくる。 1ミリシーベルトと100シーベルトを比べると、放射線量は10万倍であるが、その確率は100億倍になる。 では、1つの素子に「同時に」2個の放線線が当たると、どうなるか?  1個の放射線によっては小さい確率でしか絶縁破壊されない素子であっても、2個の入射によって2倍になった放射線エネルギーによって高い確率で破壊されてしまうことになる。 これをボクシングにたとえると「ストレートパンチ」によるダメージである。 そうであれば、毎時100シーベルトで約10時間ではなくて、毎時100シーベルトでは約10時間よりもかなり短い時間の保証しか得られないことを示す。 毎時10シーベルトであっても3時間ほどで故障してしまったとしても、当然かも知れない。 
 東電の見解は、「ストレートパンチ」によって致命的な打撃を受ける可能性を無視して、「ジャブ」だけを考えてそれによってダウンしてしまう可能性で議論しているような・・・。 
 「放射線によってロボットが故障してしまったことを否定することはできない」ということである。

 
溶けた燃料に迫るロボ
 図29-1 原子炉調査ロボットの開発 
2015年(平成27年)7月2日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面
 原子炉中を調査するロボットが公開された。 先に1号機に投入されたロボットとは違ったタイプのものである。 
 ロボットの制御方式は報道されていない。 原子炉内は高放射線量下の環境であるので、デジタルでの制御(パソコンによる動作の制御)であれば、放射線で誤動作する可能性がある。 誤動作によって致命的なことが起こらないように、動作に制限を備けておかなければならない。 誤動作から回復する機能も必要である。
 このような過酷な環境下では、アナログによる制御が適している。 放射線が電子回路の素子へ入射することによって、一瞬のノイズが生じる。 このノイズにより誤動作を引き起こす可能性があるが、アナログ信号では僅かな状態量の上乗せとして加算されるにすぎない。 たとえば、制御されている進行速度を一寸だけ早くしてしまったり、照明の輝度を規定量から少し暗くしてしまうような。 そのようなノイズによる偏倚も、速度や光度のセンサーなどによるフィードバックによって修正されることになる。 デジタル制御では、このノイズによって正しくないコンピューター命令の実行をおこなってしまう。 それにより、想定していない処理を引き起こしてしまうのであるが・・・。 
 ロボットとの通信でも、PCMなどによるデジタル通信ではなくて、AMなどのアナログによるものが適している。 昔々、ラジオ電波を拾って時刻を修正する時計が実用化されていた。 正時を知らせるNHKの「プッ、プッ、プッ、ポーン」の440Hzと880Hzの音を利用していたが、ラジオ変調の方式上から多少のノイズが混入しているはずである。 そのノイズのある信号を基にして、所定の処理を実行していた。 このようなノイズに強い方式(*1) は、原子炉内の過酷な環境に対応できる可能性を持っている。 
 数十年前、複雑な微分方程式が、事務机ほどの大きさのアナログ計算機を使って、数値解として演算されていた。 今では、格段に進歩した微少な電子素子を活用すれば、当時とは比べものにならないほどの膨大で複雑なアナログによる演算が、ライター程度の大きさのアナログ計算機として実行できることは間違いない。 それによって、「転倒しても自力で復帰する機能」などを、アナログ信号処理で実現することは可能であろう。 しかし、昨今のデジタル処理技術の飛躍的な進歩によって、アナログ技術に関するノウハウが絶たれてしまっていてその開発に手こずるかも知れない。 そうであるとしても、このような高放射線量の環境の下で使い物になるロボットは、「アナログ制御ロボット」であると確信している。
 

(*1) 四半世紀以上も昔、当時のマイコンのデータを外部に保存する機器として、カセットテープレコーダーが使われていた。 2進数データをシリアルの音声データに変換して、テープレコーダーに録音する。 マイコンへの取り込みは、テープレコーダーを再生して音声データから2進数に戻せば良い。 
 これを応用して、音声データの状態で、それをAM変調して電波に乗せることにする。 電波環境が劣ってくれば、各ビットデータの送信時間を長くすることで、誤送受信を解消する。 現在のデジタル通信でおこなわれている通信とは比べものにならないほど遅いものであるが、その昔は充分に使い物になっていた。 劣悪な電波伝達環境、雑多なノイズの発生、誤りが許されないコマンドの受渡しなどを考慮すると、最も良い方式であると考えている。 
 このとき、画像などは、当然、ノイズが紛れ込んでも良い方式として(データの圧縮技術を使用しないで)送受信をおこなえば、別の早い速度のデジタル通信を選択してもよい。

 
福島第一の格納容器内部
ロボット調査延期 東電
 図29-2 ロボット調査延期 
2016年(平成28年)1月29日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版27面(社会)【 熊井洋美 】
 原子炉格納容器の調査に使うロボットの開発が、難航しているようだ。 
 前項の記事では、今から5ヶ月前にも調査に入れることが報道されていたが、今また、当初の報道時期から1年近く先延ばしになるということである。 ロボット調査の延期理由は、調査範囲の汚染水の想定外の濁りに対処するためという。 
 前項報道のロボットは、強力なライトとカメラを備えて、多少の視界不良にも対処できる仕様であったはずである。 そのロボットを改良するとしても、この延期の時間は長すぎる。 改良に要するこの長い時間に、どのような改善を施すつもりであろうか。 
 推測するに、「汚染水の想定外の濁りへの対処」は、延期理由のほんの一部分であるかも。 汚染水の濁りも、瓦礫の堆積も、高放射線量も、複雑で狭隘な探査経路も、当初から分かっていたはずである。 実は、「それらをすべて対処できるロボットを短期間で製作することは困難である」ことを認識していて、それらのすべてではなくてそのいくつかを満たすロボットを製作・公開して、当座を凌いでいるように思えてしまう。 それは、スネーク型ロボットによって「複雑で狭隘な探査経路」をクリアーできるとしても、「高放射線量」対策による有線誘導方式では「瓦礫の堆積」によって誘導ラインの絡まりが生じてしまう可能性が高い。 有線を捨てて、自立型ロボットを設計すると、「高放射線量」に対処するために鉛板などによる放射線防護によりズングリしたものになってしまい、「複雑で狭隘な探査経路」を通過できないものになってしまう。 すべての要素を満たすロボットは、一朝一夕には開発できるはずが、ない。 
 前項報道のロボットは、国際廃炉研究開発機構が手がけているものである。 その機構は、原研、産総研、プラントメーカー、国内の電力会社などで構成されている。 このような錚々たるメンバーで構成されている組織の下では、製作したロボットが策定された仕様に沿った動作をするかどうかが最大の要件になってしまう。 設計段階において、動作が保証されないような斬新で画期的なロボットを提案することは、困難であろう。 結局、既存の技術を使ったロボットとしてそこそこの動作はするが、現場での様々な事象に対応できる柔軟性に富んだものにはならないだろう。 
 ここは、「下町ロケット」ではないが、長年にわたってロボット開発への情熱とロボットへの愛情を持っている小回りの利く企業とか研究者とかに、その設計と製作の役割を委ねるべきではないか。
 
溶け落ちた核燃料 直接調査のロボット技術公募へ

東京電力福島第一原子力発電所で、廃炉の最大の難関とされる、事故で溶け落ちた核燃料の取り出しに向けた調査が遅れている中、日本原子力学会などは、核燃料を直接調査するロボットの技術を公募することになりました。 
福島第一原発の廃炉に向けて、国や東京電力は、溶け落ちた核燃料の取り出しを5年後の平成33年までに始めるとしていて、これまでもロボットを使って原子炉周辺の調査を行ってきました。 しかし、原発内部の汚染や汚染水などに阻まれて調査は遅れているうえ、今後、核燃料にたどり着くにはさらに数多くの課題を乗り越えなくてはなりません。 
こうした中、日本原子力学会は日本ロボット学会と共同で、核燃料を直接調査するロボット技術のアイデアを公募することになりました。 ロボットに求められる能力は、遠隔操作で入り組んだ狭い配管や水の中など、片道25メートルの行程を進んで核燃料にたどり着き、サンプルを回収して持ち帰るというものです。(後略)

2016年(平成28年)9月4日(日)06時56分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 上記の記事から半年以上も音沙汰なしの状態であったが、日本原子力学会などは、核燃料を直接調査するロボットの技術を公募することになったという。 そのロボットに求められる能力は、遠隔操作で入り組んだ狭い配管や水の中など、片道25メートルの行程を進んで核燃料にたどり着き、サンプルを回収して持ち帰るというものである。 
 ロボットの仕組みについては、月や火星などでの実績があって、その延長線上で開発することは可能である。 細かな仕様に差ができるとしても、走行機構やマニピュレーターに関しては、日本原子力学会や日本ロボット学会が求めている最低の必要条件を満たすことは、そんなに難しいことではないだろう。 
 このロボットの最も困難な点は、遠隔操作の方法高い放射線量に対する対策である。 
 遠隔操作の方法として有線方式を使うと、複雑な進行経路と、崩れ落ちた配管や機器による障害物で、ケーブルが引っかかってしまう懸念がある。 好ましい選択とは思われない。 
 無線通信によるコントロールではどうか?  金属で囲まれた細い隙間を通過していく間に、電波が弱まってしまう。 微弱な電波では、「信号/ノイズ」の比が下がってしまう。 ノイズが混入しても、誤動作しないような仕組みが不可欠である。 
 高い放射線量に対する対策は、もっと大変である。 コンピューターによる制御は、放射線によるCPUの誤動作が懸念される。 誤動作で、過剰電流による駆動機構の焼損や、不適当な動作によるマニピュレーターの損壊など、ロボットの破損につながる。 ロボット制御の方法についても、誤動作しないような仕組みが重要である。
 
原子炉へ新型ロボ 足場を走って
「目」を垂らす
 
 図29-3 原子炉へ新型ロボ 足場を走って 
 

 東京電力福島第一原発1号機の原子炉格納容器内を調査する新型ロボットが3日、茨城県日立市で報道陣に公開された。 日立GEニュークリア・エナジーと国際廃炉研究開発機構が開発した。 東電は今年度中にロボットを投入する予定で、圧力容器から溶け落ちた核燃料(デブリ)の広がり具合などを調べる。 
 1号機の核燃料はログイン前の続き、大部分が格納容器の底に落ち、冷却用の水につかっているとみられている。 容器内の水位は約2メートルある。 
 新型ロボットは容器の底から約3.5メートルの高さにある格子状の作業用足場の上を走行する。 5カ所の計測ポイントに到達すると、カメラや線量計、照明が一体となった計測ユニットを格子の隙間から垂らして、核燃料の位置などを調査する。 水中でも計測可能だ 
 東電は2015年4月、1号機に別のロボット2台を投入したが、溶け落ちた核燃料は確認できなかった。 2台は脱輪したり、カメラが放射線の影響で使えなくなったりしたため、東電は回収を断念した。【 富田洸平 】

2017年(平成29年)2月4日(土)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面(総合5) 赤字は右記引用部分
 
格納容器内部 ロボットの事前調査 映像暗くなり中止

東京電力福島第一原子力発電所2号機で、ロボットを使った格納容器内部の本格的な調査ができるかどうか判断するため、9日朝、別のロボットによる事前調査が行われましたが途中で映像が暗くなり、9日の作業は中止されました。 東京電力は原因を調べるとともに、今後の対応を検討することにしています。 
福島第一原発2号機では今後、「サソリ型」と呼ばれるロボットで格納容器内部の放射線量や温度を測る本格的な調査が行われる計画で、9日はその事前調査として、障害物を取り除くロボットを入れ、先週見つかった堆積物などの状況を改めて撮影する予定でした。 
東京電力によりますと、9日朝、このロボットの投入を始め、堆積物が見つかった格納容器の中心部に向け金属製のレールの上を遠隔操作で進めていましたが、3つのうちの1つのカメラから送られてくる映像が何らかの原因で次第に暗くなり、何が写っているのかわからなくなったということです。 
原因はわかっていませんが、強い放射線の影響を受けていた場合、破損するおそれがあることから、東京電力は9日の作業を中止してロボットを回収し原因を調べたうえで、今後、どのように調査を進めるか対応を検討することにしています。(後略)

2017年(平成29年)2月9日(木)16時27分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 「新型ロボットは容器の底から約3.5メートルの高さにある格子状の作業用足場の上を走行する。 5カ所の計測ポイントに到達すると、カメラや線量計、照明が一体となった計測ユニットを格子の隙間から垂らして、核燃料の位置などを調査する。 水中でも計測可能だ」という。 
 半年前に直接調査のロボット技術公募へということでロボット技術を公募したはずであるが、このロボットは日立GEニュークリア・エナジーと国際廃炉研究開発機構が開発したということである。 100シーベルト前後の高放射線量下でのロボット制御であるので、放射線の影響を受けないように構成することは、放射線とは無関係な研究機関においては困難であったのか。 日立GEニュークリア・エナジー国際廃炉研究開発機構でも、このような環境での動作の確認は、できていないのではないか。 
 記事に添えられている写真においても判明しないが、制御を無線でおこなっているか有線であるかを明記されていない。 
 この件は、「日テレNEWS24」の「福島第一原発1号機 内部調査ロボット公開(2017年2月3日 22:30)」が参考になる。 そこでの映像の1場面を下に示す。
《参考資料》(福島第一原発1号機 内部調査ロボット公開)
 図29-4 内部調査ロボット公開 
2017年2月3日(金)22時30分
日テレ NEWS 24
 
 有線による制御である。 以前の調査で生起した制御ケーブルとの絡まりが危惧されるが、このケーブルは相当な太さがあるので、ロボットの駆動部とのトラブルが防止できよう。 放射線の防護も可能である。 その代償として、狭い場所を鋭角に曲がるような行動は難しいようだ。 鋭角に曲がることを想定していないことは、このロボットに不具合が起こったときに、ケーブルを引っ張ってロボットを回収するためかも知れない。 
 放射線以外に、高い温度が障壁になる。 デブリは高い温度を保っているはずである。 格納容器の底から約3.5メートルの高さにある格子状の作業用足場付近では冷却水で冷やされて100度以下になっているとしても、それよりも下部の溶け落ちた核燃料(デブリ)を見下ろす位置になれば、それの放射熱によって非常に高い温度になっている。 焚き火のすぐ傍にいるような状態である。 カメラや線量計、照明が一体となった計測ユニットは数百度に耐えられないので、冷却装置(*1) がなければ、ただちに故障してしまうことになる。 
 もし、少しでも故障しないものを作りあげるとするならば、「吊り下げ部分」は高温に耐える部品だけで構成されている必要がある。 カメラや線量計などは、「格子状の作業用足場上の本体」に備え付けることにする。 溶け落ちた核燃料(デブリ)の観察には、「内視鏡挿入部」を格子の隙間から垂らす方がよい。 
 NHKによると、9日朝、このロボットの投入を始め、堆積物が見つかった格納容器の中心部に向け金属製のレールの上を遠隔操作で進めていましたが、3つのうちの1つのカメラから送られてくる映像が何らかの原因で次第に暗くなり、何が写っているのかわからなくなったということである。 原因はわかっていませんが、強い放射線の影響を受けていた場合、破損するおそれがあるとのことである。 
 それより後で公開されたNHKのニュースで、それの前半部分(上)と後半のロボット回収時(下)の画像を、下に示す。
格納容器内部の本格調査 どう進めるか検討へ
 図29-5 原子炉格納容器内部の様子 
2017年2月10日(金)06時01分
NHKニュース Web版
 
 上に示した画像の左側は圧力容器の観察初期での、右側は(3つのうちの1つのカメラから送られてくる映像が何らかの原因で次第に暗くなったので)ロボットを圧力容器から引き出す途中でのカメラ画像である。 強い放射線の影響は、 
(a)一時的に特定の撮像素子部分に影響を与えて、一瞬間、その画素に白い(または、黒い)スポットを映し出す。 
(b)不可逆的に特定の撮像素子部分を破壊してしまって、それ以降、その画素に白い(または、黒い)スポットを映し続ける。 
ことが考えられる。 
 前者の(a)を利用すると、カメラ位置での放射線量の推定に使える。 後者の(b)であれば、放射線の作用によって変調をきたした画素が次第に増えていく。 『図42-5 原子炉格納容器内部の様子』の初期と回収時の2枚の映像を比較すると、(b)による破損した素子の存在を見出すことはできない。 3つのうちの1つのカメラから送られてくる映像が何らかの原因で次第に暗くなってしまったという表現からは、それぞれの画素が放射線によって突然に不具合になる現象を指し示しているようにはみえない。 強い放射線による不具合であるとの推定には、同意できない。 
 カメラが捉えた映像が次第に暗くなってしまったという原因としては、デブリからの輻射熱によるカメラ部分への加熱が考えられる。 撮像半導体素子の温度が高くなっていくに従って、照射光により受光素子に生じた電荷の拡散が激しくなって、結果として得られる電気信号が弱くなってしまう(画像が暗くなってしまう)(*2) ということである。 3つのカメラのうちの1つがそのようになったことも、そのカメラがデブリからの輻射熱を受けよい場所に設置されていたということであろう。 『図42-5 原子炉格納容器内部の様子』の「作業中止 ロボットは回収」の画像の元となる動画映像をみると、その左側の画像を比べて、若干暗くなっていることがわかる。 このカメラも、同様な影響を受け始めていると見做せそうである。 
 これが原因であれば、このカメラの状態を回収後に検査すると、撮像素子の温度が下がっているので、ほぼ正常に働くはずである。
 

(*1) この空間の気温は高いので、一般的な「送風による」冷却では、効果がない。 ソリッドステートの「ペルチェ素子」による冷却装置が候補になるが、これは熱効率が良くない上に、放熱側の温度が高いと素子が損傷してしまう。 ヒートポンプなどの熱交換器も、このような100度を越える環境への放熱を考えると、また、コンパクトな形にまとめられなければならないものの冷却器にするには、不適当である。

(*2) 撮像素子の感度を良くするためには、ノイズを小さくするためをも含めて、冷却する必要がある。 液体窒素で冷やすことさえおこなわれている。 
 逆に、このロボットのカメラでは、その素子の温度が高くなってしまったのではないかと考えている。 光があたることで半導体の「ポテンシャルの井戸」に溜められた電荷が、素子の温度が高くなることで、トンネル効果によって漏れ出て、電荷の量が少なくなってしまう。 その結果、得られる映像信号が小さくなる。

 
ロボ、核燃料確認できず
福島第一原発1号機
 図29-6 福島第一原発1号機の内部調査の結果 
2017年(平成29年)3月24日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面(総合3)【 富田洸平、東山正宜 】
記事中での「図」を引用
 「東京電力は23日、福島第一1号機の原子炉格納容器で22日まで5日間続けたロボット調査を終えたと発表した。 溶け落ちた核燃料を確認するのが最大の目標だったが、配管などに阻まれ、核燃料が見える場所までカメラを入れることができなかった。 廃炉に向け、最難関の核燃料取り出しに必要な情報は不十分なままで、ロボット偏重の調査手法を疑問視する声も上がり始めた。」という。 
 また、「調査ロボットの開発は国際廃炉研究機構が14年から進め、17年までに1〜3号機全体で計約70億円が投じられる。 多機能な一方で開発に時間がかかるほか、溝や堆積物に足を取られるなどして動けなくなる例が相次いだ。 2月に2号機に投入されたロボットは、2メートルほど進んだだけで走行不能になった。 
 こうした状況に、原子力規制委員会からは「ロボットに注力し過ぎなのではないか」と疑義も出始めた。 「もっと短時間で、合理的に調べられる方法を考えるべきだ」(規制委幹部)として、今後は調査手法の選定などに積極的に関わる検討を始めた。
」ということである。 
 「ロボットは使い方次第でヒトに取って代えられる能力を発揮する」が、期待されている機能とそれの環境がある限られた場合に可能である。 今回のような高放射線量の空間の中で、狭くて、瓦礫などの積み重なった環境では、それは期待できなかったはずである。 
 通常の狭くて、瓦礫などの積み重なった環境であれば、(ケーブルなどを使用しない)自立型のロボットが適している。 ケーブルなどの絡まりによる支障を防ぎ、隙間にできた進路をスムーズにすり抜けていくために・・・。 しかし、高放射線量の空間での使用は、放射線による誤動作が考えられるので、(コンピューターによる)デジタル制御方式の自立型のロボットは不適当である。 
 自立型のロボットであって、しかも高放射線量の空間で使用できるものは、何か?  
 1つの答は、アナログ制御ロボットである。 最新のエレクトロニクス技術を駆使したこれの開発は、今回の調査ばかりではなく、将来の宇宙開発における宇宙線のバーストにも対応できる。 調査ロボットの開発に約70億円が投じられるも、曖昧な結果に終わったり、「研究開発」として「凍土遮水壁」の建設に345億円の税金を使って、それで、限定的な成果しか得られていないのであれば、それらの資金を、これに回せば良かったと思ってしまう。

 
水中ロボで核燃料撮影
福島第一3号機 来月投入
 図29-7 水中ロボで核燃料撮影 
2017年(平成29年)6月16日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面(総合5)【 富田洸平 】
 「東京電力福島第一原発3号機の原子炉格納容器内を調査する水中ロボットが15日、神奈川県横須賀市で報道陣に公開された=写真。 東芝と国際廃炉研究開発機構が開発。 7月に投入される予定で、溶け落ちた核燃料の撮影を狙う」という。 
 記事中の記述や写真からは、この水中ロボットが「自立型」か「無線操縦」、「ワイヤーコントロール」の何れかであるかは、不明である。 
 そこで、日本経済新聞のウェブニュースを示す。
《参考資料》
 
水中調査ロボ福島第1原発内部へ 東芝などが開発
 東芝と技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)は、冷却水がたまった福島第1原子力発電所3号機の原子炉格納容器内部を調査する小型ロボットを開発した。 燃料デブリを取り出すための計画づくりに役立てる。
 図29-8 水中ロボット公開 
2017年(平成29年)6月15日(木)19時00分
日本経済新聞[映像]
映像のスクリーンショット
 
 それによると、有線による制御であることがわかる。 有線による制御のメリットとしては、 
 ・放射線による悪影響の低減 
 ・誤動作の可能性の低下 
 ・緊急時への対応の可能性 
 ・動作の強制的なリセット 
 ・制御用ケーブルを利用したロボットの回収 
 ・外部からの電源の供給 
などであり、デメリットとしては、 
 ・制御用ケーブルによる動作範囲の制限 
 ・ケーブルの絡みによるロボットの停止 
などケーブル関連の弱点がある。 
 短時間に開発するためには、既存の技術の効果的な使用を考えると、その選択としてはやむを得ないことであろう。 
 試験環境ではロボットがスイスイと泳いでいくようであるが、実環境においては崩れ落ちた燃料棒や制御棒とその支持枠などの隙間を通り抜ける際に生じるケーブル関連の障害によって、失敗しないと良いのだが・・・。
 

(30)分かり易いことを優先した表示は
 
高速道路 逆走防止へ色分け
進路誘導 10カ所導入
 図30-1 高速道路 逆走防止へ色分け 
 図30-2 色分けした進路指示 
2015年(平成27年)5月12日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面 赤色の(A)(B)(C)(D)は筆者による描き込みで右記引用部分
 案内図は、描いてあれば良いといったものではない。 それの利用者が、誤解しないだけではなく、一目で分かることが必要である。 更に、たとえ図を読み間違っても、影響が少なくなるようになっていることも要求されている。 
 その点でいえば、記事の図には、今ひとつの工夫が欠けている。 図中で、(C)から(D)への導線は同一色でそのまま行けば良いことは一目瞭然である。 しかし、(A)から(B)へは、途中で「青色の帯」で途切れている。 進行方向を間違って危険なのは、(A)から(C)へか、それとも(C)から(B)へか?  後者は、もう一度高速道路へ進入してしまうことになるが、走行方向に間違いはない。 危険性は少ない。 対して、前者は、高速道路を逆走してしまうことになってしまう。 これは、危険極まりないことである。 
 では、図はこの前者、後者のどちらを優先して防止できるように描かれているか?  それは、より危険性の少ない後者の進路である。 重大な事故を抑制するという観点からは、この塗り方は不適当である。 
 (A)側に「止まれ」の指示があるのも、間違いを生む原因となる。 一時停止することで、(A)から(C)へ進むことが可能になってしまう。 「止まれ」の指示がなければ、かなりのスピードで走行していて(C)側へ曲がることは困難になるので、自然に(B)へ進んでいくことになる。 「止まれ」の指示は、高速での走行をリセットする意味を含めて、(C)側に置く。 
 一方、一般道から高速道路と接続する部分にも、誤進入の可能性がある。 この部分は、短時間に種々の情報を見分けなければならない場所であるので、色分けだけでは不充分である。 上方の掲示板に注意が向いていると、道路面の表示を見逃してしまうこともあろう。 ここは、中央分離帯に、通行には邪魔にならない程度の突起を設けることが適している。 設置範囲は、高速から出てきた右折車の邪魔にならないように、手前の部分に限定する。 大型車が左折する際には分離帯にかかる可能性があるので、そうであっても通り抜けられる低いものとすべきである。 
 図として適切なものは、(1)オレンジ色の進路を連続塗装にして、(2)「止まれ」の表示を(A)側の位置から(C)に変更し、(3)一般道の中央分離帯手前側に小突起式バリカーを設置した、下図であろう。 
 図30-3 より適切な進路表示 
 この記事の図が「例示」であれば、問題はない。 もし、実際の彩色を図示したのであれば、この件の担当者の見識に疑問符が付く。

 
高速道路 分岐ご注意
新たな接続 間違い相次ぐ
 図30-4 四日市JCT手前の伊勢湾岸道 
 図30-5 四日市JCT 
2017年(平成29年)5月1日(月)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版1面【 記事: 吉野慶祐 】
(写真・図は記事から部分的に引用)
 左記事の写真は、「伊勢湾岸道」を「四日市ジャンクション(JCT)」に向かって西北西進しているところである。 そのJCTを、そのまま、緩やかなカーブを描きながら道なりに進む道路が、「新名神高速道」である。 ただし、この新名神高速道は、この先数キロメートルまでしか開通していない。 その終端部分で、「東海環状道」に接続している。 その東海環状道は、ほんの少しの距離だけ完成している。 そのため、道路工事完成後に新名神高速道となる通行区分に対応する「上部の緑色の道路標識」には、新名神高速道の案内は、当然ながら表示されていない。 
 したがって、左下の『図43-5 四日市JCT』の左上方向に向かう道路が「新名神高速」となっているが、現時点では、これを通って大津、京都に行ける訳ではない。 短い距離だけ完成している「東海環状道」につながっているだけである。 『図43-4 四日市JCT手前の伊勢湾岸道』の上部緑色の道路標識の該当通行区分に、「新名神高速」ではなくて「東海環状」と表示されていることは当然である。 しかし、将来的には、「伊勢湾岸道」から「新名神高速」への進路がメインであるので、それが2車線の道路構造になっている。 この2車線の道路部分が(緩やかにカーブしているとしても、メイン道路であるので)直進しているように感じられる。 
 図30-6 四日市JCTと自動車専用道 
 この2車線の道路は、現状では、「東海環状道」につながっているだけである。 『図43-4 四日市JCT手前の伊勢湾岸道』の赤白ゼブラ模様の構造物が置かれている車線が、2車線のうちのもう一つの車線である。 2車線が、1車線に狭められている。 その一つの車線を塞ぐことで、『図43-5 四日市JCT』中の「新名神高速」と書かれている道路に進む間違いを防いでいることになる。 
 「新名神高速」の開通部分に行くには、『図43-5 四日市JCT』にある「東名阪道」を、左下方に進む必要がある。 その標識として、『図43-4 四日市JCT手前の伊勢湾岸道』の上方左端部分に緑色の道路標識として小さく表示されているだけであって、目立つものではない。 左側の黄色標識に記されているものは、見逃してしまうかも知れない。 
 現実には、赤白ゼブラ模様の構造物黄色道路標識で充分であるとかといえば、否である。 『図43-4 四日市JCT手前の伊勢湾岸道』の上方の緑色の大きな道路標識は、現状を案内していない不完全な行先表示である。 工事の進捗具合に応じて、道路標識を書き換え、取り替える必要があるとしても、現状に即した表示をすべきである。 
 改善点は、 
(1)『図43-4 四日市JCT手前の伊勢湾岸道』の上方緑色の道路標識の「東海環状」への標識の矢印は、「伊勢湾岸道」から工事が完成した後の「新名神高速」への進路となるのであって、それは「直進」であるように示すこと 
(2)「東名阪道」の標識には「新名神高速」表示を書き加えて、新名神高速の開通部分を使って大津、京都に行くためには、一番左側の車線を通行しなければならないことを示すこと 
(3)「東名阪道」への進路は「左へ」外れることになるので、物理的には直進であるとしても、標識の矢印は左方に傾けて表示すること 
である。

 
「花みどり 淡路花博2015 フェア」
イベントガイドマップ
 図30-7 不適切な案内図 
2015年(平成27年)5月
「花みどり 淡路花博2015 フェア」イベントガイドマップ
中抜きの赤丸と四角形は筆者による描き込みで右記引用部分
 実際に使われているパンフレットで、不適切な例を示す。 「花みどり 淡路花博2015 フェア」のイベントガイドマップの主要部分である。 
 図30-8 案内図 
 図の左下に示されている「東浦口ゲート」から入場すると、広い道が前方に続いている。 その道を進んでいって、左折して「奇跡の星の植物園」へ行こうと思っている。 ところが、なかなか「総合案内所」に行き当たらない。 
 後で「ガイドマップ」を見直してみると、歩いていた道は「国営明石海峡公園エリア」の中の「花の丘道」であって、誤解していた図中の道は「青黄橙色」で示されている「エリア」外の通路である。 「青黄橙色」で示された通路は、「東浦口ゲート」横から延びているので、その「エリア」に入場せずに行けるものである。 その通路は「花の丘道」と並行しているので、間違いに気付き難い。 「国営明石海峡公園エリア」からみれば、「奇跡の星の植物園」は「エリア」外であるためか、エリア内での案内がほとんどない。 「ガイドマップ」だけが、頼りである。 
 もう一度訪れたら迷うことはなくなるが、リピーターだけが来訪者ではない。 「イベントガイドマップ」に、改善の余地がある。

 
いちからわかる!
アスベスト(石綿)って何が危険なの?
 図30-9 数値情報よりもデザインを優先した(?)グラフ 
2015年(平成27年)7月2日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面(総合2)【 記事: 足立耕作 】
(記事中の図表部分を引用)
 新聞の解説記事である。 
 記事に、図表が載せられている。 横軸は西暦年で、1950年から2060年までが目盛られている。 その1つの図表に、2つの事項(「石綿輸入量」と「民間建築物の解体棟数」)がグラフにされている。 後者には、問題ない。 前者のグラフを見ると、横軸である「年」の数値が読み取り難い。 何故?  「グラフの折れ線」と「横軸の数値」の間に、距離があるから。 
 この図表は、デザインを優先した結果であろう。 「数値情報」が大事か、「デザイン」が大事か?  記事の趣旨から言えば、前者であろう。 この図表を描いたものは、そこそこのデザインは描けても、何が大事なものか分かっていないように思われる。 
 具体的な事例を取り上げた懇切丁寧な解説の文章であるが、こんな図表を載せていてはガッカリしてしまう。

  30
人口減 6年連続
増加は6都県■一極集中進む
 図30-10 基本を忘れた分布図 
2015年(平成27年)7月2日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面【 記事: 二階堂友紀 】
(記事中の図の部分、新聞原図も白黒)
 都道府県別の人口の増減に関する記事である。 
 記事には図が載せられている。 20年前と現在での増減の様子が、「白黒の濃淡」で表されている。 新聞に掲載された図をここで再掲載する際、薄い灰色を比較的濃い目に調整している。 それは、東京都の「白色」と、一番広い地域を占めている「薄い灰色」との差を、明らかにするためである。 
 さて、図に示されている東京都の「白色」とその周辺の県の「黒色」は、対極の色である。 周辺の県の「黒色」は、20年前も現在も、人口が増加していることを示している。 
 図30-11 左図を修正した人口増減図 
 それでは、対極の色である東京都の「白色」は、双方の年で減少していることを現しているかというと、そうではない。 この「濃淡の程度」と「人口の増減」との相互関係が、デタラメである。 
 一番濃い色調である「黒色」で表されている都道府県では「20年前も、今も、増加傾向にある」。 このことから予想されることは、濃い色調は人口が増加する傾向の、薄い色調は減少傾向の都道府県を表している?  では、2番目に濃い色で塗られている都道府県の人口は? 
 どちらかの年では、増加している?  
 『ブー』 残念でした!  正解は、「両年とも、減少している」です。 「両年とも、減少している」のであれば、「黒色」の対極の色である「白色」であることを期待していたのであるが・・・。 
 「人口増加」と「濃淡」の関係が、まったく、デタラメである。 
 適切な図表は、色調でおおまかな傾向が、掴めることである。 左図であれば、濃い色が集中している地域は、人口増加の傾向があるというように。 「首都圏」は最も濃い色で示されているので、人口増加が顕著であると一目で分かる。 その次に濃い色が散見される「中国地方」、「四国地方」の人口は、一時的に増加している・・・かなと思うと、それがまったくの逆。 
 そのような把握ができない図は、失格。 このような彩色になってしまった理由を考えると、それは「東京都」の塗りつぶしであろう。 「東京都」とよく似た増加傾向を示す「神奈川県」、「埼玉県」、「千葉県」に囲まれていて、増加を示す都道府県に濃い色を選択すると、「東京都」の識別が難くなってしまう。 そのため、3県とは対照的な色彩を選んだに違いない。 
 更に、「白黒」の図であることからの工夫に、欠けている点がある。 それは、この図の「白色に塗られた都道府県」と「薄い灰色に塗られた都道府県」の区別が、灰色中間色の表示に向いていない新聞印刷のためか、難しことである。 この部分は、斜線密度の高低などで、「視覚的に」灰色中間色の濃淡を示すべきであろう。 作業工程上は「べた塗り」の方が容易であるが、「白黒」で掲載するときにはある程度の工夫をしなければならないことを忘れてもらっては困る。 
 新聞記事に載せてある図の欠点を改善したものを、『左図を修正した人口増減図』として示しておく。 これなら、近畿西部から九州北部にかけて、人口の減少している県が点在している様子が一目で分かる。 また、4つの区分を「明瞭に」区別できる。 「東京都」の塗りつぶし表示には不充分な感じがするが、それは塗りつぶし面積が小さいからである。 「茨城県」ほどであれば、確実に認識できるものである。 カラーによる分布図であれば区分の表現を格段に良くできるが、色合いと明度のグラデーションを間違うと視認性の悪いものになってしまう恐れがある。

 
難聴 生後すぐチェック
早期療育 言葉の発達に効果
検査実施に地域差
 図30-12 分布図の濃淡が逆? 
2015年(平成27年)7月21日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版21面(生活)
【 記事: 合田禄 】
(記事中、図の部分を引用)
 
360°若者戻れ 地方優遇
Uターン 奨学金免除■サテライト大学
「地方大の一律保護 衰退を加速」懸念も
 図30-13 これも、分布図の濃淡が逆? 
2017年(平成29年)3月26日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版4面(総合4)
【 記事: 古賀大己、寺本大蔵 】
(記事中、図の部分を引用)
 都道府県別での「新生児の聴覚についての篩い分け検査実施状況」に関する記事である。 
 記事には図が載せられている。 その図に塗られている色の濃淡についてである。 図のキャプションには「実施状況」とあるから、常識的には、色の濃い部分が高い実施率であり、薄い色は低い実施率であると理解するのが普通である。 「北海道」や「首都圏」、「京阪神」、「沖縄県」などは、実施状況が良好であるように。 「北関東」や「北陸」などは後進的な地域であると、図からは、認められてしまう。 
 実際には、真逆である。 「凡例」には、未実施の施設の割合が示されており、その割合の高い方に濃い色を割り当てられている。 キャプションの「実施状況」と、「凡例」の「未実施の・・・」とが、喧嘩している。 
 図30-14 左図の修正例 
 「凡例」が、未実施で統一されていると思うと、そうではないことに、再度、混乱してしまう。 「白色」の部分は「すべて実施」と、またまた逆転の表現が現れている。 ここは、未実施が「0%」とすべきである。 
 全体としては、「実施状況」に、統一すべきであったろう。 未実施の割合の大きな値の方に濃い色を割り当てていることに関しては、大きな値の方に濃い色を割り当てている色使いには、不自然感はない。 しかし、キャプションを「新生児聴覚スクリーニング検査の実施状況」とするなら、『図43-14 左図の修正例』に示しているように、実施している割合を提示して、それの大きい方に濃い色を割り当てる方が、はるかに自然である。 
 もっと言えば、1つの項目(この場合は、「新生児聴覚スクリーニング検査の実施状況」について)であれば、単一の色彩で濃淡をつけることが好ましい。 2つ以上の項目についてであれば、それぞれの項目に、単一の色彩を割り当てることが望ましい。 『図43-11 左図を修正した人口増減図』をカラーで示すならば、95年のデータは赤色の濃淡で、15年のデータは青色の濃淡にするとか。 データ値の大小によって、「薄い赤紫」とか、「濃い青紫」とかで、示されることになる。 
 同じように、「色調の濃淡」と「割合の数値」とが不自然である例が、またまた掲載された。 今度は、「高卒者が自都道府県内の大学に進学した割合」である。 東京都や北海道、愛知県から熊本県にかけての新幹線沿線の諸府県は、薄い色で示されていて進学した割合が低いように感じてしまうが、凡例を見ると高いのである。 視覚的には、これらの都道府県には、濃い色を割り当てるべきである。 
 図30-15 左図の修正例 
 それの修正例を示す。 色の濃いところを目で追っていけば、「旧帝大」の所在都道府県(北海道、宮城県、東京都、愛知県、京都府、大阪府、福岡県)や「旧制高等学校」の所在都府県(宮城県、東京都、石川県、愛知県、京都府、岡山県、熊本県、鹿児島県)などを含めて、割合が高い地方が浮かび上がってくる。
 そのなかで、色の濃淡が自然である記事も見られる。 その1例として、「大地震の発生確率 太平洋側高いまま 政府予測図17年版(2017年4月28日)」を下に示す。 
《参考資料》(大地震の発生確率 太平洋側高いまま 政府予測図17年版)
 図30-16 震度6弱以上の確率 
2017年(平成29年)4月28日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面
【 記事: 竹野内崇宏 】
 
 確率の低い地域を薄い黄色で、高い地域を濃い色で塗られている。 この場合は、すんなりと受け入れられる。 
 ただ、よく見ると、この記事に描かれている日本地図の正確さが、大きく違っている。 ひょっとすると、これは、「地震調査研究推進本部」から提供された原図を、ほぼそのままに使用したものかも知れない。 この図は、当該本部の資料をもとに作製としているが・・・。 そうであるなら、残念ながら、この図の評価を「朝日新聞」に与えることはできないことになる。

 
−時時刻刻−
橋下維新 再起の芽
 図30-17 出口調査 
 図30-18 支持政党ごとの投票先 
2015年(平成27年)11月23日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面(総合2)
【 記事: 峰久和哲 】
(上)記事、(下)その記事に掲載されている図表
 大阪市・府の都構想を左右する大阪市長選に関する記事である。 
 記事に、出口調査による支持政党ごとの投票先を示す図が載せられている。 各政党支持者を100として、候補者ごとの投票者割合が描かれている。 この図からは、どの政党を支持している有権者がどの候補にどれだけの割合で投票しているかを知るには、最適である。 しかし、政党幹部にとっては重要なことかも知れないが、有権者にとってはどうでも良いことである。 それよりも、この図からは、「柳本顕」候補を示す青色が大きな割合を占めていて、あたかも、柳本顕候補の支持者が多いように感じられてしまう。 
 それは、支持者の数が少ない「民主党」や「共産党」が、実態よりもかなり大きく描かれているからである。 キャプションからすれば妥当な図であるとしても、誤解を招く恐れのある不適切な図である。 「支持政党ごとの投票先」ではなくて、「支持政党別の各候補に投票した有権者数」でなければならない。 図では、「民主党」や「共産党」の支持者の投票行動が、誇張して大きく描かれている。 記事では触れられていないので不明であるが、これらの支持者は全体の数パーセント程度であって、各候補の得票に占める割合は小さいはずである。 
 それでは、「支持政党別の各候補に投票した有権者数」で表した図を、示してみよう。 
 図30-19 支持政党別の各候補に投票した有権者数 
 (数字は政党ごとの投票先の割合) 
 記事から、「自民党」の支持率は24%、「公明党」のそれは5%、「維新」のそれは「おおさか維新の会」を合算して46%、無党派層は17%であるという。 「民主党」や「共産党」の支持率は明記されていないが、上記の各政党等の支持率の残りから、双方を合計して8%である。 これらの政党に関しては、おおまかな値を使って描いてあることをお断りしておく。 支持率が明記されていない「民主党」や「共産党」には不確かなことがあるとしても、支持者の大部分が柳本顕候補に投票しているにも係わらず、全得票数に占める割合は高くないことが分かる。 政党内の支持率が高くても、その政党支持者の絶対数が少なければ、投票結果に与える影響は大きくないことは明らかであり、そのことが図から読み取れる。 
 政治部は「政党」を念頭に置くことを常にしているであろうが、それを前面に押し出したのでは見えるものも見えないという典型であろう。
 
 
小池氏 党派超え得票
 図30-20 小池氏 党派超え得票 
 図30-21 支持政党別の投票先は・・・ 
 
2016年(平成28年)8月1日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面(総合2)
【 記事: 峰久和哲 】
(上)記事、(下)記事中の図表
 これも、出口調査による支持政党ごとの投票先を示す図である。 各政党支持者を100として、候補者ごとの投票者割合が描かれている。 
 この図からは、政治部や政党幹部にとっては、各党の支持者がどの候補に投票したかを知るには、最適である。 政党支持者が、その政党の推薦候補にどの程度の投票行動をしたかを明らかにできる点で。 
 しかし、有権者にとっては、それは、どうでも良いことである。 有権者は、それぞれの候補者が、各々の政党支持者から(獲得した票数の割合ではなくて)獲得できた票の実数に近いものを知りたいのである。 そのためには、各々の政党支持者がどの候補者にどれだけの割合で投票したかという数字と、各々の政党を支持している有権者の割合が必要である。 それをもとにして描いたのが、下図である。 
 図30-22 支持政党別の各候補に投票した有権者数 
 (数字は政党ごとの投票先の割合) 
 記事には、図に必要とされる党別の支持率が明記されていない。 そこで、NHKの出口調査に関するニュース(2016年7月31日20時7分)に記されている数字を使用して描いている。 データの出所が異なっているので、正確さに欠けている可能性がある。 
 「記事に載せられている『図43-21 支持政党別の投票先は・・・』を素直に見れば、「公明党」や「共産党」の支持者によって、それぞれ「増田寛也」氏と「鳥越俊太郎」氏が、互角に競っているようだ。 「自民党」と「民進党」でのそれぞれの候補者の得票率の差を考えると、後者の候補者が健闘しているようにも見えてしまう。 
 しかし、実際には「公明党」や「共産党」支持者の投票数は僅かであって、大勢には影響していないことは、『図43-22 支持政党別の各候補に投票した有権者数』から明らかである。 「無党派」に属する有権者の得票が、結果を大きく左右していることが分かる。 
 結論としては、記事にある『図43-21 支持政党別の投票先は・・・』での示し方は、不適当である。 
 より厳密に言うと、『図43-21 支持政党別の投票先は・・・』を、政党別得票率を考慮して描き直した『図43-22 支持政党別の各候補に投票した有権者数』が、今回の都知事選挙を理解するために、適切な図表であると言えるかというと、この図もまた、そうではないと断言できる。 
 より優れた図表の例を、下に示す。 
 図30-23 支持政党別の各候補に投票した有権者数(改良例) 
 (数字は政党ごとの投票先の割合) 
 『図43-23 支持政党別の各候補に投票した有権者数(改良例)』から、 
(1)「鳥越俊太郎」氏が「民進党」と「共産党」から得票した合計票数は、「小池百合子」氏や「増田寛也」氏が「自民党」からのそれと比べると、結構、健闘している。 
(2)「公明党」は、「自民党」に比べて、推薦候補へ積極的に投票している。 
(3)「無党派層」による得票を除いたとしても、選挙の結果が変わることはなかったと思われる。 
(4)「無党派層」の投票行動が、 止めを刺すかのように、選挙結果を決定づけてしまった。 
(5)「小池百合子」氏への「無党派層」からの得票数は、「自民党」のそれとほぼ同数である。 
ことは、このような図があることで、一般の人は、容易に理解できる。 
 新聞は、一般読者に、より良い理解を促せる図表を提供すべきであると思っている。 
 上では、新聞紙上に掲載されている選挙結果に関する不完全な図表について、改良すべき点を提案している。 その趣旨に沿っているものが、下に示す『図43-25 最も重視した政策と比例区の投票先』である。 今回、東大との共同調査の結果報告として、載せられている。 図中に記されている数値はそれぞれの政策に占める支持政党別の割合であるが、図に示された帯の長さは実際の人数に対応している。 
《参考資料》
経済重視は自民 憲法なら民進
7月参院選 投票先
朝日 東大谷口研究室 共同調査
 図30-24 経済重視は自民 憲法なら民進 7月参院選 投票先 
 図30-25 最も重視した政策と比例区の投票先 
2016年(平成28年)9月7日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面
【 記事: 笹川翔平 】
(上)記事、(下)記事中の図表
 『図43-25 最も重視した政策と比例区の投票先』中の「数値」では分からないことが、「実人数に対応している帯の長さ」を見ると、その実相が浮かんでくる。 
 たとえば、「民主・民進」の支持層について図中の数値を参照すれば、前回の「年金・医療」で52%、「憲法」で13%であったのが、今回では「年金・医療」で26%と「0.5倍」に減少、「憲法」で44%と「3.4倍」の増加となっている。 実数で見ると、前回は「憲法」がほとんど零で、「年金・医療」が大部分であった。 その前回の「年金・医療」を支持した中の約6割が、今回の調査では、そのまま「憲法」に移っているように見える。 「憲法」の増加分の出所は、後者でないと、見えてこない。 
 「共産」では、前回は「年金・医療」が大部分であったのに対して、今回は「憲法」が全体支持者に占める割合が約7割に増えた影響で「年金・医療」の割合としては約3割にまで減ってしまったが、「年金・医療」を重視している実人数では今回微増しているようである。
 
新潟知事に再稼働慎重派
米山氏、自公系破る
原発対応 投票先を左右(出口調査)
 図30-26 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先  
 (記事に掲載されている図表) 
2016年(平成28年)10月17日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面
【 記事: 峰久和哲 】
 新潟知事選において、柏崎刈羽原発の再稼働への賛否に関する出口調査である。 それぞれの候補者に投票した有権者が、柏崎刈羽原発の再稼働についてどのような意見を持っているかを知ることができる貴重な調査結果である。 
 『図43-26 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先』を素直にみれば、「森民夫」氏を推している有権者は圧倒的に原発再稼働に賛成であるようにみえる。 したがって、「森民夫」氏は、原発再稼働をより前面に掲げたならば、票の上積みが期待できたように思われる。 
 この図を修正して、それぞれの区分に属する(調査に係わった)有権者の実数に基づく図として示してみよう。 
 図30-27 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先(修正版) 
 (下段は候補者別の賛否) 
 『図43-27 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先(修正版)』の上段は、『図43-26 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先 』を、実数に基づくように描き直したものである。 それを更に描き直して、各候補について、賛成と反対を示しているのが下段である。 
 『図43-27 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先(修正版)』の「下段」からは、『図43-26 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先』とは異なった傾向が見えてくる。 
 「森民夫」氏を推した有権者が「積極的に原発再稼働を望んでいるとはいえない」ということである。 「森民夫」氏を推した有権者の過半数の52%は、原発再稼働に否定的である。 「森民夫」氏がこの知事選で当選したとしても、「原発再稼働が容認された」という状況ではないことになる。 たとえ、原発の再稼働に前向きの公約を述べていたとしても・・・。 
 「森民夫」氏に投票した有権者の半数は、原発再稼働に否定的である。 「森民夫」氏が原発再稼働を否定しなかったことで、自民党などの支持層で原発に否定的な有権者が、再稼働否定派候補に流れた可能性がある。 
 図30-28 各候補への投票数 
 (投票先の移動) 
 上図の下側は、次のような仮定の下での投票先の移動である。 自民党などを支持して本来なら「森民夫」氏へ投票するはずの有権者の中で、原発には否定的な意見を持っている一部の有権者が、敢えて「米山隆一」氏に投票したことが考えられる。 その割合は、「米山隆一」氏に投票した原発に否定的な層の「1割」であるとする。 図中の「薄い青色」で示した部分である。 
 ところで、もし「森民夫」氏が、原発への姿勢を変更したとする。 そのことで、自民党などを支持する原発に否定的な有権者が「実際に投票した「米山隆一」氏から「森民夫」氏に戻ってきた(投票先の変更)」とする。 それが図中の「紫色」の部分である。 このとき「森民夫」氏が原発への姿勢を変更したとして、投票先を「森民夫」氏から「米山隆一」氏に変更する可能性がある有権者数は無視できよう。 その結果、「米山隆一」氏から「薄い青色」部分が減って、「森民夫」氏に「紫色」の部分が増えることになる。 
 この推定の妥当性を、投票先を移動した後の状態で、「森民夫」氏について検討してみる。 投票者全体の中で、「森民夫」氏に投票した原発肯定派が「22.5%」、実際に投票した原発否定派が「24.3%」、投票先を変更した原発否定派が「4.6%」である。 「仮定の下で投票先を変更したと推定される原発否定派」は「実際に投票した原発否定派」の2割程度となる。 姿勢変更によるこの程度の移動の可能性は高いと思われる。 
 結局、「森民夫」氏は、その得票が「米山隆一」氏の「約1.06倍」となって、当選できることになる。 
 「森民夫」氏が原発再稼働に積極的ではない態度を取ったならば、自民党などの支持層のなかの再稼働に不安を持っている有権者票を上積みできて、選挙結果が変わってしまった可能性が高い。 「森民夫」氏の支持者に占める原発再稼働否定派の割合を考慮すると、原発の再稼働を否定しなかった選挙戦術にはメリットがなかった・・・。 
《参考資料》
 
<新潟知事選>自公支持の花角英世氏が初当選
 新潟県の米山隆一前知事の辞職に伴う同県知事選は10日投開票され、自民、公明両党が支持する前海上保安庁次長、花角英世氏(60)が、立憲民主、国民民主、共産、自由、社民の野党5党と衆院会派「無所属の会」推薦の元県議、池田千賀子氏(57)ら2氏を破り、初当選した。 森友、加計学園問題などで政府・与党に逆風が吹くなか、事実上の与野党対決で、野党共闘が成果を上げられず、与党側が制したことは、今後の政治情勢に影響を与えそうだ。 投票率は58.25%(前回53.05%)。 
 米山氏の女性問題をきっかけにした選挙戦で、前回に続き、県内にある東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題などを争点に、与野党の支援を受けた両氏がしのぎを削った。 新潟では2016年の参院選、知事選に続き、17年の衆院選小選挙区でも野党が4勝2敗で勝ち越しており、久しぶりの与党系勝利となる。 
 同県副知事の経験もある花角氏は「私も原発は不安だ」として、再稼働に慎重だった米山氏の路線継承を表明。 今後2〜3年かけて県が独自に原発の安全性を検証するまで、再稼働の議論に応じないとし、脱原発を旗印にする池田氏陣営をけん制してみせた 
 そのうえで元国土交通官僚としての豊富な行政経験を生かして観光振興や交通インフラ整備などに取り組み、人口減に歯止めをかけると主張してきた。 
 選挙戦では「県民党」を掲げ、多くの県内市町村長から応援を受けた。 一方で森友、加計学園問題など難局が続く安倍政権への批判をかわすため、自公幹部は街頭演説に現れず、政党色を前面に出さない活動を徹底、業界団体を個別にまわるなど「裏方」として組織の引き締めに徹した。 
 この結果、自公支持層だけでなく、原発再稼働に慎重な有権者や、人口減などに危機感を持つ無党派層にも支持が浸透。 池田氏との接戦に競り勝った。 
 池田氏は選挙戦を「安倍政権への審判」と位置づけ、推薦する野党6党派の代表がそろい踏みして支援を訴えるなど積極的に政権批判を展開。 原発へのスタンスでも花角氏との差別化を図ろうと、国内全原発の廃炉を主張し、柏崎刈羽原発についても、再稼働の是非を「県民投票などで決める」と訴えたが、自公の組織戦を前にあと一歩及ばなかった。【 堀祐馬、南茂芽育 】 
 ◇新潟県知事選確定得票数 
当 546,670  花角 英世<1>無新=[自][公] 
  509,568  池田千賀子   無新=[立][国][共][由][社] 
   45,628  安中  聡   無新
 
2018年(平成30年)6月10日(日)22時41分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 今回の新潟知事選では、「保守系の候補者である同県副知事の経験もある花角氏は「私も原発は不安だ」として、再稼働に慎重だった米山氏の路線継承を表明。 今後2〜3年かけて県が独自に原発の安全性を検証するまで、再稼働の議論に応じないとし、脱原発を旗印にする池田氏陣営をけん制してみせた」という。 
 前回の新潟知事選で、保守系候補が「明確に原発の再稼働を否定しなかった」ことなどを理由として僅差で敗れた。 しかし、「敗れた保守系候補が選挙戦で再稼働を否定したならば」とするシミュレーションからは、保守系候補が有力対立候補の約1.06倍の票を得て当選する可能性があったという結果になった。 
 さて、今回の選挙。 再稼働に慎重だった米山氏の路線継承を表明したことで、シミュレーションの結果が試されることになった。 選挙結果からは、保守系候補の得票は、有力対立候補の得票の1.07倍である。 前知事の不名誉な辞職によって有力な対立候補の得票が減少してしまったという影響を考慮しても、再稼働を否定したとするシミュレーションとほとんど一致する結果となった。
 
 
都議選出口調査

 安倍政権への批判が高まる中で、自民は支持層自体がしぼみ、「都民ファーストの会」など小池百合子知事の支持勢力が自民党支持層からも票を取り込む──。 2日に投開票された東京都議選で朝日新聞社がテレビ朝日と共同で実施した出口調査で、有権者の投票行動から「自民離れ」の実態が浮かんだ。

 図30-29 「支持する政党」と「投票した党派」 
 図30-30 「加計問題での政権の対応」と「投票した党派」 
 
2017年(平成29年)7月3日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版5面
記事での図表
 最初に取り上げる図は『図43-29 「支持する政党」と「投票した党派」』である。 この図では「自民」、「都民ファ」、「無党派」の支持者の割合が似片寄っている。 下図のように「投票者数を反映したグラフ」に修正しても、その視覚的な効果はほとんどない。 
 図30-31 支持する政党と投票した党派 
 (修正版) 
 それでは、『図43-30 「加計問題での政権の対応」と「投票した党派」』を見よう。 この場合は、2つの間に3倍の開きがあるので、修正の効果が期待できる。 下図に、「投票者数を反映したグラフ」を示す。 
 図30-32 加計問題での政権の対応と投票した党派 
 (修正版) 
 左側の記事掲載の図表である『図43-30 「加計問題での政権の対応」と「投票した党派」』では、「小池氏支持勢力」への投票に比べるとやや少ないのであるが、「自民」の候補者への投票も健闘しているように見える。 『加計問題での政権の対応が「適切だ」』としている層で「自民」に投票した37パーセントは「小池氏支持勢力」への48パーセントよりも僅かに少ない程度である。 
 しかし、上の『図43-32 加計問題での政権の対応と投票した党派(修正版)』からは、そうではない状況が見えてくる。 加計問題での政権の対応が「適切ではない」』としている層は基本的に反「自民」で構成されていて、「自民」への投票は期待できないはずである。 その期待されていなかった投票者数よりも"更に少ない"のが、このような状況にあっても「自民」を支持しているはずの加計問題での政権の対応が「適切だ」』としている層での「自民」への投票者数である。 これでは、「自民」が惨敗してしまったことは、当然といえる。 
 このようなことが明瞭に伝わってくる図を読者に提供することが、大事なことである。 
 なお、『図43-25 最も重視した政策と比例区の投票先』では、実際の投票者数をそのまま反映したグラフである。 そのような優れた図を掲載した新聞社が、そうではないグラフの掲載に戻ってしまったことは、残念なことである。 

 NHKが報道した2017年7月23日(日)実施の仙台市長選の出口調査の結果を、下に示す。 ニュースの中の「支持政党別に示した各候補へ投票した有権者の割合」の図を、スクリーンショットしたものである。 
《参考資料》
 図30-33 仙台市長選 投票日出口調査 
2017年7月23日(日)20時51分
「NHK総合」スクリーンショット
 ここで、「林」は林宙紀候補、「郡」は郡和子候補、「菅原」は菅原裕典候補、「大久保」は大久保三代候補を指している。 『図43-33 仙台市長選 投票日出口調査』は、各候補への投票者数を反映したグラフである。 これまでも、たとえば、『図43-30 「加計問題での政権の対応」と「投票した党派」』ではなくて、それを実際の数値を示す形に変更した『図43-32 加計問題での政権の対応と投票した党派(修正版)』のようにすべきであると述べているが、図43-33 仙台市長選 投票日出口調査は、それと同じ趣旨に基づいて描かれている『望ましい図』になっている。 
 最終的な得票数は、林宙紀候補が61,647票、郡和子候補が165,452票、菅原裕典候補が148,993票、大久保三代候補が8,924票であった。 市長当選者の得票に対する次点候補者の得票の比率は、90.1%である。 出口調査の結果を示す『図43-33 仙台市長選 投票日出口調査』から読み取ると、約84%となっているので、出口調査の偏りは小さくない。

 
日本 オランダ破り3位
バレー 女子五輪世界最終予選
 図30-34 バレー女子五輪世界最終予選(最終順位) 
2016年(平成28年)5月23日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版15面(スポーツ)
【 記事: 能田英二 】
(記事中、表の部分を引用)
 これは、表である。 
 表であっても、良いものと良くないものとがある。 左の表は、当然、良くないから取り上げているのである。 
 何が良くないか。 この表は、オリンピック代表を決める成績一覧である。 表の右側に注釈があるから、それを熟読すれば、誤解することはないようになっている。 だからといって、どのような表し方をしても、OKであるとは言えない。 
 表に"◎"が付されている国名がある。 「日本」、「韓国」、「タイ」、「カザフスタン」の4つの国である。 この"◎"の記号は、一般的に、他よりも優れていたり、ある条件に合格していたり、入賞に値している場合に、それを示すために付することがおこなわれている。 優劣の区別をするときに、「優」であることを示すために・・・。 この場合であれば、オリンピック代表に決まった国名に付される"記号"であるはずだ。 
 ところで、この表では、そうではない。 アジアのチームを、"◎"の記号で示しているという。 それでは、オリンピック代表に決まった国名に付す記号はというと、"◎"の記号が使用できないので、"☆"である。 優秀なものを示す"◎"の記号が、地域を区分するという「優劣」に関係のない用途に使われている。 その結果、「優劣」を窺わせる印象が薄い"☆"が、優れたものを指し示すことになってしまっている。 
 競馬の予想印が「◎→○→▲→△」の順であることが多い。 記号の持つ「優劣」の順番を示す感覚として、最初の2つには違和感がない。 もし、予想紙上で「□→△→◎→○」の順番で示されていたなら、しっくりしなかったであろう。 
 このような記号の使い方は、記号の持つ印象に基づくものである。

 なお、この新聞社の各本社では、どのように表記しているかを、見てみる。 
 図30-35 東京本社14版12面(スポーツ) 
 図30-36 西部本社14版17面(スポーツ) 
 名古屋、東京、西部は、同じである。
 図30-37 大阪本社14版15面(スポーツ) 
 大阪では、少し工夫されている。 "◎"と"☆"の記号が連続しているのは見苦しいので、国名の前後に分けて記されている。 これだけで、多少は、見よい図表になる。 "◎"と"☆"を置き換えると申し分なしであるが、改悪されてしまった部分もある。 他の表では、日本の部分が、文字がゴシック体で背景色が薄く塗られている。 日本の立ち位置がよく分かる。 大阪版では、他の国名と同じで、ひと目で分かるとは言い難い。 
 望ましい表の例を、以下に示す。 オリンピック代表に決まった国名に付されるべき"◎"の記号を、一番大事な情報であるので、国名の先頭に示す。 国名表記の先頭を揃える。 アジアの国を示す"☆"は、付加的な情報であるので、国名の後に記す。 順位を示す数字のフォントは同じとする。 「日本」の国名などは、視認性を計るため、ゴシック体文字と背景色を使う。
 図30-38 望ましい最終順位表の例 
 記事中の順位表の欠点を、「仮想の場合」での表を示せば、理解できよう。 
 五輪の出場権が、「アジアの最上位」ではなくて「中南米の最上位」であると「仮想」したとき、その表を下に示す。 左側が記事中の表に基づくもの、右が望ましい表の例に基づくものである。 いずれが良いか、一目瞭然である。 
 図30-39 (左)記事中の表に準じたもの、(右)望ましい表 
 
日本一矢 2勝5敗で7位
バレー 男子五輪世界最終予選
 図30-40 バレー男子五輪世界最終予選 
2016年(平成28年)6月6日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版16面(スポーツ)
(記事中、表の部分を引用)
 これは、上記記事の2週後の男子バレーの五輪出場権を決める最終予選の結果である。 
 順位表は、五輪出場権獲得の記号を先頭に置く、国名の先頭を揃えるなど、改善されている。 ただ、"◎"と"☆"とを入れ換えた方が良い点は、まだまだである。
 
サッカーW杯2018 ロシア大会
日本の決勝トーナメント進出条件
 図30-41 日本の決勝トーナメント進出条件 
2018年(平成30年)6月25日(月)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版1面
(記事中、表の部分を引用)
 これは、「サッカーW杯2018 ロシア大会」で、日本が決勝トーナメントに進出できる条件を示したものである。 1次リーグ戦で、あと1試合を残した時点である。 
 左側の表が分かり易いとは、とても思えない。 
 新聞社もそれを意識したのか、翌日に掲載された改良したものが下表である。 左表の夕刊時点では、大急ぎで作成したものであって、校正するには時間がなかった。 朝刊の印刷までに検討し、改善した・・・と、いうことか。 
 
 図30-42 日本の決勝トーナメント進出条件 
2018年(平成30年)6月26日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面
(記事中、表の部分を引用)
 結果的には、「日本はポーランドに負け」て、「セネガルがコロンビアに負け」るということになった。 表中の「条件あり」に該当し、表に示されている内容では、進出条件は明らかにならない。 「得失点差」も、同じになってしまって・・・。

 
第11回朝日杯 将棋オープン
プロが圧倒
 図30-43 朝日杯将棋オープン 
2017年(平成29年)6月18日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版29面(社会)
 これも表についてであるが、スポーツではなくて、将棋に関する記事である。 
 対戦結果の表で、勝者が表の左側に記されている。 先手後手は、先手が「▲」印が付された棋士である。 
 さて、将棋界での慣習には不明であるが、たとえばプロ野球の勝敗ではホームゲームになる球団が左側に記してある。 表から主催球団が一目で分かる。 勝敗はスコアを見れば分かる。 そこで、左の将棋の勝敗表を、プロ野球の表に倣って表してみる。 勝者に「◎」印を付ける。 
 図30-44 対戦結果 
 さて、左側の記事に掲載の表と『図43-44 対戦結果』の表とを比べてみる。 
 普段から見慣れた表が、良い表だと感じられるだろう。 
 しかし、「▲」で先手を示す方法よりは、「◎」で勝者を示す方が自然な感じがする。 それよりも、先手が左側に(したがって、後手が右側に)示されていることの「自然さ」は、捨て難い。 先手後手に勝敗の差があるかどうかは、先手になる左側の「◎」と、後手になる右側の「◎」の数を比べることになるから、一目で判定できることになる。

 
増えるパンク 空気圧にご注意
セルフ式給油所普及 点検がおろそかに?
 図30-45 セルフ式GS数とパンクの救援 
2016年(平成28年)8月29日(月)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版6面(社会)
(記事中、図の部分を引用)
 セルフ式ガソリンスタンド(GS)数の増加に対応して日本自動車連盟(JAF)への「パンク救援依頼」数が増えてきているという記事である。 
 記事中の図では、それぞれが増加してきている様子が窺われるが、離れた位置に示されているので、適当であるとは言えない。 それぞれを示す軸の値は(左側と右側に)独立しているので、相互の関係を明瞭に示せるように表すことも可能である。 
 その1例を下に示す。 「パンク救援依頼」数を示す軸の数値を変更する。 
 図30-46 セルフ式GS数と「パンク救援依頼」数  
 (図の修正例) 
 グラフ上のそれぞれを示す位置がほぼ一致するように描かれているので、変化の様子がひと目で分かる。 
 この図からは、別の側面が見えてくる。 
 記事で触れられていることがもし正しいとするならば、点検されない状況が前年よりも5%分増えると、その年のパンクする率は前年の105%(5ポイントの増加)となるはずである。 ところが、セルフ式GS数の増加曲線と、「パンク救援依頼」数の増加曲線が、厳密には一致していない。 セルフ式GSの利用によって空気圧の点検が疎かになっている程度と「パンク救援依頼」の件数とが、同じ割合で変化していない。 2015年度でのパンクの救援依頼数を2009年度のそれと比べると1.33倍である。 セルフ式GS数ではその比率は1.17倍となっている。 この間の増加率は、セルフ式GS数に比べて「パンク救援依頼」数は、約2倍である。 
 両者がともに増加しているからといって、セルフ式GSの増加とは関係ない事情によって「パンク救援依頼」数が増えているかも知れない。 たとえば、「年間走行距離の変化」、「ヘビーな使用者層の変化」、「JAFへの加入者数の変化」、「パンクした際のJAFへの依頼率の変化」、「車種構成比率の変化」、「車齢比率の変化」などのいずれかと、密接に関係しているかも知れない。 
 統計による解析をして、どれが主な要因であるかを明らかにすべきである。 「主成分分析」の結果から、セルフ式給油所の普及によるものは、3次的、4次的な影響であるかも知れない。 そうであるか、否かの科学的な検討なしに、安易に結論づけられていることには、疑問が残る。 
 ただし、ここで「パンク救援依頼」とカッコ書きしているのは、パンクの実数ではなくて、JAFへ救援を依頼した数であるから。 セルフ式GS数とJAFへの「パンク救援依頼」数が1次の相関関係にないとしても、セルフ式GS数の増加がパンクの増加を引き起こしている可能性は否定できない。 それは、記事内のデータがJAFへの「パンク救援依頼」数を採用しているからで、把握することは難しいかも知れないパンクの実数を使って検討すれば、その可能性の可否を判定することができる。 それによって初めて記事の主張が証明できるはずである。

 
 
ネット点描
グラフの進化
情報を「感じとる」ものへ
 図30-47 ネット点描 
 グラフの進化 情報を「感じとる」ものへ 
 
2017年(平成29年)5月16日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版15面(オピニオン)【 記事: 木村円 】
 記事では、「・・・いかに、わかりやすく見せるかがデザイナーの腕の見せどころ。 グラフのデザイン性を評価して「美しさ」を競うコンペもある。 インフォ(情報)グラフィックに詳しい多摩美術大学の永原康史教授は、グラフの見せ方が変わってきたと話す。 「理解を超える量の情報を伝えるために、直感でわかってもらうグラフが増えています」 大量の情報とデジタル技術がもたらした新しいグラフ。・・・」とある。 
 もっともである。 
 ただ、「デジタル技術」がどれだけ進歩しても、そのグラフィック構成の発想は「ヒト」である。 『その「ヒト」の発想が貧弱であったしても、「デジタル技術」が素晴らしいものに再構築してくれる』ということは、当分、実現されないであろう。 図43−18 支持政党ごとの投票先』の「支持政党ごとの投票先」のグラフを、『図43−19 支持政党別の各候補に投票した有権者数』の「支持政党別の各候補に投票した有権者数」のグラフに修正することで、それぞれの候補者に投票した有権者数の違いが一見してわかるものに、また、 図43-26 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先』の「柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先」のグラフを、『図43-27 柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先(修正版)』の「柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先(修正版)」のグラフにすることで、元の図では落選候補者の方が票数が多いかも・・・という図の表現による誤解が「修正版」では避けられるものになるというように、『デジタル技術によって』自動的に変換される・・・ということは。 
 最近になって「直感でわかってもらうグラフが増えてい」るとしても、それにデジタル技術の進歩が係わっている割合は高くない。 作成に要する時間の短縮や繊細な表現の実現、作成に関する補助機能の利用などは可能であるが、事象を示すに有効な描画事項を提案してくれるわけではない。 それは『デジタル技術によって』ではなく、それを産み出す「ヒト」の感性を育む教育の充実によって成し遂げられるものである。 そして、残念ながら、このオピニオンを掲載しているのと同じ紙面で、上でいくつかのグラフィック例を挙げているように、そのような感性を持っていない「ヒト」が依然としてグラフィックを描いている・・・。

 
フォーラム
弔いのあり方 [1A34]誰のために

 お葬式はそもそも誰のために執り行うのでしょうか。 故人のためか、遺族のためか、その両方なのか。 送る側か、送られる側か、その立場によって見方は違ってきます。 望ましいお葬式のスタイルや費用、僧侶ら宗教者が関わる意味についても考え方はさまざまです。 当事者や専門家らにさらに話を聞きました。

 図30-48 葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは? 
 (記事中のグラフを引用) 
2018年(平成30年)2月11日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版9面(オピニオン)
 お葬式はそもそも故人のためか、遺族のためか、その両方なのか。 送る側か、送られる側か、その立場によって見方は違ってくると思われる。 そのアンケート結果が、『図43-48 葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?』に示されている。 その図で、各項目の上から下へ、左から右への「並び順」には、一定の基準が感じられない。 
 もし、相関関係を明らかにしたい調査結果をある基準に基づいて描いたとすると、対角線上に高い頻度が見られることで、双方に高い相関関係を見て取ることができる。 弱い相関関係が存在するときには、隣接する項目にも散らばることになるので、対角線上とその周囲に高い頻度の分布が見られることになる。 上図は、残念ながら、一定の基準で並べることを無視しているように思われるので、一目での傾向の把握は困難である。 
 筆者の独断による基準を定めて、描き直してみる。 葬儀の豪華さ(葬儀費用の多寡)の順を、次のようにする。 
  にぎやかに伝統と格式故人らしく自分らしくこぢんまりと葬儀は不要 
 ただし、「明朗会計」は、豪華さ(葬儀費用の多寡)での位置づけには異論があると思われるので、省いてある。 
 図30-49 葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?(修正版) 
 (記事中のグラフを修正したもの) 
 上図の特徴は、縁者で行った葬儀の豪華さの程度が、自分の葬儀での希望に一致しているならば、対角線上の頻度が大きくなることである。 また、縁者と自分の葬儀の豪華さ程度が近いほど、対角線の近辺に分布することになる。 対角線から遠く離れた右上や左下部分は、双方への思いが大きく違っていることを示している。 
 それでは、『図43-48 葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?』と『図43-49 葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?(修正版)』とを、見比べて欲しい。 『図43-48 葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?』では、頻度分布が図の全面にランダムに散らばっていて、何らの傾向があるようには見えない。 それが『図43-49 葬儀で優先したこと、優先して欲しいことは?(修正版)』では、その分布状態に一定の纏まりを見せている。 
 たとえば、上図の最下段の「自分の葬儀は不要」の層について考えてみる。 この層では、自分の葬儀と同様に「縁者でも葬儀は不要」としている回答者が多いが、それとともに、それでは故人に申し訳ないとして「縁者の葬儀はこぢんまりと」するように考えている回答者が多い。 このように、縁者での葬儀は、希望する自分の葬儀の程度と同等か、それよりは少しばかり高いランクに(図上で、対角線上の位置から左方向へシフト)しようとすることは、当然であろう。 
 縁者での葬儀のランクを希望する自分の葬儀と同等かそれよりも高いものにする傾向があるかどうかに関する検証は、上図で対角線上とそれよりも左下部分への分布が大多数であることの当否によって決まる。 対角線上とそれよりも左下部分への分布に帰する回答者の割合は、93パーセントである。 数値の上からも、この傾向は、認められる。 
 この図で例外的な分布は、対角線から遠く離れた左下の自分自身へと縁者への思いが大きく違っている回答者群である。 それは「自分の葬儀はこぢんまりと」や「自分の葬儀は不要」であって「縁者の葬儀はにぎやかに」とするものである。 自分の葬儀はそこそこのものでもよいが、縁者には精一杯のことをしたいという儒教的な考えを持っているのであろうか? 
 なお、「伝統と格式」についても、「明朗会計」と同様に、「葬儀の豪華さ」での位置づけが確定しているものではない。 一応のランクを与えて描いているが、ランク付けに得心がいかないと思われるときには、それを除外した形の図を思い浮かべて欲しい。 そのときには、上で述べていることが、より鮮明になるであろう。 
 修正した図の利点は、 

   縁者での葬儀は、希望している自分の葬儀のランクを基準にして、それと同等のランクか、それよりはより高いランクで実施しようとする意思を、分布図として明瞭・明確に描き出せていること 

である。
 
JR御坊駅・留置線で脱線
紀勢線、一部運転見合わせ
 
 図30-50 駅構内の留置線で脱線した列車 
 

 14日午前6時55分ごろ、和歌山県御坊市のJR紀勢線(きのくに線)御坊駅構内の車両留置線で、4両編成の列車の一部が脱線した。 乗客はおらず、運転士と車掌にけがはないという。 この影響で紀勢線の印南―紀伊由良間で運転を見合わせている。 
 JR西日本和歌山支社によると、列車は午前7時14分に御坊発和歌山行きで営業運転するため、留置線からホームに向かう途中だった。 留置線から本線へ線路を切り替える操作を誤ったとみられ、列車の2両目の一部の車輪がレールから外れた状態になり、運転士が停止したという。 (写真はJR西日本提供)

2019年(平成31年)4月14日(日)10時16分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 
JR紀勢線で電車脱線…ポイント切り替えミス
 図30-51 脱線した車両を点検する作業員ら 
2019年(平成31年)4月14日(日)10時20分
読売新聞 YOMIURI ONLINE(記事中の写真を引用)
 
JR御坊駅構内で回送列車が脱線
ポイント操作ミスか けが人はなし
 図30-52 脱線した回送列車を調べる作業員 
2019年(平成31年)4月14日(日)13時47分
毎日新聞 Web版(記事中の写真を引用)
 JR西日本での脱線事故についての記事である。 交通機関での事故であるから『「ポカヨケ」なしの安全設備 <安全工学>』内で紹介することが適当であると思われるが、ここで取り上げた理由は、事故の原因などではなくて、その事故をどのように報道するかということを論点にしているからである。 
 和歌山県御坊市のJR紀勢線(きのくに線)御坊駅構内の車両留置線で、4両編成の列車の一部が脱線したという。 営業運転するため、留置線からホームに向かう途中留置線から本線へ線路を切り替える操作を誤ったとみられ、列車の2両目の一部の車輪がレールから外れた状態になった。 
 列車の2両目の一部の車輪がレールから外れたとのことであるが、記事による文章では、その様子を思い浮かべることは難しい。 記事に添えられた写真は、添え物では、ない。 事故の様子を明らかにしてくれるものである。 秀逸の掲載写真は「読売新聞」のものである。 脱線した状態を明瞭に示しているからである。 脱線した台車や車輪を大写ししたものが優れているといったものではない。 その写真からは、手前の車両は「御坊」駅ホームから見て和歌山・天王寺方のポイント付近で、左から3本目の線路である「留置線」上に停車している。 なお、写真手前の一番左側の線路は御坊駅の「2番線」に入る、左から2本目の線路は御坊駅「3番線」に入る本線であって、これらが島式ホームを形成している。 後方の車両は、左から2本目の線路につながる本線上で脱線している。 この本線の手前のポイントを見ると、御坊駅の「3番線」に開通しているようである。 
 写真の脱線した台車位置から、これらの車両が留置線上を手前方向に進行していて、脱線した車両が通過する直前にポイントが本線方向に切り替わったように見える。 
 ここで、「毎日新聞 Web版」にある2枚の写真は、上は駅舎側に向かって(北から南の方向に)、下は駅舎側から(南から北の方向に)撮影したものである。 上と下の写真で、列車側面が右左と違っている。 誤解を招かないように、読者への丁寧な写真説明がなされるべきものであろう。 
 どのように写真を撮るか、撮った写真のいずれを掲載するか、そこに報道機関の力量が問われているはずである。 
 半年前に起こった札幌市電の新型車両「シリウス」の脱線事故。 これを報じた写真に、報道機関の力量が試されている。
《補足資料》
原因は線路の切り替え忘れ
札幌市電の新型車両「シリウス」破損
10月末に運行開始も…修理に3か月
 図30-53 札幌市電の新型車両「シリウス」破損 
2018年(平成30年)12月12日(水)16時35分
北海道文化放送 北海道ニュース(記事中の写真を引用)
 掲載写真は、報道カメラマンのアリバイづくりに過ぎないものとしたら、言い過ぎになるか。 確かに「事故現場を写したんだ」ということに、異論はないが・・・。 撮影現場の条件が悪いことは承知しているが、それを踏まえて、事故を説明してくれる写真が欲しかった。
 

(31)転落スキーバスの行く末を決めたブレーキ
 
転落バス、250m手前速度増す

 乗員乗客15人が死亡した長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故で、国土交通省は20日、事故現場から約250メートル離れた道路に設置された監視カメラの映像を公開した。 
 映像には、事故を起こしたバスがスピードを上げ、センターライン上をまたいで走行し、ブレーキランプを点灯させた状態でS字カーブを右に曲がっていくところまで映っていた。 同時に公開された事故現場から約1キロ手前の監視カメラの映像と比べると、大幅にスピードが上がっている様子がわかる。 
 一方、事故現場のガードレールの損傷状況から、バスは制限速度の50キロを上回る速度を出していた可能性が高いことが、長野県警への取材でわかった。 ガードレールは約10メートルにわたって押し倒され、バスは落差約3メートルの崖下に転落。 同省によると、ガードレールは鉄製で、制限速度以下で走行していれば、大型車両が衝突しても道路外に車体がはみ出さないような強度で設計されているという。 
 県警は同省から映像の提出を受けて分析しており、バスは事故現場から約250メートル手前の地点で、高速で蛇行していたとみている。

2016年(平成28年)1月20日(水)16時47分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 
スキーバス転落
直前80キロ走行 ギアはニュートラル

 乗客・乗員15人が死亡した長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故で、県警軽井沢署捜査本部がバスの運行記録計(タコグラフ)の記録を調べた結果、バスの速度は転落直前、時速80キロ前後に達していたことが、捜査関係者の話で分かった。 現場道路の制限時速は50キロ。 下り坂で運転手に何らかのトラブルが起きたか運転操作を誤り、速度超過に陥ったとの見方を強めている。 乗務していた運転手2人は死亡しており、事故原因解明には時間がかかりそうだ。 事故は22日、発生から1週間を迎えた。 
 また、ギアがニュートラルになっていたことも車体検証で判明し、捜査本部はどの段階でなったか調べる。 ニュートラルではタイヤにエンジンからの駆動力が伝わらないため、逆にエンジンブレーキも掛からない。 捜査本部は、事故の衝撃などでニュートラルになった可能性もあるとみて調べる。 ブレーキなどの主要部分に目立った異常は見つかっていない。 
 国道18号「碓氷(うすい)バイパス」の事故現場手前約250メートルにある定点カメラには、車体を傾けながらカーブを曲がるバスが映っていた。 バスは現場手前約100メートル地点で左側ガードレールに接触車体を右側に傾かせてセンターラインを越え、約3メートル下の雑木林に突っ込んだとみられる。 
 民間の日本交通事故鑑識研究所(茨城県つくば市)の大慈弥(おおじみ)拓也代表は「運転手はブレーキを作動させたが、速度の出し過ぎでカーブを曲がりきれず転落したのでは」と指摘する。 
 ツアーは旅行会社「キースツアー」(東京)が企画し、「イーエスピー」(同)がバスを運行した。 行程表では群馬・長野県境越えは上信越自動車道を通ることになっており、なぜ40以上のカーブが連続する入山(いりやま)峠を含む同バイパスを走っていたか分からないままだ。 
 死亡した乗客13人は全員、大学生だった。 けが人は重体1人▽重傷16人▽軽傷9人で、長野・群馬両県の7病院には今も15人が入院。 重体の東京都新宿区のアルバイト男性(23)は意識不明のまま集中治療室で治療が続けられている。【 安元久美子、巽賢司 】

2016年(平成28年)1月21日(木)21時35分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
バス転落直前は時速80キロ ギアはニュートラルか

 長野県軽井沢町のスキーツアーバス事故で、転落後のバスのギアがニュートラルの状態だったことが関係者への取材でわかった。 県警の検証で判明し、下り坂でエンジンブレーキが利かなかった可能性がある。 転落直前の速度が時速約80キロだったことも、車載の運行記録計から確認された。 
 県警は、バスを製造したメーカーの立ち会いで車体を20日まで検証した。 関係者によると、車体内部ではタイヤ側とエンジン側のギアがかみ合っていないニュートラルの状態だった。 
 ニュートラルでは、エンジンの抵抗力を利用するエンジンブレーキや、その働きを補助する排気ブレーキが利かなくなる。 転落前からニュートラルだった場合、下り坂で減速し切れなかった可能性がある。 
 メーカーによると、バスは6段変速のマニュアル車。エンジンブレーキは低速ギアの方が利きやすいが、運転手が高速ギアから低速ギアに無理に変速しようとすると、ニュートラルか元のギアになるプログラムが搭載されている。 エンジンの回転数が高くなりすぎて壊れるのを避けるためだという。 
 国土交通省関係者は「大型車の運転に不慣れな運転手が急に低速ギアに入れようとしてニュートラルになり、エンジンブレーキで減速できずパニックになった可能性がある」とみる。 ただ、事故の衝撃でギアがニュートラルに動くこともあり、県警は慎重に調べている。

2016年(平成28年)1月22日(金)05時06分
朝日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 「Google マップ」で得られた事故現場付近の地図を、下に示す。 
 図31-1 スキーバス転落事故現場付近 
 「Google マップ」から 
 赤字赤矢印は筆者による描き込み) 
 地図上で、事故現場は赤丸数字のCである。 事故現場から約250メートル離れた道路に設置された監視カメラの位置は、軽井沢方向に向かって曲率半径の大きな左カーブ上の沢付近に設置してあって、図上のBの地点である。 事故現場から約1キロ手前の監視カメラの位置は、群馬県と長野県の県境上にあって、Aの地点である。 
 図31-2 監視カメラB(左)と監視カメラA(右) 
 「Google ストリートビュー」から 
 (入山峠側から軽井沢町方向を望む) 
 入山峠の最高点のおおよその位置は@である。 それぞれの標高を国土地理院地図から求めると、 
 @:入山峠最高点 約1,035メートル 
 A:監視カメラ  約1,030メートル 
 B:監視カメラ    約970メートル 
 C:事故現場     約963メートル 
である。 この標高の値は、道路が「掘り割り」や「盛り土」になっていることで、誤差を含んでいる可能性がある。 ただし、道路上に等高線が描かれていることを利用してその誤差の大きさを推定すると、数メートル以下であることが分かる。 
 Aの監視カメラからBの監視カメラまでの標高差が、約60メートルであることがわかる。 この間の距離が約750メートルであるので、この間の平均斜度は約8.0%となる。 これに対して、Bの監視カメラからCの事故現場までは約2.8%となって、それまでの傾斜に比べると平坦といってもよいほどである。 
 転落事故を起こしたバスの運行記録計(タコグラフ)の記録を調べた結果、バスの速度は転落直前、時速80キロ前後に達していたという。 なお、現場道路の制限時速は50キロである。 計算のため、 
 (a)Aの監視カメラの位置では、制限時速を下回る時速40キロメートルで走行していた。 
 (b)Bの監視カメラでは、時速80キロメートルで走行していた。 
 (c)運行時のバス重量は、16トンであった。 
と仮定する。 
 Aの監視カメラからBの監視カメラまでの走行を計算してみる。 Bの監視カメラでの速度である時速80キロメートルになるためには、両地点の標高差とバスの速度からエネルギーの保存則と空気抵抗(抗力係数を2.0とする)を考慮すると、平均して84キロワット114馬力)の仕事率でブレーキを掛けていることになる。 この間の走行時間は44.6秒である。 
 なお、Bの監視カメラ前方の下り坂右カーブの曲率半径は道路中央で約110メートルである。 この曲率半径を時速80キロメートルで通過するとき、バスに働く遠心力は72キロニュートン7.3トン重)である。 車高3.8メートルの大型バスで、そのバスの重心の高さが2.2メートルであるときにバランスする(外側に振られて内側の車輪の荷重がゼロになり、それよりも重心が高ければ横転してしまう)。 実際のバスの重心は2.2メートルよりは低いとしても、荷重が、片側の車輪に大きく偏っていたことであろう。 
 この後、転落位置までの走行を見てみる。 
 ブレーキを掛ける程度は、それまでと同じとする場合: 平均斜度が小さくなるので、下り坂による加速よりも、空気抵抗による減速の方が大きくなってしまう。 Cの転落位置では、時速64キロメートルとなり、Bの監視カメラ位置から12.5秒後である。 
 ブレーキは、ほとんど機能していない場合: 転落位置で時速74キロメートルとなり、Bの監視カメラ位置から11.7秒後である。 
 転落直前の下り坂左カーブの曲率半径は、道路中央で約90メートルである。 このカーブで内側の車輪が荷重ゼロになる重心高さは、前者で2.8メートル、後者で2.1メートルである。 
 さて、このバスが、Aの監視カメラからBの監視カメラまでの間を、正常に(すなわち、一定速度で)走行していたと仮定してみる。 一定速度であるから運動エネルギーは不変であり、位置エネルギーを、ブレーキと空気抵抗で消費することになる。 もし時速40キロメートルであったなら、この間を67.5秒で駆け抜ける。 このときのブレーキの仕事率は、平均して122キロワット166馬力)である。 
 結果として、「暴走転落バス」のブレーキによって消費されている平均の仕事率は、「正常走行バス」と比べると、7割程度である。 
 この「暴走転落バス」はカーブなどで片輪走行をしていてその際にはブレーキの効きはよくないはずであるから、「正常走行バス」と同程度のブレーキを掛けていた(が、残念ながら車体の傾斜によって有効なブレーキ力は削がれていた)ことを示しているように思われる。 それが、転落前からニュートラルだった場合で、フットブレーキだけであったとしても・・・。 

[補足] 
 もし、この転落バスがこの区間をノーブレーキで走行したとすると、下り坂による加速と空気抵抗による減速とで、Bの監視カメラ位置で時速100キロメートルになる。 このとき、2つの監視カメラ間の走行時間は36.0秒となる。 Bの監視カメラ前方の下り坂右カーブを時速100キロメートルで通過するとき、バスに働く遠心力は111キロニュートン11.4トン重)である。 バスの重心が1.4メートルよりも高ければ横転してしまう計算になる。 バスの床高が1.5メートルであることから、かなり危険な状態であるといえる。 
 このカーブでは転倒しないで、Bの監視カメラ位置から実際の転落位置まで、この状態が続くとする。 この間では平均斜度は小さく、転落位置での速度を計算すると時速89キロメートルになる。 バスの重心が、この下り左カーブにおいても、その前のカーブと同じ値である1.4メートルよりも高ければ横転してしまう。 
 バスの走行時間に対する速度を、下図に示す。 横軸は、Aの監視カメラ位置を通過した時間を基にして、秒単位で示している。 縦軸はバスの走行速度である。 84キロワット114馬力)の仕事率でブレーキを掛けている場合のバスの速度変化を青色で示す。 ブレーキが効いていて、Bの監視カメラ位置で時速80キロメートルである。 赤色の曲線は、ノーブレーキの場合の速度変化である。 空気抵抗がなければ、バスの速度は時間の経過とともに直線的に増加するはずである。 実際には、空気抵抗は速度の二乗に比例するので、速度の増加は頭打ちになってくる。 Bの監視カメラ位置を通り過ぎると、その後の傾斜は2.8%と緩やかになり、下り坂による加速よりも空気抵抗による減速が勝ってしまう。 その結果、バスの速度は減少していく。 
 図31-3 スキーバスの推定速度 
 赤色ノーブレーキの場合 
 青色最高速度が時速80キロメートルの場合 
 緑色時速40キロメートルの定速走行の場合 
 Bの監視カメラ地点で時速100キロメートルであったとすると、ブレーキがほとんど機能していないことを意味している。 
 最高速度が時速80キロメートルであったか、それとも100キロメートルまで加速していたかによって、ブレーキに関する結論が大きく違ってくる。 それを判別する有効な方法として、2つの監視カメラ間での走行時間をカメラ映像から計測することである。 
 では、最高速度が時速80キロメートルであったとして、何故、転落を防げなかったのか? 
 ヒトが急坂を駆け下りているところを、想像するとよい。 ゆっくりと駆け下りている限りは、速度を抑えることもできるし、停止することもできる。 しかし、ある程度以上の速度で駆け下りると、最早、足の力で止めることができなくなってしまう。 転んで止めることしか、できない。 ヒトに加わる単位時間あたりの位置エネルギーから運動エネルギーへの転化が、足の筋肉では消費できないからである。 それが、「バス」で生じた・・・。 破滅する前に急坂が終わりにならない限り、この事態を打開する術は、なかっただろう。
 
<スキーバス転落>下り坂、一時100キロ…ブレーキ使用か

 長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故で、バスの時速は事故が起きた約1キロの下り坂で最高時には100キロ前後に達していたことが、県警軽井沢署捜査本部が押収した運行記録計(タコグラフ)の記録から分かった。 捜査関係者が明らかにした。 転落直前は時速80キロ前後だったことから、フットブレーキが作動するか、エンジンブレーキが利く状態だった可能性がある。 事故から22日で1週間。捜査本部は下り坂でバスが速度を抑えられなかった原因の解明を目指す。【 巽賢司、尾崎修二 】 
 現場の国道18号「碓氷(うすい)バイパス」の制限時速は50キロ。 群馬・長野県境の入山(いりやま)峠から長野県側に入ると、最初の約300メートルは勾配8%の直線の下り坂となっており、この坂でバスが大きく加速した可能性がある。 
 一方、国土交通省が公開した、バイパスの定点カメラの映像を分析したところ、現場手前約250メートルまでの800メートル区間の平均時速が70キロ超だったことも判明した。 この平均時速からも、バスは下り坂の早い段階から制限速度をオーバーしていたとみられる。 
 映像が公開された定点カメラは、峠頂上付近にある「入山峠カメラ」(43.6キロポスト)と、峠から下って事故現場の手前約250メートルにある「軽井沢橋カメラ」(44.4キロポスト)。 入山峠カメラはバスの進行方向とは逆方向を、軽井沢橋カメラは進行方向を映し出している。 
 入山峠カメラの映像では、カメラの手前約125メートル地点に坂を上るバスが現れるのが15日午前1時51分58秒。 この時点ではバスに異常は見られず、ゆっくりと走って同52分5秒に画面から外れる。 
 一方、軽井沢橋カメラがバスを初めて捉えたのが同52分45秒だ。 この映像ではバスは既に高速で走行しているとみられ、カーブで車体が傾く様子が分かる。 バスはこの二つのカメラの間の約800メートルを40秒で走り抜けており、平均時速は72キロになる。

2016年(平成28年)1月23日(土)02時33分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 事故時の状況が、次々に明らかになってきた。 
 バイパスの定点カメラの映像を分析したところ、転落したバスはこの二つのカメラの間の約800メートルを40秒で走り抜けており、平均時速は72キロであったという。 また、バスの時速は事故が起きた約1キロの下り坂で最高時には100キロ前後に達していたことが分かった。 
 最高時には時速100キロメートル前後に達していたということから、バスはノーブレーキに近い状態で走行していたことを示唆している。 二つのカメラの間の距離が、新たに、約800メートルであるということが分かった。 
 この新しい距離を使用して、ノーブレーキでの走行状態を再計算してみる。 
 Bの監視カメラ地点での計算による速度は、時速98キロメートルである。 以前の計算よりも遅い速度になっているが、それは距離が長くなった結果として坂の勾配が小さな値になったためである。 二つの監視カメラの間の走行時間として、38.7秒が得られた。 
 計算された最高速度は記事とほとんど同じ値であり、走行時間も良い値を与えている。 
 Bの監視カメラから転落地点までの走行を見る。 
 走行状態を計算すると、この間を9.7秒で走り抜けて、転落時点では、最高速度よりも10キロメートル小さい時速88キロメートルである。 記事による転落直前は時速80キロ前後だった速度よりも、大きい値になっている。 走行中に、バスは現場手前約100メートル地点で左側ガードレールに接触して、その反動で進行方向を変えて車体を右側に傾かせてセンターラインを越えている。 その後、転落直前に、右側ガードレールは約10メートルにわたって押し倒されるほどにガードレールを擦りながらバスが進行している。 このようなガードレールとの接触による減速を考慮すれば、時速80キロメートルという速度は容認できる。 フットブレーキが作動するか、エンジンブレーキが利く状態だった可能性を考えなくても、転落時の速度を説明できる。 暴走状態になったこの期に及んで、初めてブレーキを掛けるような余裕があるとは思えないし、バスの荷重が片輪に偏っている状況で正常にブレーキが効くような状態ではなかったろう。
 
転落直前は時速96キロ 軽井沢のバス事故

 長野県軽井沢町で先月15日、スキーツアーの大型バスが道路脇に転落し、乗客・乗員15人が死亡した事故で、転落直前の速度が時速96キロだったことがわかった。 長野県警が12日、車載の運行記録計の鑑定結果を発表した。 現場の制限速度は50キロで、2倍近い速度が出ていたことになる。 
 県警は1月20日までに事故車両の検証を終え、車内から走行速度を記録する円盤状の用紙など計4点を押収し、鑑定を進めていた。 
 速度を示す折れ線グラフは、時速96キロを示したあとに急降下し、0キロで止まっていた。 このため、県警は転落直前時の速度と判断した。 
 県警は、現場の下り坂で加速し過ぎたバスが速度超過の状態のまま減速できず、そのまま反対車線側のガードレールに衝突、道路脇に転落した可能性があるとみている。

2016年(平成28年)2月12日(金)19時01分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 長野県軽井沢町で先月15日、スキーツアーの大型バスが道路脇に転落してしまった事故で、転落直前の速度が時速96キロだったことがわかったという。 それは、速度を示す折れ線グラフは、時速96キロを示したあとに急降下し、0キロで止まっていたからである。 
 今までにわかってきたことから、バスの転落に至る走行速度を、推定してみる。 これまでは、空気抵抗の計算に、バスの形状を直方体として「抗力係数」を2としてきた。 もし、半円筒(凸型部分)とすると、その抗力係数は1.2である。 実際には、バス前面は平面でその角がカーブした構造をしているので、「直方体」と「半円筒(凸型部分)」の間の値であろう。 中間の値である抗力係数1.6で、ノーブレーキ状態にあるバスの速度を計算すると、下図のようになる。 ここで、横軸はAの監視カメラを通過した時刻を零として、単位「秒」で示される経過時間である。 縦軸は、単位として「キロメートル毎時」で示されるバスの速度である。 
 図31-4 スキーバスの推定速度 
 監視カメラAの地点で、バスの速度が 
   赤色時速50キロメートルの場合 
   青色時速40キロメートルの場合 
   緑色時速30キロメートルの場合 
 緑色の曲線はAの監視カメラを時速30キロメートルで通過した場合、青色は同40キロメートル、赤色は同50キロメートルで通過した場合である。 緑色の場合、Bの監視カメラの地点で時速102キロメートルの最高速度になり、その後は傾斜が緩やかになるので空気抵抗によって減速して50.2秒後に時速95キロメートルで転落地点に、 青色の場合、時速104キロメートルの最高速度になり、47.4秒後に時速96キロメートルで転落地点に、 赤色の場合には最高速度が時速105キロメートルで、44.8秒後に時速97キロメートルで転落地点に至る。 記事からは、青色の可能性を窺わせるが、ガードレールを擦っていることなどによる減速を考えると、赤色であろうか。 初速に時速10〜20キロメートルの大きな違いがあっても、最終的な速度は1〜2キロメートルの差に縮まってしまうことがわかる。 いずれのケースであっても、転落現場での衝撃には、大きな違いはなかったということであろう。
 

(32)X線天文衛星「ひとみ」に
 
X線天文衛星「ひとみ」、通信途切れる
JAXA発表、原因は不明

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は27日、先月打ち上げたエックス線天文衛星「ひとみ」が通信不良の状態に陥ったと発表した。 原因は不明で、復旧に努めるとしている。 
 JAXAによると、ひとみは26日夕の運用開始時から電波を受信できなくなった。 その後、数回通信可能な状態になり、うち2回はごく短時間だけ電波を受信できたものの、衛星の状態を確認できない状況が続いているという。 
 ひとみはJAXAが米航空宇宙局(NASA)などと共同で開発。 2月17日、種子島宇宙センター(鹿児島県)からH2Aロケット30号機で打ち上げた。 
 観測時の全長が14メートルに及ぶ大型衛星で、高度575キロの円軌道上を回る。 ブラックホールなどが放つエックス線を高感度で観測し、宇宙の成り立ちや進化の解明に挑むのが目的。 日本側の開発費は、打ち上げ費を含め310億円。

2016年(平成28年)3月27日(日)17時22分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
「ひとみ」2体に分離か…「機能回復の可能性」

 宇宙航空研究開発機構(JAXAジャクサ)は1日、正常な通信が途絶えているX線天文衛星「ひとみ」について、3月26日午前10時37分頃に何らかのトラブルで破損し、少なくとも2体に分離した可能性が高いと発表した。 
 地球の上空には約1万7000個の宇宙ごみ(デブリ)が確認されているが、それらは衝突していないとみられることから、「(原因が)衛星内にあるとの立場で究明に努める」(常田佐久さくJAXA理事)としている。 
 分離後の26日午後4時40分頃から通信が異常となったが、ひとみからとみられる電波はその後も地上に届いた。 JAXAは「衛星本体は残存し、機能が回復する可能性はある」とみて、通信の回復を目指す。 6月以降に予定していた本格的な観測の開始が大幅に遅れるのは確実となった。

2016年(平成28年)4月1日(金)21時42分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 
エックス線天文衛星
「ひとみ」軌道に物体10個 米軍確認「良くない状況」

 【ワシントン共同】宇宙空間でトラブルが起きたエックス線天文衛星「ひとみ」の軌道に、10個の物体があるのを確認したと米戦略軍統合宇宙運用センターが1日、ツイッターで発表した。 
 3月27日に確認した際は5個だった。 その後に新たなトラブルが発生したわけではなく、物体の数を精査した結果10個と判明したという。 戦略軍は衛星が分解した破片とみている。 
 データを分析している米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのジョナサン・マクドウェル博士によると、これまで戦略軍が「衛星の主要部分」とみて追跡していた物体は、分離した衛星の一部だったことが判明した。 
 マクドウェル氏は「主要部分に見えるほど破片が大きかったわけで、良くない状況だ」と指摘した。 
 新たに主要部分と認定された物体は、トラブル発生後から徐々に高い軌道に移行しているという。 マクドウェル氏は「トラブルにより、軌道を押し上げるような力が働いたらしい」とみている。

2016年(平成28年)4月3日(日)
毎日新聞 東京朝刊(Web掲載) 赤字は右記引用部分
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は27日、2016年2月17日に打ち上げたエックス線天文衛星「ひとみ」が通信不良の状態に陥ったと発表した。 「ひとみ」は、観測時の全長が14メートルに及ぶ大型衛星で、高度575キロの円軌道上を回っている質量2.7トンの衛星である。 その「ひとみ」のトラブルに関して、「ひとみ」の軌道に、10個の物体があるのを確認したと米戦略軍統合宇宙運用センターが発表した。 そこでは、新たに主要部分と認定された物体は、トラブル発生後から徐々に高い軌道に移行しているという 
 それについて、JAXAは、地球の上空には約1万7000個の宇宙ごみ(デブリ)が確認されているが、それらは衝突していないとみていると発表している。 
 なお、4月9日(土)付けの朝日新聞記事では、「国内外の天文台などに観測を依頼。 得られたデータから、衛星本体は約5.2秒周期で回転している」ということである。 
 これらから、JAXAは否定している「宇宙ごみ」との衝突の可能性を検討してみる。 その根拠は、「大小10個の物体に分裂するような激しい衝撃」と「高い軌道へ移行するためのエネルギーの獲得」が可能な事故としては、最も妥当性が高いからである。 
 天文衛星の形状は、種々の写真から推定することになる。 全長が14メートルであるということから、それを基にして、各部分の大きさを決めてみよう。 衛星上部の細い円筒部分は直径が2.0メートル(推計値、以下同様)で長さ2.8メートル、その下の中央にある太い円筒部分は4.0メートルと4.6メートル、その下の(検出器と本体からの支持棒で構成されている)伸展式光学ベンチは6メートル超である。 衛星最上部の数十センチメートルの突起を含めて、全長14メートルになる。 それぞれの部分の質量は、もっと不明確である。 体積に比例した機器が設置してあるとすると、細い円筒部分は0.3トン超、太い円筒部分が2.2トン程度であろう。 
 機器の設置がバランス良く均等に置かれているとして、慣性モーメントを計算してみる。 慣性モーメントの最も小さい回転は、鉛筆を机の上で転がすような回転の場合で、この衛星の場合は5×10kg ほどであろう。 最も大きい慣性モーメントは、シャープペンシルを親指の周りをクルクル回すような回転様式で、概算で、1×10kg と推定される。 
 それらの回転モードと、その回転が生じる場合の宇宙ゴミの衝突部位の代表的なものを、下図に示す。 
 図32-1 宇宙ゴミとの衝突による天文衛星の回転 
 宇宙ゴミが 
  (a)太陽電池パネルに衝突した場合 
      −鉛筆を机の上で転がすような回転− 
  (b)伸展式光学ベンチの先端に近い部分に衝突した場合 
      −シャーペンを指の周りを回すような回転− 
  (c)天文衛星の胴体部分に衝突した場合 
      −衛星に与えられる回転モーメントは少ない− 
 天文衛星本体の実際の回転モードは?  
 地上からの光学観測で、衛星からの周期的な、パルス状の発光が測定されている。 このような閃くような反射光は、破損を免れた太陽電池パネル部分による太陽光の反射に違いない。 それが規則正しい周期で観測されるところから、太陽電池パネル面が太陽方向と地球方向を挟むような回転をしている証拠である。 そのような条件を満たす回転は、上図の(a)か、回転軸が特別な角度のときの(b)である。 
 また、「ひとみ」の軌道に、10個の物体があるのを確認されている。 このような多くの断片に分かれるような壊れ方は、上図の(a)か(c)である。 
 その上、新たに主要部分と認定された物体は、トラブル発生後から徐々に高い軌道に移行しているという。 断片の周回速度が衛星本体の速度よりも加速されていることを示唆している。 周回速度が加速されることで、遠心力がより大きくなり、そのために高い周回軌道に遷移するから。 このことの原因として、次のようなことが考えられる。 天文衛星の周回方向は、地球の自転方向と同じである。 宇宙ゴミの起源である人工衛星の大部分は、地球の自転速度を活用できる有利さから、地球の回転方向と同じ方向に周回させている。 そのため、宇宙ゴミの周回も地球の自転方向であって、天文衛星とは追突するようなかたちで衝突してしまう。 したがって、衝突によって破断した断片が進行方向に弾き飛ばされた場合には、その速度は、加速されてしまう。 上図の(a)で生じた断片の一部は、そのようにして高い周回軌道に遷移したものであろう。 (c)の場合では、断片は進行方向とは逆の方向に飛び出し、減速してしまう。 
 それらのことを考慮すると、上図の(a)に示すような宇宙ゴミとの衝突の可能性が高い。 
 実際の衛星本体の回転は、鉛筆を転がすような回転を基本に、場合によっては、ミソすり運動を加えたものであろう。 
 その回転の慣性モーメントが1×10kg であると仮定する。 衛星本体は約5.2秒周期で回転していることから、その回転エネルギーは7キロジュールである。 10キログラムの「宇宙ごみ」が衝突してそのエネルギーのすべてが回転エネルギーに転換されたとすると、その宇宙ゴミが相対速度秒速40メートルで衝突したときに相当する。 1キログラムであるとすると秒速120メートル、0.1キログラムで秒速400メートルである。 
 エネルギーの損失があったとしても、衝突した宇宙ゴミの相対速度は2〜4倍(エネルギーは4〜16倍)程度であろう。 この速度が大きいように思われるが、天文衛星自体が秒速7,600メートルで移動していることを考慮すると、0.1キログラムの宇宙ゴミであっても、それの衝突時に必要な相対速度は衛星速度に比べてわずかである。 この高度で周回している宇宙ゴミの速度も秒速7,600メートル程度である(それは、これより速いと遠心力が勝って更に高い高度に上昇し、遅いと重力に負けて降下してしまい、この高度にある物体の速度はほぼ揃っていくから)。 ほぼ同じ速度で移動する2つの物体が衝突するとき、その衝突速度は、2つの物体の衝突角度によって違ってくる。 衝突角度0度のときのほぼ零から、180度のときの移動速度の2倍まで、変化してしまう。 必要なエネルギーを生み出す衝突は、ある程度以上の角度での衝突でなければならない。 衝突エネルギーのうちの1割が衛星の回転エネルギーになるとすると、0.1キログラムの宇宙ゴミの場合には9度以上の角度での衝突で、条件が満たされる。 その宇宙ゴミの大きさは、握り拳ほどである。 
 図32-2 宇宙ゴミと天文衛星との衝突角度 
 宇宙ゴミと天文衛星との衝突角度が 
  (a)ほぼ零の場合 : 衝突しないか、衝突しても軽微 
  (b)小さい場合 : 衝突するも、そのエネルギーは小さい 
  (c)大きい場合 : 衝突時の大きなエネルギーによって、壊滅的なダメージを被る 
 衝突の可能性をみる。 宇宙空間にそれぞれの大きさの宇宙ゴミが同じ数だけ存在すると仮定すると、10キログラムの場合と0.1キログラムの場合で、衝突断面積(弓矢でいえば的の大きさとして理解してもよいが、正確には双方の大きさが関係する。宇宙ゴミに比べて天文衛星が極端に大きいので、近似的には天文衛星の大きさによって決まってしまう)がほとんど違わないので、衝突の確率はほぼ同じである。 地上からのレーダー探知が困難で事前に避けられないということから、逃避行動を考慮すると、0.1キログラムの宇宙ゴミの方が(衝突確率は違わないとしても)衝突してしまう頻度は、大きくなってしまう。 
 実際の宇宙空間では、10キログラムの宇宙ゴミよりもレーダーで探知が難しい0.1キログラムの方が格段に多いと思われるので、衝突頻度は更に大きくなる。 
 極端な話であるが、宇宙ゴミとして10グラム程度のボルト、ナットがあって、それとの衝突エネルギーのうちの1割が衛星の回転エネルギーになると仮定する。 『図50-1 宇宙ゴミとの衝突による天文衛星の回転』の(a)のような衝突で、衛星が約5.2秒周期で回転するようなエネルギーを得るためには、『図50-2 宇宙ゴミと天文衛星との衝突角度』に示す衝突角度の最小値は29度である。 この衛星は赤道上空を約35度で横切っているから、赤道に沿って周回しているこの程度の宇宙ゴミと衝突すれば、この条件を必要以上に満たしていることになる。 10グラム程度よりももっと小さな宇宙ゴミとの衝突は、衛星の破壊には至らないかも知れないが、無視できないことになる。 過去に、人工衛星が分解して生じたこれらのものが周回していれば、衝突の可能性は高い。 
《参考資料》
 図32-3 「ひとみ」の衛星軌道 
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構宇由科学研究所
ASTRO−Hプロジェクトチーム
『ASTRO−Hの科学目標』「図3.11」を引用
 結局、「このX線天文衛星が、地球の上空には約1万7000個の宇宙ごみ(デブリ)が確認されているが、それよりももっと小さい未確認の宇宙ゴミと、衝突してしまった」という可能性は、大きいといえる。
 
衛星ひとみ
異常回転 重要機器分離の可能性

 地球との交信が途絶えたエックス線天文衛星「ひとみ」について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8日、推定5.2秒に1回の異常な速さで回転していると発表した。 軌道上に本体以外の物体3個も確認。 太陽電池パドルの一部や観測装置など重要機器が分離した可能性があり、深刻な状態を裏付けた。 
 東京大木曽観測所(長野県)の望遠鏡観測で、明るさが一定周期で変わる様子が見られ、回転が推定された。 太陽電池パドルなどは3秒で1回の回転に耐えられるが、記者会見した久保田孝JAXA宇宙科学プログラムディレクター「最初は3秒周期より速く回り、パドルなどが離れて5.2秒周期に減速したと考えられる」と語った。 
 ひとみは3月26日午前4時10分ごろ、姿勢に異常が発生。 JAXAは衛星の姿勢を制御するプログラムやセンサーなどに何らかの異常が生じた可能性が高いとみて調べているが、復旧は厳しい状況だ。【 阿部周一 】

2016年(平成28年)4月9日(土)10時55分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
エンジン噴射設定誤る=姿勢回復せず、ミスの可能性も
―衛星ひとみ・JAXA

 交信が途絶えたX線天文衛星「ひとみ」について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は15日、姿勢制御系の異常でゆっくりと回転が始まった後、回復のため化学エンジンの噴射を命じる制御コマンドに誤った値が設定されていたと発表した。 その結果、太陽電池パネルが分離するほどの高速回転に至った可能性があるという。 JAXAはミスの可能性も含め、原因を調べている。 
 ひとみは3月26日夕、通信ができなくなった。 望遠鏡による観測などから、いくつかの大きな部品が本体から分離したとみられる。 
 JAXAの推定では3月26日未明、天体観測に伴う姿勢変更の後、自らの姿勢を把握するセンサーなど姿勢制御系の異常で、ゆっくりとした回転が始まった回転を止める機能がうまく働かず、安全な姿勢に立て直す「セーフホールドモード」に自動的に移行した。 
 しかし、化学エンジンの制御コマンドに不適切な値が設定されていたため、エンジン噴射で姿勢を立て直せず、逆に機体を高速回転させた可能性があるという 
 化学エンジンは2月17日の軌道投入直後の姿勢制御で使われたが、太陽電池パネルなどの展開で重心が変わったため、同28日にエンジン噴射コマンドの値を再設定した。 ひとみの異常判明後に調べたところ、誤った設定値が送信されていたことが分かった。 
 衛星への指令では2月20日、金星探査機「あかつき」の姿勢制御時に誤ったデータが送られ、一時通信が途絶。 JAXAは確認を強化していた。

2016年(平成28年)4月15日(金)18時44分
時事通信(JIJI.COM) 赤字は右記引用部分
 X線天文衛星「ひとみ」の太陽電池パドルなどは3秒で1回の回転に耐えられるとしている。 久保田孝JAXA宇宙科学プログラムディレクターによると「最初は3秒周期より速く回り、パドルなどが離れて5.2秒周期に減速したと考えられる」と話している。 
 衛星の破壊に至る可能性があるという3秒周期より速く回って、そのために壊れてしまったとする説明について、その可否を判定してみよう。 その説明が正しいと判断するためには、次の4つが科学的に妥当な論拠に依っていることである。
(1)突然に、衛星が3秒周期よりも速い回転数で回るようになってしまった。 この突発的な回転数の増加の原因とは? 
(2)衛星が壊れると、いくつかの破片が生じる。 大小からなる10個程度の断片となるような破壊が、遠心力を原因とした破断で可能か? 
(3)高い周回軌道に遷移している一部の断片は、どのようにしてその速度を得たのか? 
(4)突然の3秒周期の高速回転を経て、今の回転数である5.2秒周期へ減速した。 どのようにして高速回転を減速できたのか?
 先ずは、(4)について。 
 JAXA宇宙科学プログラムディレクターは「パドルなどが離れて5.2秒周期に減速したと考えられる」としているが、それは・・・ 
 そこで、回転体の一部が分離したときに働く力を見てみる。 
 図32-4 パドル破壊・分離時に働く力 
  (a)遠心力によって「パドル」が破壊・分離したときに働く力  
      −パドルの分離による反作用で、衛星本体に働く「力」はAの方向−  
  (b)JAXA宇宙科学プログラムディレクターが主張する分離時の力  
      −回転数が減少するためには、Cの方向に「力」が加わることが必要−  
 太陽電池パネル(「パドル」)が遠心力で破壊されて分離されたときに働く力は、物理学の教科書を参考にすると、上図の(a)である。 「パドル」が分離した瞬間、遠心力「@」が解放されてしまって、天文衛星本体にはその反作用で逆方向の力「A」が働くことになる。 この力は、しかしながら、衛星の回転を速くすることにも遅くすることにも、寄与しない。 ただ、「パドル」が飛んでいった方向とは逆方向側に動く力を、得るだけである(*1) 
 しかし、JAXAは「パドル」が分離することで回転速度が3秒周期より速い状態から5.2秒周期にまで遅くなるとしている。 その主張を示す力の関係を図にすると、それが上図の(b)である。 力「C」が、衛星本体の回転速度を遅くするように働いている。 そのためには、分離した「パドル」自体は、「B」のように働く力を想定している。 
 身近な実験例を示せば、この主張が非科学的であることが、実感できるであろう。 水を入れたバケツを両手で持って、水がこぼれない程度の速度でクルクル回転してみよう。 その状態で、バケツを持った手の握りを拡げて、離してしまう。 はたして、回転を止めるような力が働いたであろうか?  否である。 
 バケツを持っていたヒトを座標軸にすると、バケツは遠くに飛ばされていくだけである。 遠心力である上図の「@」の力による運動である。 そのときヒトは「よろけてしまう」が、それは回転を止めるような「C」ではなくて、「A」で示されるバケツとは正反対の方向である。 それが、地球を座標軸にすると、バケツは回転している方向に転がっていくから、上図の「B」の力が働いているように思えてしまうが・・・。 
 回転数が変化する現象をみると、フィギュアスケートでの回転が思い出される。 手足を伸ばして回転している状態から、それらを回転軸の方に引き寄せると、回転数が増加する場面である。 これは、回転のエネルギーを保ったまま、軸まわりの慣性モーメントを減少させることで、回転速度が大きくなる現象である。 ひるがえって、衛星のパドルが破壊・分離した後を考えると、「軸まわりの慣性モーメント」は減少してしまうので、フィギュアスケートでの回転と同じようになりそうである。 しかし、このときは、回転エネルギーの一部を破壊されたパドルが持っていってしまうので、回転エネルギーは保持されることはなく、減少してしまうことになる。 結局、『図50-4 パドル破壊・分離時に働く力』に示すように、回転数は変化しない。 
 戻って、(1)について。 
 その後の調査で、それを説明できる可能性のある原因が発表されたが・・・ 
 天文衛星は3月26日未明、天体観測に伴う姿勢変更の後、自らの姿勢を把握するセンサーなど姿勢制御系の異常で、ゆっくりとした回転が始まった。 そのために衛星が自立的に実施した操作の中で回転を止める機能がうまく働かず、安全な姿勢に立て直す「セーフホールドモード」に自動的に移行していった。 しかし、化学エンジンの制御コマンドに不適切な値が設定されていたため、エンジン噴射で姿勢を立て直せず、逆に機体を高速回転させた可能性があるという。 それにより太陽電池パネルが分離するほどの高速回転に至ったというのである。 
 この可能性は、地上でシミュレーションすることで、「逆に機体を高速回転させた」かどうかを、検証できるはずである。 現段階では、推論にしかすぎない。 
 次は(2)について。 
 遠心力によって、太陽電池パネルが10個程度の多くの部分に断裂するか・・・ 
 太陽電池で、遠心力によって破断すると考えられる部分は、応力が集中する「パネルとそれを支持している躯体との接合部や、躯体を構成している部材」である。 遠心力は衛星の回転軸から離れているほど強く働くので、太陽電池の先端パネルを含む構造部分に最も強い遠心力が発生する。 その力によって破断したとすると、最初は、先端パネルを含む(1枚以上のパネルからなるブロック下図の@)である。 パネルは両翼についているので、最初に破断してしまうブロックは、多くても2つである。 
 図32-5 遠心力によるパドル破壊の連鎖は? 
  @ 最初に生じたパネルブロック部分の破断(ブロックの大きさは推定)  
  A そのつぎに生じるとされるパネルブロックの破断(同上)  
 その破断したブロックが衛星本体から離れてしまったとき、衛星本体の回転速度は増えるか、それとも、減るか?  
 『図50-4 パドル破壊・分離時に働く力』で説明したように、回転速度は不変である。 
 破断せずに残っているパネルブロック(『図50-5 遠心力によるパドル破壊の連鎖は?』の@の時点で、衛星本体に付いているパネルブロック)は、破断してしまったブロックに比べて、より衛星本体に近いところにある。 このパネルブロックに、再破断(『図50-5 遠心力によるパドル破壊の連鎖は?』のAに示すようなパネルブロックの破断)の可能性があるか?  
 衛星本体に近い(回転半径が小さい)ブロックに再破断するだけの遠心力が働くためには、回転速度が不変であるので、最初に破断したブロックよりも大きな質量を持ったブロックでなければならない。 再破断の可能性は低いし、再々破断は起こらないと考える方が自然である。 したがって、天文衛星のパネルブロックが、遠心力によって数個以上の断片に破断してしまうことは、考えられない。 
 遠心力によって太陽電池の躯体との接合部分が破断して、本体を含む3個程度に断裂することはあるかも知れないが、それ以上の断片に破断するとは思えない。 
 最後に(3)について。 
 地上からの観測によって、衛星断片の周回軌道の高さに変化が見られるというが・・・ 
 遠心力によって破断してしまった場合には、破断した時点の衛星の姿勢によって、断片の速度がプラス・マイナスされることになって、それにより、それぞれ、高い軌道・低い軌道に遷移する。 可否の判定は、困難である。 
 ただし、宇宙ゴミによる衝突破断では、この事象が生じる可能性が高いことが、ここに論証してある。 
 結局、JAXAにより発表されている衛星故障に関する主張は 
(1)については科学的な検証を経ていない都合のよい推論である 
(2)については遠心力による破断では多数個の断片が生じる可能性は低い 
(3)については破断した一部の断片が高い軌道に遷移する可能性は判断できない 
(4)については回転速度が減少する説明が非科学的な論考による物理学を無視した虚論である 
 高速回転に伴う遠心力による衛星の部分的な破断が原因であるとするなら、この4つのすべてが科学的な議論によって説明できることが必要であった。 科学的に説明できない事項が1つでもあれば、これが原因であるとする説明は崩壊してしまう。 
 高速回転が破壊の原因とする主張は、衛星が破断したという現象に限ってのみ、説明可能な推論である。 仮定に基づく高速回転に至る過程や、破断進行中やその後の科学的ではない説明に基づく経過については、納得できないことが多い。
 

(*1) ここで働く力についての説明が物理的に正しいとしても、それが実際に生起した現象であるということでは、ない。 
 もし、この衛星の回転軸から3メートル離れた位置で、太陽電池パネルが断裂したと仮定してみる。 天文衛星は3秒以下の周期で回転しているので、断裂前の断裂位置のパネルは、毎秒6メートル以上で円運動をしていることになる。 断裂すると、このパネル断片はその速度で等速直線運動に移行する。 
 この速度は、24時間でパネル断片が衛星本体から500キロメートルも離れてしまう速さである。 衛星は地上から575キロメートルの高さを周回している。 2つの物体が同じ高度で500キロメートル離れているとすると、地球の中心から見た場合は月の視直径の8倍程度と大きくないが、地上から見ると2つの物体の夾角は50度以上になる。 このことは、衛星の断片が衛星本体と寄り添って地球を周回しているという光学観測と、矛盾している。 
 この矛盾を減じるためには、回転軸に近い部分で断裂したとすることである。 しかし、それでは遠心力が小さくなってしまって、断裂が起こり難い条件になってしまう。 
 衛星の分解が、衛星本体の高速回転によってもたらされる遠心力により生起したという解釈には、無理がある。

 
衛星「ひとみ」運用を断念 太陽電池パネルが分解か

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は28日、通信が途絶えていたX線天文衛星「ひとみ」の運用を断念したと発表した。 電源の太陽電池パネルが根元から分解した可能性が高く、回復は見込めないと判断した。 X線を観測してブラックホールなどの詳しい様子を調べる計画だったが、研究も停滞することになる。 
 衛星は2月17日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、3月26日午後4時40分ごろから地上と通信ができなくなった。 機体が複数に分解、回転していることが観測で判明していた。 
 JAXAが原因を調べたところ、衛星の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転。 衛星は自動的に噴射で立て直そうとしたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した。 このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられるという。 
 JAXAは当初、通信が途絶えた後も3月28日までは衛星からの電波を短時間確認できたとし、パネルが太陽の方向を向くようになれば復旧の可能性があるとしていた。 しかし、電波は別の衛星のものだと判明したという。 
 JAXAの常田佐久・宇宙科学研究所長は会見で謝罪し、「人間が作業する部分に誤りがあった。 それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」と述べた。 
 X線を観測して宇宙の成り立ちを探るX線天文学は日本のお家芸とされ、ひとみは6代目の衛星。米国などとの共同開発で、日本は打ち上げ費を含め約310億円を負担していた。【 奥村輝、山崎啓介 】

2016年(平成28年)4月28日(木)21時20分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 
衛星「ひとみ」運用断念
JAXA 設定ミスで分解か
 図32-6 設定ミスで分解か 
2016年(平成28年)4月29日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面 記事中の「見出し」と「図」を引用
 
JAXA
「ひとみ」運用断念 太陽光パネル全て脱落

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は28日、交信が途絶えていたエックス線天文衛星「ひとみ」について、運用を断念すると発表した。 機体へ電力を供給する太陽光パネルが全て脱落し、通信や観測の再開は不可能になったと判断した。 日本のエックス線天文衛星のトラブルは2000年以来、3基連続で、記者会見した常田佐久(さく)理事は「成果を期待していた国民や天文学関係者に深くおわびする」と陳謝した。 
 JAXAによると、3月26日午前4時10分ごろ、実際には本体が回転していないのに、回転していると衛星が誤認し、静止しようと逆方向の回転を始めたらしい。 さらに、姿勢を立て直そうと小型エンジンを噴射したが、事前に地上から送っていた噴射手順のデータにミスがあり、機体が高速で回転。 この遠心力によって、本体に接続されていた太陽光パネル6枚が全て脱落したとみられる 
 JAXAはトラブル後、ひとみから計3回にわたって電波を受信できたことを根拠に、本体機能が維持されている可能性があるとみていたが、この電波は別の人工衛星のものだったと結論付けた。 壊れた機体は高度約580キロの軌道を回っているが、徐々に高度を下げ、大気圏に突入して燃え尽きるとみられる。 JAXAは、原因の調査結果を今後2カ月以内にまとめる方針だ。 
 ひとみは全長14メートル、重さ2.7トン。米航空宇宙局(NASA)と共同開発した最新鋭の検出器を搭載し、2月17日に鹿児島・種子島宇宙センターからH2Aロケット30号機で打ち上げられた。 日本のエックス線天文衛星としては6代目で、開発費は総額約310億円。 
 ブラックホールや銀河団など、巨大なエネルギーを伴う現象を観測するエックス線天文衛星は、かつて日本の「お家芸」とされてきた。 しかし、00年に「アストロE」の軌道投入に失敗。 05年に打ち上げた「すざく」も観測装置を冷却する液体ヘリウムの漏えいが発生。 計画通りの観測ができないまま運用が終了し、3回連続のトラブルとなった。 
 現在、後継機の計画はなく、次のエックス線天文衛星は欧州宇宙機関(ESA)が28年に打ち上げを計画しているだけだ。 最新のエックス線天文衛星による空白期間が12年間生じることになり、研究が停滞する恐れがある。 
 常田理事は「前例のない事態。原因究明と再発防止が終わるまで先のことを言う状況にない」と沈痛な表情で語った。【 阿部周一 】

2016年(平成28年)4月28日(木)21時30分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 JAXAは、天文衛星「ひとみ」の故障原因を、朝日新聞によると、「衛星の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転。 衛星は自動的に噴射で立て直そうとしたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した。 このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられる」と発表した。 遠心力によって壊れた可能性のある弱い部分は『図50-6 設定ミスで分解か』中に×で示された箇所であろうという。 
 毎日新聞では「実際には本体が回転していないのに、回転していると衛星が誤認し、静止しようと逆方向の回転を始めたらしい。 さらに、姿勢を立て直そうと小型エンジンを噴射したが、事前に地上から送っていた噴射手順のデータにミスがあり、機体が高速で回転。 この遠心力によって、本体に接続されていた太陽光パネル6枚が全て脱落したとみられる」としている。 
 ただし、 
 朝日新聞に示されている「伸展式光学ベンチ」の根元部分の破壊が、「高速回転で遠心力がかかる」ことによるものとして力学的に可能か? 
 確かに、この衛星の模型を手に持って振り回せば、最初に壊れる部分である。 だからといって、実際の衛星がそのようにして壊れたということとは、別の話である。 この部分に遠心力が働くような回転を考えると、この部分では「引張力」となる。 太陽電池パネルに働く「剪断応力」とは違って、強い力に耐えることができる。 さらに、この回転の「慣性モーメント」は比較的大きいので、化学エンジンの噴射による回転が生じても、その回転数の増加は穏やかである。 急激な回転数の増加があれば、「遠心力」ではなくて「たわみ力」によって(衛星を振り回したときと同じ応力で)、折れてしまうことが生じるかも知れない。 しかし、徐々に増えていく回転では、その力は大きくない。 「折損」する可能性は、ほとんどない。 
 毎日新聞が「伸展式光学ベンチ」の根元部分の破壊については触れていないのはこのことを考慮してのことであるとすると、「急増した放射性炭素 」でも取り上げているように、科学記事に関しては「毎日新聞」の方が一歩上をいくように思われる。 
 地上からの観測結果で10個程度の破片に分解しているということであるが、それだけの破片に断裂してしまうことは可能か? 
 この壊れ方では、可能性の少ない「伸展式光学ベンチ」の折損を含めても、観測結果よりも遙かに少ない3つの破片が生じるだけである。 それらの破片が、更に10個程度の破片に断裂するためには別の応力が必要であるが、その存在を力学的に明らかにできない。 
 地上からの光学観測で衛星本体からの周期的な太陽光の強い反射が見られているが、そのための反射平面の存在が説明できるか? 
 衛星本体に反射能が高くてある程度の大きさの平面を持つ部分が存在していることを示唆している。 常識的には、太陽電池パネルの一部であろう。 それが、衛星本体に残存しているとすると・・・。 
 結論として、衛星が破壊されるに至る過程として、「衛星が高速回転することで、記事中の「×」部分が破壊してしまった」ということを認めることは、難しい。 
 JAXAによる説明からは、故障の原因が「事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した」という「人為的な操作ミス」に収束しようとしているように感じられる。 
 宇宙ゴミとの衝突の可能性を裏付ける記事が、「国際宇宙ステーションではゾッとする絶対見たくない写真」ギズモード・ジャパン(2016年5月27日(金)12時10分配信)赤字は下記引用部分)中に記述されている。 そこでは、数マイクロメートル程度の大きさの宇宙ゴミが、国際宇宙ステーションの観測用モジュール「キューポラ」のガラスに衝突したときの写真が公開されている。 
《参考資料》
   目に見えないほどのゴミが宇宙では命取りに。 
 イギリス人宇宙飛行士のTim Peakeさんによって撮影されたこの写真。 これは、国際宇宙ステーションの観測用モジュール「キューポラ」のガラスにできた、たった7mmのキズなんです。 
 これは宇宙のゴミが当たってできたものなんです。 大きなひびではないですし、もちろん国際宇宙ステーションのガラスは何層にもなっているので直接的な危険はないですが、ゾッとはしますよね。 びっくりするのはその「ゴミ」のサイズ。 これはおそらく「数ミクロンの小さな塗料の剥がれか、金属の小さな破片」によってできたキズだと欧州宇宙機関は説明しています。 
 図32-7 国際宇宙ステーションではゾッとする絶対見たくない写真 
 でも地球では目に見えないほどの数ミクロンのものが、軌道速度ではこんなに大きな損傷を与えてしまうんです。 忘れがちですが、宇宙は地球とは環境が違いすぎます。 欧州宇宙機関は以下のように語っています。 
 『これは小さなキズですが、大きなゴミはもっと深刻なダメージを与えかねません。 わずか1cm以下の大きさのゴミでも、衛星の機器や飛行システムを完全にダメにしてしまうのです。 1cm以上のゴミは国際宇宙ステーションのクルー・モジュールの甲板を貫通してしまいますし、10cm以上のゴミになると衛星や宇宙船自体を粉々に破壊してしまうのです。』 
 宇宙のゴミを甘く見てはいけないって言うことです。
 
2016年5月27日(金)12時10分
ギズモード・ジャパン
「国際宇宙ステーションではゾッとする絶対見たくない写真」
という。 
 厳重な監視下にある国際宇宙ステーションであっても、「数ミクロンの小さな塗料の剥がれか、金属の小さな破片」の衝突は、避けられないということである。 衝突した宇宙ゴミが1センチメートル程度のボルト、ナットであれば、「数ミクロンの小さな塗料の剥がれか、金属の小さな破片」の1万倍程度のエネルギーを持っているので、その衝撃ははるかに激しいものであろう。

[補足] 
 宇宙空間での様々な現象を、地上での認識と混同して理解していることが多い。 
 たとえば、宇宙空間は無重力である。 
 大型バスの「重さ」は「零」である。 重さが零であるので、大型バスであっても指先で持ち上げることができるハズである。 そのように、ついつい思ってしまう。 人工衛星に、その大型バスが、ゆっくりと、近づいてくる場面を想像してみよう。 衝突してしまう?  そこで、急いで宇宙服を着たうえで人工衛星の上に立って、指先一本で、近づいてくる大型バスを押し退けてしまおうとする・・・ 
 ガシュギューッーシュー・・・! 
 新聞の科学欄にも、疑問なものがある。 
《参考資料》
 
科学の扉
生命、宇宙に起源?
飛来説検証 ISS外に「寒天」
 今年8月、「エアロゲル」と呼ばれる実験装置が、ISSから米国の補給船に載せられて地上に届けられた。 上空400キロを周回するISSの外に設置され、約1年間宇宙空間にさらされたものだ。 
 ゲルは一つの大きさが10センチ四方ほど。 寒天のような素材でできていて、微粒子などが衝突するとめり込むようになっている。 秒速約8キロで移動するISSで宇宙にある小さいちりを採取するのが狙いだ。 その中に、生命体に欠かせない有機化合物があるかを調べる。(後略)
 図32-8 生命の「種」を探す たんぽぽ計画 
 (記事に掲載されている図の一部) 
 
2016年(平成28年)11月13日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版31面(扉)
 秒速約8キロで移動するISSにおいて、「上図」で「ちりがエアロゲルに秒速8kmで衝突」するという。 そこでは、「ちり」が空中に漂っているようである。 ちりが浮遊しているところに秒速約8キロで移動するISSが突き抜けていくので、「ちりがエアロゲルに秒速8kmで衝突」するということである。 
 微細なちりが、空気中に浮遊していることは、日常的に見られる現象である。 ちりは風に吹かれ、上昇気流に乗って空中高く巻き上げられる。 その巻き上げられたちりは、空気分子と衝突しながら、長時間、空中に浮遊しているのである。 
 しかし、宇宙空間でも同様であろうか? 
 ISSが周回している高度では、単位体積当たりの空気分子の数は、地上の5千億分の1である。 空気のほとんど存在しない宇宙空間では、ちりは空気分子と衝突することがない。 空気分子と衝突しないちりは、重力に逆らって、その場に漂うことは難しい。 そのため、ISSが周回している400キロメートルの高度に浮遊しているちりは、存在しない 
 これは、この高度に「ちりは、存在しない」という主張ではない。 この高度にも、ちりは、存在する。 そのちりは、浮遊しているのではなくて、高速で移動しているのである。 地球圏外から飛来してきたちりは、地球の重力で加速され、速度を減速させる要因である空気分子との衝突もなく。 
 ちりといえば浮遊しているものだとの認識は、地上での常識であって、宇宙空間ではそうではないことになる。 
 「ちりがエアロゲルに秒速8kmで衝突」するとの記述が間違っていることは、分かってもらえただろうか。 
(1)『図50-8 生命の「種」を探す たんぽぽ計画』中の左下部分に、あたかも漂っているかのように描いてあるちりは、実際の姿とは大きく異なっている。 地球の重力圏外から飛来したちりは、高度400キロメートルでは、地球の引力によって得られる速度が毎秒44キロメートルである。 地球の公転による速度が毎秒30キロメートルであるので、ちりの地球への進入角度により、ISS付近では、毎秒14〜74キロメートルの速度で降り注いでいることになる。 深海でのマリンスノーが降り積もっている情景を思い浮かべると、大きな間違いを犯すことになる。 
(2)このときの衝突速度は、「秒速約8キロで移動するISSの速度」と、「地球へ高速で落下していくちりの速度」の双方によって決まる。 図中に記されている「ちりがエアロゲルに秒速8kmで衝突する」は間違いで、毎秒6〜82キロメートルの広い速度範囲で衝突することになる。
 

(33)予測を超えて降るかも、50年に1度の大雨
 
特別警報 差し迫る危機
災害大国 >被害に学ぶ
 図33-1 特別警報 差し迫る危機 
2016年(平成28年)5月30日(月)
朝日新聞(東京)朝刊13版35面(部分)
 記事の中で、次のような記述がある。 
 特別警報は、3年前に運用が始まった。 警報の発表基準を大きく上回り、すでに危険が差し迫っていることを示している。 この段階で身を守るためにできることは限られる。 注意報や警報、降水量などの情報を参考に、早め早めに避難などの判断をすることが大切だ。 
 ここでは、「大雨に関する特別警報」を考えてみる。 

 そのことに対する結論を先に示すと、「『気象庁による大雨に関する特別警報の発表基準の策定法』には、予想される降水量に過小評価の恐れがある。 特別警報の発表時には、その発表の基準としている降水量よりも多いことを想定しておく必要がある。」ということである。 
 このような結論になった理由を、以下において、図を援用しながら説明する。 

 特別警報を発表する基準作りについては、気象庁のホームページにある「確率降水量の推定方法」に、図表をもちいて詳述されている。 そこに記されている解説を参考にして、その『基準策定』の妥当性を検討してみる。 
 具体例として、「東京」の年最大日降水量をもちいる。 使用したデータは、「気象庁の過去の気象データ検索」で得られる1876年から2015年までの140年分の年最大日降水量である。 140件の年最大日降水量を、10ミリメートル刻みで度数分布を得た。 それを、下図に示す。 
 図33-2 東京の年最大日降水量の出現度数 
 この『図51-2 東京の年最大日降水量の出現度数』で、横軸は10ミリメートル刻みで示した年最大日降水量である。 たとえば「50」と記されている階層では、その降水量が50ミリメートル以上60ミリメートル未満であることを示している。 縦軸は、その降水量が観測された度数を示す。 青の棒グラフが、その度数を表している。 
 観測値をガンベル分布曲線( Gumbel distribution、ドイツの数学者である Emil Julius Gumbel に因む名称であるから「グンベル分布曲線」とすべきであるが、英語読みの「ガンベル分布曲線」が一般的になっている)でフィッティングする。 パラメーターの最適値は、η=3.7、μ=86である。 それを、赤の曲線で示す。 
 赤の分布曲線を実測値と比較すると、観測個数の多い「50〜140ミリメートルの降水量領域」の寄与が非常に大きいこととも相まって、この領域での分布曲線は充分に合理的である。 ただ、140ミリメートル超の部分では、分布曲線は、ほとんどの実測値を下回って描かれている。 豪雨のときのような降水量の解析が目的であるので、降水量が多い領域で実測値を下回って示されてしまう分布曲線には、問題があるかも知れない。 
 この「確率分布曲線」から得られる「確率降水量」と「再現期間」との関係を、年最大日降水量の観測値と一緒に、下図に示す。 
 図33-3 東京の年最大日降水量に対する再現期間 
 青いプロット:それぞれの年最大日降水量とその再現期間の関係 
 赤の曲線:確率分布に基づく年最大日降水量に対する再現期間 
  
 (注)降水量の多い領域で、「『確率分布曲線から得られた再現期間』の太い赤の曲線は、 
   菱形の青のプロットから離れている。 
  
    その原因は、赤の曲線を計算するために使用した統計確率が、 
   上に示した図51-2 東京の年最大日降水量の出現度数』にある「東京」の年最大日降水量の出現度数において、 
   降水量データの多い「中降水量の領域」についてフィッティングされていて、 
   降水量の多い領域で、確率的には、ほぼ"零"であるとみなされているから。 
 上の『図51-3 東京の年最大日降水量に対する再現期間』で、横軸は「年最大日降水量」と「確率降水量」である。 縦軸は再現期間である。 
 ここで取り上げた年最大日降水量の最大値は、1958年に観測された371.9ミリメートルである。 その再現期間は、データ数が140であるので、234年になる。 2番目は1938年の278.3ミリメートルで88年になり、3番目は1996年の259.5ミリメートルで54年になる。 
 さて、『図51-3 東京の年最大日降水量に対する再現期間』の中で、降水量が多い領域で、計算によって求められた再現期間が、観測データと大きく違っている。 
 その原因は、『図51-2 東京の年最大日降水量の出現度数』にある「370」の階層(370ミリメートル以上380ミリメートル未満)に、度数「1」のデータがある。 この階層の「確率分布曲線」の値は、観測された度数「1」に比べて、はるかに小さい値である。 2番目の降水量値を含む「270」の階層や、3番目の降水量値を含む「250」の階層も、同様である。 その図に示した「ガンベル分布曲線」では、これらの階層の度数を、正確に表現できていないからである。 
 豪雨を予測する際に重要なデータは、降水量の少ない範囲ではなくて、降水量が多い領域である。 この領域で、「観測された度数の分布」と「赤の曲線で表された確率分布」とは、一致していない。 実際には「0.7%の頻度」で生起している現象が、統計的には「0.1%以下の確率」であるとされるように。 
 そのためには、「370」や「270」、「250」などの階層で、実際の度数に近い値になるように分布曲線を膨らます必要がある。 降水量が多い領域で、「計算によって求められた再現期間」と「観測データ」が一致するように「確率分布曲線」を修正することは、数学的には可能である。 そのように確率分布曲線を修正すると、「計算によって求められた再現期間」と「観測データ」とは、驚くほどに一致する(*1) ようになる。 しかし、修正された確率分布曲線は降水量の観測値と大きく矛盾している。 「降水量に関する再現期間」がすべての降水量領域で合理的であり、それを算定するための基礎データとしての「降水量の確率分布曲線」が統計的に納得できるという状態は、存在しないと考えられる。 
 『図51-2 東京の年最大日降水量の出現度数』は「ガンベル分布曲線」で近似しているが、それ以外の「確率分布関数」を使えば、観測結果との一致の程度は違ってくる。 その違いは、例えば、SLSCStandard Least Square Criterion)の値に、反映される(*2)。 しかし、豪雨について推計する際に重要な要素である降水量の多い部分の一致の程度は、どのような「確率分布関数」を使ったとしても、『図51-2 東京の年最大日降水量の出現度数』の場合と五十歩百歩である。 
 その図中に示されている「370」の階層で、「270」の階層で、そして「250」の階層で、確率分布曲線上では「はるかに少ない確率ほぼ0パーセントの確率として」評価されている』ことで、統計的には何をもたらすか?  
 それは、この区分で実際に生起している現象の頻度が、統計的には少なく見積もられてしまうことである。 では、「少なく見積もられてしまう」とすると、どのような不都合なことが生じるか?  統計的な確率が小さく見積もられてしまった階層では、実際よりも少ない割合で発現するとして処理されてしまう。 
 『図51-3 東京の年最大日降水量に対する再現期間』で、降水量の少ない領域では、計算された再現期間(赤色の曲線)と観測されたもの(青色のプロット)とは、ほぼ一致している。 しかし、降水量が多い領域では、観測されたものに比べて、再現期間がかなり大きい値になっている(そのような降水量が再来すると統計的に推計された繰り返し間隔が、実際の繰り返し間隔よりもかなり大きくなっている)。 それは、確率分布(『図51-2 東京の年最大日降水量の出現度数』の赤色のガンベル分布曲線により示されたもの)が、実際の頻度(同じ図中の青色の棒グラフ)よりも少ない確率であると評価された結果を反映したものである。 
 豪雨とされるような現象に関して、実際に生起する頻度は、統計による推計確率よりも、大きいことになる。 日降水量が224ミリメートルを記録する気象状況の出現が50年の間隔であるとする「統計的な確率」が計算されたとき、実際には"50年"よりも短い間隔である"27年間隔"で生起することになることを意味している。 そのため、50年に1度の割合で生起している日降水量は、ガンベル分布曲線を基にして統計的に推計された『図51-3 東京の年最大日降水量に対する再現期間』の「224ミリメートル」ではなくて、それよりも多い「256ミリメートル」であるかも知れない! 
 結果として、「気象庁による大雨に関する特別警報の発表基準の策定法」には、予想される降水量に過小評価の恐れがあることを指摘したい。 特別警報の発表時には、その発表の基準としている降水量よりも多いことを想定しておく必要があるということを示唆している。
 

(*1) 「計算された再現期間」が「観測値」に一致するように、確率分布を変更してみる。 それを満たすガンベル分布曲線を示す前に、先ず、そのガンベル分布関数から得られた「降水量に対する再現期間の関係」を示して、「計算された再現期間」と「観測値」との一致の程度を見てみる。 

 図33-4 降水量に対する再現期間の関係 
 青いプロット:それぞれの年最大日降水量とその再現期間の関係 
 赤の曲線:ここで定めた確率分布に基づく年最大日降水量に対する再現期間 

  上に示す『図51-4 降水量に対する再現期間の関係』は、確率分布に基づく降水量に対する再現期間が降水量の多い領域でも一致するようにパラメーターを定めた場合で、その最適値はη=4.6μ=77である。 『図51-3 東京の年最大日降水量に対する再現期間』では大きく外れていた降水量の多い領域でも、驚くほどに一致している。 『図51-4 降水量に対する再現期間の関係』が示すグラフは、一見して、合理的であるように、見える。 
 それでは、『図51-4 降水量に対する再現期間の関係』の再現期間を計算するために使用した確率分布を与えているガンベル分布曲線(η=4.6μ=77のとき)を下に示す。 

 図33-5 降水量の多い領域での再現期間を重視したときの確率分布曲線 

  『図51-5 降水量の多い領域での再現期間を重視したときの確率分布曲線』の多降水領域での確率分布を見ると、『図51-2 東京の年最大日降水量の出現度数』に比べて、降雨確率の予想値の上昇が認められる。 しかし、少〜中降水量領域での分布曲線では、観測値から大きく外れている。 特に、少降水量領域では、言うまでもなく、非適切な確率を与えていることは明らかである。 確率分布としては、失格である。 
 「計算された再現期間」が「観測値」に一致することを優先して、それに従うように確率分布曲線を変更することは、非科学的であって、非合理的なものであることが分かる。

(*2) SLSCによって、「観測による度数分布」と「統計による確率分布」との間にある偏倚の程度が、定量的に表すことができる。 SLSCの値に着目していれば、適用した「確率分布」が適切であるかどうかを、チェックできるということである。 
 しかし、SLSCは、全データの偏倚から計算される量である。 降水量の少ない部分も、多い部分も、引っ包めて計算される量である。 
 そのため、SLSCは、豪雨を予測する際に重要なデータである降水量の多い部分ではなくて、少ない部分での一致の程度によって決まってしまう。 何故ならば、下図で、 

 図33-6 年最大日降水量に対する再現期間 
 青いプロット:それぞれの年最大日降水量とその再現期間の関係 
 赤の曲線:確率分布に基づく年最大日降水量に対する再現期間 
 ピンク色楕円内のプロット:SLSCの値の決定に大きく寄与するデータ群 

 紫色で示された楕円中のデータの寄与が、大きいからである。 降水量の多い領域のいくつかの実測値が統計の分布曲線から大きく外れていたとしても、全体の中に埋もれてしまう。 
 『図51-6 年最大日降水量に対する再現期間』で、豪雨の予測に重要なデータである「X1」、「X2」、「X3」などのプロットは、統計確率で算出された再現期間を示す赤い曲線から、かなり離れている。 しかし、それがSLSCの値を極端に大きくすることはない。 SLSCは、「X1」、「X2」、「X3」などのような結論に大きな影響を与えるデータに対して、鈍感である 
 鈍感な指標を使って、議論の正当化を図るようなことは、好ましくないと考えている。


[補足] 
 年最大日降水量の分布が、降水量の「少ない〜中くらいの領域」と「多い領域」では異なっていると考えると、合点のいく説明ができる。 分布が異なっている原因は、降水のメカニズムが違っていて・・・。 
 降水メカニズムの違いは、台風の関与が考えられる。 
 1958年9月26日に観測された年最大日降水量371.9ミリメートルは、台風195822号によるものである。 2番目の1938年6月29日の278.3ミリメートルは、梅雨末期に南方から近づいてきた熱帯低気圧により、3番目の1996年9月22日の259.5ミリメートルは、台風199617号によるものである。 多降水量領域に相当する年最大日降水量が170ミリメートル以上である15個のデータについて、以下の表に示す。 
表33-1 年最大日降水量の多い方から15個のデータ
       日付    日降水量 
(ミリメートル)
         備考                 
1958・9・26371.9台風195822号
1938・6・29278.3熱帯低気圧(関東地方を北東進)
1996・9・5259.5台風199617号
1993・8・27234.5台風199311号
1966・6・28225.5台風199604号
2004・10・9225.5台風200422号
1991・9・19220.5台風199118号
1981・10・22215.0台風198124号
1989・8・1195.0低気圧による降水(本州南方には台風198912号)
101920・9・30193.7大正9年の台風(遠州灘沖から関東地方を北東進)
112001・10・10186.0低気圧による降水
121986・8・4185.0台風198610号
132013・10・16176.5台風201326号
141929・9・10175.9熱帯低気圧(関東地方を北東進)
151906・8・24171.5熱帯低気圧(関東地方を北東進)
 これらのうち、9番と11番を除いて、台風かそれに準ずるものによる南方からの大規模な暖湿気団の集中的な流入が原因である。 このようなことが、降水量の多い領域での確率分布を支配している。 
 つぎに、少降水量領域に相当する年最大日降水量が70ミリメートル未満である15個のデータについて、以下の表に示す。 
表33-2 年最大日降水量の少ない方から15個のデータ
       日付    日降水量 
(ミリメートル)
         備考                 
1967・10・2743.0台風196734号(関東通過、990ヘクトパスカル程度)
1978・4・654.0日本海中部低気圧
1962・11・355.3前線
1976・10・956.0南岸低気圧
1893・5・356.3(*)
1900・7・856.9(*)
1953・6・2460.0日本海中部低気圧
1964・8・2061.9台風196414号(北陸を北東進、990ヘクトパスカル程度)
1918・3・1662.3南岸低気圧
101886・9・2664.5(*)
111980・9・1065.5台風198013号(九州・中国地方西部を北北東進)
121987・9・466.0前線
131902・8・366.3(*)
141934・11・267.0日本海北部低気圧
151919・7・2969.9熱帯低気圧(台湾東方沖)
(*) この時代の天気図が曖昧であるため判定できない
 台風などの接近がなかったり、それが接近してきてもその影響が限定的であった「年」では、上空への強い寒気流入によって集中豪雨が起きたとしても、降水の元となる大気中の「水の補給」が続かない。 トータルの降水量が多くなることは、ない。 これによる降水が支配的である場合が、少〜中降水量領域での確率分布を形成している・・・と。
 

(34)欧州の気象予報は気象庁よりも
 
台風10号が発生

19日夜遅く、伊豆諸島の東の海上で台風10号が発生しました。 
気象庁の観測によりますと、19日午後9時、伊豆諸島の八丈島の東の海上で熱帯低気圧が台風10号に変わりました。 
中心の気圧は994ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は18メートル、最大瞬間風速は25メートルで、中心の北側220キロ以内と南側170キロ以内では、風速15メートル以上の強い風が吹いています。 
台風は1時間に20キロの速度で西へ進んでいて、今後、日本の南の沖合を進むと予想され、気象庁は台風の情報に十分注意するよう呼びかけています。

2016年(平成28年)8月19日(金)22時29分
NHKニュース Web版
 
台風10号 「非常に強い」
30日にも東日本へ 上陸地点の予想困難

 台風10号は27日、勢力を強めながら本州の南海上を東へ進んだ。 気象庁の予報では30日から31日にかけて東日本に上陸する恐れが高まっている。 上陸の可能性がある地点は静岡から函館まで広範囲に及ぶ。 台風10号の動きは、大きく回転する上空の気流「寒冷渦」の動きに左右されるため、気象庁は進路予想について「非常に難しい」としている。 
 気象庁によると、台風10号は27日午後9時現在、沖縄県・南大東島の東南東約370キロ沖を東北東へ時速15キロで進んだ。 中心気圧945ヘクトパスカル、最大風速45メートルで半径130キロ以内は風速25メートル以上の暴風域になっている。 
 27日には強さの表現が4段階で上から2番目の「非常に強い」に発達した。 30日には関東地方の東方沖に達し、31日にかけて進路を北西へ変え、東日本に上陸するとみられる。 
 もともと台風10号が発生したのは関東地方南東沖だった。 当初は西へ進み停滞していたが、列島東側の太平洋高気圧が張り出したため、高気圧の縁を回る風が台風を東へ反転させた。 
 寒冷渦と呼ばれる寒気を伴う大きな渦状の気流が、この台風を北西へ引き寄せる。 気象庁の予想では27日夜には列島北側の偏西風が南へ蛇行し、偏西風から気流が分かれる形で朝鮮半島付近に寒冷渦が発生。 28日には南下するとみられる。 
 ただ、寒冷渦と台風の動きは流動的だ。 早い段階で両者が接近すれば、台風は強い勢力のまま東海から関東にかけて近づくが、接近が遅いほど東北、北海道へと上陸場所が変わる。 東へ移動するほど勢力は衰えるという。 
 気象庁の松本積主任予報官は「東へ逃げる台風を寒冷渦が西から追いかけるような状態になっている。 渦の動きも加味しなければならず、予想は非常に難しい」と話している。

2016年(平成28年)8月28日(日)07時55分
産経新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 欧州の気象予報機関による予測は気象庁よりも信頼できるとも言われている台風の進路予報について論じてみる。 
 日本の気象庁は、台風について、5日後の進路を予報している。 それ以後の進路は、正式には発表されていない。 しかし、「週間予報支援図」などを参照すると、大概なことを知ることができる。 当然ながら、台風の進路予報のための資料ではないから、あくまでも参考程度に使うべきであるということを前提にして・・・。 
 無理を承知でこのような使い方をするのは、農業などの自然現象を相手にしている仕事では、一週間先の気象状況を知りたいことが多い。 種蒔きであれば後日に延期したり、穫り入れでは早々に行うなど、気象予報の内容によっては作業日程の変更を考えなければならないから。 
 そのような資料の入手源として、気象庁の他に、Web経由でヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)がある。 この資料は台風の進路予報を目的としたものではないが、中期的な台風の予報情報としての利用が可能である。 
 気象庁では「週間予報支援図」などを利用して8日後まで、ECMWFでは10日後まで、それぞれが予報している天気図に基づいて台風と思われる低気圧の進路を追跡できる。 このタイムスパンなどの違いからか、気象庁よりもECMWFの方が信頼できると考えているヒトも多いようである。 
 そこで、台風10号の動きは、大きく回転する上空の気流「寒冷渦」の動きに左右されるため、気象庁は進路予想について「非常に難しい」とされる台風201610号(Lionrock)を材料にして、検討してみよう。 これは1つの例であって、普遍的なものではない。 
 それでは、台風201610号(正確には、台風201610号と思われる低気圧)の気象庁とECMWFの予報結果を、下図に示す。 台風位置を予報した日時としては、予測の初期値に使った気象現況(天気図など)の時刻をもちいることにする。 Webなどで得られた日時とは、1日程度のギャップがあることになる。 
 この図は、すべて、「2016年8月30日午前9時」に、台風201610号が存在する可能性が最も大きいとされている地点を示している。 
 図中のGは2016年8月22日午前9時を起点として予測した(8日後の8月30日午前9時時点での)台風位置である。 Fは23日午前9時を起点として予測した(7日後の)台風位置である。 Eは6日後の台風の予報位置で、Dは5日後の台風の予報位置で・・・。 @は29日午前9時を起点として予測した(翌日午前9時の)台風位置である。 白抜き青色の数字は気象庁の予報位置であり、白抜き赤色の数字はECMWFの予報位置である。 
 図34-1 台風201610号(Lionrock) 
 8月30日午前9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は8月30日午前9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 台風201610号の実際の進路は「デジタル台風」などから得られ、8月30日午前9時の台風位置を中心とした半径300キロメートルの円を緑色で示してある。 
 気象庁の予報では、8日後予報のGを除いて、ほぼ信頼できる位置を予測している。 ECMWFでは、8日後予報のG、7日後予報のF、6日後予報のEについて、気象庁の8日後予報のGと同様に、予測精度が劣っている。 
 結論としては、この台風に限っては、気象庁は1週間前の予報が、信用しても良いとする程度の正確さがあった。 ECMWFでは、5日前を含むそれよりも短い予測期間について、気象庁と同程度の正確さがあった。 ただし、この台風の進路を左右する東方海上の高気圧と日本海に南下してきた寒冷渦の挙動が安定していて、台風上陸の5日ほど前からの進路予測を狂わす擾乱はほとんどなかった。 台風が辿る経路は、この高気圧と寒冷渦によって形成される比較的狭い回廊であり、この回廊の気流が台風を押し流していくことであった。 そのため、台風の予測位置は『図52-1 台風201610号(Lionrock)8月30日午前9時に到達するとされた予報位置』中のD〜@で示されるほぼ同じところに重なるという結果になった。 
 この台風は、1週間ほど前から進路回廊が明瞭になっていたので、予報の焦点は台風が進む速度の変化を把握することであった。 予報進路の検証に使うという点では、適切ではなかった。 
 しかし、『図52-1 台風201610号(Lionrock)8月30日午前9時に到達するとされた予報位置』中で、2つの予報機関についてのFとEに関する違いは、見過ごせないものであると考えている。 
 台風予報で一番に重要なことは、「台風が、その予報位置に到達した日にちが正確であることよりも、その台風が居住地に影響を与える進路を取っているかを正確に予測することである」と思っている。 その時間に多少のズレがあったとしても、台風の進路に面していればそれなりの注意を払うはずである。 早かれ遅かれ、台風がやって来ると・・・。 大事なのは、台風が通る道筋を正確に予報してくれることである。 
 それを重視する立場からは、過去におこなわれていた「扇形」による進路予報は、到達時間の誤差を示せないとして捨て去られてしまった方式であるが、現行の方式である円による位置予報が「時間成分」の誤差が大きい場合にその程度に応じて範囲が拡がってしまって「進行方向」に関する予報が曖昧になってしまうという望ましくない欠点を持っているので、そのようなことがないという点でより優れた方式であると思っている。(*1) 

 台風が接近してくるとき、一般的に、台風最接近の24時間前に、それを予兆するかのように風が強く吹き続けるといった状況にはない。 普段よりも生温かい海風がやや強いかな・・・という程度の天候である。 頭上に高層雲や彼方に積雲が広がっているとしても、辺りが暗くなるほどに太陽光が遮られることはない。 「気象情報」に接していなければ、この様子から、翌日に台風が本当に接近してくるとは理解し難い。 
 ある程度にまで台風が接近してきたとき、突然に、風雨が強くなる。 この様子を見て、「家屋の補強」や「田畑の見回り」、「漁船の係留」をしなければ・・・と、台風対策を始めることになる。 その強い雨や風も、連続するわけでもなく、「風の息」といわれる10分ほどの間隔で「強弱」が繰り返される。 穏やかな風と晴れ間に油断していると、一瞬の後に激しい風とバケツをひっくり返したような降雨が襲ってくる。 それによって、命を落とすような事故に遭遇する。 この時点での台風対策は、既に手遅れになっている・・・。 1日前の気象状況にだまされた結果である。 
 的確な台風の「予報」と「広報」は、このような事故を防ぐためにも、必須である。 

 さて、下に、別のいくつかの台風について図を示す。 
 『図52-2 台風201616号(Malakas)9月20日午前9時に到達するとされた予報位置』は2016年9月20日午前9時に台風201616号(Malakas)が存在する可能性が最も大きいと予報した地点を示している。 図中のGは予報した日から8日後の午前9時の台風の予報位置である。 Fは7日後の予報位置である。 Eは6日後の台風の予報位置で、Dは5日後の台風の予報位置で・・・、@は1日後の台風の予報位置である。 白抜き青色の数字は気象庁の予報位置であり、白抜き赤色の数字はECMWFの予報位置である。 赤色のFで示されている予報位置は、低気圧とは言えないほどに衰弱した状態で、位置も不明瞭である。 
 つぎに、『図52-3 台風201618号(Chaba)10月5日午前9時に到達するとされた予報位置』は2016年10月5日午前9時に台風201618号(Chaba)が存在する可能性が最も大きいと予報した地点を示している。 それ以外は、台風201616号(Malakas)と同じである。 
 下図を「台風が来るときは、早かれ遅かれ、進んでくる。 時間的なズレは、そんなに大したことではない。 大事なのは、台風が通る道筋を正確に予報しているか?」という点で観察すると、台風予報の色々なことが見えてくる。 
   
 図34-2 台風201616号(Malakas) 
 9月20日午前9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は9月20日午前9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 
 図34-3 台風201618号(Chaba) 
 10月5日午前9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は10月5日午前9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 
 図34-4 台風201705号(Noru) 
 8月7日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は8月7日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
   
 図34-5 台風201721号(Lan) 
 10月22日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は10月22日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 
 図34-6 台風201722号(Saola) 
 10月29日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は10月29日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 
 図34-7 台風201820号(Cimaron) 
 8月23日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は8月23日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
   
 図34-8 台風201821号(Jebi) 
 9月4日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は9月4日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
   
 図34-9 台風201820号(Cimaron) 
 8月23日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   濃紫色数字:NOAA GFS 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は8月23日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 上に示した台風201820号(Cimaron)の進路予想は、非常に困難であったと思われる。 2日前の21日21時のアジア太平洋地上天気図(ASAS) を下に示す。 
 図34-10 アジア太平洋地上天気図(ASAS)  
 2018年8月21日21時 
 台風201819号(Soulik)が、北西に約1,200キロメートル離れた位置にある。 台風の規模を台風の真ん中を中心点とするほぼ真円を描いている998ヘクトパスカルの等圧線で囲まれた面積で判断すると、台風201820号(Cimaron)は直径約250キロメートルであって、台風201819号の直径約550キロメートルと比較して、2割程度である。 台風201820号は、それよりも数倍の勢力を持つ台風201819号によってその進路が左右され、進行速度を速めていく傾向にある。 次第に距離を縮めていく。 距離が近くなるに従って相互作用が強くなるので、台風201820号の進路の予想は難しくなるに違いない。 
 さて、この台風のアメリカ気象機関(NOAA)のGFSモデルによる予想天気図を見てみる。 気象庁や「ECMWF」と同様に、これは予想天気図であって、台風の進路予想に特化したものではない。 したがって、台風の進路予想としての使用には、異論があるに違いない。 しかし、天気図の予想に台風の存在を正しく反映していなければ、気圧配置などを正確に予想しているとはいえないことになる。 
 予想する側に同情するならば、台風の特異性を指摘することになる。 通常の気象状況は1キロメートル〜数キロメートルの範囲で大きな変化はない。 この範囲を単位とした数値計算で、その後の気象の変化を追跡できてしまう。 しかし、台風では数十メートル〜百メートル以下の領域を設定しても、その領域内部が均質であるとはいえない。 台風が影響している領域の計算距離単位を、それ以外の領域で数値計算に使用している距離単位から、変更しなければならないことになる。 例えば、通常の領域での1キロメートル単位から、台風領域での100メートル単位に。 この変更領域でのスムーズな遷移を図る上で、中間的な距離単位を採用するか、台風移動に伴う設定領域の変更をどのようにおこなうか、課題は多い。 
 そのようなことを考慮して、予想天気図上の台風位置を見てみる。 
 「ECMWF」と同様に、「NOAA GFS」の予想では、5日後予想を含めて、それより後になされた予想は、完全に合っている。 過剰な希望であることを承知で言えば、1週間後とか、それが無理ならば5日後の位置を、台風の影響範囲で(たとえば、15メートルの強風圏の範囲程度で)正しく予想して欲しい。 15メートル程度の風が吹くか、45メートルの強風が吹くかの違いがあるとしても、台風への準備をするための動機になるから。 その点で、現実には上陸寸前の台風が、はるか南海上に在るという予想では、無茶苦茶な期待であるといえども、それに添っているとは言えない。 
 台風201910号(Krosa)の予想について、「気象庁」や「ECMWF」に「NOAA GFS」を加えて、予想天気図から読み取ったものを下図に示す。 9日前の気象庁による予想天気図には、台風の存在を覗わせるものが東方海上に示されているが、8日前では日本近海に台風と思われる低気圧は存在していない(図中に示されていない)。 7日前になって、それの存在が本州東南海上に明瞭に描かれている。 6日前以降の予想(6日前〜1日前)では、台風が1,000キロメートル以上も離れている時点であって、しかも迷走気味の進路をとっている状況のときであっても、到達位置を精度良く決定できている。 ほぼ、一致しているといえる。 夏台風という予想が難しいと思われるものであるのに、この予想には合格点が与えられる。 
 台風201919号(Hagibis)の予想をみてみる。 7日前の予想(正確には、気象庁とNOAA GFSの予想)を除いて、台風が2,000キロメートル以上も離れている時点であっても、到達位置を精度良く決定できている。 4日前〜1日前の予想は、ほぼ、一致しているといえる。 10月という偏西風などの気流が比較的安定している時期であったことが寄与しているとしても、この予想は充分に合格点を与えられる結果である。 
 台風201910号(Krosa)や台風201919号(Hagibis)の予想位置のこのような一致は、予想の正確さを示しているように感じられ、前もっての台風対策の必要性を提示した。 このような予想にも係わらず、台風対策を怠っていたということなら、その個人の怠慢であるといえる。 
   
 図34-11 台風201910号(Krosa) 
 8月14日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   濃紫色数字:NOAA GFS 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は8月14日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 
 図34-12 台風201919号(Hagibis) 
 10月12日午後9時に到達するとされた予報位置  
   青色数字:気象庁 
   赤色数字:ECMWF 
   濃紫色数字:NOAA GFS 
   薄紫色数字:予報したときの台風の位置 
 (緑色は進路、円の中心は10月12日午後9時の位置、 
 その円の半径は300キロメートルである) 
 さて、時間的なズレは、そんなに大したことではない。 台風が来るときは、早かれ遅かれ、進んでくる。 
 すなわち、『大事なのは、台風が通る道筋を正確に予報しているか?』という点で見ると、「台風201616号(Malakas)」と「台風201618号(Chaba)」では、予報しているほとんどの位置は台風の経路から300キロメートル以内である。 ほぼ合格である。 
 それに対して、最初の例の「台風201610号(Lionrock)」ではズレの大きい予報が見られる。 1,000キロメートルも離れた位置を予測している場合がある。 「ECMWF」をみると、120時間を超える予報で、通過する位置を大きく外している。 蛇行したり、ほぼ停滞したりと、予報が難しい台風であったから、致し方ない部分もある。 
 「台風201705号(Noru)」は、図の外側(の東側海上)で大きくループを描くなど「夏の迷走台風」の代表例である。 台風201610号(Lionrock)と同じように、予測が困難な台風に見えた。 そうであっても、南西進している早い段階で、本州付近に近づく予報をしている。 気象庁の予報をみると、7日前と6日前を除いて、ほとんどドンピシャ状態である。 本州から1,000キロメートル以上離れた海上にいるときに、台風の進路に近い場所を予報しているだけではなく、通過時刻の差も零に近い。 ECMWFにあっても、予報位置の精度では気象庁よりもわずかに劣っているようだが、合格点を与えられる正確さである。 結果的に、「台風201616号(Malakas)」や「台風201618号(Chaba)」と比べて、すべての予報地点が実際の台風位置近くに収束している点で優れた予報を出していたと評価できる。 
 「台風201721号(Lan)」は、10月後半という遅い時期に上陸した数少ない台風である。 それよりも、この台風は最大風速15メートル以上の強風域が半径800キロ以上である「超大型台風」に位置づけられていて、それの上陸は記録のある平成3年以降では初めてという点で特異な台風である。 それの予報をみると、数日後までの進路はほぼ正確に予測できているが、通過時刻の点では劣っている。 進行方向の予測は正しくなされたが、その速度についてはうまくいかなかったということになろう。 夏台風のように迷走するわけではないので進路予報は容易にできるように思われるが、晩秋のこの時期に特有の大陸育ちの移動性高気圧の予報に難点があったものか。 
 「台風201721号(Lan)」の1週間後に、台風201722号(Saola)が接近してきた。 10月後半のこの時期に連続して台風がやって来ることは、予想していなかった。 気象庁の週間予報でも、最接近の6日前の時点で、この台風の進路予報は不明確であった。 台風201722号(Saola)の図で、気象庁発表の6日前予想位置(予報天気図上に示されている台風であると推定される低気圧の位置)は、妥当な範囲からかなり離れている。 気象庁発表の7日前予想位置は、その位置よりも更に経度で10度東に予報されている。 これらが台風201722号に対応する低気圧を示していない可能性がある。 そこで、5日よりも後の予想位置についてみると、見事に実際の進路上に散らばっている。 「進路位置の予報に比べると、台風の到達時刻の予報は重要ではない」という立場からは、上出来の予報であったと評価できる。 台風201721号や台風201722号のように、この季節に接近してきた台風の予報はかなり良好であるといえる。
 

(*1) 台風予報で一番に重要なことは、台風が、その予報位置に到達した日にちが正確であることよりも、その台風が居住地に影響を与える進路を取っているかを正確に予測することである」と思っている。 その時間に多少のズレがあったとしても、台風の進路に面していればそれなりの注意を払うはずである。 早かれ遅かれ、台風がやって来るのであるから。 
 大事なのは、台風が通る道筋を正確に予報してくれることである。 それを重視する立場からは、過去におこなわれていた「扇形」による進路予報は、到達時間の誤差を示せないとして捨て去られてしまった方式であるが、現行の方式である円による位置予報が「時間成分」の誤差が大きい場合にその程度に応じて範囲が拡がってしまって「進行方向」に関する予報が曖昧になってしまうという望ましくない欠点を持っているので、そのようなことがないという点でより優れた方式であると思っている。 
 その説明のための図を下に示す。 

         
 図34-13 台風進路の予報例 
 青色のプロット群は初期値をいろいろに変えてコンピューター演算によって得られた台風の予想位置(模擬) 
  左側:赤色:現行の予報円による進路予報 
  中央:緑色:過去に使われていた扇形予報 
  右側:紫色:楕円形の予報円による進路予報 

  上図の「青色の点」は、ある時点で予測された台風の位置である。 コンピューター上で台風の進路を演算するときに、初期条件のゆらぎによって、多数の地点が予測される。 
 左側の図に示す「赤色」は「予報円」によって示されたものである。 70パーセントの確率で、台風は円内に存在することになる。 
 中央の「緑色」は遙か以前に使用されていた「扇形」により示す予報進路である。 当時はコンピューターによる進路演算の夜明け前であった。 そのときには、上図に示す「多数の青色のプロット」で示すコンピューター予測は、おこなわれていなかった。 コンピューター演算がおこなわれている現今の状況に合わせて、「扇形」での予報進路を示してみる。 扇形は、この内部に台風が存在する確率が95パーセント以上であるように定めることにする。 扇形の弧は、この位置を台風が通り過ぎる確率が50パーセントであることを示している。 
 右側の「紫色」は、「楕円形」によって予報進路を示している。 70パーセントの確率で、台風は楕円内に存在することになる。 
 この例で、「赤色の予報円で示す経路」には、「大分」と「松山」、「岡山」、「鳥取」などや、「能登半島」、「佐渡島」、「八丈島」が含まれている。 しかし、これらの地点の通過を示唆するコンピューター演算によるデータポイントはない。 その確率は僅かであって、実際に台風が接近することはないであろう。 台風が接近しなければ、それらの地域のヒトにとって、この台風情報による警告は無意味なものであると理解してしまう。 これ以降の台風において、本当に高い確率で台風が接近してきたときに、これらの地域のヒトが「このときの空振りを思い出すことは絶対にない」ことを期待したい。 予報方式としては適当とは思われない。 
 緑色で示す扇形方式であれば、予報円のときに含まれていた「台風が接近する確率がかなり低い地域」である「大分」と「松山」、「岡山」、「鳥取」などや、「能登半島」、「佐渡島」、「八丈島」が除外できる。 接近時間の予報誤差を示せない欠点があるとしても、この方が優れているように思われる。 
 紫色の楕円形での予報は、予報円扇形方式の折衷案である。 進行方向の広がり進行速度の不確定性の双方に、対応しているように見える。 進行方向の広がりは扇形方式と同程度であって、「大分」と「松山」、「岡山」、「鳥取」などや、「能登半島」、「佐渡島」、「八丈島」は、台風の経路に含まれない。 予報される台風の存在範囲は予報円と同じ確率で示せる。 しかし、「楕円の中心位置」、「長径」と「短径」および「楕円の傾斜角度」の表示を、どのようにするか。 たとえば、「北緯35度、東経138度、長径1,000キロメートル、短径400キロメートル、傾斜角度65度」というように。 この楕円を地図上に描くことは、専用の(定規によるか、デジタルデータによる)テンプレートを用意しなければ、困難な作業である。 楕円の傾きの角度を「零」にすれば簡便になるが、それでは「予報円」での欠点が是正されない。 実用性の点で、難しい。

 

(35)誤って説明されている潮汐(満潮と干潮、大潮と小潮)現象
 
 
満潮・干潮 大潮・小潮
 図35-1 満潮・干潮(上)と大潮・小潮(下) 
 
気象庁
潮汐・海面水位の知識 潮汐の仕組み
 
 
W. 干潮・満潮はどうして起こるのですか?
 図35-2 満潮や干潮が起こるわけ 
 (上は満潮と干潮、下は大潮と小潮) 
 
国立科学博物館-宇宙の質問箱
月編
 
 
潮汐の原因
 図35-3 潮汐の原因 
 
東京大学地震研究所 大久保研究室
 
 
水圏環境学・潮汐について
 図35-4 潮汐について 
 
北海道大学水産学部 岸研究室
 
 
潮汐力
 図35-5 潮汐力 
 (図の配置を上下に変更) 
 
北海道大学理学研究科地球惑星科学専攻
北大-鴨方高校間 双方向遠隔授業プロジェクト
 
 
どうして海には満ち潮と引き潮があるの
 図35-6 どうして海には満ち潮と引き潮があるの 
 (左は満潮と干潮、右は大潮と小潮) 
 
学研サイエンスキッズ
科学なぜなぜ110番
 
 
潮の干満 なぜ2回
月に振り回される遠心力 カギ
自転は関係なし/潮汐力 命の熱源
 図35-7 潮の干満 なぜ2回 
 
2017年(平成29年)2月5日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版22面(扉)【 高橋真理子 】
 潮汐現象について、その起因の説明は数多くある。 左に掲載してあるもの(注:最小限の図だけであって、詳細な内容はそれぞれのホームページを参照)は、信頼が置けると思われる機関が発表している中からいくつかを任意に選んだものである。 
 「気象庁」や「国立科学博物館」による解説は、最も信頼できるものとして、それをほぼ無条件に信じてしまうだろう。 気象庁の業務には「高潮」や「津波」、時として観測される「異常高潮位」などの海洋現象について、場合によっては注意喚起をしなければならない立場であるから、潮汐現象に関しても正しい認識を持って解説しているであろう。 国立博物館の役割のひとつである教育普及事業を通じて正しい科学知識の伝達が求められていることから、それによる解説もまた信頼できるものであると信じている。 「高等教育機関」の説明も、また、そこの教授などによるものであれば、学識卓見の故に疑問も抱かないであろう。 「東京大学」の「地震研究所」であれば、地球関連の現象を把握しているはずである。 「北海道大学」の「水産学部」であれば海洋の動きを解明することは、十八番である。 同じ大学の「理学研究科」の「地球惑星科学」の分野では、潮汐現象は地球などの水惑星における学問の対象であろう。 「教育」を基軸とする企業による潮汐に関連した記事もある。 年少者を対象とした解説である。 教育用出版物を通じて幅広く周知している企業であるので、科学(理科)学習の入口での影響力は、「国の機関」や「高等教育機関」よりも著しく大きいかも知れない。 朝日新聞の[文化の扉]欄でも、潮汐現象が説明されている。 「科学に強い」といわれている全国紙の「朝日」であって、義務教育年齢前後の読者を主たる対象とした「文化欄」での解説には、そのすべてを信じて疑わないものであろう。 
 いずれの解説も、「満潮のときは、『月との引力』と『月との共通重心を中心にした相互の回転による遠心力』により、その力が『直接に』働いて、海水が持ち上げられている」としている。 それゆえに、「働いている力の方向から、『月が真上にあるときに満潮』であり、『月が地平線上にあるときに干潮』である」とされている。 また、「大潮になるのは『太陽と月、地球が一直線上に並ぶとき』で、その”大潮で満潮になる時刻は、『太陽が頭上にある正午(と、それとは反対方向にある深夜零時)』である”」とされる。 
 本当に 
(1)地球と月が相互作用することで生じる「引力」と「遠心力」が、「直接に」作用して、潮汐現象が生じるということ 
であり、 
(2)「引力」と「遠心力」が「直接に」作用した結果として、「月の位置」と「満潮・干潮になっている場所」との関係が、矛盾なく説明できるということ 
更に、 
(3)大潮の様子を示す解説図から得られる「大潮での満潮の時刻」が、妥当な時刻を指し示していること 
について、科学的合理性が与えられるか。 
 そこで、先ず、「引力」と「遠心力」を明らかにしてみる。 
 図35-8 引力と遠心力 
 地球では、月によって月の方向に引力が生じている。 引力の強さは距離の2乗に反比例する。 月が真上に見える地点で、月による引力(『図53-8 引力と遠心力』中に示されている @ )として働く力(1キログラムの物体に働く力として示す。1キログラムあたりの力であるので単位は[ニュートン/キログラム]となるが、これは加速度を示す単位[メートル/]と同じである。以下、引力と遠心力の値を示すときは同様である。)は3.4×10−5ニュートン/キログラムである。 
 地球と月はお互いの共通重心を中心とした円軌道に沿って移動している。 円軌道を確定するためには、地球と月との「共通重心」の位置を明らかにしなければならない。 これは、天文定数などとして明示されていない。 ここでは国立天文台による計算法をもちいると、地球中心から月に向かって地球表面までの74%の位置(地球の内部)にあることになる。 地球が(濃緑色の円で示す)円軌道(正確には、楕円軌道)を周回(自転や公転とは別の回転)することで「遠心力」が生じる。 遠心力の大きさは共通重心からの距離に比例する。 月を頭上に見る地点での遠心力は、Aに示すように、月へ向かう方向への力である。 その力は、1.2×10−5ニュートン/キログラムである。 
 地球の反対側となる地点では、引力(B)は3.2×10−5ニュートン/キログラム、遠心力(C)は7.8×10−5ニュートン/キログラムである。 
 月が真上に見える地点で月によって働く力は@とAで、月の方向に向かって、4.6×10−5ニュートン/キログラムとなり、地球の裏側ではBとCで、月とは反対方向に、4.6×10−5ニュートン/キログラムとなる 
 計算から分かることは、月の存在を原因として生じる力は、最大で、4.6×10−5ニュートン/キログラムになるということである。 地球の引力は9.8ニュートン/キログラムであるから、月によるものと比べると約20万倍もの差がある。 
 月が頭上にあるときの引力は、見かけ上、そうではないときに比べて20万分の1だけ小さくなっている。 引力が違うことによって、海面がどのように上下するかを見てみる。 そのときの海水の動きを、下図に示す。 
 図35-9 引力の強さと海面の高さの関係  
 (1)「矢印の長さ」は、実際の海水の「移動距離」を示すものではない。 
 (2)「矢印の太さ」は、海水の「移動量」の大小を意味している。 
 『図53-9 引力の強さと海面の高さの関係』の左側は、引力に差があるが、海面の高さが同じであるとしたときの状態である。 []側は、月による地球の引力への影響がない場合である。 []側は頭上に月があって、地球の引力が月の存在によって20万分の1だけ減じられている場合である。 []側での重力加速度は9.8m−2であり、[]側の重力加速度は、[]側よりも20万分の1だけ小さくて、 9.8m−2×(1−1/200,000)である。 海水の平均密度は1.025グラム/立方センチメートルとする。 このとき、水深1,000メートルでの[]と[]の圧力を求めてみる。 
1025(kg)×1000(m)×9.8(m/)×{1−(1−1/200000) 
で50.2パスカルとなる。 水深2,000メートルでは100.5パスカル、3,000メートルでは150.7パスカル、4,000メートルでは200.9パスカルである。 水深が大きくなるに従って、圧力が大きくなる。 []側から[]側への海水の移動の程度は、圧力に比例するので、水深にともなって大きくなる。 正確には、海水そのものが矢印の距離を移動することはなくて、海水が玉突きのように隣の海水を押していくことで生じる[]側への見かけ上の移動である。 この見かけ上の移動速度は、海水そのものの移動ではないので、深海では毎秒数百メートルである。 
 海面下4,000メートルの圧力である200.9パスカルを海水の高さに換算すると、2.0センチメートルである。 []側の海面が約2センチメートル分だけ盛り上がると、この部分での圧力は解消される。 それが、右側の状態である。 
 水深が1,000メートルの海域であると、『図53-9 引力の強さと海面の高さの関係』の(a)の海水移動だけがあって、(b)、(c)、(d)は存在しない。 (a)での圧力は50.2パスカルであるから、海面の盛り上がりが約0.5センチメートルになったときに、(a)の海水移動は停止する。 
 月による力が上方に働くときに、太平洋の平均水深である4,000メートルの海域では、水面が平均して約2センチメートルだけ上昇する。 頭上に月がある場合と、月が水平線方向にある場合を比べると、その地点の海面の高さは、前者の方が約2センチメートルだけ高くなることを意味している。 海面高さに2センチメートルの差が生じるのは水深4,000メートルの海域であって、海岸に近い200メートル深さの大陸棚における計算上の潮位の差は0.1センチメートルとなってしまう。 
 結論としては、左に掲載してあるそれぞれの解説図のように、海水に引力や遠心力が「直接に」働いて満潮・干潮が生じているのであれば、その潮汐の高低差は数センチメートル程度でなければならない。 実際には、満潮時に、ある所では数十センチメートルの潮位の上昇があることも、別の場所では数メートルにもなっていることも、観測されている。 
 左に掲載してあるそれぞれの解説図からは、満干潮によって、数十センチメートル〜数メートルもの海面の上昇下降が起こることについて、また、場所によって潮汐の程度が大きく異なることについて、まったく説明できていない 
 つぎに、「月の位置」と「満・干潮の時間」との関係を見てみる。 具体的な例を下図に示す。 千葉県館山では、2016年9月16日23時26分に、月が南中する。 同所では、南中する42分前の16日22時44分が、干潮である。 干潮時には、月は南から11度東にある。 また、南中して5時間16分後の17日4時42分が、満潮である。 満潮時には、月は南から79度西にあって、水平線の少し上にある。 
 図35-10 館山の干潮時と満潮時の月の位置 
 (2016年9月16日 月齢14.7日) 
 『図53-10 館山の干潮時と満潮時の月の位置』から、満潮時には月は頭上にあるのではなくて、水平線に近い場所にある。 左の解説図からは、満潮時には月は頭上になければならない。 そのため、「潮時は、海底などでの流動抵抗によって、遅れてしまう」と説明されることが多い。 そのような説明の有効性を検証するための最適な場所として、千葉県「館山」を取り上げた。 満ち潮は太平洋を進んでくるので、海底の影響は少ないはずである。 より正確な表現をするならば、上で述べたことの繰り返しになるが、「潮位が高低する際に、海水そのものが長い距離を移動する必要はなく、海水が玉突きのように隣の海水を押していくことであって、このような移動速度は深海では毎秒数百メートルである」ので、「潮位に何時間もの遅れが生じることはない」といえる。 更に追い打ちを掛ければ、「潮位に何時間もの遅れが生じることがある」ならば、潮位の遅れは、その変化が月の移動に従って西へ西へと進むほどに、次第に大きくなってしまうはずである。 3時間遅れから、5時間遅れに・・・、そして、ついには月が潮位変化に追いついてしまう!? 
 実際の潮の状態と月の位置関係を示す『図53-10 館山の干潮時と満潮時の月の位置』からは、干潮時には月は頭上近くにある。 月による力が「直接に」加わっているとすると、この時間に干潮となっている「実際の潮汐現象」を説明できていない。 
 そこで、『図53-8 引力と遠心力』に示すような小さい力が繰り返し繰り返し加えられると、どのようになるかをシミュレーションした。 シミュレーションの初期には僅かな潮位変化であったものが、繰り返しの力によって次第に大きな変化に推移していった。 それとともに、地球の回転に伴って(地球と月を結ぶ線で固定した座標系では、北極星から見て、地球は反時計回りに回転するので)、潮位の極大の地点が月の真下から反時計回りにズレていった。 それは、地球上に乗っかっている潮位が、地球の回転によって引き連れられていくようにも見える(*1) 
 その結果を下に示す。 
 図35-11 シミュレーション結果 
  (角度は、北極星から見て、反時計回りで表示)  
  地球の自転に引っ張られているようにも見える高い潮位  
 シミュレーション結果は、地球と月を結ぶ線を基線(0°)として表している。 地球は、北極星から見て反時計回りに、240秒で1度角の自転をしている。 満潮の位置は、この地球の回転によって、地球と月とを結ぶ線から、東方に引きずられている(図上では、右方へ移動している)様子が分かる。 
 下図は、シミュレーションの結果を使って、月と満潮・干潮の位置を示している。 
 図35-12 シミュレーションによる月と満干潮の位置 
  (太陽による潮汐力は無視)  
  月と満潮・干潮の位置がなす角度は、月齢に係わらず、常に一定である。  
 地上にいるヒトは、東の空に月が昇ってくるのを見てから約5時間後に、干潮(『図53-12 シミュレーションによる月と満干潮の位置(太陽による潮汐力は無視)』中の −14°で示す干潮)になっている砂浜の岸遠くから伝わってくる波打ちの音を聞くことになる。 それから地球が14度分回転する(時間にして56分が経過する)と、真上に月を見ることになる。 月が西の空に傾く頃になって、満潮(76°)が訪れる。 それから6時間12分の時間が経過すると干潮(166°)になる。 その後、月の出までにしばらくの時間がある時間帯に満潮(256°)となる。 満潮になって56分が経つと、月が水平線から上ってくる。 
 この干満の時間は、千葉県「館山」での潮の動きと、ほぼ同じである。 
 館山では干潮が南中線よりも11度だけ西寄りの位置(干潮になった44分後に月が南中するような位置関係)であったのに対して、シミュレーションでは14度(干潮になって56分後に南中)である。 満潮は南中線よりも79度東寄りの位置(南中してから5時間16分後に満潮になるような位置関係)であり、シミュレーションでは76度(南中から5時間04分後に満潮)である。 
 この結果は実際の満干潮の様子を、かなり正確に表してくれている。 
 潮汐の説明としては、「月による引力・遠心力が直接に働いて起こるのではなくて、それによって生じる極々小さい力が積み重なって起きる現象である」ということになる(*2) 

 大潮、小潮についても、考えてみる。 左側の「大潮・小潮」について解説している図から、大潮のときの満潮については、「太陽」、「月」、「地球」がほぼ一直線に並んだときで、その線上の地点が大潮の満潮になっているとしている。 その満潮となる時刻を図から読み取ると、「太陽」が頭上にあるときか、その反対側にあるときである。 「正午」と「午前0時」が、満潮の時刻であるとされている。 実際には、潮干狩りをするのは、大潮の期間の昼間である。 正午頃は、解説図に描かれている満潮ではなくて、潮干狩りに適した干潮である。 なにか、おかしい・・・。 
 太陽による引力・遠心力も、月と同様である。 地球上の太陽に面した地点で、太陽による引力は5.93191×10−3ニュートン/キログラム、遠心力は5.93116×10−3ニュートン/キログラムである。 その差の7.5×10−7ニュートン/キログラムは、太陽に向かう力である。 太陽とは反対側の地点での引力は5.93090×10−3ニュートン/キログラム、遠心力は5.93166×10−3ニュートン/キログラムである。 その差の7.6×10−7ニュートン/キログラムは、太陽から遠離る向きの力である。 この値の大きさは、月との場合の2%ほどである。 太陽の影響による潮汐は、月に比べると、非常に小さい。 
 太陽による影響は小さいが、それによる潮の満ち引きは『図53-11 シミュレーション結果』と同じ変化を示す。 図の0度の方向には、太陽があることになる。 
 月による潮の満ち引きは、「24.8時間」に2回の繰り返し変化がある。 すなわち、708時間(月齢の1ヶ月である29.5日間)に、57回の極大(または極小)があることになる。 太陽による潮の満ち引きは、「24時間」に2回の繰り返し変化がある。 708時間に59回の極大(または極小)がみられる。 双方の変化を重畳したものが、実際の潮汐となる。 両者の極大(または極小)の回数の差は、2回である。 月齢の1ヶ月間に、双方の極大(または極小)が重なってしまうことが2回生じることを意味する。 この重なりが大きい期間が大潮であり、少ないときが中潮、逆位相で(一方が極大のときに他方が極小になっている場合に)は小潮となる。 

 日常に使用する時間は太陽の動きを基準にした時法をもちいているので、太陽が潮汐に及ぼす時刻は、月によるものとは違って、1年を通して同じになる。 『図53-11 シミュレーション結果』から予想される極大(満潮)の時間は、午前午後ともに5時04分である。 極小(干潮)は同様に11時04分である。 
 月による極大(または極小)の時間は、1日毎に、約50分だけ遅れていく。 この月による極大(または極小)の時間が、太陽の時間と一致すれば、大潮になる。 千葉県「館山」での2016年9月17日の満潮の時間は午前4時42分であり、16日午後10時44分が干潮の時間である。 太陽による極大(または極小)になる時刻との時間差は、満潮で22分、干潮で20分である。 大潮である。 なお、9月17日午前零時の月齢は「15.2日」である。 

 これを科学的な知識が少ない初学者が理解できるように説明することは難しいかも知れないが、左に引用してある各機関による間違った説明で理解できたように思ってしまう学習者がいたとすると、そのようなヒトが将来の日本の科学研究と科学技術を「正しい姿で」担ってくれるとは思わない
 

(*1) 満干潮の潮位が、地球上を約24時間50分で一周するといっても、海水が一周していることではないことは言うまでもないことであろう。 では、何が一周しているか? 
 池に石を投げると、波紋が広がっていく。 この波紋を些細に見れば、水面の上下運動の移動である。 その上下運動や水平方向への移動を担っているものは、投げられた石から得られたエネルギーである。 一度だけ投げた石による波紋は、そのうちに消えてしまう。 運動エネルギーが周辺に広がっていくと、それぞれの場所では、エネルギーの量が小さくなって目に見えるほどの上下運動を維持できなくなってしまうからである。 もし、波紋に同調して石を投げ続けていけば、波紋の上下運動は次第に大きくなってゆく。 運動のエネルギーを、継続的に補給しているからである。 
 それの地球規模での運動が、潮汐である。 池ではなくて、果てのない球体の海である。 石ではなくて、月によるエネルギーの供給である。 それが何万回となく作用した結果が、現在の潮位の規模である。 絶え間ないエネルギーの補給の結果である。 
 地球を周回しているものは、海面の上下運動を維持しているエネルギーである。 
 地表に投影した月の移動速度は赤道上で約450メートル/秒である。 海面上の「波紋」の移動速度は、深さ4,000メートルの海では、約200メートル/秒である。 波紋(本質は運動のエネルギー)の移動の方が、遅い。 そのため、上下に動いている波紋の上昇しようとしている部分に、月による上向きの力が加わることになる。 それによって、上昇する程度が、僅かに増える。 運動のエネルギーが大きくなったことになる。 それが何万回となく作用した結果が、現在の潮汐を維持する運動のエネルギーである。 
 もし、この海の波紋の移動速度が、非常に速い場合を考えてみよう。 その場合には、月による上向きの力は、上下に動いている波紋の上昇しようとしている部分と下降しようとしている部分の両方に加わることになる。 それによって、上昇する部分では上昇する程度が僅かに増える(運動のエネルギーが増加する)が、下降する部分では下降する程度が僅かに減る(運動のエネルギーが減少する)ことになる。 全体として、運動のエネルギーは増えない。 潮汐作用は消失してしまう。 約1,000メートル/秒で波紋が移動する場合には、シミュレーションでは、周期的な潮汐作用が再現できなかったことも言及しておく。 (「時速4キロメートルで引かれている荷車を手で押してやることはできるが、時速25キロメートルで走る自動車を推し進めることはできない」という説明は、不適当であろうか。 「宇宙空間で、極小質量の物体を大質量の物体が追い越していくと前者はエネルギーを得て速度が増加するが、その逆に極小質量の物体が大質量の物体を追い越していくときには前者はエネルギーを失って速度が減少する」というのでは、どうか。) 
 1,000メートル/秒の移動を示す海域の深さは、約10万メートルである。 残念ながら、地球上にはそのような場所は存在しない。 逆に、月の移動速度が遅くても、同じことが起こる。 月が地球から120万キロメートル離れた位置にあると、地表に投影した月の移動速度は約80メートル/秒になる。 波紋の移動速度が170メートル/秒になる海域の水深は約3,000メートルである。 3,000メートルよりも深い海域は、全海域の約72%を占めている。 このとき、数十センチメートル〜数メートル規模の満潮と干潮があることによって成り立っている地球世界が広がっているかどうか・・・。

(*2) 朝日新聞の記事では 
 「遠心力は難しい。 潮の満ち干の説明がどれも不十分でわかりにくいのは、結局、遠心力が説明できていないからです」と山口県の元高校教師・藤田紀夫さん(67)は言う。 「FNの高校物理」というウェブページを作って、さまざまな話題を高校までに習う知識だけで解説している人だ。 潮の満ち干、つまり潮汐力についても数式を使い厳密に説明している。 
 しかし、ここでは数式を使わない説明に挑もう・・・
 
 ここで参考にされている藤田紀夫さんによる解説では、 「そのとき注意して欲しいのですが、潮汐現象は初等的な説明図にかかれているように地球の月に面した海面とそれと真反対の海面が盛り上がった様に起こるのではありません。 そのような潮汐は、地球を巡る月の公転はそのままで地球の自転が非常にゆっくりである場合にのみ実現するものです。 ・・・ 実際には、地球は1日に1回転の割合で高速回転しており、海水はその表面に張り付いています。 ・・・ そのため、平衡潮汐理論は成り立たず浅い海を伝播する長波の理論で論じなければなりません。」としている。 
 それを、朝日新聞の解説では、藤田紀夫さんが否定している初等的な説明図を使って、月が頭上にあるときに「満潮」になる図を掲げている。 
 この朝日新聞の説明は、藤田紀夫さんによる「地球を巡る月の公転はそのままで地球の自転が非常にゆっくりである場合にのみ実現する」場合であって、実際の地球の状態とは違う。 「しかし、ここでは数式を使わない説明に挑もう・・・」と、権威のある解説を利用しているように見せかけて、その解説で述べられていることを完全に無視している非科学的な説明になっている。 
 記事を書く際に参考にした資料があって、それを記事中に示すことがあれば、その資料に対する「リスペクト」を忘れてはいけない。 このリスペクトには、資料に示されている事柄を正しく引用することも含まれている。 部分的に引用することもあろうが、資料を記述した著者の意図に沿っていなければいけない。 もし、その意図とは違った意見を述べたいのであれば、その反対理由を明確に述べなければいけない。 理由なしに、著者の意図とは違った引用の仕方をすれば、その著者に対する侮辱である。

 
科学の扉
満潮 なぜその時刻?
月の引力・海陸分布・水深・・・要因は複雑

(前略) 
 なぜこうなるかは松本さん(筆者注:国立天文台松本晃治准教授)にもわからないという。 海陸分布や水深分布、海底でのまさつ、波が海山にぶつかったときに起こる内部振動など多くの要因があると言えるだけだ。 「一番大きい要因を1個出せと言われても出せない」という。 
 どうやら図aも図bも、満潮時刻を知るモデルとしては役立たないと言うしかない。 
 結論:満潮時刻は、いろんな要因が重なって遅れます
。【 高橋真理子 】

 図35-13 満潮 なぜその時刻? 
 (記事中の図の一部を掲載) 
2018年(平成30年)7月2日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版16面(扉) 赤字は右記引用部分
 潮汐に関する記事が、再度、同じ「科学の扉」欄に、同じ記者による署名記事として、掲載された。 
 前の記事『潮の干満 なぜ2回 月に振り回される遠心力 カギ 自転は関係なし/潮汐力 命の熱源』において、「遠心力は難しい。 潮の満ち干の説明がどれも不十分でわかりにくいのは、結局、遠心力が説明できていないからです」と山口県の元高校教師・藤田紀夫さん(67)は言う。 「FNの高校物理」というウェブページを作って、さまざまな話題を高校までに習う知識だけで解説している人だ。 潮の満ち干、つまり潮汐力についても数式を使い厳密に説明している」と、記している。 この記者は、潮汐について、藤田紀夫氏による、正しい解釈に基づいた、解説資料の存在を知っている。 それにも係わらず、「どうやら図aも図bも、満潮時刻を知るモデルとしては役立たないと言うしかない。 結論:満潮時刻は、いろんな要因が重なって遅れます」と述べている。 
 満潮時刻が遅れるいくつかの原因の中には、6時間程度の遅れをもたらす要因から、数分程度までのものまで、幅広いものが含まれている。 藤田紀夫氏によるものは、この6時間程度の遅れをもたらす最大の要因を説明している。 この最大の要因から、月が「水平線上」にあるときに「満潮」に、月が「真上」にあるときに「干潮」になってしまうことが、納得できる。 
 100分程度の遅速を与える海岸地形や、数十分程度を左右する水深の影響などの要因があるとしても、それらは、最大の要因に比べると、より小さい変動である。 それらのより小さい変動のすべてを足し合わせたとしても、月が「水平線上」にあるときに「満潮」に、月が「真上」にあるときに「干潮」になってしまうことから大きく外れることには、ならない 
 さて、この記事では「谷村説」を取り上げている。 というよりは、谷村説の存在が、この記事を執筆する動機となったということか。 だが、谷村説には、重大な欠陥がある。 月や太陽がもたらす万有引力と遠心力による海面の上昇・下降は、数センチメートル程度である。 満潮と干潮とで海面が数メートルも上昇・下降するためには、数センチメートル程度の力が1日2回1年365日数万年数十万年もの期間にわたって繰り返し繰り返し与えられて共振(共鳴)した結果でなければならない。 ところで、谷村説では、海水への力海面の変位とに90度(6時間)の位相差があるということから、共振(共鳴)することは不可能である。 結論としては、「「谷村説」は、地球で生じている潮汐の「大きさ」を、まったく説明できない代物である」といえる。 
 この記事では、「満潮時刻は、いろんな要因が重なって遅れます」と結論付けしているが、それで一面近い紙面を使って掲載した科学記事とは、信じられないことである。 
 担当記者は、『潮の干満 なぜ2回 月に振り回される遠心力 カギ 自転は関係なし/潮汐力 命の熱源』の記事で藤田紀夫氏の解説を引用していて、最大の要因を熟知しているはずである。 この紙面において記者がしなければならないことは、「満潮時刻は、いろんな要因が重なって遅れます」ではなくて、最大の要因を科学に暗い読者にも可能な限り理解できるように解説することである

 
大型放射光施設(SPring-8)
「月と太陽が、播磨科学公園都市の岩盤も伸縮させている」

 世界一高輝度の放射光を可能にするために要求される精度を実現できた蓄積リングの性能のよさと、1500mの周長が、直接地球の伸縮を測定した。 実運転開始以来ほぼ1年半にわたり30秒毎に記録されてきた“地球伸縮測定器”としての蓄積リングのデータは、地球という“卵”の薄く軟らかい大地の“殻”上に文明を作り上げていることをあらためて私たちに実感させるものである。 
(中略) 

 このような方法で周長の変動を長期にわたって観測して、ほぼ周期的に周長が変動していることが分かった(図1(筆者注:『図53-14 加速器周長の時間的変動データ』のこと、以下同じ))。 この変動は、月と太陽による潮汐力(海水の満干を引き起こす力)が引き起こす地球自身の周期的な変形によって蓄積リングを載せている岩盤が伸縮することによるものである。 
 図1(a)は、1998年6月21日から7月2日までの蓄積リングの位置モニター測定記録から導き出されたマシン周長のμm単位の変化を日付けを横軸として示したものである。 図1には、SPring-8のサイト(東経134.5度、北緯34.9度、地球中心からの距離6378.14km)における潮汐力を計算によって求め、それを周長の変化におき直したものを同時に細い赤線(b)で示してある。 実測された周期性を持つ変化曲線(a)が理論曲線(b)と非常によく対応していることが分かる。 
 このころから起潮力の強弱の周期により、蓄積リングの機械的周長が最も大きいときで約40μm※、最も小さいときで約20μm、伸縮していることが分かった。 
※この40μmの機械的周長の伸び(すなわち、SPring-8を載せている岩盤の伸びは、“このサイトでの地球中心からの距離(約6380km)が15cmほど等法的に大きくなった”ことに対応することが、おおよその計算で求めることができる。 また、1,436mのリングで40μmの伸縮を観測するのは、東京─大阪間の距離(約600km)の変化をほぼ1cmの精度で見分けるのと同じである。 
(中略) 

 図35-14 加速器周長の時間的変動データ 
 (a)加速器周長の時間的変動 
 (b)潮汐効果の計算値 
 図35-15 大潮と小潮 

 海の満潮干潮は、月(と太陽)の引力(起潮力)による海水面の上下動です。 その作用は、月と太陽の配列が地球に対して一直線のとき最も大きく、直角になった時最も小さくなります。 この起潮力の大きさには、月の引力の寄与が太陽の寄与より大きくなり、月に面した地球表面(及びその反対側の地球表面)は、地球中心からの距離が垂直方向に伸びます。 
 硬いと思われている地球表面もこの起潮力によって上下変動を繰り返すのです。 (これを地球潮汐といいます)。 地球は(一日1回)自転しているので、この地表面の変動も一日2回ほぼ周期的に繰り返し起きています。 (月の公転により)地表の同一地点で見た月の周回周期が24.9時間と1日より少し長いため、起潮力の寄与の最大と最小のピーク(ほぼ日単位の変化)は、次第に後ろにずれていきます。 図1は、そのことをよく表しています。

大型放射光施設(SPring-8)
月と太陽が、播磨科学公園都市の岩盤も伸縮させている
赤字は右記引用部分
 大型放射光施設(SPring-8)では、1日2回のリングの伸縮が観測されている。 それが『図53-14 加速器周長の時間的変動データ』で、最大のとき、周長1,436mのリングで40μmの伸縮があるという。 
 この変化を検証するため、SPring-8のサイト(東経134.5度、北緯34.9度、地球中心からの距離6378.14km)における潮汐力を計算によって求め、それを周長の変化におき直したものを同時に細い赤線(b)で書き入れると、実測された周期性を持つ変化曲線(a)が理論曲線(b)と非常によく対応しているという。 「SPring-8を載せている岩盤の伸びは、“このサイトでの地球中心からの距離(約6380km)が15cmほど等法的に大きくなった”」とする程度の伸びである。 
 これには、いくつかの疑問がある。 
(1)この潮汐力が最大になるときの力の方向(ベクトル)は、(海面を上昇させるような力であって、地面に対して)垂直方向(上下方向)であることは、『図53-7 潮の干満 なぜ2回』や『図53-15 大潮と小潮』などを見れば、一目瞭然である。 記事中にも「硬いと思われている地球表面もこの起潮力によって上下変動を繰り返す」と記されている。 垂直方向の力であるから、水平面に置かれているSPring-8のリングとそれと接している岩盤は、リング周長が伸縮するようには変形しない。 伸縮する変形は、水平方向(東西方向、南北方向)に力が加わった場合である。 この上下変動によっては、リング周長の変化は起きようがない。 
(2)潮汐力が、何らかの作用で水平方向の力に変換されてしまったとすると、その変形は可能であるか?  月による潮汐力は、重力の20万分の1程度で、5×10−5ニュートン/キログラム(5ミリガル)を越えない。 この程度の力の存在が、地表付近にある硬い岩盤を歪ますとは思えない。 
(3)もし、この力が何らかの機構によって増幅されているとすると、それによる伸縮で説明は可能か?  相対する方向に圧縮の力を加えて岩盤が変形するとき(たとえば、ゴムのボールを両手で挟んで押さえると)、岩盤などの固体を加圧しても体積はほとんど変化しないので、それとは直角方向に押し出される(ゴムボールの押さえていない部分には膨らみが見られる)。 圧縮前に円形であったリングは、楕円形になってしまう。 この変形は、常に、周長を増加させる。 ところで、周長1,436mのリングで40μmの伸縮が生じる条件を求めてみる。 岩盤が上下方向には伸縮しないとすると、半径228.5メートルの円形リングが、圧縮によって短径方向に4.4センチメートルだけ短く(したがって、押し出された長径方向には4.4センチメートルだけ長く)変形した楕円になる必要がある。 これだけの比率の変形が日常的に生じているとは、考えられない。 
 図35-16 円から楕円への変形による周長変化 
(4)『図53-14 加速器周長の時間的変動データ』で、潮汐力を計算によって求め、それを周長の変化におき直したものを同時に細い赤線(b)で示されているが、その計算方法には興味深いものがある。 月による引力と遠心力によって生じる潮汐力とされるものは、地球表面での値が最大で、地球内部にいくに従って小さくなっていって、地球の重心付近で”零”になる。 『図53-14 加速器周長の時間的変動データ』の中に「計算によるプロット」として、長さを表す「マイクロメートル」単位での値がグラフの形で示されている。 潮汐力といわれるものが地球の中心から地表まで「直接に」働き、それぞれの部分での伸縮を累積した結果として生じる地表面にある岩盤の変形量を「マイクロメートル」単位で得るためには、その算出に地球内部の各部分での構成物質の性状を考慮するなど非常に煩雑なものになろう。 
(5)この地域の岩盤が「等法的に大きくなった」とする。 (3)では、長径が大きい方に変化するにつれてそれに応じて短径が小さくなるので、長径の変化の程度に比べて楕円の周長の変化量はわずかであった。 等方的な変化を仮定すると、必要な伸縮の程度は、(3)で述べたものよりはかなり小さくなる。 円形リングの半径が6.4マイクロメートルだけ大きくなればよい。 伸びは「1億分の3」である。 「東京」−「大阪」間で、2センチメートル弱の伸びである。 等方的な伸縮を仮定すれば容認できる範囲の値になるが、SPring-8のサイトにおける潮汐力を計算によって求めただけでは、その力は垂直方向であって、等方的な力に変換される原因と変換後の力の大きさについては「言及されていない」。 
 図35-17 等方的な拡大による円の周長変化 
 潮汐力はSPring-8のリングがある平面に対して垂直方向の力であり、水平方向での伸縮を引き起こす駆動力について、その力の大きさをも含めて、何ら解明されていない。 「潮汐力が直接に働くことにより、リングの周長を変化させるように岩盤が伸縮するということ、その伸縮量がマイクロメートル単位で計算されているということ」には、岩盤に加わっている力の方向やその大きさに言及していないことから、疑問が残る。
 ところで、「月と太陽による潮汐力(海水の満干を引き起こす力)が引き起こす地球自身の周期的な変形によって蓄積リングを載せている岩盤が伸縮する」と、説明されている。 そこで、その図に「月齢」と「月の南中時刻」を書き入れたのが、下図である。 月の南中時刻に相当する位置に「矢印」が記されている。 なお、南中時刻は「東京」よりも22分遅い。 
 図35-18 加速器周長の時間的な変動 
 筆者による追記事項 
  (1)「月齢」と「満月・新月」、「南中時刻(現地時間)」 
  (2)南中時刻を示す「ピンク色の矢印」 
 『図53-18 加速器周長の時間的な変動』の「実測プロット」の伸縮変化は、満潮・干潮での潮位の変化をシミュレーションした『図53-11 シミュレーション結果』と酷似している。 リングの伸びが極大になる時刻があって、それから暫くして、月が南中するといった・・・。 
 子細に見ると、赤色の曲線で示されている「計算によるプロット」の「極大値」と「南中時刻」は、新月以前において、「微妙なズレ」が見られる。 その「ズレ」の大きさが、日時の進行によって、変化していく。 プロットの計算は、月の位置を基にして、なされているはずであるが・・・。 
 最近、「地球の自由振動」の存在が、明らかにされている。 
 図35-19 地球の自由振動 
 上:地球の貧乏揺すり!/大気が、海が、地球をたたく 
 中:第2回 地球変動科学/1.1 波動伝播の基礎 
 下:地球常時自由振動:GPS−TECによる観測 
 上図は、数分〜数十分の周期の地球振動である。 これよりも更にゆっくりとした地球振動があれば、SPring-8の周長伸縮が説明できる可能性がある。 
 そのような地球全体の超長周期振動を示唆している常時地球自由振動(産業技術総合研究所)のデータを、下図に示す。 
 図35-20 地球の貧乏揺すり! 
 地震がなくても、地球は常に揺れている! 
 『図53-20 地球の貧乏揺すり!』にある96分間隔の振動やそれよりも短い振動ではなく、10時間以上にもわたるゆるやかな変化に注目する。 この変化がノイズではないとすると、十数時間の周期で変形する地球の姿を捉えていることになる。
 SPring-8のホームページでは、SPring-8のサイト(東経134.5度、北緯34.9度、地球中心からの距離6378.14km)における潮汐力を計算によって求め、それを周長の変化におき直したもの図中に示してあるという。 すなわち、サイトでの潮汐力が求められ、その潮汐力の算出結果から、リングの周長変化が計算できるとしている。 「潮汐力が加わる → その力に応じてリングが伸縮する」となろう。 
 『図53-19 地球の自由振動』や『図53-20 地球の貧乏揺すり!』に示す「地球の自由振動」は、SPring-8のホームページで述べられているものとは、まったく異なった原因による地殻の「振動」である。 「地球の自由振動」は、風雨や波浪による非常に小さな力が地球に繰り返し繰り返し加えられることで、地球の固有振動に共鳴した振動のエネルギーが長年にわたって蓄積されていって、観測装置で測られるほどの振動になったものである。 これは、月による力が繰り返し繰り返し加えられた結果である『図53-11 シミュレーション結果』の潮汐現象と同じように思われる。 潮位の変化が、潮汐力が直接に働いたのではなくて、その力が積み重なって生じる現象であるように、SPring-8のリングを含む岩盤が、この潮位の変化と同様に、月(太陽も含む)による小さい力が繰り返し繰り返し地球に加えられた結果であるかも知れない。 『図53-20 地球の貧乏揺すり!』に記録されている「十数時間にわたるゆっくりとした変化が地球の振動に基づいているものとすると、それこそがSPring-8のリングの周長を周期的に変化させている原因である」と結論づけることが可能である。 
 

(36)分かりよく正しい図による事故原因の説明
 
 
博多駅前の道路30m陥没、大量の水流入 地下鉄工事中
 図36-1 博多駅前の道路30m陥没 
 
(左)2016年(平成28年)11月8日(火)12時31分 朝日新聞デジタル

(右)2016年(平成28年)11月9日(水)朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面

 
 
朝日新聞
「陥没、地下鉄工事に不備 博多駅前 漏水、岩盤崩れる」
 図36-2 博多駅前 漏水、岩盤崩れる(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月9日(水)朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面
 
 
毎日新聞
「博多駅前陥没、広がる被害 都市に潜む危険」
 図36-3 博多駅前陥没、広がる被害(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月9日(水)毎日新聞 東京朝刊(Web掲載)
 
 
TBS News
「博多駅前が陥没、工事現場と地上の間の粘土層破り出水」
 図36-4 工事現場と地上の間の粘土層破り出水(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月8日(火)17時55分 TBS News
 
 
NHK
「大規模な道路陥没 福岡市「地下鉄工事が原因」」
 図36-5 博多駅前 道路陥没(ニュース中の「図」を引用) 
 
2016年(平成28年)11月8日(火)19時24分 NHKニュース Web版
 
 
産経WEST
「あってはならない異常の予兆「肌落ち」が発生 コンクリ吹き付け、総掛かりで対処も間に合わず」
 図36-6 異常の予兆「肌落ち」が発生(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月8日(火)22時44分 産経WEST
 
 
朝日新聞デジタル
「軟弱な地層、市の対策甘く 博多陥没、過去2度同様事故」
 図36-7 軟弱な地層、市の対策甘く(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月9日(水)03時56分 朝日新聞デジタル
 
 
産経新聞
「博多駅前大規模陥没 インフラ老朽化、相次ぐ事故」
 図36-8 博多駅前大規模陥没 インフラ老朽化(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月9日(水)07時55分 産経新聞 Web版
 
 
読売新聞
「陥没道14日にも仮復旧へ 福岡市が方針」
 図36-9 陥没道14日にも仮復旧へ(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月9日(水)読売新聞 西部本社(Web掲載)
 
 
日経コンストラクション
「博多陥没事故、50分前にトンネル天端が「肌落ち」」
 図36-10 50分前にトンネル天端が「肌落ち」(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月9日(水)日経コンストラクション Web版
 
 
西日本新聞
「地下水対策不充分? 博多駅前工事の難所 道路大規模陥没」
 図36-11 地下水対策不充分?(記事中の「図」) 
 
2016年(平成28年)11月11日(金)01時21分 西日本新聞(朝刊) Web版
 左の記事写真に見られるように、博多駅前の道路30mにわたって陥没した。 泥水が溜まっているのが見られる。 崩落面中央上部に、破断された下水管がある。 この部分にあったはずの大量の土砂が、なくなっている。 
 この事故の概要をまとめると、 
 (1) 地表面に近いところから住吉層、大坪砂礫層、須崎層 
 (2) 地下水位が高い(地表面に近い) 
 (3) 砂の層の間隙には水 
 (4) 地下深くで、大断面の地下鉄用トンネルをNATM工法で掘削 
 (5) トンネルの天井付近で「肌落ち」の発生 
 (6) 肌落ち部分の割れ目が拡大 
 (7) 水混じりの土砂が大量にトンネル内に流入 
 (8) 地表が縦横数十メートル、深さ十数メートルにわたって陥没 
 (9) 地表下に埋設してあるインフラが破損 
(10)陥没穴が水浸 
である。 
 これについての報道で、図をもちいて説明しているいくつかの記事について、その図を左に示してある。 
 一番下は(事故から3日経過した)11日の記事であって、それ以外の事故当日の8日の午後から翌日の9日にかけて記事が書かれているものと比べて、かなり遅いものである。 それ故、より正確なものであるかどうか、興味がある。 
 道路下に巨大な穴が開いたわけであるから、そこにあった土砂の行方が問題である。 土砂は地下鉄工事で空洞になっているトンネル内部に流れ込んだに違いないが、そのことについて。 
 正確に伝えている3つの報道機関から。 「日経コンストラクション」は『土砂と地下水がトンネル内に流入して、道路が陥没』として、これは土砂の行方を明瞭に示している。 「産経WEST」は『土砂が流れ込む?』と事故後の早い時間での記事としては良い線をいっているが、この時点では「?」となるのは仕方ないことかも知れないが、土砂の行方を冷静に考えたらと残念な記号。 「西日本新聞」は『土砂が流入』としていることは良いが、上記の記事よりも日にちが経過しているにも係わらず、そのような図になっていないことはマイナスされる。 
 以下は、これについて触れていないもの。 「朝日新聞」は『上から漏水』として、土砂の行方には言及していない。 「毎日新聞」も、地下水のトンネル内への侵入を示しているだけである。 「TBS News 」も同様である。 「NHK」は『水が流れ出る』としているのみ。 「朝日新聞デジタル」も、陥没穴にあった土砂の行方には触れていない。 これでは「マグロ」のない「刺身盛り」である。 「産経新聞」も同様。 「読売新聞」は『何らかの原因で崩落』としているのみ。 
 全体として、土砂の行方よりも、(地下)水の流入に重点を置いた図になってしまった原因は、上空から見た陥没穴にある大量の水のためである。 「土砂」の行方が重要な理由は、トンネル内がそれで埋まってしまった可能性があるから。 その量は、陥没穴の容積と同じである。 トンネル内の土砂の取り出しに相当な作業が必要になる。 
 次は、この崩落の引き金が、「トンネルの天井付近での肌落ちの発生」であったことを説明し切れているか。 
 「産経WEST」の見出しの『「肌落ち」が発生』と図中の『何らかの原因で水漏れ発生』や「産経新聞」の『水の通り道ができる』を始め、「朝日新聞」、「毎日新聞」、「日経コンストラクション」は、岩盤にあった小さい隙間を流れる水がそれを次第に拡げていったことを示しているようである。 「朝日新聞デジタル」は軟弱な泥炭層を通じて始まった漏水が、次第に規模を拡大していった様子を示している。 ただし、軟弱な泥炭層の存在は、他社の報道では触れられていない。 
 「読売新聞」の『何らかの原因で崩落』や、「TBS News 」、「西日本新聞」では、説明が不足している。 「NHK」では『粘土層』部分に帯水している水が流れ出るとの説明で、『砂・れき』層にあるといわれている地下水の流入とは異なった様子を描いている。 
 3つ目は、「トンネルの天井付近での肌落ちの発生」から、更に進んで、大量の土砂が流れ込めるような大きな開裂ができる地層であることに言及しているか。 硬い岩盤であると、水の流れ込みで亀裂が広がることは、ない。 たとえば、脆い砂岩のようなものでできている「岩盤」でなければならない。 
 これに関しては、「朝日新聞デジタル」が『やや軟らかい岩盤』として、トンネル上部地層に崩れよい岩盤層の存在を指摘している。 
 これ以外の記事では、まったく触れられていない。 
 この地層の存在が、事故を引き起こしたキーポイントであるから、これ抜きの説明は「わさび」のない「刺身」である。 
 最後に、この事故を派手に見せた陥没穴を満たしている水について。 水道管の破損による出水は、短時間に止められたようで、それを示す報道写真を見ない。 現場中継で見られる下水管からの流入は、後々まで継続した。 しかし、その量は、高々毎秒数十リットル程度である。 陥没穴を満たすには、少なすぎる流入量である。 その水の大部分の出所は地下水であると考えられる最大の理由は、地下水位と思われる深さまで水が満たされた後、水面の上昇が止まってしまったからである。 
 「朝日新聞」は『地下水を含む砂層など』、「毎日新聞」は『地下水』、「TBS News 」は『砂層(水を含む)』、「朝日新聞デジタル」は『地下水』、「読売新聞」は『地下水と砂の混じった層』、「日経コンストラクション」は『砂層など−地下水位−』、「西日本新聞」は『地下水を含む砂質層』として、地下水の存在を明示している。 
 「NHK」と「産経WEST」、「産経新聞」が、「砂の層」に大量に存在しているはずの地下水を示していない。 「産経新聞」では『@ 水の通り道ができる』とあって、地下水の存在が暗示されているが。 
 優れているという評価を与えられる「解説図」は、なかった。 
 総合的には、「わさび」抜きの「刺身」であるが、「日経コンストラクション」による解説図が良いようである。 
 もうひとつの「朝日新聞デジタル」は、事故の引き金である「肌落ちの際の出水」と、陥没穴に溜まっている「大量の水」に注意が向いてしまって、そのために「地下水」だけがトンネル内へ流れ込んだと思い込んでしまった・・・と。 「刺身盛り」に「マグロ」がないのは寂しいが、良しという評価を与えることになろう。 
 残念なのは「産経WEST」で、「肌落ち」と「土砂の流れ込み」があったという重要なことを示しているにもかかわらず、『道路両側に陥没が発生、徐々に拡大』した後で『土砂が流れ込む?』としている。 これは前後が逆で、『土砂が流れ込む?』ことで道路下に空洞ができて、その結果として『道路両側に陥没が発生、徐々に拡大』したとする方が自然である。 なお、道路両側から先ず陥没が発生した原因は、道路中心部に大口径の下水管があって、これが道路中央部の崩落を一時的に支えていたとすると納得がいく。 
 これとは別に、「NHK」による解説図は、不完全なものであるという思いが抜けない。 これより早い時間に提供された「TBS News 」の方が、より詳しく、事故に至った現象を示している。 「産経新聞」では、見出しに「博多駅前大規模陥没 インフラ老朽化、相次ぐ事故」、記事中には「インフラの老朽化が進む大都市などでは陥没が相次いでおり、専門家は「どこでも起こりうる」と警鐘を鳴らす」としている。 この事故は、掘削作業中に不透水層に存在している割れ目から水が噴き出す肌落ちが起こり、その水流によって次第に割れ目が大きく広がっていったことで生じたものである。 「インフラの老朽化」とは、まったく関係のない原因である。 事故現場での壊れたインフラの姿を見て、全国的にインフラの老朽化が進んでいるので、それを改善する必要性があることを主張したかったのであろうか。 その点で、この記事は残念な評価を与えることになってしまう。

[補足] 
 この事故現場で地下鉄トンネルを掘削していた企業の上層部は、どのような認識をしていたかが事故後8日目に新聞に掲載された。
《補足資料》
 
陥没 施工業者が謝罪
博多駅前 1週間ぶり通行再開
 図36-12 陥没 施工業者が謝罪(記事の後半部分) 
 
2016年(平成28年)11月16日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版33面(社会)
【 小川直樹、土屋亮 】
 記事で、大成建設の田中茂義専務は「(トンネルの)上に何か悪さをして落ちてきたとは思っていない」、「(地層に)何か急激な弱点が考えられる。 一部が弱かったか、水を含んでいたかもしれない」と語ったという。 
 「・・・とは思っていない」、「・・・が考えられる」、「・・・かもしれない」と、逃げ表現の連発である。 
 この発言からは、超一流とされている大学の「工学部土木工学科」を卒業した「技術者」としての姿は、まったく見えてこない。 事故から1週間が経過している。 航空機事故とは違って、事故前後の現場の様子を作業員は克明に見聞きしている。 その従業員にとって、専務は、直接の上司であるか、元請け企業の上役になる。 他言無用の事項であっても、聴取することができる立場にある。 彼らの詳細な証言と工事現場の地質状況を基にすると、専務が卒業した「土木工学科」研究室の学生でも、もっとマシな「お詫びの言葉」を述べられたであろう。 
 しからば、この工事に、工程上の無理な指示をしたのではないかと思ってしまう。

[追加] 
 陥没事故が起こって10日目、事故に関する記事が掲載された。 やっと、全容が見えてきたということか。
《追加資料》
 
ニュースQ
博多の陥没 固いはずの地盤でなぜ
 図36-13 陥没現場の断面図(記事中の「図」を引用) 
 
2016年(平成28年)11月17日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版31面
【 小林舞子、土屋亮 】
 記事中では、 
 佐賀大学低平地沿岸海域研究センターの下山正一客員研究員(第四紀地質学)によると、岩盤層は地上に隆起して空気や水にさらされた時期があり、上部には侵食で風化してもろい部分があるという。 「岩盤の天井部の厚みが薄かったり、地層がもろかったりして、岩盤に亀裂が入りやすかった可能性がある。 細かい調査は十分だったのか」と話す。 
 大成建設は、岩盤の天井部が薄くなっている部分があるとして、ボーリング調査を追加し、トンネルの天井を1メートル下げる設計変更を8月におこなっていた。 
 市が工事発注時に採用したのが、固い地盤に適しているが地下水には弱い「ナトム工法」。 大阪大学の谷本親伯名誉教授(トンネル工学)は「地盤が悪く、ナトム工法が向いてなかった」と指摘する。 長岡技術科学大学の杉本光隆教授(トンネル工学)は「中間的な性質をもった地盤もあり、工法の判断は難しい」と話す。 
との記述がある。 
 福岡市内には、「天神凹地」を形成する「警固断層」と、それに並行するいくつかの断層が推定されている。 それを下図に示す。 
《補足資料》
 

 図36-14 断層推定位置 
 赤色の丸、赤色の矢印は、筆者が書き加えたもの 
   ○ 赤色の丸:今回の陥没事故の推定位置 
   ↑ 赤色の矢印:事故原因と推定される地下の断層 
 
2005年(平成17年)4月19日(火)
福岡県西方沖地震・土木学会被害調査団速報
 3.地質・地盤条件(福岡大学・佐藤研一)
 上図に、「Yahoo!地図」を重ねたものを、下に示す。 「櫛田神社」を通って「竹下通り」と「東住吉通り」との交差点付近に至る1本の「推定断層」がある。 その両地点の中間で博多駅の少し西側の「青色の丸」で示した地点が、陥没事故を起こした場所である。  
 それを見ると、見事に、事故現場が「推定断層」と一致していることがわかる。 『図55-14 断層推定位置』の「東西断面図」を見ると、この「推定断層(「赤色の矢印」で示したもの)」の東側(赤色の丸)には、地下水に富んだ地層が地下深くにまで及んでいる。 この地層と、断層運動による地質の断裂によって、水を含んだ不安定な地盤を形成しているように思われる。 
 
 図36-15 断層推定位置 
 (「Yahoo!地図」から引用の現在の地図情報を重ねて表示) 
 
 断層の推定が正しければ、そこの地層は細かく破断されているはずである。 上層の水で満たされている砂の層から、その破断されている隙間を通って、「水道(みずみち)」ができている。 トンネルを掘る際に、その水道(みずみち)を突き破ってしまったなら、大量の「水混じりの土砂」が流れ込んでくることになる。 
 これが、利用できる資料から推定される最も可能性の高い事故原因であろう。 
 
博多陥没
最大深さ7センチ、福岡市「沈下は想定内」

 26日午前1時40分ごろ、今月8日に大規模陥没事故があった福岡市博多区のJR博多駅前の市道「はかた駅前通り」が沈下したと現場作業員から福岡県警に連絡があり、県警が現場を全面通行止めにした。 県警や福岡市が確認したところ、陥没事故後に埋め戻された場所(縦横約30メートル)が最大で約7センチ沈下していたが、安全が確認されたため約4時間後の午前5時半ごろに通行規制が解除された。 けが人はなく、電気やガスなどのライフラインにも影響はないという。 
 福岡市などによると、埋め戻し後も沈下の可能性があるとして自動計測器や目視で定期的なモニタリング調査を実施していた。 26日午前0時半ごろ、調査中に道路面が約1.5センチ沈下したことが確認され、その後拡大したため作業員が通報した。 午前2時40分ごろには最大約7センチに達したが、その後は変化はないという 
 陥没した穴をセメントなどを混ぜた「流動化処理土」で埋め戻した部分の重みで、陥没で緩んだ下の土が圧縮されたことが原因とみられる。 福岡市と陥没事故現場の地下鉄工事を請け負う共同企業体は、現場のボーリング調査で最大8センチの沈下は想定されていたとし、安全性に問題はないとの見方を示した。(中略)【 吉住遊、合田月美 】 
 佐藤研一・福岡大工学部教授(地盤工学)の話 一般の土木工事でも穴を埋め戻すと表面部分に若干の沈下は起こりうる。 市の言うとおり、この程度の沈下は想定の範囲内だろう。 ただ、最初の大規模陥没の影響で、埋め戻された下の地盤はもろくなっている市はボーリング調査をしっかりして、地盤の強度に不安があるようなら、薬液を注入して固めるなど適切な対応を取る必要がある。 現段階では安全性に問題はないのではないか。

2016年(平成28年)11月26日(土)10時22分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
博多陥没復旧作業、福岡市が業者らに感謝状

 福岡市は28日、博多駅前の道路陥没事故で復旧作業に携わった企業110社と作業員に感謝状を贈りました。 
 「昼夜を問わず、作業に当たっていただいた皆様のご尽力、そして心意気のたまものであったと思います。 心から感謝を申し上げます」(福岡市 高島宗一郎市長) 
 今月8日に起きた陥没事故では、発生から1週間で道路が仮復旧しました。 26日埋め戻した道路が最大でおよそ7センチ沈下し、一時通行止めとなりましたが、高島市長は28日の贈呈式では触れませんでした。

2016年(平成28年)11月28日(月)11時47分 TBS News
 
地下に特殊な薬液注入、地盤強化へ沈下防ぐ狙い

 福岡市のJR博多駅前の道路大規模陥没事故で、市交通局は4日、陥没部分の地下の砂層に薬液を注入し、地盤を強化する工事を始めた。 現場の埋め戻し後に道路沈下がみられたことから、沈下の進行を防ぐのが狙い 
 この日は、陥没現場の市道の中央部で機械を使って穴を掘り、地上から特殊な薬液を流し込む作業を開始。 今後、約150カ所で深さ5〜15メートルの穴を掘って薬液注入を続け、地盤を安定させる。 工事期間は今月下旬まで。(後略)

2016年(平成28年)12月4日(日)21時19分
産経WEST 赤字は右記引用部分
 26日午前0時半ごろ、調査中に道路面が約1.5センチ沈下したことが確認されて、その後、午前2時40分ごろには最大約7センチに達したという。 その後は変化はないということである。 
 地盤沈下の初期から確認されていて、その後の2時間ほどで更に5センチメートル沈んだことになる。 この沈下が、ゆっくりと長い時間をかけて起こったのではなくて、突然のように沈下が始まったことになる。 そして、ある程度沈下したところで、それは止まってしまった。 
 このような現象は、「土砂崩れ」と同じである。 地層の弱い部分が崩落すると、それによって一定のバランスが取れ、それ以上には進行しない。 
 もし、一般の土木工事でも穴を埋め戻すと表面部分に若干の沈下は起こりうることであれば、沈下は徐々に起こるはずである。 窪地での宅地造成地の地盤沈下を思い浮かべると、理解できよう。 そのようなところでは、ゆっくりとした長期にわたる地盤沈下はあっても、急激な沈下が始まって数時間後には止まってしまうようなことはない。 陥没で緩んだ下の土が圧縮されるのであれば、「宅地造成地の地盤沈下」と同じで、ゆっくりとした現象になろう。 現場のボーリング調査で最大8センチの沈下は想定されていたとしている点は、この道路が再開されたときに(沈下を想定した仮の状態ではなくて)完全な姿で舗装されていることから、後付けの感がある。 一般の土木工事とは違って、セメントなどを混ぜた「流動化処理土」で隙間なく埋め戻しているので、最初の大規模陥没の影響で、埋め戻された下の地盤はもろくなっているとは考えられない。 この陥没現場に限っては薬液を注入して固めるなど適切な対応を取ることを目的にして、市はボーリング調査をしっかりすることは無意味なことであろう。 ボーリング調査のために通行を制限してしまうことをも含めて。 
 沈下の原因として考えられるのは、陥没地点直下の地下鉄トンネル工事現場などに空洞が残っていた。 そこに、何らかのショックを切っ掛けとして、埋め戻し材がその空洞に崩落したことで、突然のように地表が沈下してしまった・・・と。 
 そのスキームを首肯するためには、以下のことを認めなければならない。 
 セメントなどを混ぜた「流動化処理土」による埋め立てが完全であるならば、埋め戻し部分は「岩盤」と同じような硬い塊になっているはずである。 そうであれば、その下に空洞があったとしても、セメントなどを混ぜた「流動化処理土」による「岩盤」状の地層が支えになって、埋め戻し材が崩落することはない。 考えたくないことではあるが、セメントなどを混ぜた「流動化処理土」による埋め立てに瑕疵があった・・・。 短期間に大量に調達された「流動化処理土」に不都合なことがあったのか、短時日におこなわれた「施工法」に問題があったのかは、決め手はない・・・が。 この「土砂崩れ」様の急激な地盤沈下の経過として、『埋め戻し部分が「岩盤」のように一体化できていなかった』ことによって、埋め戻しに使った土砂の空洞部分への崩落が最初に最下層部で起こり、砂時計のように、その崩落が次々と連鎖的により上の層に短時間に波及していった。 砂時計と違う点は、地下鉄トンネル工事の空洞部分を埋めるに足る土砂が崩落した時点で落ち着いてしまうことである。

 左の「TBS News 」で取り上げられているように、福岡市は博多駅前の道路陥没事故で復旧作業に携わった企業110社と作業員に感謝状を贈ったという。 「昼夜を問わず、作業に当たっていただいた皆様のご尽力、そして心意気のたまものであったと思います。 心から感謝を申し上げます」(福岡市 高島宗一郎市長)とのことである。 26日の早朝に埋め戻した道路が最大でおよそ7センチ沈下し、一時通行止めとなったことについては28日の贈呈式では触れなかったという。 
 この地下鉄工事の施工計画について、福岡市には、工事計画に訳ありの過失があったのか?  それによる事故であったにも係わらず、関係企業は、懸命にやってくれた。 それで、表彰してやろうと・・・。 
 ただし、これは福岡市側に瑕疵があって、工事実施企業側には計画書通りに施工しただけの結果として、この陥没事故が起こってしまったということであれば、この表彰は納得がいく。 
 しかし、工事実施企業に注意義務を怠ったという負い目があって、それで、全力で復旧工事をしたということであれば、企業側が褒められる筋合いはない。 下の『図55-16 断層破砕帯におけるトンネル掘削の対策について(大成建設)』に示すように、この企業は複雑な地層におけるNATM工法でのトンネル工事に実績がある。 当然、陥没事故現場付近の複雑な地層は、把握できていたはずである。 
 その前に、この陥没事故の直接の原因になったと思われることを、『軟弱な地層、市の対策甘く 博多陥没、過去2度同様事故』の記事を示す。
《参考資料》
 
軟弱な地層、市の対策甘く
博多陥没、過去2度同様事故
 陥没が起きた場所はビルが立ち並び人通りも多いJR博多駅の目の前。 「はかた駅前通りと言うくらいの場所。非常に悔しい」。 高島宗一郎市長は事態を重く受け止め、「起きてはならない事故」と繰り返した。 
 トンネルの掘削法には主に、周囲を補強しながら硬い岩盤を掘り進む「ナトム工法」、軟らかい地層に円筒形の掘削機を押し込んで壁面を固めながら掘り進む「シールド工法」、地表から直接掘り進める「開削工法」がある。 ナトム工法の費用はシールド工法の半分以下とされる。 現場では深さ約25メートルの岩盤層をナトム工法で掘り進んでいた。 
 市交通局によると、岩盤層の上には粘土層や地下水を含む砂の層があることがわかっており、トンネルの上に岩盤層が厚さ2メートルほど残るようにして掘削する計画だった。 
 ところが、掘り進めるうちに、岩盤層の上部の「福岡層群」という地層が大きく上下に波打ち、計画通りでは一部で岩盤層が1メートルほどになることが判明。 地下水が漏れないよう、トンネルの天井部を1メートル下げるよう今年8月に設計を変更していた
。 それでも事故は起きた。 市交通局幹部は「原因をしっかり究明したい」と話した。 
 その原因とは何か。 
 市営地下鉄七隈線の建設技術専門委員会のメンバーの三谷泰浩・九州大教授(岩盤工学)は、「福岡層群には、触るとぼろぼろになるような軟らかい石炭のような層が含まれる。 これが陥没の引き金になった可能性がある」と指摘する。 
 ナトム工法では、トンネルの周囲に鉄筋のボルトを挿し、壁面にコンクリートを吹き付けて補強しながら岩盤を掘り進む。 その作業中に石炭のような層を傷つけ、崩れ始めたのでは、とみる。 これが「アリの一穴」のようになり、岩盤の上にある堆積(たいせき)層が順に崩れ、最終的に地表近くの地下水がトンネルまで流れて大規模崩落につながった可能性があるという。 
 一方、谷本親伯(ちかおさ)・大阪大名誉教授(トンネル工学)は「あれほど大きな陥没をしたということは、ナトム工法が向いていなかったのではないか」と指摘する。 一般に軟らかい地盤や地下水の多いところではシールド工法が使われるという。 
 市交通局によると、陥没現場はナトム工法で掘削する西の端にあたり、その先はシールド工法だった。 谷本さんは「地盤の条件がナトム工法に適していたのか、検証がいるのでは」と話した。(後略)
 
2016年(平成28年)11月9日(水)03時56分
朝日新聞デジタル 赤字は下記引用部分
 この工事では、「岩盤層の上には粘土層や地下水を含む砂の層があることがわかっており、トンネルの上に岩盤層が厚さ2メートルほど残るようにして掘削する計画だった。 ところが、掘り進めるうちに、岩盤層の上部の「福岡層群」という地層が大きく上下に波打ち、計画通りでは一部で岩盤層が1メートルほどになることが判明。 地下水が漏れないよう、トンネルの天井部を1メートル下げるよう今年8月に設計を変更していた」という。 
 トンネルの天井部を下げるよう設計を変更することは、福岡市としては、路盤上の線路の上下を伴うので地下鉄の運行上からは避けたかったはずである。 この変更を提案したのは、当然、施工企業であろう。 施工企業としては、出水事故を避けるために、余裕を持って工事したいはずである。 両者の折衷案として、最低限の1メートル下げになったと思われる。 このとき、掘削に伴う地下水の漏れは施工企業にとって、当然、予測できることであり、施工には注意を払うべきであった。 が、残念ながら、大規模な陥没事故が起こってしまった。 
 福岡市と施工企業のどちらに、より大きな責任があると思っているかを推量すると・・・。 
 福岡市にとってはトンネルの天井部を下げるよう設計を変更する際に、余裕のある位置まで譲歩しなかったから施工企業に事故を起こさせてしまった。 申し訳ない。 それなのに、突貫工事で修復してくれたので関連企業に感謝状を差し上げよう。 その後の26日埋め戻した道路が最大でおよそ7センチ沈下し、一時通行止めとなったが28日の贈呈式では触れないでおこう・・・。 
 施工企業からみると、もう少し慎重に工事すべきであった。 それが、こんなことになってしまったから、せめて復旧工事は全力でしなければ・・・。 
 お互い様、そんなところでしょう。 

 左の『地下に特殊な薬液注入、地盤強化へ沈下防ぐ狙い』産経WEST』の記事では、市交通局は4日、陥没部分の地下の砂層に薬液を注入し、地盤を強化する工事を始めた。 現場の埋め戻し後に道路沈下がみられたことから、沈下の進行を防ぐのが狙いという。 今後、約150カ所で深さ5〜15メートルの穴を掘って地上から特殊な薬液を流し込む 
 この陥没現場は、たてよこ30メートルである。 約150カ所でおこなうので、平均して、6平方メートルに1ヶ所である。 この特殊な薬液を隅々まで浸み渡らすためには、注入した場所から水平方向に最大約2.1メートル先まで浸透させる必要がある。 
 特殊な薬液を流し込む部分は、(a)最初に陥没した穴に投入したセメントなどを混ぜた「流動化処理土」の層か、それとも、(b)その下の地下水で満たされている砂層か。 
 道路沈下の原因として一般的に考えられているものは、陥没穴を埋め戻すために投入した「流動化処理土」でできている地層が収縮したからであると。 それによる沈下を防止する方法は、前者(a)である。 そうであれば、稠密な状態の「流動化処理土」の地層に、これだけの距離を浸透させることは可能か?  工事期間は今月下旬までであるので、単純に計算して1ヶ所あたり3時間の施工時間であって、並行して作業しても困難であると思われる。 地盤の固定は縞状になってしまうので、部分的に陥没する可能性が残る 
 後者(b)では、砂の層への浸透であるから、特殊な薬液を流し込むことで固定することは容易であろう。 ただし、道路の沈下が前者(a)で述べた理由によるものであるなら、施工効果は期待できない 
 筆者が考えている道路沈下の原因は、沈下する時点でトンネル工事による空洞が部分的に残っていて、そこへ土砂が短時間に流入した結果であると。 そうであれば、 
・別の空洞が残っていなければ、この工事は無駄である。 
・残っているなら、後者(b)の施工方法が有効である。 
 埋め立てた地層を固めるのではなくて、その下の砂層に薬液を注入し、地盤を強化する工事であれば、再開する地下鉄トンネル工事の際に起こる可能性がある出水事故を防ぐことをも含めて、有効かも知れない。

「大成建設」による施工例が発表されている。 その一部の図を下に示す。 
《補足資料》
 
 図36-16 断層破砕帯におけるトンネル掘削の対策について(大成建設) 
 
2015年(平成27年)近畿地方整備局研究発表会
施工・安全管理対策部門No.20
大成建設(株)近畿自動車道紀勢線 田野井第二トンネル工事作業所
 「大成建設」には、破砕帯などのような土砂崩壊と出水の可能性が高い地層の掘削技術を持っている。 博多でのトンネル掘削を、これと同様な手法でおこなえば、大事に至らなかったのではないか。
 
<福岡市>今度は地下鉄で壁面剥落 男性の頭に当たる

 26日午前9時5分ごろ、福岡市中央区の福岡市地下鉄空港線赤坂駅のホームで、地上2メートルの壁面からはがれ落ちた大理石片が、近くにいた30代男性の頭に当たった。 福岡市によると、男性はそのまま立ち去り、けがの有無などは不明という。 
 はがれ落ちた大理石は、長さ約74センチ、幅約7センチ、重さ約2キロ。 大理石の壁面は1981年の開業時からのもので、接着面の劣化が剥落の原因とみられる。 
 市は、市地下鉄空港線と箱崎線で同様に大理石の壁面がある全ての駅について、危険がないか緊急点検する。【 吉住遊 】

2016年(平成28年)11月26日(土)13時17分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 福岡市中央区の福岡市地下鉄空港線赤坂駅のホームで、大理石のタイルが地上2メートルの壁面からはがれ落ちたという。 
 この件が博多駅前での陥没事故とは直接の関係がないとしても、地下鉄空港線赤坂駅は「警固断層」上にある。 ともに(推定されている)断層による複雑な地層を背景とした出来事である。 警固断層から北西方向への延長線上にある断層は、2005年の福岡県西方沖地震を起こした断層である。 双方の断層が一緒に活動しているかも知れない。 警固断層が活動しているとすると、地下鉄空港線赤坂駅が設置されている地層にも歪みが生じているかも知れない。 それが今回の壁面の剥離につながったという・・・可能性がある。 
 『図55-14 断層推定位置』の「東西断面図」の地下鉄ホーム深さでは、警固断層の西側では安定した地盤、東側では沖積層からできていることがわかる。 ホームの西方と東方では地盤が異なっているので、時間の経過に伴って、地下構造物に加わる力が変化していく。 地下鉄ホームの構造部分は堅固に構築されているとしても、地層に接する平面構造の壁面は(トンネルのような曲面と違って)、徐々に変化していく圧力によって変形していく。 ある変形量を超えたときに、タイルが壁面から剥離・落下してしまう・・・。 
 「市は、市地下鉄空港線と箱崎線で同様に大理石の壁面がある全ての駅について、危険がないか緊急点検する」ということである。 
 この大理石の壁面がある全ての駅緊急点検するとの方針には違和感を抱く。 大理石の壁面への固定に問題があるのではないと考えている。 大理石以外のタイルでも、剥離の可能性があるかも知れない。 また、大理石の壁面であっても、地層が安定している地下鉄駅では剥離することはないと思われる。 
 ひとつの出来事が起こると、類似の事故を防ぐ処置をおこなう。 類似の事故の原因をどのように考えるかによって、事故を防ぐ処置の方法が変わる。 福岡市は、それを「大理石の壁面」であるとしている。 もしそれが「複雑な地層」にあるとすると、不必要な処置と不充分な対処をしようとしていることになる
 
陥没兆候 市に報告せず
博多 業者、前日に異常値計測
 図36-17 陥没兆候 市に報告せず 
2017年(平成29年)1月24日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版30面(社会)
 「福岡市のJR博多駅前で昨年11月に起きた陥没事故で、陥没の兆候を示す数値が事故前日からトンネル内部で計測されていながら、市に報告がないまま施工業者が地下鉄工事を続けていたことがわかった。 業者の対応と大規模な崩落との因果関係が、今後の原因究明の焦点となる。 (中略) 
 計測値は、事故前日の11月7日から上昇を始めた。 同日午後6時ごろに土木学会の指針に基づいた3段階の基準値のうち、現場点検などが求められる「レベル1(注意体制)」の値を超えた。 市と大成JVとの契約では、この時点で市に連絡する取り決めだったが、大成JVは連絡していなかった。 
 その後計測値は上昇を続け、8日午前1時ごろ、軽微な対策工事の実施を求める「レベル2(要注意体制)」になった。 その30分後には、工事の停止を求める「レベル3(厳重注意体制)」に到達した。 それでも大成JVは市に報告しないまま、工事を続けていた。 大成JVが市に連絡したのは、陥没が始まった4分後の午前5時24分だった。(後略)
」という。 
 記事では「レベル1(注意体制)」や「レベル2(要注意体制)」、「レベル3(厳重注意体制)」の注意を警告する基準である具体的な「歪み量」は記載されていないが、それぞれの差はかなり大きいと思われる。 歪み量の比較的小さい「レベル1」から「レベル2」になるまでに要した時間が7時間、「レベル2」から歪み量の大きな「レベル3」になるまでには僅か30分であることから、陥没に至る土砂の崩落が連続的に続いていたものと思われる。 そして、その4時間後に、ついに崩落の閾値を超えてしまったということであろう。 
 記事では、大成JVは市に報告しないまま、工事を続けていたことが問題であると指摘している。 崩落の危険性があるレベルに達したのが午後6時であり、それに気付いた頃には役所の執務時間が終わっていたのであろう。 そこで、明朝の始業時間に合わせて、市の担当者に連絡するという判断をしたかも知れない。 残念ながら、その連絡を予定した時間の前に、致命的な崩落が生じてしまった・・・と。 規則に従って報告することを怠った企業の行動は、当然、許せないことであることは間違いない。 
 しかし、大事なことは、報告の有無が、その後の経過にどれだけの差をもたらしたかということである。 
(1)陥没の防止策 
 短時間に「レベル3」状態に、そして崩壊に突き進んでいった。 崩落を食い止めるためには、短時間で効果を発揮する凝固剤を、トンネルの全断面に注入する必要がある。 深夜の時間帯であり、この数時間で、多数の機材と多量の薬剤を調達することは、難しかったのではないだろうか。 それを取り扱う作業員の手配は、更に、困難であったろう。 
 大成JVにとって、効果的な対処法は「無い」に等しかった。 
 福岡市の担当者が連絡を貰ったとしても、他部署へ連絡することを除いて、この事態を改善できる方策をとることは不可能であった。 大成JVに対して、無駄なことであるとしても「最善を尽くせ!」と命令するだけであろう。
(2)陥没に対する安全策 
 もし、福岡市の担当者が連絡を貰ったら、警察などへの事前連絡が可能であった。 それによって、道路の交通規制や救急車などの手配ができたことになる。 今回のケースでは早朝であったことから人身事故に至らなかったのであるが、それは不幸中の幸いであった。 
 市への連絡で得られる利点は、この点だけである。 
 報告しなかったことは、その後の経過には、大した影響を与えるものではなかったと思われる。 「大成建設広報室は「原因などに関する質問については、回答を控える」と答えた」というが、「報告の有無」によって「有効な対策の実施」を左右したとは考えられないということであろう。
 
陥没の防止策「不備」
博多事故 第三者委が最終報告
 図36-18 陥没事故のメカニズムと原因 
2017年(平成29年)3月31日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版35面(社会)【 原篤司、小川直樹 】
記事中での「図」を引用
 「福岡市のJR博多駅前で昨年11月に起きた陥没事故で、国の第三者委員会は30日、最終報告書を発表した。 地下鉄工事を行っていたトンネル上部の岩盤に亀裂が生じ、陥没につながったと推定。 市交通局と施工業者の大成建設JV(共同企業体)の対応について、事故を未然に防ぐための対策が不十分だったとした。 
 原因は「様々な要因が複合的に作用した」とし、事故につながった可能性が高い二つの要因を示した。 
 一つは、トンネル上部の岩盤の強度を十分に考慮せずに設計や施工をしたことを挙げた。 岩盤の風化が進んで弱い部分があり、厚みも当初の想定より薄く、事故後の調査では2メートル前後しか確保できていなかった。 
 もう一つは、トンネル上部の岩盤にかかっていた高い水圧への安全対策の不十分さを指摘。 岩盤の構造が均一でないにもかかわらず、水圧に耐えられると考えていたという。(中略) 
 会見で第三者委の西村和夫委員長(首都大学東京副学長)は、「現場付近の地質状況を事故前に正確に把握することは困難だったが、地下水への対策が十分でなかったことは明らか」と話した
」という。 
 この記事で、西村和夫委員長(首都大学東京副学長)は、「現場付近の地質状況を事故前に正確に把握することは困難だったが、地下水への対策が十分でなかったことは明らか」としているが、以前から「天神凹地」を形成する「警固断層」とそれに並行するいくつかの断層が推定されていて、そのような軟弱な地盤での工事であることは承知していなければならなかった。 遠隔地の専門家にあっては福岡地域の地質状況を認識することは難しかったとしても、福岡市交通局に勤務する専門家がこの地層の状況を把握しているという期待は当然である。 把握している地層状況に基づいて、工事設計をしなければならないと・・・。 
 このような地層であることから、それ以前に大規模な陥没が起きなかったことが幸運であって、軟弱な地層を想定した上で、工事を計画しなければならなかった
 

(37)豊洲に漂っている水銀
 
豊洲地下の水銀、再び指針値上回る

 東京都の豊洲市場(江東区)の主な施設下に土壌汚染対策の盛り土がなかった問題で、安全性を検証する都の専門家会議が10日、3回目の会合を開いた。 建物下の地下空間の大気から国の指針値を超える水銀が検出された問題では、換気後にいったん指針値を下回ったが、直近の計測で、再びわずかに指針値を上回る結果が出た 
 同市場では、青果、水産卸売場の両棟の地下で9月末、国の指針値の最大7倍の水銀が検出された。 その後、水産卸売場では指針値以下に下がったが、青果棟では上回り続け、11月の第2回会合で、空間の底にたまった水に混じった微量の水銀が気化したと判断した。 11月17〜23日に地下空間内を換気した直後の計測では指針値を下回ったが、今月1、2日の計測で再び、わずかに指針値を超えた。

2016年(平成28年)12月10日(土)13時14分
朝日新聞デジタル 赤字は下記引用部分
 
豊洲市場
“水銀”は「たまり水」から気化と特定

 豊洲市場の土壌汚染対策を検討する専門家会議は、地下ピットの大気から測定された水銀について「たまり水」から気化したものと特定し、今後、排水するよう東京都に指示しました。 
 豊洲市場にある2つの建物の地下ピットの大気からは、9月に指針値を超える水銀が測定されていました。 都が再び測定したところ、地下ピットの換気直後は全体的に数値が下がっていましたが、1週間後には一部で換気前の状態に戻ってしまったということです。 
 専門家会議・平田健正座長:「地下水に由来をする地下ピットの中の水から気化をしていることは間違いない」 
 こうしたことなどから、専門家会議は地下ピットの水銀が「たまり水」から気化したと特定して、今後はたまり水を排水したうえで再度、大気を測定するよう東京都に指示しました。

2016年(平成28年)12月10日(土)17時48分
テレビ朝日系(ANN) 赤字は右記引用部分
 
豊洲市場の地下空間、再び指針値以上の水銀検出

 豊洲市場で盛り土が行われなかった問題で、10日、専門家会議が開かれ、地下空間で再び指針値を上回る水銀が検出されたことが明らかになりました。 
 10日午後、豊洲市場の安全性について話し合う第3回専門家会議が、市場関係者が傍聴する中、開かれました。 この中で、東京都は、先月、豊洲市場の地下空間で国の指針値を下回っていた空気中の水銀が、先週の測定で再び指針値をわずかに上回ったことを明らかにしました。 
 この結果について、専門家会議の平田座長らは空気中の水銀はたまり水から気化したものとの見解を示しました。 
 「換気が終わった後、新たに水銀が気化してきている。 おそらく、たまり水からの気化である」(国際航業株式会社 中島 誠 フェロー) 
 今後、地下空間のたまり水をポンプで排水したうえで、再び測定するなど安全性の検証は引き続き行われることになっています。

2016年(平成28年)12月10日(土)21時17分
TBS News  赤字は右記引用部分
《補足資料》
 
『水溶液中での水銀の溶解度』
実政勲/熊本大学理学部化学教室
地球化学 Vol. Special (1975) p. 50-54
 図37-1 水溶液中での水銀の溶解度 
  第2図「溶解度に及ぼす水銀蒸気圧の影響」から引用  
  図中の数字は温度(℃)(白丸は30℃での海水)  
 (一部改変) 
 
1975年(昭和50年)3月30日(日)
実政勲 地球化学 Vol. Special (1975) p. 50-54
 「青果、水産卸売場の両棟の地下で9月末、国の指針値の最大7倍の水銀が検出されたことがあった。 それが、換気後にいったん指針値を下回ったが、直近の計測で、再びわずかに指針値を上回る結果が出た」という。 「専門家会議は、地下ピットの大気から測定された水銀について「たまり水」から気化したものと特定した」と、テレビ朝日系は報じている。 また、TBS News もまた、「専門家会議の平田座長らは空気中の水銀はたまり水から気化したものとの見解を示していて、「換気が終わった後、新たに水銀が気化してきている。 おそらく、たまり水からの気化である」(国際航業株式会社 中島 誠 フェロー)」という。 
 ナトリウムイオン(Na)や塩化物イオン(Cl)は、水に溶け易い。 酸素()や水素()も、多くはないが、水に溶解する。 水銀のイオン(Hg2+Hg2+)もまた、低い濃度ではあるが、水に溶ける。 
 それでは、「空気中の水銀はたまり水から気化したものである」との記述を納得するためには、「金属である水銀」が、ある程度の濃度で、水に溶けるか?  
 それについて、左側の《補足資料》『水溶液中での水銀の溶解度(実政勲/熊本大学理学部化学教室)』のデータをもちいて、20℃での状態を表にして示すと、
表37-1 水に含まれる水銀の濃度と大気中の水銀の濃度の関係
 水に含まれる水銀濃度
下段:一兆分率濃度
  大気中の水銀濃度
下段:水銀の分圧
 指針値
大気中の水銀濃度
0.00013μg/リットル
0.13ppt
(平衡状態のとき)
←→0.040μg/m
4.8×10−12気圧
 指針値
水質中の水銀濃度
0.5μg/リットル
500ppt
←→147μg/m
1.7×10−8気圧
(平衡状態のとき)

 指針値の7倍の
 水銀濃度
(大気中)
0.00095μg/リットル
0.96ppt
(平衡状態のとき)
←→0.28μg/m
3.4×10−11気圧

 水中に水銀が
 飽和しているとき
45μg/リットル
45000ppt
(水銀が飽和した状態)
←→13,000μg/m
1.5×10−6気圧
20℃より低いときには、
   表の値よりも、水に含まれる水銀濃度が高くなるか、大気中の水銀の濃度が低くなる。
である。 上表はすべて平衡状態(水中の水銀濃度が大気中の水銀圧力と釣り合っている状態であって、この状態になるには長い時間が必要である)になっているときの値である。 最下部の「水中に水銀が飽和しているとき」は、水銀が水に最大限に溶け込んだときで、通常、飽和水溶液と呼ばれる状態である。 『表58-1 水に含まれる水銀の濃度と大気中の水銀の濃度の関係(20℃)』から、金属の水銀が水に溶けることが分かる。 20℃で水に溶けている水銀濃度(水銀の飽和濃度)は45μg/リットルであり、水質中の水銀濃度の指針値である0.5μg/リットルの100倍近い濃度である。 
 
 図37-2 「水に含まれる水銀濃度」と「大気中の水銀濃度」との関係20℃ 
 
 「大気での指針値」と「水中での指針値」を比べると、大気中での値が圧倒的に厳しいことが分かる。 これは、「呼吸によって吸入する空気量」と「水道水などで飲む水の量」を比べると、前者が圧倒的に多い。 前者は1日に5,000リットル程度であり、後者は1.5リットル程度であろう。 「呼吸で取り込む水銀量」か「飲食で取り込む水銀量」かの一方で水銀の1日当たりの摂取制限量を超えないようにしているとすれば、前者の吸入量と後者の飲水量の差がそれぞれの指針値の違いになっていると考えられる。 体内への吸収率を考慮して・・・。 
 「1週間後には一部で換気前の状態に戻ってしまった」ということから、地下ピットの「たまり水」には0.95ng/リットル(0.00095μg/リットル)以上の濃度の水銀が含まれていることを示唆している。 そうであったとしても、水質基準の0.5μg/リットルに対して、約500分の1であって「水質中の水銀濃度」が問題になることは考えられない。 ただ、この状態の水銀濃度の500倍の増加で水質の指針値の0.5μg/リットルに達することも、飽和状態である45μg/リットルになる約5万倍に比べると遥かに小さい値であるので、地下に多量の金属水銀が残留しているならば、将来的には水質の指針値を超える可能性も考えられる。 
 地下ピットが閉鎖空間である限り、その空間水銀濃度は常に指針値を超えてしまうであろう。 対策としては、地下ピット内への「たまり水」となる地下水の浸入を、完全に防止することである。
 
豊洲地下の排水開始=完了まで3カ月―都

 東京都の豊洲市場(江東区)で主要建物の地下空間に水がたまっている問題で、都は13日、ポンプによる排水を開始した 
 完了まで3カ月程度かかる見通し。 
 都は同日、青果棟の地上部分に設置した排水装置を公開。 たまり水に含まれる有害物質は排水基準を下回っているが、アルカリ性が強いことから薬品で中和し、下水道に流した 
 水がたまっているのは青果、水産卸売場、水産仲卸売場、加工パッケージの4棟で、底面までの水深は最大20センチ。 都は各棟で数千トンあるとみており、まずは2〜3週間かけて底面まで排水し、その後に下部の砕石層からも水を抜く予定だ。 

2016年(平成28年)12月13日(火)16時24分
時事通信(JIJI.COM) 赤字は右記引用部分
 
豊洲市場 地下空洞の水を取り出す作業開始

東京都は、豊洲市場の安全性を検証する専門家会議からの指示を受けて、建物の地下空洞で検出された水銀の数値を下げようと、地下にたまった水を取り出す作業を13日から始めました。 
築地市場の移転先となる豊洲市場では、盛り土のない建物の地下の空洞に地下水がたまり、このうち、青果棟の地下では、空洞の大気から国の指針を超える水銀が検出されていました。 
有識者で作る専門家会議は、検出されたのは地下空洞にたまった地下水に含まれていた水銀が揮発したものだと分析し、たまった水を取り出すことを決め、指示を受けた東京都が13日から作業を始めました。 
作業は、都から委託を受けた業者がポンプなどを使って水をくみ上げ、貯水槽で化学薬品を混ぜアルカリ性を中和する作業などをしてから、下水として処理していました。 
専門家会議では、水銀が検出されたことを受けて地下空洞を換気したところ、直後に水銀の数値が下がったことなどから、空洞にたまった地下水を抜き取れば、数値は安定して低下するのではないかと見ています。 
水を取り出す作業は3か月ほどかけて行われ、都や専門家会議では、その後、改めて大気中の水銀などを調べ、その効果を検証することにしています。

2016年(平成28年)12月13日(火)17時57分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 時事通信によると、「主要建物の地下空間に水がたまっている問題で、都は13日、ポンプによる排水を開始した」という。 「たまり水に含まれる有害物質は排水基準を下回っているが、アルカリ性が強いことから薬品で中和し、下水道に流した」。 
 たまり水アルカリ性が強いという。 そのアルカリ性の原因としては、建物に使った「セメント」から溶出してきた部分もあるかも知れないが、それだけでは説明しきれない。 
 化学工場跡地であるこの用地に残存している有害物質を処理する際に、地盤上部の汚染土壌については、それを除去して清浄な土砂で埋め立てている。 それよりも下部の汚染土壌を放置しておくと、有害物質が地下水などの上昇に従って地表面に湧きだしてくる可能性がある。 そのために、有害物質が残存している可能性がある下部土壌に、大量のアルカリ資材(*1) を投入しているはずである。 アルカリ性にしておくと、ほとんど物質は地下水に難溶な状態になってしまって、その場所に固定しておける。 
 たまり水のアルカリ性は、このアルカリ資材が溶けた地下水が上昇して、地下空間に溜まってしまった水であると考えられる。 
 NHKのニュースで、「有識者で作る専門家会議は、検出されたのは地下空洞にたまった地下水に含まれていた水銀が揮発したものだと分析し、たまった水を取り出すことを決め、指示を受けた東京都が13日から作業を始めた」という。 それは、「水銀が検出されたことを受けて地下空洞を換気したところ、直後に水銀の数値が下がったことなどから、空洞にたまった地下水を抜き取れば、数値は安定して低下するのではないかと見ている」からである。 
 地下深くにある(金属状態の)水銀は、そこに投入したアルカリ資材によって固定されることはない。 その場所にある地下水に溶け込み、周囲に拡散していく。 湧き出した地下空洞にたまった地下水にも、この水銀が溶け込んでいることになる。 その地下空洞にたまった地下水に含まれていた水銀揮散が、この抜き取り処置により、抑えられるということである。 
 地下水位が高いままであると、「地下深くにある水銀が地下水に溶け、その地下水が土壌の隙間を通って地下空洞に浸み出し、空洞内に水銀蒸気が充満してしまう」ことになる(『図58-3 地下での水銀拡散』)し、 
 図37-3 地下での水銀拡散 
 (地下水位が高い状態での模式図) 
 地下水に溶けた状態で、水銀が地下水と一緒に移動 
それではと、地下水位を低くすると、「地下深くにある水銀が(地下水に邪魔されることもなく)蒸気になって、土壌の隙間を通って、地下空洞や地上に湧き出てくる」ことになる(『図58-4 地下での水銀拡散』)(*2) 
 図37-4 地下での水銀拡散 
 (地下水位を下げた状態での模式図) 
  地下水のない部分:水銀(蒸気)が土砂の隙間を拡散移動  
  地下水がある部分:水銀(地下水に溶けた状態)が地下水と一緒に移動  
 地下深くから地下空洞に至る間隙があると、その地下空洞にも水銀蒸気が充満してしまう。 空洞にたまった地下水を抜き取っても、水銀に対する対策が完了する訳ではない。
 

(*1) 「アルカリ資材」を投入すると、そこはアルカリ性になる。 有害物質のうちの金属イオンの大部分は、水酸化物などの難溶性の塩を形成する。 それによって、それらのイオンの移動を抑制できる。 また、シアン化物イオン(CN)は酸性条件下で青酸ガス(シアン化水素、HCN)として揮散し、空中に混じると、生き物に細胞内呼吸の阻害による致死性の被害をもたらす。 アルカリ性にすることで、それの揮散を防止できる。 有毒物質の6価のクロム酸類も、アルカリ性の条件下では、水に難溶性の状態になる。 
 このためのアルカリ資材としては、農地の酸度を矯正する肥料としても使われている物質である「炭酸マグネシウム」を主材とした処理剤が考えられる。 
(1)環境に与える悪影響がほとんどないこと(安全性) 
(2)生産量が多くて安価であること(経済性) 
(3)マグネシウムイオンが土壌を固める性質を持っていること(物性) 
などの利点がある。 
 安全な処理剤としてローコストに大量の使用ができて処理後の地盤を硬くすることで、有害物質の封じ込めが可能になる。 
 ただし、水銀を含む塩は不溶化されるとしても、埋め立てた地中の無酸素環境では、イオン化傾向の小さな水銀イオンは容易に還元されて金属水銀になり、金属水銀の状態では「アルカリ資材」による封じ込め効果はなくなってしまう。

(*2) 「水銀が溶けた地下水の移動」と「水銀蒸気の拡散移動」は、双方とも土砂に隙間があって、そこを通り抜けていくことになる。 
 液体ではそれ自身の高い粘度のため、すき間を通り抜けにくいように思われる。 しかし、「毛管現象」や「圧力差」によって、流速は小さいながらも、間隙に浸透していく。 地下水でも同様で、地下水の移動に伴ってそれに溶けた水銀が移行していく。 もし、地下水位が地表付近にある場所に5メートル深さの地下空洞があるとすると、その空洞下面では0.5気圧の水圧が掛かっていることになる。 隙間が狭くても、その圧力によって、地下水が次々と浸透してくる。 溶解している水銀を伴って・・・。 
 もし、地下水位を大きく下げられたとすると、地下にある間隙は空気で満たされている。 このとき、水銀は、地下水に溶けた状態ではなく、蒸気の状態で移行する。 部屋の中へのすきま風の侵入で実感できるように、気体は僅かな間隙を通って素早く通過できる。 水銀の蒸気も同様である。 
 液体と気体の移動の容易さを考えると、地下水に「速い流れ」がない限り、水銀の移動速度は「水銀蒸気の拡散」の方が大きい。 
 地下空洞を含めた地上への水銀の移動を抑制させることを優先すると、地中部分は地下水で満たされた状態が望ましい。 だが、これでは、地下空洞の防水対策を完全にしないと、そこへの地下水の浸入を防ぐことが困難になってくる。 
 止水で困難なことは、「今、出ている水を出口側から止めること(「止水法」)」(閲覧『http://www.bousyoku.com/page42.htm』)である。 それを、広大な地下空間に施すことは、不可能に近いと思われる。 この防水工事は基礎工事の時点でやっておくべきであった。

 
豊洲市場で“ひび割れ” 10月の開業「影響なし」

 豊洲市場で、10メートルに及ぶひび割れが見つかった。 豊洲市場の水産仲卸棟の建物部分と舗装の接点部分に、幅およそ10メートル、段差5cmのひび割れが見つかった建物周りの地盤が、徐々に地盤沈下したことが原因とみられている。 豊洲市場に来た仲卸業者らから指摘を受けて、都が確認・公表したものだが、都は、ひび割れ自体はおよそ1年前の秋から把握していたという。 ひび割れについて、都は「今後、突然の陥没が起こることはない」「有害物質などの揮発については、盛り土が有効に機能しており、地上部の安全性には問題はない」としている。 豊洲市場の10月11日のオープンのスケジュールに影響はないとしている。 
 図37-5 豊洲市場で“ひび割れ” 
 (映像のスクリーンショット) 

2018年(平成30年)9月11日(火)19時08分
フジテレビ系(FNN) Fuji News Network 赤字は右記引用部分
 建物部分と舗装の接点部分に、幅およそ10メートル、段差5cmのひび割れが見つかったという。 
 これは、建物周りの地盤が、徐々に地盤沈下したことが原因であることは間違いない。 「建物」は地下の「岩盤まで届く支持杭」で保持されているのに対して、「周りの地盤」は「埋め立て土」でできている。 「埋め立て土」は時間とともに圧縮されて、沈下していくことは充分に考えられることである。 「地盤」は、「建物」から、垂直方向の断層のように、次第に擦れ下がっていく。 
 このひび割れについて、都は「今後、突然の陥没が起こることはない」ことは、埋め立て地盤に「空洞」がない限り、その通りであろう。 しかし、「有害物質などの揮発については、盛り土が有効に機能しており、地上部の安全性には問題はない」ことには、疑問が生じる。 「盛り土」に「地下深くから地上に至る上下方向の隙間」があるとすると、その「隙間」を通って、有害物質(水銀など)の蒸気が上昇してくる。 「建物」から「地盤」が次第に擦れ下がっていく現象が見られるので、双方の間に「隙間」ができている可能性が高い。 それは、「地下深くから地上に至る上下方向の隙間」になるはずである。 「有害物質などの揮発については、盛り土が有効に機能している」とは、いえないことになる。 
 今後、この「ひび割れ」部分について、定期的に、「有害物質」の蒸気が漂っていないか、測定すべきである。 
 では、「ひび割れ」が見られない別の場所では、このような恐れはないと断言できるか? 
 地盤の沈下が、特定の場所だけであるとは、考え難い。 では、全体的に地盤沈下しているとすると、「ひび割れ」が見られる場所が限られていることと、矛盾はしないか?  『「ひび割れ」は見られない』場所であったとしても、そこが『地盤沈下している』可能性は高いと考えられる。 そこでは、「建物の外壁」と「地盤の舗装部分」が固着していて、外見的に「ひび割れ」には至っていないことになる。 しかし、「地盤の舗装部分」の下端に、地盤が沈下したことによって生じた「水平方向に拡がる隙間」ができているであろう。 この「水平方向の隙間」に、「地下深くから地上に至る上下方向の隙間」を通って上昇してきた蒸気状態の「有害物質」が、充満していることになる。 それが、地上に通じる小さな「間隙」を通って、空中に拡散してくる。 この現象を確認するためには、拡散して希薄になった「有害物質」の蒸気濃度を、計測することになる。 低濃度であるので、そのような濃度であることを前提にした計測法を、採用しなければならない。 通常の計測方法では、検出限界未満の濃度であるという計測値になって、「この現象自体が存在しない」という結果になってしまう。 
 「有害物質が検出限界未満の希薄な蒸気濃度であって、それを、年から年中、就業時間中に曝されていたとしても、健康に何らかの問題を引き起こすことはない」と断言するのであれば、これ以上言うことは何もないが・・・。
 

(38)急激な増加、豊洲の有害物質が
 
<豊洲市場>地下水 有害物質ベンゼン、基準値79倍も検出

 東京都の築地市場(中央区)移転問題で、都が豊洲市場(江東区)で実施した地下水モニタリングの最終9回目の調査(暫定値)で、最大で環境基準値の79倍に当たる有害物質のベンゼンと、検出されてはいけないシアンが計数十カ所で検出された。 14日午後に始まった外部有識者の専門家会議で報告された。 小池百合子知事は最終結果を踏まえて夏にも移転の可否判断をするとしており、難しい判断を迫られそうだ。 
 検出箇所が前回(8回目)の3カ所から大幅に増えたことなどについて、関係者から「考えられない」との指摘も上がっており、都は、この日の専門家会議の検証を踏まえ、調査方法の確認も含め、さらに再調査するとみられる。 
 地下水モニタリングは都が2014年から豊洲市場の観測井戸計201カ所で実施。 8回目の調査で初めて、基準値の1.1〜1.4倍のベンゼンと1.9倍のヒ素が、青果棟のある5街区で検出された。 座長の平田健正・放送大和歌山学習センター所長は「ここの地下水は飲用にしないため、健康に影響しない」とした上で、「今後の推移を見守るべきだ」との見解を示していた。 
 都関係者によると、最終調査では5街区以外でも基準値を超えて検出された。 
 小池知事は、昨年11月の予定だった移転時期を延期すると表明した際、地下水モニタリングの最終結果を見届けることを大きな理由に挙げていた。 今月12日に築地市場を視察した際には、移転の可否判断について「生鮮食品を扱うので安全・安心が優先。科学的なデータを踏まえた上で冷静に判断していきたい」と述べた。【 川畑さおり 】

2017年(平成29年)1月14日(土)11時26分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
豊洲市場の地下水 環境基準の79倍のベンゼン シアンも検出

東京・築地市場の移転時期を判断するうえでの1つの指針となる豊洲市場の地下水のモニタリング調査で、最大で環境基準の79倍となるベンゼンが検出されたなどとする最終調査の結果がまとまりました。 小池知事は「もう一度、調査をしようということになるかもしれず、専門家会議に任せたい」と述べ、追加の調査が必要かなどについて、専門家会議で詳細な分析をしたうえで判断すべきだという考えを示しました。 
豊洲市場の地下水のモニタリングの最終調査は去年11月から先月にかけ市場の敷地の201か所から地下水を採取して行われ、14日に開かれた「専門家会議」で調査結果が公表されました。 
それによりますと、最大で環境基準の79倍となるベンゼンのほか、検出されないことが環境基準となるシアンが検出されたことなどがわかりました。(後略)

2017年(平成29年)1月14日(土)13時20分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 
豊洲移転の行程遅れ必至 専門家会議、3月までに再調査

 東京都の豊洲市場(江東区)の土壌汚染を調べるため、都が2年間続けてきた地下水検査の最終結果が14日公表され、環境基準の最大79倍の有害物質が検出された。 調べた敷地内の201カ所のうち72カ所から基準超の物質を検出した。 ほとんどが基準値以下だったこれまでの結果と大きく異なることから、都は原因を詳しく調べる方針。 築地市場(中央区)からの移転に向けた行程が遅れるのは必至だ。 
 小池百合子知事は14日、記者団に「想定を超す値で驚いた。 今後の方向性を(安全性を検討する)専門家会議などで議論いただき、日程もその結果次第」と話した。 「食の安全重視」で移転を延期した小池氏は難しい判断を迫られる。 
 結果によると、検出されたのはベンゼン、ヒ素、シアンの3種類。 地下水1リットルあたりの濃度を観測した結果、ベンゼン(環境基準は0・01ミリグラム)は35カ所で最大0・79ミリグラムヒ素(同)は20カ所で同0・038ミリグラム、シアン(環境基準は「不検出」)は39カ所で同1・2ミリグラムをそれぞれ検出した。 環境省の資料によると、基準値は1日2リットルの地下水を70年飲み続けても健康に有害な影響がない濃度とされる。 水銀と鉛は検出されなかった。 
 検査は、都が土壌汚染対策工事を終えた後の2014年11月に2年間の予定で開始。 昨年6月公表の7回目までは基準値以下にとどまり、同9月公表の8回目で初めて基準の1・1〜1・9倍のベンゼンとヒ素が3カ所で検出された。 
 都の専門家会議(座長=平田健正・放送大和歌山学習センター所長)は14日、今回の結果について、これまでとの変動が大きいため「暫定値」として公表。 都によると、今回の調査は前回までとは違う調査会社が受託したという採水方法などで実態と異なる結果が出ることもあるといい、平田座長は「原因は調査したうえで判断したい」。 複数の会社に委託し、専門家会議が直接関わる形で3月までに再調査する。 
 一方で、今回の値について健康への影響を記者会見で問われた内山巌雄・京都大名誉教授は、地下水が環境基準を超えたとしても「飲むわけではなく人体に影響はない」と話した。 
 小池氏は昨年8月、「地下水検査を予定の全9回終えてから判断する」として豊洲への移転延期を表明し、同11月に移転に向けた行程表を公表。 専門家会議の意見集約は今年4月の予定だが、今回の結果に関する再調査で、行程は遅れる見通しとなった。

2017年(平成29年)1月15日(日)05時01分
朝日新聞デジタル 赤字は下記引用部分
 東京都豊洲市場の土壌汚染検査は、都が土壌汚染対策工事を終えた後の2014年11月に2年間の予定で開始。 昨年6月公表の7回目までは基準値以下にとどまっていたところ、8回目の調査で初めて、基準値の1.1〜1.4倍のベンゼンと1.9倍のヒ素が、青果棟のある5街区で検出されたという。 それが、最終9回目の調査において、今までとは桁違いの最大で環境基準の79倍となるベンゼンのほか、検出されないことが環境基準となるシアンが検出されたことが分かった。 
 その検査で、地下水1リットルあたりの濃度を観測した結果、ベンゼン(環境基準は0・01ミリグラム)は35カ所で最大0・79ミリグラムであった。 
 さて、水質中のベンゼンの環境基準は、上で述べられているように、水1リットルあたり0.01ミリグラムである。 水質汚濁防止法における「排出水に係る規制」での排水基準(許容限度)は、水1リットルあたり0.1ミリグラムである。 また、大気中のベンゼン蒸気の環境基準は、1年平均値で1立方メートルあたり0.003ミリグラムである。 また、東京都の有害ガス規制での排出口規制基準値は、1立方メートルあたり100ミリグラムである。 この値は環境基準の約30,000倍の値であるが、それは排出直後の値であって、その後に大気によって薄められてしまうことを想定している。 
 ところで、ベンゼンの20℃での蒸気圧は、0.099気圧である。 このとき、1立方メートル中には320グラムのベンゼン蒸気が存在している。 有機化合物であるベンゼンは水には(水と油の仲で)溶け難いが、この温度では、水1リットルに約1.8グラムのベンゼンが溶解できる(ベンゼンの飽和水溶液)。 
 水1リットルに0.79ミリグラムのベンゼンが溶けているときには、それと平衡状態にある大気中に存在するベンゼンの分圧は4.4×10−5気圧である。 これは、大気1立方メートル中に140ミリグラムのベンゼンが存在していることを示す。
表38-1 水中のベンゼン濃度と大気中のベンゼンの量
 水中のベンゼン濃度 
(1リットルあたり)
   大気中のベンゼンの量 
(1立方メートルあたり)
 備考 
0.01ミリグラム   水質の環境基準 
0.1ミリグラム   水質汚濁防止法における 
 排水基準(許容限度) 
  0.003ミリグラム 大気の環境基準(1年平均値)
  100ミリグラム 排出口規制基準 

1.8グラム←→320グラム 飽和水溶液(平衡状態)

0.79ミリグラム─→140ミリグラム 測定された汚染の最大値 
 検出された地下水中のベンゼンの最大濃度である水1リットルあたり0.79ミリグラムは、この水質汚濁防止法の排出水に係る規制値である水1リットルあたり0.1ミリグラムを大きく超えている。 
 ベンゼンの最大汚染濃度の状態の地下水が密閉空間にあるとすると、その空間のベンゼンの量は1立方メートルあたり140ミリグラムである。 「東京都の排出口規制基準」を超えている。 この空気を排出すると、当然ながら、排出口規制に抵触することになってしまう濃度である。 
 前章の『図58-4 地下での水銀拡散』は水銀での例であるが、ベンゼンでも同様である。 土壌中の隙間を通ってベンゼン蒸気が湧き出してくることになる。 地下水から気化する時点でのベンゼン濃度は『表59-1 水中のベンゼン濃度と大気中のベンゼンの量』に示すように、環境基準(1年平均値)に比べて数万倍も高い。 地上に湧き出た状態でも、環境基準を大きく上まわっている可能性が高い。 そこが閉じた空間であるならば、蒸気が薄まる程度は小さく、環境基準を満たせないことになる。 
 内山巌雄・京都大名誉教授は、地下水が環境基準を超えたとしても「飲むわけではなく人体に影響はない」と話しているが、それは水に溶けたベンゼンについてである。 気化したベンゼン蒸気による影響を、考慮していない発言である。 サンダル製造工程において、そこで使用された「ゴムのり」中のベンゼンにより発症した白血病や再生不良性貧血が知られている。 その場合よりは低い濃度であるとしても、長時間にわたる暴露の影響は無視できないであろう。 

 なお、昨年6月公表の7回目までは基準値以下にとどまっていたのであるが、それが突然のように地下水1リットルあたりの濃度を観測した結果、ベンゼン(環境基準は0・01ミリグラム)は35カ所で最大0・79ミリグラムとなり、ヒ素(同)は20カ所で同0・038ミリグラム、シアン(環境基準は「不検出」)は39カ所で同1・2ミリグラムをそれぞれ検出したという。 
 「採水方法などで実態と異なる結果が出ることもある」いうが、採水方法などでの不適切な取り扱いによって分析値が小さくなってしまうことはあっても、故意に有害物質を混入するといった不正行為のケースを除外すると、実際よりも大きな値となってしまう場合を例示することは困難である。 大きくなる1つの例としては、試料水の量を間違ってしまった場合である。 1ミリリットルのところを、1リットルの水を分析した場合である。 見かけ上、有害物質が1,000倍の量となってしまう。 しかし、このような間違いは、絶対に、起こらない。 1リットルの水の分析にはポリタンク1杯の試料水が必要であるから、1ミリリットルの場合の試料瓶1本のときとは、容器の大きさがまったく異なる。 専門家であれば、間違いが入り込む余地は、絶対にない。 
 ということで、昨年6月公表の7回目までは基準値以下にとどまっていたことと、突然のように地下水1リットルあたりの濃度を観測した結果、ベンゼン(環境基準は0・01ミリグラム)は35カ所で最大0・79ミリグラムとなってしまったことを、今回の調査は前回までとは違う調査会社が受託したということであったとしても同じ試料を分析して、分析会社によって分析値が大きく違ってしまうのであれば、不適切な分析値を提供した会社はそれ以前に廃業しているはずであって、科学的に合理的な説明をすることは不可能である。 
 それ故、ほぼ零で推移していた分析値が急に大きな値になってしまった点に関しては、科学的に評価することが不可能である。
 
豊洲 基準100倍のベンゼン
地下水再検査 ヒ素・シアン検出
「地上、科学的には安全」専門家
 図38-1 豊洲 基準100倍のベンゼン 
 地下水再検査 ヒ素・シアン検出 
2017年(平成29年)3月20日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面
記事中での「図」を引用
 「複数地点で基準超の有害物質が出た1月公表の暫定値とほぼ同様の結果で、1月の数値が確定した」という。 
 また、8回目までの検査結果とこの2回の検査との差違について、「専門家会議は有害物質が突然検出された理由について、都が昨年8月以降に本格稼働させた「地下水管理システム」の影響で、水の流れが変わったことなどを指摘した」という。 
 結果的には、この2回の調査結果が、汚染の現状を示しているということであろう。 
 なお、これまでに地下水検査を受注した業者を示すと、
《補足資料》
 
急激な数値悪化なぜ?
豊洲市場、過去の検査を検証へ
 図38-2 豊洲市場の地下水検査を受注した業者 
 (記事中の「表」を引用) 
 
2017年(平成29年)1月18日(水)05時07分
朝日新聞デジタル
である。
 

(39)隕石落下によるクライシス防止策
 
地球に迫る小惑星
市販望遠鏡で探索
JAXA、新手法を開発

 図39-1 地球に近づく天体を検出する新手法 
 (下部に新手法の解析法) 
2017年(平成29年)3月29日(水)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版2面(総合2)【 香取啓介 】
 「市販の望遠鏡を使い、地球に衝突する可能性のある小惑星などの地球接近天体(NEO)を探索する新手法を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが開発した。 従来は見逃していたNEOを安価で発見できる可能性があり、地球との衝突の警戒や天文学研究で力を発揮しそうだ」という。 
 それによると、「今年1月、市販の口径18センチの望遠鏡2台を使い、直径50メートル程度と30メートル程度の未知のNEOを相次ぎ見つけた。 数日後に、50メートルのものは地球から600万キロ、30メートルのものは186万キロに接近した」ということである。 
 ここで注意しなければいけない点は、NEOの発見によって、地球との衝突を警戒することが目的の1つであるということ。 これの発見が天文学研究の発展に寄与することもあるが、その役割は大きくない。 地球との衝突に対処できなければ、場合によっては、人類存亡の危機に瀕することになる。 それに絞って、議論を進めてみる。 
 隕石のもととなるNEOの持っているエネルギーを概算してみる。 太陽から遠く離れた場所から地球付近にやって来る(力学的には、太陽に向かって落ちてくる)と、そのときのエネルギーは(地球軌道の近辺で)NEOの質量1キログラムあたりで示して 8.9×10J/kg である。 そのNEOが地球と衝突する(地球に落ちてくる)と、地球の引力によって(地表面に達したときに)更に 6.3×10J/kg が追加される(*1)。 合計して、9.5×10J/kg となる。 
 さて、NEOの質量を求めねばならない。 密度はNEOの種類で異なるが、石質隕石様のものであるとし、3グラム/立方センチメートル程度と仮定する。 直径30メートルのNEOの質量は 4.2×10kg、直径50メートルのNEOでは 2.0×10kg 程度である。 エネルギーを求めると、前者が 4.0×1016J、後者が 1.9×1017J である。 そのエネルギーは、それぞれ、マグニチュード7.9と8.3の地震エネルギーに相当している。 直径30メートル程度のNEOの地上への落下は、マグニチュード7.9である1923年の関東大地震や2008年の四川大地震と同じエネルギーを地球に与える。 また、直径50メートル程度では、マグニチュード8.3の地震である2003年の十勝沖地震に相当する 
 NEOの落下は、地中の深い所でのエネルギー発散である地震よりは、水圏や気圏(大気圏)への影響は大きくなろう 
 数日後に、50メートルのものは地球から600万キロ、30メートルのものは186万キロに接近したということから、もし衝突するようなNEOであれば、この観測法での発見から落下までに数日間の余裕しかない。 その間に、落下地点近辺の数十〜数百キロメートル範囲の住民の避難は、至難の技であろう。 地球から離れた地点で、ロケットを使用してNEOの進行方向を変更させるための方策をとる時間は、まったくない。 
 もし、口径が10倍の望遠鏡を使うならば、100倍の光を集めることができる。 惑星などから届く光の強度は、距離の2乗に反比例する。 したがって、同じ感度の検出器を使うならば、10倍の距離にある惑星などを観測できることになる。 その場合には、NEOの落下までに数十日の余裕ができる。 「住民の避難」や「NEOの進行方向の変更」ができよう。 
 結局、市販の望遠鏡を使い、地球に衝突する可能性のある小惑星などの地球接近天体(NEO)を探索する新手法では、クライシスには対応できないことになる。 
 NEOへの具体的な対策例を下に示す。
《追加資料》
 
科学の扉 「想定外」を考える 地球に小惑星衝突の危機
破壊せず、軌道をそらす方法探る
 図39-2 「想定外」を考える 地球に小惑星衝突の危機 
 (記事中の「図」を引用) 
 
2017年(平成29年)4月2日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版23面(扉)【 香取啓介 】
 追加資料である『科学の扉 「想定外」を考える 地球に小惑星衝突の危機 破壊せず、軌道をそらす方法探る』にある『図61-2 「想定外」を考える 地球に小惑星衝突の危機』では、主として、「衝撃波」による被害を想定している。 
 1792年の雲仙岳での火山性地震に伴う山体崩壊に起因する津波が島原や熊本を襲い、1万5千人の死者を出したという。 巨大隕石の落下でも、同様なことが生起する可能性が大きい。 「津波」による被害は、密度の小さな空気によって伝搬する「衝撃波」とは違って、1960年のチリ地震津波にように遠距離の地域に影響を及ぼしてしまう。 地球表面の7割を占める水域への隕石の落下の可能性は大きい。 斜方落下であれば、隕石が持っていたエネルギーの多くが津波のエネルギーになり、巨大な「津波」が発生することになる。 「津波」では、海岸部に限定されるとしても、根こそぎ押し流されてしまう致死率の高い被害を被る。
 

(*1) 隕石が地上に落下したときのエネルギー計算に、地球脱出速度(第二宇宙速度)である毎秒約11.2キロメートルを使っている例がある。 これは、後半で計算しているものである、地球の引力によって得られる運動エネルギーに相当する。 この計算では、地球の重力圏外では、隕石の速度が"零"であることを意味している。 
 実際には、地球の重力圏外で隕石の速度が"零"の状態は、存在しない。 何故ならば、地球の重力圏外であっても、そこは太陽の重力圏内であるから。 太陽の重力圏内であれば、双曲線軌道か放物線軌道、楕円軌道を描いて「ある速度」で移動しない限り、太陽表面に落下して飲み込まれてしまうことになる。 太陽から遠く離れた場所から地球軌道付近まで(太陽に向かって)落下して得られる速度が、「ある速度」である。 この移動速度についてのエネルギー量が、前半で計算しているものであって、太陽の引力によって得られる運動エネルギーである。

 
直径650メートル小惑星
あす地球最接近
衝突の危険性なし
 図39-3 直径650メートル小惑星 最接近 
2017年(平成29年)4月18日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版27面(社会)
 「直径約650メートルの小惑星「2014JO25」が19日夜、地球に最接近する」という。 
 小惑星「2014JO25」の軌道要素などを、下に示す。
《追加資料》
 
JPL Small-Body Database Browser
(2014 JO25)
 図39-4 2014 JO25 
 
2017年(平成29年)4月18日(火)閲覧
ジェット推進研究所・アメリカ航空宇宙局
 アポロ型小惑星である。 近日点は0.2368au、遠日点は3.8971auである。 
 この小惑星が地球の軌道まで近づいたときの速度は、秒速36.7キロメートルである。 その運動エネルギーは、質量1キログラムあたりで示して 6.7×10J/kg である。 太陽系の外縁部からの小惑星の場合では 8.9×10J/kg であるので、それの4分の3程度の運動エネルギーを持っていることになる。 それが地球に衝突する場合には、更に、地球の重力で加速される。 その際のエネルギーは上で計算されていて 6.3×10J/kg である。 小惑星が衝突直前に持っている全運動エネルギーは 7.4×10J/kg となる(*2) 
 この小惑星の直径は約650メートルであるから、その質量を概算すると 4.3×1011kg程度である。 地球との衝突直前に持っている小惑星の運動エネルギーは、3.2×1020J となる。 このエネルギーの大きさは、M10.5の地震エネルギーに相当する。 超巨大地震であった1960年のチリ地震(M9.5)の約30回分、M9.0であった2011年の東北地方太平洋沖地震の約160回分である。 
 今回の接近では「小惑星は地球と月の距離の約4.6倍の位置まで近づくが、地球に衝突する危険性はない」とされている。 この小惑星の公転周期は、地球の公転周期の3倍(3年)よりも10.34日だけ短い。 この小惑星が、次回に地球の公転軌道と重なる3年後には10日ほど前に、6年後には21日ほど前に・・・、地球の軌道を横切っていることになる。 そのため、考えられる将来にわたって、この小惑星が地球に接近することは予測されていない。 しかし、「衝突の可能性がない」と証明されている訳ではない。 この小惑星は、小惑星帯(アステロイドベルト)を横切る軌道を持っているので、そこにある無数の天体のうちの1つの近くを通過することもあろう。 その天体との相互作用によって、地球と衝突する軌道に曲げられる可能性がある。 そのとき、地球へ向かってくる小惑星を何とかしなければ、地球自体とそこに住む生物は甚大な被害を被ることになる。 
 まずは、小惑星の破壊から・・・ 
(1)小惑星上で核爆弾を爆発させる。 それによって、小惑星は多数の破片に砕かれる。 そのようにしてできた破片であっても、それらが地球に降り注ぐのであれば、それらの持つエネルギーのすべてが地球に与えられることになる。 小さな破片は大気中で燃え尽きるとしても、それらが(それは、「トリフィド時代(The Day of the Triffids)」、John Wyndham(1951)、井上勇訳、東京創元社」 の冒頭のように)大量に降り注ぐことで、大気圏のエネルギーと物質のバランスが崩れてしまう。 異常気象を引き起こしてしまう。 大きな破片は、地球表面に甚大な被害を与えてしまう。 地球を破滅させるには充分である。 それらの破片の進行方向を変えられなければ、結果として、核爆発による被害の防止効果は小さい。 
 それでは、進行方向の変更は・・・ 
(2)宇宙船を小惑星に打ち込んで進行方向を変える方法は、有効か?  小惑星は、衝突の100日前には、地球−月間の820倍離れた位置にある。 その位置にある小惑星に、10トンの宇宙船を秒速10キロメートルで進行方向の真横から打ち込んだとすると、6.3×10−9ラジアン程度の進行方向の変更が可能である。 その結果は、地表面上で、約2.0キロメートルだけ衝突位置が移動してしまうことを意味する。 地球との衝突を防ぐためには、実用的には、1000機オーダーの宇宙船の打ち込みが必要であるが・・・。 小惑星の側面への打ち込みであるので、地球から発進させた宇宙船を大きく迂回させた軌道を取る必要があり、軌道変更のためのスイングバイ条件が厳しくなる。 地球に向かって秒速37キロメートルで進んでいる小惑星に、進行方向の真横から秒速10キロメートルで宇宙船を打ち込むのである。 的中させることに失敗する可能性も高い。 
(3)地球方向から小惑星を迎え撃つ形で宇宙船を打ち込んだらどうか?  正面衝突であるので、真横からの場合より、的中させられる確率は、高くなる。 これによって、この小惑星が地球の軌道に到達する時間が、もし、数分以上遅れたとすると、その間に毎秒29.8キロメートルで公転している地球は小惑星の前方を通り過ぎていくことができよう。 衝突を回避できる。 10トンの宇宙船を、秒速10キロメートルで正面衝突させる場合を考える。 小惑星は、正面衝突前の速度の6.3×10−9倍だけ、減速させられることになる。 それは、期待に反して、地球との衝突時間をわずかに55ミリ秒だけ遅らせることができるだけである。 有効なほどに小惑星の進行速度を遅くするためには、数千機の宇宙船が必要になる。 
(4)宇宙船を小惑星と並進させて進行方向を変える方法は、有効か?  10トンの宇宙船を小惑星表面から10メートルだけ離れて、並走させる場合を考えてみる。 両者に働く力は2.6ニュートンである。 宇宙船が小惑星と一定の距離(10メートル)を保つために、小惑星から離れる方向に、宇宙船のエンジンが2.6ニュートンの推力を出し続けなければならない。 この程度の推力を長時間にわたって連続して得ることは、難しいことではない。 ただし、このようなアベック飛行を地球との衝突100日前からしているとすると、地球表面上で2.2メートルだけ衝突位置を移せるだけである。 衝突防止に必要な宇宙船の数は・・・?  
(5)ロケットなどの推進エンジンの利用はどうか  ロケットの推力は、重量1000トンのロケットを打ち上げられるほどの大きなものもある。 しかし、その推力を得られるのは打ち上げ時の数分間程度であって、宇宙空間では不可能である。 長時間に渡って推力が得られる条件では、実用的には、10ニュートン(1キログラムのものを持ち上げる程度の力)程度である。 もし、100ニュートンの推力が得られるエンジンを持つ宇宙船を、地球衝突100日前に小惑星に着陸させて、その推力で小惑星の進行方向を変えようとしたとする。 100日間連続で推進エンジンを作動させると、地球表面上で、衝突位置を86メートルだけ移すことができる。 小惑星が回転しているとすると、推進エンジンを連続作動させると、最終的に推進力はプラスマイナス零になってしまう。 進行方向を変えられる位置になったときだけ推進エンジンを作動させるとすると、連続運転にはならないので、所定の推進力が得られない。 推進エンジンを連続作動させるためには、宇宙船にある推進エンジンの噴射方向を適切な角度に切り換えながら、作動させなければならない。 そのようにしても、小惑星の一回の自転の間で、推進エンジンの適切な噴射方向が地表を向いている場合には噴射動作が不適当であるので、作動させられる時間は全時間の半分以下になってしまう。 宇宙船を小惑星と並走させる場合よりはマシではあるが、地球との衝突を防ぐためには、一万機以上の宇宙船が必要になろう。 
 地球に衝突する可能性がある小惑星を100日前よりも充分に早い時期に見つけたとしても、実効的な対策を打つことは難しい。 
 ただし、日本では、「小惑星の落下」よりも「巨大カルデラ噴火」の方が、より大きい確率で被害を及ぼすということである。 「Yahoo!ニュース[個人]」に掲載の神戸大学海洋底探査センターの巽好幸教授による報告の一部を、下に示す。
《参考資料》
 
天体衝突と巨大カルデラ噴火、どちらが怖い?
 図39-5 天体衝突の発生確率とそのリスク 
2017年(平成29年)6月14日(水)07時00分
Yahoo!ニュース[個人](部分)
 
 それによると、日本を壊滅的に破壊するエネルギーを与えるケースでは、「巨大カルデラ噴火」は「天体衝突」の10,000倍程度の確率で起こるという。 「天体衝突」を日本に限定しない場合でも、約100倍である。 確率的には、「天体衝突」への対策よりも、「巨大カルデラ噴火」の予知を優先すべきであるということか。
 

(*2) 直径約650メートルの小惑星「2014JO25」が地球と衝突したときの衝突エネルギーを概算したが、その過程で、算出に瑕疵があった。 
 衝突時に放出されるエネルギーの算出の基となる速度の値が不適切である秒速36.7キロメートルという小惑星の速度は、太陽系を基準にした値である。 もし、地球が同じような速度で同じ方向に移動しているならば衝突時のエネルギーは小さいであろうし、正面衝突の場合には大きくなるはずである。 
 地球との相対速度を元にすべきであろう。 最接近時に、地球は太陽から1.0045天文単位離れた位置にある。 そのときの小惑星「2014JO25」の速度は36.6キロメートル/秒、地球のそれは29.6キロメートル/秒であって、それらの進行方向がなす角度は73.2度である。 両者が衝突したときの相対速度は 39.9キロメートル/秒である。 地球に衝突したときに小惑星が与える運動エネルギーは、それの1キログラムあたりにして、7.9×10J/kg となる。 地球の重力圏で、地球中心に向かう加速によって小惑星が持っているエネルギーが増加し、その量は位置エネルギーに相当する。 1キログラムあたり 6.2×10J/kg である。 小惑星の衝突によって放出される全エネルギーは 8.6×10J/kg となる。 
 この小惑星の質量の概算値を 4.3×1011kgとすると、そのエネルギーは、3.7×1020 となる。 元々の計算値は 3.2×1020J であって再計算した値はその1.2倍弱であるので、上の議論で変更しなければならないことは、ほとんどない。


 
小惑星、10月に地球に接近 = 静止衛星にもニアミス

 【パリAFP=時事】10月に小惑星が地球から約4万4000キロの距離まで接近して通過する見通しであることが明らかになった。 地球と衝突する恐れはないが、地球から約3万6000キロの軌道を周回する静止衛星にかなり近づく形となる。 欧州宇宙機関(ESA)が10日発表した。 
 「TC4」と名付けられた小惑星は長さが15〜30メートルで、2012年10月にも地球に接近。 その際には今回の倍の距離まで近づいていた。 現在、南米チリにある巨大望遠鏡が小惑星を追跡しているという。 
 ドイツにある欧州宇宙運用センター(ESOC)の代表は、小惑星のたどるコースが「とても(地球に)近い。静止衛星ともニアミスとなる」と語った。

2017年(平成29年)8月14日(月)14時14分
時事通信(JIJI.COM) 赤字は右記引用部分
 「10月に小惑星が地球から約4万4000キロの距離まで接近して通過する見通しであることが明らかになった。 地球と衝突する恐れはないが、地球から約3万6000キロの軌道を周回する静止衛星にかなり近づく形となる。 「TC4」と名付けられた小惑星は長さが15〜30メートルで、2012年10月にも地球に接近」したという。 
 その小惑星、正式名は「2012 TC」であるが、5年前の2012年10月12日14時30分(日本時間)に、地球に最接近していたという(「美星スペースガードセンターの発表資料」(閲覧『http://www.spaceguard.or.jp/ja/jsga/K12T04C.html』))。 
《参考資料》
 
美星スペースガードセンター アポロ型特異小惑星2012 TC4の観測に成功
小惑星 2012 TC4が10月12日14時30分(日本時間)に地球から約9万5000kmのところを通過しました。 当協会が観測運用する美星スペースガードセンターでは、10月7日及び11日、口径1m望遠鏡を使用し、この小惑星の観測に成功しました。 
 11日の観測からは、短時間での変光が認められ(アニメーション画像参照)、比較的短時間での自転が示唆されます。 この小惑星の直径は、13m−29mと推定されています。 
 以下、美星スペースガードセンターでの観測値、アニメーション画像及び軌道図を示します。(筆者注:アニメーション画像は省略) 
 図39-6 小惑星 2012 TC4の軌道図 
 
2012年(平成24年)「美星スペースガードセンター」(閲覧『http://www.spaceguard.or.jp/ja/jsga/K12T04C.html』)
 この小惑星について、「wikipedia」から得られる「軌道要素」と「物理特性」を以下に示す。
表39-1 「2012 TC4」の軌道要素と物理特性
 Aphelion 1.87754518 AU (280.876761 Gm) 
 Perihelion 0.9337118 AU (139.68130 Gm) 
 Semi-major axis 1.40562850 AU (210.279031 Gm) 
 Eccentricity 0.3357336 
 Orbital period 1.67 yr (608.70134 d) 
 Mean anomaly 198.5086° 
 Mean motion 0° 35m 29.123s /day 
 Inclination 0.85638° 
 Longitude of ascending node 198.253783° 
 Argument of perihelion 222.5613° 
 Known satellites none 
 Earth MOID 0.000249707 AU (37,355.6 km; 23,211.7 mi) 
 Jupiter MOID 3.461 AU 
 Dimensions 11-28 meters 
 Rotation period 12 minutes, 13.7 seconds 
 Apparent magnitude 26.2 (as of August 6, 2017) 
 Absolute magnitude (H) 26.8 
 小惑星2012 TCが地球に接近すると、地球との相互作用で、小惑星の公転軌道が変化する。 
 公転速度の変化をみる。 軌道要素から、地球に接近する直前での小惑星の公転速度を求めてみる。 地球の公転速度の1.135倍である。 この速度で、地球を追い抜いてゆくことになる。 小惑星の方が地球よりも速く移動しているので、圧倒的に大きい質量を持つ地球に引っ張られて、小惑星がわずかに減速する(運動エネルギーを失う)。 楕円軌道の長半径が短くなることを意味する。 
 進行方向は、どのように変化するか。 「アニメーション画像(美星スペースガードセンター)」(閲覧『http://www.spaceguard.or.jp/ja/jsga/K12T04C.html』)から、小惑星は太陽から見て地球の裏側を通過している。 小惑星は地球の引力によって、その方向に、したがって、太陽の方向に、ほんの少し曲げられることになる。 近日点引数がほんの少し増加する(近日点(注:近地点ではない)が北極星から見て反時計回りに移動する)ことになる。 
 次回の2017年での地球接近時には、2012年の接近によって公転速度進行方向が変化したことで、2012年時よりも地球により近づくことになる。 小惑星 2012 TC4が2012年10月12日14時30分(日本時間)に地球から約9万5000kmのところを通過したという。 それが、2017年の接近では、10月に小惑星が地球から約4万4000キロの距離まで接近して通過する見通しであると報道されている。 約5万キロメートル分だけ、地球の方に引き寄せられる形になっている。 
 それでは、更に5年後の2022年の接近時には、地球にクライシス (*3) が訪れるか?  答えは「分からない」。 ただ、よく似た小惑星である「チェリャビンスク州に落下した隕石」(*4) が参考になる (*5) 
 小惑星が地球に接近する毎に、地球との間に働く万有引力によって、「移動速度」と「進行方向」が変化する。 万有引力の大きさは両者の距離の2乗に反比例するので、2017年の接近では前回の4倍程度の影響を受けることになる。 その影響が、2022年に接近した時に、結果として表れる。 2017年接近での速度と方向の変化が大き過ぎて、2022年に接近した時には、逆に、地球との距離が大きくなって無事に切り抜けられることも、あり得る。 しかし、2022年が無事であったとしても、永久に安全であるということではない。 地球に幾度ともなく接近することで相互作用を繰り返すうちに、ある接近のときに、地球との衝突軌道を得てしまう。 それが、いつのことになるか・・・。 
 2022年の接近がどの程度になるかは、その最接近の数ヶ月前にならないと、判明しないものと思っている。
 

(*3) 小惑星の体積が5.0×10程度、その密度が3グラム/立方センチメートル程度であるとすると、その質量は1.5×10kgとなる。 この小惑星の軌道要素から、地球に接近した時点での小惑星の進行方向と地球の公転軌道との交差角を求めると、約10.2度である。 この時の小惑星の速度3.39×10m/s と地球の公転軌道速度2.98×10m/s、および、それらの交差角から、相対速度は6.9×10m/sになる。 小惑星の運動エネルギーは3.6×1014ジュールとなる。 更に、地球の重力圏で得られるエネルギーが約9.5×1014ジュールであるので、この小惑星が地球の成層圏に達したときに持っている全運動エネルギーは、1.3×1015ジュール程度となる。 成層圏に達したとき、この小惑星の地球に対する相対速度は 1.32×10m/s である。 
 このエネルギーを地震のマグニチュードに換算すると、約6.9である。 兵庫県南部地震(1995年、阪神・淡路大震災)が放出したエネルギーに相当する。 地震ではそのエネルギーのいくらかは岩石圏を振動させるために消費されるが、小惑星の地球への衝突ではそれの持っているエネルギーは気圏や水圏へ直接放出される。 それ故、同じエネルギーであっても、気圏水圏に住んでいる動植物への影響の点では、後者の方がかなり大きくなる。

(*4) 2013年にチェリャビンスク州に落下した隕石が、小惑星2012 TCとよく似たものである。 「Russian Chelyabinsk Meteor largest since 1908 Tunguska event」の一部を引用すると、 
《参考資料》
   Here is the NASA JPL statement: 
New information provided by a worldwide network of sensors has allowed scientists to refine their estimates for the size of the object that entered that atmosphere and disintegrated in the skies over Chelyabinsk, Russia, at 7:20:26 p.m. PST, or 10:20:26 p.m. EST on Feb. 14 (3:20:26 UTC on Feb. 15). 
The estimated size of the object, prior to entering Earth's atmosphere, has been revised upward from 49 feet (15 meters) to 55 feet (17 meters), and its estimated mass has increased from 7,000 to 10,000 tons. Also, the estimate for energy released during the event has increased by 30 kilotons to nearly 500 kilotons of energy released. These new estimates were generated using new data that had been collected by five additional infrasound stations located around the world - the first recording of the event being in Alaska, over 6,500 kilometers away from Chelyabinsk. The infrasound data indicates that the event, from atmospheric entry to the meteor's airborne disintegration took 32.5 seconds. The calculations using the infrasound data were performed by Peter Brown at the University of Western Ontario, Canada.
 
としている。 チェリャビンスク州に落下した隕石の大きさは17メートル、質量は10,000トンであり、落下の際のエネルギーはほぼ500キロトンであるという。 なお、500キロトンは2.1×1015ジュールである。 そのチェリャビンスク隕石を小惑星「2012 TC」と比べると、隕石は、小惑星の見積もり質量の7割であり、衝突時のエネルギーは1.6倍である。 質量あたりのエネルギーに換算すると、約2.4倍である。 
 なお、この隕石が地球の成層圏に達したときの「筆者による運動エネルギーの計算値」は以下のようになる。 ここで、「隕石の軌道要素」は長半径が1.73天文単位、離心率が0.51である。 この隕石が地球軌道に達したとき、地球は太陽から 0.9877天文単位離れた位置にある。 そのとき、隕石の公転軌道速度は35.8キロメートル/秒、地球の公転速度は30.1キロメートル/秒である。 双方の公転軌道は斜めに交差し、その角度は20.0度である。 このときの地球との相対速度は12.7キロメートル/秒である。 隕石の質量が10,000トンであるとすると、地球の重力圏に達したときに持っていた隕石の運動エネルギーは8.1×1014ジュールとなる。 地球の重力圏で得られる運動エネルギーは、約6.3×1014ジュールである。 したがって、地球への突入時に隕石が持っていた運動エネルギーは、1.4×1015ジュールとなる。 この値は、「NASAジェット推進研究所による推定値である 2.1×1015ジュールという値」の7割になる。 

(*5) 「小惑星 2012 TC(衝突時の推定エネルギー:1.3×1015ジュール、成層圏突入時の推定速度:13.2キロメートル/秒)が地球と衝突したとすると、 「チェリャビンスク州の落下隕石(衝突時の推定エネルギー:1.4×1015ジュール、成層圏突入時の推定速度:17.0キロメートル/秒) が持っているエネルギーと同程度であるが、衝突速度が小さい分だけ小惑星本体の破壊が進まない(地上まで落下する)可能性が大きい。 海面に落下したときには巨大な津波が周辺諸国の海岸を、陸域のときには破壊的な衝撃波が周辺都市を、襲って破滅的な被害を及ぼすことになろう。


 
過去最大級の小惑星、9月1日に地球接近

 【AFP=時事】米航空宇宙局(NASA)によると、過去1世紀以上の間に地球に接近した中で最大の小惑星が9月1日、地球のそばを通過する。 地球から約700万キロという異例の近距離まで接近するが、衝突の危険性はないという。 
 1981年に発見されたこの小惑星は、近代看護の生みの親として知られる19世紀の英看護師フローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale)にちなんで「フローレンス」と名づけられた。 
 NASAは声明で、フローレンスのサイズについて「地球からこれほど近い距離を通過する小惑星としては、1世紀以上前に最初の地球近傍小惑星が発見されて以来で最大」としている。 
 幅約4.4キロのフローレンスは最大級の地球近傍小惑星で、その大きさはエジプトのピラミッド30基分に相当する。 NASAによると、フローレンスがここまで地球に接近するのは1890年以来初めてで、次回の最接近は2500年以降になる見通しだ。

2017年(平成29年)8月31日(木)06時25分
AFP=時事 赤字は右記引用部分
 「米航空宇宙局(NASA)によると、過去1世紀以上の間に地球に接近した中で最大の小惑星が9月1日、地球のそばを通過する。 地球から約700万キロという異例の近距離まで接近する幅約4.4キロのフローレンスは最大級の地球近傍小惑星で、その大きさはエジプトのピラミッド30基分に相当する」という。 
 地球から約700万キロという異例の近距離まで接近するというが、それは宇宙規模での話。 地球−月の距離の約18倍である。 この小惑星の軌道要素から、地球との衝突の可能性をみよう。 
 「Asteroid 3122 Florence (1981 ET3)」によると、 
表39-2 Asteroid 3122 Florence (1981 ET3) Orbital Elements
 Element Symbol Value 
 Orbit eccentricity e 0.42330043 
 Orbit inclination i 22.15078421° 
 Perihelion distance q 1.02025792 AU 152,628,413 km 
 Aphelion distance Q 2.51800697 AU 376,688,482 km 
 Semi-major axis a 1.76913245 AU 264,658,447 km 
 Orbital period period 2.3500 years 859.4863 days 
 Date of perihelion transit Tp 2017-Sep-24 10:33:52 2,458,020.9402 JD 
 Argument of perihelion peri 27.846987829024° 
 Longitude of the ascending node node 336.09511817926° 
 Mean anomaly M 351.4385249816° 
 Mean motion n 0.41885485°/day 
 Closest approach to Earth  2017-Sep-02 
 Distance of closest approach  0.04739931 AU 7,090,835 km 
 このデータから、小惑星「フローレンス 1981 ET」は地球軌道の外側をまわっていることがわかる。 この小惑星が近日点に達したとき、同じ黄経位置に地球があると仮定すると、内側に地球、外側に小惑星があって、それらの間の距離は約300万キロメートルになる。 今回の接近では、黄経位置がズレているので、それよりもやや距離が離れている。 
 この小惑星の今回の地球への接近である最接近距離が地球から約700万キロとなるケースで、地球が小惑星に及ぼす影響をみてみる。 地球が太陽側の内側に、小惑星が外側にあるので、地球の引力によって小惑星の速度変化は「近日点」を小さくする(地球軌道に近づく)方向になる。 地球の引力により小惑星が受ける加速度は両者間の距離によって変化し、700万キロメートルのときでは8.1×10−6m/sである。 小惑星が受ける加速度と経過時間から、「地球の影響」による小惑星の「速度の変化」が計算できる。 この小惑星は地球と並走していて、「速度の変化」は進行方向に対して垂直に(地球方向に)毎秒21メートルとなる。 地球接近直前の小惑星の速度が毎秒35.2キロメートルであるので、角度にして0.034度分だけ進行方向が曲げられることになる。 
 その小惑星は、その速度と角度を出発点にして、新たな楕円軌道を運行する。 以前の楕円軌道の近日点での地球の公転軌道までの距離は約300万キロメートルであったが、新たな楕円軌道ではその距離が27キロメートル程度縮まってしまうことを意味する。 小惑星の現在の楕円軌道は、その近日点が地球の公転軌道よりも約300万キロメートルだけ外側に離れていて、両者の軌道が交差することはない。 今回の接近で、小惑星の公転軌道が、約27キロメートルだけ地球軌道に近づくように、変化することになるが、これだけでは地球と衝突する事態にはならない。 幾度となく地球に接近して、地球の引力によってそれの軌道と交差する(その状態になって、地球との衝突の危険性が生じる)ようになるには、数千万年とか数億年の年月が経過した後のことになろう。

 
危機一髪?直径8mの小惑星、地球をかすめていた 東大

 直径約8メートルの小惑星が16日、地球をかすめるように通過したと、東京大木曽観測所(長野県木曽町)が20日発表した。 地球と月の間の約半分にあたる22万キロの距離だったという。 昨年末には、10メートルほどの小惑星がベーリング海上空に落下したことも判明しており、地球には頻繁に小惑星が接近していることが分かってきた。 
 東大によると、木曽観測所の105センチシュミット望遠鏡が16日夜、しし座の方向を移動していく暗い天体を見つけた。 国内外の望遠鏡が追加観測し、国際天文学連合が18日、8メートルほどの小惑星が月までの距離の約半分にあたる22万キロ先を16日未明に通過したことを確認。 発見時の距離は32万キロだった。

 図39-7 ベーリング海上空に落下した隕石(いんせき)とみられる煙 
 図39-8 地球をかすめていた直径8メートルほどの小惑星「2019FA」 
 (中央の暗い天体) 
 2019年3月16日午後9時51分、東京大木曽観測所提供 
2019年(平成31年)3月21日(木)06時30分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 
小惑星、地球にニアミス 直前まで観測されず

 直径約130メートルの小惑星が25日に地球の近くを通過していたことが29日分かった。 地球に衝突する恐れがある天体を監視する研究者らの団体、日本スペースガード協会によると、もし地球に衝突していれば東京都と同規模の範囲を壊滅させるほどの大きさ。 通過の前日まで見つからなかったことで関係者を驚かせた。 
 米紙ワシントン・ポストによると時速8万6千キロで通過するのを、米国とブラジルの天文学者らが発見した国際天文学連合(IAU)によると、「2019OK」と名付けられたこの小惑星は、地球から約7万2千キロ離れた場所を通過。 月との距離の5分の1ほどで、天文学的にはニアミスだった 
 地球衝突が懸念される天体は「地球近傍天体」と呼ばれ、各国の天文台などが監視している。 日本スペースガード協会の浅見敦夫副理事長は「直径100メートル程度だとかなり地球に接近しないと見えないことがある」と話す。

2019年(令和元年)7月29日(月)22時02分
産経ニュース 赤字は右記引用部分
 小惑星「2019FA」の軌道要素や公転軌道について、ジェット推進研究所によるデータを下に引用する。
《参考資料》
小惑星「2019FA」
 図39-9 「2019FA」の軌道要素 
 図39-10 「2019FA」の軌道 
JPL Solar System Dynamics, Small-Body Database Browser
 直径約8メートルの小惑星が地球をかすめるように通過したという。 その小惑星の体積は2.7×10立方メートル 程度である。 その密度が3グラム/立方センチメートル程度であるとすると、その質量は8.0×10キログラム となる。 小惑星が地球に最接近したとき、太陽と地球の中心との距離は0.9945天文単位であり、そのときの地球の公転速度は30.19キロメートル/秒である。 そのときの小惑星の公転速度は35.71キロメートル/秒であって、小惑星と地球が交差する角度は約1.1度である。 地球からみた小惑星の相対速度は、5.56キロメートル/秒 になる。 地球との衝突で生み出される小惑星が持っている「運動エネルギー」を求めると、1.23×1013ジュール となる。 これは、地球の重力圏(の中で有意な重力を及ぼす領域)に達する直前での値である。 更に、地球の重力圏内で、地球の引力により小惑星が得るエネルギー(地球の重力による「位置エネルギー」に相当するもので、地球中心に向かって加速することで得られる運動エネルギー)が、約5.1×1013ジュール である。 この小惑星が地球と衝突したとき、それらの運動エネルギーが熱や衝撃波などのエネルギーとして放出される。 その全エネルギーは、6.3×1013 ジュール となる。 地震のマグニチュードに換算すると約6.0であって、2018年の大阪府北部地震が放出したエネルギーに相当する。 
 この小天体の地球との衝突は、『図61-5 天体衝突の発生確率とそのリスク』の横軸で「0.000064エクサジュール」に相当し、「大気圏で消滅」する規模である。 『図61-7 ベーリング海上空に落下した隕石(いんせき)とみられる煙』に示されている10メートルほどの小惑星がベーリング海上空に落下したものと同様の規模であろう。 たとえば、台風のエネルギーの概算値は、加藤久雄 "伊勢湾台風の暴風と過去の顕著台風のそれとの比較" 天気(TENKI)7巻9号 pp.262−268(1960年9月)によると、 「伊勢湾台風では、高さ300mb面までとると、中心から555kmまでで5.4×1025 エルグ、また1,110kmまでで8.0×1025 エルグと求められた。 しかし、運動のエネルギーの計算値は、台風の範囲のとり方によってかなり違ってくるもので、しかも台風の範囲をきめる妥当な条件が見あたらないので、人よってそのとり方がまちまちである。 また、上空の風速の分布は、観測資料が少いことから最近の台風(伊勢湾台風を含め)についても不明確な部分が多く、まして、室戸台風のような昔の台風については観測がないので、まったく不明である。(筆者により句読点などを改変)」 という。 8.0×1025エルグは、8.0×1018 ジュール(8.0エクサジュール)である。 この小惑星の地球との衝突によって発生するエネルギーである6.3×1013 ジュールは、伊勢湾台風のエネルギーの10万分の1であって、『図61-7 ベーリング海上空に落下した隕石(いんせき)とみられる煙』に示されていることから分かるように、大気圏の大きな渦を攪乱できるほどのエネルギーではない。 
 この大きさの小惑星について、地球には頻繁に小惑星が接近していることは『図61-5 天体衝突の発生確率とそのリスク』から読み取ると、100年に1回程度のこととなっている。 
 もし、伊勢湾台風級のエネルギーを放出する小惑星との衝突が生じたとすると、それの確率はどれほどか。 「2019FA」と同じ軌道の小惑星であるとすると、直径400メートル程のものとなり、『図61-5 天体衝突の発生確率とそのリスク』から、平均して10万年に1回になる。 そのときの被害の程度は、伊勢湾台風の痕を写真などで見れば実感できると思われる。
 令和になって最初に地球に最接近した小惑星が「2019OK」である。 この軌道要素や公転軌道について、ジェット推進研究所によるデータを下に引用する。 
《参考資料》
小惑星「2019OK」
 図39-11 「2019OK」の軌道要素 
 図39-12 「2019OK」の軌道 
JPL Solar System Dynamics, Small-Body Database Browser
 「直径約130メートルの小惑星が25日に地球の近くを通過していたことが29日分かった」という。 「国際天文学連合(IAU)によると、「2019OK」と名付けられたこの小惑星は、地球から約7万2千キロ離れた場所を通過。 月との距離の5分の1ほどで、天文学的にはニアミスだった」のである。 
 「米紙ワシントン・ポストによると時速8万6千キロで通過するのを、米国とブラジルの天文学者らが発見した」ものであった。 
 その小惑星の体積は1.2×10立方メートル 程度で、小惑星「2019FA」のおおよそ4,300倍の体積である。 その密度が3グラム/立方センチメートル程度であるとすると、その質量は3.5×10キログラム となる。 そのときの地球は遠日点付近にあって、そのときの公転速度は29.32キロメートル/秒である。 最接近時の小惑星の公転速度は36.31キロメートル/秒であって、小惑星と地球が交差する角度は「2019FA」よりもかなり大きくて、約46.9度である。 地球と小惑星との相対速度は、27.0キロメートル/秒 となる。 地球の重力圏界の地点に小惑星が到達したときの「運動エネルギー」を求めると、1.25×1018ジュール となる。 更に、地球の重力圏内で、地球の引力により、地球中心に向かって小惑星が加速される。 この加速によって、地球に衝突するまでに小惑星が得るエネルギーは、2.1×1017ジュール である。 この小惑星が地球と衝突したとき、それらの運動エネルギーが熱や衝撃波などのエネルギーとして放出される。 その全エネルギーは、1.5×1018 ジュールである。 地震のマグニチュードに換算すると約8.9であって、2011年の東北地方太平洋沖地震が放出したエネルギーに相当する。 「2019FA」と比べると衝突のエネルギーは想像を絶するほどの大きさである。 
 なお、小惑星が地球軌道を横切るときの角度は、「2019FA」では、ほぼ並進するような小ささである。 そのため、接近時には地球との間に長時間の重力の相互作用を授受しているので、それによって小惑星の軌道が変化し、何度かの地球への接近によって衝突軌道に入ってしまう可能性がある。 それに対して、「2019OK」では約46.9度と大きい角度であるので、地球との重力の相互作用によって軌道が地球と衝突するように変化することはほぼ零である。 また、木星などの大質量惑星に近づく軌道ではないので、それによる軌道変化もほとんど考えられない。 次回以降の回帰で地球へ接近するとすれば、天文学的な数値で示される偶然の一致であるといえる。

 
車サイズの小惑星、地球すれすれ通過 観測史上最接近か

 米航空宇宙局(NASA)は18日、大きさが5メートル前後の中型車ほどの小惑星が、16日に地球すれすれをかすめていたと発表した。 最も近づいた時の距離は、地球の直径の4分の1にあたる3千キロ上空だったといい、地球にぶつからなかった小惑星としては観測史上最も近づいたとみられる。 
 発表では、米パロマー天文台が16日、飛び去っていく小惑星を発見した。 大きさは3〜6メートルで「2020QG」と名付けられた。 太陽の方向から地球に近づき、インド洋の3千キロ上空をかすめながら地球の重力で軌道を変え、通り過ぎたという。 
 これまでの最接近記録は、2011年の「2011CQ1」の約5500キロだった。 今回の3千キロは月までの距離の100分の1以下で、地球を直径約20センチのバレーボールに例えるとボールの表面から5センチの付近だった。(後略)

2020年(令和2年)8月20日(木)11時29分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 大きさが5メートル前後の中型車ほどの小惑星が地球の直径の4分の1にあたる3千キロ上空をかすめながら地球の重力で軌道を変え、通り過ぎたという。 これまでの最接近記録は、2011年の「2011CQ1」の約5500キロだった。 
 小惑星「2020QG」の軌道要素や公転軌道に関するデータを下に引用する。 
《参考資料》
小惑星「2020QG」の軌道要素と軌道
 図61-13 ジェット推進研究所による「2020QG」の軌道要素 
 図61-14 「2020QG」の軌道 
 小惑星「2020QG」の大きさは3〜6メートルであるとしているので、その質量を1.0×10キログラム であると仮定する。 
 この小惑星が地球と交差するとき、地球は遠日点付近にあって、地球の公転速度は29.30キロメートル/秒である。 そのとき、その小惑星の公転速度は35.91キロメートル/秒である。 小惑星と地球が交差する角度は 17.0度 である。 その交差角は、「2019FA」よりは若干大きいが、「2019OK」の46.9度に比べればかなり小さい。 地球と小惑星との相対速度は 11.6キロメートル/秒 である。 地球との衝突で生み出される小惑星が持っている「運動エネルギー」を求めると、6.73×1012ジュール となる。 これは、地球の重力圏界の地点に小惑星が到達したときの運動エネルギーの値である。 更に、地球の重力圏内で、地球の引力により、地球中心に向かって小惑星が加速される。 地球と衝突するまでに、地球の引力によって小惑星が得るエネルギーは 6.25×1012ジュール である。 この小惑星が持っているそれらの運動エネルギーが熱や衝撃波などのエネルギーとして放出される。 その全運動エネルギーは、1.30×1013 ジュールとなる。 地震のマグニチュードに換算すると約5.5である。 平成30年(2018年)6月18日に起きた最大震度6弱の「大阪府北部」地震の1%程度のエネルギーである。 
 なお、この小惑星は地球に限りなく接近する。 そのため、接近時には地球との間での大きな重力の相互作用によって、小惑星の軌道が大きく変化する。
《参考資料》
地球に接近した後の小惑星「2020QG」の軌道
 図61-15 地球に接近した後の「2020QG」の軌道 
 この軌道の変化により、地球との衝突の危険性が変わってしまう。

 
小惑星に探査機ぶつけ、軌道変更に成功…
「天体から地球を守る」実験で歴史的成果

 【ワシントン=冨山優介】米航空宇宙局(NASA)は11日、無人探査機 DARTダート を小惑星にぶつけて軌道を変えることに成功したと発表した。 天体の軌道を意図的に変えたのは世界初という。 天体の衝突から地球を守る「プラネタリー・ディフェンス(惑星防衛)」の実験として歴史的な成果となった。 
 DART(重さ約550キロ・グラム)は9月26日、地球から約1100万キロ・メートル離れた位置で、DARTより約900万倍重い小惑星ディモルフォス(直径約160メートル)に体当たりした。 
 ディモルフォスは衝突前、別の小惑星の周囲を11時間55分の周期で回っていた衝突後は軌道が変わり、周期が32分短くなって11時間23分になったことを、地上の望遠鏡による観測で確認したという。(後略)

2022年(令和4年)10月12日(水)8時54分
読売新聞 YOMIURI ONLINE 赤字は右記引用部分
 
ディモルフォス(『ウィキペディア』より)

(前略) 
2021年11月24日、アメリカ航空宇宙局 (NASA) はカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ宇宙軍基地の第4発射施設からスペースXのファルコン9ロケットで探査機 Double Asteroid Redirection Test (DART) を打ち上げた。 DARTは、危険な小惑星から地球を守るための最初の実験計画であり、探査機を衝突させることでディモルフォスの位置を本来の軌道からわずかに逸らさせる試みが行われた。 探査機は2022年9月26日に約 6.6 km/s の速度でディモルフォスに衝突した。(後略)

軌道要素と性質(部分) 
  軌道長半径 (a) 1.19 ± 0.03 km 
  離心率 (e) ? 0.03 
  公転周期 (P) DART衝突前: 11時間55分18秒 
   (11.9216262 ± 0.0000027 時間) 
  DART衝突後: 11時間23 ± 2分 
物理的性質(部分) 
  三軸径 208 × 160 × 133 m 
  平均直径 171 ± 11 m 
   164 ± 18 m 
  質量 ~5×109 kg(仮定) 

2022年(令和4年)10月12日(水)閲覧
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』赤字は右記引用部分
 DART(重さ約550キロ・グラム)は小惑星ディモルフォス(直径約160メートル)に体当たりした。 その結果、「ディモルフォスは衝突前」に、「ディディモス(小惑星)」の周囲を11時間55分の周期で回っていたが、衝突後は軌道が変わり、周期が32分短くなって11時間23分になった 
 そのとき、DARTは約 6.6 km/s の速度でディモルフォスに衝突したという。 
 「ディモルフォス」は、小惑星の「ディディモス」の周囲を、約半日の周期で公転している小惑星の衛星である。 この衛星である「ディモルフォス」に「DART」を衝突させて、その公転軌道を変えてみる試みである。 
 衝突前に11時間55.3分であった公転周期が、衝突後には11時間23分と32分だけ短くなった。 
 ここで、小惑星「ディディモス」と衛星「ディモルフォス」の平均直径と、推定された密度である2.1グラム/立方センチメートルの値から、それらの質量を見積もってみる。 小惑星の「ディディモス」の質量が5×1011 キログラム、衛星の「ディモルフォス」は5×10 キログラムとなる。 衛星「ディモルフォス」の軌道長半径 は、『「ディディモス」の質量 ≫「ディモルフォス」の質量 』であるとき、 
    = ( /(2π))1/3 
で得られる。 ここで、 は「ディモルフォス」の公転周期、 は万有引力定数、 は「ディディモス」の質量である。 11時間55分の公転周期が衝突後に32分だけ短縮したことから、軌道長半径 の変化量を計算すると、衝突前の1.19キロメートルから36メートルだけ短くなってしまうこと(ざっくり言うと、従来の軌道よりも36メートルだけ内側の軌道を運行すること)が分かる。 この衛星がより内側の軌道に遷移したことによるポテンシャルエネルギーの減少は、4.5×10 ジュールである。 その遷移で衛星の公転速度は増加していて、増加した運動エネルギーは2.2×10 ジュールである。 結局、「DART」の衝突によって、この衛星が持つエネルギーは、2.3×10 ジュール分だけ減少したことになる。 
 「DART」は約6.6 km/s の速度でディモルフォスに衝突したことから、「DART」の持っていた運動エネルギー 1.2×1010 ジュールが開放されたことになる。 このエネルギーの内の約1万分の1が、衛星「ディモルフォス」の進行方向に正対して使われ、その衛星がより低い公転軌道へ遷移するように(衛星の持っている力学エネルギーを小さくする方向に)使われたことになる。 しかし、衛星の進行方向に対して垂直な方向へ与えられたエネルギー量は、「DART」との衝突角度に依存し、算出できない。 
 進行方向と垂直方向への力学エネルギーの受渡し以外の大部分のエネルギーは、衝突熱になって、宇宙空間に放射されてしまったことになる。 
 衝突によって小惑星などの公転軌道を変化させることは、エネルギー的には、効率が良くない方法である。
 ここで、「ディディモス(小惑星)」と同じ軌道にある小天体を、「DART」の衝突によって、その軌道をどの程度変えられるかを推測してみる。
《参考資料》
  ディディモス(『ウィキペディア』より)  

軌道要素と性質(部分) 
  軌道長半径 (a) 1.644 au(2.459×1011m) 
  近日点距離 (q) 1.013 au(1.515×1011m) 
  遠日点距離 (Q) 2.275 au(3.403×1011m) 
  離心率 (e) 0.384 
  公転周期 (P) 770.075 日(2.108 年) 
  最小交差距離 0.0404 au(地球)(6.044×109m) 
  衛星の数 1(ディモルフォス) 

物理的性質(部分) 
  直径 780 ± 80 m 
    693 m 
  平均密度 2.1 ± 0.6 g/cm3 
  自転周期 2.2593 ± 0.0002 時間 

2022年(令和4年)10月12日(水)閲覧
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(一部追記改変)
 ただ、「ディディモス」では大きすぎるので、「ディモルフォス」と同じ大きさもので考える。 
 太陽の周囲を回る小惑星の力学エネルギー は、 
    = − /2 
で与えられる。 ここで、 は万有引力定数、 は小惑星の質量、 は太陽の質量、 は小惑星の軌道長半径である。 
 考えている小惑星の力学エネルギー は −1.35×1018 ジュールである。 この小惑星に「DART」を衝突させて、2.3×10 ジュール分の力学エネルギーを加えたとき、その小惑星の軌道長半径の変化量は0.42メートルとなる。 
 もし、「DART」の持っている力学エネルギーのすべてが小惑星の力学エネルギーに与えられたとすると、軌道長半径の変化量は2.2キロメートルとなる。 
 いずれにしても、おおよそ6,400キロメートルの半径を持つ地球との衝突を避けるには、心許ない変化量である。

 
2029年に小惑星「アポフィス」が地球に衝突?
3年後に判明すると研究者

米ニューヨークのエンパイアステートビルと同じくらいの大きさの小惑星「アポフィス」が、2029年に地球に衝突する可能性がゼロではないことを示唆する新しいシミュレーション結果が先ごろ発表された。 このサイズの小惑星がもしも実際に衝突すれば、大都市が丸ごと1つ消し飛ぶと考えられている。 
小惑星(99942)アポフィスは直径約340mで、太陽を約324日周期で公転している。 2004年に発見された当時、2029年、2036年、2068年のいずれかに地球に衝突する危険性があると指摘されたため、エジプト神話における闇と混沌の化身アペプ(アポピス)にちなんで命名された。 天文学者らは当初、地球に衝突する確率を2.7%と見積もっていた。 
その後、2021年に米航空宇宙局(NASA)がより正確な軌道分析を行い、衝突のおそれはないとの判断を下した。 しかし、新たな研究により、少なくとも部分的には当初の懸念が復活した格好だ。(後略)

2024年(令和6年)11月11日(月)10時30分
フォーブス ジャパン 赤字は右記引用部分
 
アポフィス (小惑星)(『ウィキペディア』より)

アポフィス (99942 Apophis) は、アテン群に属する地球近傍小惑星の一つ。 2004年6月に発見された。 地球軌道のすぐ外側から金星軌道付近までの楕円軌道を323日かけて公転している。 直径は約310mから約340mであり、小惑星番号が与えられている中では小さな部類である。 質量は1.26×1011kg(1億2600万トン)であると推定されている。(後略)

軌道要素と性質(部分) 
  軌道長半径 (a) 0.922 au 
  近日点距離 (q) 0.764 au 
  遠日点距離 (Q) 1.099 au 
  離心率 (e) 0.191 
  公転周期 (P) 0.89 年(323.53 日) 
物理的性質(部分) 
  直径 325 ± 15 m 
  質量 1.26×1011 kg 

2024年(令和6年)11月11日(水)閲覧
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
 アポフィス (99942 Apophis)の地球への接近・衝突に関して、少なくとも部分的には当初の懸念が復活したという。 
 もしアポフィスが地球に衝突すると仮定して、そのときの衝突エネルギーを計算してみる。 
 アポフィスの軌道要素から、地球の公転軌道と交差するとき、その時点での公転速度は28.50キロメートル/秒である。 地球のそれは29.79キロメートル/秒であって、地球の方がわずかに大きな速度である。 小惑星と地球と交差角は 9.9度 である。 非常に小さい角度である。 地球が、小惑星に追突するような形で、衝突する。 地球と小惑星との相対速度は 5.18キロメートル/秒 である。 その小惑星の質量は1.26×1011キログラム であるので、地球との衝突で小惑星が地球に与える「運動エネルギー」は 1.69×1018 ジュール である。 追突する形であるので、小惑星の規模に比べて、そのエネルギーは大きくない (*6)

(*6) 小惑星「2019OK」の場合、その質量は「アポフィス」の1%程度である。 しかしながら、衝突時の交差角が大きい(約46.9度)ので、衝突の際に地球に与える「運動エネルギー」は「アポフィス」と同程度の大きさになる。

地球に接近する小惑星「Apophis」の軌道
 図61-16 地球に接近する小惑星「Apophis」の軌道 
 地球−月間の5.2倍の距離である200万キロメートルの位置へ「アポフィス」がやってきたとき、その小惑星が、「地球の真っ正面に衝突すると仮定される軌道」と「地球−惑星を結ぶ直線に垂直な面」の交点から半径13,500キロメートルの円内に存在すると、その小惑星は地球に衝突してしまう。 その円の半径は、地球のそれよりも2倍以上大きい。 それは、地球の重力圏で、小惑星の軌道が曲げられてしまうからである。 地球と小惑星の交差が低角度であるときに特有な現象である。 
 地球から200万キロメートルの位置にある「アポフィス」は、約104時間(約4.3日)で地球に到達する。 地球の真っ正面に衝突する軌道にあるとすると、大気圏に達したときの速度は29.1キロメートル/秒となる。 偶然ではあるが、地球の公転速度と同程度である。 
 この速度変化(5.18キロメートル/秒から29.1キロメートル/秒への増加)は、地球の重力圏で、地球の引力により、地球中心に向かって小惑星が加速されることによって産み出されるエネルギー(ポテンシャルエネルギー)に依っている。 その値は、小惑星が地表面に達した時点で、7.87×1018ジュール である。 
 軌道上を動く小惑星が地球と衝突することにより地球に与える「運動エネルギー」と、惑星が地球に引き寄せられることにより生まれる「ポテンシャルエネルギー」の合計が、この惑星衝突で地球にもたらされる全エネルギーである。 その全エネルギーは、9.56×1018 ジュールとなる。 これらのエネルギーが、熱波や衝撃波などとして地球上を覆う。 地震のマグニチュードに換算すると約9.4である。 2011年(平成23年)に東日本大震災をもたらした「東北地方太平洋沖地震」が放出したエネルギーの4.8倍である。 
 

(40)特異な現象の説明を適切に
 
 
積乱雲が次々発生
「線状降水帯」、記録的豪雨の原因に
 図40-1 梅雨前線と線状降水帯の動き(記事中の「図」) 
 
2017年(平成29年)7月5日(水)21時40分 朝日新聞デジタル
 
 
九州北部豪雨「線状降水帯」が要因
積乱雲が次々に発生
 図40-2 レーダーに映る線状降水帯(記事中の「図」) 
 
2017年(平成29年)7月6日(木)東京新聞 朝刊(TOKYO Web)
 
 
<九州豪雨>局地的な雨、予想難しく
 図40-3 九州豪雨で線状降水帯が発生した仕組み 
 (記事中の「図」) 
 
2017年(平成29年)7月6日(木)22時8分 毎日新聞 Web版
 
 
2つの風衝突、線状降水帯に
 図40-4 大雨を降らせた2つの風(記事中の「図」) 
 
2017年(平成29年)7月6日(木)22時47分 産経新聞 Web版
 
 
局地的、長時間豪雨の原因は「線状降水帯」
 図40-5 線状降水帯が形成された状況(記事中の「図」) 
 
2017年(平成29年)7月9日(日)09時30分 佐賀新聞
 これは「線状降水帯についての「図」が掲載されている記事」についてである。 
 「朝日新聞デジタル」と「東京新聞(TOKYO Web)」の記事は、豪雨のあった日の夜半に書かれたものである。 「毎日新聞」と「産経新聞」はその1日後で、記事を書く上で必要な情報を集める時間が多かったと思われる。 
 「朝日新聞デジタル」の図には「線状降水帯」の位置が書き入れられている。 ただ、読者が知りたい情報は、線状の豪雨が「何処に」生じたことではなくて、「如何に」に生じたかということである。 その点で、「東京新聞」では線状降水帯の「位置」とともに大概な「姿」が載せられていて、より良い理解が可能である。 
 1日遅れの「毎日新聞」と「産経新聞」では、発生原因が2方向からの風の衝突によるものとして、「線状降水帯」の発生原因を解説している。 特に、「産経新聞」での「北西よりの冷たい風」と「南東からの暖かく湿った風」が交差して、その結果として暖かく湿った風が上昇して発達した積乱雲を生じさせる。 次々と発生する積乱雲から、何時間にもわたる豪雨を降らせたという説明は、読者を納得させる。 
 さて、福岡付近の上空の風の流れを見てみる。
《参考資料》
 
福岡上空の風向
 図40-6 高層断面図(部分) 
2017年(平成29年)7月5日(水)21時00分
AXJP130(気象庁)
 
 このとき、地上1,000メートルから15,000メートルまで、ほぼ西風(西南西〜西北西の範囲)である。 ただし、低層での風向は背振山系の影響を受ける。 背振山系の様子を、下図に示す。 
《参考資料》
 
背振山系
 図40-7 背振山系(西方からの3D画像) 
 ( Google マップから ) 
 左方:福岡市、正面:筑紫野市、右方:鳥栖市 
 
 
 脊振山系は、1,055メートルの脊振山を中心とした山々である。 1,000メートルよりも低い層の風は影響を受ける可能性があるが、それ以上の高度では影響されない。 
 バックビルディング形成によって積乱雲群が、次々とできて、大気の動きにより流されていく様子を見る。 下層から上層まで風向が同じである場合と、中上層で風向が変化している場合で、積乱雲の発達と移動の違いを下図に示す。 
 図40-8 バックビルディング形成による積乱雲群の発達と移動 
 薄青色矢印:下層から上層までのそれぞれの風向 
 青い領域:降雨領域と降雨強度 
 (左)下層から上層まで同じ風向 
 (右)中上層が下層とは異なる風向 
 まず、『図62-8 バックビルディング形成による積乱雲群の発達と移動』の左側(「下層から上層まで同じ風向」の場合)と右側(「中上層が下層とは異なる風向」の場合)の違いを見てみる。 
(1)気流の上昇方向 
 前者の上昇気流は垂直方向であるが、後者は上昇するに従って斜めになる。 
(2)上昇気流の発達 
 上昇気流まわりの大気温度が同じ条件であるとして、同一の距離(同一の高度ではない)を上昇移動したとき、(高度差がより大きい)前者の「温度変化」は、後者よりも大きい。 温度変化が急な前者の方が、上昇気流の速度がより大きくなる。 それは、斜面を駆け下る場合(暖気の上昇とは逆方向ではあるが)に、真っ直ぐに走り下るときと、斜め方向に走り下るとき、そのときに得られる速度の差を想像すると理解できる。 前者の場合に積乱雲がより発達する。 
(3)積乱雲の降雨域 
 前者では、中上層での多少の風速変化に係わらず、積乱雲の通り道に沿って(上図の茶色実線を中心として)降雨する。 後者の場合、降雨域は中上層風の風下側に、積乱雲の通り道から離れた領域となる(上図の茶色実線よりも手前側にズレた地点となる)。 中上層風の風速が大きくなるにつれて降雨域は中心線からより外側方向に移ってしまうので、その風向と風速の変化に伴って降雨域が散らばってしまう(降雨が集中しない)。 
 結論としては、下層域から中上層域までの風向の変化がない(鉛直のウインドシアがない)状態では、積乱雲が発達する可能性が高く、きわめて狭い線状領域に豪雨性の降水帯を形成してしまう。 下層域から中上層域にかけて風向が変化している(ウインドシアがある)状態では、中程度に積乱雲が発達し、拡がった降水帯を示す。 
 暖湿気流の流入に加えて、鉛直のウインドシアがない状態が予想されれば、集中豪雨の可能性が高くなるといえる。 今回の九州北部の線状降水帯による豪雨は、下層域から中上層域にかけての風向がほぼ一定であって、バックビルディング形成をともなう積乱雲群による猛烈な降雨の条件を満たしていたことになる。 なお、『図62-3 九州豪雨で線状降水帯が発生した仕組み』や『図62-4 大雨を降らせた2つの風』、『図62-5 線状降水帯が形成された状況』で、「線状降水帯」の形成に「高い山によって生じる気流の衝突」が示唆されている。 しかし、『図62-1 梅雨前線と線状降水帯の動き』や『図62-2 レーダーに映る線状降水帯』における「中国地方の豪雨」での「線状降水帯」の起点は、日本海上であって、高山による影響は存在しない。 低層の暖湿気団の小さな塊が「上昇気流となる一寸した切っ掛け」を時宜として1つの積乱雲が生まれ、それ(暖気と寒気の力学的アンバランスを解消しようとする大気の動き)が引き金になって、列をなして積乱雲群が生まれたものと思われる。 最初の積乱雲が生まれる切っ掛けには、暖湿気団の塊に適度な浮力を与えるために、中上層域に寒冷な気団が必要であるが・・・。 「台風(熱帯低気圧)の発生原因の1つとして、中上層に存在する「寒冷渦」によるものである」とする仮説がある。 線状降水帯と同じように、気象の機微によるものであろう。

 
−時時刻刻− 豪雨 広域・同時多発
特別警報9府県 各地で雨量最大
二つの高気圧が拮抗台風7号が湿った空気運ぶ

(前略) 
 今回の大雨は、梅雨前線が東日本〜西日本の上空で数日間ほぼ同じ位置に停滞したことが原因だ。 
 梅雨前線は、北側にある「オホーツク海高気圧」南側の「太平洋高気圧」が、日本の近くでぶつかり、停滞することで生じる。 太平洋高気圧の勢力が次第に強まり、前線が北上することで梅雨が明ける。 気象庁の桜井美菜子・天気相談所長によると、今回は梅雨末期の典型的な雨の降り方だが、前線が同じ場所に長時間居座ったことが異例だったという。 高知県馬路村では3日間で、年平均の4分の1にあたる1091.5ミリの降水量を記録した。(後略)

 図40-9 二つの高気圧が拮抗 台風7号が湿った空気運ぶ 
 (記事中の図を引用) 
2018年(平成30年)7月8日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面(総合2) 赤字は右記引用部分
《参考資料》
 
地上天気図(2018年7月6日21時)
 図40-10 地上天気図 
 2018年7月6日21時(日本標準時) 
2018年(平成30年)7月7日(土)
専門天気図|HBC北海道放送
《参考資料》
 
700hPa・850hPa高層天気図(2018年7月6日21時)
 図40-11 700hPaと850hPa高層天気図 
 2018年7月6日21時(日本標準時) 
2018年(平成30年)7月7日(土)
専門天気図|HBC北海道放送
 この豪雨の原因が、「二つの高気圧が拮抗」し、更に「台風7号が湿った空気運ぶ」としている。 左側に、2018年7月6日21時の地上天気図が載せてある。 その図を拡大したものが下図である。 「台風7号が湿った空気運ぶ」としている「台風7号」は、太平洋上に存在している。 しかし、南側の「太平洋高気圧」から張り出している1,012ヘクトパスカルの等圧線が、日本列島と台風7号との間に横たわっている。 
 図40-12 地上天気図(日本付近の拡大図) 
 2018年7月6日21時(日本標準時) 
 上図を見ると、『図62-9 二つの高気圧が拮抗 台風7号が湿った空気運ぶ』の「大雨をもたらした仕組み」に示されているような南海上から北上する形での暖かく湿った空気が次々と流入することは、あり得ない。 九州の南西方向から流入しているようにも見えるが、その風速は毎秒2〜4メートル程度で、最大でも毎秒6メートルを超えない。 これでは、豪雨となる程の大量の「水」を供給することは、不可能である。 同様に、北側にある「オホーツク海高気圧」も「サハリン」付近にあって、勢力は大きくない。 
 『図62-9 二つの高気圧が拮抗 台風7号が湿った空気運ぶ』の「大雨をもたらした仕組み」は、(今回の豪雨ではなくて)一般的な様子を描いたものか? 
 それを明らかにしてくれるのが、『図62-11 700hPaと850hPa高層天気図』に示す高層天気図である。 暖かく湿った空気の流入によって大量の水の日本列島への運搬を担っているものは、地上付近の空気の流れではない。 上空500〜4,000メートルでの気流である。 
 700hPa高層天気図高度3,000メートル付近の天気図)の一部を拡大して、下に示す。 
 図40-13 700hPa高層天気図(日本付近の拡大図) 
 2018年7月6日21時(日本標準時) 
 上図の「南大東島」や「父島」での高層気象の観測値に注目すると、この豪雨の原因が『図62-9 二つの高気圧が拮抗 台風7号が湿った空気運ぶ』の右上に描かれている「大雨をもたらした仕組み」にある「太平洋上から北上する形で暖かく湿った空気が次々と流入している」結果であると認めることは、困難である。 
 なお、この『図62-13 700hPa高層天気図(日本付近の拡大図)』から、3,000メートル付近での風速・風向とそこの空気に含まれている水分量を知ることができる。 メッシュ状の点は、多量の水を含んだ状態の空気(湿度が高い空気)の領域を示している。 九州付近への多量に水を含んだ空気の流入は、太平洋方面からではなく、南西方向の東シナ海からである。 3,000メートルでの風速は、毎秒12〜21メートル程度であることがわかる。 
 また、『図62-11 700hPaと850hPa高層天気図』の850hPa高層天気図高度1,500メートル付近の天気図)から、1,500メートル付近での風向は3,000メートルと同じく「南西」であり、風速は毎秒15〜21メートル程度である。 
 この気流が運ぶ「水量」を、降水量として概算してみる。 
 この気流の水平方向の幅を200キロメートル程度で、垂直方向は高度500〜4,000メートルの範囲と仮定する。 その範囲を、下図の [A] で示す。 [A] は、底辺が200キロメートル、高さの下端が500メートルで上端が4,000メートルの矩形をした断面である。 

 図40-14 東シナ海からの暖湿気流の流れ込みによる同時多発豪雨 
 (青い線が暖湿気流の流れ) 
 その範囲での風速は一定ではない。 速い場所では毎秒20メートル程度であっても、断面における周辺部や高度によっては、それよりもかなり遅い場所もあろう。 すべての高度での平均風速を毎秒12メートルとしよう。 この気流全体の平均の湿数を1度とする。 湿数が1度の大気の相対湿度は、3,000メートルでは93%、1,500メートルでは94%である。 この暖湿気流が、1日半(36時間)にわたって流れ込んでいると・・・。 
 36時間に断面 [A] を通過する空気の量は、9.9×1014kg である。 その空気に含まれている水の量は、1.2×1013kg である。 
 この暖湿気流が日本列島上で上昇気流を形成( [B] )し、上空6,000メートル付近まで上昇し、気圧が500ヘクトパスカル、気温が−5度になったとする。 この状態では、空気1キログラムに含まれる水蒸気の最大量(飽和水蒸気量)は5.3グラムである。 もとの暖湿気流中に含まれていた水蒸気で、1キログラムの空気あたり5.3グラムを超える分は、凝縮して、降水する。 断面 [A] を通過した暖湿気流中に含まれている水蒸気量は1.2×1013kg であり、上空6,000メートル付近まで上昇したときに気流中に含まれている水蒸気量は5.3×1012kg である。 凝縮・降水することになった水蒸気量は、6.7×1012kg となる。 これが、幅200キロメートル、長さ600キロメートルの範囲に降水したとすると、全降水域を平均した降水量は56ミリメートルとなる。 
 「全降水域を平均した降水量が56ミリメートルになる」という推算の結果は、「東シナ海からの暖湿流の流入による『水の輸送』が、今回の降雨の原因である」というスキームが合理的であることを示している。 

 図40-15 同時多発豪雨をもたらした暖湿気流 
 (赤:新聞記事による暖湿気流) 
 (青:筆者の想定する暖湿気流) 
 「筆者の想定する暖湿気流」は、『図62-9 二つの高気圧が拮抗 台風7号が湿った空気運ぶ』に示されている線状降水帯の向きに、一致している。 この点でも、「新聞記事による暖湿気流」の流線より、より合理的である。 
 さて、降水は、均等には、起こらない。 
 気流が山にぶつかるなどの原因により上昇すると、断熱膨張により気流の温度が下がる。 温度の低下で飽和水蒸気量が少なくなることで、水蒸気が凝縮する。 そのとき、凝縮潜熱が放出され、その気流は暖められる。 暖かくなった気流部分は、周囲の大気よりも温度が高いので、浮力が生じる。 浮力により、その気流部分が上昇する速度は、更に加速する。 加速した上昇気流によって、後続する気流が引っ張り上げられ、その後続部分の水蒸気が凝縮して・・・、気流の上昇は次第に激しくなっていく。 その場所は、それ以外のところに比べて、降水量が圧倒的に増加する。 そこでの降水量が、平均降水量の20倍である1,000ミリメートル程度になってしまった可能性がある。 
 「長時間の南西方向からの暖湿流の流入が、今回の同時多発的豪雨をもたらした原因である」ということは、『図62-9 二つの高気圧が拮抗 台風7号が湿った空気運ぶ』の記事に示されている「大雨をもたらした仕組み」よりも、確実性が高いといえる。

 
「早めの避難を」=東から西へ進む異例の台風
気象庁「経験通用しない場合も」
 
 図40-16 台風12号 
 東から西へ進むイメージ 
 (気象庁27日資料から) 
 

 気象庁の黒良龍太主任予報官は27日午後、強い台風12号が28日夜にも上陸する見込みと記者会見で説明し、「29日にかけて東・西日本を中心に非常に激しい雨が降り、局地的には猛烈な雨となる。 市町村の避難勧告などに従って、早め早めの避難をお願いする」と呼び掛けた。 
 12号は1951年の統計開始以来、上陸後に東から西へ進む初めての台風になると予想される。 黒良主任予報官は「台風の風は反時計回りに吹く。 通常の西から東へ進む台風の場合、通り過ぎた後は乾いた北風に変わるが、今回は湿った南風による大雨が続く可能性がある」と説明した。 
 12号が28日午後に関東沖で進路を北から西へ変え、東海か近畿、四国に上陸する見通しとなったのは、紀伊半島南方沖の上空5000〜1万メートルにある「寒冷渦」が原因。 寒冷渦は日本の北を流れる偏西風が蛇行し、一部が分離して南下した低気圧で、台風と同様に反時計回りの風を伴っている。 12号はこの寒冷渦の周りを回って西へ向かう。 
 一方、山陰沖の上空にはチベット高気圧があるため、12号は北上を阻止され、西日本を横断して東シナ海へ抜けるという。(後略)

2018年(平成30年)7月27日(金)20時34分
時事通信(JIJI.COM) 赤字は右記引用部分
 
 
台風12号
寒冷低気圧の影響で「逆走」
 図40-17 台風12号 寒冷低気圧の影響で「逆走」 
 
2018年(平成30年)7月29日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版31面(社会)
 これまでに例のない台風12号の逆走を取り上げた記事である。 『図62-16 台風12号 東から西へ進むイメージ』や『図62-17 台風12号 寒冷低気圧の影響で「逆走」』の「台風12号 東から西へ進むイメージ(気象庁27日資料から)」などに描かれている説明図には、違和感がある。 
 2018年7月28日21時の気象庁発表の地上天気図を下に示す。 
 図40-18 地上天気図 
 (2018年7月28日21時) 
 この地上天気図から、太平洋高気圧の張り出しによって、台風の進路が押さえられていることがわかる。 「山陰沖の上空にはチベット高気圧があるため、12号は北上を阻止され、西日本を横断して東シナ海へ抜けるという」ことであるが、チベット高気圧山陰沖の上空への張り出しは不明瞭で、逆に、沿海州付近の気圧の谷が見られる。 台風12号は、この気圧の谷に向かって北西進することも予想される。 
 そこで、2018年7月28日21時の高層天気図(500ヘクトパスカル、300ヘクトパスカル)を、下に示す。 
 図40-19 高層天気図(500hPa) 
 (2018年7月28日21時) 
 図40-20 高層天気図(300hPa) 
 (2018年7月28日21時) 
 これからは、上層にあるというチベット高気圧が認められる。 しかし、この天気図からも日本海北部に気圧の谷が見られるから、その方向に進む可能性は否定できない。 
 同じ時刻の気象衛星画像(水蒸気)を示す。 
 図40-21 気象衛星画像(水蒸気) 
 (2018年7月28日21時) 
 関東以西の本州、四国、九州から南西諸島中北部にわたって、水蒸気の大きな流れが見られる。 反時計回りの大きな渦である。 これは、台風12号による水蒸気とは別で、「上層寒冷低気圧(UCL)により形成される寒冷渦」である。 直径千数百キロメートル規模の渦である。 それに対して、台風12号による渦の規模は、数百キロメートルにもならない。 
 台風12号による渦は、大規模な寒冷渦に飲み込まれて、その中を流されているように見える。 台風12号寒冷渦に振り回されていると言っても、言い過ぎではない。 そのため、台風12号は、日本海北部にある気圧の谷に向かっていくと思われるのであるにもかかわらず、寒冷渦の影響下に留まっていることになる。 それは、台風は、自身の進路を自律的に決めているのではなくて、周囲のより大規模な気流に進路を左右されてしまうことを意味している。 台風12号は、寒冷渦を中心する円周上を、反時計回りに進んでいく。 九州付近まで西進したのち、南方向の成分を持つ進路を取ることになる。 
 しかし、『図62-18 地上天気図』の「台風12号の場合(予想)」を見る限り、図中に「いずれもイメージ」と注記されているが、「寒冷低気圧」の影響は、本州上での西進に限定されている。 本州を縦断・西進して九州に至ったところで、「寒冷低気圧」の支配から離れて「チベット高気圧」の南端の気流に流されて中国大陸に進んでいくことになる。 これでは、『図62-21 気象衛星画像(水蒸気)』に示されている「寒冷低気圧」の影響力に比べると、それの存在を過小評価しているように感じられる。 
 台風12号の経路を下に示す。 
 図40-22 台風201812号の経路 
 (出典:デジタル台風:台風201812号 (JONGDARI) - 詳細経路情報より) 
 この図中の丸印は、3時間毎の台風の位置(数字はUTCでの日付)である。 南海上から九州に至る進路での進行速度は、ほぼ、一定である。 この台風が、同一の気流に乗っかって、流されていたことを示している。 周囲の高気圧や低気圧などに影響され、進行が停滞したり速められるといったことが、なかったことを意味している。 すなわち、大規模な寒冷渦の回転している気流にのって、この台風は大きな円を描いて流されていった。 
 台風の進路は、大規模な高気圧での時計回りの気流UCLを含む大規模な低気圧場での反時計回りの気流偏西風などによって流されていくことで、他動的に決まってしまう。 台風の大規模な上昇気流が、周囲にある高気圧や低気圧場の消長に影響する。 それらの消長は、偏西風の蛇行を含む大規模な大気の流れに変動をもたらす。 大規模な大気の流れの変動によって、台風の経路が偏倚してしまう。 台風位置の偏倚が、更に高気圧や低気圧場の消長に影響し・・・というスパイラルを経て。
 

(41)架線の断線は
 
架線並行区間 停止回避で対策
JR東海 新幹線停電は不完全接触原因
 図41-1 架線断線の原因 

 大阪府高槻市で6月、東海道新幹線の架線が切れて停電した事故で、JR東海は13日、原因を発表した。 2本の架線が並行する区間で、列車の集電装置「パンタグラフ」が一方の架線と不完全に接触し続けたことが主因。 今後は同様の区間での停車を避け、やむを得ず止まる場合はパンタグラフを下げる処置をとる。 
 新幹線など電化されている鉄道線路には、架線を切り替えるために2本の架線が並行する区間「エアセクション」がある。 JRによると、事故当日の6月21日は大雨でダイヤが乱れ、下り「のぞみ241号」が午後7時37分から11分間、エアセクションに停車。 不完全接触が続いて「トロリー線」と呼ばれる架線に熱が発生するなどし、直径約1.5センチの銅製架線が断線した。 
 不完全接触が起きるのは、1つのエアセクションの中でも2ヶ所に限られた区間(各2メートル)。 通常は通過するため問題が起きないという。 前方に列車が多く止まっていて、架線の電流量が多かったことも、断線に至る一因になった 
 今後、東京−新大阪間に192カ所あるエアセクションの区間を示す標識を設け、急停車の際でも避けるようにするなどの対策を8月上旬までにとる予定。【 吉野慶祐 】

2017年(平成29年)7月14日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版34面(社会) 赤字は右記引用部分
 この事故は、 「2本の架線が並行する区間で、列車の集電装置「パンタグラフ」が一方の架線と不完全に接触し続けたことが主因」だという。 それは、「新幹線など電化されている鉄道線路には、架線を切り替えるために2本の架線が並行する区間「エアセクション」がある」と記されている。 
エアセクション」って? 
架線を切り替えるために2本の架線」って? 
 それを理解するために、下に図を示す。 東海道新幹線では21カ所に、山陽新幹線では11カ所に、新幹線の列車に電力を供給する変電所がある。 変電所から供給される60ヘルツの交流電圧は、隣り合った変電所間で「位相」が異なる。 そのため、隣り合った2つの変電所からの交流電圧を「1つに結線する」ことは、できない。 そのための電気的な切り離しをおこなう施設として、開閉器を備えた「き電区分所」が置かれ、架線を分離する「エアセクション」が設けられている。 下図の「」と「」が「エアセクション」である。
《参考資料》
 
新幹線のエアセクション
 図41-2 エアセクションの開閉器の入切と列車の位置の関係 
 「変電所から車両までの電気の流れ【 赤木雅陽 】」 
 (閲覧『http://bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0004/2009/0004005095.pdf』) 
 (注)在来線でのエアセクションは、これよりも単純な構成である。 
 
「RRR 2009年10月 pp.14-17」から一部改変
 
 『図63-2 エアセクションの開閉器の入切と列車の位置の関係』の「左側」では、列車は「変電所」から電力を受けている。 エアセクション「」を列車が通過していく際には、その前後で、同じ「変電所」からの電気を受けていることになる。 列車が「」と「」の間を進行しているときに、開閉器を「」にする。 その直後に、開閉器を「」にする。 この時点で、列車は「変電所」からの電力に切り替わる。 エアセクション「」を通過する前から「変電所」からの電力を受けているので、エアセクション「」の通過前後で、変電所が変わることはない。 
 ということから、 
列車がエアセクション「」を通過時には、開閉器が「」、が「」であること 
列車がエアセクション「」を通過時には、開閉器が「」、が「」であること 
から、『図63-1 架線断線の原因』のパンタグラフが接触している2本のトロリー線(架線)は、開閉器を通じて、電気的に結ばれている。 ほぼ同じ電圧となっているはずである。 電圧に差があるとしても、開閉器に繋がる引き回し線部分での電圧降下分であり、わずかである。 
 重要なことは、「2本の架線が並行する区間で、列車の集電装置「パンタグラフ」が一方の架線と不完全に接触し続けたことが主因」としているが、パンタグラフ架線と不完全に接触し続けたことだけでは事故に至らないことである。 不完全に接触しても、不完全な接触部分の両端に「高電圧」が掛かったり、その接触部分に「大電流」が流れる条件がなければ、架線の溶融に至る過熱が起きない。 そのような条件が、どのようにして成立してしまったか・・・については、説明されていない。 
 さて、事故があった「き電区分所」は「補助き電区分所」で、工事などのため一部区間への電力供給を停止する必要性があって、設置されているものである。 「補助き電区分所」の概要を、下図に示す。 「補助き電区分所」の「開閉器」を「」にすることで、右半分の路線の架線への電力供給を絶つことができる。
《参考資料》
 
エアセクション
 図41-3 同相エアセクション 
 東海道新幹線 京都駅〜新大阪駅間におけるトロリ線断線の原因について 
 
「平成29年7月13日 東海旅客鉄道株式会社、別紙2-2」から一部改変
 
 補助き電区分所の開閉器が「」であれば、エアセクションを挟む双方の架線電圧は、ほぼ等しい。 上図で、
  エアセクションは電気を区分するために設けられた箇所のことをいいます。  
  新幹線のエアセクションは、列車通過時に、セクション前後が同一電源となるよう「同相エアセクション」としています。  
  在来線と異なり、同一電源であり、一列車あたりの電流も小さいことから、アーク放電を起こしにくく、発生した場合であっても、トロリ線断線には至らない程度であると想定していました。  
と記述されているように、パンタグラフが接触している2本のトロリー線(架線)間にパンタグラフを通じて、トロリー線が溶解してしまうほどの電流が流れる」とは考えられないという。 
 なお、同じ事故報告書に、下の図も示されている。
《参考資料》
 
断線時の電気の流れ
 図41-4 断線時の電気の流れ 
 東海道新幹線 京都駅〜新大阪駅間におけるトロリ線断線の原因について 
 
「平成29年7月13日 東海旅客鉄道株式会社、別紙2-5」から一部改変
 
 「鳥飼補助き電区分所」のエアセクション前後の架線への電流は、通常であれば緑色の破線で示される経路で、「新塚本き電区分所」まで供給される。 そのため、「エアセクション」の2本の架線(上図で、赤色で示される架線青色で示される架線)の電圧は、ほぼ等しくなっている。 ほぼ等しいので、パンタグラフ経由で2本の架線間を流れる電流(「オレンジ色の矢印」で示されている電流)は、大きくない。 「パンタグラフ」と「架線」との接触が不充分であって、その部分の電気抵抗が大きくなるとすれば、オレンジ色の矢印で示されている経路での電流は小さくなるだけである。 そこで発生するジュール熱は小さいし、架線が溶断するほど過熱することはない。 

 パンタグラフを中継ぎにして、2本の架線間に大きな電流が流れる条件とは・・・。 
 オレンジ色の矢印で示されている経路で大きな電流が流れるためには、『図63-4 断線時の電気の流れ』の「黄線で囲まれた補助き電区分所の内部を経て流れる電流」が、何らかの原因で制限される場合である。 考えられる原因の1つは、「鳥飼補助き電区分所」にある「開閉器」が「」になったときである。 そうであれば、「鳥飼補助き電区分所」内の(黄線で囲まれている範囲の緑線で示される)電流が遮断されるので、この補助き電区分所から「新塚本き電区分所」までの区間を走行している新幹線列車へ供給される全電流が、このパンタグラフを中継ぎに(オレンジ色の線で示されている経路を通って)流れることになる。 架線との接触が不充分であれば、パンタグラフと接している部分の電気抵抗が大きくなって、多大なジュール熱が発生することになる。 

 通常運転時には、補助き電区分所にある開閉器が「」になることはないはずであるが、事故当日の6月21日は大雨でダイヤが乱れていたので、何らかのことで(自動的に、または、人為的に)開閉器が「」になった?  ただし、開閉器が「切」になったことは、その可能性をも含めて、JR東海の報告書では、指摘されていないのであるが・・・。 
 ここで、在来線(直流電化)の場合のエアセクションを下に示す。
《参考資料》
 
在来線エアセクション
 図41-5 在来線で直流電化された場合のエアセクション 
 東海道新幹線 京都駅〜新大阪駅間におけるトロリ線断線の原因について 
 
「平成29年7月13日 東海旅客鉄道株式会社、別紙2-2」から一部改変
 
 『図63-5 在来線で直流電化された場合のエアセクション』の「」点の電圧は、列車A列車Bの2つの列車編成の電流消費によって、架線に電圧降下が生じて変電所の電圧よりも低い電圧になる。 「」点の電圧は、変電所との間に列車がないので、電圧降下はなくて変電所での電圧のままである。 したがって、「」の架線と「」の架線が、列車Aのパンタグラフにより短絡されると、パンタグラフを通って「」から「」へ大きな電流が流れる。 その電流によるジュール熱で接触部分が過熱され、架線が溶断してしまう可能性がある。 「在来線のエアセクションでの架線溶断の可能性は高いので、当該カ所では停車しないなどの補完的な対策が施されている」ことになる。 
 しかし、新幹線の場合には、『図63-3 同相エアセクション』の「説明文」にあるように、「新幹線のエアセクションでは、『き電区分所にある開閉器の電気配線などに工夫』をすることで、架線−パンタグラフ間に過電流が流れない構造になっている。 そのため、架線溶断の可能性はほとんどないので、補完的な対策は必要がない」とされてきた。 今回の事故を受けて、「今後、東京−新大阪間に192カ所あるエアセクションの区間を示す標識を設け、急停車の際でも避けるようにするなどの対策を8月上旬までにとる予定」ということになった。 「事故はエアセクション部分での大電流による過熱溶融であるから、この部分を素早く通過することで過熱するほどの時間経過を避ける」という方策は、功を奏するはずである。 
 事故を防ぐ対策としては正解であるようだが、「パンタグラフを通じてエアセクションを構成する2本の架線間に大電流が流れてしまった経緯」に納得のいく原因の説明がなされていない「事故防止対策の正解」が「事故の『あやふやな』解明を正当化すること」につながるならば、それは、より深刻な事故への前奏曲になってしまうことを危惧する。
 

(42)アメダス環境が生みだす気温日本一
 
「ココハツ」
館林の暑さはズル林!?
 図42-1 日本一暑いまち 

 全国有数の「暑いまち」として知られる群馬県館林市。 ところが、ネット上には「ズル林」という批判もあるようです。 「全国最高の〇度を記録」と毎夏ニュースに何度も名前が挙がりますが、その数字が怪しいというのです。 専門家と一緒に、調べてみました。 
計測場所がやり玉に 
 気温などを測るために気象庁が設置している館林のアメダスは、商業施設と住宅に囲まれた館林消防署の駐車場内にありました。 ひと目見て、「確かにこれは・・・・・・」と、つぶやいてしまいました。 周囲を車が囲み、地面は芝生ではなくシート、北と東側はアスファルト舗装の道路です。(後略)【 前橋総局 ・ 角詠之 】

2017年(平成29年)8月27日(日)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版10面 赤字は右記引用部分
 群馬県館林市全国有数の「暑いまち」として知られるが、館林のアメダスは、商業施設と住宅に囲まれた館林消防署の駐車場内にある。 周囲を車が囲み、地面は芝生ではなくシート、北と東側はアスファルト舗装の道路となっている。 
 館林の最高気温は2007年8月16日15時00分の40.3度である。 気象庁の「過去の気象データ」によると、「北北西」の風、風速毎秒3メートルであった。 なお、風速計は、館林地区消防本部の塔屋上18.0メートルの高さにあって、周囲の建築物の影響を受ける可能性は少ない。 しかし、温度計のある地上1.5メートルでは、風の流れは、周囲の建物などの影響を受けているに違いない。 北と東側はアスファルト舗装の道路であり、そこから立ち上っている「熱気を含んだ空気の塊」が弱い風に流されて、温度計に入り込んでいる可能性がある。 
 図42-2 気温測定における舗装部分の影響 
 舗装部分で熱せられた気塊が風にのって植木の間を通り抜けていく 
 ・微風の場合には、熱風が植木で止められることも 
 ・強風では、舗装面で熱せられることもなく吹き抜けていく 
 アメダスの周囲は、『図65-1 日本一暑いまち』の「館林のアメダス設置位置」にあるように、そのほとんどが舗装された敷地である。 さらにその敷地の外側は、 

 図42-3 群馬県館林アメダス付近の鳥瞰図 
 アメダスは画面中央の黄色矢印(丁字路角に接する消防本部敷地) 
 右端に見える建物が館林地区消防本部、手前が北北西で上方が南南東方向 
 最高気温を観測したとき、消防本部屋上の風速計では、 
 手前から上方に向かって風が吹いていたということである。 
 図42-4 群馬県館林アメダス 
 風下の南南東方から、風上である北北西方向を見たものである。 
 アメダスは、画面中央の柵に囲まれた場所に設置されている。 
 風上には、地上風と気温を左右する(地上と屋上に広大な駐車場を備えた)自動車販売店がある。 
 風速計については、左上の消防本部屋上に設置されていて、建物の影響を受け難い位置にあるので、 
 風速計で測られた値が、気温計の位置での風向と風速を反映している保証はない。 
である。 建物と舗装された地面で占められている。 風上である北北西側から、風下になる南南東方向を鳥瞰している。 「手前(風上側)」には、自動車販売店の建物がある。 アメダス温度計がある低い位置に吹く風は、その建物の周囲を迂回する形で、駐車場を通って流れていたと思われる。
 
「ズル林」の汚名返上なるか 群馬・館林アメダス移設へ

 群馬県館林のアメダス(地域気象観測システム)が6月にも館林市内で移設される。 アメダスは「日本一暑いまち」の根拠だが、いまの場所は「暑くなりやすい」と疑われ、一部で「ズル林」などと言われている移設後も暑さを証明し“汚名”を返上できるか―― 
 現在、アメダスは館林市美園町の館林消防署駐車場にある。近くを国道354号が通り、自動車販売店や集合住宅などが密集する。 駐車場も道路もアスファルト舗装で、アメダス自体は芝生上ではなく防草シートの上に設置されている。 
 こうした状況に、インターネット上では、「ほかの地点より暑くなりやすい地点にアメダスを置いている」との声もあった。 
 前橋地方気象台の担当者は「さまざまな声があったのは承知しているが、アメダス移設は消防署の移転に伴うもの」と説明。 2020年4月までの消防署移転に先立ち、アメダスを現在地の北西約2キロの富士原町にある県立館林高校グラウンドに移すことになった。 複数の候補地から検討し、周辺に人工的な熱源や高い建造物がないことを確認したという。 気象台は「観測に適した環境を作る」としている。 
 館林は全国最高気温になることが多く、4月22日にも全国最高の32・1度を記録したばかりだ。 1日も、伊勢崎に次ぐ全国2位タイの30・5度を記録した。【 山崎輝史 】

 図42-5 館林のアメダスの移転予定地 
 (県立館林高校のグラウンド) 
2018年(平成30年)5月1日(火)19時05分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 
「日本一暑い」館林
じゃなかった?
観測地点を移設したら・・・気温下がった
 
 図42-6 最高気温のランキング 
 

 戦後、一番暑かったこの夏、「日本一暑いまち」でPRしてきた群馬県館林市が最高気温ランキングの上位から姿を消した。 地域気象観測システム(アメダス)の観測地点が変わったことも原因のひとつとみられる。 「暑いまち」を街づくりに活用してきた関係者は、今後の方向性に悩んでいる。(後略)【 山崎輝史 】

2018年(平成30年)10月3日(水)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版6面(社会)赤字は右記引用部分
 群馬県館林のアメダス(地域気象観測システム)が6月にも館林市内で移設されるが、移設後も暑さを証明して、いまの場所は「暑くなりやすい」と疑われ、一部で「ズル林」などと言われている不本意な“汚名”を返上できるか――と。 その館林のアメダスの移転予定地付近の様子を、下に示す。 
 図42-7 館林アメダスの移転予定地の鳥瞰図 
 (県立館林高校グラウンドを南東から北西方向を鳥瞰) 
  グラウンドの右下部分が予定地 
 ( Google マップから ) 
 現在は、畑と住宅とが散在している。 従来の場所とは雲泥の差である。 南〜西寄りの風が吹いているときには、農地や戸建て住宅からなる木々による効果で、地面からの輻射熱によって高温になることは少ない。 ただ、北西〜北方向からの弱風のときには、高校の広いグラウンドで暖められた熱気がアメダスに流れてくるので、高めの気温が観測されよう。 
 館林で2007年8月16日に最高気温が観測されたときは、「北北西」の風であった。 このときの風速計は館林地区消防本部の塔屋上18.0メートルの高さに設置されていたから、この地域全般の気流を観測していたことになる(局地的な気流ではないだろう)。 同じ条件ならば、グラウンドからの輻射熱によって暖められた空気を観測することになるので、最高気温を更新できる可能性は残っている。 
 「最高気温を更新できる可能性は残っている・・・」と考えていたが、実際には、そうではなかった。 「日本一暑いまち」でPRしてきた群馬県館林市が最高気温ランキングの上位から姿を消したという。 そこで、気象庁のホームページ内の「館林地域気象観測所の移設」(閲覧『https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/tatebayashi/index.html』)に掲載されているデータに基づいたものを下に示す。 
 図42-8 館林新旧アメダス間での気温の相関 
 横軸:新アメダスの最高気温(℃) 
 縦軸:観測した気温差(℃)(旧アメダスの最高気温−新アメダスの最高気温) 
 (2018年7月2日〜9月30日) 
 旧アメダスの方が、平均して、0.4度だけ高い最高気温になっている。 新アメダスの最高気温によって、双方間の気温差が変化するかどうかを見てみる。 それを下表に示す。 
表42-1 新アメダスの最高気温と気温差の平均の関係
 新アメダスの最高気温  気温差(旧アメダス−新アメダス)の平均  標準偏差 
20 〜 24.9度+0.0度0.2度
25 〜 29.9度+0.4度0.4度
30 〜 34.9度+0.4度0.5度
35度以上+0.6度0.3度
 傾向として、新アメダスの最高気温が高いほど、旧アメダスの最高気温が「より高い気温を観測していた」ことを示しているので、巷間で取りざたされている『「ズル林」の汚名』を晴らすことは、今後の観測結果を待っても期待できない。 
 さて、日本での最高気温の記録は、
《補足資料》
 
高知・四万十市で41.0℃ 国内最高気温を更新
 12日も全国的に猛暑になり、高知県四万十(しまんと)市で午後1時42分、国内の観測史上最高の41・0度を記録した。 これまでの最高だった埼玉県熊谷市と岐阜県多治見市の40・9度を6年ぶりに更新した。 四万十市が40度を超えるのは3日連続で、同じ地点としては全国で初めてだった。(後略)【 赤井陽介 】
 
2013年(平成25年)8月13日(火)
朝日新聞社インフォメーション(NIE) 赤字は下記引用部分
 当時の風速は毎秒2〜3メートルで、風向は確定されていない。 高知県四万十市江川崎のアメダス測定点付近の様子を、下に示す。 
 図42-9 高知県四万十市江川崎アメダス 
 アメダスは右端の柵の中(高い柱についている風速計が目印) 
 左の林の向こう側には一段下がった四万十川の谷 
 ( Google ストリートビューから ) 
 四万十市江川崎アメダスは、上図の右側にある中学校に設置されている。 中学校の向こう側に小学校が隣接している。 アメダスの南側には、直接、中学校の広い駐車場が接している。 それ以外の方角は、少しばかりの芝生越しに道路や小中学校の舗装された地面が拡がっている。 (海風のときの風向きである)南からの風が吹くと、中学校の広い駐車場で暖められた気塊が、障害物なしに、アメダスに向かって流れていくことになる。 それ以外の方向の風であっても、舗装面により暖められた気塊のアメダスへの流入の可能性は大きい。 
 一般的な谷筋には、昼間、海風が吹く。 四万十市江川崎は河口から30キロメートル以上離れた位置にあるので、谷筋に吹く風には海風特有の冷たさはない。 まわりを低い山々に囲まれた細長い盆地地形であって、この谷を吹き上がる海風は強くない。 このアメダスの位置は谷筋とは河川林で隔てられているので、谷を吹き通る海風がアメダスが設置されたところに及ぶことは僅かである。 そのことは、10メートルの高さにあるアメダスの風速計による計測で、最高気温観測時の風速が毎秒2〜3メートルであるし、また、風向が「(気象庁の発表で)値にかなり疑問があるため」に示さないことにするとされている事実から、確かめることができる。 何故なら、その高さでの風向が大きく揺れていたことから、そこでは谷を吹き通る海風(谷筋に沿って定まった方向に吹く風)に加えて、それ以外の方向からの風が吹いていたことを示しているから。 それ故、温度計が設置されている1.5メートルの高さでは、かなり弱い風が方向を定めずに流れていたに違いない。 
 このアメダスは、館林市アメダスと同様にまわりの大部分が道路と駐車場であるが、異なる点は植栽などによる風防が施されていないことである。 ゆっくりと流れる空気が、舗装面からの輻射線により熱せられ、その熱気の塊がそのままアメダスに流れていった・・・。 
 「館林アメダス」のように消防署の敷地内に設置する例として、山形県尾花沢市の「尾花沢アメダス」がある。 

 図42-10 山形県尾花沢市尾花沢アメダス 
 尾花沢市消防本部の敷地に設置 
 アメダスは訓練タワー手前の柵内に 
 ( Google ストリートビューから ) 
 尾花沢アメダスの横にある県道をはさんだ北西側は以前は農耕地になっていたが、平成27年に「尾花沢警察署」が移転してきた。 西側は農耕地のままであるが、早晩、舗装されてしまうであろう。 それ以外の一帯は、舗装されている。 館林アメダスと同じような環境になってきている。 上図を子細にみると、消防本部の向こう側には、緑地が拡がっている。 そのような緑地に囲まれた場所にアメダスを設置できれば、舗装面によって暖められた気塊による影響を防ぐことができる。 しかし、現実には、消防署や公立学校などの敷地を利用せざるを得ない状況となっている。 
 都会には都会の、田舎には田舎の、それぞれに最高気温を押し上げる要因が存在しているように思われるが、それらにある共通点を排除できれば、より良い気温観測ができる。 その共通点は、輻射線(赤外線、熱線)による空気の加温と、その温められた気塊が温度計の納められた通風筒に流れ込んでしまうことである。 
 「輻射線による空気の加温を防ぐ」ためには、観測点周辺の芝生化である。 雑草の繁茂を防ぐために「防草シート」が多用されているが、舗装面ほどではないが、輻射線源になる。 好ましくない。 
 「温められた気塊の温度計への流れ込みを阻止する」ためには、空気の流れが良好な開けた空間への設置である。 温度計の推奨高さは1.5メートルであるから、平屋の建築物であっても、近くにあることは好ましくない。 気象庁は「最寄りの建物からその高さの3倍程度の距離を置いて設置する」としているが、その程度では完全な空気の流れを保証できるものではない。 開けた場所の確保は、現実的ではないとしても・・・。
 
暑いぞ鳩山、熊谷抜いて埼玉の主役に 観測位置も影響?

 モーショ、モーショとセミの鳴き声のように連日騒がしかった今年の8月。 ところが、全国で最も暑い街として名をはせる埼玉県熊谷市の影がどうも薄い。 代わって県内で主役に躍り出たのが鳩山町。何か異変でも起きたのだろうか。 
 気温を観測する気象庁のアメダスは県内に8カ所あり、この中で今年8月に最も高い最高気温を記録したのは11日の鳩山町で40.2度。 全国ニュースの最高気温情報にも「鳩山」のテロップが流れ、この観測所の歴代1位を更新する一方、熊谷は同じ日に39.6度だった。 
 8月1カ月間の最高気温を鳩山と熊谷で比べてみても、鳩山が上回った日が24日、熊谷の方が高かった日はわずかに7日だった。 熊谷が日本一の最高気温41.1度を7月に出すなど、やはり猛暑だった2018年は熊谷の最高気温の日数が鳩山を上回っており、逆転したかたちだ。(後略)

2020年(令和2年)9月7日(月)10時29分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
  今年8月に最も高い最高気温を記録したのは11日の鳩山町で40.2度であり、最高気温を鳩山と熊谷で比べてみても、鳩山が上回った日が24日、熊谷の方が高かった日はわずかに7日だったという。 
 「鳩山」アメダスが設置されている環境を、下図に示す。 
 図42-11 「鳩山」アメダス 
 グラウンドの北隅に設置されている「アメダス観測機器」(中央下部) 
 アメダスから見て真南の方向に「体育館」や「鳩山中校舎」 
 上方遙か彼方に東京都心 
 ( Googleマップの3D表示から ) 
 「鳩山」アメダスの南側には、グラウンドが広がっている。 左側の東方向は、土地の造成が進んでいる。 北から西方向には広い道路が通っている。 
 土地開発中の現時点では、風を遮るものは存在しないので、風向風速の観測には絶好の立地である。 
 ただし、海風時の気温に関しては、問題がある。 海風は、南側にある都心の熱気を伴って、流れ込んでくる。 更に、弱風時には、南に広がるグラウンドによる輻射熱を受けることで、徐々に気流が加熱される。 これらのことにより、より高い気温が観測されるようになろう。 
 尾花沢アメダスの課題は開けた場所を確保することであったが、「鳩山」アメダスの場合には広すぎる裸地が気温に影響してしまうという。 観測に必須の要件を満たす観測点を用意できないのであれば、「どこどこのアメダスの観測値が記録更新」という「アメダス間を比較する」ような発表をやめることである。 「マラソン」のゴール時間と同じように・・・。
 

(43)職人技が支えてきた安全性に忍び寄る暗い影
 
新幹線のぞみ、台車に亀裂 初の重大インシデント認定

 博多発東京行きの新幹線「のぞみ34号」が11日、走行中に異常音や異臭があり、名古屋駅から運転を取りやめるトラブルがあった。 車両を保有するJR西日本は12日、台車に亀裂が見つかったと発表した。 国の運輸安全委員会は同日、深刻な事故につながりかねない重大インシデントに認定し、調査を始めた。 
 同委に記録が残る2001年10月以降で、新幹線トラブルで重大インシデントと認定されるのは初めて。 
 JR西によると、のぞみ34号(N700系、16両編成、先頭は16号車)は11日午後1時33分に博多駅を出発。 最初の停車駅の小倉駅を出る際、乗務員が焦げたような臭いに気づいた。 そのため、岡山駅で車両保守担当の社員が乗り込んで調べた。 13〜14号車で、モーターがうなるような異常音を確認したが、走行に支障が出る音ではないと判断した。 
 その後、京都駅付近で車掌が異臭を感じ、名古屋駅で車両の床下を点検したところ、前から4両目に当たる13号車の台車で、モーターの回転を車輪に伝える歯車の辺りから、油漏れが見つかった。 列車は名古屋―東京駅間で運転をとりやめ、乗客約1千人は別の列車に乗り換えたという。 
 その後車両を調べたところ、13号車の台車についているモーターの回転を車輪に伝える「継手(つぎて)」と呼ばれる部品が焦げたように変色していた。 さらに、台車の枠組み部分に亀裂が見つかった。 前日の点検では異常は確認されなかったという。

2017年(平成29年)12月12日(火)21時16分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 
新幹線の台車「異常なし」 JR東海、全車両の点検終了

 博多発東京行きの新幹線「のぞみ34号」の13号車の台車に亀裂が見つかった問題で、JR東海は14日までに、保有する新幹線全ての台車の点検を終えた。異常は見つからなかったという。 
 JR西日本が所有するのぞみ34号の台車から油漏れと亀裂が見つかり、国の運輸安全委員会が12日に、深刻な事故につながりかねない重大インシデントに認定し、調査している。 
 問題を受け、JR東海は、同社が保有する新幹線全135編成の4300台車の目視による点検を12日に開始。14日夜に点検を終えた 
 また、JR東海は15日未明、名古屋駅に停車しているのぞみ34号の撤去作業を始めた。終電後の15日未明に14〜16号車を切り離し、約3キロ西の名古屋車両所へ牽引(けんいん)した。16日未明には13号車の車体と台車を切り離してクレーンで車体をつり上げ、亀裂の見つかった台車を別の台車に交換する。運転再開は16日以降となる見通し。

2017年(平成29年)12月15日(金)12時02分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 
のぞみ、台車に亀裂 新幹線、揺らぐ安全 破損の原因不明
 
 図43-1 異常が見つかった台車 
 

 東海道・山陽新幹線「のぞみ」の重要部である台車に亀裂が入っていた問題は、半世紀以上にわたって築き上げられた「安全神話」に疑念が生じる異常事態だけに、車両を所有するJR西日本をはじめ関係者らを震撼(しんかん)させている。 国の運輸安全委員会は新幹線初の重大インシデントとして、チェック体制や運転を継続していた経緯を調べており、安全管理の徹底を求める声が上がっている。【 根本毅、酒井祥宏、横田伸治 】 
 「走行に関わる部分に異常があり、しかも同時に複数箇所で見つかった」。 13日午後、のぞみが止まったままだったJR名古屋駅で、報道陣に囲まれた運輸安全委の寺田和嗣・主管調査官は、極めて深刻な事態だったと改めて強調した。 
 異常は16両編成のうち13号車(前から4番目)の台車で見つかった。 (1)台車枠の亀裂1カ所(2)モーター回転を車輪に伝える「継手」に焦げたような黒っぽい変色(3)継手と車輪の間の「歯車箱」付近に油漏れ−−の三つだ。 とりわけ、強度のある台車枠に亀裂が入ったことは、「めったに起きることではない」(国土交通省幹部)と関係者にショックを広げている。 
 亀裂が生じて広がれば台車が大きくゆがみ、四つある車輪それぞれに均等にかかっていた重量のバランスが崩れ、荷重の軽くなった車輪はレールから外れる恐れが出てくる。(後略)

2017年(平成29年)12月16日(土)
毎日新聞 東京朝刊(Web掲載) 赤字は右記引用部分
 博多発東京行きの新幹線「のぞみ34号」が11日、走行中に異常音や異臭があり、名古屋駅から運転を取りやめるトラブルがあった。 車両を保有するJR西日本は12日、台車に亀裂が見つかったと発表、その後の調査で、13号車の台車についているモーターの回転を車輪に伝える「継手(つぎて)」と呼ばれる部品が焦げたように変色していた。 さらに、台車の枠組み部分に亀裂が見つかったという。 
 これを受けて、「JR東海は、同社が保有する新幹線全135編成の4300台車の目視による点検を12日に開始。14日夜に点検を終えた」という。 
 目視による点検 
 ハインリッヒの法則では「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」としている。 今回のインシデントの裏に「29」とか「300」とかの微少な亀裂が隠れている可能性がある。 
 機関車全盛時代の検査法は、金づちでたたいて音で確認する打音検査であった。 車体に傷などがあれば、音程や響きに微妙な違いが生じる。 それによって知ることができるのである。 
 笹子トンネルにおいて、それが適切に実施されていれば、重大な事故を事前に防止できたのではないかという検査法である。 
 さて、今回の目視による点検では、笹子トンネルと同様に、隠れている「29」とか「300」とかの微少な亀裂を見逃してしまっているかもしれない。 それを防ぐためにかなり有効な、昔々に日常的におこなわれてきた打音検査が、今日、実施されなかった。 「打音検査を実施できる技能者がいなくなってしまった」ということか。 
 さて、台車の構造は、『のぞみ、台車に亀裂 新幹線、揺らぐ安全 破損の原因不明』の記事にある『図66-1 異常が見つかった台車』に示されている。 その図では不明瞭なところがあるので、詳細な構造が描かれたものを、《補足資料》として下に引用する。 
《補足資料》
 図43-2 新幹線電車用台車の例 
 (図中の「図4」は引用文献中に示されている図の番号) 
「RRR 2008年7月 鉄道技術アラカルト -50-
「ボルスタレス台車」 岡本勲(鉄道総合技術研究所 顧問)」(閲覧『http://bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0004/2008/0004004765.pdf』)
《補足資料》
 図43-3 新幹線電車用台車の例 
「鉄道車両Tips」(閲覧『http://railcartips.taka84a.jp/』)
「13. ボルスタレス台車とは? 台車の構造と主な部品のメカは? 台車だ行動とは?」(閲覧『http://railcartips.taka84a.jp/kaisetu/truck/truck.htm』)
 モーターは「台車枠」に固定されている。 モーターの回転数を減速するための歯車部分を納めてある歯車箱は「車軸」に固定されていて、「台車枠」から吊り下げられている。 「台車枠」と「車軸」とは、振動の緩衝装置である「軸ばね」を介して結合されている。 モーター歯車箱の幾何学的位置関係は、軸ばねの伸縮により変動してしまうことになる。 したがって、モーターの回転軸を直接に歯車箱に繋ぐことはできない。 「軸ばね」の伸縮によって生じる「モーター」と「歯車箱」の相対的な位置の変化を吸収するために、モーターの回転を「継ぎ手」を介して歯車箱に伝えている。 
 「軸ばね」の伸縮によって生じるモーターの中心軸と歯車の中心軸のズレを吸収するため、継ぎ手の接合部分の角度を、微妙に変化させながら、モーターの駆動力を伝えていることになる。 
 この継ぎ手の接合部分で、駆動力を伝える「継ぎ手」の接触が異常状態になってしまったとする。 異常な接触状態によって、駆動力の伝達の際に、発熱してしまうことになる。 継ぎ手の周辺に潤滑油があれば、それが加熱されて変色し、発煙してしまったことが考えられる。 これが「事故から1週間を経過した時点で」推定される焦げたような臭いであり、京都駅付近で車掌が異臭を感じた原因であると・・・。 
 故障した台車には、「(1)台車枠の亀裂1カ所(2)モーター回転を車輪に伝える「継ぎ手」に焦げたような黒っぽい変色(3)継ぎ手と車輪の間の「歯車箱」付近に油漏れ」がみられたという。 
 さて、(1)、(2)、(3)が起こった順番としては、 
 (A)・・・(1)が先に生じて、それが発現した後(1)に影響されて(2)(3)が起こった。 
 (B)・・・(2)(3)の発生と(1)の発現は、同じ原因を出発点にして同時並行的に進行した。 
が考えられる。 
 (A)であるなら、台車に亀裂が生じて、その結果として、モーター歯車箱の位置関係が大きく変わってしまった。 それによって、継ぎ手部分に、無理な力が加わることになった。 その無理な力によって発熱した「継ぎ手」に、焦げたような黒っぽい変色などが起こったと・・・。 
 このスキームを主張する記事が、後日、掲載されている。
《補足資料》
 
<のぞみ車両>旧型、亀裂検知できず 新型はシステム搭載
 東海道・山陽新幹線「のぞみ」の台車に亀裂が生じたまま運行させていた問題で、異常な振動を検知する最新型車両「N700A」であれば、早期に点検できた可能性の高いことが関係者への取材で判明した。 今回の車両は1世代前で、JR西日本の車掌らが振動を感じながら、台車の異常と明確には認識せず点検が遅れた。 JR西は再発防止策として、N700Aと同様の機能を他の車両にも導入する方針だ。 
 台車はまず亀裂が生じ、モーター動力を車輪に伝える部品「継ぎ手」がゆがんで、振動などが発生したとの見方が強まっている。(後略)【 根本毅 】
 
2017年(平成29年)12月29日(金)07時15分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 そこでは、「台車はまず亀裂が生じ、モーター動力を車輪に伝える部品「継ぎ手」がゆがんで、振動などが発生したとの見方が強まっている」としている。 継ぎ手にはいろいろな構造がある。 新幹線に多く使用されている「WN駆動」(「歯車形たわみ継ぎ手」)を、下に示す。 モーター側の軸と歯車箱内の歯車軸との変位は、「アウターギア」と「インナーギア」の組み合わせで吸収する。 
《補足資料》
 図43-4 WN駆動(歯車形たわみ継ぎ手) 
「鉄道車両Tips」(閲覧『http://railcartips.taka84a.jp/』)
「14. 電動機 その種類、構造、定格、制御方法 温度上昇と線路勾配との関係は?」(閲覧『http://railcartips.taka84a.jp/kaisetu/mm/motor.htm』)
 「歯車形たわみ継ぎ手」は、凸歯形の「アウターギア」と、凹歯形でレール状の「インナーギア」との噛み合わせで、構成されている。 
 上図の「正位の状態」であれば、「アウターギア」の歯と「インナーギア」の歯の「噛み合わせ」のすべてが接触し、「アウターギア」が「インナーギア」に接触する点は「インナーギア」のレール上の中央部分である。 モーター(電動機)からの駆動力は、すべてのギアの噛み合わせを通して、小歯車側に伝えられる。 エネルギーの損失は最小限に抑えられる。 
 しかし「変位状態」であれば、「インナーギア」は「アウターギア」に対して斜めに組み合わさっているので、「正位の状態」とは違って、駆動軸が1回転する間に噛み合わせ部分のギアが接触しているときもあれば非接触のときもある。 すべてのギアの噛み合わせの内で、ギア同士が接触して駆動力を伝えているものは、ほんの一部分である。 斜めになっていることは、軸が回転する間に、噛み合わせ点が「インナーギア」のレール上を左右に移動する(横滑りする)ことをもたらす。 具体的には、上方でのギアの噛み合わせ点は「インナーギア」の左側方で、下方では右側方である。 継ぎ手の「アウターギア」が上方→下方→上方と1回転する間に、「インナーギア」側の噛み合わせ点は、左側方→右側方→左側方と移動することになる。 駆動力が一部のギアの噛み合わせに集中してギアの接触点に大きな力が加わるとともに、ギアの接触点に加わった大きな力の下でそれの横滑りによる大きな「すべり摩擦」を生む。 
 『台車はまず亀裂が生じ、モーター動力を車輪に伝える部品「継ぎ手」がゆがんでしまうと、モーター側の軸中心から小歯車側の軸中心までの距離(変位)が大きくなる。 『図66-4 WN駆動(歯車形たわみ継ぎ手)』の「変位状態」の図で、「モーターの軸」と「小歯車側の軸」の上下の差が大きくなって、「ギアケース」がより斜めに傾いた状態になってしまう。 その結果、ギアの上方での左側方から下方での右側方への噛み合わせ点の移動距離がより長くなってしまう。 より斜めに傾くことでギア同士が接触している噛み合わせの割合が更に減少、少ないギアの接触点に駆動力が集中し、すべり摩擦力がよりいっそう増大する。 より長くなった移動距離とよりいっそう増大したすべり摩擦力に伴って、振動などが発生した』とするスキームである。 そのスキームは、皆を納得させられるように思われる。 
 しかし、よく考えてみると、おかしい。 台車の亀裂によって生じる双方の位置関係の偏倚は、どの程度か。 緩衝機構の軸ばねの伸縮による偏倚と比べると、亀裂部分が大きく裂けている訳ではないことから、それによる偏倚はかなり小さいはずである(*1)。 納得できるものでは、ない。 

(*1) これよりも後に掲載された「2017年12月20日(水)の記事の写真」から、亀裂の発生した場所が明らかになった。 その場所は、「継ぎ手」を含むモーター動力伝達系の回転軸の延長線上であるといってもよい。 それ故、この亀裂が生じた部分が大きく開裂したとしても、この回転軸回りに「側ばり」が変形するので、『この亀裂の発生が「モーター側の軸」と「小歯車側の軸」の上下の差を拡大することには寄与しない』と考えられる。

 (B)であるなら、異臭の発生は、台車の亀裂発生の有無に関係なく生じたことになる。 「継ぎ手」が回転する際に、「インナーギア」と「アウターギア」の噛み合わせ点に過大な摩擦が起きる場合である。 
 摩擦の原因としては、 
(1)ギア部分での潤滑が極端に低下したとき 
(2)「歯車形たわみ継ぎ手」内にあるスプリングに異常が発生して、噛み合わせ点が偏倚したとき 
(3)モーターの取付位置が不良であるとき 
 上の(1)のケースは、継ぎ手のギアケース内の潤滑剤が何らかの理由によって失われてしまったことを意味する。 ギアケースは「モーター」と「歯車箱」とに挟まれた狭い場所に組み込まれているので、モーターを取り外すような車体検査の場合を除いて、これの点検はきわめて難しい。 潤滑剤が失われてしまっていても、気付かれないかも知れない。 その結果、ギア部分での潤滑作用がなくなってしまう。 
 潤滑剤が失われる可能性はあるか? 
 潤滑剤として使用されているグリースは、潤滑成分に粘性を与えるための繊維状物質を混和した半固体状態のものである。 グリースは温度の上昇に伴って流動性が増加する。 混和されている繊維状物質は、時間の経過とともに徐々に分解されてしまい、このことでグリースの粘性が減少する(チクソトロピー)。 また、高温にさらされると、その分解が急激に進んで、流動性の高い「ゾル状態」に非可逆的に移ってしまう。 流動性を得たグリースは、高速回転するギアケースの強い遠心力により、その隙間から沁み出してしまった・・・。 
 (2)では、下図のようなギアの偏倚が生じたときである。 
 図43-5 スプリングの異常によって生じる噛み合わせ点の偏倚 
 (上図を筆者により改変) 
 スプリングの異常によって、「ギアケース」が右方に偏っている場合には、 
 (a)点で示す位置で、内外ギア間の噛み合わせが大きく不良になり、 
 回転力を伝達する際に、エネルギーのロスを生じる(異常な発熱と偏った力) 
 上図の右側は、継ぎ手ギアケース内のモーター側のスプリングが強くて、または、小歯車側のスプリングが壊れるなどで弱いときに、ギアの噛み合わせ部分が左方に偏倚した(モーターと小歯車の軸から見れば「ギアケース」の方が右方に偏倚した)様子を示している。 
 ところで、「インナーギア」の形状は、「ギアケース」の斜めの程度が変化してギアの噛み合わせ点が移動しても、その噛み合わせがスムーズになるように、微妙に湾曲している。 その湾曲した形状は、上図の左側の「正常な状態」を基に設計されている。 
 「ギアケースが右方に偏倚した状態」で、「ギアケース」の傾斜が変化したときの「アウターギア」の動きは、「正常な状態」を基にして加工されている「インナーギア」の形状には一致していない。 図中の(a)に示すギアの噛み合わせ部分の左方への偏倚(「ギアケース」の右方への偏倚)が大きくなるに従って、噛み合わせに干渉(ギアの歯の引っ掛かり)が起きる可能性が増加する。 場合によっては、大きな摩擦を伴う回転になってしまう。 
 (3)では、「モーター」と「歯車箱」との距離が不適切になってしまう。 距離が適正なものよりも長ければ、下図のように、左方側の噛み合わせ点は「インナーギア」の左側方へ、右方側は右側方へ偏倚してしまう。 このとき、(a)や(b)の噛み合わせ部分が、回転の際に大きな摩擦を生じる可能性が大きい。 
 図43-6 モーター取り付け位置の不良によって生じる噛み合わせ点の偏倚 
 モーターの取り付け位置不良により、上図のように、小歯車軸との間隔が開いてしまった場合には、 
 (a)(b)の位置で、内外ギア間の噛み合わせが、整合し難い状態になってしまい、 
 回転力を伝達する際に、エネルギーのロスを生じる(異常な発熱と偏った力)。 
 反対に、取り付けが間隔が狭くされたときには、(c)(d)の位置で噛み合わせが異常な状態に 
 「モーター」と「歯車箱」との距離が短いときには逆に偏倚するが、摩擦の発生は、長いときと同じである。 
 いずれにしても、最適な噛み合わせからは外れてしまうので、(2)と同じように、回転する際の摩擦の原因になってしまう。 
 (1)〜(3)のどれかの原因により(それらのうちのどれかは、ここでは決めつけられないが)、回転する際に異常な摩擦が発生する。 その摩擦によって、「摩擦熱の発生」と「摩擦に伴って異常な力が働くこと」が同時に生じる。 
 摩擦熱によって、継ぎ手部分が過熱する。 その加熱部位付近に潤滑油が付いていれば、それが加熱分解され、異臭の原因物質が生み出されることになる。 潤滑油が加熱分解されれば、継ぎ手の接合部分の潤滑が、更に、低下してしまう。 
 摩擦による力については、つぎのようになる。 台車の図である『のぞみ、台車に亀裂 新幹線、揺らぐ安全 破損の原因不明』の記事にある『図66-1 異常が見つかった台車』でみると、この列車が東京方向に向かっているときには、図中のモーターは「時計回り」に回転している。 継ぎ手部分での摩擦は、「歯車箱吊り」に上方向への力のモーメントを与える。 
 図43-7 「歯車箱吊り」に上方向への力のモーメントが(上図を筆者により改変) 
 橙色矢印:モーターと車軸の回転方向(列車は左方向へ走行) 
 青色矢印:「継ぎ手」の摩擦増大によって「歯車箱吊り」に働く力 
 その結果、側ばりを上向きに反らす方向に力を与える。 それによる応力は、側ばりの「コーナー(隅)」に集中する。 新幹線車体重量による定常的な負荷に加えて、上方向への力のモーメントが断続的に働くと、下部位置に金属疲労が発生する。 亀裂がみられた場所である。 
 事故原因がみえてきた。 継ぎ手の接合部分での摩擦の増大が主因であると・・・。
 
新幹線台車亀裂 台車は川重製 JR西が会見で説明

 博多発東京行き新幹線の台車に亀裂が見つかった問題で、JR西日本(大阪市)は19日、亀裂は台車枠の底面で約16センチ、幅は約1・3センチだったと公表した。 生じた原因は調査中という。 また、この台車が川崎重工業(神戸市)の製品であることも明らかにした。 
 JR西の吉江則彦副社長鉄道本部長らが会見で説明した。 亀裂は車輪を支える鋼材の台車枠で「コ」の字型に見つかり、内側と外側がそれぞれ約14センチ、底面が16センチだった。 台車は川崎重工業が2007年4月に製造。 JR西は同型を129台所有しているが、点検で異常がないことを確認したという。 
 問題の新幹線は、11日午後に博多駅を出発したのぞみ34号。途中、車内でもやがかかったり、焦げたような臭いがしたりしたため、名古屋駅で運行を取りやめた。 運輸安全委員会は新幹線で初の重大インシデントと認定。鉄道事故調査官を派遣するなどして原因を調査している。

2017年(平成29年)12月19日(火)16時21分
神戸新聞 NEXT 赤字は右記引用部分
 
 
のぞみ亀裂 あと3センチで破断
JR西が謝罪 異常覚知後も走行
 図43-8 のぞみ34号13号車の台車(記事中の「図」) 
 
2017年(平成29年)12月20日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面 赤字は右記引用部分
 JR西日本は19日、亀裂は台車枠の底面で約16センチ、幅は約1・3センチであると発表した。 亀裂は車輪を支える鋼材の台車枠で「コ」の字型に見つかり、内側と外側がそれぞれ約14センチ、底面が16センチだったという。 
 亀裂は思っていたよりも大きくて、開裂しているといっても良いほどの状態であり、「側ばり」の上部のみが辛うじて無傷であった。 「側ばり」が二分されてしまう直前であるように見える。 
 亀裂した部分は、『図66-3 新幹線車両の駆付輪軸の断面(上)・台車枠(側ばり)と車軸・軸ばねの関係(下)』の下側の図と『図66-8 のぞみ34号13号車の台車』の下側の写真」を比べてみると、おおよその位置がわかる。 応力の集中するコーナー(隅)部分ではなく、「コの字鋼」の真っ直ぐな所である。 
 図43-9 台車の「側ばり」に加わる力 
 赤色矢印:亀裂場所 
 青色矢印:「側ばり」への力 
 上図で、「a」は新幹線列車の車体重さによる力(列車車体重さの四半分に相当する力)である。 「b」、「c」、「d」、「e」は「軸ばね」による力であって、構造上は等しくなるように設計されているはずである。 
 亀裂が生じた「側ばり」の左半分で、力の分布を考えてみる。 「a」と「b」、「c」の力は、「亀裂した部分」に「剪断応力」と「引張応力」を与える。 「a」、「b」、「c」の「ベクトル」が、「a」、「b」、「c」の「作用点」の間で「結ばれた線」に垂直な成分が「剪断応力」であり、平行な成分が「引張応力」である。 この「側ばり」では、この「ベクトル」は、「結ばれた線」に対して垂直に近い。 ここで、「側ばり」の左半分について考えているから、「b」と「c」の力にバランスする力は「a」の大きさの半分である。 下図は、その「a」の半分の大きさの力を「引張応力」と「剪断応力」に分解したものであって、図中に指し示されている「紫色の矢印」の長さが、それぞれの力の大きさである。 
 図43-10 「側ばり」に働く「剪断応力」と「引張応力」 
 青色矢印:「車体重さによる力」と軸ばねによる力「b」と「c」 
 紫色矢印:車体重さによる力を「剪断応力」と「引張応力」に分解 
 この力の大部分は「剪断応力」として働いて、その大きさは「b」と「c」の和に近い値である。 逆に、「引張応力」は、「剪断応力」に比べると、かなり小さい。 この「側ばり」の強度設計は、主として「剪断応力」に対応している。 「側ばり」に「コの字鋼」を使っている所以である。 
 それ故、赤色の矢印で示された位置の「側ばり」部分は、新幹線車両の荷重下で通常に加わっている「引張応力」の程度であれば、「側ばり」の下部から裂きはじめるような亀裂が生じるようなことは考えられない。 
 それでは、どのような場合に、このような亀裂が発生する可能性はあるのか? 
 亀裂が発生した部位には、下部から「軸ばねの支持冠」が「コの字鋼」を包み込むような形で接合されている(『図66-8 のぞみ34号13号車の台車』の下側写真を参照)。 「軸ばねの支持冠」と「コの字鋼」とは、溶接により接合されている。 この溶接部位に微少な傷があったとすると、そこに応力が集中することになるが・・・。 車両重量による通常状態の「引張応力」は大きくないので、応力が集中したとしても、耐えることができる。 
 しかし、それに加えて、上で述べたような上方向への力のモーメントである「ねじり応力」が断続的に働くことがあるとすると、 
 図43-11 台車の「側ばり」に加わる「ねじり応力」 
 青色矢印:「ねじり応力」により加わる「側ばり」への力 
それが、元からあった微少な傷に強度の限界を超える応力が集中し、亀裂が徐々に広がっていく・・・。
 
のぞみ台車 3.9ミリまで削る
川重 設計寸法は8ミリ
 
 図43-12 台車の構造 
 (記事中の図を引用) 
 

 新幹線のぞみ34号(N700系、16両編成)で昨年12月に台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、川崎重工業が不正に削った台車147台のうち、鋼材の底面の厚さが最も薄いものは3・9ミリだったことがわかった。 JR西日本とJR東海が定めた設計上の寸法は8ミリで、半分以下まで削っていた。 溶接部の底面には小さな傷も見つかり、すでに交換したという。 
 JR西によると、同社は亀裂が生じた台車と同型のものを303台保有。 台車枠は「軸バネ座」と呼ばれる別の部品と溶接しており、隙間なく合わせるため、底を薄く削っていた。 設計基準では加工した場合、厚さは7ミリ以上と定めているが、100台は基準を下回っていた。 
 このうち6台は溶接作業で傷が付いたといい、3・9ミリまで厚さが削られた台車も含まれていた。 傷はひび割れや亀裂の可能性があり、現在はすべて取り換えられている。 のぞみ34号の台車は、同じ溶接部分のひび割れが起点となって亀裂が進んだ 
 厚さ7ミリ未満の台車は、JR東海も46台保有しており、最も薄いものは5・3ミリだった。 同社は6・5ミリ未満の台車を優先し、交換を進めている。 川重は製造工程で鋼材を削る加工を原則禁じている。【 波多野大介 】

2018年(平成30年)3月2日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版32面(社会)
 のぞみ34号の台車は、同じ溶接部分のひび割れが起点となって亀裂が進んだという。 そこで、亀裂部分を拡大したものを示す。 
 図43-13 亀裂部分の拡大 
 写真からは、「台車枠」の下端と「軸バネ座」の上面は、一致しているようにも見える。 
 そうであるとすると、 
 設計図上では、「軸バネ座」の上に「台車枠」をそのままに置いて、溶接する構造になっているように思われるので、台車枠は「軸バネ座」と呼ばれる別の部品と溶接する際に、底を薄く削る必要性はなかった。 
 実際の製造時には、工作に伴う「台車枠」底面の変形によって、隙間なく合わせるため、底を薄く削ってしまった。 
ということか。 
 亀裂の部分と溶接部分とは、数センチメートル程度離れているように見える。 溶接部分のひび割れが起点となって亀裂が進んだようには思えない。 ひび割れの起点は、溶接部分ではないようである。 
 では、ひび割れの起点は? 
(1)「台車枠」の底を薄く削る際に"丸み"をつけないで切削して生じた"┐"状の角(エッジ) 
エッジへの応力集中によって亀裂が発生 
(2)不適切な溶接作業により生じた溶接の周辺部分にできた"歪み" 
歪みへの応力によって亀裂が発生 
が考えられる。 作業に従事する労働者の資格の有無を考えると、(1)の可能性が高い。 
 改善策として製造工程で鋼材を削る加工を原則禁じる方針は、簡便ではある。 代替法として、「ハンマー」による成形は、材料表面へのキズの発生(亀裂発生の起点となる)や材料の部分的変形(応力に弱い部分となる)の恐れがあるため、資格なしに安易に実施できる方法であることをも含めて、工作法として取り入れない方がよい。 溶接した後のできあがり寸法を設計図にあわせるために、製造工程で鋼材を「切削加工」や「ハンマー鍛金」によって成形できないとなると、溶接前の「台車枠」の工作に高い精度が求められる。 それでは、高コストな生産方法になる。 
 「切削加工」を一律に禁止することは、どこかに無理が生じてしまう。 それを認めた上で、欠陥が露呈しなければよい。 「切削の深さ」と「切削の形状」を明確に規定し、作業員への教育を通して徹底することである。 ものを削るといった単純な作業資格もいらない工程を、軽んじるべきではない。
 
のぞみ台車の温度
運行中に上昇検知
JR東海 警報基準見直し
 
 図43-14 台車温度検知装置のイメージ 
 (図は朝日新聞デジタルから引用) 
 

 新幹線のぞみ34号(N700系、16両編成)の台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、昨年12月11日の発覚当日、博多で折り返す前の東京からの運行中、神奈川、愛知両県の鉄橋上に設置されているセンサーが台車の温度が上昇していることを検知していたことがJR東海への取材でわかった。 温度は基準値内だったため警報は出なかったが、JR東海は運用を見直して基準値を下げた。 
 JR東海によると、センサーは「台車温度検知装置」。 線路脇と線路下で赤外線を感知して台車内の歯車箱や軸箱の温度を測定する。 神奈川県小田原市と愛知県豊橋市にある鉄橋に設置され、基準以上の温度を検知すると、車両基地にある「分析センター」に警報が示される仕組み。 
 JR東海がのぞみ34号の問題を受けて調べたところ、当日午前の下り運行の際、モーターの回転を車輪に伝える台車内の「継ぎ手」部分の温度が上昇しているのを2カ所で記録していた。 
 のぞみは同日午後、博多で折り返し、東京に向けて出発した直後から異音や異臭などが相次いだ。 しかし、そのまま運行を続け、名古屋駅で台車に亀裂が生じているのが見つかった。 JR西日本は亀裂で台車枠がゆがみ、継ぎ手が変形した状態で高速回転した結果、不具合が起きたとみている。 
 JR東海はこの問題を受け、異常を把握するため、警報を出す基準の温度の設定を低く変更した。 センサーはJR東海が開発し、2015年に導入された。 JR西日本管内には設置されておらず、同社は今後、新大阪―博多間に設置していく方針。【 波多野大介 】

2018年(平成30年)3月7日(水)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版6面(社会)
 のぞみ34号の台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、昨年12月11日の発覚当日、博多で折り返す前の東京からの運行中、神奈川、愛知両県の鉄橋上に設置されているセンサーが台車の温度が上昇していることを検知していたという。 当日午前の下り運行の際、モーターの回転を車輪に伝える台車内の「継ぎ手」部分の温度が上昇しているのを2カ所で記録していた。 「継ぎ手」の潤滑油が焦げる程に過熱していたので、赤外線センサーをもちいた「台車温度検知装置」は、有効に働いたと思われる。 
 「モーター」からの走行動力は、「歯車箱」を通じて「車輪」に伝えられる。 「モーター」は「台車枠」に固定され、「歯車箱」は「車軸を含む走行装置」に固定されている。 「台車枠」と「車軸を含む走行装置」とは、走行時の振動を軽減するために、「軸ばね」を介して結合されている。 「モーター」と「歯車箱」とは、「軸ばね」の伸縮によって、双方の相対的な位置関係が変化してしまうので、直結することができない。 そのため、相対的な位置の変化を吸収するために、「歯車形たわみ継ぎ手」が使われる。 
 強大な動力を伝達するための「継ぎ手」の機構は技術的に工夫されているが、相対的な位置変化が大きくなる程に、その内部で無理な力が加わってしまう。 JR西日本は亀裂で台車枠がゆがみ、継ぎ手が変形した状態で高速回転した結果、不具合が起きたとしているのは、このためである。 しかし、「側ばり」に亀裂が発生したとき、それによる相対的な位置の変化量は、走行時にレールとの間で生じる振動を吸収する「軸ばね」の伸縮量に比べて、僅かなものであろう。 
  亀裂で台車枠の部分にゆがみ
    ↓
  継ぎ手が変形
    ↓
  高速回転によって
    ↓
  継ぎ手の加熱など不具合が起きた
との流れには、無理がある[→(*1)]と。 
 台車枠の亀裂が生じたとしても、それだけでは、「継ぎ手」部分の温度が上昇することはない・・・ (*2) 
 『「台車温度検知装置」は、不必要である』と言っている訳ではない。 「台車温度検知装置」を使って台車内の歯車箱や軸箱の温度を測定することは、それらの不具合を発見するために有効である。 だが、『「台車温度検知装置」で、台車に生じた破断寸前の亀裂が見つかるということには、ならない』ということである。

(*2) この「台車枠の亀裂」と「継ぎ手部分の過熱」が生じた一連の流れは、 
  継ぎ手の噛み合わせに異常(継ぎ手内部のスプリング不良や取り付け不具合などに起因)
   │←併行して→│
   ↓      │
  継ぎ手の過熱  │
          ↓
  回転する「継ぎ手」に大きな伝達抵抗
          ↓
  「継ぎ手」の前後にある「モーター」と「歯車箱」との間に、大きなモーメント力
          ↓
  「台車枠」に繰り返しの「ねじり応力」
          ↓
  「台車枠」の亀裂が拡大 
であると思っている。

 
ルール違反の「削り」で強度不足に
のぞみ亀裂で報告書
 
 図43-15 運輸安全委員会の報告書のポイント 
 (図のみ引用) 
 

 新幹線「のぞみ34号」で昨年12月、台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、国の運輸安全委員会は28日、調査経過の報告書を公表した。 製造時に台車の外枠の底面が削られ強度が不足し、さらに別の部品の熱処理加工が不適切だった影響で、金属疲労による亀裂が広がった可能性があると指摘した。 
 また、走行データ記録装置の解析から、トラブル発生の前日には亀裂がある程度広がっていたとみられることも指摘した。 
 報告書によると、川崎重工業が台車を製造した際、外枠の底面が膨らみ、「軸ばね座」という板状の部品を取り付けにくくなる問題が起きた。 対処のため、作業ルールに反して底面が削られ、設計では7ミリ以上とされていた厚さが最も薄い部分では4・7ミリになり、強度が不足した。 
 また、「軸ばね座」を台車外枠の底面に取り付ける作業の際に、底面の金属内部に小さなひびが生じていた可能性も判明。 このひびが亀裂の起点となったとみられる 
 さらに、「軸ばね座」自体を加工する過程で、必要な熱処理が施されていなかった疑いも浮上。 溶接部をはがすような力が加わり、亀裂の発生や広がりに影響した可能性があるという

2018年(平成30年)6月28日(木)11時50分
朝日新聞デジタル
 「「軸ばね座」自体を加工する過程で、必要な熱処理が施されていなかった疑いも浮上。 溶接部をはがすような力が加わり、亀裂の発生や広がりに影響した可能性があるという」という。 
 その大元の原因は、「軸ばね座」を台車外枠の底面に取り付ける作業の際に、底面の金属内部に小さなひびが生じていた可能性も判明したということで、このひびが亀裂の起点となったとみられるとしている。 
 取り付ける作業の際に、底面の金属内部に小さなひびが生じていた可能性があるとされているが、作業の際に、底面の金属(の表面ではなくて、その)内部に小さなひびができたという推測を認めることは難しい。 「金属内部の小さなひび」の存在を認めるとすると、それは加工前の材料に潜在していたとする方が、自然であるが・・・。 そもそも、『図66-15 運輸安全委員会の報告書のポイント』の「赤丸」で示されているようなところに、「ひび」があったのか?  別の場所では、都合が悪いのか?  
 この記事で言及されている「溶接作業後の熱処理加工が不適切だった影響によるもの」を考えてみよう。 それを、下図に示す。 
 図43-16 溶接後の焼き鈍し不良による歪応力 
 右の四角形で囲まれた図の赤色矢印:歪応力(溶接部分を反らせるように働く力) 
 2つの部品を溶接するとき、溶接時の加熱によるそれぞれの部品の温度上昇は、その大きさや熱伝導の善し悪しによって違ってくる。 大きい程、熱伝導の良いもの程、温度上昇は小さくなる。 したがって、2つの部品の溶接時の温度は違っていて、そのときの熱膨張量は違ってしまうが、その膨張した状態で溶接・固着する。 溶接後に、部品の温度が下がると、2つの部品は、それぞれが元の大きさに収縮しようとする。 しかし、双方が固着しているので元の状態には戻れない。 それによって、溶接部分を境にして、それぞれの部品の内部に「歪応力」を持ってしまう。 溶接時の温度が低い方は相手の部品から「圧縮応力」を、高い方は「伸張応力」を、受け続けることになる。 焼き鈍しが不良であると、この内在している「歪応力」によって、何らかのショックをきっかけにして、材料に「ひび」が生じることになると考えられる。 
 しかし、内在している「歪応力」は、溶接した線に沿って全体に均一に分布していて、特定の場所に局在している訳ではない。 「応力」が局在していれば、そこで「ひび」を引き起こす程に「応力」が大きくなる可能性があるが、そうでないとすると・・・。 
 左側の記事の図のようなことで「ひび」が生じたとすると、溶接部分に近接した場所を起点としてひび割れていくはずである。 状況証拠としては、『図66-13 亀裂部分の拡大』に示されているように、実際に「ひび」が生じた場所は、溶接した箇所から離れている。 記事にあるような原因の推測には、科学的に納得できないものがある。 
 筆者が想定している「ひび」が生じた原因は、のぞみ台車 3.9ミリまで削る 川重 設計寸法は8ミリなどで詳述しているのであるが、以下に示す。 
 「台車枠」を作製する工程で、その底面が平面でなければならないところが、変形が生じてしまった。 その「台車枠」は、「軸バネ座」の上に設置して、溶接・固定することになっている。 「台車枠」底面が変形していることによって、溶接後のできあがり寸法が超過するため、「軸バネ座」と接する「台車枠」の底面部分を削ることにした。 「台車枠」の底面をみると、「軸バネ座」と接する削ってしまった部分と、元のままの(削っていない)部分があって、その境目に生じた"┐"状の角(エッジ)ができてしまう。 そのエッジへは、応力が集中するから、ショック(このショックの発生過程についての推論はここ)により亀裂が生じることになった。 亀裂の発生箇所が、その境目であることが、亀裂部分の拡大写真から確認できる。

 
 
JR回送列車
台車10センチひび
ワイドビュー南紀運休
 図43-17 台車10センチひび 
 (記事の配置を変更) 
 
2018年(平成30年)1月22日(月)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版34面(社会)
 
 
JRの回送列車
台車のひび20センチ
同型車両は異常なし
 図43-18 JRの回送列車 台車のひび20センチ 
 
2018年(平成30年)1月24日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版30面(社会)
 「JR新宮駅(和歌山県新宮市)で回送列車の台車にひびが見つかった問題でJR東海は23日、ひびは長さ20センチ、幅5〜7ミリだったと発表した」という。 
 そのひびが入った「軸箱体」を含む「軸箱支持装置」の概要を、「鉄道車両Tips」(閲覧『http://railcartips.taka84a.jp/』)にある「13. ボルスタレス台車とは? 台車の構造と主な部品のメカは? 台車だ行動とは?」(閲覧『http://railcartips.taka84a.jp/kaisetu/truck/truck.htm』)に掲載されている図の一部を改変して、下に示す。 
 図43-19 「軸箱支持装置」と「ひび」の発生箇所 
 (「13. ボルスタレス台車とは? 台車の構造と主な部品のメカは? 台車だ行動とは?」 
  (閲覧『http://railcartips.taka84a.jp/kaisetu/truck/truck.htm』) 
  筆者により改変) 
 2個1組の「軸ばね」が負担している力は、平均して、1両の列車重量の8分の1である。 その8分の1の力が「軸箱支持装置」に働いている。 この力を「軸受」が支えている。 その様子を、下図に示す。 
 図43-20 「軸箱支持装置」に働く力 
 黄色部分:「軸箱体」を含む「軸箱支持装置」 
 赤丸内部:「軸箱体」に生じた「ひび」の発生箇所 
 青色矢印:「軸ばね」から「軸箱支持装置」に働く力 
 紫色矢印:「車軸」から「軸箱体」内部にある「軸受」に働く力 
 「車軸」からベアリングを経て「軸受」に働く力が、「軸箱体」の上端に加わる。 「軸箱体」の上半分では、上下方向の「引張応力」が掛かっている。 「引張応力」であるので、それに対処する構造の設計は、「剪断応力」などが働く構造体に比べると、単純である。 左側の写真のように、「軸箱体」上部の構造がそれになる。 
 しかしながら、「軸箱体」を含む「軸箱支持装置」の設計には、見逃せない困難な点がある。 「台車側ばり」などの場合では、レールとの間で生じる振動が「軸ばね」によって緩衝されてしまうので、鋭く強い振動が及ぼす影響を考慮する必要はない。 しかし、「軸箱支持装置」は、走行中にレールと車輪との間で生じる衝撃的な振動を、そのまま受けることになる。 もし、「軸ばね」の上部の部分に製造時にできた”す(鬆)”があったとすると、引張応力に充分に耐えられる構造であるとしても、繰り返しの激しい振動によって、”す”が拡がっていくことになる。 
 そのための対処法は、 
(1)製造時に、「軸箱体」内部の検査を厳密に実施して、微細な”ひび”がないことを確認する。 
(2)運用時に、頻繁な「打音検査」を実施(*3) して、構造体内部の”ひび”の有無を検査する。 
ことである。

(*3) 「打音検査」ではなくて、新幹線で使われている「磁粉探傷検査」や「渦流探傷検査」、「超音波探傷検査」をおこなうようなことが報道されている。 磁粉探傷検査は、磁気を帯びた粉を表面に振りかけて微細な傷を見つける方法であって、表面にあるキズの発見に有効である。 磁性粉の振りかけ方と目視による観察に技量が必要である。 渦流探傷検査法は電気的な測定法であって、キズの有無がオシロスコープ上に波形として示される。 検査員の技量に左右され難い。 電磁誘導による材料表面での渦電流の発生を利用しているので、材料の「表面」か「極々浅い位置」にあるキズの検査には有用であるが、材料深部の検査に使うことは原理的に不可能である。 超音波探傷検査は深部にあるキズの発見に有効である。 
 「磁粉探傷検査」と「渦流探傷検査」は表面のキズに有効な検査法であって、内部にあるキズには使えない。 
 「渦流探傷検査」と「超音波探傷検査」は検査のために機器を使う必要上、狭隘な場所での検査が困難になってしまう欠点がある。 
 検査に科学的な方法が使われていなかった昔々からの「打音検査」は、今でも、有効である。 高価で狭い場所での使用が困難な検査装置の代わりに、ハンマー1つを使って素早く検査できてしまう。 検査員に技量が要求されるとしても・・・。 「職人技」が生きている世界でもある。

 
 
回送列車のひび
台車の空洞原因
JR東海 製造時に発生
 図43-21 回送列車のひび 製造時に発生 
 
2018年(平成30年)2月6日(火)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版6面(社会)
 
JR紀勢線の台車ひび、原因は鋳造時の空洞 JR東海が発表

 JR紀勢線の列車の台車部品に約20センチのひびが見つかった問題で、JR東海は6日、調査の結果、鋳造時に部品内部にできた空洞に力が加わり、ひびが発生したとみられると明らかにした。 空洞ができた理由は不明で「調査中」としている。 
 JR東海によると、ひびがあった部品は、車輪を安定して回転させるため、車軸の両端を囲い込むように設置されている「軸箱体」。 溶けた鉄を型に流し込む製造過程で内部に幅約11ミリ、高さ約3ミリの空洞ができ、走行時の振動や車体重量でひびが生じたとみている。(中略) 
 ひびが見つかった軸箱体は2009年に製造されたが、同社はその前後に同じメーカーが製造した軸箱体のエックス線検査を18年中に行う。 4月までに暫定的措置として、軸箱体に金属板を取り付けて補強するという。(後略)

2018年(平成30年)2月6日(火)13時51分
日本経済新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
JR東海
製造時の空洞が原因 紀勢線・台車部品破断
 図43-22 軸箱体にできた亀裂 
 (記事中の図を引用) 
2018年(平成30年)2月6日(火)13時52分
毎日新聞 Web版
 事故から2週間、その原因が報道された。 
 製造時にできた台車内部の空洞から亀裂が発生したとのことである。 それによると、軸箱体の内部に幅11ミリ、高さ3ミリの空洞があって、それは2009年の製造過程でできたものだという。 この空洞に振動や荷重で力がかかり、亀裂が生じたようである。 
 なお、事故より1週間ほど前の1月15日に行った目視検査では異常はなかったとしている。 
 「製造時の空洞」と「定期的な目視検査」のいずれも、すり抜けたことになる。 「製造時」と「運用時」の検査を適切に実施しておれば、防げたものであるが。 
 製造時にあった幅11ミリ、高さ3ミリの空洞が見逃されていたという。 この部品は、溶けた鉄を型に流し込むという「鋳造法」でつくられている。 鋳造品は炭素含有量が多くて、結晶化した黒鉛の存在によって脆くなってしまう。 結晶化黒鉛の細粒化によって脆性を改善することができるが、それには高い技術力が必要である。 往々にして、「す(鬆)」が入ってしまう。 そのため、その前後に同じメーカーが製造した軸箱体のエックス線検査をおこなうという。 
 エックス線検査は効果的な検査法であるが、鉄製品はエックス線が透過しにくいために、高エネルギーのエックス線を大量に照射しなければならない。 高エネルギー(波長が短いこと)で大量(線量が多いこと)のエックス線を使うので、検査員がエックス線を被爆しないように、防護を完全にしなければならない。 車両に組み込まれてしまった部品をエックス線検査することは、容易ではない。 
 ひびが入った軸箱体とその断面の写真が公表された。
 
 図43-23 軸箱体にできた亀裂の断面 
2018年(平成30年)2月6日(火)18時49分
名古屋テレビ Web版から引用
 上の写真は、左側が車軸中心方向、右側が車体外側方向である。 この写真を撮影した方向は、『JRの回送列車 台車のひび20センチ 同型車両は異常なし』の記事にある『図66-18 JRの回送列車 台車のひび20センチ』において、左側から「右方向」に向かって撮ったものである。 『図66-22 軸箱体にできた亀裂』の写真と左右が逆で、その写真で「メジャー」が置いてある方の断片である。 空洞があった所は、「車軸中心側」の「内部」にある突起部分である。 車軸中心側の突起は、車両の外部から見ると「軸箱体」の裏側になってしまうので、運用時の検査では、車体の下に潜り込んでチェックしなければならない場所である。 しかも、直接見ることができる外側ではなくて、内部であるから、目視でのチェックはかなり困難である。 
 亀裂の原因であるとされる「す(鬆)」とみられる空洞があった場所は、「リブ」のところであった。 この場所の空洞から亀裂が拡がってしまったということに、違和感がある。 何故なら、この場所での応力は大きくないから。 この空洞に原因究明の注意が集中すると、ひょっとすると、本当の原因を追求するための筋道から遠ざかってしまうかも知れない。 
 このリブ部分に空洞があったということは、これ以外の別の場所にも「す」が存在していた可能性がある。 その場所は、大きな応力が加わっていたところであろう。 そこから徐々に亀裂として伸びていったと・・・。 それについては、『図66-23 軸箱体にできた亀裂の断面』の「切断面」を見ると、素人目にも、鋳造特有の「不均一な材料構造」が認められる。 専門家が、切断面を子細に観察すれば、破断が始まった位置を見出すことができよう。 
 いずれにしても、『図66-23 軸箱体にできた亀裂の断面』に指摘されている「空洞」が(本質的な事故原因であるかどうかとは別にして)「車両製造時の製品検査」でも、あるいは、「運用中の定期検査」でも、そのときに存在していたはずのものが見い出されていない。 列車重量を支える重要な部分が、このような製造法でつくられ、製造時や運用時での目視などによる検査で欠損が見逃され、それで安全運行を保証しているとは、信じられないことである。
 

(44)放置された指摘と拙速な対応策の狭間で
 
大阪大採点ミス
外部からの指摘、3度目で認める

 大阪大は6日、昨年2月に実施した一般入試(前期日程)の物理で、出題と採点にミスがあったと発表した。(中略) 
 大阪大によると、昨年2月25日に行われ、特別入試も含めた3850人が受験した物理の試験で、音の伝わり方に関する問題を出題。 ミスが見つかった最初の設問で、本来は三つの正答があるにもかかわらず、正解を一つに限定していた。 さらに次の設問は、この解答を前提に作成されていたため、別の二つの解答では正解を求められなくなっていた。(後略)【 鳥井真平、池田知広 】

2018年(平成30年)1月6日(土)18時18分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
大阪大、昨春入試で出題と採点に誤り 30人追加合格に

 大阪大は、昨年4月入学の受験生を対象に同2月に実施した一般入試前期日程の理科(物理)で出題と採点に誤りがあり、本来合格とするべきだった受験生30人を不合格にしていたと6日、発表した。 30人を新たに合格とし必要な補償をする。 昨年6月以降、複数回にわたり外部からミスを指摘されたが対応が遅れた。(後略)【 沢木香織 】

2018年(平成30年)1月6日(土)20時39分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 昨年2月に実施した一般入試(前期日程)の物理で、出題と採点にミスがあり、昨年6月以降、複数回にわたり外部からミスを指摘されたが対応が遅れたという。 出題のミスは「本来は三つの正答があるにもかかわらず、正解を一つに限定していた」ということである。 
 三つの正答があるというように、正答として複数解が存在する場合がある。 例えば、 
(1)数学での「ピタゴラスの定理」の証明:これには数多くの証明が発表されている。 
(2)化学での「アルコール」の合成法:発酵法から工業的合成法まで多様な方法が存在する。 
などがある。しかし、正答は1つに限られている場合もある。 
(1)数学での「二次方程式」の解:正しい2つの(複素数を含む)数値をもって正答とする。 
(2)化学での「燃焼熱」の計算:1グラムの黒鉛の燃焼熱は一定条件下で一意的に決まる。 
などである。 
 そこで、当該問題の解答を試みて、本来は三つの正答があるような問題であったかどうかを、検証してみる。 「問題」に示されている図を、以下に示す。 
 図44-1 平成29年度大阪大学一般入試(前期日程)等の理科(物理) 
 (問題[3]問4の「図3」を引用) 
 上図で、「軸の正の方向に音叉の位置を少しずつ変えながらマイクロフォンで観測すると、音の強さが周期的に変動した。 マイクロフォンで観測された音が強くなるときの、音叉と壁の間の距離と音の波長 λ との関係を表せ」ということである。 このとき、「必要であれば、自然数として=1,2,3,・・・)を用いてよい」という。 
 これに対する大阪大の「当初の正答」と、指摘を受けての「検討後の正答」を、下に示す。 
《補足資料》
 図44-2 公表資料(部分) 
「平成29年度大阪大学一般入試(前期日程)等の理科(物理)における出題及び採点の誤りについて」(閲覧『http://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2018/01/files/Public%20information』)
 先ず、検討後に、新たに「正答」の1つであるとされる 
  λ 
について、考えてみる。 
  のすべてを検証することは困難であるので、=1 と =2 について、図で示す。 なお、音波は縦波(疎密波)であって、固定端ではそのまま反射する(「密」でぶつかると「密」で反射し、「疎」では「疎」で反射する)(*1) 
 図44-3 2λ について、=1 と =2 のときの音波の伝搬 
 (疎密波の「密」部分を表示) 
 青色:「音叉」からの直接の音波 
 赤色:「壁」で反射した音波 
 この図で、横軸は左端の「壁」からの距離を表し、その距離は図中に示す波長 λ の大きさを基にして知ることができる。 縦の段のそれぞれで、『音波の「密」部分の存在位置』と『音波の進行方向』を示している。 青色は「音叉」から出た音波を、赤色は「壁」で反射した後の音波を示している。 それぞれの段は、一定の時間間隔で描かれている。 時間間隔は、音波が「その波長の4分の1の距離を進む時間」である。 その時間は、λ/(4) 秒である。 ここで、 は音速である。 
 最上段は、時間「零」の状態で、「音叉」が発音し始めた瞬間で、そのとき、音波の「密」部分が「音叉」から左右に離れていこうとしている。 
 2段目は、λ/(4) 秒後で、音波の「密」部分が「音叉」から波長の4分の1だけ左右に離れている。 
 3段目は、λ/(4)×2秒後で、音波の「密」部分が「音叉」から波長の半分だけ左右に離れた状態であり、左側の図では壁にぶつかって反射する瞬間である。 
 このようにして時間の経過とともに音波が伝搬していくと、「音叉」から右方向に出た音波の「密」部分と、反射した音波の「密」部分が、重なってしまうことが分かる。 
 上図には =1 と =2 の場合について描いてあるが、=3 以上でも同様になる。 
 さて、このとき、=0 でも成り立つか。 「音叉」が壁際にあって、「音叉」から右方向に出た音波は、壁に反射したものと重なって、強い音になる。 音波が強くなる条件を満たしていることになる。 問題なのは、「音叉」が =0 である状態は、物理的に可能か否か。 壁際から見て音波の波長に比べて無視できるほど小さい距離に「音叉」を置くことはできるとすると、=0 は可能である。 その場合には、自然数であるとする条件から、 =(−1)λ とすべきである。 
(1)壁からの距離 =0 に「音叉」を置くことは、「音叉」には大きさがあるという理由で、物理的に不可能であるという立場からは、 
  λ
(2)音波の波長に比べて無視できるほど小さい距離になるように、壁際と「音叉」を近づけることができるので、そのときには =0 と見なせるという立場では、 
  =(−1)λ
  
 ただし、このように立場によって複数の解答が可能な設問は、その解答方法を試す(場合分けの能力を検査する)意図がない限り、不適切である。
 さて、当初、「正答」であるとされた 
  =(−1/2)λ 
について、正否を検討してみよう 
  のすべてを検証することは困難であるので、=1 と =2 について、図で示す。 
 図44-4 2=(−1/2)λ について、=1 と =2 のときの音波の伝搬 
 (疎密波の「密」部分を表示) 
 青色:「音叉」からの直接の音波 
 赤色:「壁」で反射した音波 
 上図の横軸と縦の段については、『図67-3 2λ について、=1 と =2 のときの音波の伝搬』と同様である。 
 図から、「音叉」からの直接の音波の「密」部分と、反射してきた音波の「密」部分の重なりは、まったくない。 
 反射してきた音波の連続する2つの「密」部分を組にすると、その組の「中心位置」での音波は「疎」である。 その「疎」部分では、「音叉」からの直接の音波の「密」部分が、重なっている。 したがって、より正確にいえば、一方の音波が「疎」である場所では他方の音波は「密」に、一方の音波が「密」である場所では他方の音波は「疎」になっている。 両者の音波は、互いに打ち消し合っていることになる。 
 =(−1/2)λ の式は、『マイクロフォンで観測された音が強くなるときの関係』ではなく、それとは逆の『マイクロフォンで観測された音が「消えてしまう」ときの関係』を示していることになる。 
   下記の式は当初から「正答」とされ、その後の検討で示された3つの「正答」のうちの1つとされている。しかし、この式が「正答」であるという決定には、肯けない。 
  =(−1/2)λ
 当該問題が「本来は三つの正答がある」ような問題であったかどうかをそれを解いて検証した結果、次のような結論に至った。 
(1)問題の設定に不備があるため、下記の2つの式が「正答」になり得るように思われる。正確には、壁からの距離 =0 に「音叉」を置くことができるか否かの立場によって、それぞれに「正答」となる関係式が存在する。 
 =(−1)λ(可能と判断した場合) 又は λ(否の場合)
(2)下記の関係式 
 =(−1/2)λ 
は「音叉」から直接伝搬してくる音波と、壁で反射した音波とが、マイクロフォンで観測されるときにその音が互いに打ち消し合っているときに成り立つ式である。問題では、マイクロフォンで観測された音が強くなるときの関係式を尋ねているのであるから、この関係式が「正答」には成り得ない。
(3)物理のこの手の問題に複数の「正答」が示される場合には、「出題ミスが存在する」という可能性が高い(1)に示したように、少なくとも2つの正答とされる解が存在しているが、三つの正答があるという数字には納得できない。
 『「=(−1/2)λ の関係式が、当該問題の採点当初からの「正答」であって、検討した後においても「正答のうちの一つ」であると決定したことによって、高校の物理教育を混乱させることになる』かも知れないことを、このような判断をした大学は自覚すべきである・・・。

(*1) 空気中を伝搬する疎密波である音波が、壁に「密」でぶつかると「密」で反射し、「疎」では「疎」で反射する 
 音波が”壁で”反射する際の様子を、空気中の粒子(窒素分子や酸素分子など)の動きで説明する。 
 下図で、粒子を「丸」で示している。 疎密波の「密」部分は、圧力が高い状態で、それは「単位体積当たりの粒子の数」が多いことを意味している。 「疎」部分は、圧力が低い状態で「単位体積当たりの粒子の数」が少ないことを意味している。 青丸は音波として伝わっていくときの反射前のある瞬間での粒子の動きを、赤丸は反射後のある瞬間での粒子の動きを表している。 
 図44-5 音波が壁で反射する様子を粒子のレベルで 
 衝突反射する前の粒子の位置と速度は「薄青色」、 
 その時から一定時間後の反射後の粒子のそれは「濃青色」 
 左側:音波の「密」部分の反射(「密」は「密」として反射) 
 右側:音波の「疎」部分の反射(「疎」は「疎」として反射) 
 図の左側は、音波の「密」部分が反射している状態で、粒子が「密」の状態を保って、右方向に反射していく。 右側は「疎」部分であって、「疎」の状態のままで右方向に反射していく。 
 なお、音波が”開口端で”反射するときについても、空気中の粒子の動きで説明する。 
 下図で、音波として伝わっていくときの反射前の粒子の動きを青丸で、反射後の粒子の動きを赤丸で示している。 
 図44-6 音波が開放端で反射する様子を粒子のレベルで 
 反射の直前の時刻に存在する粒子の位置と速度は、 
   開放端外に向かって行く粒子のそれは「濃青色」、 
   開放端外から端内に向かって来る粒子のそれは「薄赤色」、 
 反射して一定の時間後に存在する粒子の位置と速度は、 
   開放端外へ出て行った粒子のそれは「薄青色」、 
   開放端内に入って来た粒子のそれは「濃赤色」 
 開放端外に出て行く粒子が「密」であれば、 
   隙間が少ないので、開放端内に入って来られる粒子は「疎」に、 
 出て行く粒子が「疎」であれば、 
   その多くの隙間を埋めるように、入って来る粒子は「密」になる。 
 左側:音波の「密」部分の反射 =「密」のときは「疎」になって反射  
 右側:音波の「疎」部分の反射 =「疎」のときは「密」になって反射  
 図の左側は、音波の「密」部分が反射している状態である。 ”開口端で”あるので、(音波として)反射前の青色の粒子は、外部へ(左の方向へ)飛んでいく。 開口端から外部へ飛び去っていくことによる粒子の減少を埋め合わせるように、外部から粒子が入り込んでくる。 その量は、この開口端での圧力は音波の「密」部分であって元々高い状態であるので、少ない。 その少ない粒子の状態が、反射波として(図の赤丸で示さるように)右側に移っていく。 反射波のこの部分は、音波の「疎」部分である。 
 図の右側は、音波の「疎」部分の反射である。 開口端での圧力は、音波の「疎」部分であって、元々低い。 そのため、多くの粒子が外部から入り込んでくる。 その粒子の多い状態が、反射波として(図の赤丸で示さるように)右側に移っていく。 反射波のこの部分は、音波の「密」部分である。 
 このように、音波は”開口端に「密」の部分が到達すると「疎」として反射し、「疎」では「密」として反射することになる。 
 音波の反射では、位相の反転が、電磁波(光など)の場合とは逆になる。 「参考書」などで、『音波の”壁で”の反射は、位相が反転しないという理由から、”自由端”の反射である』との記述が見られるが、「自由端の反射」は電磁波に限定して使うべきである。 ””が”自由端”という空疎な境界であるという表現は、非科学的な用法であるから。 音波の”壁で”の反射は、位相は反転しないが、”固定端”での音波の反射である。


[蛇足] 
 この=(−1/2)λ の式を、当初に、「正解」であると誤解してしまった遠因は、「電磁波」の場合と混同したのかも知れない。 「電磁波(横波)」が固定端で反射する場合は、位相が反転することから・・・。 
 または、「音波(縦波)」で「この式が正解になる」ような実験条件は、非常に長い開管したパイプ内に「音叉」などを設置した場合である。 「自由端での反射で、音波の位相は反転する」から。 
 そのつもりの設問が、何らかの都合によって「開けた場所での実験空間」に変えられてしまったので、壁による反射に変更・・・。
 
平成29年度大阪大学一般入試(前期日程)等における
理科問題(物理)[3]Aの解説

[概要] 
2.3 同位相振動モードでの干渉 
 同位相振動モードで振動している場合、音叉からマイクロフォン側と壁側の両方に向かって、疎密が逆位相の音波がそれぞれ進行していることになる。 このとき疎密でみれば左右で逆位相の波だったものが、変位でみたときには同位相の波になる。

 図44-7 逆位相振動モードと同位相振動モードでの音叉の腕の動き 
平成30年1月12日
大阪大学 ニュース&トピックス
理科問題(物理)[3]Aの解説(1月12日追記)
 「音叉が同位相振動モードで鳴っているときには、干渉して強め合う条件は =(−1/2)λ となる」という。 
 今までの議論を踏まえると、上記にある同位相振動モードであれば(*2)、このことは容認できる。 
 同位相振動モードで音叉から出る音波の「疎密」の分布を、下図に示す。 
 図44-8 同位相振動モードでの音叉から発出される音波の粗密の分布 
 「密」部分と「疎」部分が音叉の左右からから出てくるタイミングは、半波長だけズレている。 そのことを考慮して、=(−1/2)λ について、=1 と =2 の場合を下図に示す。 
 図44-9 同位相振動モードでの振動に基づく 2=(−1/2)λ のとき 
 =1 と =2 の音波の伝搬 
 (疎密波の「密」部分を表示) 
 青色:「音叉」からの直接の音波 
 赤色:「壁」で反射した音波 
 「音叉」から右方向に出た音波の「密」部分と、反射した音波の「密」部分が、重なってしまう。 上図には =1 と =2 の場合について描いてあるが、=3 以上でも同様になる。 

(*2) 大阪大学の解説資料には、音叉が同位相振動モードでも鳴ることが「Russell, D. A., American Institute of Physics (2000)」に掲載されていることが紹介されている。 ただし、そのことを知っている受験生はほとんどいないと思われる。 
 この物理入試の リードとなる設問である「問1」を考慮すると、「逆位相振動モード」での音叉の振動に基づく解答を誘導していると理解するのが、自然である。 

   
 「問1」において、受験生は「逆位相振動モード」における音波の「密」部分と「疎」部分について、解答を求められている。 その以降の設問で、逆位相振動モードによって答えられた正しい解を、正答とする。
   =(−1)λ(音叉の壁際への設置が可能と判断した場合)
   λ(否の場合) 
       ↓ 
 学習に熱心な生徒が音叉の「同位相振動モード」を知っていて、その生徒を救済するために、同位相振動モードでの正しい解答をも、正答にする。
   =(−1/2)λ  

の流れであったならば、素直に納得できるのであるが・・・。 

 
京大入試、物理に「解答不能」…予備校講師指摘

 京都大(京都市)が2017年2月に実施した一般入試の物理の問題について、「条件が不足しており、解答不能ではないか」などの指摘が出ていることがわかった。 
 京大は解答例を公表しておらず、対応を検討しているという。 
 京大に出題ミスの可能性を指摘しているのは、東京都杉並区の予備校講師・吉田弘幸さん(54)。 大阪大の昨年2月の入試についても、物理の出題ミスを8月に阪大に伝えていた。 
 吉田さんは今月19日に京大にメールを送り、音波の反射に関する問題の疑問点を示した。 移動する音源から出て壁に反射した音が、元の音と弱め合う条件を求めさせる問いについて、「音源と聞く人の位置関係、音波の性質など、解答を決めるための条件が不足している。 受験生全員を正解にすべきだ」と話す。 20日には文部科学省にも調査を求めるメールを送った。 
 この問題は、大手予備校がインターネット上で公開している解答速報や、大学入試の過去問題集でも解答が割れている。(後略)

2018年(平成30年)1月21日(日)08時43分
読売新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
 
京大入試ミス
17人追加合格
物理で正答選べぬ問題
 図44-10 京大入試ミス 物理で正答選べぬ問題 
 
2018年(平成30年)2月2日(金)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版1面
 京都大学の入学試験でも、大阪大学の物理と同じ分野である「音波」に関して、入試ミスが報道された。 これが、ミスであるかどうかを、検討してみる。 
 東京都杉並区の予備校講師・吉田弘幸さん(54)音波の反射に関する問題の疑問点を示した。 移動する音源から出て壁に反射した音が、元の音と弱め合う条件を求めさせる問いについて、「音源と聞く人の位置関係、音波の性質など、解答を決めるための条件が不足している」という。 
 その問題の一部を、下に示す。 
 図44-11 物理問題V(4) 
 この問題に付されている図を、筆者による赤色の書き込みを添えて、下に示す。 ここで、 は、音波が車Sから発して壁で反射して車Sの位置に達するまでに要した時間である。 この間に、車Sは Ut の距離だけ進んでいる。 
 図44-12 物理問題V 図1 
 赤色:筆者による書き込み 
 車Sから発出して壁での反射を経て車Sに届く音波の伝搬距離を とすると、 
    = 2 ((Ut/2))1/2 
である。 この距離は、時間 に音波が進む距離である ct に等しい。 
   2 ((Ut/2))1/2ct 
 これから を求めると、 
    = 2/()1/2 
が得られる。 音波の伝搬距離 は、 
   ct 
     = 2cL/()1/2 
 ここで、音源は「点音源」であると仮定する。 このような仮定をおくのは、一般的に、(高等教育(大学などの)課程での「物理学」の諸現象は微分方程式などを使って解くことになるが、中等教育(高校など)でのレベルを超えることがないように)高校の「物理」では、「質点」とか「点光源」などの仮定を用いて、物理教育における煩雑さを回避している。 この音波の問題においても、「点音源」の仮定を明記しておけば、入試ミスといわれる疑い(*3) の1つが消滅するはずである。 「点音源」であれば、音波は、静止した均質な媒質中を、等方的に伝搬するから。 一般的な高校卒業レベルの受験生においては、仮定の明記がなくても、点音源として解答すると思われるが・・・。 
 この仮定の下で、車Sの位置で音波が弱められる条件は、壁での反射であるから、伝搬距離 が「波長の正整数倍 − 半波長」(または、「波長の非負整数倍 + 半波長」)のときである。 問題の中で「=0、1、2、・・・」と、非負整数を表しているから、 
    = (+1/2)λ  
となる。 ここで、λ は音波の波長である。 λ は、 
   λ =  
であるから、 
   cL/()1/2 = (+1/2) 
  を求めると、 
    = ()1/2/(2) ×(+1/2) 
となる。 
 さて、音波のような疎密波(縦波)の場合では、固定端で、位相は反転しない。 ところが、電磁波などの横波の場合には「固定端 = 位相が反転である。 音波ではなくて、光の反射を同じ条件で解くと「波長の正整数倍+1)λ )」となるが・・・。 
 問題中に、「壁Mでの空気中の音波の反射条件は固定端反射とみなすものとする」とあるが、これは音波(縦波)であって、「固定端 = 位相は非反転」である。 状況を無視して、呪文のごとく「固定端 = 位相が反転」と言い募ることは、非科学的である。 京大は解答例を公表しておらないので、正答がどちらであるかは不明であるが、音波が非反転の状態で反射したときの解(「せ」の解答が「@」である)が「正答」とされているならば、この点については、入試ミスではない。

(*3) この入試問題において、予備校講師などによる音源が厳密に定義されていないという指摘は、音波の伝わる方向によって疎密の位相が異なる「音叉」などの「異方性の音源」のときに有効である。 このような指摘は、大阪大学の入試問題で「音叉」を扱っていて、その影響を受けていると思われる。 同じ年度の入試で「音叉」に関する出題がなされたことにより、「等方性ではない音源」の存在が目立ってしまったから。 同時期におこなわれた入学試験であるから、「音叉」などの異方性の音源の存在は、大抵の受験生の頭には、浮かばなかったに違いないとしても、「等方性の音源」であることを問題文中に明記すべきであったとするのは後知恵か。 
 「音源と聞く人の位置関係」については、音の振動数 が具体的に与えられていないので仮定の話になってしまうが、現実的には、波長 λ は数十センチメートルから1メートル程度である。 すると、運転手Dと「音源」との距離が10センチメートル以上も離れていると、指摘は正当である。 「両者は同じ乗り物に属している関係」としただけでは、1メートル以上離れている可能性がある。 問題文作成者は、音波の各要素を記号 などで与えている一方で、実在の車や運転手を持ち出してしまって、「記号」と「実在のもの」との整合性を取らなかったに違いない。 「運転手に限りなく近接した音源」とすることは、必須であった。 
 「音波の性質」が不明確であるとしているが、これについては、音波の性質は唯一無二であって、音波が持っている性質を問題文中で特定することは不必要である。 
 双方の大学の出題分野の不幸な一致がなければ、問題文の作成に細心の注意を払っていれば、この事例は「入試ミス」にはならなかったかも知れない・・・。

 

(45)安易な施工で厄災を招いた?
 
大阪震度6弱
M6.1 3人死亡91人けが

 18日午前7時58分ごろ、大阪府を中心に強い地震が発生し、大阪市北区、大阪府高槻、枚方、茨木、箕面の各市で震度6弱を観測した。 気象庁によると、震源地は大阪府北部で震源の深さは約13キロ、地震の規模を示すマグニチュード(M)は6.1と推定される。 大阪府警などによると、大阪府高槻市で小学4年の女児(9)が壁の下敷きになって死亡し、府内で高齢男性2人が死亡。 毎日新聞の午前11時半現在のまとめでは、大阪、京都、兵庫、滋賀の4府県で計91人の負傷が確認された。 津波は起きなかった。 
 大阪府や府警などによると、高槻市立寿栄(じゅえい)小学校で学校のプール付近の壁が倒れ、4年の女児が下敷きとなって死亡。 大阪市東淀川区で男性(80)が壁の下敷きに、茨木市の男性(85)は本棚の下敷きになっていずれも死亡が確認された。(後略)【 山田毅、山下貴史、蒲原明佳 】

 図45-1 プール横の壁が倒れて下敷きとなった現場 
2018年(平成30年)6月18日(月)11時40分
毎日新聞 Web版
 
大阪北部地震
都市直撃、機能マヒ
倒壊ブロック塀、ジャッキでも上がらず女児が犠牲に…

 大きな揺れが、都市機能を一瞬で混乱に陥れた。 大阪府北部を震源に、最大震度6弱を観測した18日朝の地震。 各地で建物倒壊や火災が起き、死者やけが人も相次いでいる。 消防には、エレベーターに閉じ込められた人からの救助要請が殺到。 週明けの都心を襲った災害の全貌はいまだ明らかにならず、自治体や警察は情報収集に追われた。 
 「壁が崩れて、女の子が下敷きになった」 
 大阪府高槻市栄町の市立寿栄小学校。 大きな揺れが収まった直後、門の前にいた警備員の男性(70)のもとに児童が駆け寄り、こう告げた。 
 同小のプール沿いに設置された高さ約2メートルのブロック塀が崩れ、通学中の女児(9)が巻き添えになっていた。 男性は近くの住人らと協力して何とか塀を持ち上げようとしたが、最初はびくともしなかった。 通りかかったトラックの運転手がジャッキを使って上げようとしたが、それでも上がらなかった。(後略)

 図45-2 倒壊したプールの塀 
2018年(平成30年)6月18日(月)12時34分
産経WEST
 プールの塀が倒壊した事故は、マグニチュード6.1の地震に伴うもので、重大なことに至ってしまった。 
 「補強コンクリートブロック造の塀」の構造は、「建築基準法施行令第62条の8」によって定められている。 今回の事故では、その「施行令」に定められている高さ制限や控壁の設置などについて、違反している構造であった。 
 図45-3 倒壊する前のブロック塀 
 (「Google ストリートビュー」から) 
 倒壊したブロック塀について、「高さ制限」と「控壁の設置」に関して法令に違反しているとされているが、それ以外の「法令違反とはならないが、倒壊の原因となった問題点」の有無を検討してみよう。 なぜなら、法令に違反している事項は、早急に、対策が取られるはずである。 しかし、もし、法令には違反しない部分に倒壊の原因となった問題点があるとすると、その点を明らかにして速やかに解消する必要があるから。 
 問題点の有無を検討するために、現場での倒壊状況から、実際におこなわれたであろう施工法を、推定してみる。 
 報道写真を、参考資料として、下に示すことにする。 
 毎日新聞に掲載されている写真の「部分」を、下の左側に拡大して示す。 右側は、同様に、産経WESTの拡大写真である。 
 図45-4 報道(毎日新聞)写真の一部を拡大 
 擁壁の上端から突き出ている短い鉄筋 
 図45-5 写真(産経WEST)の一部 
 ブロックの塀が擁壁の上に立てられていて 
 そのブロック塀の下端側から出ている短い鉄筋 
 毎日新聞の写真(『図68-4 報道(毎日新聞)写真の一部を拡大』)では、擁壁上部に折れ曲がった鉄筋が見える。 その見える鉄筋の長さは、そのほとんどが20センチメートル程度で、揃っているように見える。 もし、引き千切られたものであるなら、長さは不等になるはずである。 根元で切れたり、数十センチメートルもの長さのものがあるなど、不規則になろう。 
 右側の同様な産経WESTの写真(『図68-5 写真(産経WEST)の一部』)からは、ブロック塀端から突き出ている短い鉄筋(倒れた状態のブロック塀の右上部分が、倒壊する前のブロック塀下部の基礎に接する部分に当たり、この鉄筋は塀の基礎部分に繋がっていた)の存在が確認できる。 この鉄筋も、擁壁側と同様に、長さが短く揃っているように見える。 
 また、左側の『図68-1 プール横の壁が倒れて下敷きとなった現場』や『図68-2 倒壊したプールの塀』に示されているように、倒壊したブロック塀は、バラバラにはならず、ほぼ原形を保っている。 
 これに基づいて、推定される倒壊前のブロック塀を下図のTに、倒壊後をUに示す。 
 図45-6 推定されるブロック塀の状態 
 T:倒壊前、U:倒壊後 
 (q) ブロック塀の基礎部分から突き出している鉄筋 
 (s) ブロック塀の塀下部から出ている鉄筋 
 (注)「(q)と(s)は元々1本の鉄筋であって、それが引きちぎられてできた断片である」とは考えられない。 
   何故なら、(q)で、また、(s)で示される外部に出ている鉄筋の長さが、ほとんど揃っているから。 
   引張られて切れたとすると、外部に出ている鉄筋は、いろいろな長さになってしまうはずである。 
   「(q)と(s)は別々に設置された鉄筋である」と推測される。 
 (プール擁壁の高さは図に反映していない) 
推測されるブロック塀を設置したときと倒壊後の状況
設置したときの状況
(1)(a)「アンカーとなる短い鉄筋」は、(b)(ブロック塀の基礎となる)プール擁壁とは強く固着しているが、(c)ブロック塀のブロックとは不完全な固定状態である。
(2)(d)「縦方向(垂直方向)の鉄筋」は、(e)「ブロック塀のブロック」とは、セメントによって固着している。 一方、(f)その「鉄筋」と「ブロック塀の基礎であるプール擁壁」との間は、セメントによる固結が不充分である。
(3)「アンカーとなる短い鉄筋」はプール擁壁と、また、「縦方向の鉄筋」はブロック塀と固着しているが、「アンカーとなる短い鉄筋」と「縦方向の鉄筋」とは、残念ながら、一体とはなっていない。 その結果、「ブロック塀」は「基礎となっているプール擁壁」によって頑強に支えられている状態からは、ほど遠いものとなっている。
倒壊したときの状況
(4)「縦方向の鉄筋」はブロックとしっかり固定されていること(ブロック塀に「横方向の鉄筋」も使われていることも含めて)によって、倒壊したときのショックがあっても、ブロック塀が真ん中で「くの字」に折れ曲がってしまうことも、ブロックがバラバラになってしまうこともなかった。 「縦方向の鉄筋」が利いている証拠である。
(5)倒壊によって、セメントで固められている部分はそのままであったが、固め方が不完全な部分は抜けてしまったことになる。 「短い鉄筋」は、(p)ブロック塀の基礎となっているプール擁壁に着いたままであるのに対して、ブロック塀からは抜けてしまっている。 ブロック塀から抜けた部分は、結果として、(q)プール擁壁から突き出した形で残されている。
(6)基礎であるプール擁壁に埋め込まれていた「縦方向の鉄筋」の下端部分は、(r)その基礎から抜けてしまい、(s)ブロック塀の下端から飛び出している。
 このようなことであるとすると、プールの擁壁高さが40センチメートルなり60センチメートルであってそこにブロック8段の塀がつくられて高さ制限に関して「施行令」に違反していない構造であったとしても、擁壁高さには関係なく、倒壊してしまったと考えられる。 安全とはいえないことになる。 ブロック塀倒壊に至った今回の原因は、ブロック塀が、充分な基礎工事のできる地面上ではなくて、既につくられているプール擁壁上に構築せねばならないことに依っている。 
 今回の事故で、『筆者の推定による原因は、『図68-6 推定されるブロック塀の状態』の「U」で示されているように、「ブロック塀の基礎」部分での施工が、不良であったから』とみている。 「アンカーとなる短い鉄筋」を使用するなら、それと「ブロック塀を貫通する鉄筋」とを、強固に接合できる構造とすべきであった。 できれば、「アンカーとなる短い鉄筋」を使わないで、「ブロック塀を貫通する鉄筋」を基礎深くまで伸ばして、基礎と強く固定する必要があった。 実際には、「アンカーとなる短い鉄筋」と「ブロック塀を貫通する鉄筋」とが一体となっているべきところが、ルーズな状態で放置されていたことになる。 多分、設計図面上では、両者を番線で緊縛の上で、又は「J字形」にした両者の鉄筋端部を引っ掛けた上で、セメントで固めるように指示していたと思われる。 
 ブロック塀が完成した後では、この部分の工事が設計図に従っているかどうかを確認することは、ほとんど不可能である。 施工状況を確認できない隙を突いて、施工手法の良否のうちの後者が、今回の事故を招いてしまったと・・・。 
 結論としては、「ブロック塀本体」が、「頑丈につくられている基礎となる部分」と「充分な強度で接合」されていることが、必要条件である。 既に設置されているブロック塀で、その「必要条件」を確認するためには、実地検査による点検だけでは、不充分である。 「外形の観察」や「打音検査」、「機器による鉄筋の有無確認」などで、確認できることではないから。 
 それゆえ、目の前のブロック塀の安全性を担保したいのであれば、「正確な構造図面」で検討し、「注意すべき構造部位」を察知し、「施工の丁寧さ」を確認することが、必須である。 「ブロック塀が法令の基準を満たしているから安全である、倒壊することはない」という立場では、今回のような事故の再発を防げないことになろう・・・。
 
<大阪震度6弱>倒壊の塀、鉄筋不足 基礎との接合部分

 大阪府北部で震度6弱を記録した地震の影響で、同府高槻市立寿栄(じゅえい)小のブロック塀が倒壊して女児が亡くなった事故で、塀の基礎部分(高さ1.9メートル)とコンクリートブロック(1.6メートル)を接続する鉄筋の長さが33センチしかなかったことが明らかになった。 専門家によると、ブロックの上部まで鉄筋が届いていなければならず、接続部分が脆弱(ぜいじゃく)で危険な構造だったという。 
 大阪大大学院の真田靖士准教授(コンクリート系構造学)が19日、文部科学省の現地調査に同行して確認した。 真田准教授によると、ブロックの厚さは15センチで、8段分が積み重ねられていた。 ブロックと基礎部分をつなぐ鉄筋は、基礎部分に13センチ、ブロック内に20センチ入っていた。 鉄筋は太さ1.3センチで、長さ約40メートルある塀に約80センチ間隔で約50本埋め込まれていた。 
 接続部分以外にも鉄筋は確認されたが、基礎部分とはつながっておらず、真田准教授は「強い地震だったので、非常に倒れやすかったと思う」と話した。(後略)【 伊藤遥 】

 図45-7 寿栄小外壁の構造 
2018年(平成30年)6月20日(水)11時39分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 地震から2日後、倒壊したブロック塀について詳しいことが報道された。 「ブロックと基礎部分をつなぐ鉄筋は、基礎部分に13センチ、ブロック内に20センチ入っていた」という。 また、「接続部分以外にも鉄筋は確認されたが、基礎部分とはつながっておらない」とされている。 
 ブロックと基礎部分をつなぐ鉄筋ブロック内に20センチ入っていたということは、筆者の推定と一致している。 
 しかし、接続部分以外にも鉄筋は確認されたとしているが、それが基礎部分とはつながっておらないということには同意できない。 「産経WEST」による『図68-5 写真(産経WEST)の一部』の写真で、ブロック塀の下端から見えている短い鉄筋は、もともと、ブロック塀側から伸びているブロックと基礎部分をつなぐ鉄筋であると考えられる。 ただ、残念ながら、施工上の都合で、基礎部分に充分に固定されていなかったということになる。
 ところで、『図68-7 寿栄小外壁の構造』で、ブロック塀部分に、上部まで鉄筋届かずとされ、ブロック部分で縦方向の鉄筋が施工されていなかったように描かれている。 
 「毎日新聞 Web版」よりも1日遅れの「朝日新聞デジタル」上にも、よく似た図の記事が掲載された。 それを、下に示す。
《参考資料》
 倒壊の塀、鉄筋長さ不足 ブロック上端に届かず 
大阪北部地震
 図45-8 倒れた小学校のブロック塀のイメージ 
2018年(平成30年)6月21日(木)16時30分
朝日新聞デジタル(記事中の図を引用)
 両図がここまで似ていると、「専門家によると、ブロックの上部まで鉄筋が届いていなければならず、接続部分が脆弱(ぜいじゃく)で危険な構造だった」ことを指摘した「専門家」による報道発表の図を使ったものであろう。 
 ここで、双方の図に同じように指摘されている上部まで鉄筋届かずに関しては、同意できない 
 『図68-2 倒壊したプールの塀』に示されているように、(特に、斜めにもたれ掛かっている倒壊した塀に注目すると)ブロック塀のブロックが折れ曲がっていない(し、それ以上に、ブロックがバラバラに離れてしまうこともない)ことが特徴的である。 縦方向の鉄筋がない場合に、このような倒壊を起こすと、上下のブロックを接合している部分に"ヒビ"が入ってブロック間が分離してしまうはずである。 図にあるように、ブロック同士の接合が全体として"無傷である"ことは、(横方向の鉄筋と協働して)縦方向の鉄筋が有効に働いている証拠である。 なお、ブロック塀が大きく2つに分かれて倒壊した原因は、横方向のすべての鉄筋が、施工上の都合か何かでその箇所で継がれていて、そこで横方向の鉄筋が外れてしまった結果であろう。 
 結局、図に描かれたものとは違って、実際には「縦方向の鉄筋は組み込まれていた」と考えられる。 
 このような事故に至った最大の原因は、「組み込まれていた縦方向の鉄筋が、ブロック塀の基礎部分に固定されていなかった」ことであるといえる。 
 完成した状態のブロック塀を検査するとしても、しかしながら、「基礎部分との固定」を確認する確実な方法は、ブロック塀の基礎を「破壊」検査する以外に存在しない。 「実現可能な検査方法」としては、「正確に描かれた設計図面上での調査」と「施工業者が工事を丁寧にしたかの確認」だけである。
 
−時時刻刻−
塀の危険性 見過ごす
大阪北部地震
業者、目視で違法性見逃す
外部指摘に市教委「問題なし」
 図45-9 塀の危険性 見過ごす−時時刻刻− 
2018年(平成30年)6月23日(土)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版2面(総合2)
記事中の図表を引用
 「大阪府北部の地震で倒れ、女児が死亡する原因となった小学校のブロック塀を巡り、学校に外部から危険性が指摘されながら、教育委員会は見過ごし、3年に1度の法定点検もすり抜けていた」という。 
 『−時時刻刻−塀の危険性 見過ごす 大阪北部地震 業者、目視で違法性見逃す 外部指摘に市教委「問題なし」』の記事に、「建築基準法に基づく大阪府の点検項目」として、「ブロック塀の点検8項目」が図示されている。 
 高さ厚さ基礎控え壁鉄筋傾き・ひび割れぐらつきその他の8項目である。 この中で、鉄筋の項目を除いて、外見と打検による検査である。 鉄筋の検査は、「電磁波反射」や「電磁誘導」を利用した機器を使用しておこなうことになる。 
 ブロック塀の倒壊を左右している最大の要因は、「ブロック塀の本体部分」と「塀の基礎部分」が充分な強度で固定されていることであると思っている。 また、「控え壁」を設置していても、それが「ブロック塀本体部分」とが簡単に離れてしまっては、その効果がない。 ブロック塀が「控え壁のある方向」に倒れることを防ぐためだけに施工されているとすると、双方の間の充分な固定は、期待できない。 
 図45-10 法令では曖昧になっているブロック塀の安全性を確保するための必須事項 
 (a)「ブロック塀の本体部分」と「塀の基礎部分」との鉄筋による確実な固定(赤色円内) 
 (b)「控え壁」への充分な強度の基礎の設置(青色円内) 
 (c)「ブロック塀本体部分」と「控え壁」の強固な固定(紫色円内) 
 原図の「基礎」は貧弱であって、実際は、地中深くまで掘って構築することが必要) 
 そのためには、『図68-6 推定されるブロック塀の状態』の「ブロック塀の本体部分の鉄筋」と「塀の基礎部分の鉄筋」が強固に繋がれているか又は1本の鉄筋で構成されていることを確認できなければならない。 
 ところで、「電磁波反射」や「電磁誘導」を利用した機器では、鉄筋の有無は確認できるが、その状態を知ることはできない。 『図68-6 推定されるブロック塀の状態』の(c)(f)の状態を、明らかにできない。 「放射線(X線)」を使った機器ではそれが可能となるが、高コストであり、屋外での使用は放射線の遮蔽が困難であるという理由で、使用することは難しい。 
 倒壊を防ぐために設置される「控え壁」についても、それがあることで、控え壁側への倒壊防止には有効である。 (今回の事故での倒壊方向である)反対側への倒壊を防ぐ手段としては、「塀の本体部分」と「控え壁」とを、鉄筋で繋げておかなければならない。 これも、鉄筋の有無は確認できても、それの接合状態を検査することはできない。 更に、『図68-9 塀の危険性 見過ごす−時時刻刻−』には示されていないが、「控え壁」そのものにも、浮き上がりを止められる程度のしっかりとした基礎」の構築が必要である
 
倒壊の塀 当初から耐力不足
大阪北部地震 女児死亡で最終報告
 図45-11 倒壊の塀 当初から耐力不足 
2018年(平成30年)10月30日(火)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版31面(社会) 記事のレイアウトを一部変更
 「大阪府北部を震源とする最大震度6弱の地震で、同府高槻市の寿栄小学校のブロック塀が倒れ、4年生の女児(9)が死亡した事故をめぐり、市の調査委員会は29日、「設計・施工不良と腐食が倒壊の主因」とする最終報告書をまとめ、浜田剛史市長に答申した」という。 委員会によると、ブロックと基礎を接合する鉄筋46本のうち33本の長さが足りずに抜け、13本も腐食して破断。 接合筋はブロック内を縦に通した鉄筋とも溶接されていなかった。 「設置当時から建築基準法に違反した構造で耐力不足」としている。 更に、法定点検の一部が実施されていなかった点については、委員会は「適切に点検していても塀の内部の不良箇所を見つけるのは困難」としている。 委員長の奥村与志弘・関西大准教授は「学校の安全を確保するにはブロック塀をすべて撤去し、今後設置しないのが望ましい」と、報告書ではなくて、記者会見で発言している。 
 「適切に点検していても塀の内部の不良箇所を見つけるのは困難」であることは、以前に指摘していた「基礎部分との固定」を確認する確実な方法は、ブロック塀の基礎を「破壊」検査する以外に存在しないことであるとしても、担当者の不作為が正当化されるものではない。 更に、報告書中の「設計・施工不良と腐食が倒壊の主因」は、同じ指摘部分にある「実現可能な検査方法」としては、「正確に描かれた設計図面上での調査」と「施工業者が工事を丁寧にしたかの確認」だけであることと重なる。 
 報告書の中に明確な形で記述すべき事項は、「正確に描かれた設計図面上での調査」と「施工業者が工事を丁寧にしたかの確認」について、それぞれの担当者がどのように対処していたかを聞き取った内容である。 
 具体的には、 
(1)設計図面に「建築基準法などの規則に従っていない部分」や「耐力が劣っている構造的に不適格な部分」が存在していることを、工事を発注する前に認識していたか 
(2)設計図通りに施工されているかどうかを、適切に管理・監督していたか 
についてである。 たとえば、「ブロックと基礎を接合する鉄筋46本のうち33本の長さが足りなかったこと」や「接合筋はブロック内を縦に通した鉄筋とも溶接されていなかったこと」などは、それぞれ、「(1)設計段階」か「(2)施工段階」のいずれに、問題があったのか? 
 報道によると、それらについて、残念なことに、「調査委員会」は言及していないようである。 前者については「調査委員会」と同じ行政組織に属する「教育委員会」の設計担当者に配慮したように、後者については「教育委員会」内の施工管理・監督の担当者を慮っているように、思われてくる。 
 これでは、このブロック塀の件とは別の施設整備において、問題点を孕んでいるとしても有耶無耶にされてしまって、同様の事故が起きるのではないかという妄想を吹っ切ることができない。 委員長の奥村与志弘・関西大准教授は「学校の安全を確保するにはブロック塀をすべて撤去し、今後設置しないのが望ましい」と記者会見で述べているが、「学校の安全を確保するためにブロック塀を撤去するだけで完了する訳ではないだろう。 事故の根本的な原因を究明するために、もっと深く掘り下げる必要があろう」との思いは、なかったということか。
 

(46)「エアバスから見える仕事」の誇り
 
台風20号
北淡震災記念公園の風車倒壊 兵庫・淡路

 兵庫県淡路市小倉の北淡震災記念公園で24日朝、風力発電用の風車1基(全高約60メートル)が根こそぎ倒れているのが確認された。 台風20号の強風によるとみられる。 けが人はなかった。 
 同日午前7時45分ごろ、公園職員から「風車が倒れている」と県警淡路署に通報があり、コンクリートの基礎部分が壊れていた。 風車は市の所有で、2002年4月に稼働。 高さ37メートルの塔に直径45メートルの3枚の羽根があり、最大出力は600キロワット。 風速25メートルを超えると自動的に停止するが、受電盤の故障で昨年5月から運転を休止していた。 
 神戸地方気象台によると淡路市郡家で23日夜、最大瞬間風速28.6メートルを記録した。【 登口修、峰本浩二 】

 図46-1 倒壊した風力発電用の風車 
 図46-2 倒壊した風力発電用の風車の基礎部分 
 (記事にある動画からのスナップショット画像) 
2018年(平成30年)8月24日(金)10時59分
毎日新聞 Web版 赤字は右記引用部分
 
淡路島で風力発電用の風車が倒壊

24日朝、兵庫県淡路市の公園で高さ40メートル近い風力発電用の風車が倒れているのが見つかり、公園を所有する淡路市は台風による強風で倒れたとみて調べています。(中略) 
支柱は、高さが40メートル近くあり、長さ20メートルの羽根が3枚取りつけられていました。 総重量は100トン余りに上るということですが、設計上は風速60メートルまで耐えられる構造になっているということです。(後略)

2018年(平成30年)8月24日(金)16時42分
NHK 関西のニュース Web版 赤字は右記引用部分
 
巨大風車もポキリ 風の猛威
倒壊のワケを検証

 四国に上陸し、近畿地方を縦断した台風20号は24日午後、温帯低気圧に変わったが、一夜明けて、明らかになったのは風の猛威だった。 23日夜、徳島県南部に上陸し、その後、四国や近畿を縦断し、24日未明に日本海に抜けた台風20号。 一夜明け、その被害が徐々に明らかに。 強風は、建物を次々と襲った。(中略) 
 そして強風は、こんなものまで倒した。 淡路市の北淡震災記念公園では、羽根まで入れて高さおよそ60メートルある風力発電の風車が、根元から根こそぎ倒れてしまっていた。 街の人は、「(きのうの風はどうだった?)結構すごかった。(午後)9時くらいから日付が変わるくらいまですごかった」と話した。 2002年に設置され、発電に使われてきたが、2017年5月に故障して以降は稼働していなかった。 公園関係者は、「風車自体(風速)が60メートルの風でも大丈夫という設計になっていますので、まさか根本から倒れているとは思わなかった」と話した。 風速60メートルまで耐えられるはずの風車が、なぜ倒壊したのか。 午後10時半ごろから、24日午前0時ごろにかけて、淡路島周辺は風速30メートル以上を表す紫色の矢印が出続けていた。 同じ淡路島の洲本市では、23日深夜、最大瞬間風速38.5メートルを記録した。 しかし、風速60メートル以上の風は、確認されていない。 徳島大学工学部の長尾文明教授とともに、風車が倒れた現場を取材した。 徳島大学工学部・長尾文明教授は「これだけ見た感じでは、そこの風車と基礎の部分との、コンクリートの部分がはがれちゃったんですよね。そこのところが弱点として、こういう倒れ方をした」と話した。 風車を管理している淡路市によると、2017年5月に故障して以降も、風車そのものは風が吹くと動いていたが、風速25メートル以上の強風を観測すると、自動的に停止する仕組みになっていたという。 長尾教授は、「(風車を)止めて風を逃すための制御になってたかというのは、もっと近づいて、根元をちゃんと見ればわかるかもしれないが、このあたり、停電になったという話をしてましたので、そういうことがあって制御不能になったのかなと。 制御不能になってた場合だと、設計風速60メートルで設計されてても、過大な空気圧・風圧がかかりますので、倒れることもあると思います」と話した。(後略)

 図46-3 巨大風車もポキリ 
 (動画からのスナップショット画像) 
2018年(平成30年)8月24日(金)18時40分
フジテレビ系(FNN) Fuji News Network 赤字は右記引用部分
 今回の倒壊事故を起こした風車を建設した技術者は、建設に関与したことで誇りを抱いていたはずである。 上空の航空機から見える「真っ白な」建設物を、見るたびに・・・。 
 この誇りは、その代償として、建設したものに対する責任を負うことになる。 
 事故を起こした風車は、高さ37メートルの塔に直径45メートルの3枚の羽根がある構造で、風車自体(風速)が60メートルの風でも大丈夫という設計になっている。 現場近くの淡路島の洲本市では、23日深夜、最大瞬間風速38.5メートルを記録したが、基準を超える風速60メートル以上の風は、確認されていないという。 
 さて、この風車が倒壊してしまった原因を探ってみる。 
 可能性がある事項を、下に示す。 
風力発電用風車が倒壊に至った原因は
(1)倒壊を引き起こすほどの突風が吹いた? 
(2)風車の基礎部分の構造が不適切であった? 
(3)コンクリート内部の鉄筋の太さが不充分であった? 
 手始めは、(1)について。 相当程度の強風が吹いたため、倒壊に至ってしまったということ。 ただし、「設計上は風速60メートルまで耐えられるということなので、この程度の風速の突風があった」ということを意味しているかといえば、必ずしもそうとは言えない。 それ以外の倒壊要因がプラスされれば、はるかに弱い突風であっても、倒壊してしまうことになる。 
 この現場で、突風が吹いたかどうかを、確認してみる。 それを解明するためには、『巨大風車もポキリ 風の猛威 倒壊のワケを検証(フジテレビ系、FNN)』にある動画のスナップショットが有効である。 それを、下の左側に示す。 それとともに、それと同じ場所の「Google マップ」の航空写真を、下の右側に示す。 
 図46-4 倒壊した風車の周辺 
 「FNN」動画のスナップショット画像 
 
 図46-5 倒壊する前の風車の周辺 
 「Google マップ」 
 注目して欲しいのは、「Google マップ」の航空写真の右上にある「バス駐車場」に建っている2つの建物である。 「フジテレビ系(FNN)動画の画像」を見ると、建物の屋根が吹き飛ばされているようである。 風車の倒れた方向と、屋根が吹き飛んだ方向は、いずれも、真南から真北へ(画像の左手前から右奥へ)である。 北上する台風が、現地に最接近している真西を通過中に吹く風の方向である。 このとき、突風状の強風が襲ったかも知れない。 風車の耐えられる風速を超えて・・・。 

 つぎに、(2)について。 強風に耐えられる構造であったか。 
 高さ37メートルの塔風速60メートルまで耐えられるものとして、『図69-3 巨大風車もポキリ』に写っている六角形の土台唯一の基礎として設計したとすると、力学的には不安定な構造となったと思われる。 耐風構造とするためには、その下に、地中深くまで伸びている基礎の構造物が存在しているはずである。 その六角形の土台基礎の構造物とは、頑丈に結合されている必要がある。 
 そこで、『図69-3 巨大風車もポキリ』の画像に注目する。 風車の塔を支える六角形の土台部分を拡大したものを、下に示す。 
 図46-6 倒壊した風力発電用風車の基礎部分 
 「巨大風車もポキリ 風の猛威 倒壊のワケを検証(FNN)」 
 にある動画のスナップショット画像の一部 
 六角形の土台の下端面を見ると、周辺部のコンクリートだけが、壊れている。 六角形の土台の下端面の大部分は、中心部分を含めて、下部の構造物と固定されていたようには見えない。 
 「六角形の土台」と「存在しているはずの基礎の構造物」との結合のために、外周部分の「コンクリートによる接合」と、42本程度の「鉄筋」が見られるだけである。 コンクリートによる接合は引張力に弱いから、それだけでは不充分である。 もう一つの結合材料である鉄筋は、その下端が六角形の土台の底辺と一致するほどの短いものである。 この鉄筋が元々は長くて、倒壊時に引き千切られてしまった可能性は、下端の長さが揃っていることから、考えられない。 鉄筋による結合は、接合部分の長さ不足により、脆弱であったと思われる。 
 その42本の鉄筋を束ねるように(建設時には)水平方向に(倒壊画像では一部が垂れ下がった状態になっているが)六角形を描いて張り渡されていた鉄筋が、見えている。 それらの鉄筋が交差するところは、結束・固定されていなければならない。 画像からは、その形跡が見られない。 鉄筋にはコンクリートの断片が固着しているはずであるが、きれいに剥げ落ちている。 六角形の土台の最下端部でのこの様子は、この土台の不安定さを示唆しているようである。 
 下端面のコンクリートの壊れ方を子細に見ると、その周囲の「ひびの入り方」から、引張の力が働いたようである。 六角形の土台内部の鉄筋の存在だけでは、このような力は働かない。 これの下部に基礎の構造物があって、それから伸びた鉄筋が六角形の土台内部のコンクリートで固められていた可能性がある。 この鉄筋の存在により、倒壊時にコンクリートを引き千切ってしまったと・・・。 コンクリートの崩れ具合からは、その鉄筋は、極々短いものであったと思われる。 この短い鉄筋が、六角形の土台にある鉄筋と溶接によって固定されていた形跡は、認められない。 
 図46-7 推定される風力発電用風車の基礎構造 
 倒壊時に壊れたコンクリート部分 
 六角形の土台に組み込まれている「鉄筋」 
  (bの「鉄筋」は「基礎の構造物」に届いていない?) 
 基礎の構造物に組み込まれている垂直方向の「鉄筋」の存在 
  (cの「鉄筋」が「六角形の土台」に入り込んでいたかも知れないが、 
   その突出部分の長さは非常に短い?) 
  bとcの鉄筋が溶接で固定されていた形跡はなく、cの鉄筋の突出部に固着 
  していたコンクリートが、倒壊に伴って破壊されて(aの部分)しまった? 
 六角形の土台と基礎の構造物との接合部 
  (この部分で「六角形の土台」と「基礎の構造物」とが一体化?) 
 周辺部以外の六角形の土台と基礎の構造物の境界 
  (「六角形の土台」と「基礎の構造」との境界は離れていた?) 
 結局のところ、「六角形の土台」と「基礎の構造物」との結合は、「引張力に弱いコンクリート」と「短い鉄筋」が、担っていたことになる。 

 ところで、『図69-6 倒壊した風力発電用風車の基礎部分』に見られる鉄筋が細いのではないかという(3)の点については、鉄筋が短くて効果が期待できないので、議論の価値はないかもしれない。 しかし、鉄筋の太さについての設計が妥当であるかどうかを見極めるために有効であるので、確かめてみる。 
 風車の塔部分が強風から受ける力を求めてみる。 風車塔の高さが37メートル上部直径が2.1メートル下部直径が3.6メートルであるとする。 気温が30度気圧が980ヘクトパスカル風速が毎秒60メートルのとき、塔の基礎部分が受ける力のモーメント4.3×10ニュートンメートルとなる。 これ以外に、塔上部の発電機などの施設ブレードがある。 それらを合わせた強風下での力のモーメントは、概算で、1×10ニュートンメートル程度となる。 
 この風車の質量が100トン余りに上るということであり、この100トンの質量により、強風による力のモーメントを減少させる。 力のモーメントの減少量は、六角形の土台の対辺の距離が4.6メートルであるとすると、2.3×10ニュートンメートルである(*1)。 強風下で基礎部分に掛かっている力のモーメントは、7.7×10ニュートンメートルになる。 
 六角形の土台にある42本程度の鉄筋が、このモーメントを支えているはずである。 六角形の土台に組み込まれている鉄筋の対辺距離が4.5メートル(土台そのものの対辺の距離は4.6メートルである)とすると、1本の鉄筋8.2×10ニュートンの力に耐えなければならない。 SS400の鋼棒のときには、最小引張り強度の平方ミリメートル当たり400ニュートンで計算すると、鉄筋として直径16ミリメートル以上の鋼棒が必要である。 
 画像での鋼棒は直径16ミリメートル程度はあるように見える。 
 鉄筋が細いように思われることについて、毎秒60メートルの風速に耐える鉄筋としては、その太さに大きな問題はないと判断できる。 

 結論として、「六角形の土台」に組まれている垂直方向の鉄筋が「基礎の構造物」に届くほどの長さがないことを始めとして、「六角形の土台」と「基礎の構造物」との結合構造に不適切なところがあって、構造計算で期待される強度を保てなかった可能性がある。 そのような耐風性能に余裕がない状態のところに、相当程度の突風が吹いたという偶然の現象によって、倒壊をもたらしてしまったといえよう。
 

(*1) この風車の転倒を防ぐために、六角形の土台を支えとする設計であったとする・・・。 六角形の土台の下部にあるとしている基礎の構造物は、それより上にある土台や塔を含む構造物を設置するための台座に過ぎない場合である。 
 そうであれば、六角形の土台基礎の構造物とは、双方を力学的に結合する必要はないことになる。 
 このような設計の場合には、風車全体の質量で、強風による転倒を防いでいることになる。 そのときには、強風によるモーメント2.3×10ニュートンメートルを超えると、持ち堪えられないことになる。 その風速は、毎秒30メートル程度である。 
 それは、淡路市郡家で23日夜、最大瞬間風速28.6メートルを記録したという計測値に限りなく近い。

 

(47)力を合わせて1・2・3
 
強制停電 3回目不十分
北電 直後にブラックアウト

 6日未明に北海道で起きた地震後、北海道電力が全域での大規模停電(ブラックアウト)を防ぐために、一部地域を強制的に停電させて電力需要を減らす処置を3回試みていたことがわかった。 最初の2回は全域停電の回避に一定の効果があったが、地震で損傷した火力発電所の停止直後に実施した3回目は不十分で、ブラックアウトにつながったとみられる。(中略) 
 電気はためられないため、その時々に使う量に合わせて発電所の出力を細かく調整する必要がある。 需要に対して供給が少ないと需給のバランスが崩れ、発電機が壊れるなどの影響が出る。 最悪の場合、ブラックアウトにつながる。 
 需給のバランスがとれている時、北海道を含む東日本では、発電機の回転速度に当たる周波数が50ヘルツで推移(西日本は60ヘルツ)する。 電気の需要が増えると周波数は下がり、供給が増えると上がる。(後略)【 関根慎一、桜井林太郎 】

 図47-1 地震直後の北海道内の周波数の変化 
2018年(平成30年)9月20日(木)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版3面(総合3)
記事中の図表を引用
 電気はためられないため、その時々に使う量に合わせて発電所の出力を細かく調整する必要があって、需給のバランスがとれている時には発電機の回転速度に当たる周波数が50ヘルツである。 電気の需要が増えると周波数は下がり、供給が増えると上がるという。 
 更に、需要に対して供給が少ない状態が続くと、発電機が壊れるなどの影響が出ることになる。 
 このようなことを正確に理解し、「全域での大規模停電(ブラックアウト)を防ぐために、一部地域を強制的に停電させて電力需要を減らす処置を3回試みていた」ことの意味を考えるためには、電力会社がおこなっている発送電システムの「からくり」を知ることが必須である。 
 その「からくり」を理解するためには、その様子がひと目で分かる例を持ち出すことにする。 その例として、「タンデム自転車」を下に示す。 
 図47-2 タンデム自転車 
 タンデム自転車は、乗り手全員が力を合わせ調子を取って漕ぐことが求められる。 それが、電力会社の発送電システムと同じである。 
 送電網に繋がっているすべての発電所の発電機は、同じ回転速度で、同じ位相(交流電圧のプラス・マイナスの極性が変化するタイミングが等しいこと)で発電している。 ある発電所の発電機の回転数が速かったり、他とは違った極性であることは、許されない 
 より正確には、「許されない」のは結果であって、そのようになっていることを理解させるための説明には、なっていない。 理解のための説明を、試みてみる。 タンデム自転車の乗り手のひとりが、現時点よりも速い回転数でペダルを漕ぐように最大限の努力をしたとする。 その結果として回転数を上げることができたかというと、乗り手のひとりの努力では、ほとんど不可能なことである。 ひとつの発電所で、現時点よりも速い回転数で発電機を回そうとすると、それ以前よりもはるかに大きな力が必要となる。 それは、その発電機に大きな負荷をもたらすことになるので、実際には、その発電機の回転数が速まることはない。 逆に、乗り手のひとりが 疲労でバテバテになってしまった。 その乗り手は、そのとき、まったくペダルを回せないかといえば、そうではない。 それ以外の乗り手が漕ぐ回転速度で、ペダルを踏むことはできる。 ひとつの発電所に何らかの不具合が生じ、現時点よりも遅い回転数で発電機を回すような状況になると、軽い力で回せることになって、容易に元々の回転数に戻ることができる。 ひとつの送電網に繋がってすべての発電機は、何ら特別な制御や操作なしに、まったく自然に、同じ回転速度、同じ位相に、揃ってしまうことになる。 
 今回のブラックアウトに至る過程で、何が生じた?  
 タンデム自転車の乗り手の何人かが、漕ぐのを止めたとする。 残りの漕ぎ手が努力しても、次第に、車輪の回転速度は遅くなってしまう。 発電機の幾つかが発電を停止すると、それによって、発電機の回転速度、すなわち周波数が減少してしまう。 それが、『図70-1 地震直後の北海道内の周波数の変化』の周波数「不安定」への変化である。 このとき、電力需要を減らせれば、発電機の負荷が減少して、遅くなっていた回転速度が回復できる。 
 タンデム自転車の有力な乗り手が、漕ぐのを止めたとする。 徐々に車輪の回転速度は遅くなってしまい、残りの弱小な漕ぎ手が全力を尽くしても、回転速度が回復できないばかりか自転車自体が倒れてしまうので、走行を中止せざるを得ない。 主力の発電所が停止すると、それ以外の発電機が定められた周波数を維持しようとして、能力以上の負荷の下で発電を続けることになる。 発電の機器に無理が生じ、いずれ壊れてしまうことになる。 それを防ぐために、発電を停止する。 その発電停止が、将棋倒し的に、すべての発電所に波及していく。 これがブラックアウトである。 
 ブラックアウトは、どうすれば防げた?  
 タンデム自転車が弱小な漕ぎ手だけでも倒れないためには、漕ぐのを止めた乗り手を降ろして、負荷を軽くすれば良い。 それで、回転速度を維持できる。 減少した発電所の能力に応じて、電力需要を制限することである。 電力需要を制限するためには、先ず、電力の供給先への電力供給の優先順位を、細かくレベル分けする。 燃料棒の冷却に必要な原子力発電所や生命維持装置などがある病院などの施設は、最高レベルとするなど。 一旦緩急あれば、電力の周波数が安定するまで、数秒単位の間隔で、最低レベルから次第にレベルを上げながら停電させていくことになる。 その具体的な例を、下に示す。 
 図47-3 提案している「レベル分けによる自動停電システム」(概要) 
 レベル1から始めて、レベル2、レベル3まで停電状態に 
 地域によって停電割合は異なっている 
 その例では、ある地域に存在する住宅全体をひとつの単位「住宅群」として、「レベル1」と設定している。 単独の大容量受電設備を持たない「商業施設」は住宅群と同じ電力線で供給され、住宅群と同じ「レベル1」である。 「工場」や「大規模商業施設」などの多くの人が関わり、大容量の受電設備を単独に有している場合は、「レベル2」とする。 公共施設は「レベル3」、避難者所を受け入れる施設は最上位の次のレベルである「レベル4」である。 先ず「レベル1」の開閉器をオープンに、5秒後に「レベル2」の、更に、10秒後に「レベル3」の開閉器をオープンにした時点で、電力の需給が安定したとして描いてある。 (その後の制御として、安定した時点のレベルで停電範囲を固定するのではなくて、一つ下のレベルの供給先への給電を開始して様子を見ることも必要であるが、それには高度な自動制御技術が要求されるので、人為的な操作を抜きにして実現することは難しいかも知れない。) 
 このようなシステムを構築するためには、変電設備などに設置する開閉器で、レベル毎に電力を開閉できるようにしておく必要がある。 「原子力発電所」、「病院」、「工場」、「住宅群」などへの送電の開閉は別々にすることになるので、「変電所」や「工場などの受電所」毎に開閉器を設けることになる。 「待ったなしの電力開閉の操作」と「24時間の対応」しかも「開閉器の数が多いこと」から、全自動化しておくことが必須である。 人為ミスの可能性を除くために、ヒトは介在させない。 周波数の変動は、ひとつの送電網に繋がっているすべての電力線で同一であるので、変動を察知するタイミングはすべての地域で同じである。 このタイミングを時間の起点として、各開閉器毎に、一定時間間隔で、レベル順に、周波数が安定するまで自動的に開閉していく。 
 中央での集中制御は、採用しない。 それは、 
(1)通信回線の途絶による制御不能の事態を回避する。 それぞれの開閉器で自律的に制御することで、回線を通じた指令を必要としない。
(2)ある開閉器に開閉の不具合(システムの「バグ」、ノイズなどによる誤動作)があっても、その開閉器に属する地域への影響に収まる。
(3)「レベル」と「開閉時間間隔」を、地域の特徴にあわせて、微調整できる。 ただし、同じレベルの開閉は、全地域で、同じタイミングになるように決める。
などである。
 
社会の見方・私の視点
ブラックアウトを防ぐために
福島大学共生システム理工学類 佐藤義久特任教授

 福島大学共生システム理工学類再生可能エネルギー寄附講座の佐藤義久特任教授による早朝のNHKラジオ解説[概要 
 北海道電力で起こったブラックアウトでは、発電量の多くを主力発電所に依存しており、その停止が大きく関与している。 たとえ「泊発電所(原子力)」が稼働していても、主力発電所への依存に変わりがない。 
 東京電力においても、燃料の調達に有利で消費地に近い東京湾岸で、全体の半分を発電していて、ブラックアウトが起きないとは言えない。 解決法は、分散電源にある。 たとえば、東京から100キロメートルほど離れている地方都市である「甲府」や「宇都宮」などに。 そうすることで、新たな発電所の建設に要する諸費用として、何兆円もの資金が必要になる。 また、分散することによる発送電コストの上昇がもたらされるが、それは電気の安定供給のための保険であると理解して欲しい。

2018年(平成30年)9月28日(金)06時40分すぎ
NHKラジオ第一放送 赤字は右記引用部分
 福島大学佐藤義久特任教授は、「解決法は、分散電源にある」という。 
 電力供給を分散電源として整備するか、需要側のシャットダウンで対処するかには、異論が多かろう。 需要側のシャットダウンには、それでは大きな損害を被る可能性が高いから、取るべき選択ではないと・・・。 
 電力の供給側を分散整備すれば、それだけで、解決するか。 発電所を分散すれば、主要な電力消費地まで長距離の送電が必要になり、送電塔の倒壊や送電線の破断などによって当該発電所からの送電が不能になる可能性が生じる。 その結果、供給すべき電力量を賄えないことになるかもしれない。 そのアンバランスは、その地域内で生き残っている電力網に繋がっているすべての発電所の停止をもたらす。 その地域全体が、停電してしまうことになる。 その地域は、電力会社全体から見れば一部にすぎないかも知れないが、それが東京を含む範囲であれば影響はブラックアウトと同様である。 その地域が首都圏でないとしても、電力を必須としている施設をも、停電に巻き込む可能性がある限り、この方策を首肯することができない。 
 筆者は、電力を必須としている施設に可能な限り給電できる「需要側のシャットダウンで対処する」方法に、軍配を上げたい。
 

(48)時間よ、止まれ
 
スカイツリーの上と下 時の流れ違う?
日本で開発の高精度時計で計測
アインシュタイン理論 検証へ
 
 図48-1 光格子時計を使って 
 時間のズレを検出するイメージ 
 

 標高の高いところでは、地表と時間の流れが異なる――。 アインシュタインの一般相対性理論で予測される、そんな不思議な現象をとらえる実験を、東京スカイツリーの展望台で始めた。 標高の違いによるわずかな重力の差がもたらす時間差を日本発の超高精度の時計でとらえる試みだ。(中略) 
 相対論によると、重力が強いほど時間の流れは遅くなる。 地球上では中心から離れるほど、重力がわずかに弱くなり、時間の流れは速くなる。 米航空宇宙局(NASA)が別の高精度の時計で高度1万キロの上空と、地上との時間の流れの違いを測定した例などがあったが、今回の標高差ははるかに小さい。 
 相対論が検証できれば、今度は逆に時間のずれから正確な標高差をはじき出すことも視野に入れる。 約2カ月計測し、2台を比較する。 計算では、天望回廊と地上との間では、1カ月で約0.13マイクロ秒(マイクロは10のマイナス6乗)のずれが生じるという。(後略)【 小坪遊 】

2018年(平成30年)10月3日(水)
朝日新聞(名古屋)夕刊3版2面(総合2)赤字は右記引用部分
《補足資料》
 
村山斉の時空自在
ブラックホール撮影 世界一つに
 図48-2 ブラックホール なぜ「見えた」(記事中の「図」) 
 
2019年(平成31年)5月15日(水)
朝日新聞(名古屋)朝刊13版25面
 アインシュタインの一般相対性理論で予測される、そんな不思議な現象のひとつである重力の差によって時間差が生じるかを確かめてみるという。 「重力が強いほど時間の流れは遅くなる」ということである。 
 それについて、できるだけ易しく説明してみたい。 
 まず、例としては誤解を招く恐れがあるが、光の屈折を取り上げてみる(*1)。 下図で、「A点」から水面上の「S点」に向かって光を照射すると、「S点」から水中に入る際に屈折してしまう。 その結果、光は「B点」に至る。 
 図48-3 光の屈折 
 この現象を、光の立場で、見てみる。 光が「A点」から水中の「B点」に至る経路として、直線的に進むことをしない。 屈折する経路である「S点」を経由する。 なぜならば、光が「A点」から発して「B点」に至るときに、「 最小の到達時間となる経路を取る 」からである。 水中での光の速度は空中よりも遅いから、真っ直ぐに進むよりは、水中での経路が短くなる「S点」を経由することで、到達時間が短くなる。 その結果が「S点」を経由する進路である。 
 さて、光が「 最小の到達時間となる経路を取る 」ために、屈折などの現象をもたらすことが、次の議論での下敷きになる。 ここで、『 真空中で、重力の強い所の方が、重力の弱い所よりも、光の速度が遅くなってしまう 』と仮定する。 その仮定の下で、質量の大きな(したがって、重力の大きな)恒星の傍を通過する光の経路は、どのようになるか。 
 図48-4 恒星の近傍を通過する光の経路 
 光が、上図に示すように、「A点」から発して「B点」に到達する経路を考えてみる。 この場合でも、「 最小の到達時間となる経路を取る 」ことになる。 光は、直進しないで、恒星「P]の近傍を避けるようにして、ゆるやかに曲がりながら進んでいくことになる。 光が、恒星「P]の近傍の通過を避けるのは、そこは重力が強くて、光の速度が遅くなってしまうからである。 多少、遠回りになっても、AB間の光の到達時間は、恒星「P]から離れた場所を通過する方が短くなる。 
 次に、真空中で、重力の強い所と、弱いところが、一様に広がっているところを、光が通過していく様子をみてみる。 
 図48-5 弱い重力と強い重力の中を進む光 
 図の上側が「弱い重力」の場合、下側が「強い重力」の場合を示す。 「A点」から、光が「弱い重力」の下で計測した1秒間に進んだ位置を、「B点」及び「B'点」とする。 「強い重力」の場合には光の速度が遅くなってしまうので、「弱い重力」の場合よりも、進む距離は短い。 
  A−Bの距離 > A−B'の距離 
 真空中で、光が1秒間に進む距離は一定である(毎秒299,792,458メートル)という「相対性理論における光速度一定の原理」をあてはめると、「強い重力」の下で計測した1秒間に進んだ位置は「B''点」になるはず。 その結果、「強い重力」での1秒は、「弱い重力」の1秒よりも、光が「B'点」から「B''点」まで進む時間分だけ、長いことになる(「強い重力」での時間の進みは、「弱い重力」でのそれよりも、遅くなる)。 
 ここで、上で述べているような「仮定」と「原理 
(1)「 真空中で、重力の強い所の方が、重力の弱い所よりも、光の速度が遅くなってしまう 」という「仮定 
(2)「 真空中で、光速度は一定である 」とする「原理 
が、観測データによって、どのように取り扱われることになるかを考える。 
 仮定の(1)は、『図71-4 恒星の近傍を通過する光の経路』に示すような質量の大きな恒星の傍を通過する光の経路が屈折してしまうこと(重力レンズ効果)が観測されているので、それが証明されたとしても良かろう。 《補足資料》として『図71-2 ブラックホール なぜ「見えた」』に示されているように、「ブラックホール」によって光が屈折していることが観測されていることも、この仮定の正しさを立証していることになる。 
 また、「光速度一定の原理」は、『図71-1 光格子時計を使って時間のズレを検出するイメージ』に示すような「時間の伸び縮み」が実証されれば、それがより確実なものとして認められることになる可能性が、今まで以上に高くなる。 それは、「相対性理論」が、より確実な理論であることを裏づけることになる。
 

(*1) 水中での光の速度は毎秒22.5万キロメートルと、真空中での毎秒30万キロメートルに比べて、かなり遅い。 これは、重力の効果とは、まったく関係ない。 また、水中での速度は、真空中ではないので、光速度一定の原理とも、無関係である。 
 光は電磁波のひとつであって、「電場」と「磁場」の変化によって形成される波である。 「光(電磁波)」は、媒質の電気的性質(誘電率)によりつくられる「電場」と、媒質の磁気的性質(透磁率)によりつくられる「磁場」を相互に介して、波として伝搬していく。 真空中に比べると、水の「誘電率」と「透磁率」は、双方とも大きい。 水中を進む光は、その大きな「誘電率」と「透磁率」との間で、相互作用を繰り返しながら、突き進んでいくことになる。 水中での光の速度は、水によって大きな抵抗を受ける競泳100メートルを、空気抵抗の小さな陸上競技の100メートル走とを比較することで、真空中での速度よりも遅くなってしまうことが理解できよう。

 

(49)シールド工法の穴
 
道路陥没 地下深くでトンネル工事 因果関係不明 原因調査へ

18日、東京 調布市の住宅街で道路が幅5メートルにわたって陥没しているのが見つかりました。 
付近の地下深くでは東日本高速道路がトンネルを建設する工事を行っていて、19日夕方、東日本高速道路の担当者や専門家が会見を開き、工事との因果関係はわからないとしたうえで、原因が究明できるまでは再開しない方針だと明らかにしました。 会社が専門家の意見を聞いて陥没との関係を調査することにしています。 
18日午後、東京 調布市東つつじヶ丘2丁目の住宅街で住宅の前の道路が突然陥没し幅5メートル、長さ2メートル、深さ5メートルほどの穴があきました。 
現場付近では、大深度地下と呼ばれる地表から40メートル以上の地下で東日本高速道路が「東京外かく環状道路」の建設工事を行っていて、会社によりますと先月中旬にトンネルを掘削する大型の機械が通過したということです。 
東日本高速道路の担当者や専門家が19日夕方、会見を開き、トンネルの施工方法の検討会の専門家で早稲田大学の小泉淳委員長は「因果関係があるか、はじめからそこに空洞があったかはこれから調べないといけない。 断定するのはまだ早い。 ただ因果関係はないとは言えないし急に落ちるとは思えない」と述べました。(後略)

 図49-1 陥没現場 
 図49-2 大深度地下での掘削イメージ 
 「×」は陥没した地点 
2020年(令和2年)10月19日(月)19時58分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 調布市の住宅街で道路が幅5メートルにわたって陥没しているのが見つかったという。 現場付近では、大深度地下と呼ばれる地表から40メートル以上の地下で東日本高速道路が「東京外かく環状道路」の建設工事を行っている。 
 それについて、東日本高速道路の担当者や専門家が会見を開き、工事との因果関係はわからないとしている。 
 シールドマシンは、カッタービットを取り付けた円盤を回転させながら前面の土を掘っていく。 前方を円形に掘削していくのであるが、掘削する岩盤などの性質によっては、その円形の掘削部分よりも上方の土砂が大きく崩れ落ちてしまうことがある。 その状態でトンネルの壁(セグメント)を組み立ててしまうと、崩れ落ちた上部の空洞部分が壁の外に(トンネルの外側に)そのまま残ってしまう。 その空洞を支えるものはないから、空洞内に上部の土砂などが崩れ落ちて、そこに新たな空洞ができあがる。 その新たにできた空洞に、更に、その上にある土砂が崩れ落ち・・・と、将棋倒し的に空洞部分が上方に移っていく。 地上に至るまで繰り返してしまうと、最後には、地面部分が陥没する。 
 図49-3 「陥没に至る過程」を想定すると 
 「×」は陥没した地点 
 −左方ニュース図の筆者による修正及び追加事項の附加− 
 注:2本のトンネルは、双方とも、東名JCT側から大泉JCTに向かって掘削、 
   進行方向左側(西側)のトンネル(南行き車線)を、崩落現場の地下を先行して掘削中 
   (この部分のトンネルは「右側通行」) 
 現場付近の地質構造は、地質、地下水 - 関東地方整備局(国土交通省)によると、
 図49-4 地質断面図 
 ×」が深部の掘削位置(筆者による推定) 
 上に示した「地質縦断図」からは、掘削地点の地質は、「東久留米層」の「締まった砂」が主体であることが分かる。 締まった砂では、掘削の際にトンネルの外側に空洞が生じる可能性は低い。 空洞ができたとしても、それより上の土砂がドミノ倒し的に崩れ落ちてくることはないと思われる。 
 すなわち、上の図72-3 「陥没に至る過程」を想定するとに示したスキームによる陥没の可能性は少ない 
 考えられる陥没原因は、シールドマシンによる「振動」がもたらす液状化現象であると推定される。 
 それを、以下に説明する。 
 陥没地点では、地表付近の地層は、多摩川支流の「野川」などにより形成された「沖積層」である。 そこでは、砂質土盤の間隙に多量の地下水を含んでいる地層であることが、陥没部分に貯まっている地下水の水位から覗われる。
 図49-5 陥没した道路 
 NHKニュースのスクリーンショット(部分) 
 地下水の水面が陥没穴の下部に 
 上図で、陥没穴の下部に地下水の水面がそれ程も深くない位置にあって、崩れ落ちた土砂などはその水の下に落ち込んでいるようである。 単純な土砂の「崩落」とは違った様相である。 
 水を含んだ土砂の層がある(下図の左)。 そこに振動を与えると、土砂の粒子間に水が入り込むことで、土砂間の摩擦が解消され滑ってしまう。 水により土砂が撹拌されることで、それらが液体のように振る舞う液状化現象である。 その結果、密度の大きい土砂が沈み込むことで、「水」と「土砂」が上下に分離する(下図の中)。 浮き上がった「水」には「毛管現象」が働かないため、これの「水面」は、周囲の地層の地下水位の上端よりも、下がった位置でバランスする。 水位が低下することで、空洞が生じる(下図の右)。 空洞の上にある地盤は、その上部にある建物などによる重さに耐えられないと、陥没してしまうことになる。 
 図49-6 液状化現象による空洞の発生と地盤の陥没 
 左:液状化の可能性がある水混じりの土砂でできている地層 
 中:振動などで「土砂」が沈降し「水」が浮上することで双方が下と上に分離 
 右:上方に分離した「水」が周囲の地層に浸透移動することによって地盤の下に空洞が発生 
 具体的には、多量の地下水を含んでいる砂質土層が、シールドマシンがもたらす「振動」によって液状化現象を引き起こしたものであると考えられる。 それにより、砂質部分が沈降し、その代わりに間隙水が浮き上がって・・・。 浮き上がった水は、時間とともに、周囲の地下水とバランスする水位まで徐々に下降していく。 「砂質部分の沈降」と「浮き上がった水の下降」により、その上部構造物との間に、「空洞」が生じてしまうことになる。 
 「東京外かく環状道路の建設位置」と「道路が陥没」した地点(それに加えて、その半月後の11月4日に「地下に空洞」が発見された場所)を、下図に示す。
 図49-7 陥没地点とトンネルを掘削している現在位置 
 地理院地図(電子国土Web)の原図に追記) 
  「青色曲線」:「東京外かく環状道路」の建設経路(筆者による推定) 
     濃緑色四角形:西側の南行き車線で、11月の時点で現場付近を、北に向かって掘削中(現在掘削停止) 
     赤色四角形:東側の北行き車線で、現場よりも遥かに南の地点を、北に向かって掘削中(現在掘削停止) 
  「」:陥没地点(筆者による推定) 
  「」:半月後に地下に空洞が見い出された地点(筆者による推定) 
 上の『図72-7 陥没地点とトンネルを掘削している現在位置』から、その陥没した地点は、東側を流れている「仙川」と西側にある「野川」に挟まれた位置にあって、一見、高台にある住宅地に見える。 その上、そこは「東つつじヶ丘」の地名がつけられていて、より古い時代に堆積した地層である洪積層からできている丘陵地であるという印象により、更にダメ押しされることになる。 一戸建て住宅、小中高校や大学、寺社などが密集している、いわゆる住宅市街地を形成している。 
 さて、トンネルの掘削と道路の陥没の関連性を考えてみる。 その陥没が生じたとき、南行き車線のトンネル(このトンネルは、東京都世田谷区喜多見付近で車線がクロスしていて、右側通行になっている。南行き車線のトンネルが、北行き車線よりも西側に掘削されている)では、その地点の直下を、北に向けてシールドマシンで掘削していた(上図の濃緑色四角形)。 陥没の発生は、その直後である。 時間的には、関連がありそうに思われる。 もう一本の北行き車線のトンネル掘削が、南方(上図の赤色四角形)から現場付近に向かって北進している。 同様な現象が起こる可能性は、関連があるならば、かなり高い。 
 図49-8 道路トンネルと陥没地点の地質 
                      液状化の可能性 
 桃色:人工地形(盛土地・埋立地)       非常に大きい 
 橙色:台地(更新世段丘)           なし 
 黄色:低地の微高地(自然堤防)        大きい 
 濃灰色:人工地形(切土地)          なし 
 薄緑横縞:低地の一般面(谷底平野・氾濫平野) 大きい 
  
  「青色曲線」:「東京外かく環状道路」の建設位置(筆者による推定) 
  「」:陥没地点(筆者による推定) 
  「」:地下に空洞を見いだした地点(筆者による推定) 
 この陥没地点の周囲の地勢、特に、液状化の可能性の有無を見てみる。 左に、建物における液状化対策ポータルサイト(東京都都市整備局)による地図を示す。
 陥没した地点は「市立滝坂小学校」の東側から「入間町二丁目」を経て、野川に流れ込む入間川(上流部は中仙川と呼ばれ、多摩川の支流である野川の更に枝葉となっている河川)の流域である。 陥没した地点を含めて、液状化し易い地域が広がっている。 このことは、『図72-7 陥没地点とトンネルを掘削している現在位置』を漫然と見ている限りにおいては、液状化が予想される地帯であることが分からない。 『図72-8 道路トンネルと陥没地点の地質』を参照することで、液状化の可能性が大きいことが納得できよう 
 掘削する深度での地層は、「東久留米層」の「締まった砂」が主体となっているシールド工法に最適の地層である。 しかしながら、この深度での締め固められている地層は、残念ながら、掘削による振動を良く伝えるものである。 それに加えて、地表付近での液状化が起こり易い地層は、最悪の組み合わせであったということになる。 
 このあと、北行き車線用に、現場付近にトンネル掘削が進んでくる。 このトンネル上部の地層は、南行き車線用トンネルのそれに比べて、液状化がより起こり易い状態であることが左図から読み取れる。 慎重にトンネルを掘削するか、安定した地盤の下を通るように経路を変更する必要があろう。 
 左図で見る限りでは、「東京外かく環状道路」の経路は、液状化の可能性が非常に大きいとされる過去の河川の流路の跡である凹地を盛土・埋立した帯状の地域の地下を、積極的に選んでいるように思われる。 盛土地・埋立地に沿うようにして、その両側には液状化の恐れのない更新世段丘の台地が広がっているにも関わらず・・・。 盛土地・埋立地の地下ではなくて、特に、東側の台地下を通ればより直線的に、より短距離に敷設できるというメリットもあるのに、恣意的に遠回りしているように感じてしまう。 道路建設の経路地が河川敷であったならば、建設用地の収用の容易さなどでその選択も納得できる。 しかし実際には、経路予定地は、河川敷ではない既に建物で埋め尽くされている場所であるので、ここを経路とするメリットがあるとは感じられない。 大深度地下での道路建設であって、用地買収などは不必要であるとされている状況での経路の設定であるので、経路設定の自由度は大きいはずである。 路線設定でのもう一つの制約は、道路が分岐する場所である。 その場所では、シールドマシンをそのままの状態で前進させることはできない。 分岐の始まりから完了する地点までのトンネルは、開削するなどしてトンネルを掘ることになる(分岐が完了した地点以降は、それぞれの方向にシールドマシンでトンネルをつくっていける)。 この分岐する地点では、トンネル上方の地上が広い道路であるか未利用地であることが有利である。 この点に関しても、予定されている経路に利点があるとは思えない。 この経路が「腑に落ちる」とは言い難い。 
 当該地点から東側に数百メートル離れた地域は、古くからの寺社や学校などが建ち並んでいる安定した地層からできている更新世段丘の台地である。 この台地の地下を通るように「東京外かく環状道路」を設計していたならば、このようなことにはならなかったものと思われる。 今後、工事を再開するとしても、掘削による振動を抑えないと、同じようなことが生じる可能性がある。 
 左図を見ていると、上で何度も指摘しているように、「東京外かく環状道路」のルートが、特に「成城」・「喜多見」から「東つつじヶ丘」に至るルートとその曲がり具合が、見事なまでに軟弱地盤が予想される河川に沿って設計されていることに気付く。 ここで、掘削する深度での地層をみてみると、左の地図の全領域で「締まった砂」が主体となっている「東久留米層」である。 シールドマシンで掘っていくに、支障はない。 掘削の容易さの点では、「河川に沿ったルート」であっても、「そうではないルート」であっても、変わりはない。 この河川が広い河川敷を持っているならば、その河川敷を利用して工事用の設備の設置や車両の留置に使うこともできるが、この「野川」や「入間川」では、ほぼ流路間際まで住宅などが建っている。 そうであるのに、何故わざわざ「河川に沿ったルート」を選んだのか?  『「大深度地下使用法」は事前に補償を行うことなく大深度地下に使用権を設定することができる』ので、使用権の取得という点では、双方のルートに差はない。 見事なまでに河川に沿ったルート設計をみると、それ以外の理由が絡んでいるように思われる。 「そうではないルート」で建設すると、何か不都合なことが発生してしまうという公表されていない事象が隠されているのであろうか?
 
東京 調布の住宅街 道路陥没 付近で地下に空洞見つかる

10月、東京 調布市の住宅街で道路が陥没した問題で、現場付近を調査している東日本高速道路は4日、新たに地下に空洞が見つかったと発表しました。 
空洞は、地表から深さ5メートルより下に広がっていて、幅およそ4メートル、長さおよそ30メートル、高さはおよそ3メートルあるということです。 
東日本高速道路は地表面の変化を捉える機器を置いて調べていますが、直ちに地表面に変化を起こすようなものではないとしています。 
5日に専門家の委員会で今後の対応を検討することにしています。

 図49-9 道路陥没の付近の地下に空洞 
 (赤色の柵は「入間川」沿いに設置−筆者注−) 
2020年(令和2年)11月4日(水)15時09分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 
東京 調布の道路陥没 現場付近の地下で新たな空洞見つかる

先月、東京・調布市の住宅街で道路が陥没した問題で、現場の地下深くで道路のトンネルを建設している東日本高速道路は、現場付近の地下で新たな空洞が見つかったと発表しました。 空洞が見つかったのはこれで2か所目で、直ちに空洞を埋める作業を行うことにしています。 
新たに地下に空洞が見つかったのは、東京・調布市の住宅街で先月、道路が陥没したところから南におよそ20メートルほど離れた地上から深さ4メートルほどのところで、大きさは幅およそ3メートル、長さおよそ27メートル、内部の高さはおよそ4メートルあるということです。(後略)

 図49-10 道路陥没の付近地下に再度の空洞を発見 
 (NHKニュースのスクリーンショット) 
2020年(令和2年)11月22日(日)05時11分
NHKニュース Web版 赤字は右記引用部分
 半月前に東京 調布市の住宅街で道路が陥没した問題で、新たに地下に空洞が見つかったという。 空洞は、地表から深さ5メートルより下に広がっていて、幅およそ4メートル、長さおよそ30メートル、高さはおよそ3メートルあるという 
 この空洞が見つかった地点を『図72-7 陥没地点とトンネルを掘削している現在位置』及び『図72-8 道路トンネルと陥没地点の地質』の中に、緑色の「」で示す。 その地点は、道路が陥没した地点から数十メートル離れている場所であるが、大深度地下トンネルを掘削しているところの真上である。 現在の「入間川」に隣接していて、空き地になっている。 過去には、その川の流路であったこともあろう。 
 空洞の上端(地表から深さ5メートル)は、その地域の「地下水が常在する上限の位置」であると考えられる。 ただし、この「上限の位置」は、土砂により生じる「毛管現象」によって、「地下水位」よりは高い位置になる。 その「上限の位置」よりも下の層では、「土砂」と「水」が互いに入り混じっている。 そこに振動を与えると、「土砂」と「水」が揺り動かされて(液状化現象が起きて)、それぞれに分離してしまう。 浮き上がった「水」は(土砂による「毛管現象」が働かないので)「地下水位」まで下降し、その部分に空洞ができてしまう。 
 空洞は、地表から深さ5メートルより下に広がっていて、それよりも上の部分は異常のない状態であったのは・・・。 それは、上の部分には地下水が浸み込んでいないため、液状化現象が起きなかったということである。 
 地上にある建築物は、地表下の数メートルの厚さの地層に支えられている状態である。 流動化により空洞が水平方向に拡がっていけば、数メートルの厚さの地層では持ち堪えられなくなってしまう。 その時には、地面の陥没という形で、地下に起こっている現象を知ることになろう。 
 この空洞が発見された場所では、空洞の天井部分が地表から深さ5メートルの位置であった。 それは、「地下水位」に「毛管現象による地下水の上昇長さ」を加えた高さで決まったと考える。 「地下水位」が高ければ、それに対応して、土砂が液状化する上限の位置が上昇する。 極端に高くなれば、液状化による土砂の流動化が地表付近に至り、地面の陥没に繋がるに違いない。 半月前に発生した陥没事故は、そのようにして生じたものと思われる。 
 空洞が地下に発見されてから約半月後に、もう一つの空洞の存在が分かった。 
 東京・調布市の住宅街で先月、道路が陥没したところから南におよそ20メートルほど離れた地上から深さ4メートルほどのところで、大きさは幅およそ3メートル、長さおよそ27メートル、内部の高さはおよそ4メートル新たな空洞が見つかったという。 
 今回発見された2つ目の空洞は、
 図49-11 地下に空洞が発見された道路に接する住宅 
 (「Google ストリートビュー」から) 
の前の道路地下にある。 1ヶ月前に崩落した道路と平行している通りである。 一筋だけ南側に位置している道路になる。 今回発見の地下空洞、1カ月前に道路が崩落した現場、半月前に発見の地下空洞が、この順番で、南から北に向かって一直線に並んでいる。 北に向かってシールドマシンにより掘削している南行き車線(2本のトンネルのうちの西側に位置する)トンネルの直上になる。 
 崩落した道路と2ヶ所の地下空洞の合わせて3つの位置が、掘削しているトンネルの経路と合致している。 トンネルの掘削との関連を否定することは、かなり難しい。 
 なお、この地域の「東京外かく環状道路」トンネルの経路が、概ね、液状化の可能性が大きい「野川」とその支流の「入間川」の旧河道を通っていることは図72-8 道路トンネルと陥没地点の地質から分かる。 それ故、「野川」及び「入間川」の旧河道にあたるルート上では、「地中の空洞化」や「地面の陥没」が懸念される。 安全な生活のためにも、徹底した調査が望まれる。
 
地盤が“スカスカ”・・・住宅街陥没で新事実 食器棚から異音
【調査報道23時】

 東京・調布市の住宅街で突然大きな穴があいた問題。 これまで、「地盤に問題ない」とされてきた場所でも異常な事態が起きています。 今も続く住宅への深刻な影響、その原因に迫ります。 
 東京・調布市の住宅街。9月24日。 専門家らによる地盤の調査が行われていた。 その様子を、住民は不安げな表情で見守っていた。 
 私たちに情報を寄せてくれた河村晴子さん。 2020年9月、自宅に鳴り響いたある音を記録していた。 
 記録した音声  「ちゃりちゃりちゃり・・・」 
 村瀬健介キャスター  「これはお宅の中の音ですか?」 
 河村さん  「そうですね、家のリビングですね。 食器棚からこういう音が聞こえ続けてるんですね。 もう大変な振動がありました」 
 異常な“振動”は3週間にわたり続いたという。 
 河村さん  「(振動で)住宅がおかしくなるんじゃないかとか、さらにそれを支えている地盤がおかしくなるんじゃないかという恐怖もありました」 
 実際、この1年で家にはあちこちにひび割れなどの被害が出るようになった。 
 村瀬キャスター  「あーここもですね・・・これもまさに現在進行形で広がっている?」 
 河村さん  「広がってます」 
 この原因として考えられているのが、付近で行われた「トンネル工事」だ。 2020年10月、調布市の住宅街の道路が突然陥没。大きな穴が空いた。 
(中略) 
 NEXCOは「掘削の際に土砂を取り込みすぎた」などとして、原因が施工ミスだったと認めた。 そして、トンネル真上については地盤の補修工事を行うことを決めた。 だが、河村さん宅はトンネルから15メートルほど離れていて、地盤の補修工事の予定はない。 NEXCOは、トンネルの真上以外は「簡易調査の結果、地盤に問題はない」と説明してきたのだ。 
 本当に地盤に問題はないのか。 河村さんは、専門家に調べて貰うことにした。 調査では、一定の強さで地中に“棒”を何度も突き刺し、その進み具合で地盤のかたさを調べる。 通常のかたさなら、棒は少しずつしか進まない。 
 しかし、棒が地下2メートルに達したとき・・・ 
 専門家  「(棒が)どんどん入りますよ」 
 なんと棒が、ストンと落ちてしまった。 
 芝浦工業大学 地盤工学 稲積真哉教授  「空洞に近い落ち方ですよね」(後略)

 図49-12 地盤が“スカスカ” 
 (TBS「調査報道23時」のスクリーンショット) 
2021年(令和3年)10月13日(水)01時01分
TBS 調査報道23時 赤字は右記引用部分
 
調布の道路陥没、周辺地盤も緩み
工事の真上以外、振動原因か

 東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事現場近くで昨年10月に起きた東京都調布市の道路陥没を巡り、芝浦工業大の稲積真哉教授(地盤工学)は13日、掘削部分の真上だけではなく、周辺地盤も緩んでいるとの調査結果を明らかにした。 工事の振動が原因とみられ、地盤沈下による家屋の亀裂の被害が出ているとして「非常に不安定な状態。早急な地盤の補修が必要だ」と話している。 
 工事する東日本高速道路によると、真上の地盤に限り、補修を予定。 「隣接地では緩みはないと認識している。 調査して確認されれば適切に対応したい」としている。 工事は停止されている。

2021年(令和3年)10月13日(水)19時27分
共同通信 赤字は右記引用部分
 東京・調布市の住宅街で突然大きな穴があいた問題について、TBSの【調査報道23時】で、「地盤に問題ない」とされてきた場所でも異常な事態が起きているという。 
 図49-13 TBS【調査報道23時】で異常な事態が起きているとされる住宅 
 − 道路トンネルは手前の左右に伸びる道路と平行に掘削 − 
 (「Google ストリートビュー」から) 
 その地点を下図に紫色の記号(・←)で示す。
 図49-14 道路トンネルと陥没地点の地質(部分) 
                      液状化の可能性 
 桃色:人工地形(盛土地・埋立地)       非常に大きい 
 橙色:台地(更新世段丘)           なし 
 黄色:低地の微高地(自然堤防)        大きい 
 濃灰色:人工地形(切土地)          なし 
 薄緑横縞:低地の一般面(谷底平野・氾濫平野) 大きい 
  
  「青色曲線」:「東京外かく環状道路」の建設位置(筆者による推定) 
  「」:陥没地点(筆者による推定) 
  「」:地下に空洞を見いだした地点(筆者による推定) 
  「・←」:TBSの【調査報道23時】で取り上げられた地点(筆者による推定) 
  
 この時点では、右側(東側)のトンネル(北行き車線用)は未掘削である。 
 今回の地点は、右側通行として掘られている南行き車線(西側)のトンネル掘削地点よりも東寄り、北行き車線(東側)のトンネルの真上に近い場所である。 南行き車線トンネルは北方向に掘削されていて、“スカスカ”な地盤があるとみられる宅地の西側を通り過ぎた地点まで、掘削が進んでいる。 北行き車線トンネルも北方向に掘削されている。 その掘削の先端は遥か南方であって、工事が進んでくると、現場の地下を通過することになる。 
 『図72-13 TBS【調査報道23時】で異常な事態が起きているとされる住宅』は、異常な事態が起きているとされる住宅であるが、その両隣を含む前面道路沿いの住宅や、よりトンネルに近い住宅などでも、今後、同様なことが起こる可能性がある。 この場所は、液状化の可能性が非常に大きい「人工地形(盛土地・埋立地)」の「ど真ん中」に位置している。 表層は、入間川(野川の支流)により堆積が進んだ地盤であって、水気の多い軟弱な土質であることが考えられる。 
 礫や砂、シルトまたは粘土の混合物の間隙に水を含んだいわゆる「泥状態」の地質がある。 『図72-6 液状化現象による空洞の発生と地盤の陥没』に示すように、そのような地質状態の地盤に振動を与えると、砂などの固体の粒子を相互に支えていた粒子間の摩擦が減少してしまう。 それにより、固体粒子間に滑りが生じて、沈積する。 粒子間に存在していた「水」は、逆に、浮き上がる。 このようにして、「沈み込んだ砂などでできている固体」の上方に「水で満たされたスペース」ができる。 水で満たされているスペースから「水」が他所へ浸透移動していけば、そこは隙間空間になってしまう。 隙間空間の多い“スカスカ”の土層の誕生である 
 地質図を見れば、この地が液状化の可能性が非常に高いことにより住宅地としては不適当であるばかりか、トンネルの掘削にも格段の注意を要する場所であることは、明瞭である。 ただし、この場所の表層はそうであっても、地下数十メートルのトンネル掘削地点は、「東久留米層」の「締まった砂」からなる地質であって、掘削には適したところである。 
 現在掘削されている道路トンネルのルート設定は適切であった? 
 表層の地質が固まっている「台地(更新世段丘)」地帯では、液状化の恐れは、ない。 そのような「台地」が、現在掘削されている道路トンネルの東方に広範囲に拡がっている。 その台地の直下も「東久留米層」である。 掘削に適していることは、同様である。 そして、そこをトンネルの経路とするなら、このような状態は避けられたはずである。 
 現実には、『図72-8 道路トンネルと陥没地点の地質』に示すように、トンネルの経路が、表層の地質が固まっている「台地(更新世段丘)」の直下ではなくて、液状化の可能性が非常に大きい「人工地形(盛土地・埋立地)」に沿って、意図的に、計画されてしまったように見える。 
 工事が再開されると、次には、遥か南方で掘削を停止している北行き車線トンネルの掘削工事が、この住宅地の直下に伸びてくる。 家屋の現況の瑕疵を補修しても、そのときには、今を遥かに超えるダメージを被ることが予想される。 その対策として、住宅の基礎部分を「面的に」補強することになるが、そのためには、家屋を曳家しなければならない。 しかし、代わりとなる空き地がない。 結局、家屋の撤去・再建となる。 それでは、液状化の心配が無い土地に移り住んだ方が、手っ取り早い。 そこまでの補償が引き出せるかが、鍵である。 
 共同通信によると、東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事現場近くで昨年10月に起きた東京都調布市の道路陥没について、芝浦工業大の稲積真哉教授(地盤工学)は掘削部分の真上だけではなく、周辺地盤も緩んでいるとの調査結果を示した。 これについて、工事する東日本高速道路によると、 「隣接地では緩みはないと認識している。 調査して確認されれば適切に対応したい」としている。 
 適切に対応するとしている対策が、憂いのない土地への移転を含んでいることを期待したい。

 
リニア中央新幹線 品川で大深度掘削を開始

 JR東海は14日、東京―名古屋間で進むリニア中央新幹線の工事で、東京都品川区の深さ40メートル超の大深度地下にシールドマシンでトンネルを掘る「調査掘進」を始めた。 地盤への影響などを調べながら年度内に南西に約300メートル掘る。 本格的な掘削開始は当初の計画より1年遅い2022年度以降になるが、全体の工期に影響しないとしている。 
 この日は、シールドマシンの発進地点となる立て坑「北品川非常口」の深さ約83メートルの位置からコンクリート(厚さ約1.3メートル)に穴を開ける作業を始めた。 この作業に半月ほどかかる予定で、その後、南西に300メートル掘り進める。(中略) 
 しかし、昨年10月以降、リニアと同じ大深度地下にシールドマシンでトンネルを掘る東京外郭環状道路(外環道)の工事により東京都調布市の住宅街で陥没や空洞が生じたため、開始を遅らせ、取り込んだ土の管理強化などの対策をまとめ、住民説明会を行っていた。(後略)【 加藤益丈 】

 図49-15 リニア新幹線の北品川 
 非常口の工事が進む工事現場 
2021年(令和3年)10月14日(木)17時15分
東京新聞 TOKYO Web 赤字は右記引用部分
 リニアと同じ大深度地下にシールドマシンでトンネルを掘る東京外郭環状道路(外環道)の工事により東京都調布市の住宅街で陥没や空洞が生じたことは、液状化の可能性が非常に高い地盤に由来しているように思われる。 そこで、リニア中央新幹線のルートで、液状化の可能性が非常に高いと思われる所を、下図に示す。 ただし、リニア中央新幹線の建設ルートは筆者による推定であって、その位置が多少ずれている可能性はある。 
 図49-16 リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(多摩川右岸) 
                      液状化の可能性 
 桃色:人工地形(盛土地・埋立地)       非常に大きい 
 橙色:台地(更新世段丘)           なし 
 黄色:低地の微高地(自然堤防)        大きい 
 濃灰色:人工地形(切土地)          なし 
  
  「青色曲線」:「リニア中央新幹線」の建設ルート(筆者による推定) 
 『図72-16 リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(多摩川右岸)』は、多摩川右岸の地質図(東京都都市整備局)である。 図示されている地域の大部分が、桃色で示されている盛土地や埋立地からなっている人工地形である。 液状化の可能性が非常に高い場所である。 このルートに沿う地質の断面は、研究ノート #多摩川(NPO法人首都圏地盤解析ネットワーク)中の『図7 武蔵新城-等々力緑地-久が原を通る断面図』が参考になる。 トンネルが掘削される地層は「上総層群」である。 砂岩、泥岩および凝灰質砂礫などからなる固着した地質である。 掘削の際に発生する振動(及び、リニア新幹線開業後における列車通過による振動)は、「上総層群」中を周囲に伝播していくことになろう。 
 リニアのトンネル断面は、2車線の高速道路のトンネルにほぼ等しい。 もし、外環道の工事で生じた住宅街での地面の陥没や地中の空洞化が、地盤の液状化に由来しているとすると、この図の地域でも地盤の陥没や空洞化が起こる可能性が高い 
 多摩川右岸は埋没谷であって、その標高は約10メートルであり、基盤である上総層群の上面はマイナス10メートル〜マイナス20メートルであるとされている。 地表面から基盤である上総層群上面までの20〜30メートルの間に、多摩川が基盤層を谷状に削り取り、その後に多摩川によって運ばれてきた堆積物で覆われた地層が存在している。 これは、東京都調布市の外環道工事で陥没などが生じた現場である多摩川支流の野川の更に枝葉となっている河川である入間川の流域の沖積層と比べると、多摩川の埋没谷の規模は計り知れないほど大きい。 
 従来の平坦地でのトンネルは深さが大きくないため、地表が軟弱な状態であれば掘削現場の状況も同様である。 したがって、その軟弱な状態に応じて「薬液注入」や「アンブレラ工法」などで地表面への影響を最小限に抑える工法を取ることになる。 しかし、大深度地下トンネルでは、地表の地質と掘削現場の地質の状況は、大きく異なっている。 たとえば、東京外かく環状道路のトンネル建設で地面が陥没した地点は、地表は「液状化の可能性が高い地質」であるが、大深度の掘削地点は「東久留米層の締まった砂が主体の地質」である。 トンネルを掘削している現場に限れば、「薬液注入」などによる地盤の改良は不必要である。 地盤改良は必要ないといってもそれは大深度のトンネル掘削現場であって、トンネル掘削による振動によって、地震動と同じように、地表では液状化を起こす可能性がある。 それによって、住宅街の道路で陥没などが生じたものと思われる。 
 多摩川右岸のルート沿いでも、同様なことが起きるかも知れない。 そのような事態を避けるためには、高架による線路の建設が望ましい 
 しかし、現行の計画ルートの沿線は、住宅化が高度に進んでいるため、騒音対策をも考えると、高架化は困難である。 リニア新幹線の品川駅から「神奈川県駅」を経由して山梨リニア実験線につなぐためには、現行の計画ルートをどのように変更しても、必ず、多摩川を越えなければならない。 大深度地下トンネルを建設する時やリニアの運行時の振動によって液状化現象が生じる恐れがあり、それを避けるためには、多摩川によって形成された埋没谷(大部分が商業地域か住宅地になっている)を通らないルートを取るべきである。 
 そのためには、現行の計画ルートを変更する必要がある。 多摩川の川縁まで台地が迫っている場所であれば、台地をトンネルで抜けて、そのまま多摩川の河川敷に乗り入れることで、軟弱な地盤を通過しないルートが取れる。 リニア新幹線のルートとして適切であるそのような場所として、多摩川左岸の「狛江市根川公園」付近と多摩川右岸の「稲城市南多摩スポーツ広場」付近がある。 その2つの地点間は、多摩川の河川敷をルートとすることになる。 
 「品川駅」を出て「洗足池」付近までは現行の計画ルートのままで、そこから軟弱地盤を避けながら北西進して、「砧公園」を経由し、「狛江市根川公園」付近で多摩川に至り、そのまま多摩川の河川敷を進み、「稲城市南多摩スポーツ広場」付近で多摩川から離れて南西進して、「多摩市役所」付近を経て、「神奈川県駅」へ至るルートが考えられる(下図の赤色曲線)。
 図49-17 筆者によるリニア新幹線首都圏ルートの修正案 
  左図:西部地域 右図:東部地域 
                      液状化の可能性 
 桃色:人工地形(盛土地・埋立地)       非常に大きい 
 橙色:台地(更新世段丘)           なし 
 黄色:低地の微高地(自然堤防)        大きい 
 濃灰色:人工地形(切土地)          なし 
 黄土色:人工地形(高い盛土地)        非常に大きい 
  
  「青色曲線」:リニア中央新幹線の建設ルート(筆者による推定) 
  「赤色曲線」:リニア新幹線の筆者によるルート案 
  「緑色曲線」:「渋谷」からと「新宿」からの筆者によるルート案(後述) 
    (多摩川流域の軟弱地盤上に立地する住宅地を避けるルート) 
 筆者案のルートの延長を現行の計画ルートのそれに比べると、ほとんど差がない。 多摩川の河川敷を通るルート部分を高架軌道とすると、その分だけ、トンネル区間は短くなる。
 図49-18 多摩川に沿ったリニア新幹線ルート(筆者による案) 
 多摩川の河川敷を逆S字形に描くルート区間は、高架での軌道とする。 列車は、長いトンネルを出ると、多摩川の河原の上を緩く右にカーブ、その後に緩く左にカーブしていく。 リニアの乗客は、その風景を見ながら「これで、東京ともお別れだな」(それとも、「これから、東京に着くのだ」)との感慨を抱くはずである。 リニアの走行ルートが「弧」を描いているので、リニア車両が走行するところを比較的長い時間にわたって見学できるポイントが、「多摩川緑地公園」付近と「稲城北緑地公園」付近の2ヶ所で得られる。 また、このルートは「多摩ニュータウン」内を通過していることから、そこへの新駅の設置は、通勤用リニア路線としての活用につながる。 これは、リニア新幹線の本来の目的とは違ってしまうが、リニア運用の収支の改善が期待できる。 この新駅は「神奈川県駅」との距離が短いので、長距離を運行する列車がこの新駅に停車しても営業上の利点は多くない。 そうではなくて、この新駅に、列車の折り返し設備を設けることにする。 それによって、新駅−品川駅間の短距離区間の折り返し運行を可能にする。 通勤時間の短縮が見込めることから、通勤客をリニアへ誘導できる。 多摩ニュータウンから東京へ通勤している乗客の大部分は、現時点では、私鉄利用者であるので、「神奈川県駅」とは違って、JR利用者を取り合うといった競合は避けられる。 
 更に大きな変更が可能であれば、「渋谷」か「新宿」からのルートの方が、「渋谷」からは地盤の安定した「首都高速3号線」沿いに、「新宿」からは「小田急小田原線」沿いに、建設することになって、好都合である。 「渋谷」や「新宿」を起点にするならば、将来的に、「名古屋」方面とは逆方向となる東の方向に、東京東部から千葉県葛南地域への多数の観光客の乗車が期待できるルートへの延伸が可能である(「品川」から北上することも考えられるが、軟弱な地盤に沿って通ることになる)。 しかしながら、リニア中央新幹線の建設主体のJR東海としては、自社に足がかりのない「渋谷」や「新宿」を起点とすることは、駅用地の取得などの点をクリアーすることが難しい。 何よりも、そのようなルートは「JR東日本」のテリトリーであるので、「JR東海」単独でリニア新幹線を建設・運営するのであれば、「JR東日本」の協力を得られず、絶対に不可能である。 
 JR東海は、「東京」と「名古屋」、「大阪」などを結ぶリニア中央新幹線の運行を目指している。 「多摩ニュータウン」への新駅の設置や、東京東部・千葉葛南への路線の延伸は、リニア鉄道線のローカルな運行を前提としている。 多摩川河川敷を通過する際の車窓や、多摩新駅の設置、千葉方面への路線の延伸は、リニア中央新幹線の建設や開業後の業績が順調に推移するならば、鉄ちゃんにとっては楽しみな計画であるとしても、実現されることのないものになってしまう。 
 この『図72-16 リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(多摩川右岸)』に示してあるルートに繋がる西側の区間でも、「梶ヶ谷貨物ターミナル」から「東名川崎インターチェンジ」に至るルートが予定されている。 ルートは「矢上川」の上流域に沿って細長く続く液状化の可能性が非常に高い地域に伸びている。
 図49-19 リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(矢上川上流域) 
 『図72-16 リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(多摩川右岸)』 
 の西に続く部分 
                      液状化の可能性 
 桃色:人工地形(盛土地・埋立地)       非常に大きい 
 橙色:台地(更新世段丘)           なし 
 黄色:低地の微高地(自然堤防)        大きい 
 濃灰色:人工地形(切土地)          なし 
 黄土色:人工地形(高い盛土地)        非常に大きい 
  
  「青色曲線」:「リニア中央新幹線」の建設ルート(筆者による推定) 
 そのルートの東半分では、「梶ヶ谷貨物ターミナル」からなる「高い盛り土」部分を含む液状化の可能性が非常に高いところを通っている。 この流域からルートを少し南北に振るだけで、液状化の恐れがない地盤を通ることができる。 その西半分でのルートでは、南に振って計画されているように見える。 
 地盤の液状化が原因ならば、トンネル掘削の際に、トンネル外部に空洞ができてしまうほどの過剰な土砂の掘り出しを防止するための取り込んだ土の管理強化をおこなうだけでは、地盤陥没や空洞発生の課題は解決できないルートの選定が重要であるといえる 
 
リニア新幹線の大深度工事、3月末までに調査開始
川崎・町田で掘削

 リニア中央新幹線の建設を進めるJR東海が、深さ40メートル以上の大深度地下にトンネル工事区間がある東京都町田市と川崎市で、調査のための掘削作業を3月末までに始めることが分かった。 大型掘削機を用い、半年ほどかけて影響を調べる 
 同社が取材に明らかにした。 町田市と川崎市の麻生、宮前両区の計3カ所で地下約70〜95メートルを150〜350メートルほど掘り、地盤や地上の構造物への影響を調べる。 調査結果は周辺住民に報告し、安全性が確認されれば、本格的に掘り進めるという。 
 大深度地下でのトンネル掘削を巡っては、2020年に東京外郭環状道路の工事の影響による道路陥没事故が東京都調布市で発生。 これを受けてJR東海は、住民の懸念払拭(ふっしょく)を目的に、同じ大深度地下工事を予定する町田、川崎両市で説明会を開き、調査のための掘削を予定している。(後略)【 小川崇 】

2023年(令和5年)2月1日(水)19時19分
朝日新聞デジタル 赤字は右記引用部分
 「朝日新聞デジタル」によると、JR東海が、深さ40メートル以上の大深度地下にトンネル工事区間がある東京都町田市と川崎市で、調査のための掘削作業を3月末までに始めるという。 大型掘削機を用い、半年ほどかけて影響を調べることになる。 町田市と川崎市の麻生、宮前両区の計3カ所で地下約70〜95メートルを150〜350メートルほど掘り、地盤や地上の構造物への影響を調べる。 
 この3カ所の調査地点のうち、地下の浅い部分に軟弱地盤の存在が予想されるのは、川崎市宮前区の「梶ケ谷貨物ターミナル」から、その西方の「国道246号」に至る地域である。 液状化の可能性が非常に高い地域であることは『図72-19 リニア中央新幹線ルート近辺の地質図(矢上川上流域)』から分かる。 掘削する深度では「上総層群」などの泥岩・砂岩・礫岩からなる固着した地質であって、掘削時の振動が伝わり易い。 その振動により、地層最上部にある軟弱地盤が液状化してしまうかも知れない。 「国道246号」の西方から、「川崎市麻生区」、「町田市」にかけては、「鶴見川」北方の「台地」ないし「切土地」をルートとしているので、「鶴見川」などの支川が刻む谷をアンダークロスする部分を除いて、掘削による影響は少ないと思われる。 
 今回の調査地点ではないが、「等々力緑地」から「東名高速道路」に至るルートは、液状化の可能性が非常に高い地域であると考えられる。 この部分も調査して欲しい。
 


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